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私立TS(東部双子葉)学園F組 後編

2017/08/02 08:06:14
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7月の試験 男性機能チェック

「月岡さーん。月岡渚さーん」
「…はい」
保健の清香先生に呼ばれて、保健室の中へ移動する。
このやり取りももう4回目で、恒例行事と感じるようになった。
7月は試験開始が早くて前回から2週間しか経ってないし。

前回の赤点がショックでモチベーションが上がらないからか学力テストの点数はそんなに良くない。
平均点が前回より高いというのに、前回より出来が悪い。
一応ボーダーラインとされる6割はとれたものの、足を引っ張るであろう男性機能テストを補う点数じゃない。
っていうか体力テストの出来を考えれば6割を切ってるくらいの出来かも。


一応、この時点で赤点ラインを超えてはいるけれど、結局は男性機能チェックの点数だけでも赤点になりうる。
だから今日が僕の男子最後の日という可能性もある。
一人称を僕と出来るのも、休日なら男の格好になって男子トイレ使うのも、男の子パンツを履けるのも、
いつが最後になるのか分からない。しかも、この3つなんてここ最近ほぼ全くしていない。
女の子らしい行動がすっかり体に染みついてしまった私…じゃなくって僕。
そういえば最後に射精したのは前回の試験の時だった。アレは射精かどうか怪しいレベルだけど。

前回は間違って日記に、射精も最後になるかもなんて書いてしまったけれど今回はそれが現実に起こりうる。
悪いように考えすぎだ…。



スカートをまくり、ショーツをずらす。
先月(というか先々週)は合格する気、満々でスカートやショーツともお別れかな?なんて名残惜しかった。
今回は女の子生活とお別れするかも?どころか寧ろ男の子としての自分にお別れする恐れすらある。
合格する自信がないし、赤点をまたとるかも知れないし。連続赤点は男性失格女性化コース直行だし。

ショーツの中に包まれたソレはやはり小ぶりで力強さはあまりない。
元々体つきや体のパーツ自体が小さいわた…僕だけど、ソコの大きさは更に小さい。
こうやって自分の体を見てみるとF組送りは妥当な扱いな気がしてくる。
そしてショーツの中のソレなんてもともと少なかった男らしさが更に消えたし。

画面に映っている男性と自分の体を見比べてみる。
小柄な体と、力のない手足、狭い肩幅と低い身長と画面の彼とはかなり違う。
正直同じ性別とは思えないくらいに違う。
ぼかしが入っていてはっきりとは分からないけれど、下半身のとある部分も大きさとか全く違う。
大きく膨張するそれと、なかなか大きくもならないコレと同じものと呼んでも良いんだろうか?
もう自分の居場所は中間ラインを超え、女性寄りになってしまったのではないのか?そう思ってしまう。


実際、胸はないけど女の人の方がまだ近い気すらするもん。
まだ若いからか肌のツヤや質は女優さんと比べても良いと思うくらいだし。ウエストの細さなら少し自信があるし。
だいたい彼の方がこんなに大きくしてて嫌そうな顔をするって何ごとなの?
女の人の裸に反応して、挙句大きくするのってなかなか大変なんだよ?
生まれた時が男だとして全員が全員出来るような事じゃないんだよ?
そもそも、相手が自分の体に興奮してくれたなんて喜ばしい事に決まってるのに!!
もし、僕が彼女の代わりにこの場にいたらもっとうまくできる筈なのに…。勿体ない。

…なんだかテンション、っていうか思考がおかしい。
男性を立てる女性の生き方や考え方がすっかり身についてしまったのかも?

試験はもう始まっているというのに、女性の方に感情移入して動画を見るあたり僕はもう私になりきったのかも知れない。
いっそ開き直って思いっきり女性の方に感情移入してみようかな?さっきから少しドキドキだし。



彼と同系統の膨らみがあった股間ももう今は昔、今ではすっかり逆の形状に変わってしまった。
少し懐かしいそれは、自分の体にあったアレとは形状自体は同じだが実際はかなり違う。
逞しさや立派さも当然違うが、私の体についてたアレは勃起も射精もイマイチで男性としての役割をうまくこなせなかった。
だから、彼のコレは男だった時の私のと比べても異性の性器と言えば異性の性器だ。


そして彼の男性器を私は受け入れる。
女になって、愛しい人を受け入れる為に作った私の女性器で。
挿入されて、上下に動かれて、昔の自分の体を思いつつ男性として成長した彼を想い悦に入る。結構幸せかな。
画面の彼女は苦しそうだけど、私ならもっと喜んでいい顔を見せてあげられるのに?

女として男性に求められることで幸せを感じ、彼のを受け入れる。
女としての階段を上る私…。いいかも、このシチュエーションって。
「アんっ♥」
ちょっぴり女の子っぽい嬌声が漏れ出ちゃうね♥


「月岡君、今回は上出来でしたよ?」
ヒートアップしていた私だったが、清香先生の呼びかけでハッと現実に戻る。
男性機能テストで女性になりきるとか完璧に終わったね。
でも、まぁ女性的なナニカになりきれれば不幸ではない…かな?
って月岡君?
先生から男の子っぽい呼ばれ方なんてされた事ないよ?少なくとも保健室では。
基本的に先生から君付けされるのは男性能力が高いと認められた時だけ。
テストの点数が良ければ月岡君呼びはあり得るけど、男性機能テスト後に使われる呼ばれ方じゃない。
今回も不合格でタイムアップとかじゃないの?




7月の結果発表

まず最初に、男性機能テストの出来は予想以上に良かった。
124/200と過去4回で最高の点数を叩き出した。
今までで一番性的興奮を感じ、勃起や射精機能が認められたそうな。文面にすると凄く生々しい。

出てきた精液の量がなかなか多かった点と、開始から射精にかかった時間が5分以下で加点対象になったのが効いたらしい。
途中で女性っぽい嬌声が漏れ出たのが減点になったらしいが、それでもトータルで見ればいい点数だった。
今までで最高点だった5月ですら91点と考えると明らかに高いのが分かる。

残念だったのが、この結果が予想外に良すぎたせいでまたしてもギリギリ足りないと残念な結果に終わった事だ。
合計で299点!!あと1点でF組を卒業し普通に男性としてのセイを歩めただけに惜しい気がする。


とは言え、内容を考えると手放しで喜べるようなものとは到底思えない。
久々にエッチな気分になってエッチな反応をしたのが、男性に抱かれる女性と自分を重ね合わせた時だ。
点数自体は良かったとはいえ本当の中身は、男らしいものとは真逆である。
とは言え、事実を喋って赤点になろうとは思ってないんだけど。
気になる点はあるものの、これで僕に男性フラグが立った。
女性化薬の効果が薄まり、テスト対策に時間が取れる夏休み明けは合格のチャンスだから。




終業式の他にF組特有の修了式があります。ええ、終了ですとも

7月は半分ちょっとで学校を終え、夏休みに入る。
私立中学だとそうでないところもあるみたいだけど、ウチの中学も半分ちょっとで1学期を終える。
今日は終業式だ。全校生徒が集まる集会は男子せーとのスカート姿をさらすような感じで
F組の皆には嫌われるが、夏休み直前の全校生と集合ならそんなに嫌ではない。
晒し者の嫌さより夏休みの嬉しさが圧倒的に勝る!!私だけでなく、割とみんなそうだ。

ちょっと居心地は悪いものの特に問題なく終業式を終える事が出来た。
…がF組にとってはここからが本番かも知れない。
例えば、お別れ会を開く日数がないのでこの後でお別れ会が行われる。

お別れ会よりも、合格した人は早く通常クラスへの顔出しを済ませてスムーズな復帰に専念した方が良い気もする。
だけど、旅立つ4人(と連続赤点の2人)はこのクラスのお別れを優先してくれたようだ。F組の一員としては嬉しい。
ただ、4人が新しいクラスに馴染めるかどうかも少し心配なんだけどね。
男子生徒としての新しいクラスをもう少し優先した方が良いんじゃないのって思う。
ただ、もう一つの理由に顔出しするのは女性化薬の効果が抜けた夏明けの方が良い!!
って話を聞いて納得した。なるべく男らしい姿を見せた方が後々クラスの立ち位置が良くなりそうだし。
通常クラスで女性化教育の成果とか出たらかなり恥ずかしいだろうし。


見事に旅立つことの出来た4人に拍手を!!…って思ったら藍川蜜葉さんが突然の女性化宣言だ。
彼は顔立ちや体型こそ女らしいものの、性格が男っぽい人って思っていただけになんかショック。
双葉さんの件以来、合格を蹴って女の道を選ぶ事への違和感や嫌悪感は薄れた筈だけど未だになんかショックだ。
というサプライズがあったものの、お別れ会は無事に済み解散となった。
…が一部の生徒はこの後も残って修了式を受けなければいけないらしい。

連続赤点でFが確定した4人に合格した上で女の子を選んだ、双葉さん、小倉さん、藍川さんは
この後で修了式が行われる。『1年の終わりに行われる修了式が夏休み前って不思議ですね~、ナニが終了かな?』
なんて言った先生が白々しい。というより、修了式で大体意味や内容が通じるのがなんかイヤだ。
様子が気になってはいるけれど、修了式は該当者以外参加厳禁らしい。(漢字的には終了式かな?)
だからどうしても参加したい、様子を見たい子は特別なF組生徒にならなければいけない。
私にはその気もその覚悟もないので、残念ながら修了式を見る事が出来なかった。
3人はともかく、赤点組の4人はこの後で大変な目に合わない事を祈りたい。
来期は我が身かも知れないし…。でも森永さんは女性化OKだったっけ。
とにかく、残り3人にはなるべく平穏で幸せな、女性化・女の子生活を送って欲しいと思う。
明日は我が身だからというのもあるが、仲間が無理矢理というのはどうも忍びない。


余談、F組の通信簿には別冊として女性化・女性らしさの項目のある別紙がある。
私は別紙の成績がかなり良かったみたい。やったね(少し哀しい)




夏休みの初日は近所のプールに行くのが昔からの習慣なのに…

基本的に、夏休みの宿題は前半で頑張る方だけど初日だけは思いっきり羽を伸ばしたい。
だから基本的に夏休み初日はプールで思いっきり楽しむと決めている。
近所にある市営のプールは流れるプールやスライダーもあって中学生以下200円だから
子供の味方で、夏のお楽しみだ。これが本当の夏休みの友だと思う。
ただ今年はあのプールを使いにくいよね。

女性化薬で胸が膨らんでお尻が大きくなってきたから使えないというのはあるけれど、
考えてみたらもっと大きな問題が結構ある事に気がついてしまった。
男の子としてプールに来たのに膨らみかけた胸は当然危ない。
ただそれ以上に自分の胸を人前で出すのが恥ずかしくってしょうがない。
…元々人前で上半身裸にならないといけない事を恥ずかしいとは思っていたよ?
でもF組で女の子用の水着で胸をちゃんと隠せることに慣れてしまうともう戻れない。

人前で、しかも男の子どころか大人の男性がいる中で胸をさらけ出すなんてとてもじゃないけど出来っこない。
今になって思うと、いくら楽しいとは言え大勢の人が集まる中で胸をさらけ出すような格好でよく我慢できたよね。
去年まで。去年は今ほど裸を見られる恥ずかしさが無かったっけ?
うーん。男の子だった頃の感覚が分からなくなってきた。
いや、今も男と言えば男の筈だけど…。


ってあそこのプールじゃ女子トイレも使えないじゃない!!
男子トイレで、隣に男の人がいるかも知れないような状態で立ってオシッコとか罰ゲームに
してはハード過ぎない?女の人になら見られても平気というわけじゃないけど…。
だったら女子トイレを使った方がまだ安心できるかな?
男子トイレは暫く使ってないけど女子トイレは平日なら毎日使ってるし。
でも自分の安心と周りが許容できるかどうかは別問題だよね。
思いっきり男装して、トイレに行くときはTシャツでも羽織れば何とかなる…のかな?

あと、男子更衣室使っても大丈夫なの?覗き扱いにならない?
仕切りに囲まれたスペースあるけど隣で男の人が着替えている中で脱ぐのって抵抗あるよ。
毎年使ってた場所だけど、今はいるとすると凄くイケナイコトをしているような気もする。
想像の中の私の反応が一々女の子でつい噴き出した。

流石は、思考と反応の女の子らしさでS判定取っただけの事はあるよね。


あと、後日分かった事だけどF組卒業生は当然の事、F組生徒の割と男の子らしいメンバーは
ごく普通に男子更衣室で海パン姿になってプールを楽しんでいたそうだ。
人前で胸を出すとか平気だなんてすごい。っていうか男子トイレを使うのに抵抗を感じないF組生徒いるんだ。


「そんなわけでゴメンね双葉さん、今年は一緒にプール無理みたい」
『うーん、残念だけど渚ちゃんはまだこっちの人じゃないのね。仕方がないけど了解』
折角今年も双葉さん(去年までは篠宮くんって呼んでたけど)から誘われたのに断るのは少し心苦しい。

『聡明くんも渚ちゃんの参加を楽しみにしてただけにお断り報告はちょっとしにくいね』
「ホントゴメンね!!」
『まぁ誘った時から男の子としての参加か女の子としての参加どっちかをしなきゃいけないっていう
意外と高いハードルがあるのは知ってたからね、しょうがないよ』
「高校生になっても友達でいれたらまた誘ってね」
『君なら歓迎だよ、渚ちゃんでも…モチロン渚くんでも』

残念だけど、双葉さんや聡明くんの誘い断っちゃったな…。
というか双葉さんて女の子としてプールに行けるってスゴイね。
恵一くんの男の子参加も凄いけど。いや、彼はもう合格して昨日から男の子だったか。


いつものプールに、親しい友達と一緒に行く。当たり前の幸せはどうやら今年は無理みたい。
仕方がないので学校のプールを利用する事にした。幸いにも水泳部は専用プールがあるので授業用プールは使用可だ。
学校へ行き、スカートを捲っていつもの女子トイレを使う。
教室でも良かったけれど、やっぱりいつもの女子更衣室が一番落ち着いて着替えられる。
やっぱり使うのなら、ここのトイレと更衣室だよね。
あとセーラー服+スカート。




禁断症状…っていうか禁男症状?

7月もあと少しで終わる。
9月のテストの事もあるので今年の宿題や勉強の手はいつもより手早く動く。
だから夏休みも長いが宿題の残りは早くも終点が少し見えてくるレベルだ。
いつものプールが実質使えないというのも、宿題が片付く理由かな?
男の子用の水着とか男子トイレを使わなきゃいけないとか恥ずかしいし。

そんなわけで『夏休みの強敵』の処置は過去一番の絶好調だ。
ただ、全部が全部絶好調というわけではない。どうもここ数日、体に違和感を感じる。
自分がまだ男の体でいる事に違和感を感じたってわけじゃないよ?少なくとも今は。
どうも、体が火照るとかダルイとかそんな感じ。あとたまに妙に汗が出るとか。
最初は暑くても(近場の方の)プールに行けないから暑くてバテたんだ。って思ったけどそうでもないっぽい。
涼しい図書館に行っても体の違和感は治らないし。
あと、図書館ではちょっと頑張って男子トイレ使いました。小を個室でだけど。

体の不調についていろいろと考えた結果、ホルモンバランスの乱れが原因という可能性に行きついた。
保健の時間で習った、男性ホルモンと女性ホルモンのバランスが急激に変化した場合の不調に似てた。
…って事は女性ホルモンの急激な減少がダルさの原因なのかな?

余談、昔は禁断症状を禁男症状って謎の間違いをしてた。あと生理整頓も。ある意味で才能のある誤字だよね。




こうして長い1日が始まった。始まった?

体の具合をどうにかする為に学校へ保健室へ行くことにした。
原因はホルモンバランスの乱れ、定期的に女性化薬を注射されてたけど今回はなかったから
その変化で体の具合がおかしくなったのだと思った。だからお医者さんより保健室という発想になった。
こういう悩みに関してなら清香先生の方が専門っぽので。あと、医者へ行って変に騒ぎにでもなったら困るし。

ひょっとするとF組は医者の間じゃ有名かも知れないけど、それでも慣れないお医者の前で
裸になるのは恥ずかしいので極力行きたくはない。もし男性医なら恥ずかしさは倍増しそうだし。
…仮にそのお医者に見て貰うとしてその時はブラ付けてたら変って思われるかな?
この体だとブラがない方が違和感?医者に偏と思われない格好ってどんなのなの?

ちゃんと女子用制服とブラも含めた女の子の下着で正解と分かる学校施設が最強という結論に至った。
というか女装外出は騒ぎになったら困るし、男装外出も変な格好な気がするし。
ボーイッシュな女の子みたいな服で通せる場面意外、私服にも苦労するね。
実はセーラー服って使い勝手良いんだね。外出時の格好で迷ったらコレにしよう。

うーん。昔はスカートが恥ずかしかった筈だけど、今は男の子の服の方がいけない事してる気になってる。
男の子みたいな私服の女の子なんてザラなはずなのに、男っぽい格好が変って感じてる。…慣れって怖い。




今度こそ長い1日が始まった

電話1本のアポで診察OKだから保健室の診断は安心して出来る。
体の変化に混乱した時、ホルモンバランスの乱れによる不調、男の体に違和感を感じた時など
ウチの保健室は特定の分野において大変に頼りになる場所だ。可愛いランジェリーの入手に関しても相談OKだそうで。
こんな時は保健室へ!!の具体例にツッコミを入れてた時期もあるけど今ではありがたいとしか思わなくなっている。
普段は男性落第生徒として扱われ、基本的に不遇なF組だけど体のケアに関してはこのように手厚い。
通常クラスでもこれらの悩みがあるのなら利用はOKだけどこういった来客は基本F組だけ。まぁそうだよね。
運がいいのか、今日はまだ予約が入っていないのでこのまま学校へ向かった。

ただいまの時刻は10時18分、お昼前には帰れそうだ。
少しプールにでも入りたい気もするが今日の目的はあくまで診察、あと場合によってはお薬の投与だ。
遊ぶのは後日にしよう。一応、水着は持ってきたけど。

「失礼します」
投与に試験に、もうすっかり慣れたいつもの保健室だけど、診察を受けるのは初めてだ。
何だか緊張するなあ。でも相手が清香先生だし医者に行くのと比べれば大分マシかな?



「月岡さーん。月岡渚さーん…なんてね」
「ごく普通の呼びかけですけど、なんかイヤなイメージしかないですね」
「例の検定意識した呼び方だもんね♪」
「えっと普通に診察してくれますよね?」
「それで、体が火照ったりだるかったりするのね?ホルモンバランスの変化による体の不調と
症状が一致するから診察を頼んだと」
「はい」
たまに(実は頻繁に?)おかしなテンションになる清香先生だが流石はウチの保健の先生だ。
診察そのものはしっかりとしている。
熱心過ぎて途中でスリーサイズと肌質を調べたのは熱心過ぎて少し気になるが、でも頼りになる。

「でも偉いじゃない、渚くんは。不調の内容はホルモンバランスの乱れと一致、ちゃんと保健を勉強してるのね」
「えっ!!それほど…でも?」
「それとも簡単すぎかな?最重要項目でもあるしね」
「そうですね、F組用の夏休みのしおりに書いてあったし簡単に思い付きはします」
こんな時は医者科保健室へ相談をの一覧とか変なところで一々手厚いのがF組だ。


「そうね、問診の結果から考えてホルモンバランスの乱れの可能性が高そうね、念の為に血液検査をして
ホルモンバランスを調べておけばもう少しハッキリ分かるけど、どうする?」
「痛いのはちょっとヤだけどお願いします…でも検査結果ってすぐ出るものなんですか?数日かかりそう」
「エストラジオールやテストステロン、ほんの数項目なら数十分くらいでできるわ」
取り敢えず採決と検査をお願いすることにした。




長い一日はまだまだこれから

「結論だけ言えばやっぱりホルモンの変化による副作用ね、女性化薬で高くなっていたエストラジオール、
女性ホルモンの値が先月より大きく下がったからそのギャップに体がついていけなくて悲鳴を上げたって所ね」
「やっぱりですか。治すにはまた女性化薬を注射するとか?」
「それか女性化薬の効果が切れて、男の子の体に戻るかのどちらかね」
「うーん、やっぱり女性化薬を打つのが解決なんですね、でも暫く待てば女性化薬の効果が…切れるかな?」
「時間はかかるでしょうけどね」
「あっ、でもこのひと月で女性ホルモン値が大きくが下がったって事は調子がいいって事ですよね?」
少し落ち込んでたけど、つまりはこの半月でかなり男らしくなったって事だよね?
私、いやもう僕だ!!僕には実は意外と素質があるのかも!!

「うーん△…かな?」
「えーっ」
「女性ホルモン値が大きく下がったけれど、それは先月までで大きく上昇していたからなの。
篠宮さん、森永さんに次ぐ第3位の数値だったからこその下がり幅で、体調不良ね」
「残念」
私には見ての通り、当然のように素質があるようだ。


「肝心なのはこの先よ?F組生徒には本数制限があるけど、夏休み中も女性化薬を受ける事が出来るわ」
「双葉さんとか森永さんとか、女の子になりきっちゃった子の為に?」
「あとは君のように、女性化薬の禁断症状を感じている子の為にね」

「うーん」
崩れたホルモンバランスをどうにかしたいけど、それって結局女性化薬を使うって事だよね?
せっかくこの夏休みで男らしい体を取り返そうと思ってたのに、注射なんてねえ。

「例えば、今回はいつもの3/4の量を次は半分だけっていう風に段階を追って女性化薬を
減らすっていう手も選べるわよ?そうすれば体の負担を減らしつつ、女性化薬の量も減らせる。
まぁ夏休みが終わるとまたいつものが始まっちゃうけどね」
「両方のいいとこどりのような気もしますね。ソレって」
「女性化薬をゼロにするの代案みたいなものだしね。注射をする、しない、減らす好きなのを選んでね」
「ホント迷う選択ですよね」
「男らしさから離れてでも苦しみから遠ざかる為に注射をしてもいいし、急な変化で負担をかけてでも
男っぽい体を目指してもいい。その間の道を選ぶのも悪くない。人生は選択の繰り返しよ?」
時々変なテンションになるけれど、この真面目そうな解答と、少し物悲しそうな語り掛けこそ
清香先生らしい。そしてこの感じって結構好きだったりする。私もこんな大人になりたいって思うくらい。
大人の女性の清香先生みたくなりたいって、いうと変な意味(TS的な意味ともいう)に取られやすいけど
別にそんな意図はない。ただ素敵な大人としてこうなりたいと思っているだけ。


「月岡さんの場合、女性化薬が抜けやすいけどそれ以上に効きやすいから少し投与をやめると苦しくなりやすい
のね。他の子はここまでホルモン値が変わらないからこの時期に禁断症状が出る事はまずないの」
「ええ。分かってますよどうせ私は女性化薬が効きやすい男らしくない体質ですよ」
「そういう意味で言ったんじゃないんだけど?不快にさせたのなら取り敢えず謝っておくわ」
「えっ?じゃあどういう意味で?」

「性ホルモンの変化幅が広いって感じね、女性化薬を投与した場合の女性ホルモン上昇度は
さっきも言ったけどクラス内でも高水準、でも薬が無くなた時の下がり幅も大きい」
「熱しやすく冷めやすいって感じですね。つまりこの1か月我慢すれば男らしさを取り戻せるって事ですよね?」
「あらあら、男の子らしい声も出せるじゃないの」
「あっ、あーあー、あー。ごめんなさい、私女の子らしく喋れますわよ?」
「診察の時くらい自然にしてて大丈夫よ?」
「ええ、すいませんクセでつい」
うーん。女っぽい行動が身についてつい出ちゃうよ。


「君にとっては酷な言い方かもしれないけど女性化薬が効きやすいという体質は男性としては短所、
でも女性としては長所となる。投与での変化や元に戻るのが早い事も、適応力が高いと言えば長所だし、
すぐに流されちゃうと考えれば短所、でも長所でも短所でも自分の持ち味とはずっと付き合うモノよね」
「そうなんですよね、男らしくない部分や女性化教育に対する順応性が高い事、気にはしてる
けどF組ではこれも才能で、嫌だと思ってても欠点が長所になるのって嬉しいんですよね」
「そうね。その意味では男の子として欠点の目立つ君も女の子なら長所の多い子となる。肝心なのは
それでも男でいたいのか女で良いのかだよね。男の子になるには一つの関門を突破しないとダメだけど」
「やっぱり話はそこに収束するんですよね」
「それがF組の目的だからね、F組に入ったら男らしい男か女らしい女かのどちらかになるしかない。
流されるような生き方はダメ、どっちでもいいから確かな意思と覚悟を持ちなさいな」

登校前は、まだ気持ちが悪かったら女性化薬を打って貰おうかと考えていた。
量を減らして投与するという方法があると聞いた時は減らして量で投与して貰おうと考えていた。
でも、少ない良とは言え投与されればされるだけ女になってしまう。

僕は自分の事を男だと思っている。
少なくとも今は男になりたいと思っている。
だからたとえ苦しくても、女性化薬を打って貰おうとは考えない。自分の方からお願いは絶対にしない。
本気になれば全てが変わるなんて格言があるが、気合いを入れたら吐き気とか気持ち悪いのとかが収まった。
僕は男として、この夏生まれ変わるんだ!!たとえ苦しくても女性化薬なんて自ら求めない。
楽な道には流れない。流されない。




長い1日はまだこれから、会うのは先生だけじゃない

「おはようございます、清香先生」
「少し寝たら良くなった?」
「ええ、結構良くなりました。あっ渚くんも」
「おはよう双葉さん、もうお昼前だけど」
「アハハ、まあちょっと具合崩しちゃってね、そういう渚ちゃんはどうなのよ?」
「うーんと、僕も体の具合崩しちゃって見て貰ったんだ」
「やっぱ頭痛や吐き気とか?」
「やっぱり分かっちゃう?」
「まぁねホルモンバランスの変化でこういう症状出やすいし、で、やっぱり女性化薬を投与して貰ったの?」
「それも考えたけど、せっかく夏休みで男らしさを取り戻せるチャンスなのに女性化を進めたら勿体ないかな
って。だから多少苦しくとも女性化薬は一切使わないでおこうって」
「意外と男らしい顔も見せてくれるじゃない、渚くんって」
割とからかわれることが多い双葉さんに真面目な顔や態度をされたのって、結構久々な気がする。
清香先生が僕の事情について軽く解説を加えると、もう少しいい顔を見せてくれた。
調子を崩しやすい体調でも投与を受けないなんて意外と男らしいって。


「そりゃあ、女性化教育を受けててもベースは男の子だし双葉さんみたく女性化薬を受けたりはしないよ」
こういう時はホント双葉さんみたいな子が羨ましい。
未だに男女の狭間にいる自分と、すっかり女に寄り切った双葉さんと。
合格できない自分が悪いのはその通りなんだけど、理不尽と思いながらもでも双葉さんがズルく感じた。
「アハハ、確かに私は中身まで女になれてラッキーかもね?」
「僕も女性化薬を喜んで受けるようになってたら楽なんだろうけれどね」
少し羨ましそうな顔で双葉さんを見た。彼女は居心地の悪そうな顔をし保健室を出た。



「ナ・ギ・サ・く・ん?ちょっといいかしら」
「少し怖くないですか?」
「別に怖い事はしないわ?ただ双葉さんについてちょっと教えてあげたくてね?」
うう、やっぱりちょっと怖いよ。

双葉さんがここで寝てたのは女性化薬の投与を受けて、その副作用で気分が悪くなったからだろうだ。
僕の場合は女性化薬が切れたから苦しいのに対し、双葉さんの場合は女性化薬を頻繁に投与している
から苦しいとの事だ。投与を受けても受けなくても苦しむとか、女性化薬って怖い。
やっぱりF組に入ることなく男としているのが一番だね。

「でも、具合を悪くするまで女性化薬を投与する事なんてないじゃないですか?だいたい、無暗に
薬を使えばいい訳じゃない、適正量を使うのが一番だって教えてくれたのは清香先生じゃないですか?」
「それはそうなんだけどね…」
そもそも、僕みたいに男でいたいグループは苦しくとも女性化薬を簡単に受けるわけにはいかない。
双葉さんは女性化コースが決まった上に、少なくとも今は女性化を望んでいる。
進路(せいべつ)が決まった双葉さんは僕とは違う。例え副作用で同じように苦しんでいても違う。
苦しそうな顔をしていた双葉さんに少し同情しつつも、自分の状況と比べると毒づいてしまう。


「説明が少し難しいけど男の子には男の子の苦労があって女の子には女の子の苦労があるって感じね」
「えっ!?なんの事ですか?」
「双葉さ、篠宮さんは君と比べて楽してるわけじゃないって言いたいの、少なくとも女性化グループの中
ではかなり大変なのよ?私もこうしてお節介で君にお説教したくなるくらいね」

穏やかで丁寧そうな口調、優しげなはずだけど怒られているような気がする喋り方だ。
ついでにお説教がこれから始まると宣言もされてる。ヤだな。
っていうか内心が見透かされてる?
双葉さんの立場って結構いいじゃない?
F組で女性化が決まって気負う必要がなくて、針の筵だったのはもう昔の話になってて、
薬の使いすぎというのなら量を減らし気味に続ければいいだけで、迷う必要なんてない。
無茶して投与量を増やす必要も特には無い筈だ。それなのにどうして無茶して自分から苦しい思いをするの?
僕なんて体の具合を回復するのに、使いたくもない女性化薬を使うしかないっていうのに。
なんだか、考えれば考えるたびに双葉さんを羨ましく思った。


「渚くん、考えが顔に出てるわよ?正直君が女性化生徒を下に見るなんて先生悲しいわ」
「えっ、いや…そんな事は…」
「何となく分かっちゃうのよね。女性化した子を楽な道に逃げた…と見なしてる男の子の顔って」
「うっ」
「少しだけ話しましょうか?昔の私、昔の女性化について」

正直怖くて聞けなかったけれど、清香先生は言いたそう…というより有無を言わせず喋り出しそう
だったので仕方なく聞くことにした。
今より少し昔、女性化技術もまだ黎明期で世間的な認知度も低かったころ、女性化した元少年の風当たりは
決して優しいものではなかった。今でもTS少女を男の出来損ないや女の偽物として扱われるケースは
珍しくない。ましてや最初期の数年ならばその扱いは散々なものというのは想像に難くない。
女の戸籍すらままならないレベルで、恋愛や結婚、仕事のどれでも茨の道らしい。
清香先生は教職をとっても教師になるのにかなり苦労していたらしい。
ここがTS処置のテストモデル校に認定されなければ、まともな仕事に着けたかどうか危なかったそうだ。

そんな気はしてたけれど、改めて元男だと言われるとちょっぴり驚く。そしてちょっとショックだ。


「渚くん、私が元男だとして何か不都合でもあって?」
「いえ、そんなのあるわけないじゃないですか?」
「私、変な視線には慣れてて相手が何考えてるか分かるのよ?」
「えっ…ごめんなさい」
「もう、こんな態度して…。もしここが監禁や了承なしのオペありな世界だったらただじゃすまないわよ?
TS学園強制編、ガチ強制だったら貴女は男だった記憶すら違和感を感じている事でしょう。女らしい渚ちゃん」
実際に何かするわけじゃないけど、ハサミでチョキンのジェスチャーが凄い怖い。


「ハサミのジェスチャーが嫌ならやめるわね」
「ええ。お願いしますよ、本当に。もうほんっっっとうに!!」
「別に、手でハサミの動きをしたところで何かっていうかナニを切っちゃうわけじゃないのに」
「分かってますけど、気になるんです」
「そもそも女性化手術をする場合は基本的にハサミなんて使わないのに、稀に使うケースも
あるみたいだけど、ハサミでチョッキンなんて物語の中の話で使うのは主にメスなのに」
「どんな物語ですか!!」
「逢魔がホラーショーとか?それはいいとして、そもそも女性器のもとになる素材を切って捨てるなんて勿体ないじゃない、
外科的方式で作り変えるにせよ薬品で化学的変化を与えるにせよ、女性の体のの重要部分はこれを使わなきゃいけないんだから。
だから必要な素材を取り出すために、重要な部分にメスを入れつつ取り出して…」
「耳と下半身が痛い話だからやめて下さい」
「まだ私の怒りは収まってないけど仕方がないわね。女性化手術、外科Verはまた今度ね」
「もうなくていいです」
また今度と言いつつ、要所要所に女性化手術の説明を挟んでくる清香先生が地味に怖い。

「それで、一番肝心なところ篠宮さんは女性の道を選び夏休みの女性化薬投与も一番強力なのを選んだの、
強い薬を規定最大回数になるようにね、そのせいでちょっと無理がたたって今回みたく少し横になる事があるの」
「流石は双葉さん、突っ走りますね。その一直線なところが少し羨ましいかも」
「ところで彼女がここまで女性化薬投与に拘るのはどうしてか分かる?」
「えっ?」
突然な質問に困惑したけれど、とりあえず「早く女の子になりたいから」と答えた。

「それじゃあせいぜい15点しかあげられないわね。合格どころか赤点ペース」
「だったら、なるべくキレイで可愛い、女らしい体になりたいからですか?」
「うーん60点かな?」
「って事はギリギリ合格?」
「やっぱり55点」
「これでもダメってあとはどんな理由があるんですか?」
「簡単に言えば他の皆の為…かしら?」
「?」


「F組で女子生徒となったのは合計7人、そのうち3人は篠宮さん含む合格してもF組を出ていかなかった
自主的女性化っ子で、あと森永さんも女性化を喜んでたから残り3人ね、女性化が決まったけれどそれを
受け入れたくない3人の為に篠宮さん少し頑張ってるの、精神的に苦しい仲間の為にせめて自分は体だけ
でも苦しくなれば、苦しくなりながらも女性化する自分の姿を見ればみんな少しは気が楽になるかも
って、そういう想いから敢えて気持ち悪くなる無茶な方法を選んだの」
無茶だし、決していい方法だとは思えない。それでもみんなの為に自ら苦しい選択をする
双葉さんに僕は心動かされた。多分千歳さん達3人も何も感じてない…なんて事は無いだろう。


「無茶な女性化薬投与って先生か汐田先生(担任の双葉先生)の発案と思ってました」
「随分な発想ね、基本優等生の君がこんなに私を怒らせるような事言うなんて思ってもなかったわ」
「だからハサミのジェスチャーやめて下さい!!不思議と怖いんです」
「ハサミで想像しちゃう辺り少し昔の私と近いと思うんだけどなあ、十代の頃の私の愛読書と
似たような話を見聞きしなきゃハサミだけでそっちな想像はそう簡単にはしないと思うけど?」
「保健の時間に聞いた話を検索した事あります。ホラーショーがホントにホラーでした」
「まぁとにかく、女性化薬投与の基本は一度に多く投与しすぎない事って毎度言ってるでしょ?」
「その割に定期投与の時は薬の量が多い気がしますけど…」
「一応適正量の範囲なんだけどね、上限より少し少ないくらい。で、基本は定期的に適正量かそれ
より少し少ないくらいの分量をある程度間をあけて投与する事、だから大量に、そしてあまり頻繁に
投与って言うのはしないの。生徒側からの要望があれば別だけど、それでも基本は少な目投与よ」
「女の子には女の子の大変な事がある、双葉さんの事を言ってたんですね」

「篠宮さんだけとは言わないけど、彼女の事を思い浮かべながら言ったっていうのは確かね」
「さっき僕が双葉さんを、女性化コースが決まった子を下に見たような態度って…やっぱり
双葉さんにも伝わったんでしょうか?」
「多分ね。さもなくば月岡くんと少し話をしてただろうし、ここ最近話すのは女の子ばっかりで
男の子とか中性の子と話をしてみたいって今日の投与前に言ってたし」
「双葉さんってまだ学校にいると思いますか?いるならちゃんと謝らないと」
「それがいいわね。長々とお説教したけど最後にもう少しだけいいかしら?」
「はい」
「女性化教育特別クラス通称F組、そこに集まるのは男性の適性が低い、あるいは女性化傾向の強い子達ばかり。
世間一般では男の子の出来損ない圧して扱われ、女の子のまがい物と見なされる事も多い。私も偽女扱いされた
事が何度もあったもの」
「しかも、外部だけじゃなくって内部にすらまだそういう目がありますからね…さっきまでの僕含めて」
「頑張った子だけが男の子に戻れるというのはその通り、現に君なんて頑張ってもその権利が手に入って
ないものね」
「うっ、流れ弾」
「でも今女の子が決まっている子は決して男の子から逃げた子ばかりではない。流されてFが決まった
子もいるけれど、自分の意思でちゃんと女性化を選んだ子もいる。特に今年はいつもより多いわ」




告白…なのかな?

そして、先生はいつになく鋭い視線で、力強い声で続けた。
「行ってきなさい、男としてでも女としてでもどちらでもいいから彼女に会って本音でぶつかりましょう!!」

僕は双葉さんの良そうな場所を探して回った。
教室とかF更衣室とか、念のためプール付近も確認してみた。
スカート姿で走るのには慣れていないのでやや体が重い。トイレと着替えの時は良いけどスカートって不便だ。
双葉さんを見つけたのは保健室前に戻った時だった。


「双葉さん!!見つけた!!」
「渚くん?息切らしてるけどどうしたの?」
「双葉さんを探してたんだ、さっきの事謝りたくって」
「ああそれ?別にいいわ気にしてないもの、慣れてるし。男の子から男の出来損ない扱いなんて何度もされたもの」
「うっ…本当にゴメンって」
「でもそんな必死そうな顔してどうしたの?さっきのらしくないくらい冷たい表情とかなり違うじゃない?」
「スゴく怒ってる?」
「慣れてるからそんな怒ってないって、それより渚くんの急な態度の変化が不思議かな?」
「清香先生にお説教されつつ双葉さんの事を聞いちゃってね、みんなの為に敢えてツライ女性化を
選ぶなんて話を聞くとどうも落ち着けなくって。双葉さん本当にゴメンナサイ」
深々と頭を下げる僕に双葉さんは「もういいよ」「それよりちゃんと目を見て話したいな」と頭を上げさせた。


「正直言うとかんなりショックだったかな」
案の定、双葉さんはかなり気にしていたようで…。こう言われると申し訳なくて体が縮みそう。

「でも怒ってるわけじゃないっていうのは本当よ?慣れてて耐性があるっていうのも」
「じゃあ良かったのかな?」
「言ったのが君じゃなければだけど」
「うっ」
上げて落とすのは基本だよね?(何の基本かは知らないけど)

「私がF組卒業して蹴ったの覚えてるでしょ?5月の話」
「忘れるなんて無理だよ。双葉さんの爆弾発言は自分の結果より印象深いくらいだし」
「合格して旅立つときはみんな温かいけど合格を蹴る私には風当たりが厳しかった。そんな時に
私をフォローしてくれた優しい子がいたよね?庇ってくれた子がいるよね?」
「優しいだなんて…そんな」
「私はその子に好意を持ってもっと親しくなりたいって思った。元々仲良くなれそうって思ってたし
良く話す方だから既に友人関係だっただろうけど」
双葉さんは僕の目を凝視し「でももっと親しくなりたいって思ったんだ」と続けた。


「だからなんか、女になった私を下に見られたのがショックだった、君が。クラスで一番好きな子が大嫌いだった
男の子達と同じような目で見てきたのが凄く悲しかった」
本当に申し訳のない事をしてたんだ…僕は…。


「考えてみれば男性試験を合格した双葉さんを、僕みたいに不合格だった子が失格者とか
楽してるとかそんな風に見るのはあり得ない話だったよね」
「かもね、私は合格した上で確固たる意志を持って女を選んだ、女になった!!だから
男の子からも女の子からも下に見られる道理はない。…でもなんだよね。事情を知ってる
君とかほかのクラスメイトですら女に逃げたって思うんだよね…」
「本当にゴメンナサイ!!」
「謝る事じゃないよ、女を選んだ時、男性になれなかった落第者と思われる事は分かった上で選んだんだもん」
「そして、他のFの子…特に覚悟が決まる前に女性化が決まった子を支える事も選んだんだよね?」
「清香先生そこまで言ったんだ…誇張表現は混ざってるよ?自分がより女らしい体になる為になるべく
早く、なるべく多くの女性化薬が欲しいっていうのが一番の理由だもん。まぁ私がツラくても激しい
女性化を選べば千歳ちゃんとかの気が楽になるかもって考えた事はあったけどね」

女性らしくなる為に苦しくても強力な女性化コースを選んだ双葉さん
他のFの子の為に敢えてつらく苦しい姿を見せた双葉さん
そんな彼女を軽く見た自分はどれだけ足りなかったか、思慮もそうだし男らしさも女らしさも不足だ。


「じゃあ渚くん、それとも渚ちゃん?君は謝罪の意を込めてこれからも私と仲良くしてくれるの?」
「勿論だよ!!どんな姿でいたとしても僕は僕として双葉さんの近くにいるよ。ふと昔を思い出した時
僕達いい関係だったな…ってそう思える関係になれるよう頑張るよ」
「ちょっとドキドキした。それって男としてなの?女友達としてなの?」
「それは次回のテスト結果のお楽しみって事で。頑張って次回の試験を最後にするよ!!」
双葉さんの顔を見るとらしくないくらい顔が緩んでいた。
彼女の表情に多少の疑問を持ちつつ、双葉さんとは無事に和解し今日は別れた。


「よおし!!次回の試験絶対に頑張る!!」
気合いを入れた僕に対し遠くから「頑張ってね」と言った双葉さんの声はいつもより可愛かった。




長い一日はまだ続く

『頑張って次回の試験を最後にするよ!!』
などとカッコよく(実はカッコよくない?)決めたけれど、肝心の答えは決まっていない。
つまり、意味深な言い回しをしておいて男に戻るか、このまま女性化するのかを決めてないのだ。
どちらの性別を選んだようにも聞こえる、言い回しだったのが幸いだったかな?
答えが決まってないんだから明言してないのは当たり前だけど。
男に戻る宣言して赤点になるとかよりかはマシと言えばマシ。十分締まらないけど。
ああ、自分が男らしくない性格だってホント良く分かっちゃう。

『私は合格した上で確固たる意志を持って女を選んだ、女になった!!』
そう宣言した双葉さんの方がよっぽど男らしい(!?)

幸いなのはどちらの性別を選ぶにしても理想的なゴールが途中までは同じなところか。
合格した上で男の子に戻るか合格した上で敢えて女性化コースを歩き続けるか。
理想的な終着点はどっちを選ぶにしても、次回の試験で合格を取るって点は一致する。


なんかこの期に及んでどっちつかずな自分にうんざりだ。本当に男らしくない性格だ。
男らしくない自分を実感すると、それが体に表れたような気がした。
具体的に言えば女性化薬を使ってもないのに、自己暗示的な何かで下半身の男性部分が縮むような感じがした。
少し頭を冷やしてみようかな?


気分転換の代わりに屋上へ行って風にあたる事にした。
夏の屋上は不人気だけど、悩み事や考え事がある時は屋上に限る。
屋上に向うと、そこには先客がいた。


「聡明くん?」
「渚くん?いや、今は渚ちゃんの方が正解なのか?」
「どっちでも好きな方で良いよ」
「じゃあ慣れてるし取り敢えずは渚くんにしておこう、で君は屋上で悩みや思いの丈でもぶちまけに来たの?」
「叫ぶのは恥ずかしかな?」
「残念だ、渚くんの恥ずかしい悩みを聞きたかった」
いつもマイペースで、ところどころに毒がある。
少し喧嘩っ早いけれど、前に絡まれた時助けてくれたりと何だかんだで優しい聡明くん。
性格がかなり違うのに不思議と仲良くなれたのは、危なっかしくとも本当は優しい人だからだろう。
こんな風に男らしい性格になれたら、性別に迷う事もなく疑問も持たず一人称の僕も使えるんだろう。
今の僕は、自分の事を僕と呼ぶか私と呼ぶかすらはっきりしていない。


「そう言えば聡明くんは」
「強いて言えば失恋したっぽいから落ち込んでた、で人がいい感じに傷心してたら君が乱入してきたってわけ」
「マジですか?」
「割とマジ」
「詳しい話は聞かない方が良いよね?」
「君が屋上の上で恥ずかしい悩みを学校中に聞こえるくらい叫んだら教えてあげなくもない」
「ナシで」
とても落ち込んでるようには見えない聡明くんを見て何だか少し安心した。



「まぁ本当は双葉さん、篠宮さんと話してて気分転換がてら屋上に上ったって感じかな」
「双葉さんと?っていうかいつの間に名前呼びに?」
「夏休み入ってから何度か会って、親しくなってね。俺は補習、双葉さんは女性化と多少補習で
よく通ってるから結構顔見てるんだよね」
「意外なような、お似合いなような組み合わせだね」
「F組試験を突破して、君と親しいって所は共通だね」
「そうかもね」
双葉さんの様子がどうなのか少し聞いてみようかな?


「ところで聡明くん?最近の双葉さんの様子って変わってなかった?」
「凄いこと聞くね」
「えっ…そんな凄い事があったの?」
今日の僕、やっぱり双葉さんを傷つけちゃったのかな?


「何を予想してるの?凄い事って言ってもいい意味だよ…言ってもいいのかな?」
「気になるけど、屋上で叫びたくはないかな?」
「いや、別に良いよ。叫びたいのなら全力で煽って楽しむけど」
「叫びたくはないかな?…っていうか今日はいつも以上に毒づいてない?」
「うーん、失恋で傷心気味だから触れるもの皆傷つけてる?」
「さっきの話本当だったの?」
「さて…どっちだろうね?」
ホント、本心の見えない人だよね。


「簡単に言うと、双葉さんは君との距離が近づいたようで喜んでた」
「良かった」
傷つけたかもって思ったけど、結局許してくれたんだね。しかも親しくなれたみたい。ホント良かった。

「その前に君に心ない言葉で傷つけられたとか言ってたけどね」
「心が痛いです」
「それで君が意外と、意外にも、意外だけどカッコよく宣言したのを見て嬉しかったって」
「カッコよくの前に意外って言葉を使いすぎなんですが…コレって聡明くんが追加したの」
「最後の一個は俺ね」
「もう、意外を重ねな…って2個の意外は双葉さんが言ったって事?」
「そゆこと、彼女も君がカッコイイ系とは微塵切りした野菜破片程度にしか思ってないわけだ。俺もだけど」
「いちいち言い草が酷いなな」
「しかも割と当たってるだけに余計に酷く感じる」
この2人は本当に…どれだけ僕をいじれば気が済むんだろう?


「それで、篠宮さんの事はこれでいい?」
「うん、意外と元気そうで安心した。っていうかこっちの方が落ち込んだ」
「それは良かった、君的には微妙っぽいけど」
「でも良かったかな…どちらかと言えば」
「で、君の悩みは?」
「えっ?」
「君の悩みだよ、屋上に来る人間なんて悩みがあるかサボりか昼寝したいかって相場は決まってる。
夏休みでしかも昼寝するには暑すぎるんじゃ残りは決まってるよね」
「鋭いね、聡明くんは勉強以外でも賢いよ」



「で、そのリアクションはやっぱり悩み事があるって事だね?篠宮さん以外に何かあるの?」
彼に相談するとネタにされそうかとも思ったけれど、何だかんだで優しいところはあるし
これで言わないのも彼を信用してないようで(ある意味では信用してないけど)失礼な気がした。
それに男性視点(F組でなく性格も男っぽい人なので異性の意見っぽく思える)の意見も欲しかった。

「俺だって普段のノリはこれだけど、その人にとっての大切な秘密は守るさ。ってか君はどれだけ
俺を信用できないやつだって思ってるのさ?流石の俺も噴火しそうだ」
「ごめん、それになんだか笑われそうな気がして…」
「真面目な悩みなら笑いもしないしバラしもしない。君が嫌なヤツとかなら話は違うか
例えば俺をやたら信用しないような奴だと分からないかもよ?」
「それだけは勘弁して。知られたら恥ずかしい」
「秘密はちゃんと守るよ、君の事は結構好きだしさ。男の意見ってヤツを言えばいいんだろ?」
「お願い」
「君が男の意見を出せなくなってという事にまずツッコミを入れたい。中身が男なら
とてもそんな台詞は出てこないよ」
「うん」
自分でも薄々感づいている最初の問題点。そして核心でもある。
同性の、男友達だった人に男の人の意見を求めるあたり中身の性別が男から中性になったんだろう。
もうそれは嫌と言うほど理解した。


「そもそも俺の場合は君みたいなな悩みは絶対に持たない」
「そうなんだろうけどさぁ…」
でもそれを言ったらどうしようもないし。


「どうしても試験を突破できずそのまま女性化って言うんなら俺でもあるかも知れない。でも自分の意思で
女になりたいっていうのは考えられないな。俺にとっての女人生は水の中で生活しろってレベルだもん」
「水中生活とはすごい事言うね、今現在水中で暮らしてる人が目の前にいるよ?」
「俺にとっては水中での生活、でも君にとってはそうではないんだよね?スカートも自然に履いてるし
例え地上で暮らせる機会があったとしても敢えて水中で暮らしてみたいとか言ってるし」
「水中生活っていうか女の子としての学校生活も意外と快適だよ?どっちにしようか迷うくらい」
「少なくとも俺から見たら奇妙な悩みだ。中身が普通の男なら自分から女になりたいだなんて
言わないだろうからね。君ですら最初はスカートも女子トイレも嫌ってたでしょ?」
「そう言えば最初はそうだったっけ、もうかなり昔な気がする」
「俺なら迷わず男を選ぶ、でも君は迷ってるんだよね?」
「うん」
「それで迷うようなら俺とは明らかにベツモノだ。俺の意見は参考にならない」
「そうはいってもね…」
これでどっちか一方をスパッと選べないからこそ、こうして相談してるのに。





「どうしても分からなければこうすれば少しは分かりやすいか?」

バンッ
と鈍い音がした。
いわゆる壁ドンというものだ。
音が思っていたのとちょっと違うのと、壁っていうか鉄格子なのが難点だがされるとちょっとドキドキする。
聡明くんは顔を近づけてきた。近くに来られると身長差がよりハッキリと出てくる。
去年、クラスの男子では一番小さかった自分とかなり高い方の彼だとかなり腰を曲げててもまだ差がある。

「女を選ぶのなら相手が俺かどうかはともかく、男に対してこうされたり、キスもされたり、なんなら
ベッドシーンまで話を進めようか。逆に男を選ぶのなら自分が女の子に対して今の俺みたく迫るんだ。
同性相手って場合もない訳じゃないけど、女として男と付き合うのと男として女と付き合うののどっち
がいいか、どっちなら出来るか…要はそういう話だ」
頭では分かっていた、肝心なのはそこだと。
ただ体験する機会がないので、どうもボヤけたままモヤモヤなままここまで来てしまった。

一応、双葉さんにお遊びっぽい疑似告白をされたことがあったが、
所詮はお遊び、じゃれ合いだ。こんなにドキドキしたことは無かった。
聡明くんも本気ってわけじゃないだろうけど、でも演技が上手なのか顔が近いせいでリアルを
感じるのかは分からないけど、でもちょっと…すごいドキドキだ。
これいいかも…なんて思ってしまいそうだ。




「女の自分を想像し、俺に、男に抱きしめられたりキスされたり…そんな事をされて耐えられる?」
聡明くんは壁ドンの態勢をいつの間にか解いていた。
この時の彼はいつもと違って凄く優しそうだった。目線を同じくらいの場所まで下げて
穏やかな声で優しく語り掛ける。いつもとは違った表情に胸の鼓動はまた激しさを増した。


「俺は男にそんな事をされるなんてありえない。もし君が俺に…あるいは別の男、例えば俺と違って
もっと優しそうな男に接触っていうかな、何かされて平気なら女になっても問題は無いと思う」
「うん、意外と嫌じゃなかった」
「そう?てっきり気持ち悪がられると思ってた…してやったり……かな?」
実は貴重な(っていうか始めた見たかも)聡明くんの驚き顔が見れて少し得した気分だ。
…と、そんな事より無理してまで実演してくれた聡明くんの優しさにまず感謝だね。
驚いて止まっていた彼は復帰し、続けた。


「反対に君が男として女の子…例えば篠宮さんにでも壁ドンとかキスとかしたいんなら君は男として生きるべきだ。
何ならエロシーンでもいい、女の子の裸を見たかったり、抱いて妊娠でもさせたいって思っても男を選ぶべきだ。
いっそ自分が抱かれて妊娠するって選択もアリ…なのか?俺には理解できんが」


情報が多くて正直、頭が上手く動いてくれない。
どれも知ってはいる情報だけれど、意識して考えた事がなかっただけに新鮮な意見だった。
そう言えば、クラスの中の男の子(っぽい子)にも未だに女になるなんてありえないって子いたね。
自分が女性化をいつの間にかすぐそばの未来として受け入れてるだけで、全員がそうでもない。
親しかっり、一緒にいる事が多い子って双葉さんを始め女性化を受け入れてる子や抵抗が
さほど高くない子が中心だった。だからこうも女性化を拒絶する意見が珍しかった。
…とはいえ水中で生活するほどの無茶ではないと思うんだけどなぁ。


「まだ頭の中整理できてないけどとりあえずありがとね。取り敢えず女として聡明くんと
付き合ったらどうなるかと、男になって双葉さんと付き合えるのかを考えてみるよ。
それで無理なくできそうな方を選んでみるね」
「俺や篠宮さんにこだわる必要はないけどね、親しかったり付き合えそうなのを男女両方とも
から選んでみてよ。たぶんそれが一番だよ」
「うん、聡明くんと話せて良かったよ。本当にね」
頭の中ではまだ混乱状態が続いているがあと少しで答えが見つかりそう。
確かな手ごたえを感じつつ、この場を去ろうとした。



バンッ
と鈍い音がした。さっきと同じ音だ。
さっきと同じように聡明くんの顔が近い。
「なあ?もし女になるんなら俺と付き合わないか?」
「えっ?」
少しの間、時が止まった。


「それって…告白…?」
いや、流石にそれはないよね?男同士の友達って感じの関係だったのに。
「そう思ってくれて構わない…っていうか告白だ」
「本気なの?」
「男になるか女として生きるか迷ってるんだろ?なら驚く事じゃないだろ、さっき言った通り
俺に限らず男からこんな事言われるのが普通になる…女の方を選ぶってこういう事だ。嫌なら
男として生きれるように頑張ればいい」
さっきからある意味で何度も言われていたような事、たとえ話でなら何度かあった事だ。
でも実際に告白されるとなると感じ方は全く違う。

「でも、僕は男の子に戻るかも知れないよ?」
「そうだね、もし男に戻るのなら、戻ったのなら今のは忘れて欲しい。でももし君が女として生きる気に
なったのならいの一番に告白する。これは、からかいでも例えでもなく大マジだから」

自分が告白されるだなんて考えた事がなかった。
ましてや相手が男だなんて…信じられない話だ。
でも聡明くんの顔は口調以上に大まじめだった。
受け入れるのが簡単な話だとは思えない、でも嫌な事じゃない。
立ち去る彼を見送った後も、しばらくその場を動けなかった。




さっきの壁ドンを思い出そうとするともっと凄い事してるような画像が出てくるのはどうして?
コレって僕の乙女フィルター?再現映像がアレすぎるよ!!




短い筈なのにとても長い帰路

「やっぱり本気だよね?」
友達からの予期せぬ告白に未だに胸のドキドキは収まってくれない。
何気ない夏休みの1日は人生でトップクラスに濃い1日となった。
元々濃密だった1日は、聡明くんの告白で決定的に忘れられない日になった。
胸のドキドキもそうだし、頭の中もいろいろな考えがまだグルグルと回っている。

と同時に、言われた側ですらこんなに混乱するのに言った側はあの告白にどれほどの想いや覚悟をのせたのだろうか?
少なくとも同じ事をしろと言われても出来る気がしない。


「好きな子に告白できる男の子ってスゴイよね」
ましてや相手が性別不定でつい最近まで同性の友人だったなんて難易度は余計に跳ね上がる。
そもそも、相談した時に女になるよう仕向けたわけではない。
男でも女でもどちらでもいいから私にとっていい選択を出来るように相談に乗ってくれた。
毒があって、尖ってるところがあって、誤解されがちだけど聡明くんってやっぱり優しい人だ。

「失恋ってやっぱり…」
双葉さんと話をして僕が男になる宣言をしたと勘違いしたんだろう。
それで失恋、でも本当は僕か私かも決まっていない。そんな中途半端な渚だ
失恋直後(と思っていた)だけどその相手の悩み相談を嫌な顔もせずに乗ってくれる。
いい人と知り合えたものだ。



聡明くんの為に女になろう!!
そんな考えは何度も浮かんだ。
でも、彼は飽くまで自分に合った性別を選ぶよう言ってくれている。
聡明くんを理由にしてしまうのは彼に対して失礼だろう。


彼の言葉、もしくは清香先生や双葉さんとのやり取りも思い出してみる。
男を選んだ時の自分の姿を考えてみる。
女を選んだ時の自分の姿も考えてみる。
完全に女を選んだ双葉さんと自分の違いを比べてみる。
完全に男を選んだ聡明くんと自分の違いを比べてみる。
それぞれがとても女らしく魅力的で、とても男らしく魅力的な人物だ。
男として双葉さんとお付き合い、女として聡明くんとお付き合い、その2つのもしもを考えてみる。
双葉さんは告白してくれたわけじゃないけど、比較対象に出せるくらい魅力的だからいいよね?
僕にとっては魅力的な女の子の代表が彼女だから。

頭の中に浮かんでくるもしもの世界と、ハッキリと浮かばないもしもの世界、
少なくとも一方のもしもは絶対に訪れない世界だ。
毎月の試験の時よりも頭をフル回転させたと思う。



自分の為の性別選択には違いない、でも双葉さんや聡明くんの為にもちゃんとした選択をしたい。
流されるようにどちらかになりましたではなく、自分の意思でちゃんと選びたい。
帰るのにかかった時間は、いつもの5割増し。体感時間は5倍は下らない。
長い長い帰路を経て、少しだけだが考えがまとまった。




シャワーシーンと僕で私なカラダと衣服


スカートとショーツを脱ぎ、シャワーを浴びる。
夏休みだけど、学校に行っていたので服は女子用(の制服)だ。
その際にショーツにする必要やブラをつける必要があるのかと聞かれると答えづらいけど。
いつの間にか制服の下は女子用下着だと習慣が身についたから何気なく、ごく普通に身に着けていた。
…って感じかな?

服も下着も女物だったのが、着替えに用意したのがどっちも男物というのも考えてみれば不思議だ。
学校のある日は女の子の休日は男の子の服と下着とい習慣が普通になっていたから、替えは男物がいつも通りだけど。
何も考えず、ごく普通だった筈の習慣も考えてみれば不思議だ。

登校時に完全に女の子の格好をする必要もないし(少なくとも下着くらいは)
休日に男の子の服や下着をつける必要だってない。
とは言え、どちらかの性別を選べば反対の格好はもう出来ないと思った方が良い。
男の格好にせよ、女の格好にせよ、夏休みが明けたらもう出来なくなるかもしれないんだ。
どちらの格好になるにせよ、最後の女装や最後の男装くらいに思った方が良い。

…って事はこのボクサーパンツは最後の男装くらいに考えて履いた方が良いのかな?
ただの入浴(シャワーだけど)が妙に重いものになりそうだ。



シャワーを浴びて、汗と汚れを流す。
一通り体を洗った後で自分の体を見てみる。


上半身にはささやかだけど胸の膨らみがある。Aカップに近いくらいには膨らんでいる。
去年のクラスにAに満たない子がいたと考えると胸は女の子と変わらないくらいに膨らんでいるのかも知れない。
下半身にもささやかだけど膨らみがある。女の子とは明らかに違うモノが、膨らみが存在している。
まだ頑張れば大きくも出来るし、射精も出来るから男の証と言ってもいいだろう。
上と下のどちらもささやかだが両極端な膨らみ、その膨らみも来年には…
いや、卒業前にはどちらか一方になっていてもう片方の膨らみは消えて無くなっているのだろう。

下校時と同じように、両方の自分の姿を想像してみた。
自分の裸を脳内で少し改変し、胸が大きく膨らんで下の膨らみが消えた割れてる自分の姿を想像してみる。
反対に胸の膨らみが無くなり男らしい胸板を手に入れた自分を想像してみる。おまけで下半身も立派にしちゃえ。

女らしく、あるいは男らしくなった自分の体を交互に想像する。
胸が膨らんで下がちゃんと割れている自分を想像する。
胸が平らになって下が立派に存在する自分も想像する。

男の自分も女の自分も、同じくらいの時間、同じくらいの鮮明さで想像できていたが次第にバランスが悪くなる。
ちゃんと、ハッキリと想像できるのが片方だけ、そうなってしまった。
これは決着だろうか?




夏休み明けの試験でカタをつけよう!!

「月岡さーん。月岡渚さーん」
清香先生に名前を呼ばれ保健室へと移動する。
試験を受ける人数がかなり減ったので、待ち時間がかなり短くなった。
合格、合格辞退、連続赤点のいずれかでもう試験を受けなくなるんだけどこれが合計19人になる。
最初の32人が今ではもう13人と試験を受ける人の方が少ないんだもん。
そして今回で1人は確実に終わるだろう。
「絶対合格しよう」
十分に気合を入れて中へと入った。


スカートを脱ぎ、ショーツをずらす。
ショーツをずらすと、ピョッコり出てきた。
大きくて男らしいというわけではないけれど、夏休みの間で女性化薬が抜けたのだろう。
7月の時と比べるといくらかは力強い。
今回こそは絶対に合格しよう!!7月末にそう誓った時から対策は十分にした。
学力テストもかなり余裕があるし、体力テストもそこまで足は引っ張っていない筈だ。
そして射精テストにも得点を稼ぐコツがあるというのが分かった。
動画の登場人物にうまく自分(と出来れば相手)に当てはめて、良いタイミングで射精へと導く。

加点項目や減点項目の内容を覚えて高得点を狙う。早出しボーナスを狙うと楽かな?
10分の制限時間を有効活用して部分点を稼ぐ方法もあるけど、自分には向いてないのでスピード狙い。
時間が長くなればそれだけ加点項目を狙えるけれど、減点項目に引っかかる危険もあるからね。


減点を避けて、早く射精すれば少なくとも悪くはならない。
タイミングをうまく合わせ、男優の人と同じタイミングで射精する。これも加点対象だ。
反対に女優さんがイくタイミングでイってしまうと減点になるので要注意だ。
精子の具合まではコントロール出来ないけれど、点数を稼げるところは稼いだし
そもそもこれまでの点数がかなりいいので、多少精子の具合が悪くても楽に合格点には到達できる。
射精テストと言われると混乱するけど、所詮はテストと分かると驚くほど簡単だった。


試験中は男らしく振舞って、男性機能の高さを見せつけなさい。
…と言われればどうしたらいいか分からないけど幸いにも加点項目や減点項目は調べられる。
自分に出来そうな項目を見つけ、踏みそうな減点をうまく避けそのままフィニッシュすれば簡単だ。
少なくとも5/200点とかはとらない。
この、射精・男性機能テストも今回が最後になる。
最後の1回、溜めに溜めた精液を存分に出しちゃう!!



試験管の中に溜まった白く濁った液体を見てこの男性機能テストの高得点、そして9月冒頭の試験の合格を確信した。
最後の1回は自分でもびっくりするくらい見事な射精だったと思う。




夏休み明けの試験の結果発表

今日は試験の結果発表日だ。毎度おなじみとなった、聞きたいような聞きたくないようなこのイベント。
だが今回はいつもと違う。今回を最後の試験と決めたから…というのもあるけれどそれだけではない。

あの日告白を受けた僕だったが聡明くんととある約束をした。
試験の結果が出たらその日の放課後に結果を教えて、その時に告白の返事もするって。
今回だけは結果を聞く方ではなく、結果を教える方だ。
結果はまだ出てないから結果を聞くイベントも残ってるんだけどね。合格の自信は100%以上あるけど。
でも放課後の方がメインな気がする。


何でだろうね、今までで一番待つのがツラいや。
いつもなら短く感じる昼休みもスゴく長く感じてこうして日記でも書いてないととてもじゃないけど待てない。
待ち遠しいって感じじゃないんだけど…早く肩の荷を下ろしたいって感じかな?
男子生徒でも女性生徒でもないF組の生徒としての日記もこれが最後なんだろう。
寂しいような、感慨深いって言うべきか…。週明けにまた登校するときどうなるんだろ僕?

これで万が一に不合格なんてとったら笑っちゃうけどね。
その時はいっそ自分から赤点宣言でもしようかな?
オチがついたところで僕のF組日記を終了させよう。
次に書く時は何日記になるのかな?




夏休み明けの試験の結果発表(本番)

約束の放課後になった。結果を貰った。
ちょっとだけ双葉先生に一筆書いて貰った。この方が感じが出るから。
女子トイレの個室に入って聡明くんにメールを送る。
人に見られるのは少し嫌なので一目につかない場所で連絡をする。こんな時女子トイレの個室が便利だ。
簡単に使えて一時的に人目から離れられる場所、その辺の物陰だと見られそうで少し心配だからね。



屋上に行くとそこに先客がいる。
幸いにも彼以外の利用者はいないようで安心して答えを言える。
「やあ、待ったかな?」
「先に待ってた人が言うセリフ?」
「ああゴメンゴメン」
流石の聡明くんも告白の結果待ちだと落ち着かないんだろうか?
意外と可愛い一面もあるんだね。彼なら落ち着かない風の演技をして逆に遊んでくるとかありえるけど。
でも告白をしたり結果を聞くのは一大イベントだしそこまでの余裕は彼でも無理か。

「それじゃあ、まず今回の試験の結果を発表します」
「わっ、わーい」
ノリがいいのかノリがおかしくなってしまったのかは分からないがじらすのも悪いので点数の書かれた紙を見せる。

「合計点は今回トップの350点!!歴代でも聡明くんに次ぐ堂々の第2位だよ!!」
学力169/200 体力49/100 男性132/200 合計350/500
誰がどう見ても問題のない合格だ。




「おめでとう…渚くん、まさか君がここまでの高得点…どころか合格できるとも思ってなかったよお見事」
言葉に詰まりつつ、目を逸らしつつ、でもちゃんと祝福はしてくれた。
聡明くんは向うを向いてしまいその場を立ち去ろうとした。

「帰っちゃうの?」
「結果を聞いたら帰るつもりだったからね」
これは早く言わなきゃマズいね。


「帰っちゃう前にちゃんと宣言させて?」
「そうだね、君の口からちゃんと明言して締めにしようか」
やる気のない聡明くんなら珍しくないけどここまで生気のない彼なんて見た事ない。
いい加減じらすのは可愛そうだね?


「僕、月岡渚は本日をもって卒業します」
「慣れない女子?生徒生活からの卒業おめでとう。これからはまた一緒のクラスかな?」
「一緒のクラス?F組は女子生徒か女性化中の生徒しか入れないよ?」
「んっ?」
流石に察しが良いね。このまま結びの言葉にしちゃいましょう。


「僕、月岡渚は本日をもって男子生徒を卒業します。これからは女子生徒としてF組で女の魅力を学んでいきます」
「アハハ、君も意外と性格悪いね。てっきり振られたかと思ったよ?」
「いつも私…卒業までは僕かな?僕が翻弄されてるんだしたまにはいいでしょ?」
「たまにはね、しかし季節外れの卒業式だ」
「だね。実は卒業証書も書いて貰ったんだ手書きのを」





先生に、外部の人が見ても合格が分かるものを書いて貰った。
私は男性失格Failとしてこのクラスを旅立つのではない、男子生徒としての卒業も違う。
合格して、堂々と胸を張って上で女子生徒として合格するんだ。双葉さんみたく。




卒業証書

卒業生 月岡渚
本生徒はF組において優秀な成績を収めたため
男子生徒を卒業し女子生徒として学園生活を送る
資格がある事をここに証明します


F組担任 汐田双葉




「手書きとは言え随分と凝ってるね」
「先生なりのお祝いだって。詳しい事情は話してないけど私が自分の意思で男の子を卒業したのを
こんな形で残したら感じ出るんじゃないかってね」
「ハハハ、こりゃあ凝ってる…でこれはOKって事で良いんだよね?」
「私が魅力的な女の子になれるよう男性視点から支えてくれる?」
「望むところだ」
「でもまずはお友達、今までも友達だったけど女の私とは初めてお友達って事で」
「YESかNOか分からない解答だね。これだと」
「試験に合格してその上で男子生徒を卒業した私だけど、体とかまだ男よ?だから男女のお付き合いは
女性化のカリキュラムを終えて、ちゃんと女の子の体になって女として中学卒業してからね」
「やれやれ、オアズケはきつい。だがこれからも頼むよ、女の子の渚ちゃん」
「ええ、こちらこそよろしくね。男の子の友達第一号の聡明くん♪」



世間一般では桜が咲く頃に卒業式が行われるけど私の卒業式は夏休みが明けて間も無い頃だ。
桜どころか赤くなる葉っぱすらごく一部、春の卒業式も残っているとはいえイマイチ絵にならない。
しかも同じ時期に卒業した仲間もいない(連続赤点による落第なら2人いる)
しかも私たちの卒業は、一般的には知られず認められもしない卒業だ。
件数の少ない女性化のしかも男性失格と扱われるクラスの一生徒の女性化なんて、卒業だろうが
落第だろうが気にする人なんて他に誰もいないだろう。
それでも私は確かに卒業した。男性失格者として落第したのではなくちゃんと男の性別を卒業できた。
私は自分の意思で、男の性別から離れ女としての新たな人生を歩むと宣言できたのだ。

卒業後の進路は理解者の少ない茨の道だけど私は後悔していないし、今後も後悔はしないだろう。
F組でない、外部の人には理解されないけれど、でもここに一人は理解者がいるから。


「ねぇ聡明くーん?」
「うわっ!?いきなり何?」

聡明くんに後ろから抱き付いた。
せっかく(何がどうせっかくかは分からないけど)だから秘儀『あててんのよ』をしてみたかったけれど
当てられるほどの発育がないので今はお預けだ。お互いにね♥
来週の女性化薬投与が今から待ち遠しいなあ。


桜吹雪ではなく、微かに落ちるイチョウの葉と眩しい太陽光を浴びながら。
「私は男子生徒を卒業しました」




エピローグ?このEDは単なる予想図です

懐かしきわが母校、この教室に入るのは8年ぶりくらいになるのだろう。
あの頃の私はまだ中身が男の子みたいで、スカートを履くのにも抵抗を感じてたっけ。
などと思いながらF2組の教室を外から眺めてみた。

中にいる生徒はまだ男の子っぽさを残していて女性化に時間のかかりそうな子が多い。
男の子が無理に女装してるって見える子もいる。…それどころか制服なのにズボンを履いてる問題児もいる。
F1ならともかく2では男装する子もいるか。私の頃だってスカートも履いてない子いたし。
中には双葉を思い出すような資質ある子もいるけれど、このクラスで担任をするのは苦労しそうだ。
でも、中にいる子は慣れない女性化と男女の狭間でもっと苦労するという事は忘れちゃダメだよね。
新任のTS女教師としてこのクラスの子をちゃんと女に導いてあげないと!!
「みなさん、初めまして」
「はじめまして」
「私の名前は赤川渚って言います。実は先生にも男だった頃の名前があります」
担任がTS女教師と知ってクラスの皆は驚き半分、安心半分といったところだ。
…意味の分かってない子も意外と多かった。
それはともかく、ちゃんと続きを言わないと。


「男性時代の名前は月岡渚って言います。元が男でも女になれるしお嫁さんにだってなれます!!
だから皆さん、女性化を頑張りましょう、女の幸せ手に入れましょう」

桜の季節に女として旅立った私は、生徒を女として旅立たせる。そんな役目をこなす事となった。

おまけとあとがきは別ページです。

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