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幼馴染の押しかけTS

2018/04/04 14:37:21
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子供は親を選んで生まれてくることは出来ない。
裕福だけどいつも一人ぼっちの友達を見てよくそう思った。

そいつの名前は神本清彦と言う。
やたらと頭が良くって手先が器用で、小さいうちから料理も得意な妙にハイスペックの友人だ。
控えめすぎる所はあるがいい奴で寂しがり屋、なのに兄弟もいなくて親も家を空けている事が多い。
屑親とは言わないけれど、いつも寂しそうなアイツを見てもう少し一緒の時間を取ってやって欲しいと子供ながらに思っていたっけ。

大体の事は出来るデキル奴なのに、遊び終わって帰る時間になると甘えてくる。ちょっぴり困った友人だ。
帰る時間を少し遅くすると妙に嬉しそうな顔をする。その喜んだ顔が結構好きだった。
ただ帰る時間が遅すぎて親に怒られる事が結構あったんだけどね。


清彦とは一緒にいる事が多くて結局、地元の大学まで一緒だった。
そんな長い付き合いの友人、親友の関係が変わるなんてとても予想は出来なかったんだろうなぁ。











長い春休みはゲームで夜更かしして朝は惰眠を貪る。
長い人生の中で最も幸せな瞬間と言えるのではないだろうか?
俺にしては早い時間(朝9時半ごろ)に目を覚ましそのまま二度寝を愉しもうと目を閉じる。

大学生だけど、地元大学で実家暮らしだ。
家事とかは楽できる代わりに親の目が厳しく光り夜更かしや朝寝坊に制限がつく。
講義のある平日は仕方がないにせよ、休みの日もうるさいのは少し困った話だ。
それは春休みに入った今でも同じだったのだが、ここ数日は少し事情が違う。


なんでも清彦の両親から中長期の旅行に招待されたようで、今はこの家には俺一人だけ。
つまり夜更かしするも朝寝坊するも俺の気持ち次第だ。
家事(主に飯の調達)では多少苦労するけれどそれを差っ引いても今の時間は快適だ。
今の時間がずっと続けばいいのにってここ数日間思いっぱなしなくらい快適だ。

ワンランク上の快適さを求めいつでも二度寝が出来るこの瞬間を楽しもう。
贅沢な瞬間に身を委ねようとすると俺を呼ぶ声が聞こえ、人生で最も幸せな時間は中断されてしまった。


*画像は俺の寝ぼけた頭が認識した光景で背景と女の子の髪色が実物と違っています



「敏明、いい加減起きなよ」
女の子の声が聞こえる。


エプロン姿の女の子…がいるように見える。
可愛い(綺麗系か?)けれど誰だっけ?しかも俺の名前を知ってて挙句呼び捨てだ。
夢と現実の区別がつかないくらい眠いのかな俺って?
ゲームのやりすぎで現実画面…じゃなくって現実世界でもゲームキャラが出てきてしまう幻覚を見るか?
だがギャルゲーやエロゲーではなく昨日遊んだのは探索系のRPGだ。
ゲームの内容が夢に出てきても女の子が起こすイベントとか発生しないだろ。

寝ぼけた鈍い頭は状況を理解できなかったが、俺を呼ぶ声で少しだけ頭が冴えてくると状況を理解する事が出来た。
まだ見覚えのない声と顔だからすぐには思い出せないのだろう。
幼馴染の親友が俺を起こしに来た。その事を理解する頃に俺の上半身は起き上がるハメになっていた。


俺は目を見開き女の子に対して叫んだ。
「せっかくの二度寝タイムを妨害するとかどういう心算だ清彦!!」
つい最近、俺の親友は女の子になっていた。




清彦の両親はその界隈でも有名な科学者夫婦で、しかもかなりマッドサイエンティストだ。
世界的な偉業を幾つか成したそうだが、何ていうかアレな人って感じだ。
遠慮のない系のオタクがそのまま大人になったような天才的変人って感じ?


そんなヘンタイ…じゃなくって天才夫婦は人間を作り替え、変身させる技術を開発したらしい。
もっと言うと性転換の技術を実現させたんだそうだ。そしてそれをあろうことか自分たちの息子で実験したんだと。
そのせいで清彦は女の子になってしまった。
更にタイミングの悪いことにテスト期間で性別(ってか外見)が変わったせいで一部の試験を受けられず単位をかなり落とすというオマケつきだ。
うわぁ、バカと天才は紙一重ってのは本当だな。


ただ、不幸中の幸いと言うべきか清彦自身はそこまで落ち込んではいない。
意外と前向きな奴だったようで女になったことを悔やむより、女になって出来る事を楽しむべき!!だそうだ。
こういう切り替えの早さや柔軟さに関しては頭が下がる。
それはそうと、コイツの女になって出来る事、女になってやってみたい事と言うのが…。


「やっぱり家庭を持つって意味では女の方が良いよね。家庭に入る、専業主婦も基本的に女性限定っぽい所があるし」
「だからといって通い妻の気分を味わうって理由でウチに通うもんかねえ」
「せっかく女の子になったんだし、可愛いお嫁さんとか世話好きの奥さんとかって憧れるもんでしょ」
「俺は徹夜ゲームからの二度寝に憧れます」
「もぅ…敏明ってそういう所がだらしないわよ?」

男の浪漫とも言うべき堂々と女湯とか、自分の胸(しかもコイツのバストは豊満だ)を楽しむとかそんな考えが出てこない。
世間じゃ家事をいくらか夫に任せる自称専業主婦もいるらしいがコイツはその逆だな。女子力、嫁力はナチュラルボーンウーマンより明らかに高い。
スカートとエプロンをたなびかせ、頬を膨らませつつ女言葉を使いこなす。俺の親友はやたらと器用だ。






放任主義が過ぎるような両親を持った反動か、清彦は家庭というものに強い憧れを抱いていた。
正直、強すぎだろって思うくらい清彦は幸せな家庭というものを欲していた。
少年時代の清彦はゲームの話題で盛り上がれるし、一緒に野球もするし基本的にごく普通の子供だ。
ただ、話のジャンルが家庭になった途端にやたらと食いつきが良くなるという一面を持っている。

これが女の子だったら可愛らしい一面と良い風に見られていたのに…勿体ない話だ。
ただ家庭的過ぎる男子は中学、高校と人気が高まり実家の裕福さも相まって清彦の奴は結構モテていた。
とは言え家庭に憧れすぎる男を悪い風に見る者も少なくない。
男からは敬遠され、女からは気持ち悪がられる。…なんて声も。



女になった清彦は最初は慌てていたらしいが、少しして気がついたらしい。
幸せな家庭を築きたいなら女の方が良くない?…と。
突然性別が変わってしまう混乱イベントの筈が、妙に前向きで変に柔軟なコイツは受け入れるどころか楽しんでいるのだ。
で、家庭を守る新妻の雰囲気を味わいたくって俺の世話をしてくれている。
清彦曰く、男の人と家庭を築く事に憧れてるけど他の男は怖いから気心知れた俺を相手にして女や新妻に慣れたい…らしい。
丁度、ウチの両親が神本家の両親と旅行に出かけたのでチャンスと言わんばかりに新妻風を体験している。



「はい♥めしあがれ♥」
朝食のメニューは、フレンチトーストとコーンスープにサラダとベーコンエッグ。
豪勢だが朝から少し品数が多すぎる気もする。

「ありがとうな。だがこういう時は米とみそ汁のイメージがあったから少し意外だ」
「和食の方が良かったのなら作り直すけど…敏明って朝はパンじゃなきゃ食べられないって聞いたからこっちの方が良いと思って」
「大正解だ。眠いと米粒が食えない」
「朝の洋食って少し自信が無かったけど、この様子だと大成功なのかな?」
「自信が無いって割に作り慣れてるような完成度だと思うぞ、俺もお袋もここまでのは多分作れない」
「えへへ、旦那様の好物を作ってこその奥さんなのです」

勝ち誇ったような笑い声と共に清彦は後ろから抱き付いてくる。
トーストとはまた違った甘い香りが漂ってくる。
そして柔らかいが弾力のある丸っこい感触が二つも襲ってくる。

背中にオッパイの感触とか普通なら嬉しいイベントだけれど、急な発生で驚いたので思わず吹き出す。パンが変な所に入らなくて良かった。
あと、きょぬーな感触が清彦産と思うと嬉しさが3割くらい低下するのは何故なんだ?
やっぱり同性の男友達が元々の姿と思うと、せっかくの巨乳美人も霞んでしまうんだろうか?




食事を食べ終えて清彦は後片付けを終え、今は溜まった洗濯物を洗っている。
本当に器用で甲斐甲斐しい奴だ。
頼まれたわけでもないのにこの三日で溜まった家事を手早く片付ける親友を横目で見た。


「それにしてもお前って本当にタフな奴だよな」
いきなり性別が変わっても一月足らずで平然と生活できてるし。
女として適応しててスカートや女っぽい口調を使いこなしてるし。
試験の結果も一部が試験すら受けられず散々だって言うのに。
前向きって言うか、ポジティブを通り越してるっていうか、あっけらかんとした清彦の態度には頭が下がる。


「タフって言うか愉しまなきゃ人生ソンだと思ってるって感じかな?性別女も結構楽しいよ」
「俺は楽しめる自信が無い、万が一楽しめても友人の家の家事を変わってやるほどお人よしじゃないさ」
「まぁあの親の下で育つにはどんなことでも楽しめるくらいになんなきゃやってられないよ」
「ああ、納得した」
昔の清彦は一人ぼっちが多くて良く泣きそうな顔してたっけな。
何でもこなせるけど寂しいのだけは苦手なコイツ。
昔は寂しがりの清彦のお世話をよく俺がしていたけれど今は清彦が俺のお世話だな。


昔の事を思い出していた俺は清彦から見て優しい顔をしていたらしい。






清彦が言い出した事とはいえ、俺の家の片づけや洗濯を友人がしている中で俺がゲーム三昧と言うのも何だか悪い気がする。
なので掃除くらい俺がやろうと申し出たが清彦はやんわりと拒否をした。
彼女とかお嫁さんの気分を味わいたいんだとか。


「有難いけど面倒とか思わないのか?俺は自分が苦手なのもあってスゲー嫌だぞ」
「でも世の中の専業主婦は毎日こなしてるでしょ?しかも正規や非正規で外に出つつ家事するお嫁さんも多いじゃない?」
「まぁそうだな」
「家庭を守る事に憧れる僕としてはいつか来る日の練習として掃除や洗濯をなるべくこなしてみたいのですよ」
「お前がOKなら俺としては嬉しいくらいだが…本当に物好きな奴だな」
「まぁ敏明と親しいくらい物好きだし今更じゃない」
「言うじゃねえか、だがそうかもな」
結局、清彦が良いと言ったので俺はそのままゲームに明け暮れた。
食事の調達や洗濯物の片づけをしなくていい分、ゲーム三昧度が上がった。


俺が遊び惚けている間に清彦は夕食の準備を始めて、買い物を終えていた。仕事が手早いな。
その一方でゲームに集中してて清彦が出かけた事すら気がつかないとか俺って残念な人っぽい。



既に食材の下ごしらえは終えているらしい。
風呂ももう少しで湧き上がるのだとか。有能だ。
風呂を進められたのとゲームのキリがいいので風呂に入る事にした。
そういや昨日は面倒くさがって入って無かったっけ。女の子(清彦だけど)の前だし多少は身綺麗にしておこう。
「お風呂の加減どう?」
そう思って湯船に浸かろうとすると入り口から声が聞こえた。


「お背中流しましょうか…なんてね」
「うぉい」
「でも敏明のお世話をするんだったらお風呂の時に背中くらい流した方がいいかなーって」
「清彦お前何か企んでるのか?」
「どういう事?別に何もないよ」
「いや、俺をこんな甲斐甲斐しく世話するメリットがないって言うか何か違和感を感じてな。本当に花嫁修業的な理由なのか?」
「まぁね、お嫁さん気分を味わいたいっていうのはジョークじゃなくってマジだし敏明なら旦那様の役もギリOKかなって」
「そいつは褒めてるんか?悪口か?」
「褒めてるに決まってるじゃない、少なくとも嫌いな人の家に行ったりはしないって」
「それもそうか」
「はい。お背中流すので向こう向いててね♥」



おねだりするような清彦に思わずドキッとし親友ををじっと見た。
ショートパンツ、ホットパンツって言うのかコレ?
とても短い半ズボンは清彦の尻を強調しているように見えた。
俺は尻派じゃないし、ショートパンツが好きと言うわけでもないのでホットパンツと尻の魅力を熱弁していたサークルの友人をイマイチ理解できなかったが結構イイな。
女の子の肉付きがいいというのは素晴らしい事だ。そしてやっぱり胸にも肉がついている。

「どしたの敏明?やっぱりお風呂は一人で入りたかったの?」
「いや、何でもない。背中でも流してくれ」
清彦の体を変な目で見ていた俺だが、幸運にも清彦は入浴中に入られたから変な顔をしたと勘違いしたので適当に誤魔化した。


「ふう、背中洗って貰うってのもいいかも知れんな」
人に体を洗って貰うのって案外気持ちが良いのか俺の邪心は何処かへ隠れていた。
「あの…敏明?」
「どうし…あっ…」
俺の邪心は下腹部に隠れていた。隠れず隆起していた。



俺の勃起を見て清彦は顔を赤らめ、背けたがすぐに持ち直しこちらの方を見た。
「フフ、ちょっと恥ずかしいけどこんなになってくれたのは逆に嬉しかったり♪Tシャツとパンツじゃ色気がないかもって不安だったし」
「うっ、いや…これは…誤解だ」
「うーん、僕もつい最近まで男だったから多少は理解あるけどでもこの様子は誤解じゃなくって興奮してるよね」
「うっ…変な事考えて悪かったよ」
居心地悪そうにしている俺とは対照的に清彦はご機嫌のようだ。「逆に嬉しいくらいかな?」と返すくらいに。


「いやあ、だって僕も見ての通り性別が変わって女の子になっちゃったわけですよ」
「うん、知ってる。未だに驚いてるけど」
「女性化して間もないけど、割と男だったときの感覚が無くなって来てね。トイレを立ってするものじゃないとか、
射精の感覚を忘れたりとかもう男性の感覚がどういうものか忘れかけてるんだよ」
忘れるのが早い気もするけど案外そんなものなのかも知れない。忙しくて全てを忘れて男の感覚も希薄になるってところか。

「どういう恰好をすれば男の人が可愛いって思ってくれるか、色っぽい女の子と言うのは男の子からみてどんな子なのか。
エッチな気分になるのってどんな時なのかとか男性の意見が気になるのよ。私女になったので」
「その台詞狙ってるのか」
「少しだけね♥」
女性化した親友は変わった性別に早くも順応し、少しあざとくなっていた。


「フフフ、だから普通の女の子なら怒るかも知れないけど男性の意見が気になる私にとっては自分の魅力が確認出来て案外嬉しいんだよね」
「俺は興奮した姿を見られて案外悔しいけどな」
「あと、無くなったモノと同じのを久々に見れて少し懐かしくて嬉しかったりもする」
手を止め、鏡越しに俺の勃起をじっくりと観察している。
見られて興奮する性癖は無い筈だが、股間の膨らみと痛みは加速していく。
ボソッと「素敵」と呟いた清彦に若干の恐怖を感じた。


がこのままコイツのペースなのも悔しいので「新妻の練習をするなら性欲処理は必須だよな?」とゲスイ顔で訴えかける。
流石にこう言えば清彦も大人しくなるだろうし、万が一に相手をしてくれるならそれはそれでオイシイ。やりすぎだけど。
ただこういう返答を予測していたのか「責任取ってくれるのなら私のカラダ好きにしてもいいわ」とあしらわれる。

女性化歴の低い即席女の筈が既に職業訓練を終えたようで、清彦の女子力や新妻力は結構高かった。
結局俺は清彦に対し何かするでもなく、噴火寸前が大人しくなるのを待つ事にした。
清彦もやりすぎたと思ったのかそれ以降、風呂の中で大きなアクションは控えていた。




風呂を上がってのんびりしていると食事が完成していた。
清彦は支度の殆どを既に終わらせていたようでさほど待たずに完成していた。
夜は和食メニューで定番の煮物とみそ汁を用意し、前菜小鉢2つと蛋白源が焼き魚と豪華と言うほどではないがなかなか見事な和食だ。
正直、お袋よりも完成度高いんじゃないのか?ってくらい良く出来ている。
一通り揃った和食とか数年ぶりくらいだったりして。
「それにしても…」

朝の時も思ったが手際も完成度も見事なものだ。
気がついたらとりかかってて気がついたら完成してる手早さとバランスの良さに品数。ほぼ隙が無くハイレベルだなコレ。
三田さん(家政夫⇔家政婦の)にひけを取らないレベルなんじゃないか?流石にそれは褒めすぎか。
「だが本当にお前の料理の腕はスゲーな、いつの間にかこの品数だ」
「小鉢は買ったもずくを出しただけみたいな調理してないものもあるけどね、でもそう言って貰えるといい気分かな」
「ホント、実家暮らしの男子高生、男子大学生にあるまじき高スキルだ」
「今は女子大生だけどね」
「うーむ。女子大生だと案外普通に思える不思議」
「不思議は良いから覚める前に食べちゃってよ、寒いからすぐに冷えちゃうよ」
「ああ。じゃあいただきます」




出来上がった料理を貪るように平らげる俺。大盛りの料理と米が見る見るうちに減っていく。
分かってはいたが見た目だけでなく味のレベルも高い。
ダシや素材の味が効いてる上に、濃い口の煮物と薄味の味噌汁と俺の好みを的確に再現している。
そもそもお袋はダシパックの使用すら半分程度でダシなし味噌汁出てくる事多いからな。
好みの問題とかじゃなくレベル差が激しい。


我を忘れて食事をとっていた俺だがふと気になって顔を上げ正面を見てみる。
清彦は手を付けてないというわけではないが箸の進みが妙に遅い。
俺が大盛りを七割強食べ終えたというのに小盛気味の清彦は二割かそこらしか食ってない。
「えっと…食欲ないのか?こんなに美味いのに」
「あっ…えーっと…そう言うわけじゃないんだけどね」
「働きすぎて疲れちゃったとか…少しは手伝えばよかったかな」
「そうじゃなくって」
「ん?」
「美味しそうに食べてくれてる姿に見とれててね。美味しそうに食べてる姿を見るのって作り手的には嬉しいものなの。
それですっかり食べてる敏明に見とれてて自分の食事が疎かになったってわけ」
つい見とれるほど美味そうに食ってたのか。じっくり見られると少し恥ずかしい。

「見とれるんなら俺じゃなくってもっと別のものに見とれなさい」
恥ずかしかったので、清彦の凝視を制したのだが清彦は聞き入れてくれなかった。




「敏明は一人きりのご飯の寂しさ知らないでしょ」
「うん…?」
微妙に機嫌の悪そうな清彦に若干困惑しつつ首を縦に振った。


「たまにならいいかも知れないけど毎日一人で晩ご飯って結構クるものがあるんだよね。せっかく上手に作れても
美味しさが半減するくらいね。今日の料理だって敏明が美味しそうに食べているのを見たいからこそ全力で作った
って言うのに…そんな事言われると私悲しんじゃうわ」
妙に…っていうか若干演技がかったくらい悲しそうな声を出す。
演技と分かってはいても涙声を出されると弱い。ついでに女の子の頼み事は基本苦手だ。
さっきまで散々世話になった相手という事もあって、俺が清彦のご機嫌を取るという形でこの場は片が付いた。


「ところで清彦?」
「んー…ずっと気になってたけど女の子になったんだし清彦呼びはどうかと思うのよねぇ、せっかく私が女の子の喋りを習得したのに」
口を尖らせ、ほんのり不満げに頬を膨らまし髪の毛をくるくるさせた。
あざとい。っていうか俺を煽って楽しんでるのかコイツ。

少し腹は立ったが今日一日はいろいろして貰ったし、女になって名前が清彦と言うのもおかしな話と言う点は同意だ。
とは言え俺にとってのコイツは性別が変わっても清彦なのだ。他の呼び方と言われてもどうもしっくりこないのだ。




「だが清彦って名前は俺が唯一下の名前で呼べる親しい人間の名前で、変わらないでいて欲しい名前なんだよ」
煽るような清彦に対ししっぺ返しのように少し意地の悪い返しをする。
ただ実際に清彦と言う名前が変わるのは寂しいとも思っている。
清彦にも思う所があったようでさっきまでの、あざといドヤ笑顔から真面目な顔になる。
しばし考えて清彦なりの答えを出した。


「僕にとっても自分の下の名前を呼んでくれるのって敏明だけなんだよね。親はあんまり喋ってくれないし」
地味に悲しい事を言いつつ清彦は続ける。
「でもさ、だからこそ敏明に名前を決めて欲しいんだよね。この外見で、この体型のいかにも女の子っぽい子が
いつまでも清彦って名乗ってたら変に目立つじゃない。戸籍の性別変更手続きもあるしいい加減に名前と性別を
書き換えとかないといけないし」
「まだだったんだな」
「自分で手続しないといけないとどうしても手間がかかるし、書き換える時は性別だけじゃなくって名前も一緒に
書き換えときたいし。だから早い所、女性らしい名前が欲しいんだよね」
「まぁ自分の名前を変えるなんて普通は無いけど、変えるとなると迷いそうだしな」
「だからさ、僕の名前を一番読んでくれそうな人…敏明に名前を決めて欲しいって思ってるんだ」
地味に責任重大、しかしその申し出に清彦との絆を感じ嬉しかった。



「信頼は嬉しいが、清彦を清彦でない呼び方にするとなるといいのが思いつかない。清彦は何かいい案ないか?」
「早くも清彦連呼してるし…うーん」
「神本呼びよりかは清彦のがいいだろ?」
「だったらまだ清彦かなぁ」
「現状は清彦と呼ぶしかないからな」
清彦のゲシュタルト崩壊を迎えそうになりつつ清彦(仮)は言った。

「私としては清の字を使った名前が良いかな?女の子らしい名前だと清香とか清音とか清乃とかかな」
「結構出てくるんだな」
「私だって女になってから約一か月、自分の女性名を考えなかったわけじゃないからね」
「んで、どれが最有力だ?」
「どの名前も綺麗だったり可愛い印象があって好きなんだけどやっぱり名前は誰かに呼んでもらうためのものだからね
一番名前を呼んでくれる人の意見を聞かずには決められないよ」
「結局は俺が決めるわけね」
「まぁ明日もたっぷりサービスしてあげるからさ」

責任重大な申し出に俺は決められず、暫くは清彦と呼びつつそのうち決めるという事で落ち着いた。
キヨカで他に清果と清華があったり清菜や清紗なんて候補がある事も聞いた。迷う。
っていうか清彦って女性化しやすい名前なんだな。
…などとおかしなことを考えていた。




楽しいと時間は早く過ぎると言うが今日と言う日が過ぎるのはとても早かった。
昨日もゲームのし過ぎで時間は早く過ぎたが今日はそれ以上だ。
まぁ今日も半分くらいはゲームしてたけど。

「今日はお前が一緒だからか結構楽しかったよ」
「そう言ってくれると頑張った甲斐があったってものだよ」
「ところで明日の予定は決まってるのか?」
「明日?明日も今日みたく敏明の面倒でも見ようかなって思ってるよ、ご両親が帰ってくるまで二週間近くあるし
それまで家事する人いた方が良いでしょ?敏明一人だと不規則な生活とジャンクな食事になりそうだし」
「違いない」
この数日間そうだっただけになんとも耳の痛い話だ。

「しかしお前の都合とか良いのか?ってか毎日とか大変だろ、ヘルプ呼ぶかもしれないが今日はこんなにやったんだし
明日はのんびりしても良いんじゃないのか?」
料理はもちろんの事、掃除も洗濯も片づけてて…ってか洗濯物って両親のも多少混ざってたよな。
俺が怠けてたからとは言え清彦に洗濯をさせるとはふてぇ両親だゼ。(ヲイ)
そんなものぐさな親子に対して清彦は働き者だ。

「家事は毎日やるものだよ敏明?一つ一つは簡単だけど毎日欠かさずやってこその家事!!でだからこそ
専業主婦はちゃんとしたお仕事になりうるんだよ。お嫁さんに憧れる身としてはそう簡単には休めませんな」
「スゲー大学生で主婦の鑑だ」
「えへへ、もっと褒めてー」
仕事人と言う意味では大人より大人な清彦だ。しかし軽口で褒めて欲しがるコイツは少し幼く見え
そのギャップに少し、かなり可愛いように見えた。




夜も遅いので清彦は帰る事になった。
別に泊まっててもいいし、昔みたいに夜通しで遊ぶのもいい。
今日は親目を気にしつつゲームなんてマネはせず堂々と夜更かしできるというのに。


「うーーん。お泊りも考えたけど一応は乙女だからね」
「まぁ一応はな」
乙女歴一月足らずのインスタント(しかし家事とかはハイスペック)な乙女か。

「一応とは失礼な。まぁ私も女の自覚を持つために男性の家に二人きりでお泊りは自重するのですよ。
一晩一緒に遊ぶっていうのも魅力的ではあったんだけど、今日はこのまま帰る事にするよ。どうせ家も近いんだし」
「しかし一晩一緒に遊ぶってちょっぴりエロくね?響きかが」
「バカ、エッチ」
「どうせ俺はエロいよ、というか年頃の男がエロくない方がおかしい!!断言ッ!!」
「そんなの自信満々に言わなくていいから…」
呆れつつ出発の準備をする清彦を見て口が動く。

「家まで送ろうか?一応は女の夜道だし」
「嬉しいけどいいの?ものぐさな敏明にしては珍しい」
「メンドイっちゃメンドイけどお前の家そんな遠くないし、別に要らないならゲームの続きを興じ」
「出来れば遠慮する私を強引に押し切ってくれれば最高だったけどなぁ」
「俺に気づかいを求めるべきではない」
「そだね。じゃあ私からは気遣いは求めないけど申し出は有り難く受け取ろうかな?ちょっと怖いし家まで送ってってね?」





清彦の家までは歩いて7~8分程度の距離にある。
小さい頃は歩幅の小ささもあってちょっと遠出をした気分になったが今は散歩にもならない近距離だろう。
高校時代は静かな勉強スペースとして通い続けた時期もある程に良く通った場所なので余計に近く感じる。

「しかしお前の家って久しぶりだよな、週6で通った時もあったのが懐かしい」
「だね、受験勉強で使いたいって言うのは分かってたけどそれでもほぼ毎日は多かったよね」
「俺はお前ほど意志が強くないからな、誘惑のないお前の家の方が都合良かったんだ」
「僕の家にだってゲームや漫画くらいはあるけどね」
「エロい系のオカズがないだけ誘惑が少ないさキリッ」
「僕の友人は基本良いヤツだけどエロいのと寒いギャグを自信満々にいう所がザンネンです」
「真面目な回答するとお前の部屋だとゲームの場所とか分からんからな、ついでに人目がなくって図書館より静かだ。
ウチは場合によって姉ちゃんがうっさいからその意味でもお前の家の方がいいんだよ?」
「それは…」
「どうした?驚いたような声出して」
「まさかの婿入り宣言…じゃあないよね…流石に」
「ああそっか、お前って今女になってたんだったな」
「そこ忘れちゃうの?」
「男時代の口調、僕とか言ってるからついな。さっきから気になってたが」
「うー、今日一日は頑張って女らしく振舞おうって思ってたのに…僕とか言うなんて恥ずかしい」



珍しく動揺し恥ずかしがる清彦を見てアリだと思った。
これは清彦自身のスペック(胸と可愛さとあとおっぱいの力)によるものが大きいんだろうと思った。
あとは家庭的なしっかり者がベースだからギャップ萌えか。

俺の邪な考えはニヤケ顔として出ていたらしく清彦に怪しまれた。
流石に『動揺して恥ずかしがる女の子は居乳に限る』などとは言えなかったのではぐらかした。
ついでにギャップ萌えを感じた事を言うのもなんか嫌だったので黙っておいた。
さほど遠くない場所にある家だ。会話が弾んだかと思う頃には清彦の家は見えていた。


「えへへ、今日はありがとね」
妙に機嫌の良さそうな清彦はなぜかお礼を言ってきた。
「今日はほぼ一日中俺が世話になっただけだろ?」
「大体そうだけど送ってくれるって言ってくれた時は結構嬉しかったよ?」
「送るっつっても片道十分もかからん短距離だ。気にするほど大した事じゃないだろ」
「そうだけどね、そうかも知れないけどね」
「何か様子がおかしくないか?働き過ぎて体壊したとかはないよな?」
「別にそんなんじゃないの。ただ家まで送って貰ったのが嬉しくってね」
「俺がされたことに比べりゃジャブだろ」
「でも女の子の夜道は危ないってついて来てくれるのって結構嬉しいんだ。女の子として大切にされてるって感じがして」
清彦の、或いは女の子の歓びポイントって良く分からん。そう思いながらその日は別れた。





家に帰り自室へ戻った。
昨日のこの時間はRPGで時間を忘れていたくらいの時間帯だろう。
今日の明け方、或いは夕食の前後は中断したゲームを早くやりたいとばかり考えていた。
難所兼稼ぎどころで中断したから余計に楽しみで食事や風呂と言った雑事に如何に煩わされないかが大事だった。
洗濯物や食器の片づけとか(両親が帰る頃には終わらせる必要があるが)全く考えていなかった。

清彦がやってきた。
食事やその他の家事の心配事が無くなってゲームの時間を確保するチャンスが出来た。
だから清彦が帰る時に送っていこうと言ったのは自分の事だが意外だった。
まだあいつが家にいる時ですら早く遊びたいと考えるくらいだったから、往復で二十分とは言えプレイを遅らせる
と言うのは相手が親しい友人であったとしても奇妙と思える行動だった。


清彦を送って今度こそ遊ぼうとする。
確かに中断していたゲームは面白かった。
面白そうなダンジョンと予想していたが予想以上だった。

でも物足りなかった。
今朝の時点では二度寝と並ぶ人生最高の幸せと思っていたものだ。
だというのに俺はイマイチゲームに集中できず、大した収穫が無かったとはいえセーブもせずに中断した。






特にする事が無くなったのでそのまま眠りについた。
眠る時に巨乳で尻も大きい茶髪の少女の顔が思い浮かんだ。
夜が明ける頃にまた彼女の顔を見て声を聴くのが楽しみだった。
昨日眠る時にゲームの再会を楽しみにしていたが楽しみの度合いはそれを上回ると思う。


朝になって目を覚ます。
時刻は七時を少し過ぎたくらいだ。
昨日はさほど夜更かしをしなかったとは言えかなり早起きだ。
大学がある日と変わらないくらい早く起きた。
子供の頃の遠足の日や、休日の時とよく似た感じの目覚めだった。



「俺はそんなにアイツと会いたいんだろうか?」
美少女になったとは言え気心知れて、特に気も使わないような友人だ。
顔を見るのが普通過ぎて会わないと違和感を感じるものの、会いたいとなんて思った事のない友人だ。
清彦と再会するのを明らかに待ち遠しく思っている自分に少し悔しくなった。
でもアイツが今何をしているのか、何時になったらここへやってくるのか、そんな事が気になるのは確かだ。
待っている間にゲームを再開しようとは全く思わなかった。
暫くの間、中断したゲームの存在自体を忘れるほど清彦の事ばかり考えていて負けたような気分になった。
その事を少し嫌と思ったが扉を開ける音が聞こえたら、嫌と思っていた事も忘れていた。



寝ぼけていたのか、それとも急ぎ過ぎたからか清彦を出迎えようと階段を下りていたら踏み外して痛い目を見た。
騒々しい出迎え人に清彦は一瞬だけ目を丸くしたが「おはよ、今日は早いね」と見事なスルースキルを発揮した。
「お前の顔が見たくなってな」…と気障なセリフを吐いてみたかったがガラにないのでやめた。
なので「お前ばっか早起きじゃ悪い気がしてな、今日は少し頑張ってみた」と謎の張り合いを見せた。
しっかし清彦の訪問を感じ取ったらどうしてパンチラ画像が思い浮かぶんだか。男のサガか俺ってエロい。


清彦的には昨日と同じく、朝食の準備を開始した。
「出来るまで30分はかかりそうだし二度寝かゲームでもしてていいよ?何なら完成を遅くするって手もあるよ。掃除とかもあるし」
清彦の申し出は昨日の俺ならば喜んでどちらかを受け入れたが、今日の俺はそんな気分じゃなかった。
二階の自室に戻ってゲームや二度寝をするより、コイツのいる階にいる方が良かった。
人生で最も幸せな時間である筈の二種の贅沢が、さほど贅沢とは感じなくなったことに戸惑いは感じた。
ただそれでも清彦の声が聞こえる場所にいる事を優先したかった。

清彦の方も昨日と様子の違う俺に多少混乱しているようだが「お前が頑張ってるのに俺がダラけすぎもどうかと思っただけだ」
と言うと納得したような笑顔で返してくれた。


今日の俺って変だな。
清彦は納得したが、自分自身は納得できなかった。
変な気持ちを抱えながらも部屋の掃除をしつつ朝食が出来上がるのを待っていた。
変だ。今日の俺ってホントに変だ。



変な気持ちのまま昼を迎え、夕方になった。
ゲームの事はほぼ頭から抜けていてたまに思い出すってレベルに留まり続けていた。
当然ながら清彦と一緒に掃除をする事を優先していた。

「別に遊んでてもいいのに、お昼寝も可だよ?」
相変わらず違和感を感じ不思議そうにしている清彦に対しては「今日はゲームよりお前と一緒に掃除していたい」と答えた。
「からかってる?…でもありがと」
頬を染めながら感謝する清彦を見て、隠し雑魚(強)との戦いを後回しにして良かったと思った。
だから夕食の買い出しも俺の方から一緒に行こうと言い出したのだった。


やたらと理由をつけて女の子の近くにいようとする。
高校時代の委員会や体育祭で、別にやりたくない役職や競技に参加した時の事を思い出した。
「これじゃあまるで」
「ん?どうしたの」
「ああ、ちょっと考え事だ」


清彦を見ていたら高校時代の好きな女の子やその子と一緒にいたがる自分を思い出してた。
今の気持ちは好きな子と一緒にいる時間をどうにかして見つけようとした高校生の時の気持ちとよく似てる。
…正直な感想を口に出すほど俺に度胸は無かった。
高校時代の好きな子に対しても、当然、付き合いの長い友人に対しても。
それにいくら可愛い娘になったとは言え友人と、清彦と恋愛関係になるというのも変な話だ。
相手が清彦だと思うと胸の鼓動は少し大人しくなっていた。



買い出しを終え、清彦は調理をし俺は風呂へ入る。
今日は買い物で時間がかかったので背中を洗う余裕はないそうだ。
昨日のはやりすぎた部分があるというのも理由らしいが。
ホッとしたような残念なような…だな。

スタイルの良い女の子がいい感じに露出した格好で俺の背中を洗いに風呂へ入る。
裸や下着姿のような直球ではないがその姿には十分な色気がある。
ホットパンツと尻然り、薄手Tシャツ然り、元々のスペックもありなかなかいいものだ。
加えて俺に尽くしてくれてる感じがなんとも心地よく嬉しい。
健気で世話焼きな女の子って身の回りにいなかったからか清彦はかなりの清涼剤だ。

うーん。こう思うあたり昨日の一日で俺は清彦の事を女の子と認識するようになったのだろう。
実際に女の子ではあるのだが。(成人してるし女の子ではないか?)
しかし清彦、親しいけれど同性の友人と言う感覚はやっぱり強い。
微エロシーンにニヤけたり興奮したりはするけれど清彦だと思うとエロ気分は霧散する。
非常に残念な話である。

…というより俺はアイツに何を求めているんだろう?
友人として親しくなのか、日常に対する清涼剤として動いてくれると嬉しいのか。
それとも異性になったという事で、異性としての清彦を求めていたりするんだろうか?
異性と認識してきているが、異性、恋人関係を求めているっていうと違う気がする。
が、好きな女の子といる時と同じ気持ちにはなる。



「今日はちょっとお風呂長かったね」
「ん、まぁたまにはな」
入浴中に変な事を考えていたせいで若干のぼせた。
異性になった元同性の親友を見つめる。
俺はコイツの事をどう思っているのだろうか?
一緒にいるのが当たり前すぎて、実はまともに考えた事も無かった問いかけだ。
コイツが女性の人生とやらを歩み始めると、どこかの男の嫁にでも行ってしまうんだろうか?
自分の嫁にしたいとは思えないものの、コイツがどこかへ行ってしまうのは何だか嫌だ。
微笑ながら一汁四菜を用意する清彦を見ながら少しくらい気持ちになった。

その時おかしな顔をしていたようで「どうしたの?」と不思議そうにしていた。
上手い返事の思いつかなかった俺は「お前を嫁にする男は幸せ者だと思っただけだ」と答えた。
それを拡大解釈されたようでみそ汁をよそう手がズレてかなりこぼれてしまった。





「ふぅ、今日も美味かった」
「はいはい、じゃあ食器を出してね。片づけるから」
「食後すぐ動くとは働き者だ。お袋も俺も食後はダラダラするというのに」
「私も油断するとダラダラしそうだからね、だから気が抜ける前に動き出すの」
言いながら手際よく片付ける清彦、乾いた食器を片付ける手は淀みなく家の住人である俺よりも
どこに何があるのかを把握しているようだった。有能だ。



今日はどちらかが何かをいう事もなく、家まで送る事になっていた。
心なしか外出の準備をする清彦が楽しそうだった。

外での十分弱の時間、昨日と比べて会話が少なかった。
多分、清彦に対して女の子と言う意識が出てきたせいだと思う。
こういう時、女慣れしてなくて苦手意識を抱いてしまう自分が嫌だ。
理工学部で女子が少ないせいかなぁ…姉ちゃんは女子ではなく雌豹…雌トロールなので除外する。
清彦の方も、俺にぎこちなさにつられたのか会話を探そうとするが言葉がなかなか出てこない状態だった。


「しかし、お前は本当に物好きだよな」
「そうかな?」
「そりゃあワザワザ人んちの家事をしに来るんだから物好きに決まってる」
「でも、前も言ったけど女性体験、お嫁さん気分を味わうイベントと思うとタダ働きも意外と楽しいよ」
「タダ働きか…耳が痛い」
「別に皮肉とかじゃないよ?彼女が彼氏の家に行ってご飯作ったり掃除したりするって話あるけどそういう
気持ちが分かるくらい。お世話をするのが楽しいって感覚が結構分かっちゃった」
「まぁ彼氏彼女の関係ではないが…物の例えだな」
「物の例えだね」
「だが昨日と今日とせっかくの春休みに働かせて悪かったよ」
ホント、受験期の時以上に今の清彦には頭が上がらない。




「そんな、気にしないでって。私だって楽しいって言ってるじゃない」
「だが飯もそうだし、片づけもして貰ったし、何か色々貰った気がして何か悪い気がする」
「悪いと思ってるんならさ、そのうち一緒に遊びに出かけようよ。それで色々サービスしてよ」
清彦の家を目前に、お誘いが来た。

「一緒に遊びに出かけるとかかなり久しぶりだよな」
家に遊びに行くくらいならたまにあるし、昨日今日みたいなこともあるが遠出って実は珍しい。
大学入ってからは言えと学校以外じゃあまり一緒にいなかったので下手をすれば高校以来という事になる。


「懐かしいし一緒に遊びに行くというのもいいかも知れん、しかしサービスするって言われてもどうすりゃいいんだ?
飯を奢るとかそんな感じか?清彦の飯に対してタメを張れるような食事を奢るとなるとなかなか財布に厳しいな」
「じゃあさ、お金的に厳しかったら誠意と労力で支払ってよ、あんまりお金は使わないけど楽しめるような
そんなプラン考えてさ、接待するような感じで遊びにつれてってよ」
「金がないならそうなるか」
貧しければ貧しいなりに工夫をして楽しむのが俺流、まぁ普通の大学生は金欠で節約するものか。
「プランを立てて、接待するかのように」
清彦の出した条件を反芻しつつどんな内容になるのか想像する。

「…なんかデートっぽい」
そして余計な事を口にする。





「恥ずかしくなる事…いっ言わないでよ!!」
俺の一言が清彦に刺さったのか珍しく慌てている。
友達と一緒に遊びに出かけるという、最近はしてないけれど前は良くしていた行為だ。
しかし清彦の性別が変わって異性の関係になると思うと確かに気になるし少しは焦る。今の清彦ほどではないが。


「そりゃあ敏明とはよく遊びに出かけたよ。最近こそは一緒に出掛ける頻度が減っているとはいえかつては週に
一回は一緒に出掛けるなんて時期もあったわけで、僕と敏明にとってはごく普通の日常ってわけなんだよね。
でも私も女になって自分が貴方の異性であるという自覚を抱いてしまったわけですよ!!そうなると例え実情が
親しい友人同士が遊びに行くというごく普通の内容であっても、休日に男女が一緒に遊びに出かけるって結構
な大イベントっぽくなってしまうのです。私も女になった以上は独り身を貫かない限り男性とのデッ…デート
は避けて通れないイベントになるわけで…やっぱり男と女が一緒に遊びに行くってそういう意味でとられちゃ
うよね?とにかくデートには違いないけど、変に意識するとどうしたらいいのか分からなくなるからエスコートを!!」
清彦は混乱して早口で妙な事を口走っている。
目の形状がこんな(><)のやこんな(@@)のになるほど混乱している。
その姿不覚にも萌えを感じた。


「まぁとにかくデートっぽい事をしたいけど、男女関係を意識するとおかしなことになるからいつものように
遊びに出かけられるように手間暇を惜しまなければいいんだな?」
「えっ!?う…ん」
ツッコミ役の清彦が暴走したら俺がまとめる役だ。
要点をうまく纏められたようで清彦の混乱状態は回復した。心なしか不満そうに見えるのが残念だが。


「まぁ敏明と遊びに行きたいけど、デートと思うと恥ずかしいんだよね」
「まぁ同感だ、女の子とデートとか俺には生涯無縁な話と思ってるからな」
「まっまぁ、僕は女の子とデートした事がない訳じゃないけどさ」
「初耳だ。詳しく聞きたいところだな後世の為に」
「良いから話の腰を折らないの!!」
「すまん」
少し機嫌を悪くし清彦はむくれた。

「昔のデートの事もあるんだけど、こう…女の子になってから彼氏にエスコートとされるようなデートって
いうものに憧れててね、私も女として生きるわけだし、女の利点というものを体験したいの」
「確かに利点っぽいかもな、プラン考えて貰って基本奢られるとかそりゃあ得だ」
「単にお金の問題じゃないけど、とにかく憧れてるの」
「任せとけ、経験はないけど女になって良かったと思えるくらいのデートプラン用意してやるさ!!」
「根拠のない自信だ、でもありがとね嬉しいよ」
幼馴染で親友の女の子の笑顔を眺めながら彼女と別れた。





友達と一緒に遊びに出かけるという決して珍しくないものだった。
しかしアイツの性別が変わったとなると意識しないのは難しい。
俺の清彦に対する認識はこの約束で完全に親しい異性と言う認識になっていた。
だから翌日や翌々日も、彼女が家にやってきて飯を作ってくれた。
そんな光景を思い浮かべてしまい、あろう事かこんな嫁さんと結婚生活を送っているって映像すら思い浮かんでしまう始末だ。
そのせいでぎこちない空気となってしまった。

しかし清彦を異性と認識したおかげで、デートプランに対する熱は高まった。
映画、ゲーセン、早い夕食とプランそのものは普通だが楽しんで貰えるよう出来る限りの事はした。
「お前みたいないい女、彼氏になりたい奴は多いさ。俺を含めて」
帰り際に放った一言がクリティカルヒットのようで、清彦は…いや清音は俺に抱き付き涙すら流した。


お互いの両親はまだ不在、清音も今日は一日中俺と一緒にいたいようで家には帰らずにお泊りとなる。
結局、合体はNG出されたせいでキスしか出来なかったが、こうして俺と清彦…清音は恋人関係となったのだった。
元が同性の親友で今は恋人の関係、お互いに長い付き合いで相手を知り尽くしたうえでの交際だ。
俺達の関係が崩壊するなんてとてもじゃないが考えられない。



epiro-gu

「清音、じっとしてなくていいのか?自分の飯くらい自分で作るって」
「いいのいいの、敏明のご飯作るのって結構楽しいんだから」
「なら期待して待ってるか」
「ご褒美として旦那様の素敵なキス3分を要求するけどね♥」
「3分はチョイきついかな」
「お腹の子に夫婦仲が良い所見えつけたいんだよね♥」
「やれやれ」
旦那様や夫婦なんて言われているが結婚はまだだ。
卒業を目前にしたとは言え学生の身だからもう少しだけ先の話になる。
ただ結婚はまだだが俺達の夫婦仲は既に十分なほど出来上がっていると言っていいだろう。


「ウフフ♪」
「今日はイヤに上機嫌だな」
「素敵な家庭がもうすぐ出来るのかなって思うとご機嫌にもなるわよ。なにせ私って清彦時代から温かい家庭を
築くことが将来の夢だったくらいなんだもん。赤ちゃんの鼓動を感じながらその夢が叶うなんて素敵じゃない♪」
お腹をさすりながら満面の笑みを見せる清音に俺の表情もつい緩む。
実は清音の前だと何もなくとも緩む気がするがそこは敢えてキニシナイ。



「そうだ、敏明この子の名前なんだけどね」
「迷うよなぁ、そう言えば考えがあるとか言って無かったっけ?何があるんだ」
「女の子の場合はまだだけどね」
「男の名か…どんなのなんだ?」
「由来や願いから説明するね」
「ホウ、願いのこもった由来があるとかなかなか御大層な名前なんだな」
「将来幸せな家庭が築けるように、生涯に渡って親しくなれる人と出会えるように、両親の愛情をたっぷり注がれるように」
「いい願いだ」
しかしどこかで聞いた事があるような願いだな。
ただ最初の二つはともかく、三つ目の願いは少々歪んで不器用なモノっぽいのが気になる所だ。
清音は当然として俺だって器用じゃないがあの両親程、愛情を注ぐのが下手だとも思えんぞ?


「この子の名前は清彦!!いつかこの子が大きくなった時、この家に生まれて良かった。
そう言って貰えるようこの名前を選びます」

~FIN~


オマケ(清彦編)



子供は親を選んで生まれてくる。
幼い頃に偶然耳にしたこの言葉、どういうわけか分からないけれど当時の僕の耳と記憶に強く残っていた。


小さい子供って今の自分が普通で当たり前だと思うと思う。大人でも思うことあるのかな?
だから僕の場合も、親が研究三昧で家を空ける事が多いのも、欲しいオモチャは何でも手に入る環境なのも
ご飯は注文するか買いに行くのが普通だと思っていた。
だから家にはお母さんがいて、お姉ちゃんもいる友達が珍しくて凄く羨ましかった。
母親の手料理とかウチじゃオリンピックと大差のない頻度でしか出てこないからね。


自分の親を嫌っているというわけではない、でもお金やオモチャより一緒にいる時間が欲しかった。
食事も手料理とは言わないけど、せめて一緒の食卓で食べたいと思っていた。
敏明の、親友の家の高価ではないけど手作りの料理とか憧れてた。
それで出来る事ならあの家の子になりたいって思っていた。
だからもし本当に自分で生まれる先を選べるのなら絶対ここを選ぶよなぁって思っていた。


ただ、敏明の家に遊びに行ったり逆に彼の方が家に来たり。
行き来できるくらい近所にあるので神本家でも悪くないかなって思っていた。
敏明と一緒の時間はこの家だからこそ確保出来るから。




幼子も小学生の高学年になれば多少は大きくなり少年と呼べる年齢となる。
これくらいの年齢になれば自分の家が普通、平均とは大きく違うのも理解できる。
家を空ける頻度が多いのはともかく、両親がどっちも仕事(=趣味)に集中しすぎて子供を忘れるなんて家庭は流石にレアだろう。
その代りお金だけは有り余るくらい手に入るけれど、正直そんな大金はあっても使えない。
結局のところ、幼い頃と変わらず僕は温かい家庭に友達のような家庭に憧れるのだ。
違いと言えば家事のスキルが成長したくらいかな?
特別手の込んだ料理こそできないけれど、ちょっとした汁物や煮物程度なら下校後に作れる程度だ。
煮物こそ最も難しい料理の一つだという事を知らなかったけれど、マズいとは思わなかったので出来は悪くないだろうし。


自由人過ぎる親のお陰で、僕こと清彦少年は高い家事スキルを持ち温かい家庭に憧れる乙女な少年になっていたのだ。
同い年の男の子が昆虫とポケモンとドラゴンボールに明け暮れる中で一人家庭料理について模索してたからね。
敏明にすら「お前変わってるよ」って言われるくらい。
しかも顔も女の子っぽいから、割と腫物扱いだ。結局、小学生の時の友達らしい友達は敏明くらいしかいなかったし。
ただ一人ぼっちが長いと家庭的なものに恋しくなるモノだよ。


敏明は家に誰もいないと自堕落なゲーム三昧になって家庭のかの字もないのは内緒の話だ。





中学高校に上がる頃には浮かないように、家庭的アピール(日常生活の説明)はしないようにした。
しかし時折、家事に関する話が出る事があるので僕のあだ名は『乙女男』や『嫁系男子』だった。
女の子っぽい部分はあったけれどこのあだ名はちょっと嫌だった。

でも嫁というものには憧れていた。
好きな人のお世話をするのが主な仕事で、その仕事も本人の裁量次第でどこまでも出来る。
世間じゃ軽く見られているけれど、家を守る人の存在がどれほど大きいのかは身をもって知っているからね。
もし自分に嫁や主婦の仕事を任せてくれれば、専業主婦が楽だとは言わせないくらいの事をする自信はあった。
優秀過ぎる反面教師のお陰で、僕の主婦力・家事力は、中高生の時点で家政夫⇔家政婦の三田さんに次ぐくらいはあるからね。
…思えばこの時に既にお嫁さんになりたい願望を持っていたのかも知れない。

高校生の時から敏明のお世話を何度かしてたし、その時が凄く楽しかったし。
彼の家も両親不在の時とか、僕が調理して二人での晩御飯の時とかテンションがおかしいって言われるくらい楽しかったからね。
世の中のお嫁さんはその気になればこんな楽しいことが毎日できるのか…羨ましいなぁ。
敏明が食後、ゲームに勤しんでいる時に僕はこんな事を思っていた。

ガチGID、性別違和の子よりお嫁さんに憧れてたりしてね。






女の子っぽくて、家事スキルなど家庭的な要素が強くて、幼馴染の親友とは大変に仲が良くて。
腐ったお姉さまの格好の餌食になる要素を持った僕だが、男子大生として平和な日常を送っていた。
そんな僕の平穏は両親によって崩された。


「面白い研究が実用化した」
「清君の願い事を叶えてあげられるよ」
「清君の明るい未来と私たちの研究の為に横になりなさい」
「さあ私達を信じて身を委ねるのです」

なんてセリフを吐いて怪しい実験に僕を参加させようとする両親、正直言って信じられないです。
身を委ねるとか怖すぎてとてもじゃないけど出来ないです。
と抗議をした程度で止まるような親じゃない事は二十年ほど息子をやった者としては良く分かっている。
麻酔か何かで眠りについている間に願い事は勝手に叶えられ、男としての僕の人生は終わっていたのだった。
ショックのあまり三日間は何も手につかないほどだった。泣く事すら出来ないほどに。


試験のお陰で半ば強制的に復活できたのは幸運なんだろうか?
単位を落とすと大変だから落ち込んでる場合じゃないって。
でも復活したところで外見(っていうか性別)が変わったせいで半分くらいは試験すら受けられないという悲しいオチがつくんだけどね。
替え玉受験対策に学生証を見せるのは分かるけどさ、途中で性別が変わった人の配慮位してよ!!(無茶振り)

「どうせなら試験後に性転換してよ!!」
と両親の無茶のお陰で性別が変わった事に対する問題はあまり感じなかった。感じてる暇もなかった。



人生何事も前向きが重要だ。
あの両親の子だからこそ学べたものだ。
性別を変えられた事を嘆くより先に、変わった性別ならではのメリットを見つけるのが優先だ。
…まぁ気持ちを切り替えるのに一週間近くかかったんだけどね。


とにかく気持ちを切り替えた僕、いいえ私は女である恩恵を受けるにはどうしたらいいのかを考えた。
考え始めて一分弱、女の子ならお嫁さんとか専業主婦とか家庭を守る仕事に就きやすいというメリットを見つけた。
見つけたというか常々考えているような事だった。


可愛いエプロンをつけ嬉々として調理をする私
デートやキスの時にリードして貰う私
純白のドレスに身を包む私
赤ちゃんをお腹に宿す私


母の言う通り、性別が変わったお陰で願い事が叶ったようだ。
ふざけているようで真面目に息子(娘)の幸せを考えていた…
と思ったら私に対するアフターサービス(体調のケアや性別変更に関する手続きとか)を考えずに次の研究を始めてた。
この両親は本当に何を考えているのかが良く分からない。
まぁ断片的な情報をつなぎ合わせると、好き放題生きてるけど我が子に対する愛情は存在するって感じかな?
私を幸せにする研究から性転換技術を開発したらしいし。どういう経緯で性転換技術に行きついたのかは分からないけど…。


お嫁さんに憧れ女としての人生を楽しもうと思った。
しかしその為には相手が必要だ。

私ってちゃんと結婚できるかな?
素敵な男性とお付き合いできるかな?
不安を感じつつもそれをはるかに上回るワクワクが私を包み込む。


男性に恋をした事がなかった筈なのに、ごく普通にお嫁さんとして男の人の身の回りのお世話をする自分を思い浮かべる事が出来た。
しかもその時の私はとっても嬉しそうである。もし嫁系男子が女になったら…嬉々としてお嫁さんとしての人生を謳歌するよね。
相変わらずの自分の嫁っぽさに一瞬呆れた。
しかし今は嫁っぽさは短所でも呆れる要素でもない。
思うがまま恋愛とか、嫁になる事に憧れればいいだろう。
急な性転換で嘆いていたのが嘘のように、良かった探し開始から数分で女の人生を楽しみだした。


妄想の世界の男性がいつまでも顔のない男と言うのは味気ない。理想の旦那様を思い浮かべよう。
しかし浮かび上がるのは理想の旦那様と言うより、とある身近な青年だった。
確かに彼は私にとって好きな人で大切な人には違いない。
しかし私は彼を異性と見なした事はないし(女性化してからまだ会ってないからだけど)彼も私を友人以上とは思っていない。


私が敏明のお嫁さんのように振る舞っている姿を思い浮かべるのは彼が身近な男性だからだろうか?
それとも元々敏明のお嫁さんにでも憧れていたんだろうか?


思い浮かべたもしもはエプロン姿で敏明の為にご飯を作っている私だった。
しかし敏明を強く念じると下着を見せるようなエッチな私が出てきてしまう。
料理だけじゃ飽き足らず、服を脱ぎ、同じベッドで寝て、何か一瞬だけお花の映像に切り替わって
ああっ!!想像の私って敏明の子を妊娠してるじゃない!!
そりゃあ女性としてお嫁さんに憧れるのなら妊娠くらいいつかはしたいけどさ…まだ早いよ…。



憧れのお嫁さん、その称号が少しの頑張りで手に入る状況になった。
しかし考え始めるととんでもない事ばかり思いついてしまう。
ならばここはいっそ行動に移してみるのがいいかも知れない。
家に敏明しかいない日がやってきたらその時は押しかけ女房のように振る舞ってみよう。
だからなるべく早くチャンスが来ますように。



私が敏明の疑似嫁計画を立てて一週間後、私の両親は敏明の両親を旅行に誘いチャンスが訪れた。
普段は良好にいかない両親の珍しい行動はひょっとすると私の気持ちを汲んでくれたのかも知れない。





気持ちの整理と計画と計画を済ませると、敏明の家に行きミッションを開始した。
彼は案の定だらしなくって布団を蹴飛ばし高イビキだ。
そのだらしない姿に呆れつつも、お世話をしたいという欲求が私を動かした。母性本能なんだろうか?

あと、どういうわけか分からないけれどこの家の合鍵がテーブルの上に置いてあった。
あの鍵っていったい誰が用意したもので、どんな目的なんだろう?
作為を感じずにはいられない。でも私としては具合がいいのでそのまま鍵は借りておこう。


「敏明、いい加減起きなよ」
朝食の支度をある程度済ませても起きてこないネボスケさんに声をかける。
ただ朝食の用意をして、ただ親友を起こしているだけ。
自堕落な彼のお世話をしつつ、お目付け役として動いているだけ。
ただそれだけなのに私の心は不思議と満たされていく。表情が緩んでしまいそうなほど。


「せっかくの二度寝タイムを妨害するとかどういう心算だ清彦!!」
押しかけ女房になる心算だ敏明!!
とまでは口には出せなかったがこの一週間は敏明の嫁役を思う存分体験する事はこの時既にに決めていた。




彼に対し少しでも快適な時間を過ごして欲しい、そう思い私はやれる事を全力でやった。
ちょっぴりエッチなお色気イベントにも挑戦してみた。
ゲームの事しか口にしないような敏明が私の事をよく見るようになったのはきっと異性として意識しだしたという事だろう。
翌日の帰り時、デートのお誘いを受けた時に確信をした。
かくいう私も敏明(というか男の人自体を)異性と見なすようになっていたけどね。

デートとか恋人とかを飛び越えての押しかけ女房だ。
順番はおかしいけれど私と敏明の仲が進展するのは分かり来ていたようなものだ。
デートは成功し、正式な恋人ではないものの時々恋人のようにデートに行く間柄になれた。
当然、春休みは押しかけ女房の如く敏明のお世話をする。


彼のご両親も性別が変わって混乱する事の多い幼馴染(私)を守るように敏明に言ってくれたようで
春休みが終わってもデートや押しかけ女房風の日々は続いた。
実の両親は選べないけれど、義理の両親は選べるなぁ。
もう一組の両親とも良好な関係を築きながら私は少し先の未来を視ていた。






デートが日常になり、キスをして、ついには体を重ねた。まぁキスは初デート(押しかけ3日目)にはしてたけど♥
あまり時間を要さずに私が「もう、貴方の女としてしか生きられないかも」とついこぼす程に私達は親密になっていた。
彼の方も私の存在を大きく感じてうっかり漏らした私に対して大声で「俺責任取るから」だ。
責任って考え方は好きじゃないけど、責任を取ってくれた後の日常には大きな魅力を感じる。
その場は有耶無耶にしつつ、後日ちゃんとしたプロポーズを期待して。



大きくなったお腹を左手の指輪を眺め私は悦に入った。
強いて言えば家事をする時に指輪が邪魔なのが少し困るかな?
「清音、じっとしてなくていいのか?自分の飯くらい自分で作るって」
「いいのいいの、敏明のご飯作るのって結構楽しいんだから」
なんてやり取りを日々の楽しみにしている。


私達は婚約し、卒業して生活が落ち着く頃に正式に入籍することになった。
結婚に当たって両親と話をする機会を設けた。私の性別を変えた真意についても聞いてきた。
やはりと言うべきか、敏明のお嫁さんになれるようにと私に対しての愛情故だそうだ。
ただ一番の理由は体を作り替える技術と、性別を変える技術が出来たので試してみたく丁度いい被検体が近くにいたからだそうだ。
自分の子を被検体として見る両親ってどうよ?
まあ結果として女になれた事を喜んでるから結果オーライ…かな?


「そうだ、敏明この子の名前なんだけどね」

もしこの子が男の子なら清彦と名付けたい。
苦労する事もありそうだけど、将来的に大きな愛情を見つけられそうだから。
何より不器用(半分は自分本位だけど)ながらも子供に対して愛情を持っていた私の両親に対する感謝と敬意からこの名前を付けたかった。
貴方達の息子清彦は両親の愛情を感じています、貴方たちの子で良かったと思っています。
その気持ちを伝えるのにこの名前が一番いいと思ったから。
まぁ私の気持ちとか関係なく、私の両親は今日も自由にやってるんだけどね。


「この子の名前は清彦!!いつかこの子が大きくなった時、この家に生まれて良かった。
そう言って貰えるようこの名前を選びます」
清彦が生まれ、私と彼の子を持てた歓びだけでなく敏明とウチの親の微妙な関係が改善したのはまた別のお話だ。
子供が親を選んでくるのかは分からないけれど、親の私は清彦ちゃんが家の子になってくれたことを心の底から喜ぶのだった。

~FIN~
この話のプロトタイプを思いついたのは夏休みシーズンでした。
高校生の親友が女性化して世話焼き通い妻をするような話。
何だかんだで書かず書けず春休みシーズンになったので設定を春休みに、それに伴って大学生に改変
決まってたのはラストだけで、後は清彦が甲斐甲斐しいだけ。良くも悪くも勢いだけで書ききったような話です。
清彦編は微妙で直した方が良いかとも思ったけど確認すると問題なさそうだったので一部表記を直すのみ。良かったのかな?


あとスレで名作扱いして下さった方がいましたが、TS親友が押しかけ女房としてイチャイチャする話なら
話としての体裁を保っていればほぼ確実に名作です。つまり本作は高確率で名作ですね(笑)
IDNo-NOName
0.1190簡易評価
2.100きよひこ
GJ待ってました