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忍者少年Reboot2 紀与丸の彼女編

2020/02/29 03:47:52
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俺、佐々錦夏輝(ささにしき なつき)はカラテを嗜む高校一年生の16歳。
夏休みのある日、別の高校に進学していた幼馴染、風間紀与丸(ふうま きよまる)から「海に行こう」との誘いを受けた。
しかし待ち合わせ場所で会った紀与丸は、俺好みの美少女へと姿を変えていた。
何を隠そう彼の一族は戦国時代から代々続く忍者の家系。紀与丸もまた人間離れした忍びのジュツを受け継いでいるのだ。
その日俺に見せたジュツは忍法『皮装変(ひそうへん)』。
人間そっくりに作られた皮をまとい、まったくの別人に化ける変装術。
腕のいい忍びにかかれば異なる体格や性別すら装うことが出来る。そして紀与丸のジュツはまさに一級品だった。
かくして俺の『彼女』こと春風(はるか)に扮した紀与丸と俺は、真夏の海でカレシカノジョごっこを堪能したんだ。
あれは素晴らしい体験だった。
でも皮装変のジュツとの付き合いはそれだけでは終わらなかった。
その後のアクシデントで焼けてしまった紀与丸の皮と衣装。
それらを取り返すために俺自身もジュツをかけられて異性の姿になり、コスプレ喫茶で少しばかり働くことになったんだな。
そんなこんながあってやがて季節が変わり、お互いが別の道を歩き始めて数か月の時が経っていた。

■■■■■

「頼むナツキ。オレの『恋人』になってくれ~」
二学期末の試験休みの夕方。俺んちにやってきた紀与丸は開口一発こう言い放った。
「お、おう?」
再会を喜ぶ間もない突然の無茶ぶりに一瞬俺は目を回す。
チョット待て、俺は男だしヘテロだ。オマエだってそっちの気はなかっただろ?
ナニがどうなってそんな頼みごとをしてくるんだ?
「あ、言い方が悪かったか。オレの『彼女』になってくれ~」
…変わんねぇよ。
「なぁ頼むよー。学校でのオレの立場がかかってるんだよー」
俺がオマエの『彼女』になることで何の立場を守るんだよw ああ頭痛くて訳わかんねぇ。
ウルトラハイスペック忍者少年な紀与丸だが、昔からコイツが持ち込む話はややこしかったな。
でも幸いにも俺自身はヒマだ。夏のお礼もまだだし困りごとは聞くだけ聞いてやろうじゃないか。


用意したお茶とお菓子を摘まみながら、紀与丸は事の詳細をポツポツ語り始めた。
話はこうだ。
彼の学校の友人たちは多くが彼女持ちになっていて、その間では彼女語りで持ちきりになっていた。
ぼっちの紀与丸は話に置いてけぼりにされるのが悔しかったのだろう。
彼は脳内で自分の『彼女』を作り上げ、友人たちの話に入ろうとした。
その情熱は中々のもので、自身が皮を着こんで『彼女』に化け、自撮り画像を捏造するくらいだった。
しかし悪いことは出来ないもので、日曜にみんな集まりそれぞれの彼女を紹介するという合コンめいた話が持ち上がってきてしまったわけだ。
その日『彼女』を連れてこなければ嘘つき呼ばわりされてしまう。そう考えた紀与丸は俺に泣きついてきた、というわけだ。
夏休みのバイトの時のように女の子を模した皮をかぶり、友人達の前で紀与丸の『彼女』を演じて欲しい、と。
ううむ、再び頭が痛くなってきたぞ。話なんか聞かなきゃ良かったよ。


「そんなこと言わないで頼むよナツキ―。オレとキミの仲じゃないかー」
涙目になりながら紀与丸は俺の腕にしがみつく。ええいくっつくな鼻水がつくじゃないか。
「はっきりと言うがオマエが悪いぞ紀与丸。友達には本当のことを言って謝るんだな」
見栄を張りたい気持ちは分からんでもないが、やり方が斜め上すぎるだろう。
挙句にこっちにその穴埋めをしろとか無茶振りもほどがあるぞ。
「タダでとは言わないよ。協力してくれたら今度のイブの夜、春風になって色々サービスするぞ!」
むう、そう来るか。あの夏休みの出来事を思い出す。
あの日の紀与丸は覚えたての皮装変のジュツで『春風』という少女の姿になり、俺の一日彼女を演じてくれたんだ。
他にも様々な女の子の姿を取ってくれて、ちょっとしたハーレム主人公のような気分を楽しませてくれた。
あれは良い体験だった。今でも思い出すとすげぇ興奮しちゃうんだよな…。
イヤ、待て待て俺。想像して鼻の下長くするんじゃあない。たしかに春風は理想の女の子だが中身は紀与丸だぞ。
それにこの状態に甘んじていたら、本当の『彼女』が出来なくなるかも知れないじゃないか。これは悪魔の誘惑だ。


「見て見てナツキ、これが『彼女』の画像なんだー」
嬉々として紀与丸が特徴的な三連レンズを備えたスマホを取り出す。
「俺まだオッケーしてないからな。って、オマエ高いスマホ持ってるな」
「例のバイトで結構稼いだからね。あの時燃えた服を補ってもまだ残ってるんだ。
ていうか、ナツキも結構稼いだんだから買い替えたらいいじゃん?」
「壊れたゲーム機のパッドを買い替えてから、まだお金には手を付けてなかったな」
替えたばかりなのか、以前の物より慣れない手つきでタッチパネルをポチポチ。
「あ、出た出た。これだよー」
と画面を俺の方に突き出した。

そこに映っているのは水色の髪を二つにまとめた、小柄でおとなしそうな女の子。
弁当箱を持って芝生の上にぺたんと座り、こちらに微笑みかけている。
「まだあるぞー」
画面の上で指先をスワイプ。画面の中の女の子が横に滑り別の画像へと切り替わる。
そこに映るのは前と同じ水色髪の子。場所は体育館の中だろうか?
フリルの付いた青いレオタードを纏い、リボンを手に舞う姿は空駆ける妖精のよう。
「うへへへ、どうだ可愛いだろー」
紀与丸の顔がニンマリと笑う。画面の上に指を滑らせる毎に画像が切り替わっていく。全部で20枚はあっただろうか。
「ああ、そうだな」中身はオマエなんだろうけどな「で、これ全部自分で撮ったのか?」
「そうだよ。人物の撮影は部屋でやって、背景は別撮りで合成したんだ。結構手間かかったなぁ」
バイトの稼ぎで写真編集用のソフトも買ったんだな。嘘を補強するためとはいえよくやるわ(ため息)
「でもって、今度の日曜は俺がこの子になって集まりに行くというわけか?」


「そうだよ。『なっくん』」
声は元のままだが、紀与丸の話し方ががらりと変わる。ぷいと顔を上げてみると目の前には俺の『彼女』雄町春風の姿。
その傍らには服を着たままクシャクシャに捩れた紀与丸の抜け殻があった。
画像に目を取られているうちに『脱皮』したというわけか。しかしオマエわざわざ春風の上に自分の皮被ってるのか。
「着るよりは脱ぐ方が早くできるからね。あと『着て』いるのはあたしだけじゃないよ」
首のあたりに指をかけ、マスクを剥ぐように春風の顔が捲れあがる。
「勿論中にはオレッチもいるぜ! ニィチャン」
出てきたのは栗色髪のツインテールの元気っ娘。雄町四姉妹の末っ子になる『秋魅(あきみ)』ちゃんの顔。
両腕がだらりと下がり、背中が盛り上がったと思うと内側から肌を突き破って女の指が覗いた。
次の瞬間、指先が肌の裂け目を掴み力任せに左右に広げて行くと、
苦悶のごとき表情に顔を歪ませた秋魅ちゃんの皮が裏返しに剥ぎ取られて行く。その中に居たモノは…。
「アタシのことも忘れて欲しくはないわね。夏クン」
ウェーブのかかった黒髪、黒ダイヤのように輝く瞳が俺を見つめる。四姉妹の長女『冬音(ふゆね)』さんだ。
「そしてあと一人、キミが会うのは初めてだったわね。紹介するわ」
口の両端に親指を引っ掛けてグイっと持ち上げる。冬音さんの口が信じられない程に広がり、美女の顔が醜く歪んでいく。
その中から現れたのは凛とした顔立ちをしたポニーテールの女の子。顔の造形は春風と同じだが雰囲気は全く違う。


「雄町四姉妹の三女、『夏樹(なつき)』だ。はじめまして、かな? 夏輝さん。…名前の読みが同じだと戸惑うな」
例のバイトの際、無理やり皮を着せられて女にされた時の俺の姿。
雄町四姉妹の三女にして春風の双子の妹、『なっち』こと夏樹の姿が目の前にあった。
「私は他の姉妹より不器用で体も大きい。でも君を思う心は春風姉さんにも負けないつもりでいる」
顔を赤らめながら俺をまっすぐに見つめてくる。『自分』に告白されるなんて俺も思わずドッキリだ。
「はーいそこまで! すぐに彼氏を盗ろうとするんだから油断も隙もあったもんじゃない」
首元から垂れ下がった三枚の皮を被りなおし、なっちは再び春風の姿へと戻る。
「ほーらっ、なっくんもいつまでも鼻の下伸ばしてるんじゃないの。あなたの『本命』は あ・た・し でしょ?」
「お、おう。悪かったよ」俺何も悪いことはしていないはずなんだけどな。
ん? 今まで気が付かなかったけど、春風の奴変な服着てるな。
赤いリブ生地の長袖ハイネック。それ自体は珍しくないが生地が股のあたりまで伸びて際どいハイレグになっている。
「これ? これは〇ニクロの『例のヒート〇ック』ってやつだよ。もう旬は過ぎちゃった感じだけど」
あー二次元界隈で流行ってたやつね。作者こういうの好きだからなぁ。
「これってすごいんだよー。だぶついたりずり上がってくることがないし、ここをを外すと…」
クロッチのボタンを外すとシンプルで可愛らしい白のショーツが現れる。
「着たままでエッチなことだって出来るよ。イブの夜はこれでどうかな?」
前はあれやこれやで邪魔が入って、大人の階段は上れなかったからなぁ。
でもな、話を元に戻そう。少女が写ったスマホの画面を指さす。
「俺がこの娘に化けるの、どう見ても体格的に無理だゾ」


画面の中の女の子の身長はどう見ても150センチもないだろう。対する俺は191センチ、その差41センチ。
なっちが172センチだったから、それよりも小さく体を畳まなければならない。
「大丈夫大丈夫。なっくんなら大丈夫だよ」
紀与丸に体を弄られてから、自分でもある程度骨や筋肉を操作できるようにはなっていた。
最終的には紀与丸の手を借りなくてもなっちに化けるくらいには出来た。
これはたぐいまれな才能だ、と紀与丸は言った。ひょっとしたらご先祖様に妖の類がいたのかも知れない、とも。
あいつが習得に数か月かかった皮装変のジュツを、わずかな時間で少し出来るようになっていたのだから。
チョット待てそれ結構怖い話だぞ紀与丸。
確かに子供の頃から力は強かったし、病気したことなかったし、怪我しても異常に早く治るとお医者さんに言われたこともる。
俺、人間だよな? 怪物や妖怪変化なんかじゃなくて父さん母さんの子だよな…?
「大丈夫。人間でも怪物でも、例え妖怪変化でもなっくんはなっくん、あたしの彼氏だよっ!」
フォローになってるのかなってないのか分からんが、ひとまずありがとうとだけは言っておこう。

それはさておき、
「ンなこと言われても無理だぞ。ほらこれ以上小さくならない」
骨の操作はイメージ、筋肉や臓器は紀与丸に教えられたツボを突いて操作する。
教えられたとおりに右腕を『圧縮』させようとする。しかし腕の長さ細さも画像の娘には届かない。
「貸してみて」
ヒートテッ〇姿の春風が前に出て俺の右腕を取る。
「まだ骨の操作がぎこちない感じかな。ちょっと痛いかもだけど我慢してね。ンッ!」
気合と共に彼女の気とイメージが俺の体に流れ込んでくるのが分かる。それとともに指先が俺のツボをより深く突く。
「なっくん。あたしと同じように呼吸してくれるかな? こぉぉぉぉはぁぁぁぁ」
「お、おう。こぉぉぉぉはぁぁぁぁ」
呼吸と共に俺の右腕が細く短く変化する。最終的には二割ほど短くなっただろうか。太さに至っては信じられない程細くなっていた。
「右腕だけじゃあ不自然だね。いっそのこと全身変えちゃおうか」
「毒を食うなら皿までだ。遠慮なくやってくれ」
かくして…、俺の肉体は大事なモノごと身長アンダー150の小柄な女性体型に作り変えられていった。


春風に鏡を借りて覗き込んでみると、そこには子供化して頬がスラリと細くなった俺の顔が見える。
体全体を見ると本当に細い。体積にすると元の自分の半分もないだろう。
しかしこれは、どうなってるんだ? そもそも俺は紀与丸のような忍者の修行なんてしてないし、
バイトが終わってからの約二カ月の間皮装変のジュツすら使わなかった。上達する理由がないぞ。
「それがあるんだなぁ」紀与丸と春風、声はほぼ同じだが話し方で雰囲気はガラリと変わる。今は紀与丸の口調だ。
春風の姿のまま後ろを向く紀与丸。ヒート〇ックからはみ出たお尻がエロい。
「オレの体を形作っているのは代々流れる忍者の血と厳しい修行、そして子供の頃から飲んでいる先祖代々の霊薬なんだ」
それはオマエの話じゃないか。俺はカラテの鍛錬にはそれなりに力を入れてるが、変な薬はやってないぞ。
「ナツキ、キミには特別な才能がある。オレはそれを開花させてやろうと思ってね。
それでバイトの賄いにこっそりと混ぜておいたんだ」
そ、それってまさか…。
「そう。先祖代々に伝わる中で最大の能力を引き出す霊薬。忍魂丸をね。フフフ、こうかはばつぐんだったよ!」
紀与丸オマエ一発殴っていいか。


「アイタタ…。体型の補正は終わり。今度はこれ、付けて見て」
たんこぶをこさえた春風がバッグから取り出したのは頭、胴体、下半身+両手に五分割された肌色のスーツ状のもの。
頭部からは綺麗な水色をした髪が伸びている。これが俺が化ける女の子の皮か。
言われるままに皮を手に取る。顔のしわを伸ばしてやるとあどけなさの残る、おとなしそうな少女の顔が出来上がる。
三つに分かれた皮を脚から着込む。次は胴体、最後に頭。
全てを着終わるとそれらは俺の体に瞬時に密着。首と腰の継ぎ目が塞がり、きめ細かな柔肌が俺の上に構築される。
腹の下が何やらムズムズする感じがあるが、それも数秒で収まった。
「あとは顔の造形に合わせて骨と肉を調整してと、はい完成―」
春風はスマホのカメラでパシャパシャと俺を激写。裏返して画像をこちらに向ける。
その中には生まれたままの姿の青い髪の女の子が、困惑した顔でこっちを見返していた。


「!!」
突然春風にぎゅう、と抱きしめられた。顔を圧迫する二つのふくらみがちょっと苦しいぞ。幸せでもあるが。
「あー、幸せだなぁ。好みの女の子をこうやって抱きしめられるなんて」
ちょっと春風さん。紀与丸の本性出ちゃってますよ。
「なっくんカワイイヨー。おっととごめん。つい中身が出ちゃった(てへぺろ)」
視界が開け、顔を圧迫していた二つのふくらみが遠のく。ちょっと残念。
自分が極端に小さくなったせいで、春風の体がすごく大きく見える。
ガタイが大きい俺は他人からこう見られてるのだろうな。
「さあさあなっくん、コレ着てみて。 二人で撮影会しよ(はぁと)」
春風から手渡されたのは可愛らしい薄い青色のブラ&ショーツと例のヒー〇テック。
色々と言いたいことはあるが、裸のままでいることは良くない。おとなしく従うことにする。


一通り撮影を終えると、俺と春風は再びテーブルに向かい合って座った。
「それじゃ説明するね。あなたの名前は『一誉(いちほまれ)えれな』ちゃん。隣町の私立高校に通う一年生。
家族構成は両親と二つ下の妹がいるの。友達の親戚に紀与丸くんがいて、自分から告白して付き合うことになった」
年下に見えるけど同い年なのか。「まあね」
そういえばこの顔、紀与丸がぞっこんだった年下のあの子の面影がある。
「ゴホン、続けていいかな? 学校の成績は中の上といったとこかな。身体は至って元気。
部活は新体操部で、レギュラーになれるかなれないかの所で頑張ってる」
オイオイ、あんまり設定盛りすぎるとこっちがやり辛いぞ。これって新体操の勉強もしなきゃならないんじゃないか?
あれ? 俺この話オッケー出したっけ? いつの間にかやる流れになってるよな?


「ナツキ先生! お願いします! 頼むこの通り!」
突如春風≧紀与丸は土下座モードに。摩擦で火がつくかのような勢いでおでこを畳みに擦り付ける。
「やってくれたらイブだけと言わず。一か月オレを好きにして良いからお願いだよ~」
紀与丸の声、というか口調で言うな気持ち悪い。せめて春風の話し方でやってくれ。
でも条件は良い。クリスマスから年明けまで春風と居られるんだからな。例え偽の彼女だとしても。
「仕方ないな、やるよ。オマエの嘘に一回だけ付き合ってやる」
「おお、ありがたき幸せー」
「ただし」
「?」
「アフターサービスはなしだ。嘘が膨らんでボロが出てもフォロー出来ないからな」
「分かってるって。その代わり手は抜かないでくれよなー」
これで話はまとまった。


「契約成立だね。それでは」
「!!」
不意を足をとられ、俺は畳の上に寝転ばされた。その上に春風の大きな胸がのしかかってくる。
「お礼の前払いとしてここは一つ、女の子同士でニャンニャンしよ(はぁと)」
目の前に迫って来る春風の顔。二次元みたく瞳の中がハートマークになってる。
「ふふふ…、カワイイヨえれなちゃん。あたしと一緒に『楽しく』しようね♪」
女同士というのは俺の望んだ形とは少し違うが、こういうのも悪くないかもしれない。
この展開は例のバイトの時にもあったよな。直後にオーナーさんに見つかりかけて中断されたけど。
海の時といい、どうして俺たちはエッチな展開になると邪魔が入るのか?

と、気づいてみたら紀与丸が来てから結構時間経ってたよな?
外を見ると空はもう真っ暗。時計を見ると『17:20』の数字が目に入る。
それで昂っていた気持ちが一気に覚めた。これはマズイ。
今は家族全員外出していて家には俺たちしかいないが、そろそろ友達のとこに行ってた妹の有輝が帰って来る時間じゃないか。


ガラガラ「ただいまー」
ゲッ! もう帰って来た。有輝のヤツは家で一番歳の近い俺になついている。
あいつは帰って来ると真っ先に俺の部屋に来るんだ。
部屋の惨状を見たら一体どうなる? これは家族会議ものですなぁ…。
どうするどうする?
春風≧紀与丸の奴は目がハート状態で完全に舞い上がってて、有輝が帰ってきたことに気づいてない。
彼女の手がこっちの下腹に伸び、クロッチのボタンを外す。
ヒートテックの布地が捲られ薄青色のショーツが現れる。
これは…。説明してクールダウンさせる時間はないよなぁ。

すまん春風。

意を決して彼女のみぞおちを強打。
「う”ぇっ!?」
完全に油断していた春風の体がくの字に折れ、一瞬呼吸が止まる。
目玉がぐるんと回って物言わぬまま畳の上に崩れ落ちる。
押入れを開けて中の布団を出し、気絶した春風の体と紀与丸の抜け殻を放り込む。
次は自分だ。急いでえれなの顔を剥ぎ掛布団を被る。皮を全部脱いでる時間はなかった。
有輝の足音がどんどん近づいてきて部屋の前にやって来る。ノックもなく扉がバンと開いた。


「兄ちゃん兄ちゃん帰ったよー!!」
冬でも常時半ズボン。いつも元気いっぱいな我が妹、佐々錦有輝のご帰還だ。
「お、おう。おかえり…。ゴホゴホ」
「に、兄ちゃんどうしたの? 体の具合が悪いの?」
「風邪ひいたっぽくてなぁ。ちょっと横になってるんだ」
「えええ!? 今までカゼ一つしてない兄ちゃんが…。大変! 誰も知らない危険なビョウキがやって来たんだ!
これはバイオハザードでパンデミックな人類滅亡の危機!? お医者さんを、じゃないホケンジョ呼ばなきゃ!」
「え、ちょwww」
鞄からスマホを取り出し何処かへと連絡しようとしている。本当に保健所を呼ぶつもりか。
作戦失敗。仮病を使ってごまかそうとしたんだが、今まで病気に罹ってなかったのが徒になったか。
このままでは人を呼ばれて大事になってしまう。俺は布団から起き出して有輝の腕を掴み、スマホを奪う。
「に、兄ちゃん!?」
顔は兄ちゃん、体はヒートテッ〇を着た女の子状態の自分を見て、有輝は何を思っただろうか?

「兄ちゃん…、そのカラダって!?」
「有輝、…ごめんな」妹よ不甲斐ない兄を許してくれ。

有輝の背後に回り込み首に腕を回す。
腕に力を込めると瞬時に脳への血流が断たれ、気を失った有輝が腕の中でぐったりとなった。
スマホを見ると『通話中』の文字。要件を聞いてくる相手に妹の声色で詫び通話を切る。
気絶した有輝の体を、彼女の部屋のベッドに寝かせて布団をかけてやる。
やがて静寂が訪れ、疲れがどっと押し寄せてきた。

はぁ、何やってるんだろ俺。
ああそうだ。他の家族が帰ってくるまでに春風を帰してやらないと。

■■■■■

すっかり暗くなった夜道を春風と二人で歩く。
「女の子に腹パンするなんてひどいよ! ヽ(`Д´)ノプンプン」
「ごめん。俺が悪かった <(_"_)>ペコッ」
始終ふくれっ面の春風に俺はひたすら平謝り。
「あたしだったら催眠術で有輝ちゃんだけを眠らせたのに」と春風がぼやく。
催眠術ねぇ。イヤイヤそのジュツ俺一人眠らせられないだろ?
「なっくんは特別なんだよ」ぷいと後ろを向く「あなただけなんだよ。あたしのジュツが通用しないの」
生まれながらのジュツ破りの力『破幻の力』を持っているのかも知れない、と彼女は続けた。
またその話かよぉ。怖いからあんまり聞きたくないんだがな。
「でさ、最近よく考えるんだよね。あなたとあたし、両方の血を引く子供はどんなジュツ使いになるんだろうかってさ」
はははw 面白い冗談だな。でもどんなにガワを変えても二人は男同士。そんなことできるハズが…

「それが出来ちゃうんだな。その名も忍法『皮合変(ひごうへん)』。
『皮装変』とは違って見た目だけではなく、文字通り皮と融合することで体を完全に変質させるの。もちろん性別もね」
かつて一族が深刻な嫁不足に陥ったとき、このジュツを使って血を保ったのだという。
「オイオイ勘弁してくれ春風。俺はキミのことは好きだけど、本当の『恋人』を持つことをあきらめたわけじゃないぜ。
オマエだってそうだろう『紀与丸』? 子供のころからゾッコンだった『あの子』のこと、まだあきらめてないだろ?」
「まあ、ね。でも話半分だけは聞いておいてよ。
もしお互い恋人が出来なかったとしたら、あたしがなっくんをもらっちゃうってね。
あーそうだ。この場合なっくんが紀与丸くんのお嫁さんになっても成立するよねぇ。
おじいちゃんは喜ぶだろうし、お父さんもまあ反対はしないだろうし障壁は少ない? いけちゃう?」
えええ…。ひょっとしてコレはプロポーズか? どう返事すりゃいいんだそんなもんw
「まあこの話は心の隅にでも置いといてよw じゃあ当日はよろしくお願いするね。おやすみダーリン♪」
返事に困ってたこっちを放り出して春風は宅地の塀へと素早く跳躍。音もなく屋根へと飛び風のように去って行った。
以前はジュツのせいでかなり動きづらそうだったが、今では体術もバッチリな感じか。
…それにしても。
「はぁぁ、もう何なんだよ」
紀与丸のやつめ。謎な告白で人を困らせるだけ困らせてどこかに行きやがって。
「…まあいいか。今は頼まれごとの方が大事だしな」
とりあえず今の話は忘れよう。考えたって判断材料がないんだから。


来た道を戻り我が家に戻る。
玄関を開けて「ただいま」出る時にはなかった靴が数足。出てた家族が帰って来たんだな。
居間を覗くと父さん母さんと三人目の兄ちゃんが。あいさつ代わりに手を振ってやろう。
でも三人が返したのはキョトンとした顔。あれ? 俺の顔に何かついてるのかな?
「あの、どちら様ですか?」と母さん。明らかに他人を見る目を向けられて俺は思い出した。

そうだった。顔に何かついてるどころじゃない。俺の全身はえれなの皮を着込んだままだ。
春風を送る際にせがまれて被り直したのを忘れてた。
つまり今家族が見ているのは、我が子や弟の姿ではなく見知らぬ小柄な女の子。

「ご、ごめんなさい間違えましたぁぁぁ!!」
慌てて外へダッシュ! 少し走ったところで懐のスマホが揺れる。紀与丸からメールだ。
『今日はありがとう。家に入る前、自分の『顔』に気をつけてなー』だって。
すまん紀与丸。お前の警告はありがたいが五分遅かった…。
しかし、着替えようにも今あるのは春風にもらった例のヒート〇ックに山吹色のジャケット、チェックの入った赤いスカートと白タイツ。

どう見ても女物の衣装だよねコレ。

いかん。どうやって夏輝に戻ったらいいんだ…。

■■■■■

かくして集会前日の午前9:00、紀与丸との打ち合わせ&リハーサルのため、俺は開店直後のショッピングモールの中にいた。
コインロッカーに預けていたスポーツバッグを回収し、人目を避けて施設の端にある多目的トイレに入り鍵をかける。
開閉式のベビーベッドを開き、バッグの中身を取り出し広げていく。
それは頭、胴体、下半身そして両手の五つに分割された一誉えれなの皮、そして彼女の着る衣服と下着一式、そして靴だ。
妹の干渉が多い自宅にこれらを置いておけず、施設内のロッカーに預けてあったんだ。
次に自分の着ていた服と下着を脱ぎ、空になったバッグの中に詰め込む。
さてとここからが正念場だ。
「ふっ」と息を入れ自分の取るべき体の形をイメージ。独自の呼吸法で気を練り、イメージを骨に送る。
俺本来の体質なのか、紀与丸に盛られた霊薬のためか、普通ではあり得ない変化が俺の体に起こった。

鏡に映った俺の姿が見る見るうちに縮んでいく。練気によって骨自体の形が変化しているんだ。
次に紀与丸に教えられた体のツボを突く。
強く締め付けられる感覚と共に全身の筋肉と臓器が圧縮され、筋骨逞しい俺の体が細くなっていくのが見える。
脚の間にぶら下がった男のしるしも体内にめり込み、やがて見えなくなった。これだけはちょっと痛い。
『圧縮』の終わった俺の姿はまるで子供のようだ。細身で丸みを帯びたシルエットは一見少年にも少女にも見える。
この工程にわずか10秒。最初の頃は数分かかっていたが随分と早くなったもんだと思う。
紀与丸のヤツはこれを皮の脱着込みで一瞬で終わらせてるんだよな。極まってるヤツは恐ろしい。

ベビーベッドの上に置いていた紀与丸お手製のえれなの皮を持ち上げ、まじまじと見てみる。
先日は紀与丸がいたから恥ずかしくてじっくり観察できなかったんだよな。
皮の表面はすべすべとしていて、春風のような女の子の肌を見事なまでに作りだしていた。
本人曰く。原材料は小麦粉や片栗粉、それと少量の忍びの秘薬で作られているらしいが、秘薬万能すぎないか?w
皮自体はストレッチ素材のようによく伸び、着たまま体型を変えることもできる。
変装の精度は下がるが、格闘戦の際自分のリーチに戻せるのは便利だ。

胴体をみるとそこには女の子特有の胸の膨らみが。ボリュームは小さいが形は良いと思うな。
最後に下半身が一体になった皮を拝見。俺の視線はある『一点』に釘付け。

こ…、これが女のコの大事なトコロか…。

突貫工事だった夏樹の皮にはなかったんだよな、ここ。
いけないいけない落ち着け俺。自分が『なる』相手に興奮してどうする。
幸いなことに体内に押し込んだ俺の一部はジュツによってお休みモード。その反応が外に現れることは無かった。


さて、さっさと皮を着てしまおう。時間をかけてると誰か来るかも知れないし寒い
俺は本来ここを使う立場の人間じゃないからな。使いたい人がいて待たせたとしたら迷惑だ。
皮の内側にベビーパウダーをまぶし、滑りを良くしてから床につけないよう慎重に穿く。
皮は極端に小さいが、それに合わせて小さくした俺の脚は抵抗もなく中に納まっていく。
次は胴体と両手。一見ロングシャツのような女の子の外面に俺の体が覆われていく。
最後に頭だ。首にあたる部分を広げ頭から被る。
目の部分を合わせると醜くひしゃげた顔が映るが、皮のつなぎ目が合わさり瞬時にそれらは密着。
皮のつなぎ目が塞がり、皺が伸びて本来の姿を取り戻していく。
目と口の中にも皮の一部が侵入し、『膜』のようなものが出来ていくのが分かる。
これで口内の形や口臭、瞳の色まで擬態して変装の質を高めているんだ。
皮の癒着に合わせて何やら下腹のあたりがモゾモゾする感覚がある。
夏樹の皮を着たときはこんなことなかったはずなんだけど、何だろうこれ?


皮装が終わり、鏡の中に映るのは俺ではなく紀与丸の架空の彼女、一誉えれなの裸身。
もちろんこのまま外に出るわけには行けないので服を着ることにする。何よりも寒いし。
衣装は以前ヤツが置いていったものと同じ。下着は薄い青色をした可愛らしいショーツにブラ、白のタイツ。
例の〇ートテックに赤いチェックの入ったスカートを穿き、山吹色のジャケットを羽織る。
こげ茶色のローファーを履けば着替えは完了。見た目は完璧に女の子。誰が見たって中に男が入ってるとは思うまい。

あとは声だ。ニワカ仕込みのジュツでは紀与丸のように瞬時に変声とはいかないんだな。
スマホを取りだし録音していたえれなの声を再生「一誉えれなです。紀与丸さん大好き愛してます」
紀与丸オマエもうちょっとマシな台詞言えんのかw 笑いそうになるのをこらえながら同じセリフを録音&再生。
「一誉えれなです。紀与丸さん大好き愛してます」まだ少し低いかな。自分の声は分かりにくいんだよな。喉に手を当て形を変えながらリトライ。
「一誉えれなです。紀与丸さん大好き愛してま…ぷっ」いかん笑ってしまったw
「一誉えれなです。紀与丸しゃん大好き愛してます」身構えすぎて噛んでしまったなw もっとリラックスしないと。
「一誉えれなです。紀与丸さん大好き愛してます(はぁと)」ちょっと芝居がかって気持ち悪いな。
トライ&エラーを繰り返すこと5分ほどでようやくものにはなったかな? あとは紀与丸に聞いてもらうか。


着替えも済んだしもうここを占拠する理由はない。
服の詰まったバッグを肩にトイレから出ようとしたその時、下半身に衝撃が走った。

…うう、おしっこしたい。

家から出る前にちゃんと済ませたはずなんだがなぁ。『着替え』をしているうちに冷えてしまったか。
しかし今の俺は女の子の姿。どうやって用を足したらいいんだ?
『夏樹』になっていた時は忙しくてトイレに行く暇もなかったし、するときは皮を脱いでからやってたんだよな。
でも今から皮を脱いで男に戻る時間はない。えれなの姿のままでどうにかしなければ。
ええいどうした夏輝! たかがトイレで何を怯えるのか! それくらいやって見せろよな!
タイツごとショーツを下ろし便座に座る。男でやるようにちょっと力んでみたのだが…出ない。
あれやこれやと試してはみるものの出るものは出ず、膀胱の圧迫感のみが大きくなっていく。
こ、これはホントどうしたらいいんだ?

…紀与丸、助けてくれ。

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