「うっ…くうっぅ」
ショーツを履く時が一番きついかも知れない。
股間が締め付けられ押し込まれる。逆にお腹の中はグルグルして膨張するような感覚に襲われる。
苦しくて、気持ち悪くなって、そして痛みもある。それらの三苦痛を乗り越え『俺』は『私』に変身できる。
「やっぱりまだ苦しいなぁ」
女体化時に起こる不快感には未だに慣れない。
そして一番きついのが変身時だとしても、変身後が楽というわけではないのが哀しい。
俺は女になって、女として男の相手をしないといけないんだ。生きる為に。
人間には進むべき道がいくつかあり、人生にはその道の内を選ぶイベントが何回もあるものだと思う。俺の人生観だ。
あの時、転機が訪れた時に俺の目の前にあった一つの道、俺は敢えてその道を選んだのだろうか?
それとも流されるようにそっちの方向を通過しただけなのだろうか?今となってはどっちだったのか良く分からない。
ごく普通の大学生だった俺に突然訪れた不幸は両親の死亡だった。
幸いにも、卒業間近で内定はとれているので生きていくことは出来る…と思っていたがその会社が突然の倒産だ。
路頭に迷いかけていたところ、幸か不幸か怪しい男に声をかけられ、そこそこ収入の良い今の仕事に就くことは出来た。
一見すると最後の点は幸運だ。が、仕事の内容が内容だけに素直に喜ぶことは出来ない。
俺の仕事はカフェに勤務だ。
と言えば聞こえが悪い訳じゃないが少し特殊なカフェなのだ。
夜しか営業していないその怪しげなカフェは色っぽいサービスありの、そういうお店だ。
そしてもう一つ、接客を行う従業員は全員元男
怪しげな道具を使って一時的に女体化した男たちが客のお相手(一応は本番無し)をする。
そんなお店だ。
因みに、変身した先輩方のイメージ画像がこちら。
豊かなバストと真っ平な股間が眩しいですよね?
ほぼ下着姿はかなりレアですからよーく目に焼き付けておくことをお勧めします。
以上蛇足でした。
女体化はマジックアイテムらしき下着を使う。
身に着けている間だけは女の体になるという魔法のような、というか魔法を使ってるとしか思えない下着だ。
これを使えば男の体を失うことなく、実入りのいい女の仕事が出来るため俺にとって都合はいい。
ただ、女体化時には体に大きな負担がかかる為に毎日の着替えがかなりの苦痛だ。
しかもその後にオトコのお相手という難関をこなさなければいけない。当然俺にそんなシュミはない。
ただ、基本生きる力がない俺にとって特別なスキルがなくても出来て割かし高収入な仕事は嬉しい。
下着さえ脱げば男に戻れるという点も、特に失うものがないという点で○だし。
オーナー曰く年単位で続けていくと男として危ないらしいが、それでも条件自体は悪いものではない。
変身時の不快感を耐え、男の俺が男のお相手をするという難関を超えるのは大変だが。
しかし本番は免除(というか下着着用時しか女でない為に女のセックスはそもそも不可能だが)という点は
かなり安心して働く事が出来る。
仕事の時だけは割り切って女になりきる。仕事が終われば男として好きに振る舞える。
特殊な仕事である点以外は悪い仕事ではないのだ。
現に3か月たってもやめようとは思わない程度には良い部分がある。
ただ未だに変身時にお腹の仲がうねうねして気持ち悪かったり、
股間のモノ締め付けられるような苦しみには慣れてないけど。
また、女体化の方法は下着だけではないらしい。
例えばここで働いてる先輩の中には女性化手術を受けたらしい人もいる。
ただ手術代は莫大なものらしくかなり働かないととてもじゃないけど返せないような額だとか。
「ホラホラ清恵ちゃん、急な変身は苦しいでしょうけど景気の悪い顔はしちゃダメよ」
「清乃さん。おはようございます」
彼女が手術組の先輩の清乃さんで、俺の教官役という事になっている。
*イメージ画像であり普段はちゃんと着てます。ってかお店の中でも脱がない人で有名です。
「清乃さんっていつも楽しそうですよね」
女としてのお相手業務がキツイ俺ですら悪くない職場と思っている。(主に収入面が理由だが)
女性になりたがってた清乃さんなら大層ここでの仕事も楽しい事だろう。
「そうねー。女の体を手に入れたっていうのは念願叶って嬉しいわ」
「やっぱり」
「でも、私の中の女の性を売り物にするのって本当は好きじゃないの。女にして貰った恩があるから
ここで働いてるっていうのが強いわ。一番なりたい職業は専業でも兼業でもいいから断然主婦だもの」
俺…もとい私と違って自然に発せられる女の言葉と仕草、そして全身から放たれるお色気。
当然、お店の中での人気も上位だ。私も少しくらい清乃さんの魅力があれば新人を卒業できるかな?
仕事を始めてから3か月と半月が経った。今日も俺はショーツを履き女になる。
体の変化もあらかた完了し、もう苦しくはなくなった。
股間を撫でて、突起物が消えて無くなっているのを確認し、女性用の服に着替えた。
清乃さんのようなガチ組は、服が自前だが私のような臨時TS娘は下着だけでなく服も借りものだ。
ってか性別も借りものだったり…。
今日はゆるふわ系で可愛いめのにしようかな?
目の前の清乃さんがセクシー系で同系統の服を選ぶのがなんとなくイヤと言うのもあるし。
やっぱり私みたいな付け焼刃女の私じゃ清乃さんとはレベル差がありすぎる。
清乃さんと同じレベルになるっていうのも、それはそれで困るんだけど。
「あらあら今日も可愛らしいじゃない清恵ちゃん」
「清乃さんと比べられると見劣りしますけどね」
「まぁでも女の子初心者だし女の子状態に慣れれば変わるかもよ?女は化けるってね」
「女の子状態に慣れても清乃さん並みには化けなさそうですけど…」
「清恵ちゃんなら頑張れば私と互角以上の女にもなれるかもよ?」
「あははは」
本当に同じレベルにまでなったらマズいんですってば。
ツライ着替えを乗り越え、清乃さんに少し遊ばれ私は持ち場に着いた。
気合いを入れないと一人称の私すら危ういのが清乃さんと同格の美女って、そうなったらある意味お終いだ。
でも仕事場の中でならもう少しだけああなってもみたい。
「清恵ちゃんこっち来て貰っていいかな?」
「はぁい♥今行きまーす♥」
常連のオジサン(矢島さんというらしい)が私を呼び寄せた。
彼は私がお気に入りなのか、来るとよく私を呼び寄せる。
自分を好いてくれる人がいるのは嬉しいと言えば嬉しいのだけれど、相手がスケベなおじさんだと素直に喜べない。
根は優しい人っぽいし体臭が気になる人じゃないのは救いだけれど、手が脂っこいのが気になる。
この店は原則として本番不可で、お客が出来る事にも限りはあるがお触りは自由にできる。
ショーツの中身は許可と追加料金がないと触れないが、ここはお触りの為の店!!というのが私の印象だ。
矢島さんも私を呼び寄せて、お尻を中心に胸や肩なんかを撫でてくる。
距離が近いので体臭は重要だけれど、手が脂っこくてべとべとするかどうかも非常に重要だ。
だからほぼ嫌がる要素のない有難い筈のお客である矢島さんは、結構苦手だったりする。
お触られカフェという形態は私のようなTS初心者には、キツイようなある意味有難いような…だ。
こちらが能動的に動かなくても触られる事ならどうにかなるので、私にもどうにかこなせる。
受け身、されるがまま…それでもどうにかなるし日常を生き延びられる。
無力で、気力も無くした私にはある意味天職かも知れない。
でも、清乃さん並みに素敵な女性を演じてみたいと思った事もある。
…別に深い意味は無いけど。
「お疲れさまでした」
お客さんのお相手を終え、閉店時間になった。
男(しかも大体がスケベそうなオヤジ)に触られるのは精神的に堪える。
ロクに女の事も縁がなかったのに、自分がお触られと思うと尚更だ。
こういう時、中身も女の清乃さんと比べてどっちの方がよりツラいんだろう?
ホモっ気のない俺?それとも心も女だからこその清乃さん?
されるがままでもどうにかなるので、楽と言えば楽だが苦労のない仕事というわけでもない。
清乃さん達に挨拶をし、着替えを行う。
余談だが、片づけなどの雑務はマネージャー(男性)がほぼ引き受けてくれるので私は御役目を終えれば解放される。
下着を脱ぐ前に、服を変えないとね。
一度、服が女もののまま下着を脱いで大変な事をやらかしちゃった事がある。
ゴツイ方じゃないっていうか体つき自体は結構華奢な方だけれど、美形でもない男の女装は見てて
気持ちのいいものではない。というか鏡に映った自分の姿を見るのが軽い辱めだ。
今の自分の姿は、綺麗とも可愛いとも言える美女のものだ。
ただ変身(?)をといた姿は地味で冴えない男でしかない。
女性がデフォの清乃さんは例外としても、男状態でもなかなか美人の蜜葉さんや清穂さんとは比べ物にならない。
蒼葉さんは女性化時はお店の中でもかなり可愛いし、男姿だとシャープなイケメンで。
比べると自分の小ささを思い知ってしまう。もう少し頑張らなくちゃ!!
いつもの服、シャツとジーンズに着替える。女のままだとゆるゆるなので、
ジーンズは支えないとずり落ちるけどショーツを脱ぎたい今はちょうど良い。
私はショーツに手をかけ、俺に戻ろうとした。
下着を脱ぐと全身が熱くなり股間を中心にだが、全身から脈打つ鼓動を感じた。
押さえ込まれていた熱が噴き出すような感覚で、股間の解放感を味わった。
元に戻ると気にもやはり痛みが多少はあるが、女体化時は圧迫されたような苦しさがあるのに対し
男に戻る時は解放感と気持ち良さがやってきた。
第二波はお腹の辺りに表れ、くすぐったいような感じであまり気持ち良くはない。
それでも、女体化時の不快感よりかはまだマシかな?
最後は股間の解放感とともに、股間にエネルギーと血液が集まるのを感じた。
生き返る~
仕事と女性化から解放され、体力は消耗していたが疲れたような気はしなかった。
しかし、鏡に映っていた美女が冴えない男にグレードダウンするのを見ると体から力が抜ける。
シンデレラは十二時に魔法が解けるけれど、俺の魔法は深夜三時に解けるようだ。
清乃さんを筆頭に魔法の解けないシンデレラらしき人達を見送り俺は帰路に着いた。
自分と比べ輝いている彼女達を遠目で眺めた。みんな遠いところにいるように感じた。
通勤してからの最初の仕事はやっぱり女体化変身だ。
単なる着替えの一種と言えなくもないけど、変身時は結構苦しいから未だに大変な仕事の一つだ。
ただ、4か月も経ったからなのか変身時の苦しさにもだいぶ慣れてきた。
時々吐き気を催すようなお腹の中の気持ち悪さも、食事を軽めにすればほぼ感じなくなった。
股間の締め付けられるような痛みも前よりかは感じなくなったし、変身後の圧迫感も違和感を
さほど感じず、このお店の中では変身後の状態の方が普通と感じるほどだ。
最初が少し痛いけど、変身しちゃえば逆に股間がスッキリするってくらい。
それでもここの仕事の中で特にキツイ仕事の一つっていうのは変わらないんだけどね。
実を言うと女体化した自分の体はほぼ見ていないので(一応胸は目に入るから見ているが)
女の体がどんなものかまともに見ていない。
だから女体の神秘(割れ目)がどうなっているのかもイマイチ良く分かっていない。
下着越しでなら明らかに男の股間でないというのは確認したけど、でも自分の体ながら未だに女の身体を分かっていない。
ここの客の方が、俺の女体がどうなってるのかまだ分かってるってレベル。自分の体だというのに…。
でも仕事中に触って確認も出来ないし、結局謎のままなんだよね。
せっかく女になったのに、勿体ないかなあ?
「結局は下着の貸し出しをして欲しいって事ね?」
「えっ…でもそこまでじゃ」
「でも君の話を聞いてると、女体化してるのに女になった体を分からなさ過ぎてるのが嫌って聞こえるわ」
「ええっと…その…そうかも知れないです」
原則として、下着の貸し出しは不可となっている。
どうにか交渉して、少しだけでも仕事の時以外でも着用できないかなと思い清乃さんにお願いをしてみた。
しかし、うまい言い訳というのが難しい。仕事につながる理由をどうやって見つけるか。
いや、どうしてお店の外でも女体化をしたいのか自分でも良く分かっていないというのが問題か。
女になった自分に対して実感がわかないのが嫌なのだけれど、女になりたいかと言われればそうでもないし。
それじゃあいったいどうして借りたいんだよ。って話になる。
一度帰って頭を冷やそうかと思っていると清乃さんの方から申し出があった。
「原則として、下着の貸し出しは禁止なの。でも全くなかったってわけじゃないの。私も借りたクチだし」
「えっ…それって本当ですか?」
「実は、仕事の時以外でも女性化していたいってお願いする子はかなり多いの。全体の85%くらいかな」
「多すぎません?」
「清恵ちゃんもそうなんだから呆れないで欲しいけどなぁ」
「そうですよね」
「私のように中身が元々女っぽい人は仕事の時以外でも女でいたいと願うのは当然よね」
「清乃さんとモロそうですしね」
「で、それ以外が女になった自分の体に興味があるケース。こんな急激な変化が起きて自分の体に
疑問や興味を持つのはそんな可笑しい事じゃないわね。問題は自分の体だから興味を持ってるのか
女のカラダだから興味があるのかって話ね。話を聞いてると清恵ちゃんはこのタイプっぽいよね」
「そう…だと思うんですけど」
「自分でも良く分かってないって言うのが本当のところと言うわけね?」
「ええ」
「ここにいる人ってみんな私みたくおちんちんがついてるだけでそれ以外は女らしい人ばっかとか思ってない?」
「違うんですか?」
「私みたいにガチなタイプの方が逆にレアで、自分の心がどういう状態か自信のない人の方が多いのね」
「ちょっと意外、清乃さんは当然としても他の先輩方も女らしさが身についてて俺…私以外みんななるべくして
女性化してここで働いてるって思ったのに」
「誰だって迷いながら日常を過ごしているモノよ。最近の私には迷いがないけど」
「清乃さんは何からナニまで素敵な女性ですからね」
「ありがとね。で、迷える後輩ちゃんの為にどんなタイプの人がいるか紹介しとくね」
「ええ」
「女体に興味がある人にはまた別のパターンがあってね」
「他にも?」
「単純なものよ。男性として女のカラダに興味があるっていうの」
「ああ。そう言えばそれが一番普通の反応かも知れませんね」
少なくとも男としてまともな反応は間違いなくこれだろう。
「最後は、仕事の質を上げたいから女でいる時間を長くしたいっていう職人気質ね」
「分かるような、分からないような…ですかね?」
「自分がどんなタイプか見分ける大雑把な方法があるのよ?」
急に甘い声を出した清乃さんは自分の上着を脱ぎ、上をブラだけにした。
「どう?私のカラダってって」
「どうって…スゴイとしか…」
「このお店じゃ、人気も実力もNO1だからね♥」
「大胆」
「どうかな?どうかな?」
「そっ…そんなアピールされても困りますってば」
セクシーな清乃さんを直視できず、思わず顔を背けてしまった。
「私の身体を見て、欲情したとか、抱きたいって思えばアナタのその感情は男性としての女体に対する興味です」
そう言われてハッとした。このオイシイシチュをオイシイと思えず目を背けた自分に気がついた。
そもそも、モヤモヤの正体が男性としての欲情と言われるまで考えもしなかった自分に気がついた。
いつの間にやら思考が男のものではなくなっていたという事だろうか?
「第一印象はあんまり男っぽくない思考ね。でも頭を冷やして私を見ればまた違った印象になるんじゃない?」
胸を強調したし、座ってポーズを取り足で誘惑したり。
美女の誘惑をオイシイと思い、男としての劣情を煽られた。
「今の私を見てどう感じるのか言って頂戴?なるべく詳しくね」
「ちょっと興奮してきたかも知れません。ドオキドキもしてきました」
「もう少しないかな?カラダが反応するみたいなの。例えばお股が熱くなるとか」
「顔は火照りそうですけど体が反応するってわけじゃないです。そもそも興奮する場所がないですからね」
清乃さんは少し考えたような顔をしたけど、考え込む反応かな?
男としての欲情が出たとしか考えられないでしょ。
自分の中で結論を出した私に対し、清乃さんはため息をつき言った。
「男に戻って襲い掛かる、そこまでいかなくとも触ったり、触っても良いか許可を取るとかそういう行動は
取らなかった。今は清彦君じゃなく清恵ちゃんだけど男の行動をとらなかったっていうのは問題ね」
「あっ」
勿体なかったか。
でも、欲情はしてるけどシたいってわけじゃないしこのままでも良かったかな?
「最後に、男に戻って私のナイスばでーに手を出す事を許可するわ。可愛い後輩だもの」
「えっ?」
「勿論お金は要らないわ。本番は困るけどタッチまでなら許可よ」
艶めかしい清乃さんはスカートのチャックを軽く緩め微笑んだ。
全身からは色気が溢れ、微笑は可愛らしく、その態度からは無償の愛を感じる。
素敵な女性の具体例と呼ぶにふさわしい存在だろう。
今まで何度か女の人を好きになった事もあるし、1度だけ付き合った事もあるがそれらの女とは次元が違う。
そんな美女からの申し出で動かないなんて勿体ない。こんなチャンスは一生ないってレベルだ。
「その気があるのなら、男性として清彦として向かってきなさいな。お相手はするから、さっきも
言ったけど、やり過ぎなら私の方から止めるから細かい事を気にする必要はないわ大事なのは
アナタの気持ちよ。そしてその気持ちを知ることはきっと大切な事だと思う」
正解は今すぐ下着を脱ぎ、清彦に戻り清乃さんにお相手をして貰う事に違いない。
しかし俺は下着も脱がず、彼女に手を伸ばす事すらしなかった。
それは単に俺がヘタレだから?それとも別の理由があるから?
「もう2分も経ったわ」
動きを見せない俺に痺れを切らしたのか清乃さんは催促した。
「清彦として動くならあと1分以内でお願い。下着を脱いで男になって、男として来て?」
度重なる、嬉しすぎる申し出だ。が、手は動かない。
「もし戻る気がないのなら、今日は女の姿のまま帰ってもいいわ」
「えっ?」
「明日もあるんでしょ?その場合は女性のままお店に出る事を許可してあげる」
何故、俺は男に戻らず何もせず、そのまま帰ったのか?理由が分からなかった。
家に帰った、女の姿のままで。かなり新鮮な気持ちだ。
流し台の鏡前に立ち自分の姿を見てみた。そこに映っていたのはかなりの美女だ。
スタイルが良く色気はある。顔立ちもなかなか可愛い。なんとなくだけど雰囲気レベルで美女の資質がある。
しかし、足りていない。少し前に見た美女と比べると明らかに足りていない。
色気でも、可愛さでも、綺麗さも、内面の女らしさでも。
そもそも化粧すらしてないじゃない。こんなんじゃ清乃さんの足元にも及ばない!!
「ってそもそも、何で俺が清乃さんと競ってるんだか」
男なのに女の姿になって、挙句にとある美女に対して女として負ける。性別の概念が混乱しそうだ。
まずは男に戻って…すぐに寝よう。
今の自分の姿や体を存分に調べてみたいとは思うけれど、これ以上女の姿のままでいると何かが狂ってしまうような気がするから。
ブラ(今日のは豊胸用)を外し、胸のサイズを1~2サイズ小さくする。
ショーツも脱いで、豊かだった胸は縮んでしぼむ。胸の膨らみと一緒に元気も抜けていったような感覚だった。
下半身からは懐かしのナニかが生えてくる感触があった。
さっきまで無かったものが、ニョキニョキと生えてきて、ぶら下がる感覚は解放感こそ感じるものの
異物が発生する不快感や違和感も伴っていた。
あるべきものがある筈なのに。
男の姿に戻り、数分もすると発生した違和感のようなものはなくなっていた。
急な性別の変化の性で違和感が発生したんだろう。…そう思う事にした。
ベッドの中に入り、清乃さんの事を思い出した。
据え膳食わぬは男の恥と言うが、あれは本当に勿体なかった。
本番までは出来ないとはいえ、あれ以上の据え膳なんてそうそうは無いだろうに。
どうして、俺はあんなチャンスをみすみす逃してしまったんだろうか?
俺が単にヘタレだというのなら別に問題はない。まぁ全く問題がない訳じゃないけど。
でも、清乃さんに手を出さなかった理由はヘタレだけが原因だとも思えない。
じゃあ、どうして人生最大かも知れないチャンスを自分から逃していったんだ?
あのチャンスをチャンスだとみる事が出来なかった?
女性に対してそういう目で見る事が出来なくなったって事か?
考えが頭の中をグルグルし、建設的な意見が出ないまま深夜が明けてきた。
考え事をしているが頭の中の中心には誘惑する清乃さんの映像がハッキリと残っていた。
脳内には件のエロシーンがハッキリと残っているが俺の下半身は反応を示していなかった。
そしてその異常事態にはまだ気がついていなかった。
目を覚ますと、時刻は昼の2時だった。
夜のお仕事をするようになって俺の生活リズムはすっかり夜型になってしまった。
明け方の4時過ぎに寝て、目を覚ますのは昼過ぎだ。
あまり健康的ではないが睡眠時間や休憩時間は十分だし、休みも多めなので不満という事はない。
ついでに目を覚ましてから出発までかなり時間がある点も○か。
ただ、今日は出勤までにある長い自由時間がかえって邪魔な気がした。
目を覚まし、食事と入浴を終え暫くの間ヒマが出来た。
少し部屋の掃除をしていようと周囲を見渡した。目の前にあるのは、例の下着(ブラづき)だ。
ゴクリ!!
と思わず唾を飲み込んでしまった。喉が渇いただけで他意は無い…と思う。
長時間、或いは高い頻度で変身すると体に負担がかかり男に戻る時に悪影響を及ぼす。
だから、一日の労働時間は短く俺の場合は週に3~4日と日数も控えめにしてある。
寝る前にまず下着だけでも外しておいたのはこの為である。
だから、必要な時以外の変身はなるべく避けるのが正しい。
ましてや、勤務よりかなり早い時間に家の中で使うなんて考えられない。考えられないような事だよね?
駄目!!ダメ!!ゼッタイ駄目!!
理性は働いて、心の声はちゃんと止めようとしている。
しかし俺はショーツに手を伸ばし。脚を通していた。
脚を通し終えると、さっきまで熱を放ち存在を主張していたものはたちまち存在を失っていった。
押さえ込まれ、力が抜け、熱が引いていき、存在を感じにくくなり、最後は抑えられすぎて
そのまま体の中へと消えていったような気がした。こうして俺は私になり今日も女になった。
「あっ…いけない」
豊胸ブラも忘れてはいけない。
巨乳というには物足りないが、十分立派なソレをノーブラのせいで垂れさせるのは勿体ない。
まぁブラをつけたら余計に大きくなるんだけど。
女体化変身完了♪
例によって苦しさはあるけれど、今日は妙に気分が良く不快感をハイテンションで打ち消したような感じだ。
そしてそのハイテンションは股間にも伝わってしまい、せっかく収まった下半身の熱が再び顔を出した。
熱を持った股間は火照り、興奮し、湿っていた…ような気がした。
濡れた感じがしたのは縦に一本分の筋状になっていて、この時にようやく自分の股間はちゃんと割れていたんだと気がついた。
自分の股間が割れている。当たり前の事だけれど確認できたのは初めてだ。
せっかくだし、ショーツを下ろし少しだけ中を見てみた。
突起物がなく、割れている自分の股間を見て少し感動した。
女体の神秘(割れ目)を目の当たりにし無性に触れてみたくなった。
試しに下着の上から割れ目に沿って股間を撫でてみる。
「ぁん♥」
少しだけ声が漏れ出た。我ながら色っぽい声だと思う。
やがて下着越しで撫でるだけでは物足りず直接触れる。
指が奥まで入らないように注意しつつ、線に沿って指で撫でる。
少しの湿り気だったものが、もう少し湿って湿り気の域を超えた。
更に手の動きは激しくなり、浅く撫でていたのが少しだけ指が入るようになっていた。
自分の頭は働いているのかいないのか良く分からない。
ただ手を動かすよう指令を送っている事だけは分かった。
理性はわずかにだが残っていると思う。行為中も自分は男だという心の声が少しだけ聞こえるから。
でも理性が働いているとは到底思えない。今の自分の頭の中にあるものはこの気持ち良さを味わう事ばかりだから。
コレって(自分のとは言え)女のカラダを触りたいからやる行為?
それとも股間に挿入されたいから指を入れようとしている?
このまま進んだ方が良いの?それとも今からでも後戻りするのが正解なの?
理性が少しだけ復活し自分に問いかけてきた。
しかし、手の動きを制止するほどには復活しなかった。
やがて俺の手の動きは停止した。
動きを止めたのは、絶頂ではないが理性でもない。
膣の中の障害物(きっと処女膜)に阻まれたのだった。
手の動きが止まり、ちょっぴりエッチな衝動も収まると理性がまともに働いてくれた。
さっきまでの状況は男としてマズいぞ…と。
当然俺は理性さんの警告を聞き入れ、手を止め指を抜いた。
指を抜いたのはいいのだが、その時に手が少しずれてしまい余計なものもずれてしまった。
ショーツがズレてしまったのだった。
その際に女性器が見えたのだが、特に興奮しなかったのはそれが自分のだからか女の性器だからかは分からない。
でも、この4か月で女の状態に馴染んでしまったのは確実だろう。
最初期は自分の女体にドキドキしていたのだから。しかもその様子を眺めず想像だけで。
俺の変身はショーツを身に着けている時だけ起こるものだ。
だからショーツが少しずれてしまうと懐かしいものが生えてくる。生えてきた。
本来ならあってしかるべきであるソレが不快な異物のように感じた。
女体化変身中は心も女になっていて、男の体の自分を気持ち悪く感じてしまうのだろうか?
或いは変身中でなくともそうなってしまっているのだろうか?
性同一性障害の男(正しくは女?)は自分の男っぽい体を気持ち悪く感じるらしい。
あの店で働くようになってからネット上の知識ばかりだが、そういう系の知識を身に着け始めた。
それは良いとして、自分の体の男らしい所に嫌悪感を示した…コレってかなりマズい気がする。
自分の心の性別が変わってきている…のだろうか?
恐怖を感じ股間がキュウッと縮こまった。縮んだ竿や玉の感覚がとても不快だった。
その不快感が嫌でショーツは脱がずにちゃんと履きなおした。
時刻は午後3時半、出勤まで5時間も残っている。
いつもはネットサーフィンかゲームでもしているのだが今日はあまりそんな気分にはなれなかった。
が、何もしていないと男の体に不快感を覚えていた時の事を思い出すのでPCスイッチを入れネットを見る。
いつもと違い、エッチ系動画には目もくれず可愛い服や下着ばかり見ていた。
マズいとは思いつつも、この姿で男のもの服というのも問題だし仕方がないよね?
下着カタログとかを見ていないと、またショーツの中に手を入れそうだったためネットで
脳内オシャレを楽しみどうにか出発までの時間をやり過ごした。
いつもは嫌な出勤時間だが、今日だけは出勤が待ち遠しく安心できた。
ただ、女の夜道が不安なのと野暮ったいいつもの服を着ていくのが嫌だった。
このだぼだぼズボンが、ミニスカートだったら良かったんだけどなぁ。
今日は終始、気が落ち着かなかったが一度店の中に入ればそうはならない。
何せお店の中では女として振る舞い働くのが普通だから、この姿の方が落ち着くのだ。
しかもキツイ仕事の筆頭である、女体化変身はもう終えている。あとは流れに身を任すだけだ。
いくら今日の私が落ち着かないとはいえ、ルーチンワークなら心配事なんてない。
6時間のお触られタイムを難なく終わらせた。やっぱりエロおやじに触られるのは気持ち悪いけど。
それでも結局はいつもと同じルーチンワークなので、変わり映えのない平坦な時間だ。
ただ、今日はいつもより可愛いとか色っぽいとか言われる回数が多かった気がする。
この1日で女の何たるかを少し理解したのかな?嬉しいような悲しいような…だ。
昨日から色々あったので、今日は早く女体化を戻し帰ってゆっくり寝たい。心の方が追い付かずもうヘトヘトだから。
「清恵ちゃんこのあと少し残って貰っていいかしら?お給料は出るからさ」
「清乃さん!?」
断りたいとは思ったけれど、お世話になっている先輩が相手なら返事はハイかイエスしかない。
「さて、初めてお店の外でも女性化したけどどんな感じだった」
「正直頭が追い付かないです。男の自分と女の自分が喧嘩してる…そんな感じで」
「なるほどね」
「どんな状態か、清乃さんは分かるんですか?」
「何言ってるのよ清恵ちゃん?私の心の性別は昔から女だったんだから男の自分なんてもともと存在してないのよ?喧嘩のしようもないわ」
「アハハ、そうでしたね」
「でも、清恵ちゃんみたいな感覚を味わう子って結構多いらしいわ」
「私を呼んだ理由って…?」
「それも含めて一度色々と話してみたいの、今日はスペシャルゲストもいるのよ」
清乃さんの向いた先には、見覚えのある瘦身男性の姿があった。
「貴方はオーナーさん?」
「久しぶりだね。仕事には慣れたかな」
「まだ慣れないところはありますが…。でもいい仕事を紹介して頂いてた事には感謝してます」
「さて、この仕事を紹介するときに女性化に関して注意点をしたのは覚えてるかな?」
「はい。1日に何度も変身すると体を痛める、長時間変身してると戻りきれなくなるかもしれない
それから、長い期間…例えば1年以上この仕事をしてると普段の姿も女に近づいてしまう」
「で、そろそろリミットが近づいてくるわけね」
「えっ!?もう?」
清乃さんの爆弾発言に思わず驚いた。
「リミットが近いって…そんな…まだ4か月、時間はある筈じゃ?確か1年超すと危ないって」
「ああ。1年を超せば男としてかなり危ないが、人によっては早いと半年くらいで男性機能に
悪影響が出始めてくる可能性がある。リミットが怖いのなら少しでも早い撤退が良いだろう」
オーナーの発言にショックを受けた俺は体の力が抜けて座り込んだ。
「さて、そこで本題になるわけね。このまま女性化ロードを歩んでいくのが困るのならあと2か月のうちに
引き返し事を勧める。もう半年くらい見てもいいけど、その場合は男性として困った事が起こるかも」
「次の仕事が見つかるまでのつなぎでもいいだろう。その場合はリスクを考えつつなるべく早い決断をおススメする」
「今まで通り男性として生きるのもいいし、当然TS女として新たなセイを受けるのもいいわよね。
生きる方の生でもセクシャルな方の性でも」
「してやったりな顔はやめなさい」
「女として生きるのっていいわよぉ~。高級品も安価なものもあってオシャレはしやすいし
男の視線を楽しんでもいいし、密着型の下着は快適だし、カラダの感度も良好だし」
「コラコラ、悪魔の囁きみたいな誘惑はやめなさい」
「でも私の意見を言うと、TSによる幸福感や気持ちの良さを熱弁しちゃうでしょ?オーナーも知ってるじゃない」
「清乃君は一旦無視して、さて清恵さん。急げとは言わないが遠くないうちに君には進むべき道を決めて貰う」
「でも私、女になりたい清乃さんみたいな人とは違うんです」
「じゃあ、近いうちにやめちゃうのね?」
「えっええ…当然です」
「リミットが近いのに焦っておいて?」
「ええ、準備にも何かと時間かかりますし就活とかできてませんし」
「女の子に変身するのが、楽しくなってきたんじゃない?最近、女の子モードの方が楽しそうなくらいだもん」
「まぁ楽しさを全く感じてないわけじゃないですけど」
「別に自分の性別を変える事は恥ではない。ただし半端な意思や覚悟はNGだ!!男として生きてきた20年オーバーの
年月は軽いものでもないだろうからな」
「そうそう全っっっ然恥ずかしい事じゃないんだからね」
「茶化すなよ。今日のところはこれで終わりだ」
「オーナーからちょっとしたご褒美(?)があるわ」
「今後進むべき道を決めるのに男の感覚と女の感覚を比べたいというのなら下着の貸し出しを認めよう。あくまで私的利用に留めるように」
「ないと思うけど、失くしたり流出させたりしたらBADEND直行だからね?」
「君の進む道が何なのかは分からないが、良い道を選ぶんだ」
今日の清乃さんとオーナーの態度には考えさせられるものがあった。
見ないようにしていたが、女性化を楽しんでいる自分は確かに存在している。
清乃さんに言われるまでもなくその存在は分かっている。
そして女性化の自分が大きくなってきている事も理解している。
女の自分を確認した昨日今日で、決定的に大きくなっているのも本当は分かっている。
でも男としての、清彦の自分を捨てて変えてまで女性化する気があるかと聞かれれば多分NOだろう。
元に戻る事が出来るからこそ、女性化を楽しんでいる。今の自分はそんな感じだと思う。
でも、女の私は思っていた以上に自分にハマッているんだと思う。
この1日で女の自分に対する感覚がどれほど変わったのだろうか?
今日も明日も、同じレベルで清恵の自分に馴染んでしまうと進んでしまう道は一体何処になる?
清恵としての生活はどうにかうまくやれているが、それはあくまで一時的なお仕事だからだ。
メインが清彦、時々演じているサブが清恵。そして清彦は清恵にメインを譲る気はない。
だから何と言われようがこれ以上は進まないはずだ。
でも、清乃さんとオーナーは何故このタイミングでこの話をしたのだろうか?
そして何故、変身用下着を貸し出したのか?
あの二人には俺にも見えない、清彦の進む道が見えているのだろうか?
俺を待っている未来に少しの恐怖を感じた。だが、下着は置いていかずに持って帰った。
答えを出すリミットは残り2か月
あまり長い時間がないという事は知っていたけれど、ハッキリと期限を宣言されるとかなりキツイ。
1年オーバーがいきなり半年になってしまったという点でもそうだが、この数か月間時間の経過がとても速い。
最初の3か月は仕事に慣れる事で精一杯だから仕方がないかも知れないが先月はかなりマズかった。
新しい仕事を探さないだけでなく、仕事の時以外にも女性化下着を身に着けようとし、
女物の下着を見て楽しみ、ついでに清乃さんの用意してくれた据え膳にも手を出さない。
据え膳食わぬは男の恥?それとも男じゃない?
この仕事を長く続ける気はない。全くない。
当然、女になるなんてありえない話だ。成り行き上女性化した初期は当然だが、これは今も同じだ。
でも、辞める気配だってない。
辞表を叩きつけるどころか、これだけ考えてもまだ『今すぐ辞める』という選択肢が出ないほどその気配がない。
男の自分に苦労が多いのは知っているが、女になったら楽になるとは思っていない。
それを分かっているから安易に女性化を望んでないのだろう。
なら今の状態でいるのは単に一歩を踏み出す力がないという事だろうか。
本気なら後先考えずに店をやめるという選択もあるのだから。
今週の俺の性別はやはりどっちつかずのままという事だろう。
「そのワンピ可愛いですね清穂さん」
「今日は清乃が休みだからね。たまにはゆるふわの可愛い系の服を着てみたいのよ」
「清乃さんが休みじゃなきゃダメなんですか?」
「清乃と同系統の服だとどうも見劣りしちゃってね。差別化の為にミニのタイトが多いの」
「男の時ですら美人の清穂さんにもそんな悩みがあるんですね。清穂さんくらいだったら
何を身に着けても、どう振る舞っても人目を集める美人と持ってたんですけど」
「ハハ、ありがとね。ところで清恵ちゃんはたまには違ったの試してみない?いつも私が着てそうなのとか」
「顔は可愛い系だけど、ミニタイトとかちょっぴりセクシーなのに挑戦してみてもいいんじゃない?
せっかく女としてここにいるわけだし、いつもと違ったオシャレも女の楽しさよ?」
「いや、今は男ですよ?」
「ああ、君ってまだそんな感じなんだね」
「そんな感じって…どんな…あっ」
「もしまだ迷ってるのならお店が終わった後で相談に乗ってあげても良いわ。清乃より感覚が君に近いと思うから」
「ありがとうございます」
「あと、今日の服どうする?私のタイトを貸す?」
「嬉しいですけど悪い気が…」
「服がかぶらない方が嬉しいから、どちらかと言えばイメチェンしてくれた方が嬉しいかな?」
「それじゃあお借りしますね」
気合いを入れて、脚を通し女になる。
お腹に力を入れつつ十数秒の圧迫感や深い巻さえ耐えればもう大丈夫!!
ショーツの形状にそぐわない邪魔者は消え、清彦は清恵の姿になる。
下着の着替えが一番の大仕事と考えていたのは一体いつまでだったっけ?
長くても1分を余裕で切れる、この着替えが大変だっただなんて…昔の私ってポンコツすぎだね。
客が触ってばっかのスケベオヤジだった時に比べれば、あんなのどうだっていいレベルの負担なのに。
さて、清穂さんのミニスカか。
先輩の頼みだからって事で取り敢えずOKだしたけど、これはアリかな?
ぴっちりと、太ももやお尻、それに股間にフィットするスカートは履き心地良いかも。
それに、いつもと違う格好って悪くないね。ルーチンワークのダルさが薄れるかも。
元々、清乃さんに勧められたゆるふわワンピに慣れたからあの手の格好がデフォになってるってだけで
そういう恰好するのが好きってわけじゃないし。次回から少し違った格好に挑戦してもいいかも。
恰好がいつもと違ったおかげか、私の評判はいつもよりも良いようだった。
幸いにも私を隣に呼び寄せた人が、オヤジ系じゃなく意外と若い人ってのも良かった。
ただ、私の評判がいいって言っても清穂さんと比べたらなあ…。
まぁ可愛い系のワンピを着た清穂さんと比べたら月とスッポン、女装趣味とガチMtFくらい差がありそうだけど
…さすがにそれは言い過ぎか。
「たまには違う恰好にすると評判良いでしょ?」
「ええ。ありがとうございました」
「喜んでくれたら何より。でも本心は同系統の服の子がいて被るのがイヤっていうのが一番の理由よ」
「結構、したたかですね」
「多少図太くないと生きていくのは大変よ?ここでも他所でも、男でも女でも」
「そうかも知れませんね」
「「ところで」」
「すいません、清穂さんお願いします」
「清恵ちゃんからどうぞ。何を言いたかったのか興味あるし」
「大した事じゃないんですけど」
「うん?」
「このタイトスカートってどうしたのかなって」
「女ものの服は大概通販ね。男の姿の時はお店に行けないから通販で買ってたんだけど
いつしか女姿で日常過ごすようになっても、そこが気に入っちゃっててね」
「なるほど…」
なかなかいい情報かも
「でも、そういう意味で聞いたんじゃないんです」
「女性用の服の調達方法は初心者の良く聞く質問でしょ?他の質問ってどんなの?」
「今着てるワンピと子のスカートの2着をどうして持ってるのか…って意味です。先輩方って服は大概
自前じゃないですか?どうして2着も持ってるのかなぁって」
「清恵ちゃんって思った以上に初心者ね。でも私も初期の頃はそんなレベルだったっけね」
初心者とかそんなレベルとか言われても良くは分からなかった。
ただ、清穂さんに悪意がないとは言えレベル差を見せつけられたことに少しムッとした。
「少し人気のある子なら複数の服を用意するのが普通なのよ」
「みんな何着も持ってきてるんですか?」
「そうよ。他の娘の格好を見つつベストな服を決めるとか、お客さんの好みを憶えてそれに合わせた
服にするとか。途中で着替えてお色直し感覚っていうのも評判良いわよ」
「やっぱり清穂さんは先輩ですね。デキが良い」
「まぁ慣れよ慣れ…で、質問はもういいの?」
「はい。ありがとうございました」
「じゃあ今度は私の方ね」
「はい」
「悩んでるってのは主にこのお店を続けるかどうかって意味?」
「すいません、こんな良くして貰ってるのに」
「別に気にはしないわ…特殊な仕事だし無理と思うのなら早くやめるのが賢明よ」
「無理って事は無いんです。皆さん良い先輩ですし、お客さんはちょっと困った人いますけど労働条件も
いいですし、これ以上の職場がそうそうないかなって思ってるんですよ」
「褒めてもナニも出ないわ。っていうか男性が女になるのを考えたら少し無理って感じたらとっとと辞めるのが吉と思うわ」
「いや、皆さんも男…精神的な意味ですか」
「うん。清恵ちゃんは今の仕事には満足してるの?」
「勿論ですよ」
「先輩に気遣って平気な振り…っていうのなら絶対にやめてね。私含め女になった事を後悔されるのが
一番嫌だから、ダメならダメ、無理なら無理、出来ないなら諦める。いつもなら続けて欲しいって
言うけど今回に関しては、失うものの大きさ的に諦める事も大事な事よ」
「一生懸命相談に乗ってくれるのは嬉しいですけど、念を押しすぎじゃないですか?」
「そうかな?」
清穂さんはしばし考えた後に「そうね。そこまで気にするほどの事じゃないかも知れないわね」と訂正した。
その後清穂さんの経験を聞き、彼女も迷ってた時期がある事を聞き少し安心した。
昔から女性化願望のある人が多いのは事実だけど、急な女性化が怖くなる人とかも多く
私のように踏ん切りがつかない人は半数を超えるらしい。むしろ清乃さんが例外なくらい。
あの人って女性化や女性らしさに関して、退かぬ媚びる省みぬで、我がTSに一片の悔いもない人だし。
「じゃあ私って清穂さんや他の先輩と同じ道を進んでるだけって事ですか?」
「そこまでは分からないわ。少なくとも高校時代に自分の男の体が嫌だった私と同じ道と思うかと
聞かれれば違う気がするって答えよう」
「そうですよね。自分の性別に悩んだことなんてありませんでしたからね」
「ここを続けて失うものは男の性別、男としての自分」
「ですよね。あと、女になったら親しい人との関係で困るかも。身寄りのない私には関係ないですけど」
「哀しいこと言わないで、ちょっと涙出てくるじゃない」
「ごめんなさい」
「とにかく、男でいられなくなる…これがどれほど大きい損失になるのかをよく考えてから選びなさいな」
「はい」
「たまにエロオヤジはいるけれど、ここのお店はなかなか快適な労働環境」
「私も同じ意見です。働きやすい環境だし、お給料もなかなかいいし」
「最低賃金がある程度保証されてて、人気が出れば昇給のチャンスとお金的にはかなりいいわよね」
「そうなんですよねー。これで男性機能とかの副作用が出ないなら迷わず続けるんですけど」
清穂さんは「案外、現金な子ねー」と言いながら苦笑していた。
「続ける気がないのなら女ものの服を買う必要がないけど続けるのなら用意した方が良いわ」
「そうですね。あとでバタバタするのも嫌だし今日明日中にでも」
「そんな急ぐ必要ないと思うけど、続けることが決まってからでもいいんじゃないかな?」
「まぁ男に戻った時は必要ありませんからね」
「難しい質問だからかそんな役に立てなくてごめんね?」
「いえ、そんな事ないです。新人時代の清穂さんの事が分かって良かったです」
「答えが出た時、私が君を呼ぶ名は清彦君か清恵ちゃんか…どっちでしょうかね?」
「さようなら、ありがとうございました」
「今の話で疑問を感じなければもう道は決まってると思うんだけどな」
清穂さんが後ろでこう囁いていたのを知ったのはそれから1か月半が経った後だった。
現在4ヵ月と半月、リミットまであと1か月半
これから俺はどうすべきなのか、進むべき道が分からない。
いや、進むべきは元の清彦としての道なんだけれど、踏み出せないというのが正解かな?
あと、女として生きる道に魅力を感じてるというのもある。
ここ最近は女モードでいる事が多かったのでたまには男っぽい行動をしてみようと思う。
…まぁエロ動画の視聴くらいしか思いつかなかったんだけど。男らしいようならしくないような。
でも、最近そういう気分に慣れず久々な気もするから鑑賞してみようか。
モニターの向うにはほぼ裸の男女がいる。
今までなら、お気に入りのヤツだが今日はそこまで興奮はしない。
下半身はそれなりには反応するけれど、気持ち的な高揚感は大してない。
反応度合いも、本当にそれなりとかそこそこといったレベルで男優の人のように天を仰ぐような迫力はない。
でもこの女優じゃ仕方がないかな?
胸はそれなりに大きいだろうけど、形の良さや全体的な肌ツヤ…あと顔と正直私の方がよっぽどいい。
こんなんじゃ男優さんも大して楽しめないでしょ?彼もせっかく立派なモノがあるのに勿体ない。
清乃さんや清穂さんとは言わないでも、せめて私くらいの美しさがあったら…って私じゃなくって俺だ。
いや、女の状態なら私の方が正しいか。
AV女優とタメを張りつつ休日を終えた。リミットまであと1か月と1週間
この仕事を続ける気はないけれど、ここでの仕事も大分慣れた。
例えば女の服を着るのに抵抗はなくなったし、敬語ばかりでなく必要に応じて女っぽい口調も使えるようになった。
ブラも身に着けやすさ重視のスポブラより、雰囲気重視の後ろホックブラを好むようになったし、
スカートの扱いも慣れて、中身を見せてしまう事がほぼなくなった。
それからショーツをうまくずらし、女のままでのトイレも出来るようになっていた。
清乃さん曰く、まだ足りないところもあるけれど研修中のレベルは超えもうすぐ一人前くらいになったらしい。
それが私にとっていい事なのかどうかは分からないけど…とも付け加えたけど。
女の体でいる事に窮屈さのようなものはもう感じなくなっていた。
変身中は窮屈とか違和感があるとか言っていたことが懐かしいくらいだ。変身時の苦しさは未だにあるけど。
さて、仕事も終わったし帰ろうか。
明日は休みだし今日はのんびりできそうだ。先輩たちに挨拶をし、私は帰路についた。
女性化下着と貸し出し用衣装の持ち出しを許可されてから、時々女の姿で通勤するようになった。
最初はついうっかり元に戻らないままで…だったが最近は気がついてもそのまま帰る事もある。
女性化状態に慣れたのも一因だろう。
ほんの1・2か月前は一刻も早く男に戻りたかったというのに今では女の姿も自分の姿と化している。
体に負担がかかる危険があるから、仕事が終われば即男に戻るのが正しい。
が、それでも時々女のまま帰るのは着替えるのが面倒だからというのが一番の理由だろう。
下着を脱いで、服を一式着替えるのは地味に面倒だ。それに様々な理由が着替える気を萎えさせる。
例えば仕事前は気合いが入るし体力も余裕があるから着替える気になれる。
可愛かったりオシャレな服という点もテンションUPに繋がる。
対して、仕事終わりでやる気も体力も付きかけた時に一式着替える気はあまり起きない。
ましてやせっかくのオシャレを野暮ったいシャツや地味なコートに変えるだなんて余計にやる気が出ない。
…地味な普段着が嫌で女ものの服だからOKって事か?我ながらどういう理由だか。
女装趣味というべきかは微妙だが男物から女物に着替える時は楽しくて、逆に男物に着替える時はやる気が出ない。
この5か月の間、可愛いOr綺麗な服を選び続けたせいなのか女ものに抵抗がないどころか女物の方が自然なほどだ。
頻度自体は男物の方が多いけれど、何となくテキトーな男物を用意するのと用意された服の中から
なるべく良いものを選んでいた女服とじゃ意識に差が出来るのか。
女の人生を歩む気がない割に、女の服の方に馴染んでいる自分に少し嫌悪感を覚えた。
リミットまで1か月と3日
棒も玉も締め付けられて、胎内に押し戻され男の俺は今日も女の私に姿を変える。
3日ぶりの勤務だからか、今日はまた一段と気合が入る。
気合いが入ったせいか今日は無性に女の姿で通勤したくなった。
まぁ、前にも女姿通勤はあったんだけどね。
出勤前にはネット通販で女性用の衣服を見ていた。
ネットで服を見るのが半ば趣味と化していたが、女性のおしゃれも必要な仕事だし完全な趣味ではないだろう。
仕事の一環だよね。飽くまで。
ネット通販で女性用の服を買いたいという願望がないでもないが、着る機会がどれほどあるか分からないので却下。
短いと1か月で着なくなるし、なかなか高額なものだし通販サイトは見て楽しむ程度が良い気がする。
何より、お店で少し服くなった服を貰えたので暫く女性用の服には困らないだろう。
…ってこれじゃあ服が貰えなくって女性服不足なら自分で買っちゃうみたいじゃない。
足のサイズが合わないからパンプスを買ったのは仕方がない。オシャレ+スニーカーじゃ変だし。
破けたからストッキングを買ったのも仕方がない。予備含めて3枚買うのもギリギリあり。
でも、女性服を自分で買うのはやめておく。そこまでしちゃうともう戻れない気がするから。
でもお客さんになるべく可愛い服を着た私を見て欲しい気もするんだよね。
オヤジ相手でも可愛いって言われたら嬉しいもの。
今日の仕事はなかなか楽しかった。
こういうお店に不慣れな人中心だったからか、お触りはあまりされなかったしいやらしく不快な言動はほぼなかった。
珍しく私の方からボディタッチをしたけど喜んで貰えたかな?
いやらしさのない青年だったし、こういう人ならまた何度か来て欲しいな。
「あっ清乃さんどうしたんですか?」
「今日、ちょっと残って貰っていいかしら?話がしたいの」
「分かりました」
「ただ、今日は残業代つかないかも」
「珍しいですね。まぁ今までは仕事っぽくないけど仕事扱いだったしたまには仕方がないかな?」
「今日はいつもの事、清恵ちゃんの今後についての話じゃないの」
「えっ?」
今日でちょうどラスト1か月となった。
毎週のように清乃さんは私が続けるべきかどうかを話題にしていたので今日も絶対に来ると思っていた。
節目のラスト1月、結構長い時間相談してくれると期待半分、不安半分でいたのだけれど…。
一体どんな要件なんだろうか?
「ごめんね。清恵ちゃんの今後についてガッツリ相談に乗ってあげようって思ってたんだけど」
「珍しいですね。今日は絶対に来ると思ってたのに」
「期待してた?ならごめんね」
「少し残なんですけど、ならどんな要件があるんですか?」
「実はね」
「実は?」
「清穂…あの子が近々お店を辞めちゃうの」
「あんなに女性として輝いてる清穂さんが女をやめるって事ですか!?」
かなりの衝撃だった。
初めて女になった時には流石に敵わないものの、それ以外だったらこの5か月で最も驚いた瞬間だろう。
やっぱり無理してたんだろうか?っていうか清穂さんですら無理な仕事を私に出来るとは思えない。
女性化願望どころか、女物の服をここに来るまで身に着けた事のない人間が続けられる仕事じゃないんだ。
混乱しつつも一つの結論を出し決心が決まった。そう思ったのだけれど。
「そういうわけじゃないの…っていうかその逆なくらい」
「逆ってどういう事ですか?」
「寿退職だって」
コトブキ・タイショク?
一瞬、清乃さんの言っていた言葉の意味が分からなかったが少し考えて意味を理解できた。
「結婚?」
「羨ましいわよね。お店の成績じゃほぼ常に私の方が一歩先へ行ってたけど一番肝心な事はあの子が先だって」
「結婚なんて出来るものなんですか?」
「簡単には出来ないわよね。この女性化技術は表に出せないものだし」
「戸籍の問題もありますし」
「でも、一番難しくて一番肝心なのは相手を見つける事よね。これが本当に大変でとっても大事」
自分もお店をやめるかどうかで悩んでいた。
だから清穂さんも同じ理由だと思っていた。
でも実際はその逆だった。
この5か月で最も驚いた瞬間第2位はほんの数分で1位と差がないところまで迫っていた。
昨日の衝撃であの後はなかなか寝付けず、眠りについたのは午前7時くらいだった。
そのせいで、目が覚めたのは夕方の5時を過ぎたあたりだった。
昨日っていうか一応は今日か?(どうでもいい)
今日は休みなのだが、清穂さんにおめでとうを言いたかったのでお店に出向くことにした。
男の姿か女の姿かで悩んだけれど、女の姿の方が正装っぽいので下着の着用と全力の女装?を頑張った。
女性化下着だけでなく豊胸ブラもちゃんとつけるし、スーツっぽいタイトスカートも履いちゃえ。
ちょっと窮屈であんまり好きじゃないタイトだけど、男女両方から評判がいいし今日はコレだ。
でも、そう言えばメイク道具を何一つ持ってない!!
面倒と思っていたから化粧なんてたまにしかやらなかったし…。
最低限の使い方なら教わったし、簡単なメイク道具一式も買っちゃえ。
近所のドラッグストアの化粧品売り場へ赴き、お店で貸し出している者と似たものを選んだ。
大事なイベントだからか、化粧品を買う事に抵抗は感じなかった。ただ店員さんに尋ねる事までは出来なかった。
お世話になった清穂さんへの挨拶なんだし、可能な限りちゃんとした格好にしよう。
その思いが強かったのか、服の購入よりハードルの高そうな化粧品購入という壁を難なく乗り越えていた。
「お邪魔しま~す」
私以外にも清穂さんの挨拶に来た人がいたのか、お店の中にはかなり人が集まっていた。
殆どの人が女の姿で清穂さんを取り囲んでいたが、異様に気合の入れた格好なのは私と清乃さんくらいだ。
清乃さんはいつも格好に気合を入れてるけど。
ちょっと浮いた格好をしたのは恥ずかしかったけれど、清穂さんも今すぐやめるわけじゃなくって
数か月くらいお店の様子を見てから辞めるらしい。まだ彼女の顔を見れるのは嬉しかった。
それから話してる途中でノロケが入ったような会話になっていた。
彼の事は高校の時の友人で友人でいつつ密かに恋心を抱いていた事、
女性化下着の持ち出しを認められてからは女として彼に近づいた事、
いい感じになったけれど正体を隠すことに罪悪感を感じてもう限界と思った事、
泣きながら謝って破局を覚悟したがそれを受け入れてくれた事、
彼の事を喋る時は嬉しさのあまりいつものクールさからは考えられないくらい饒舌で、
クールビューティなイメージを忘れそうなくらい可愛らしかった。
一瞬だけウェディングドレスの清穂さんの姿を想像し、『いいな』と思った。
きっと清穂さんなら可愛いお嫁さんになれるだろう。
そんな彼女を想像し、私も可愛いお嫁さんになれるんだろうか?なんて思った。
…なってどうするという気もするけど。
先週、急いでいたとはいえ自発的に化粧品を買ってしまった。
自分の意思で女性用の服を買ってしまったらもう後戻りは出来ないだろう。
などと思っていたらそれ以上の事をあっさりやってしまうとは…。
化粧品なんて買ってしまったら、精神的なカベ理由で買えないものなんてないような気がする。
ああ、生理用品と婦人薬があったか。この2つはそもそも必要なさそうだけど。
ただ、なし崩し的に買ったからなのか後戻りが出来なくなるほどの変化が起きたという事は無かった。
女の時は清恵として、なるべく可愛く振る舞い。男の時は清彦として何気なく過ごす。
ただ、ネット通販で女ものの服を買う事に抵抗はなくなった。というか1回買った。
少しずつ、歩んでいる道は女サイドによっているのは間違いない。
ただ中身が女になったのかと言われるとやっぱり違うと思う。
やっぱり今の自分は女を演じている男というのが適切だろう。
男と甘い日々を過ごしてその彼との結婚をずっと望んでいた清恵さんと自分とは違う。
男の体でいるのが苦痛だとか違和感があるというわけじゃないし。…あっ最近は違和感がちょくちょくあったか。
でも、やっぱり自分が清恵さんと同類とは全く思えない。これからの人生を女として過ごしたいとは思わない。
ただ、幸せそうに笑う清恵さんみたくなって見たいと思う事はあるけど。
リミットは近い。
そろそろ決断しないと。
やっぱりここをやめて男として生きよう。
迷い続けていた俺だったけれど、残り2週間の時点でようやく答えを出す事が出来た。
ホント言うと答え自体は決まってたけど、初めてちゃんと言おうと思ったが正解か。
自分が女になるなんてありえない事だとは最初から分かっていたんだし。
だから今日という今日はやめますと言おう。
リミットとして言われていた再来週より少しは早い。きっと辞め時だ。
自前のメイク道具を買ったのは少し勿体ないが、面倒な日々の化粧をするのも割と嫌だし仕方がない。
あと2週間で、話の流れ次第ではもう少し早いうちに最後の勤務となる。
シフト次第じゃ今日が最後という可能性も捨てきれない。
いつ最後になるかも分からないし今までで一番気合を入れて、
今までで一番可愛く、女らしく振舞いお客さんや先輩方に認めて貰えるくらいいい女になろう。
出発前には可能な限り念入りにお化粧して、服はどうしようかな?
貰ったやつは悪くないけどちょっとくたびれてる気もするし、お気に入りをいくつか見繕いつつ
貸し出しているのものも有効に活用しよう。取り敢えずこれをキープしつつお店に並んでるの次第のコーデね。
…っていけねいいけない。まずは女にならなきゃ始まらないね。
股間のものが押し込められ、最後は消えて無くなるこの感触、本来は決して気持ちのいいものじゃないけれど
もうすぐお終いと思うと自然と不快感は無く、今回は心地よさも感じた。
最後かも知れない入店を終え、まずマネージャーさんに挨拶をした。
そして控室に入り、清穂さんに声をかけた。
そして、清乃さんに言うんだ。私も近いうちにやめますって。
あのっ…清乃さん。
この一言が、肝心な時の肝心な言葉って案外でないものだよね?
そして、言えずにいた私に対し清乃さんの方が声をかけてきた。
「清恵ちゃん?少しお願い良いかな?」
「はい?」
何かと思いつつも、話を切り出すチャンスなのである意味ラッキーかな?
「これは飽くまでお願いね?無理なら無理ってダメならダメ言ってくれてもいいから。
まぁ出来れば聞いて欲しいお願いではあるんだけど」
お願いする清乃さんは歯切れが悪い。
以前に同じような事を言った清穂さんと比べても歯切れがいい筈の彼女らしくない。
「お世話になった清乃さんのお願いですからね。出来るだけ頑張りはしますよ?」
「そう言ってくれると嬉しいな。それじゃあ言うね?」
「はい」
「もし、もしもだよ?」
「もぅ。前置きはいいですって」
「ごめんごめん。清恵ちゃんはここを続ける気がある?」
キタ!!千載一遇のチャンス
「もしここを続ける気があったら、もしくはまだ答えが出てなかったらでいいんだ」
「はい?」
あれっ、流れが変わった?
「もう少しだけ、ここを続けてはくれない?その気アリ、もしくはまだ迷っていたら」
「どういう事ですか?」
思いもよらぬ質問で頭の中が一瞬にして真っ白になった。
「清穂、あの子の結婚は知ってるよね?」
「ええ。今日は出勤よりもお祝いがメインの心算出来たくらいです」
「そして寿退職、まぁ新妻がこんな仕事するのもマズいものね」
「そりゃあマズいですよね」
「それで、あの子が抜けると人数的に不安なのよね。出勤数も多いしシフトの変更に協力的だし」
そりゃあ彼女をよく見るわけだ。やっぱり優しいな清穂さん
「いい加減に円満退職させてあげたいじゃない?早くお嫁に行きたいが口癖にあの子に、
かれこれ人数が集まらなくってもう2ヵ月も待たせてるの、だからもう少しだけ、仮に
ここをやめる気でももう少しだけでいいからここにいてくれない?」
「清乃?無理強いしちゃ悪いでしょ?」
「あんたの結婚に悪影響出したらもっと悪いでしょ?」
「簡単に悪影響は出ないから、それよりもまだ道を決めてない清恵ちゃんの道を勝手に決めるマネは駄目!!
清恵ちゃん、いえ清彦君?辞める辞めないはアナタの都合と気持ちが一番だからね?」
話ずらい空気だ…でも口を開かないわけにはいかない。
「その件なんですが、実は今日言おうと思っていたことがあるんです…実は」
ここで働き始めてから、今日で丁度半年になる。
最初期は、女として過ごす日々が続くとは思わないだろうし今日のお別れ会も予想は出来ないだろう。
私は清穂さんにお別れの言葉と餞別を渡し、そして彼女を見送った。
私はもう暫くこのお店に残り、清穂さんを見送る立場になった。
人間には進むべき道がいくつかあり、人生にはその道の内を選ぶイベントが何回もあるものだと思う。私の人生観だ。
この場合の私は、ここに残る女の道とここをやめる男の道があり、さらにそれぞれの道が細かく分岐している。
私はあの日、男の道を選ぶ筈だった。しかしあの時私が言ったのはその道とは違うものだった。
「実は、私まだどうするかが全然決まってないんです。こころ辞めるどころかまずやるべき事、就活すら
まともにできてないくらいなんですよ。かといって女性として生きる決心って大変じゃないですか?
私、女性としての生活って全然してないですし、だから暫く、もう暫くはここに残ります!!」
清穂さんが安心して念願だった夢を叶えられるように、俺がどっちつかずな態度をとっていた時
既に決断していた彼女の思いが実るように。私は道化と女を演じた。
自画自賛みたいだが、この時の私はこの数か月で一番男らしかったと思う。
決断というものは意志が必要だが、同時にその意思を支える状況がないとダメだと思う。
『勢いでああいったけど本当は辞める気でした』
ほとぼりが冷めてからそう言えばいいだけの話だから。
決断力のない俺がモノを決断できるのは稀なんだろう。清穂さんを気遣った嘘、それで少ない決断力を使い切ったようだ。
男の道と女の道、心の中では男の道だっはたずが結局選べず流されるように女の道へ。
そして今もまた分帰路に戻る事もせず、流されるようにこのお店で働き続けている。
でも不思議と心の中は晴れ晴れとしている。一切の曇りがないような感じすらする。
これからの人生も決断できずにいそうだけど、それでもいい人生だと思えそうな自分がいる。
現にあれから2年もここで働き続け、ここでの仕事を結構楽しんでいるんだから。
「うっ…くうっぅ♥」
ショーツを履く時が一番幸せかも知れない。
股間が締め付けられ押し込まれる。逆にお腹の中はグルグルして膨張するような感覚に襲われる。
慣れてきたが苦しくて、気持ち悪くなって、そして痛みもある。
それらの三苦痛を乗り越え『私』は『私』を取り戻せる。
苦しみよりも女の姿になるこの幸せは何物にも代えがたい。
「やっぱりまだ苦しいなぁ」
女体化時に起こる不快感には未だに慣れないって顔をしてるな清菜ちゃん。
一番きついのが変身時だとしても、変身後が楽というわけではないからね。分かるわ。
でも今は女になって、女として男の相手をしないといけないんだよ。
「ホラホラ清菜ちゃん、急な変身は苦しいでしょうけど景気の悪い顔はしちゃダメよ」
「清恵さん。おはようございます」
「おはよう、清菜ちゃん」
「下着姿の清恵さんって私がドキッとするくらい色っぽいですね」
「アハハ、ありがとね」
「清恵さんっていつも楽しそうですよね」
女としてのお相手業務がキツイと思っていた時期ですら悪くないと思っている。
女性になれる喜びを覚えた今ならここでの仕事がどれほど楽しいことやら。
「そうねー。女の体を手に入れたっていうのは念願叶って嬉しいわ、まだ借り物のだけど」
「やっぱり。私も女性の体になる幸せ嚙み締めてます。苦しい事も多いけど」
「最初の頃の変身って私も苦しんでたわ」
「ですねー。でもこんな苦しい変身を平気そうにこなす清恵さんって凄いんですね。女性化への欲求っていうか
意志とか決断力みたいなの。きっとここが天職なんですね」
「ありがとねー、。でも、私の中の女の性を売り物にするのって本当は好きじゃないの。女にして貰った恩があるから
ここで働いてるっていうのが強いわ。一番なりたい職業は専業でも兼業でもいいから断然主婦だもの」
「分かります。将来の夢お嫁さんって書きたいけど書けなかったクチですね清恵さんも」
昔の私と違って自然に発せられる女の言葉と仕草、そして全身から放たれるお色気。
新人に限ればお店の中で上位だ。清菜ちゃんくらいの魅力があればすぐ新人を卒業できるわ。
ある意味でキャリアは長いみたいだし。でもいい女対決だったら私も負けないんだからね♪
ショーツを履く時が一番きついかも知れない。
股間が締め付けられ押し込まれる。逆にお腹の中はグルグルして膨張するような感覚に襲われる。
苦しくて、気持ち悪くなって、そして痛みもある。それらの三苦痛を乗り越え『俺』は『私』に変身できる。
「やっぱりまだ苦しいなぁ」
女体化時に起こる不快感には未だに慣れない。
そして一番きついのが変身時だとしても、変身後が楽というわけではないのが哀しい。
俺は女になって、女として男の相手をしないといけないんだ。生きる為に。
人間には進むべき道がいくつかあり、人生にはその道の内を選ぶイベントが何回もあるものだと思う。俺の人生観だ。
あの時、転機が訪れた時に俺の目の前にあった一つの道、俺は敢えてその道を選んだのだろうか?
それとも流されるようにそっちの方向を通過しただけなのだろうか?今となってはどっちだったのか良く分からない。
ごく普通の大学生だった俺に突然訪れた不幸は両親の死亡だった。
幸いにも、卒業間近で内定はとれているので生きていくことは出来る…と思っていたがその会社が突然の倒産だ。
路頭に迷いかけていたところ、幸か不幸か怪しい男に声をかけられ、そこそこ収入の良い今の仕事に就くことは出来た。
一見すると最後の点は幸運だ。が、仕事の内容が内容だけに素直に喜ぶことは出来ない。
俺の仕事はカフェに勤務だ。
と言えば聞こえが悪い訳じゃないが少し特殊なカフェなのだ。
夜しか営業していないその怪しげなカフェは色っぽいサービスありの、そういうお店だ。
そしてもう一つ、接客を行う従業員は全員元男
怪しげな道具を使って一時的に女体化した男たちが客のお相手(一応は本番無し)をする。
そんなお店だ。
因みに、変身した先輩方のイメージ画像がこちら。
豊かなバストと真っ平な股間が眩しいですよね?
ほぼ下着姿はかなりレアですからよーく目に焼き付けておくことをお勧めします。
以上蛇足でした。
女体化はマジックアイテムらしき下着を使う。
身に着けている間だけは女の体になるという魔法のような、というか魔法を使ってるとしか思えない下着だ。
これを使えば男の体を失うことなく、実入りのいい女の仕事が出来るため俺にとって都合はいい。
ただ、女体化時には体に大きな負担がかかる為に毎日の着替えがかなりの苦痛だ。
しかもその後にオトコのお相手という難関をこなさなければいけない。当然俺にそんなシュミはない。
ただ、基本生きる力がない俺にとって特別なスキルがなくても出来て割かし高収入な仕事は嬉しい。
下着さえ脱げば男に戻れるという点も、特に失うものがないという点で○だし。
オーナー曰く年単位で続けていくと男として危ないらしいが、それでも条件自体は悪いものではない。
変身時の不快感を耐え、男の俺が男のお相手をするという難関を超えるのは大変だが。
しかし本番は免除(というか下着着用時しか女でない為に女のセックスはそもそも不可能だが)という点は
かなり安心して働く事が出来る。
仕事の時だけは割り切って女になりきる。仕事が終われば男として好きに振る舞える。
特殊な仕事である点以外は悪い仕事ではないのだ。
現に3か月たってもやめようとは思わない程度には良い部分がある。
ただ未だに変身時にお腹の仲がうねうねして気持ち悪かったり、
股間のモノ締め付けられるような苦しみには慣れてないけど。
また、女体化の方法は下着だけではないらしい。
例えばここで働いてる先輩の中には女性化手術を受けたらしい人もいる。
ただ手術代は莫大なものらしくかなり働かないととてもじゃないけど返せないような額だとか。
「ホラホラ清恵ちゃん、急な変身は苦しいでしょうけど景気の悪い顔はしちゃダメよ」
「清乃さん。おはようございます」
彼女が手術組の先輩の清乃さんで、俺の教官役という事になっている。
*イメージ画像であり普段はちゃんと着てます。ってかお店の中でも脱がない人で有名です。
「清乃さんっていつも楽しそうですよね」
女としてのお相手業務がキツイ俺ですら悪くない職場と思っている。(主に収入面が理由だが)
女性になりたがってた清乃さんなら大層ここでの仕事も楽しい事だろう。
「そうねー。女の体を手に入れたっていうのは念願叶って嬉しいわ」
「やっぱり」
「でも、私の中の女の性を売り物にするのって本当は好きじゃないの。女にして貰った恩があるから
ここで働いてるっていうのが強いわ。一番なりたい職業は専業でも兼業でもいいから断然主婦だもの」
俺…もとい私と違って自然に発せられる女の言葉と仕草、そして全身から放たれるお色気。
当然、お店の中での人気も上位だ。私も少しくらい清乃さんの魅力があれば新人を卒業できるかな?
仕事を始めてから3か月と半月が経った。今日も俺はショーツを履き女になる。
体の変化もあらかた完了し、もう苦しくはなくなった。
股間を撫でて、突起物が消えて無くなっているのを確認し、女性用の服に着替えた。
清乃さんのようなガチ組は、服が自前だが私のような臨時TS娘は下着だけでなく服も借りものだ。
ってか性別も借りものだったり…。
今日はゆるふわ系で可愛いめのにしようかな?
目の前の清乃さんがセクシー系で同系統の服を選ぶのがなんとなくイヤと言うのもあるし。
やっぱり私みたいな付け焼刃女の私じゃ清乃さんとはレベル差がありすぎる。
清乃さんと同じレベルになるっていうのも、それはそれで困るんだけど。
「あらあら今日も可愛らしいじゃない清恵ちゃん」
「清乃さんと比べられると見劣りしますけどね」
「まぁでも女の子初心者だし女の子状態に慣れれば変わるかもよ?女は化けるってね」
「女の子状態に慣れても清乃さん並みには化けなさそうですけど…」
「清恵ちゃんなら頑張れば私と互角以上の女にもなれるかもよ?」
「あははは」
本当に同じレベルにまでなったらマズいんですってば。
ツライ着替えを乗り越え、清乃さんに少し遊ばれ私は持ち場に着いた。
気合いを入れないと一人称の私すら危ういのが清乃さんと同格の美女って、そうなったらある意味お終いだ。
でも仕事場の中でならもう少しだけああなってもみたい。
「清恵ちゃんこっち来て貰っていいかな?」
「はぁい♥今行きまーす♥」
常連のオジサン(矢島さんというらしい)が私を呼び寄せた。
彼は私がお気に入りなのか、来るとよく私を呼び寄せる。
自分を好いてくれる人がいるのは嬉しいと言えば嬉しいのだけれど、相手がスケベなおじさんだと素直に喜べない。
根は優しい人っぽいし体臭が気になる人じゃないのは救いだけれど、手が脂っこいのが気になる。
この店は原則として本番不可で、お客が出来る事にも限りはあるがお触りは自由にできる。
ショーツの中身は許可と追加料金がないと触れないが、ここはお触りの為の店!!というのが私の印象だ。
矢島さんも私を呼び寄せて、お尻を中心に胸や肩なんかを撫でてくる。
距離が近いので体臭は重要だけれど、手が脂っこくてべとべとするかどうかも非常に重要だ。
だからほぼ嫌がる要素のない有難い筈のお客である矢島さんは、結構苦手だったりする。
お触られカフェという形態は私のようなTS初心者には、キツイようなある意味有難いような…だ。
こちらが能動的に動かなくても触られる事ならどうにかなるので、私にもどうにかこなせる。
受け身、されるがまま…それでもどうにかなるし日常を生き延びられる。
無力で、気力も無くした私にはある意味天職かも知れない。
でも、清乃さん並みに素敵な女性を演じてみたいと思った事もある。
…別に深い意味は無いけど。
「お疲れさまでした」
お客さんのお相手を終え、閉店時間になった。
男(しかも大体がスケベそうなオヤジ)に触られるのは精神的に堪える。
ロクに女の事も縁がなかったのに、自分がお触られと思うと尚更だ。
こういう時、中身も女の清乃さんと比べてどっちの方がよりツラいんだろう?
ホモっ気のない俺?それとも心も女だからこその清乃さん?
されるがままでもどうにかなるので、楽と言えば楽だが苦労のない仕事というわけでもない。
清乃さん達に挨拶をし、着替えを行う。
余談だが、片づけなどの雑務はマネージャー(男性)がほぼ引き受けてくれるので私は御役目を終えれば解放される。
下着を脱ぐ前に、服を変えないとね。
一度、服が女もののまま下着を脱いで大変な事をやらかしちゃった事がある。
ゴツイ方じゃないっていうか体つき自体は結構華奢な方だけれど、美形でもない男の女装は見てて
気持ちのいいものではない。というか鏡に映った自分の姿を見るのが軽い辱めだ。
今の自分の姿は、綺麗とも可愛いとも言える美女のものだ。
ただ変身(?)をといた姿は地味で冴えない男でしかない。
女性がデフォの清乃さんは例外としても、男状態でもなかなか美人の蜜葉さんや清穂さんとは比べ物にならない。
蒼葉さんは女性化時はお店の中でもかなり可愛いし、男姿だとシャープなイケメンで。
比べると自分の小ささを思い知ってしまう。もう少し頑張らなくちゃ!!
いつもの服、シャツとジーンズに着替える。女のままだとゆるゆるなので、
ジーンズは支えないとずり落ちるけどショーツを脱ぎたい今はちょうど良い。
私はショーツに手をかけ、俺に戻ろうとした。
下着を脱ぐと全身が熱くなり股間を中心にだが、全身から脈打つ鼓動を感じた。
押さえ込まれていた熱が噴き出すような感覚で、股間の解放感を味わった。
元に戻ると気にもやはり痛みが多少はあるが、女体化時は圧迫されたような苦しさがあるのに対し
男に戻る時は解放感と気持ち良さがやってきた。
第二波はお腹の辺りに表れ、くすぐったいような感じであまり気持ち良くはない。
それでも、女体化時の不快感よりかはまだマシかな?
最後は股間の解放感とともに、股間にエネルギーと血液が集まるのを感じた。
生き返る~
仕事と女性化から解放され、体力は消耗していたが疲れたような気はしなかった。
しかし、鏡に映っていた美女が冴えない男にグレードダウンするのを見ると体から力が抜ける。
シンデレラは十二時に魔法が解けるけれど、俺の魔法は深夜三時に解けるようだ。
清乃さんを筆頭に魔法の解けないシンデレラらしき人達を見送り俺は帰路に着いた。
自分と比べ輝いている彼女達を遠目で眺めた。みんな遠いところにいるように感じた。
通勤してからの最初の仕事はやっぱり女体化変身だ。
単なる着替えの一種と言えなくもないけど、変身時は結構苦しいから未だに大変な仕事の一つだ。
ただ、4か月も経ったからなのか変身時の苦しさにもだいぶ慣れてきた。
時々吐き気を催すようなお腹の中の気持ち悪さも、食事を軽めにすればほぼ感じなくなった。
股間の締め付けられるような痛みも前よりかは感じなくなったし、変身後の圧迫感も違和感を
さほど感じず、このお店の中では変身後の状態の方が普通と感じるほどだ。
最初が少し痛いけど、変身しちゃえば逆に股間がスッキリするってくらい。
それでもここの仕事の中で特にキツイ仕事の一つっていうのは変わらないんだけどね。
実を言うと女体化した自分の体はほぼ見ていないので(一応胸は目に入るから見ているが)
女の体がどんなものかまともに見ていない。
だから女体の神秘(割れ目)がどうなっているのかもイマイチ良く分かっていない。
下着越しでなら明らかに男の股間でないというのは確認したけど、でも自分の体ながら未だに女の身体を分かっていない。
ここの客の方が、俺の女体がどうなってるのかまだ分かってるってレベル。自分の体だというのに…。
でも仕事中に触って確認も出来ないし、結局謎のままなんだよね。
せっかく女になったのに、勿体ないかなあ?
「結局は下着の貸し出しをして欲しいって事ね?」
「えっ…でもそこまでじゃ」
「でも君の話を聞いてると、女体化してるのに女になった体を分からなさ過ぎてるのが嫌って聞こえるわ」
「ええっと…その…そうかも知れないです」
原則として、下着の貸し出しは不可となっている。
どうにか交渉して、少しだけでも仕事の時以外でも着用できないかなと思い清乃さんにお願いをしてみた。
しかし、うまい言い訳というのが難しい。仕事につながる理由をどうやって見つけるか。
いや、どうしてお店の外でも女体化をしたいのか自分でも良く分かっていないというのが問題か。
女になった自分に対して実感がわかないのが嫌なのだけれど、女になりたいかと言われればそうでもないし。
それじゃあいったいどうして借りたいんだよ。って話になる。
一度帰って頭を冷やそうかと思っていると清乃さんの方から申し出があった。
「原則として、下着の貸し出しは禁止なの。でも全くなかったってわけじゃないの。私も借りたクチだし」
「えっ…それって本当ですか?」
「実は、仕事の時以外でも女性化していたいってお願いする子はかなり多いの。全体の85%くらいかな」
「多すぎません?」
「清恵ちゃんもそうなんだから呆れないで欲しいけどなぁ」
「そうですよね」
「私のように中身が元々女っぽい人は仕事の時以外でも女でいたいと願うのは当然よね」
「清乃さんとモロそうですしね」
「で、それ以外が女になった自分の体に興味があるケース。こんな急激な変化が起きて自分の体に
疑問や興味を持つのはそんな可笑しい事じゃないわね。問題は自分の体だから興味を持ってるのか
女のカラダだから興味があるのかって話ね。話を聞いてると清恵ちゃんはこのタイプっぽいよね」
「そう…だと思うんですけど」
「自分でも良く分かってないって言うのが本当のところと言うわけね?」
「ええ」
「ここにいる人ってみんな私みたくおちんちんがついてるだけでそれ以外は女らしい人ばっかとか思ってない?」
「違うんですか?」
「私みたいにガチなタイプの方が逆にレアで、自分の心がどういう状態か自信のない人の方が多いのね」
「ちょっと意外、清乃さんは当然としても他の先輩方も女らしさが身についてて俺…私以外みんななるべくして
女性化してここで働いてるって思ったのに」
「誰だって迷いながら日常を過ごしているモノよ。最近の私には迷いがないけど」
「清乃さんは何からナニまで素敵な女性ですからね」
「ありがとね。で、迷える後輩ちゃんの為にどんなタイプの人がいるか紹介しとくね」
「ええ」
「女体に興味がある人にはまた別のパターンがあってね」
「他にも?」
「単純なものよ。男性として女のカラダに興味があるっていうの」
「ああ。そう言えばそれが一番普通の反応かも知れませんね」
少なくとも男としてまともな反応は間違いなくこれだろう。
「最後は、仕事の質を上げたいから女でいる時間を長くしたいっていう職人気質ね」
「分かるような、分からないような…ですかね?」
「自分がどんなタイプか見分ける大雑把な方法があるのよ?」
急に甘い声を出した清乃さんは自分の上着を脱ぎ、上をブラだけにした。
「どう?私のカラダってって」
「どうって…スゴイとしか…」
「このお店じゃ、人気も実力もNO1だからね♥」
「大胆」
「どうかな?どうかな?」
「そっ…そんなアピールされても困りますってば」
セクシーな清乃さんを直視できず、思わず顔を背けてしまった。
「私の身体を見て、欲情したとか、抱きたいって思えばアナタのその感情は男性としての女体に対する興味です」
そう言われてハッとした。このオイシイシチュをオイシイと思えず目を背けた自分に気がついた。
そもそも、モヤモヤの正体が男性としての欲情と言われるまで考えもしなかった自分に気がついた。
いつの間にやら思考が男のものではなくなっていたという事だろうか?
「第一印象はあんまり男っぽくない思考ね。でも頭を冷やして私を見ればまた違った印象になるんじゃない?」
胸を強調したし、座ってポーズを取り足で誘惑したり。
美女の誘惑をオイシイと思い、男としての劣情を煽られた。
「今の私を見てどう感じるのか言って頂戴?なるべく詳しくね」
「ちょっと興奮してきたかも知れません。ドオキドキもしてきました」
「もう少しないかな?カラダが反応するみたいなの。例えばお股が熱くなるとか」
「顔は火照りそうですけど体が反応するってわけじゃないです。そもそも興奮する場所がないですからね」
清乃さんは少し考えたような顔をしたけど、考え込む反応かな?
男としての欲情が出たとしか考えられないでしょ。
自分の中で結論を出した私に対し、清乃さんはため息をつき言った。
「男に戻って襲い掛かる、そこまでいかなくとも触ったり、触っても良いか許可を取るとかそういう行動は
取らなかった。今は清彦君じゃなく清恵ちゃんだけど男の行動をとらなかったっていうのは問題ね」
「あっ」
勿体なかったか。
でも、欲情はしてるけどシたいってわけじゃないしこのままでも良かったかな?
「最後に、男に戻って私のナイスばでーに手を出す事を許可するわ。可愛い後輩だもの」
「えっ?」
「勿論お金は要らないわ。本番は困るけどタッチまでなら許可よ」
艶めかしい清乃さんはスカートのチャックを軽く緩め微笑んだ。
全身からは色気が溢れ、微笑は可愛らしく、その態度からは無償の愛を感じる。
素敵な女性の具体例と呼ぶにふさわしい存在だろう。
今まで何度か女の人を好きになった事もあるし、1度だけ付き合った事もあるがそれらの女とは次元が違う。
そんな美女からの申し出で動かないなんて勿体ない。こんなチャンスは一生ないってレベルだ。
「その気があるのなら、男性として清彦として向かってきなさいな。お相手はするから、さっきも
言ったけど、やり過ぎなら私の方から止めるから細かい事を気にする必要はないわ大事なのは
アナタの気持ちよ。そしてその気持ちを知ることはきっと大切な事だと思う」
正解は今すぐ下着を脱ぎ、清彦に戻り清乃さんにお相手をして貰う事に違いない。
しかし俺は下着も脱がず、彼女に手を伸ばす事すらしなかった。
それは単に俺がヘタレだから?それとも別の理由があるから?
「もう2分も経ったわ」
動きを見せない俺に痺れを切らしたのか清乃さんは催促した。
「清彦として動くならあと1分以内でお願い。下着を脱いで男になって、男として来て?」
度重なる、嬉しすぎる申し出だ。が、手は動かない。
「もし戻る気がないのなら、今日は女の姿のまま帰ってもいいわ」
「えっ?」
「明日もあるんでしょ?その場合は女性のままお店に出る事を許可してあげる」
何故、俺は男に戻らず何もせず、そのまま帰ったのか?理由が分からなかった。
家に帰った、女の姿のままで。かなり新鮮な気持ちだ。
流し台の鏡前に立ち自分の姿を見てみた。そこに映っていたのはかなりの美女だ。
スタイルが良く色気はある。顔立ちもなかなか可愛い。なんとなくだけど雰囲気レベルで美女の資質がある。
しかし、足りていない。少し前に見た美女と比べると明らかに足りていない。
色気でも、可愛さでも、綺麗さも、内面の女らしさでも。
そもそも化粧すらしてないじゃない。こんなんじゃ清乃さんの足元にも及ばない!!
「ってそもそも、何で俺が清乃さんと競ってるんだか」
男なのに女の姿になって、挙句にとある美女に対して女として負ける。性別の概念が混乱しそうだ。
まずは男に戻って…すぐに寝よう。
今の自分の姿や体を存分に調べてみたいとは思うけれど、これ以上女の姿のままでいると何かが狂ってしまうような気がするから。
ブラ(今日のは豊胸用)を外し、胸のサイズを1~2サイズ小さくする。
ショーツも脱いで、豊かだった胸は縮んでしぼむ。胸の膨らみと一緒に元気も抜けていったような感覚だった。
下半身からは懐かしのナニかが生えてくる感触があった。
さっきまで無かったものが、ニョキニョキと生えてきて、ぶら下がる感覚は解放感こそ感じるものの
異物が発生する不快感や違和感も伴っていた。
あるべきものがある筈なのに。
男の姿に戻り、数分もすると発生した違和感のようなものはなくなっていた。
急な性別の変化の性で違和感が発生したんだろう。…そう思う事にした。
ベッドの中に入り、清乃さんの事を思い出した。
据え膳食わぬは男の恥と言うが、あれは本当に勿体なかった。
本番までは出来ないとはいえ、あれ以上の据え膳なんてそうそうは無いだろうに。
どうして、俺はあんなチャンスをみすみす逃してしまったんだろうか?
俺が単にヘタレだというのなら別に問題はない。まぁ全く問題がない訳じゃないけど。
でも、清乃さんに手を出さなかった理由はヘタレだけが原因だとも思えない。
じゃあ、どうして人生最大かも知れないチャンスを自分から逃していったんだ?
あのチャンスをチャンスだとみる事が出来なかった?
女性に対してそういう目で見る事が出来なくなったって事か?
考えが頭の中をグルグルし、建設的な意見が出ないまま深夜が明けてきた。
考え事をしているが頭の中の中心には誘惑する清乃さんの映像がハッキリと残っていた。
脳内には件のエロシーンがハッキリと残っているが俺の下半身は反応を示していなかった。
そしてその異常事態にはまだ気がついていなかった。
目を覚ますと、時刻は昼の2時だった。
夜のお仕事をするようになって俺の生活リズムはすっかり夜型になってしまった。
明け方の4時過ぎに寝て、目を覚ますのは昼過ぎだ。
あまり健康的ではないが睡眠時間や休憩時間は十分だし、休みも多めなので不満という事はない。
ついでに目を覚ましてから出発までかなり時間がある点も○か。
ただ、今日は出勤までにある長い自由時間がかえって邪魔な気がした。
目を覚まし、食事と入浴を終え暫くの間ヒマが出来た。
少し部屋の掃除をしていようと周囲を見渡した。目の前にあるのは、例の下着(ブラづき)だ。
ゴクリ!!
と思わず唾を飲み込んでしまった。喉が渇いただけで他意は無い…と思う。
長時間、或いは高い頻度で変身すると体に負担がかかり男に戻る時に悪影響を及ぼす。
だから、一日の労働時間は短く俺の場合は週に3~4日と日数も控えめにしてある。
寝る前にまず下着だけでも外しておいたのはこの為である。
だから、必要な時以外の変身はなるべく避けるのが正しい。
ましてや、勤務よりかなり早い時間に家の中で使うなんて考えられない。考えられないような事だよね?
駄目!!ダメ!!ゼッタイ駄目!!
理性は働いて、心の声はちゃんと止めようとしている。
しかし俺はショーツに手を伸ばし。脚を通していた。
脚を通し終えると、さっきまで熱を放ち存在を主張していたものはたちまち存在を失っていった。
押さえ込まれ、力が抜け、熱が引いていき、存在を感じにくくなり、最後は抑えられすぎて
そのまま体の中へと消えていったような気がした。こうして俺は私になり今日も女になった。
「あっ…いけない」
豊胸ブラも忘れてはいけない。
巨乳というには物足りないが、十分立派なソレをノーブラのせいで垂れさせるのは勿体ない。
まぁブラをつけたら余計に大きくなるんだけど。
女体化変身完了♪
例によって苦しさはあるけれど、今日は妙に気分が良く不快感をハイテンションで打ち消したような感じだ。
そしてそのハイテンションは股間にも伝わってしまい、せっかく収まった下半身の熱が再び顔を出した。
熱を持った股間は火照り、興奮し、湿っていた…ような気がした。
濡れた感じがしたのは縦に一本分の筋状になっていて、この時にようやく自分の股間はちゃんと割れていたんだと気がついた。
自分の股間が割れている。当たり前の事だけれど確認できたのは初めてだ。
せっかくだし、ショーツを下ろし少しだけ中を見てみた。
突起物がなく、割れている自分の股間を見て少し感動した。
女体の神秘(割れ目)を目の当たりにし無性に触れてみたくなった。
試しに下着の上から割れ目に沿って股間を撫でてみる。
「ぁん♥」
少しだけ声が漏れ出た。我ながら色っぽい声だと思う。
やがて下着越しで撫でるだけでは物足りず直接触れる。
指が奥まで入らないように注意しつつ、線に沿って指で撫でる。
少しの湿り気だったものが、もう少し湿って湿り気の域を超えた。
更に手の動きは激しくなり、浅く撫でていたのが少しだけ指が入るようになっていた。
自分の頭は働いているのかいないのか良く分からない。
ただ手を動かすよう指令を送っている事だけは分かった。
理性はわずかにだが残っていると思う。行為中も自分は男だという心の声が少しだけ聞こえるから。
でも理性が働いているとは到底思えない。今の自分の頭の中にあるものはこの気持ち良さを味わう事ばかりだから。
コレって(自分のとは言え)女のカラダを触りたいからやる行為?
それとも股間に挿入されたいから指を入れようとしている?
このまま進んだ方が良いの?それとも今からでも後戻りするのが正解なの?
理性が少しだけ復活し自分に問いかけてきた。
しかし、手の動きを制止するほどには復活しなかった。
やがて俺の手の動きは停止した。
動きを止めたのは、絶頂ではないが理性でもない。
膣の中の障害物(きっと処女膜)に阻まれたのだった。
手の動きが止まり、ちょっぴりエッチな衝動も収まると理性がまともに働いてくれた。
さっきまでの状況は男としてマズいぞ…と。
当然俺は理性さんの警告を聞き入れ、手を止め指を抜いた。
指を抜いたのはいいのだが、その時に手が少しずれてしまい余計なものもずれてしまった。
ショーツがズレてしまったのだった。
その際に女性器が見えたのだが、特に興奮しなかったのはそれが自分のだからか女の性器だからかは分からない。
でも、この4か月で女の状態に馴染んでしまったのは確実だろう。
最初期は自分の女体にドキドキしていたのだから。しかもその様子を眺めず想像だけで。
俺の変身はショーツを身に着けている時だけ起こるものだ。
だからショーツが少しずれてしまうと懐かしいものが生えてくる。生えてきた。
本来ならあってしかるべきであるソレが不快な異物のように感じた。
女体化変身中は心も女になっていて、男の体の自分を気持ち悪く感じてしまうのだろうか?
或いは変身中でなくともそうなってしまっているのだろうか?
性同一性障害の男(正しくは女?)は自分の男っぽい体を気持ち悪く感じるらしい。
あの店で働くようになってからネット上の知識ばかりだが、そういう系の知識を身に着け始めた。
それは良いとして、自分の体の男らしい所に嫌悪感を示した…コレってかなりマズい気がする。
自分の心の性別が変わってきている…のだろうか?
恐怖を感じ股間がキュウッと縮こまった。縮んだ竿や玉の感覚がとても不快だった。
その不快感が嫌でショーツは脱がずにちゃんと履きなおした。
時刻は午後3時半、出勤まで5時間も残っている。
いつもはネットサーフィンかゲームでもしているのだが今日はあまりそんな気分にはなれなかった。
が、何もしていないと男の体に不快感を覚えていた時の事を思い出すのでPCスイッチを入れネットを見る。
いつもと違い、エッチ系動画には目もくれず可愛い服や下着ばかり見ていた。
マズいとは思いつつも、この姿で男のもの服というのも問題だし仕方がないよね?
下着カタログとかを見ていないと、またショーツの中に手を入れそうだったためネットで
脳内オシャレを楽しみどうにか出発までの時間をやり過ごした。
いつもは嫌な出勤時間だが、今日だけは出勤が待ち遠しく安心できた。
ただ、女の夜道が不安なのと野暮ったいいつもの服を着ていくのが嫌だった。
このだぼだぼズボンが、ミニスカートだったら良かったんだけどなぁ。
今日は終始、気が落ち着かなかったが一度店の中に入ればそうはならない。
何せお店の中では女として振る舞い働くのが普通だから、この姿の方が落ち着くのだ。
しかもキツイ仕事の筆頭である、女体化変身はもう終えている。あとは流れに身を任すだけだ。
いくら今日の私が落ち着かないとはいえ、ルーチンワークなら心配事なんてない。
6時間のお触られタイムを難なく終わらせた。やっぱりエロおやじに触られるのは気持ち悪いけど。
それでも結局はいつもと同じルーチンワークなので、変わり映えのない平坦な時間だ。
ただ、今日はいつもより可愛いとか色っぽいとか言われる回数が多かった気がする。
この1日で女の何たるかを少し理解したのかな?嬉しいような悲しいような…だ。
昨日から色々あったので、今日は早く女体化を戻し帰ってゆっくり寝たい。心の方が追い付かずもうヘトヘトだから。
「清恵ちゃんこのあと少し残って貰っていいかしら?お給料は出るからさ」
「清乃さん!?」
断りたいとは思ったけれど、お世話になっている先輩が相手なら返事はハイかイエスしかない。
「さて、初めてお店の外でも女性化したけどどんな感じだった」
「正直頭が追い付かないです。男の自分と女の自分が喧嘩してる…そんな感じで」
「なるほどね」
「どんな状態か、清乃さんは分かるんですか?」
「何言ってるのよ清恵ちゃん?私の心の性別は昔から女だったんだから男の自分なんてもともと存在してないのよ?喧嘩のしようもないわ」
「アハハ、そうでしたね」
「でも、清恵ちゃんみたいな感覚を味わう子って結構多いらしいわ」
「私を呼んだ理由って…?」
「それも含めて一度色々と話してみたいの、今日はスペシャルゲストもいるのよ」
清乃さんの向いた先には、見覚えのある瘦身男性の姿があった。
「貴方はオーナーさん?」
「久しぶりだね。仕事には慣れたかな」
「まだ慣れないところはありますが…。でもいい仕事を紹介して頂いてた事には感謝してます」
「さて、この仕事を紹介するときに女性化に関して注意点をしたのは覚えてるかな?」
「はい。1日に何度も変身すると体を痛める、長時間変身してると戻りきれなくなるかもしれない
それから、長い期間…例えば1年以上この仕事をしてると普段の姿も女に近づいてしまう」
「で、そろそろリミットが近づいてくるわけね」
「えっ!?もう?」
清乃さんの爆弾発言に思わず驚いた。
「リミットが近いって…そんな…まだ4か月、時間はある筈じゃ?確か1年超すと危ないって」
「ああ。1年を超せば男としてかなり危ないが、人によっては早いと半年くらいで男性機能に
悪影響が出始めてくる可能性がある。リミットが怖いのなら少しでも早い撤退が良いだろう」
オーナーの発言にショックを受けた俺は体の力が抜けて座り込んだ。
「さて、そこで本題になるわけね。このまま女性化ロードを歩んでいくのが困るのならあと2か月のうちに
引き返し事を勧める。もう半年くらい見てもいいけど、その場合は男性として困った事が起こるかも」
「次の仕事が見つかるまでのつなぎでもいいだろう。その場合はリスクを考えつつなるべく早い決断をおススメする」
「今まで通り男性として生きるのもいいし、当然TS女として新たなセイを受けるのもいいわよね。
生きる方の生でもセクシャルな方の性でも」
「してやったりな顔はやめなさい」
「女として生きるのっていいわよぉ~。高級品も安価なものもあってオシャレはしやすいし
男の視線を楽しんでもいいし、密着型の下着は快適だし、カラダの感度も良好だし」
「コラコラ、悪魔の囁きみたいな誘惑はやめなさい」
「でも私の意見を言うと、TSによる幸福感や気持ちの良さを熱弁しちゃうでしょ?オーナーも知ってるじゃない」
「清乃君は一旦無視して、さて清恵さん。急げとは言わないが遠くないうちに君には進むべき道を決めて貰う」
「でも私、女になりたい清乃さんみたいな人とは違うんです」
「じゃあ、近いうちにやめちゃうのね?」
「えっええ…当然です」
「リミットが近いのに焦っておいて?」
「ええ、準備にも何かと時間かかりますし就活とかできてませんし」
「女の子に変身するのが、楽しくなってきたんじゃない?最近、女の子モードの方が楽しそうなくらいだもん」
「まぁ楽しさを全く感じてないわけじゃないですけど」
「別に自分の性別を変える事は恥ではない。ただし半端な意思や覚悟はNGだ!!男として生きてきた20年オーバーの
年月は軽いものでもないだろうからな」
「そうそう全っっっ然恥ずかしい事じゃないんだからね」
「茶化すなよ。今日のところはこれで終わりだ」
「オーナーからちょっとしたご褒美(?)があるわ」
「今後進むべき道を決めるのに男の感覚と女の感覚を比べたいというのなら下着の貸し出しを認めよう。あくまで私的利用に留めるように」
「ないと思うけど、失くしたり流出させたりしたらBADEND直行だからね?」
「君の進む道が何なのかは分からないが、良い道を選ぶんだ」
今日の清乃さんとオーナーの態度には考えさせられるものがあった。
見ないようにしていたが、女性化を楽しんでいる自分は確かに存在している。
清乃さんに言われるまでもなくその存在は分かっている。
そして女性化の自分が大きくなってきている事も理解している。
女の自分を確認した昨日今日で、決定的に大きくなっているのも本当は分かっている。
でも男としての、清彦の自分を捨てて変えてまで女性化する気があるかと聞かれれば多分NOだろう。
元に戻る事が出来るからこそ、女性化を楽しんでいる。今の自分はそんな感じだと思う。
でも、女の私は思っていた以上に自分にハマッているんだと思う。
この1日で女の自分に対する感覚がどれほど変わったのだろうか?
今日も明日も、同じレベルで清恵の自分に馴染んでしまうと進んでしまう道は一体何処になる?
清恵としての生活はどうにかうまくやれているが、それはあくまで一時的なお仕事だからだ。
メインが清彦、時々演じているサブが清恵。そして清彦は清恵にメインを譲る気はない。
だから何と言われようがこれ以上は進まないはずだ。
でも、清乃さんとオーナーは何故このタイミングでこの話をしたのだろうか?
そして何故、変身用下着を貸し出したのか?
あの二人には俺にも見えない、清彦の進む道が見えているのだろうか?
俺を待っている未来に少しの恐怖を感じた。だが、下着は置いていかずに持って帰った。
答えを出すリミットは残り2か月
あまり長い時間がないという事は知っていたけれど、ハッキリと期限を宣言されるとかなりキツイ。
1年オーバーがいきなり半年になってしまったという点でもそうだが、この数か月間時間の経過がとても速い。
最初の3か月は仕事に慣れる事で精一杯だから仕方がないかも知れないが先月はかなりマズかった。
新しい仕事を探さないだけでなく、仕事の時以外にも女性化下着を身に着けようとし、
女物の下着を見て楽しみ、ついでに清乃さんの用意してくれた据え膳にも手を出さない。
据え膳食わぬは男の恥?それとも男じゃない?
この仕事を長く続ける気はない。全くない。
当然、女になるなんてありえない話だ。成り行き上女性化した初期は当然だが、これは今も同じだ。
でも、辞める気配だってない。
辞表を叩きつけるどころか、これだけ考えてもまだ『今すぐ辞める』という選択肢が出ないほどその気配がない。
男の自分に苦労が多いのは知っているが、女になったら楽になるとは思っていない。
それを分かっているから安易に女性化を望んでないのだろう。
なら今の状態でいるのは単に一歩を踏み出す力がないという事だろうか。
本気なら後先考えずに店をやめるという選択もあるのだから。
今週の俺の性別はやはりどっちつかずのままという事だろう。
「そのワンピ可愛いですね清穂さん」
「今日は清乃が休みだからね。たまにはゆるふわの可愛い系の服を着てみたいのよ」
「清乃さんが休みじゃなきゃダメなんですか?」
「清乃と同系統の服だとどうも見劣りしちゃってね。差別化の為にミニのタイトが多いの」
「男の時ですら美人の清穂さんにもそんな悩みがあるんですね。清穂さんくらいだったら
何を身に着けても、どう振る舞っても人目を集める美人と持ってたんですけど」
「ハハ、ありがとね。ところで清恵ちゃんはたまには違ったの試してみない?いつも私が着てそうなのとか」
「顔は可愛い系だけど、ミニタイトとかちょっぴりセクシーなのに挑戦してみてもいいんじゃない?
せっかく女としてここにいるわけだし、いつもと違ったオシャレも女の楽しさよ?」
「いや、今は男ですよ?」
「ああ、君ってまだそんな感じなんだね」
「そんな感じって…どんな…あっ」
「もしまだ迷ってるのならお店が終わった後で相談に乗ってあげても良いわ。清乃より感覚が君に近いと思うから」
「ありがとうございます」
「あと、今日の服どうする?私のタイトを貸す?」
「嬉しいですけど悪い気が…」
「服がかぶらない方が嬉しいから、どちらかと言えばイメチェンしてくれた方が嬉しいかな?」
「それじゃあお借りしますね」
気合いを入れて、脚を通し女になる。
お腹に力を入れつつ十数秒の圧迫感や深い巻さえ耐えればもう大丈夫!!
ショーツの形状にそぐわない邪魔者は消え、清彦は清恵の姿になる。
下着の着替えが一番の大仕事と考えていたのは一体いつまでだったっけ?
長くても1分を余裕で切れる、この着替えが大変だっただなんて…昔の私ってポンコツすぎだね。
客が触ってばっかのスケベオヤジだった時に比べれば、あんなのどうだっていいレベルの負担なのに。
さて、清穂さんのミニスカか。
先輩の頼みだからって事で取り敢えずOKだしたけど、これはアリかな?
ぴっちりと、太ももやお尻、それに股間にフィットするスカートは履き心地良いかも。
それに、いつもと違う格好って悪くないね。ルーチンワークのダルさが薄れるかも。
元々、清乃さんに勧められたゆるふわワンピに慣れたからあの手の格好がデフォになってるってだけで
そういう恰好するのが好きってわけじゃないし。次回から少し違った格好に挑戦してもいいかも。
恰好がいつもと違ったおかげか、私の評判はいつもよりも良いようだった。
幸いにも私を隣に呼び寄せた人が、オヤジ系じゃなく意外と若い人ってのも良かった。
ただ、私の評判がいいって言っても清穂さんと比べたらなあ…。
まぁ可愛い系のワンピを着た清穂さんと比べたら月とスッポン、女装趣味とガチMtFくらい差がありそうだけど
…さすがにそれは言い過ぎか。
「たまには違う恰好にすると評判良いでしょ?」
「ええ。ありがとうございました」
「喜んでくれたら何より。でも本心は同系統の服の子がいて被るのがイヤっていうのが一番の理由よ」
「結構、したたかですね」
「多少図太くないと生きていくのは大変よ?ここでも他所でも、男でも女でも」
「そうかも知れませんね」
「「ところで」」
「すいません、清穂さんお願いします」
「清恵ちゃんからどうぞ。何を言いたかったのか興味あるし」
「大した事じゃないんですけど」
「うん?」
「このタイトスカートってどうしたのかなって」
「女ものの服は大概通販ね。男の姿の時はお店に行けないから通販で買ってたんだけど
いつしか女姿で日常過ごすようになっても、そこが気に入っちゃっててね」
「なるほど…」
なかなかいい情報かも
「でも、そういう意味で聞いたんじゃないんです」
「女性用の服の調達方法は初心者の良く聞く質問でしょ?他の質問ってどんなの?」
「今着てるワンピと子のスカートの2着をどうして持ってるのか…って意味です。先輩方って服は大概
自前じゃないですか?どうして2着も持ってるのかなぁって」
「清恵ちゃんって思った以上に初心者ね。でも私も初期の頃はそんなレベルだったっけね」
初心者とかそんなレベルとか言われても良くは分からなかった。
ただ、清穂さんに悪意がないとは言えレベル差を見せつけられたことに少しムッとした。
「少し人気のある子なら複数の服を用意するのが普通なのよ」
「みんな何着も持ってきてるんですか?」
「そうよ。他の娘の格好を見つつベストな服を決めるとか、お客さんの好みを憶えてそれに合わせた
服にするとか。途中で着替えてお色直し感覚っていうのも評判良いわよ」
「やっぱり清穂さんは先輩ですね。デキが良い」
「まぁ慣れよ慣れ…で、質問はもういいの?」
「はい。ありがとうございました」
「じゃあ今度は私の方ね」
「はい」
「悩んでるってのは主にこのお店を続けるかどうかって意味?」
「すいません、こんな良くして貰ってるのに」
「別に気にはしないわ…特殊な仕事だし無理と思うのなら早くやめるのが賢明よ」
「無理って事は無いんです。皆さん良い先輩ですし、お客さんはちょっと困った人いますけど労働条件も
いいですし、これ以上の職場がそうそうないかなって思ってるんですよ」
「褒めてもナニも出ないわ。っていうか男性が女になるのを考えたら少し無理って感じたらとっとと辞めるのが吉と思うわ」
「いや、皆さんも男…精神的な意味ですか」
「うん。清恵ちゃんは今の仕事には満足してるの?」
「勿論ですよ」
「先輩に気遣って平気な振り…っていうのなら絶対にやめてね。私含め女になった事を後悔されるのが
一番嫌だから、ダメならダメ、無理なら無理、出来ないなら諦める。いつもなら続けて欲しいって
言うけど今回に関しては、失うものの大きさ的に諦める事も大事な事よ」
「一生懸命相談に乗ってくれるのは嬉しいですけど、念を押しすぎじゃないですか?」
「そうかな?」
清穂さんはしばし考えた後に「そうね。そこまで気にするほどの事じゃないかも知れないわね」と訂正した。
その後清穂さんの経験を聞き、彼女も迷ってた時期がある事を聞き少し安心した。
昔から女性化願望のある人が多いのは事実だけど、急な女性化が怖くなる人とかも多く
私のように踏ん切りがつかない人は半数を超えるらしい。むしろ清乃さんが例外なくらい。
あの人って女性化や女性らしさに関して、退かぬ媚びる省みぬで、我がTSに一片の悔いもない人だし。
「じゃあ私って清穂さんや他の先輩と同じ道を進んでるだけって事ですか?」
「そこまでは分からないわ。少なくとも高校時代に自分の男の体が嫌だった私と同じ道と思うかと
聞かれれば違う気がするって答えよう」
「そうですよね。自分の性別に悩んだことなんてありませんでしたからね」
「ここを続けて失うものは男の性別、男としての自分」
「ですよね。あと、女になったら親しい人との関係で困るかも。身寄りのない私には関係ないですけど」
「哀しいこと言わないで、ちょっと涙出てくるじゃない」
「ごめんなさい」
「とにかく、男でいられなくなる…これがどれほど大きい損失になるのかをよく考えてから選びなさいな」
「はい」
「たまにエロオヤジはいるけれど、ここのお店はなかなか快適な労働環境」
「私も同じ意見です。働きやすい環境だし、お給料もなかなかいいし」
「最低賃金がある程度保証されてて、人気が出れば昇給のチャンスとお金的にはかなりいいわよね」
「そうなんですよねー。これで男性機能とかの副作用が出ないなら迷わず続けるんですけど」
清穂さんは「案外、現金な子ねー」と言いながら苦笑していた。
「続ける気がないのなら女ものの服を買う必要がないけど続けるのなら用意した方が良いわ」
「そうですね。あとでバタバタするのも嫌だし今日明日中にでも」
「そんな急ぐ必要ないと思うけど、続けることが決まってからでもいいんじゃないかな?」
「まぁ男に戻った時は必要ありませんからね」
「難しい質問だからかそんな役に立てなくてごめんね?」
「いえ、そんな事ないです。新人時代の清穂さんの事が分かって良かったです」
「答えが出た時、私が君を呼ぶ名は清彦君か清恵ちゃんか…どっちでしょうかね?」
「さようなら、ありがとうございました」
「今の話で疑問を感じなければもう道は決まってると思うんだけどな」
清穂さんが後ろでこう囁いていたのを知ったのはそれから1か月半が経った後だった。
現在4ヵ月と半月、リミットまであと1か月半
これから俺はどうすべきなのか、進むべき道が分からない。
いや、進むべきは元の清彦としての道なんだけれど、踏み出せないというのが正解かな?
あと、女として生きる道に魅力を感じてるというのもある。
ここ最近は女モードでいる事が多かったのでたまには男っぽい行動をしてみようと思う。
…まぁエロ動画の視聴くらいしか思いつかなかったんだけど。男らしいようならしくないような。
でも、最近そういう気分に慣れず久々な気もするから鑑賞してみようか。
モニターの向うにはほぼ裸の男女がいる。
今までなら、お気に入りのヤツだが今日はそこまで興奮はしない。
下半身はそれなりには反応するけれど、気持ち的な高揚感は大してない。
反応度合いも、本当にそれなりとかそこそこといったレベルで男優の人のように天を仰ぐような迫力はない。
でもこの女優じゃ仕方がないかな?
胸はそれなりに大きいだろうけど、形の良さや全体的な肌ツヤ…あと顔と正直私の方がよっぽどいい。
こんなんじゃ男優さんも大して楽しめないでしょ?彼もせっかく立派なモノがあるのに勿体ない。
清乃さんや清穂さんとは言わないでも、せめて私くらいの美しさがあったら…って私じゃなくって俺だ。
いや、女の状態なら私の方が正しいか。
AV女優とタメを張りつつ休日を終えた。リミットまであと1か月と1週間
この仕事を続ける気はないけれど、ここでの仕事も大分慣れた。
例えば女の服を着るのに抵抗はなくなったし、敬語ばかりでなく必要に応じて女っぽい口調も使えるようになった。
ブラも身に着けやすさ重視のスポブラより、雰囲気重視の後ろホックブラを好むようになったし、
スカートの扱いも慣れて、中身を見せてしまう事がほぼなくなった。
それからショーツをうまくずらし、女のままでのトイレも出来るようになっていた。
清乃さん曰く、まだ足りないところもあるけれど研修中のレベルは超えもうすぐ一人前くらいになったらしい。
それが私にとっていい事なのかどうかは分からないけど…とも付け加えたけど。
女の体でいる事に窮屈さのようなものはもう感じなくなっていた。
変身中は窮屈とか違和感があるとか言っていたことが懐かしいくらいだ。変身時の苦しさは未だにあるけど。
さて、仕事も終わったし帰ろうか。
明日は休みだし今日はのんびりできそうだ。先輩たちに挨拶をし、私は帰路についた。
女性化下着と貸し出し用衣装の持ち出しを許可されてから、時々女の姿で通勤するようになった。
最初はついうっかり元に戻らないままで…だったが最近は気がついてもそのまま帰る事もある。
女性化状態に慣れたのも一因だろう。
ほんの1・2か月前は一刻も早く男に戻りたかったというのに今では女の姿も自分の姿と化している。
体に負担がかかる危険があるから、仕事が終われば即男に戻るのが正しい。
が、それでも時々女のまま帰るのは着替えるのが面倒だからというのが一番の理由だろう。
下着を脱いで、服を一式着替えるのは地味に面倒だ。それに様々な理由が着替える気を萎えさせる。
例えば仕事前は気合いが入るし体力も余裕があるから着替える気になれる。
可愛かったりオシャレな服という点もテンションUPに繋がる。
対して、仕事終わりでやる気も体力も付きかけた時に一式着替える気はあまり起きない。
ましてやせっかくのオシャレを野暮ったいシャツや地味なコートに変えるだなんて余計にやる気が出ない。
…地味な普段着が嫌で女ものの服だからOKって事か?我ながらどういう理由だか。
女装趣味というべきかは微妙だが男物から女物に着替える時は楽しくて、逆に男物に着替える時はやる気が出ない。
この5か月の間、可愛いOr綺麗な服を選び続けたせいなのか女ものに抵抗がないどころか女物の方が自然なほどだ。
頻度自体は男物の方が多いけれど、何となくテキトーな男物を用意するのと用意された服の中から
なるべく良いものを選んでいた女服とじゃ意識に差が出来るのか。
女の人生を歩む気がない割に、女の服の方に馴染んでいる自分に少し嫌悪感を覚えた。
リミットまで1か月と3日
棒も玉も締め付けられて、胎内に押し戻され男の俺は今日も女の私に姿を変える。
3日ぶりの勤務だからか、今日はまた一段と気合が入る。
気合いが入ったせいか今日は無性に女の姿で通勤したくなった。
まぁ、前にも女姿通勤はあったんだけどね。
出勤前にはネット通販で女性用の衣服を見ていた。
ネットで服を見るのが半ば趣味と化していたが、女性のおしゃれも必要な仕事だし完全な趣味ではないだろう。
仕事の一環だよね。飽くまで。
ネット通販で女性用の服を買いたいという願望がないでもないが、着る機会がどれほどあるか分からないので却下。
短いと1か月で着なくなるし、なかなか高額なものだし通販サイトは見て楽しむ程度が良い気がする。
何より、お店で少し服くなった服を貰えたので暫く女性用の服には困らないだろう。
…ってこれじゃあ服が貰えなくって女性服不足なら自分で買っちゃうみたいじゃない。
足のサイズが合わないからパンプスを買ったのは仕方がない。オシャレ+スニーカーじゃ変だし。
破けたからストッキングを買ったのも仕方がない。予備含めて3枚買うのもギリギリあり。
でも、女性服を自分で買うのはやめておく。そこまでしちゃうともう戻れない気がするから。
でもお客さんになるべく可愛い服を着た私を見て欲しい気もするんだよね。
オヤジ相手でも可愛いって言われたら嬉しいもの。
今日の仕事はなかなか楽しかった。
こういうお店に不慣れな人中心だったからか、お触りはあまりされなかったしいやらしく不快な言動はほぼなかった。
珍しく私の方からボディタッチをしたけど喜んで貰えたかな?
いやらしさのない青年だったし、こういう人ならまた何度か来て欲しいな。
「あっ清乃さんどうしたんですか?」
「今日、ちょっと残って貰っていいかしら?話がしたいの」
「分かりました」
「ただ、今日は残業代つかないかも」
「珍しいですね。まぁ今までは仕事っぽくないけど仕事扱いだったしたまには仕方がないかな?」
「今日はいつもの事、清恵ちゃんの今後についての話じゃないの」
「えっ?」
今日でちょうどラスト1か月となった。
毎週のように清乃さんは私が続けるべきかどうかを話題にしていたので今日も絶対に来ると思っていた。
節目のラスト1月、結構長い時間相談してくれると期待半分、不安半分でいたのだけれど…。
一体どんな要件なんだろうか?
「ごめんね。清恵ちゃんの今後についてガッツリ相談に乗ってあげようって思ってたんだけど」
「珍しいですね。今日は絶対に来ると思ってたのに」
「期待してた?ならごめんね」
「少し残なんですけど、ならどんな要件があるんですか?」
「実はね」
「実は?」
「清穂…あの子が近々お店を辞めちゃうの」
「あんなに女性として輝いてる清穂さんが女をやめるって事ですか!?」
かなりの衝撃だった。
初めて女になった時には流石に敵わないものの、それ以外だったらこの5か月で最も驚いた瞬間だろう。
やっぱり無理してたんだろうか?っていうか清穂さんですら無理な仕事を私に出来るとは思えない。
女性化願望どころか、女物の服をここに来るまで身に着けた事のない人間が続けられる仕事じゃないんだ。
混乱しつつも一つの結論を出し決心が決まった。そう思ったのだけれど。
「そういうわけじゃないの…っていうかその逆なくらい」
「逆ってどういう事ですか?」
「寿退職だって」
コトブキ・タイショク?
一瞬、清乃さんの言っていた言葉の意味が分からなかったが少し考えて意味を理解できた。
「結婚?」
「羨ましいわよね。お店の成績じゃほぼ常に私の方が一歩先へ行ってたけど一番肝心な事はあの子が先だって」
「結婚なんて出来るものなんですか?」
「簡単には出来ないわよね。この女性化技術は表に出せないものだし」
「戸籍の問題もありますし」
「でも、一番難しくて一番肝心なのは相手を見つける事よね。これが本当に大変でとっても大事」
自分もお店をやめるかどうかで悩んでいた。
だから清穂さんも同じ理由だと思っていた。
でも実際はその逆だった。
この5か月で最も驚いた瞬間第2位はほんの数分で1位と差がないところまで迫っていた。
昨日の衝撃であの後はなかなか寝付けず、眠りについたのは午前7時くらいだった。
そのせいで、目が覚めたのは夕方の5時を過ぎたあたりだった。
昨日っていうか一応は今日か?(どうでもいい)
今日は休みなのだが、清穂さんにおめでとうを言いたかったのでお店に出向くことにした。
男の姿か女の姿かで悩んだけれど、女の姿の方が正装っぽいので下着の着用と全力の女装?を頑張った。
女性化下着だけでなく豊胸ブラもちゃんとつけるし、スーツっぽいタイトスカートも履いちゃえ。
ちょっと窮屈であんまり好きじゃないタイトだけど、男女両方から評判がいいし今日はコレだ。
でも、そう言えばメイク道具を何一つ持ってない!!
面倒と思っていたから化粧なんてたまにしかやらなかったし…。
最低限の使い方なら教わったし、簡単なメイク道具一式も買っちゃえ。
近所のドラッグストアの化粧品売り場へ赴き、お店で貸し出している者と似たものを選んだ。
大事なイベントだからか、化粧品を買う事に抵抗は感じなかった。ただ店員さんに尋ねる事までは出来なかった。
お世話になった清穂さんへの挨拶なんだし、可能な限りちゃんとした格好にしよう。
その思いが強かったのか、服の購入よりハードルの高そうな化粧品購入という壁を難なく乗り越えていた。
「お邪魔しま~す」
私以外にも清穂さんの挨拶に来た人がいたのか、お店の中にはかなり人が集まっていた。
殆どの人が女の姿で清穂さんを取り囲んでいたが、異様に気合の入れた格好なのは私と清乃さんくらいだ。
清乃さんはいつも格好に気合を入れてるけど。
ちょっと浮いた格好をしたのは恥ずかしかったけれど、清穂さんも今すぐやめるわけじゃなくって
数か月くらいお店の様子を見てから辞めるらしい。まだ彼女の顔を見れるのは嬉しかった。
それから話してる途中でノロケが入ったような会話になっていた。
彼の事は高校の時の友人で友人でいつつ密かに恋心を抱いていた事、
女性化下着の持ち出しを認められてからは女として彼に近づいた事、
いい感じになったけれど正体を隠すことに罪悪感を感じてもう限界と思った事、
泣きながら謝って破局を覚悟したがそれを受け入れてくれた事、
彼の事を喋る時は嬉しさのあまりいつものクールさからは考えられないくらい饒舌で、
クールビューティなイメージを忘れそうなくらい可愛らしかった。
一瞬だけウェディングドレスの清穂さんの姿を想像し、『いいな』と思った。
きっと清穂さんなら可愛いお嫁さんになれるだろう。
そんな彼女を想像し、私も可愛いお嫁さんになれるんだろうか?なんて思った。
…なってどうするという気もするけど。
先週、急いでいたとはいえ自発的に化粧品を買ってしまった。
自分の意思で女性用の服を買ってしまったらもう後戻りは出来ないだろう。
などと思っていたらそれ以上の事をあっさりやってしまうとは…。
化粧品なんて買ってしまったら、精神的なカベ理由で買えないものなんてないような気がする。
ああ、生理用品と婦人薬があったか。この2つはそもそも必要なさそうだけど。
ただ、なし崩し的に買ったからなのか後戻りが出来なくなるほどの変化が起きたという事は無かった。
女の時は清恵として、なるべく可愛く振る舞い。男の時は清彦として何気なく過ごす。
ただ、ネット通販で女ものの服を買う事に抵抗はなくなった。というか1回買った。
少しずつ、歩んでいる道は女サイドによっているのは間違いない。
ただ中身が女になったのかと言われるとやっぱり違うと思う。
やっぱり今の自分は女を演じている男というのが適切だろう。
男と甘い日々を過ごしてその彼との結婚をずっと望んでいた清恵さんと自分とは違う。
男の体でいるのが苦痛だとか違和感があるというわけじゃないし。…あっ最近は違和感がちょくちょくあったか。
でも、やっぱり自分が清恵さんと同類とは全く思えない。これからの人生を女として過ごしたいとは思わない。
ただ、幸せそうに笑う清恵さんみたくなって見たいと思う事はあるけど。
リミットは近い。
そろそろ決断しないと。
やっぱりここをやめて男として生きよう。
迷い続けていた俺だったけれど、残り2週間の時点でようやく答えを出す事が出来た。
ホント言うと答え自体は決まってたけど、初めてちゃんと言おうと思ったが正解か。
自分が女になるなんてありえない事だとは最初から分かっていたんだし。
だから今日という今日はやめますと言おう。
リミットとして言われていた再来週より少しは早い。きっと辞め時だ。
自前のメイク道具を買ったのは少し勿体ないが、面倒な日々の化粧をするのも割と嫌だし仕方がない。
あと2週間で、話の流れ次第ではもう少し早いうちに最後の勤務となる。
シフト次第じゃ今日が最後という可能性も捨てきれない。
いつ最後になるかも分からないし今までで一番気合を入れて、
今までで一番可愛く、女らしく振舞いお客さんや先輩方に認めて貰えるくらいいい女になろう。
出発前には可能な限り念入りにお化粧して、服はどうしようかな?
貰ったやつは悪くないけどちょっとくたびれてる気もするし、お気に入りをいくつか見繕いつつ
貸し出しているのものも有効に活用しよう。取り敢えずこれをキープしつつお店に並んでるの次第のコーデね。
…っていけねいいけない。まずは女にならなきゃ始まらないね。
股間のものが押し込められ、最後は消えて無くなるこの感触、本来は決して気持ちのいいものじゃないけれど
もうすぐお終いと思うと自然と不快感は無く、今回は心地よさも感じた。
最後かも知れない入店を終え、まずマネージャーさんに挨拶をした。
そして控室に入り、清穂さんに声をかけた。
そして、清乃さんに言うんだ。私も近いうちにやめますって。
あのっ…清乃さん。
この一言が、肝心な時の肝心な言葉って案外でないものだよね?
そして、言えずにいた私に対し清乃さんの方が声をかけてきた。
「清恵ちゃん?少しお願い良いかな?」
「はい?」
何かと思いつつも、話を切り出すチャンスなのである意味ラッキーかな?
「これは飽くまでお願いね?無理なら無理ってダメならダメ言ってくれてもいいから。
まぁ出来れば聞いて欲しいお願いではあるんだけど」
お願いする清乃さんは歯切れが悪い。
以前に同じような事を言った清穂さんと比べても歯切れがいい筈の彼女らしくない。
「お世話になった清乃さんのお願いですからね。出来るだけ頑張りはしますよ?」
「そう言ってくれると嬉しいな。それじゃあ言うね?」
「はい」
「もし、もしもだよ?」
「もぅ。前置きはいいですって」
「ごめんごめん。清恵ちゃんはここを続ける気がある?」
キタ!!千載一遇のチャンス
「もしここを続ける気があったら、もしくはまだ答えが出てなかったらでいいんだ」
「はい?」
あれっ、流れが変わった?
「もう少しだけ、ここを続けてはくれない?その気アリ、もしくはまだ迷っていたら」
「どういう事ですか?」
思いもよらぬ質問で頭の中が一瞬にして真っ白になった。
「清穂、あの子の結婚は知ってるよね?」
「ええ。今日は出勤よりもお祝いがメインの心算出来たくらいです」
「そして寿退職、まぁ新妻がこんな仕事するのもマズいものね」
「そりゃあマズいですよね」
「それで、あの子が抜けると人数的に不安なのよね。出勤数も多いしシフトの変更に協力的だし」
そりゃあ彼女をよく見るわけだ。やっぱり優しいな清穂さん
「いい加減に円満退職させてあげたいじゃない?早くお嫁に行きたいが口癖にあの子に、
かれこれ人数が集まらなくってもう2ヵ月も待たせてるの、だからもう少しだけ、仮に
ここをやめる気でももう少しだけでいいからここにいてくれない?」
「清乃?無理強いしちゃ悪いでしょ?」
「あんたの結婚に悪影響出したらもっと悪いでしょ?」
「簡単に悪影響は出ないから、それよりもまだ道を決めてない清恵ちゃんの道を勝手に決めるマネは駄目!!
清恵ちゃん、いえ清彦君?辞める辞めないはアナタの都合と気持ちが一番だからね?」
話ずらい空気だ…でも口を開かないわけにはいかない。
「その件なんですが、実は今日言おうと思っていたことがあるんです…実は」
ここで働き始めてから、今日で丁度半年になる。
最初期は、女として過ごす日々が続くとは思わないだろうし今日のお別れ会も予想は出来ないだろう。
私は清穂さんにお別れの言葉と餞別を渡し、そして彼女を見送った。
私はもう暫くこのお店に残り、清穂さんを見送る立場になった。
人間には進むべき道がいくつかあり、人生にはその道の内を選ぶイベントが何回もあるものだと思う。私の人生観だ。
この場合の私は、ここに残る女の道とここをやめる男の道があり、さらにそれぞれの道が細かく分岐している。
私はあの日、男の道を選ぶ筈だった。しかしあの時私が言ったのはその道とは違うものだった。
「実は、私まだどうするかが全然決まってないんです。こころ辞めるどころかまずやるべき事、就活すら
まともにできてないくらいなんですよ。かといって女性として生きる決心って大変じゃないですか?
私、女性としての生活って全然してないですし、だから暫く、もう暫くはここに残ります!!」
清穂さんが安心して念願だった夢を叶えられるように、俺がどっちつかずな態度をとっていた時
既に決断していた彼女の思いが実るように。私は道化と女を演じた。
自画自賛みたいだが、この時の私はこの数か月で一番男らしかったと思う。
決断というものは意志が必要だが、同時にその意思を支える状況がないとダメだと思う。
『勢いでああいったけど本当は辞める気でした』
ほとぼりが冷めてからそう言えばいいだけの話だから。
決断力のない俺がモノを決断できるのは稀なんだろう。清穂さんを気遣った嘘、それで少ない決断力を使い切ったようだ。
男の道と女の道、心の中では男の道だっはたずが結局選べず流されるように女の道へ。
そして今もまた分帰路に戻る事もせず、流されるようにこのお店で働き続けている。
でも不思議と心の中は晴れ晴れとしている。一切の曇りがないような感じすらする。
これからの人生も決断できずにいそうだけど、それでもいい人生だと思えそうな自分がいる。
現にあれから2年もここで働き続け、ここでの仕事を結構楽しんでいるんだから。
「うっ…くうっぅ♥」
ショーツを履く時が一番幸せかも知れない。
股間が締め付けられ押し込まれる。逆にお腹の中はグルグルして膨張するような感覚に襲われる。
慣れてきたが苦しくて、気持ち悪くなって、そして痛みもある。
それらの三苦痛を乗り越え『私』は『私』を取り戻せる。
苦しみよりも女の姿になるこの幸せは何物にも代えがたい。
「やっぱりまだ苦しいなぁ」
女体化時に起こる不快感には未だに慣れないって顔をしてるな清菜ちゃん。
一番きついのが変身時だとしても、変身後が楽というわけではないからね。分かるわ。
でも今は女になって、女として男の相手をしないといけないんだよ。
「ホラホラ清菜ちゃん、急な変身は苦しいでしょうけど景気の悪い顔はしちゃダメよ」
「清恵さん。おはようございます」
「おはよう、清菜ちゃん」
「下着姿の清恵さんって私がドキッとするくらい色っぽいですね」
「アハハ、ありがとね」
「清恵さんっていつも楽しそうですよね」
女としてのお相手業務がキツイと思っていた時期ですら悪くないと思っている。
女性になれる喜びを覚えた今ならここでの仕事がどれほど楽しいことやら。
「そうねー。女の体を手に入れたっていうのは念願叶って嬉しいわ、まだ借り物のだけど」
「やっぱり。私も女性の体になる幸せ嚙み締めてます。苦しい事も多いけど」
「最初の頃の変身って私も苦しんでたわ」
「ですねー。でもこんな苦しい変身を平気そうにこなす清恵さんって凄いんですね。女性化への欲求っていうか
意志とか決断力みたいなの。きっとここが天職なんですね」
「ありがとねー、。でも、私の中の女の性を売り物にするのって本当は好きじゃないの。女にして貰った恩があるから
ここで働いてるっていうのが強いわ。一番なりたい職業は専業でも兼業でもいいから断然主婦だもの」
「分かります。将来の夢お嫁さんって書きたいけど書けなかったクチですね清恵さんも」
昔の私と違って自然に発せられる女の言葉と仕草、そして全身から放たれるお色気。
新人に限ればお店の中で上位だ。清菜ちゃんくらいの魅力があればすぐ新人を卒業できるわ。
ある意味でキャリアは長いみたいだし。でもいい女対決だったら私も負けないんだからね♪