神童とか、天才少年と呼ばれるのが普通になったのは一体いつ頃だろうか?
小6の3学期の時にはアメリカの大学から飛び級の話が来るくらいだったしそれよりかはずっと前だろう。
オモチャの代わりに父さんの電子機器で交錯…もとい工作してたのが幼稚園の時だったし兆候はかなり昔からあったのだろう。
天才と呼ばれる才能があると出来る事は多い。
思いついたものを実現する道筋は割と簡単に出てくる。
一緒に遊ぶ、一緒に愉しむ友達もいたから幼い頃は本当に楽しめた。
ただ天才少年と言う肩書は悪い方に働く事だってある。
同世代の子供からは変人扱いされ疎外される事がある。
僕の才能を求め、仕事や成果ばっかり見られ自分を見て貰えない。
金の卵としての自分しか見て貰えない事が多くなりすぎ、いつしか僕は人を信じられなくなった。
そして便利な能力だとは思うものの自分の頭脳を疎ましく思う事も多かった。普通の人になりたいと思う事も多かった。
表向きは平静を装っているけれど生きているのが嫌だと思った事って結構ある。
ただ、隣に幼馴染のとある男の子がいる時だけは違った。
打算とか関係なく一緒に楽しめる間柄、彼と一緒の時だけは楽しいし、疑う事も無かった。
何かを作っている時間は楽しいし好きだけれど、完成したものを敏明に見せる時が一番好きだ。
海外や国立の大学からお誘いがあってもそれに乗らなかったのは敏明と一緒にいたいからだと思う。
この時から既に僕にとって一番大事なものは敏明だった。それも圧倒的な大差の一番だった。
発明により一層夢中になったのは彼を喜ばせたり、驚かせたりしたかったからだと思う。
さて、飛び級の話が来た時に両親は戸惑いながらも喜んだ。
まだ幼いという事でその場は断れたものの遠くないうちに遠くの大学へ旅だってしまう未来は容易に想像できた。
敏明もバカじゃないけれど、中学生くらいの年齢で大学教育を受けられるほどの才能は無い。
飛び級を受けたら彼とはほぼ会えなくなってしまう。
最先端の環境で学んでみたいという願望はあったもののそれよりも敏明と一緒の時間が大事だ。
「普通の子供と同じように中学や高校に通いたい」「高校を卒業してから大学へは行く」
そう言って両親を説得し、僕は普通に中学、高校へ進んだ。
敏明が同じ高校へ通えるように彼の成績を上げるのには少し苦労したけれどそれでも大事な人と一緒の時間を過ごす事には成功した。
ぱっと見は分からないけれど僕の内心は敏明が好きすぎて、趣味と特技と将来の夢が敏明ってくらい彼の比重が大きい。
趣味と特技はともかく将来の夢敏明って何さ?
流石に作文で将来の夢は敏明と書かなかったけれど、本心では『将来の夢は敏明』だ。
心の中はほぼ敏明一色な僕だったが、自分のなりたいものが彼のお嫁さんだという結論に至るのには数年の歳月を要してしまった。
飛び級を蹴った時から僕の心は変わっていないというのに気がついたころはもう高2だった。
だから4~5年か。敏明が一番大事な事は明らかな筈なのに…。こんな簡単な問題に数年もかけるとは僕の頭脳もまだまだだ。
それとも彼のお嫁さんになる事が困難すぎて、そんな選択肢がある事に気がつかなかったのが問題か?
しかし、気がついてからの僕は素早かった。
まずネックとなるのが僕の性別だ。
つまり女の子になる方法を見つける事が最優先の課題となる。
幸いにも人体を変化させる薬の研究はしていた為に女性化薬は二月で出来上がった。
動物実験しか行っていない薬だが、出来に自信はある。
毎週女性化薬を飲み続け、体が本格的に変わるのを楽しみに待っていた。
ラットと比べ大きな人間は数回飲んだくらいで性転換は出来ないのだ。
2学期の頭に薬を飲み始め、ひと月半くらいで本格的に変化が出始めた。
胸の膨らみやくびれの増加、睾丸が体内に入って女性ホルモンを分泌しだしたのを血中ホルモンから算出した。
来月には女性化が完了する。兆しが見えて目標の達成も近いと感じた。
しかしこのタイミングで問題が発覚した。
女の子になっても好きな相手のお嫁さんになれるとは限らないじゃない…って。
敏明好みの女の子がどんな子なのかは分かりきっている。
自分の夢に気づかぬまま、彼好みの女の子はどんな子なのか。
無意識のうちにこの答えを求めていたから。
一途で大人しくて細身の方が良い、胸の大きな女の子。あとあ尻の肉もあった方が良いみたい。
胸とお尻以外は素でいけそうな点は追い風だったが、彼好みの女になるのは決して難しくはない。
ただそれでも十分ではない。
彼の性格上長年の友人関係が悪い方に作用して、そのまま女の子になっても異性として見られない可能性が高いのだ。
運が悪いと疎遠になってしまう危険性すらある。正直それだけは絶対に避けなければいけない。
女性化もあと数週間という段階で人生で一番のピンチを迎えていた。
考えても考えてもこのピンチを突破し、彼のお嫁さんの座を勝ち取る方法は思いつかなかった。
…とある悪い方法を使わなければ。
責任感の強い敏明は、自分のせいだと感じると、これでもかと言うくらい落とし前をつけてくれる。
義務を感じると自分の命より優先しそうなくらい。
だから女の子相手なら男性的な責任の取り方を迷わず実行してくれる。
僕が悪魔の囁きに乗ったのはこれが最初で、きっと最後だと思う。
目的は彼が『自分のせいで僕を女にしてしまった』と錯覚する事だ。
ダミーの変身薬を僕にかけさせそこから女性化を起こすというシナリオを思いついた。
『薬を被って女性化願望を持った僕が女になる為に予備の薬を飲んで女の子になる』
このシナリオを思いついた時、「僕って賢い」そう叫んだっけ。(賢いどころか天才です)
いくら僕でも一度飲んだだけでその日中に変身する薬なんて作れない。
女性化薬だって2か月半から3か月かけないと効果を発揮しない。
薬を被った程度で変身するなんて質量保存の法則に反する。
つまり変身の薬自体が最初からブラフなのだ。
被ったって女の子にはならないし、女性化願望が目覚める事もない。
最後に飲んだ薬は本物だけど、あくまで女性化プロジェクトの仕上げとなる薬だ。
単品で飲んだくらいじゃ射精機能も消せないくらい効果は弱いと思う。
万一敏明にかかったり飲まれたりしたら大変だから、僕にだけ効果的な女性化薬と言うのが最も良い。
敏明が錯覚を起こす状況を作るのは決して難しくはなかった。
ダミーの薬さえ被ればどうとでも説明が出来るもの。
揉み合う演技をしつつ、フラスコにステルスコプターでもつけておけば僕が薬を被る状況は難なく作り出せる。
敏明が美少女とキスしたいとか考えたお陰で女性化の件を自然に挟めた点も追い風だった。
かくして薬を被ったせいで女性化願望を持った僕は、自信作の薬を飲んで女の子になる事に成功したのだ。
仕上げの女性化薬は準備さえしておけば来た目や体型や股間がかなり変化するくらい強いし、
そもそもこの2ヵ月半で十分に女らしい体は出来ていた。
胸を押しつぶして、ウエストの括れは誤魔化してて、男装っぽい装飾具を外すだけでも女性化したように見えるもんね。
僕の発明品は人知を超えたものだって先入観を敏明が持っていてくれたので、何にでも変身できる薬はあっさり信じられ
結果、僕にも非があるが敏明が薬をぶっかけたせいで敏明ラブの女の子になってしまった。
そんな荒唐無稽のシナリオが真実として扱われるようになった。
心の赴くがままに敏明に好き好き光線が出せるようになったのは嬉しいけれど、女性化の責任で敏明が
バッシングされるのは心苦しい。…僕が仕向けておいてアレだけど。
ただバッシングの分だけ周りが後押ししてくれる。
会う人会う人、敏明が責任取って僕をお嫁さんにするように訴えてくる。
すぐの結婚は無いけれどこの時点で僕の計画の成功はほぼ確定した。
高校を卒業したら彼との同棲もご両親含め了承を貰った。
夢が叶うのは嬉しい。
しかし夢の対価は彼が十字架を背負い続ける事だ。
他の方法が思いつかなかったとはいえ僕はなんてことをしてしまったのだろうか。
それから5年近くの月日が流れた。
敏明は高3の時に急激に成績を伸ばし、2年の時は難しいと思われていた志望校に合格した。(某有名私大の工学部)
彼の頑張りと急成長はいつも隣にいた私が、天才少年から色ボケ女になって危なっかしくなったからだろう。
『使い物にならなくなった元天才を守るために自分が必死になって頑張らなきゃな!!』
聞いたわけではないけれど、きっとそう思っているだろう。
女性化直後から気合いが違うし、私が近くにいる時はまた一段と違う。
私のお陰と言うべきか、私のせいと言うべきか。でも彼の成長は素直に嬉しい。
彼の大学進学と同時に私は彼の下宿に転がり込んだ。
彼の両親はあらかじめ説得していたし、彼の身の回りの世話をする人がいるというのはご両親的にも有難いそうだ。
ウチの両親も敏明命な私に半ば諦め気味で、渋々ながらもOKを出した。
私はと言うと毎日がとても楽しかった。
珍妙な機械や奇妙な薬の研究開発は楽しい。
でも敏明身の回りのお世話、ご飯を作ったり洗濯をしたりはもっと楽しかった。
嫌いじゃないけど特別家事が好きと言うわけではなかったけれど、好きな人の為に何かをしているって想いが楽しくさせているんだと思う。
周りから天才だったのがおバカになったと(陰で)言われている私だが知力が下がったというわけではない。
性別を変える以上の効果はあの薬にはないし。
敏明ラブすぎて、彼の事しか考えられていないからちょっとバカっぽく見える子って印象になるんだと思う。
しかし、受験勉強や研究開発作業がロクに出来なくなるくらい敏明の事ばっかり考えてしまうようになったら
研究者としては使い物にならないのだろう。つまりアホの子でもある意味では正解だ。
今まで同性と言うタガがあったからこそ敏明に対していくらか冷静でいられて、まともに生活を送れたってところか。
今では大学で学ぼうとか、機械系でも生物系でも研究をしてみようとは思えない。
敏明と一緒の時間を失う危険のある研究とか正直あんまりしたくないもの。
働くのなら彼の近くが良いし、彼の為になる事じゃないと働きたくないもん。
…と能力的な問題ではなくモチベやメンタル的な理由で今の私には彼のお嫁さん以外の仕事は出来ないだろう。
敏明は私が女になってから何度か元の天才少年っぽい私に近づけるように色々と試してはみたものの、敏明の事以外は気力が続かない事が分かり断念した。
敏明がいないと試験の時間すら集中力が持続しないし、いたらいたで意識が敏明の方に持っていかれる。
う~ん、やっぱり私は彼のお嫁さん以外の仕事が出来そうにない。
すっかりポンコツ化した私だけれど、前述のようにこの4~5年はほぼ毎日が人生の絶頂だ。
しかし敏明の方はそうとは思っていない。
天才少年の力を失って私が不幸になったものだと思い込んでいる。しかも自分にその責任があるとも。
彼のお世話をする時に幸せそうな顔をしている私に対して敏明は時々苦しそうな顔をする。
工学部で女の子がほぼいない環境下で同棲している彼女がいること自体はむしろ喜んでいる。
ついでに外見は狙ったおかげで彼好みの色白、長髪、やや高身長だ。そしてEカップでお尻に肉も多め。
彼だって男の人だし、女の子にお世話をされるシチュが嫌いなわけじゃない。
と言うか女の子に甲斐甲斐しくお世話されるのを男の浪漫とか言い放っちゃうくらい好きだ。
しかし、実際に病的なまでに敏明大好きで彼のお世話が人生最高の歓び…って感じでお世話されると
生々しさが出てくるのか単純には喜べないみたい。男心は意外と複雑でメンドウ。
それに誤解とは言え、私から彼のお世話以外のモノを全部奪ったものだと思っている。
彼のお世話を喜んでする私を見るたびに無実なのに罪の意識を感じてしまっている。
だから料理や洗濯、胸を押し当てた時なんかは喜んでくれる。
それでも終わった後で一瞬だけ寂しそうな、悲しそうな顔をする。
時々は休まっていたり、喜んでいる敏明の顔を見せてくれる。
でも喜びの顔だって100%嬉しいって感じじゃない、私のせいで喜んでいる筈なのに何処か苦しそうな顔だ。
全てを明かし、何から何までが私の狙いで策略なんだと告白しようと思った事はある。でも実行は出来なかった。
捨てられる怖さがまず最初に出ちゃったんだと思う。
例え嫌われても、捨てられても、正直に言う事が正しい事だというのは分かっている。
彼の事を愛しているのなら、例え嫌われてでも彼の重荷を失くす為に隠した事、騙した事を明かすべき。明かさなければいけない。
時折辛そうな顔を見せる彼に対して、正直にすべてを明かそうと思った事は何度もある。
それでもダメだった。何度も機会はあったけれど言い出すことは一度も出来なかった。
敏明に対する愛情には自信があるし、彼の為ならどんな事でも出来る自信はある。
唯一出来ない事がきっとコレ、彼に嫌われる(かも知れない)事をする事なのだろう。
彼はもう4年生、内定を幾つかは取り卒論を終えれば羽ばたく事になる。
そしてそのタイミングで男の甲斐性やケジメを見せてくれると思う。
張り切って無理をして、自分の事より周りの、僕だった頃の私の事をまず気にかけてくれるような人だ。
私を捨てていく事はないだろうし、責任を取ってくれたあとも間違いなく大事にしてくれる筈だ。
つまりこのまま待っていれば私にとっては今以上の天国が待っているいるという事になる。
でもその天国は受け取れない。清彦としても清香としても。
もしこのままなし崩し的に敏明のお嫁さんになろうものなら彼から安息と幸せを永きにわたって奪い続ける事になる。
だから今夜、敏明に明かそうと思う。
話を切り出そうとまごまごしていると敏明の方から先に「大事な話がある」と告げられた。
私も「私の方も大事な話があるの」と震えた声だけど切り出す事が出来た。
賽は投げられた。賽は投げてしまった。今更誤魔化すことは出来ない。
嫌われたって構わない!!
…とは決して言えないけれど彼を苦しめるくらいなら嫌われる方を選ぶ気概はある。
でも、もし愛と友情と性転換の神様がほんの少しでも力を貸してくれるのならお願いしたい。
お嫁さんでなくてもいい、一緒に暮らせなくとも我慢する、最悪嫌われても仕方がない。
せめて全てを話した後でも、少しは一緒の時間が欲しい。
せめて出会えば会話をする程度の知人、そのくらいで良いから絆が繋がっていて欲しい。
「実は、私…ずっと敏明に隠していたことがあるの」
この言葉を絞り出す頃には私の目は視界が曇る程の涙で溢れていた。
人間万事塞翁が馬、 禍福は予測し難い…だな。
男として俺が人生一大イベントを決意した時に視界が歪むイベントが起きた。
この5年、何から何までアイツが仕組んだもので俺は騙されたようなものだと聞かされたのだ。
怒りなのか哀しみなのか、ただただショックが大きすぎて眩暈のせいで視界が歪むばかりだった。
とは言え、清香の俺に対する想いが本物である事に気がつけばショックとか怒りとかは何処かへ消えていった。
むしろ俺の彼女はドーピング抜きで俺に対して一途なんだと分かり余計に好印象になったくらいだ。
それに清果の奴がこの5年を心から楽しんでいた事にホッとしたというのも大きい。
そもそも5年も夫婦同然の生活をしてれば今更別れようとなんて思えない。
ついでに俺好みの外見をした巨乳美少女で家事スキルも高レベルな理想の嫁そのもののだ。
一連の演技だって悪意を持って騙していたんならまだしも、自然な形で友人から嫁へとシフトする事が
目的ならば好きではないが嫌うという事もない。
男の時の清彦に告白されてたら今の形と違っていた可能性もある。俺の恋愛対象は女のみだからな。
そう考えれば気苦労自体は多かったけれど、清香の演技は俺にとっても好ましい結果をもたらしたのだろう。
アイツが俺を騙してくれたからこそならばこれで文句はない。
だがしかし、清香の奴がこんなに乗り気だと知っていたらもう少し愉しんでれば良かったな。
アイツの体を、柔らかい巨乳を。
俺にとっての一番の後悔は罪の意識から巨にゅ香を愉しまなかった事かも知れない。
人間万事塞翁が馬、いやニュアンスとしては案ずるより産むが易しかな?
5年の歳月は私たちの関係性にも影響を与えていた。
私自身、心の声での一人称すら変わるくらいだし一緒に暮らし続けた”男女”(重要)の関係が変わらないわけがない。
私の方は当然として、彼にとっても身近な異性の存在は生活の一部となっていて離れるなんて事は考えられないらしい。
そうでなくとも親しい僕を悲しませるような真似はしたくないみたいで、友人解消よりも悪い展開はあり得ないようだった。
そもそも敏明が苦しい顔をしていたのは、天才少年だった僕から輝かしい未来を事故のせいで奪ってしまったから。…だそうだ。
僕にとって天才発明家として名を馳せ、お金持ちになる事より敏明と一緒にいる事の方が大切だと知るとホッとして
「良かった」と呟きながら涙すら流す始末だ。
当然、私を長年騙していた敵とは扱わず大切な人として扱ってくれた。
同性の友人の恋心を気持ち歩く思うどころか、一途な私を褒めてくれたり。
私の彼氏って器大きすぎ!?
ああ、でもやっぱり同性の友人の清彦がそのままの姿で告白するのは気持ち悪いんだね?
ちょっとガッカリかな?でも普通の人は異性じゃないと恋愛感情抱けないみたいだししょうがない…かな?
うーん、私の胸があと3カップ小さかったら態度が変わっていたかも知れないって、それ冗談でも言っちゃダメだって!!
私の愛しの旦那様、欠点部分(オッパイ星人)は案外バカにならないかも!!