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天才親友とTS薬

2018/04/15 16:03:39
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人間万事塞翁が馬、いやニュアンスとしては一寸先は闇の方が近いか。
かつて天才少年としてあらゆる業界から求められていた男、赤城清彦はすっかりその姿を変えていた。





「はい、あ~ん♥」
「うん」
「えへへ、今日の唐揚げは自信作なんだよ。美味しい」
「うん、うまいうまい」
「大好きな人の為にお弁当を作って、あ~んが出来る女の子って世界で一番幸せな人種だと思わない?」
瞳をキラキラと輝かせる清彦に対し、俺の目は死んだ魚の目だ。
幼馴染の美少女が甲斐甲斐しくお世話してくれて手作り弁当であーんしてくれる。
普通の男なら歓びのあまり悶絶しそうなシチュエーションだ。胸もかなり大きいし。
しかし俺はほんの少しも嬉しくはない。

俺に弁当を喰わせながら幸せそうな表情をする親友、いや…かつての親友を俺は眺めた。
可愛らしく少し儚げで弱々しくなったコイツの顔を見て涙を堪えながら接するのはやはり大変だった。
ある意味自業自得かもしれないが。
望めば何でも手に入る。なんでも作る事が出来る。
俺の親友の天才少年清彦はその原型を残していない。





子供ながらに凄い奴だという事は分かっていた。
父親の電子機器をオモチャに玩具を作る清彦に何度「お前スゲーな」と言った事か。
一緒にいると刺激的な遊びが出来る少年、赤城清彦と遊ぶのは楽しかった。


幼子が少しだけ大きくなると見える世界も変わってくる。
清彦が俺の手の届かない場所にいる人物だという事は小学校に入るくらいには何となく理解した。
ただ、それでも俺は清彦と一緒に遊ぶのが好きだった。
清彦の方も、俺の事を気心の知れた友人と見ていたようで一緒にいる事が多かった。


小学校の高学年になる頃には清彦の天才ぶりは海を越えて知られるようになる。
電機系だけじゃなく、医学とか生物系でも成果を上げたらしくアメリカだかの大学から飛び級のお誘いが来たんだとか。スゲー。
ただ、当の清彦はいわゆる普通の子供と同じ生活に憧れたらしくこれを拒否し、高校までは自宅に通える所がいいと
中学、高校と地元の公立学校に入学する事になった。

俺はと言うと清彦の奴に「気心の知れた敏明と一緒がいい」なんてせがまれたのでどうにか同じ高校に入学した。
公立とは言え、地元では難関扱いされる場所だから中学は半分くらい勉強付けだ。
いい友達持ったろ清彦?けど、勉強見てくれたのはサンキューな。
成績が物凄く上がってクラス5位が学年2位だよ。
もうワンランク下の高校がやっとだった成績が地元の高校ならどこでもほぼ確実ってレベルさ。





高校に入っても清彦は相変わらずだ。
普通に学校に通って、時々一緒に遊びに行く。
そんなごく普通の高校生活を送りながらも、清彦は天才少年として機械やら薬品やらやたら凄いものを発明した。…らしい。
説明が難解すぎてなんか凄そうくらいの感想しかなかったからな。
でも荷物専用のタケコプター的なものは便利だった。ありがとな。

転機を迎えたのは高2の秋、先月の事だった。
「敏明ッ!!今回の発明品は自信作だよ!!」
「うむ、いつものだな」
清彦が自慢げに俺に対し発明品を紹介する恒例行事がこの日もやってきた。
毎度凄そうなものを作り出すが、難しすぎて俺(や時々クラスメイト達)はリアクションに困る。
困るまでが一連の流れとして定着しているのだ。

ただ今回はシンプルかつその凄さの分かりやすいアイテムなので俺のテンションは急に上昇した。
その発明品は『自分の望んだものに変身できる薬』だ。
この薬、是非とも譲って欲しい。何か飲んでもいいみたいだし。

だが「人体実験はまだしてないけどねテヘペロ」発言には軽く殺意が沸いたけど。
変化具合を観察したいから自分ではあまり飲みたくないらしい。ヲイ。
コイツってマッドサイエンティストの気質あるんじゃないのか?



望むものは何でも手に入る、(程度はあるらしいが)何にでも変身できる。
この響きは正直魅力的ではある。フラスコを手に取り凝視する程度には魅力的だ。
実験台が欲しいらしい清彦はフラスコを更に押し、そのせいで俺は容器にキスする形になった。
どうせキスするのなら可愛い女の子がいい!!献身的で家庭的で、一途で控えめで、細身なのに胸や尻が立派。そういう娘がいい。

清彦があまりにフラスコを押し付けるものだから俺は思いっきり薬品を押し返す。
都合の悪いことにそのタイミングで清彦は手を引っ込めようとしていたので勢いあまってフラスコは舞ってしまう。
「あっ!?」
フラスコは宙を舞い、清彦の頭上を舞ったと思うと桃色の液体をまき散らした。薬品はほぼ清彦の頭にかかった。


あまりの出来事に俺はフリーズする。
清彦はと言うと、何も言わずいきなり荷物を漁りフラスコを取り出す。
被ったものと同じくピンクの液体の入ったフラスコだ。
清彦はフラスコの中身を一気飲みしたと思うとうずくまった。

「う~ん、敏明ィ」
うなる清彦の声は妙に高く可愛らしい声だった。
怪しい薬が原因で清彦は女になっていた。しかも俺好みの美少女に。俺好みのボインちゃんに。
何が起こったのか全く分からず混乱した俺に清彦は推測混じりだが説明してくれた。
変身した張本人が一番冷静なのは天才故か?



清彦の推測で言うと、フラスコにキスした衝撃で俺の願いが歪んで伝わってしまい(美少女とキスしたい)
その薬を被った清彦は美少女になりたくなった。
美少女になりたくなった清彦は変身の薬を飲む事で本当に美少女になった…らしい。
マヂか、そんな偶然あるのかよ。
「薬を被ると効き目は落ちるけど心の具合を変えるくらいの効果はあるみたいだね。被るデータが少ないだけに分からなかったよ」
新発見をこの状況でも楽しそうに語るあたり流石は清彦だ。


「飲まなければ効果がないから大丈夫だと思ったけど、被るだけで女性化願望を持つくらいの効果はあるみたいだね。
…で、念の為のスペア変身薬を飲んで晴れて僕は、私は女の子になったのね♪」
解説しつつ腕を組み、胸を押し付ける。
気持ちのいい膨らみが念願の感触だが妙に恨めしい。



こうして全世界が欲しがる天才少年は、美少女だけど俺の事しか見えない残念娘に変身してしまった。
残念娘を欲したわけじゃないけれど、一途な辺り、あと胸と尻が大きい辺り俺の願望を忠実に再現してるようだ。
ロングヘアな点もさり気なく◎だ。



言動の隅々から昔の清彦と変わらない天才的な頭脳を感じさせるが、俺しか見えない残念娘だ。
女になってからの清彦は研究や発明をすっかりやらず生活は俺一色と化した。
人間でも使えるタケコプターっぽい機械の開発とかを凍結して俺の世話ばっか。
例の薬の量産化もせず、俺用の弁当の作成にばっかり力を入れる世話焼き少女だ。

可愛いし飯もうまいし、カラダ面も申し分ないし。
クラスの男連中から激しい羨望で見られても仕方がないと思うくらいいい女だ。
女になっても清彦っぽさは十分に残っているからかさほど違和感なく友人として、清彦として接することは出来る。


しかし天才的頭脳を使う気を起こさず俺といちゃつく事しか考えられない残念少女と化した元天才。
かつてはあらゆる大学からスカウトがかかるような少年だったはずが、本人の気質のせいでもう声はかからない。
それどころか大学進学すら興味がなく、ただ俺と一緒にいる事に対してのみ幸せを感じる彼女。

規格外の天才少年、その頭脳がもたらすものは歴史を変えるほど大きく輝かしいものだと思う。
直視できないほど輝かしい未来はきっと失われたままだ。
彼女に世話をされる度にいなくなった天才を思い出し悲しくなる。
彼女の顔を見るのが苦しい程に。

「敏明…哀しいの?凄い顔してるよ」
「あぁ…なんでもない」
「困った事や欲しいものがあるなら何でも言って!!頑張って発明してみるから」
すっかり女らしくなった元親友を見て、俺の嫁になる事のみを望む清彦を見て「昔の清彦が欲しい」とは言えない。
その場は言葉を濁して対処して、彼女の手弁当を堪能し凄い顔を治すのだ。
清彦製の激ウマ弁当に喜べば、不安そうな彼女の顔も元に戻る。


「強いて言えばお前の喜ぶ顔が欲しい」
「大好き!!」
俺の望み通り清彦の喜ぶ顔は手に入った。しかし満足は出来ない。







それから俺は大学に進学し、清彦…清香はどこの大学にも行かず俺の下宿に潜り込み嫁の如く俺の世話をする日々を送っている。
かつての天才少年を見る事は多分もうない。
頭の具合は変わらないかも知れないが、俺の世話以外の事に対しモチベが低すぎるので他の事は何も期待できないレベルだ。
だからコイツは、清香は俺が守らないといけない。
きっと俺の彼女、俺の嫁としてでなければ生きられない。


自業自得かもしれないが、事故の責任は俺にもある。
だから俺は持てる力全てを、コイツを守るのに使おうと思う。
必死さのお陰か、無理だと思っていた第一志望に合格できた。
この先も困難は多そうだが隣に守る人がいれば俺も強くなれる。そんな気がする。


贅沢は言わない。
ただ一つだけ我が儘を言えるのなら新発明を自慢げに紹介する親友の顔をもう一度だけ見てみたい。
理想的な彼女を手に入れ、満ち足りた日々を送れているが俺の心は満たされていない。
馬鹿げた空想を実現させようと目を輝かせる、天才児だけどちょっとバカっぽい。
そんな親友を見つけるまでこの飢えと渇きは癒されないだろう。


大学も卒業が近くなった今日この頃、成績も良好で可愛い彼女は男どころか女相手にすら羨ましがられるほどだ。
正直傍から見たらこの3年そこそこの間、ずっと幸せの絶頂にあるように見えるだろう。
だが俺の飢えと渇きはずっと満たされていないしこれからも満たされぬ日々が続く。
強いて言えば彼女を守るという勝手に決めた目標の為にガムシャラに頑張っている時だけは多少は楽しい。
親しい人の為に背負っている苦労だけは紛れもない本物だから。



清彦…お前は今何を思っている?

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