都会育ちの僕が、田舎育ちの女の子になった話。二日目
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#これまでのあらすじ
僕の名前は清彦、東京生まれ東京育ちの、14歳の男子中学生だ。
今年の夏休みも、僕は母に連れられて、田舎の母方の実家へと里帰りに来た。
何も無い田舎での生活は退屈だ。
とくに何もやることもなく、母の実家の客間に引きこもっていると、
その田舎の母の実育ちの、同い年のいとこの双葉に外に連れ出されてしまった。
双葉に連れられて行った先は、山の中腹にある洞窟、そしてその奥には、この里のご神体で守り神として祀られている岩があった。
そして、どういうわけだか、そのご神体の不思議な力で、僕と双葉の体が入れ替わってしまったんだ。
慌てて元の体に戻れるように、ご神体にお願いをしたけれど、元には戻れなかった。
仕方が無いので、今は僕が双葉で、双葉は清彦として、元に戻れるまでは入れ替わった相手に成りすまして生活することになった。
そして、翌日改めてご神体に、元の体に戻れるように、お願いにくることになった。
そしてその日は、お互いの入れ替わった体と立場に翻弄されながらも、どうにか入れ替わり生活をこなしたのだった。
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そのひは、いつもとちょっとちがった。
おとうさんとおかあさん、おじいちゃんやおばあちゃんも、あさからいそがしそうだった。
おかあさんが、とうきょうからおとうさんのいもうと、ふたばにとってはおばさんがくるからっていっていた。
どうしてなんだかわからないけど、おじいちゃんとけんかしていたおばさんが、なかなおりしてあいにくるんだって。
おばさんにはきょうみなかったけど、おかあさんたちがいそがしくて、かまってくれなかったからつまんなかった。
おねえちゃんとおにいちゃんが、ふたばとあそんでくれたからいいけど。
だけどこのひ、わたしはとうきょうのおばさんといっしょにきた、おとこのこに、はじめてあった。
さいしょおとこのこは、こわがっておばさんのうしろにかくれていた。
「ごめんなさいね、この子は人見知りが激しくて、ほら清彦、みんなに僕がきよひこですって、ご挨拶しなさい」
「う、うん……はじめまして、ぼく、…きよひこです」
「えらいわね、よく言えたわね」
これがいとこのおとこのこ、きよひこくんとのであいだった。
このあと、おばさんとおかあさんたちは、おとなではなしがあるとかいって、ぶつだんのあるおおきいへやにいっちゃった。
わたしとおねえちゃんとおにいちゃんは、こどもどうしできよひこくんといっしょにあそんだ。
さいしょはこわがっていたきよひこくんは、おねえちゃんがやさしくしたら、おねえちゃんとなかよくなった。すぐに
おねえちゃんばっかりずるい、わたしだってきよひこくんとなかよくしたいのに。
すこししたら、おねえちゃんがわたしにきをきかせてくれて、きよひこくんとわたしのふたりにしてくれた。
おねえちゃんは、きよひこくんはふたばはおないどしだから、ふたばがいちばんきよひこくんとなかよくなれるっていってくれた。
きよひこくんとはなしをしてみたら、たんじょうびがにがつみっかで、せつぶんのひだっていっていた。
かった、ふたばのたんじょうびはくがつとおかだもん、ふたばのほうがたんじょうびがはやい。
「じゃあ、きよひこくんより、ふたばのほうがおねえちゃんだね」
「えっ? ふたばちゃんがおねえちゃん?」
「そうだよ、ふたばのほうがおねえちゃんだよ、えっへん」
おとうさんもおかあさんも、ふたばのことはかわいがってくれているし、おねえちゃんもおにいちゃんもふたばにはやさしい。
だけどふたばには、おとうともいもうともいない。ふたばがうちでいちばんとししたで、だからなんかつまんない。
だから、きよひこくんが、ふたばよりもとししたで、ふたばのほうがお姉ちゃんだったことがうれしかった。
「おねえちゃんのふたばが、きよひこくんにいろいろおしえてあげるからね」
わたしははりきって、きよひこくんをいろいろなところにつれていって、いろいろなことをおしえたり、あそんであげたりした。
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ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ、ピピ……、カタッ!
僕は枕元で鳴る、目覚ましのチャイム止めた。
そして半分寝ぼけながら、時計を引き寄せて時間を見た。
五時五十分って、まだ早いよ、なんでこんな時間にセットしたんだよ。
だいたいここはどこだよ。
(東京の)僕の部屋じゃないし、双葉の家の客間でもない。
女の子の部屋みたいだけど、もしかして双葉の部屋?
なんで僕がこんな所に、……あっ!
僕はがばっと跳ね起きて、自分の体を見下ろした。
僕はピンクの女物のパジャマを身につけていた。
身体つきも、僕は男としては線が細くて華奢だったけど、それよりも華奢で細くて、なのに丸みを帯びていて、まるで女の子の体だ。
この部屋にある、姿見の鏡に今の自分の姿を映すと、ピンクのパジャマを着込た双葉の姿が映っていた。
「そうだった、昨日、双葉と体が入れ替わったんだった」
そのことを思い出して、僕は思わずため息をついた。
鏡の中の双葉も、ため息をついていた。
「昨日の事は、夢じゃなかったんだ」
昨日のことが夢で、朝起きたらすべては元通り、だったら良かったんだけどね。
夢といえば、眠っている時に、何か夢を見ていたような気がする。
どんな夢だっけ?
細かいことはよく思い出せないけど、子供の頃の夢だったような気がする。
なんだか懐かしい気分になって、ちょっと子供の頃のことを思い出してきた。
「そうだった、小さい頃の双葉は、やたら僕にお姉さんぶっていたっけ」
今でも私のほうが年上だからと、ちょっとお姉さんぶって偉そうにすることがあるけど、最初の頃は特にそうだった。
僕は一人っ子だったから、兄弟姉妹がいることにあこがれてもいたから、双葉にお姉さんぶられても、あの頃はさほどイヤじゃなかった。
お姉さんやお兄さんがいる双葉が、羨ましいと思っていたほどだったんだ。
でも……、と思う。
お兄ちゃんは時々僕に意地悪をするし、お姉ちゃんは普段は優しいけど、
僕がわがままを言ったり、だらしなくしていると、とたんに口うるさくなるし厳しくなるもんな。
それ以上に、この家では僕が一番年下で、僕より下がいなかったのがつまんなかった。
お姉ちゃんやお兄ちゃんばかりずるい。僕にも弟か妹が欲しい。
もし僕に弟か妹がいれば、かわいがったり面倒を見たりしてあげたのに。
だから清彦くんが、僕よりちょっと年下と知って嬉しかった。
弟が出来た、ということより、お姉さんになれた、ということが嬉しかったんだ。
だから僕は、小さい頃の清彦の面倒をみたり、いろいろな所へつれていったり……あれ?
清彦が弟みたいって、なんだよこれ! 記憶が混乱してる?
今のは双葉の記憶だろうか?
なんで僕に、こんなことがわかるんだ?
これ以上はまずいような気がして、一旦余計なことを考えるのをやめた。
気を取り直して、双葉の部屋を何気なく見回して、ふと部屋の隅のタオルに目がとまった。
それがどういうものなのを思い出して、今度は別の意味で焦り始めた。
そうだった、夕べはつい調子に乗って、この体でオナニーをしちゃったんだった!
双葉ごめん、本当にごめん!
もしこのことを双葉に知られたら、言い訳なんてできない、どうしよう?
……さすがにバカ正直に、夕べの事を話すことはないよな。
夕べのことはなかったことにして、ごまかすことにしよう。
そんなわけで、さっさと証拠隠滅をすることにした。
僕は洗面所へと移動した。
そして夕べ脱いだ下着と、体を拭いたタオルを、洗濯機の中に放り込んだ。
ひとまずこれでよし……と、僕はホッと胸をなでおろした。
さて、これからどうしよう?
せっかく洗面所に来たんだから、このまま顔を洗って歯を磨けばいいか。
僕は洗面所でまず手を洗い、顔を洗った。
冷たい水が心地よい。
そしてタオルで顔を拭いた。
正面の鏡には、さっぱり目が覚めたって表情の、双葉の顔が映っていた。
今は僕が双葉で、これが今の僕の顔だとわかってはいるけど、なんだか変な気分だな。
次に僕は歯ブラシに歯磨き粉をつけて、歯を磨きはじめた。
「おはよう双葉」
横からいきなり声をかけられて、僕は慌てた。
僕は歯磨きを中断して、口の中の歯磨き粉を吐き出した。
そして、僕に声をかけてきた人に向き合って、慌てて挨拶をした。
「お、おはよう、お姉ちゃん」
「そんなに慌てなくてもいいのに、でも、驚かせてごめんね」
僕に声を掛けてきたのは、若葉お姉ちゃんだった。
「い、いいよ、それよりお姉ちゃん、今朝は早いね」
「今朝は私が当番の日だからね、双葉のほうこそ今朝は少し早いわね」
「う、うん、まあね……」
まさか、オナニーの証拠隠滅のために早起きした、なんていえないから、曖昧にごまかした。
それにしても当番って?
このちょっと後に知ったことだけど、家事の得意な若葉お姉ちゃんは、よくお母さんのお手伝いをしていた。
そして今朝は、お母さんのかわりに、お姉ちゃんが朝食の準備をする日だった。
これはちょっとお手伝いする程度ではなく、若葉お姉ちゃんはお母さんのかわりに、かなり本格的に家事をやっていたんだ。
これは別に強制されてやってるわけではなく、お母さんの家事の負担を軽くしたいお姉ちゃんが、進んでやっていることだった。
ちなみに双葉は、さすがに若葉お姉ちゃんほど家事に積極的ではなく、今はまだ簡単なお手伝いをする程度だったらしい。
とはいえ、双葉は女の子なんだからと、わりと家事を手伝わされながら、最近は少しづつ色々教え込まれていたみたいだった。
そして僕自身がこの後双葉として、お母さんやお姉ちゃんに、本格的に家事を仕込まれる未来が待っているなんて、このときは思いもしなかったのだった。
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僕は気を取り直して、歯磨きを再開した。
さっさと歯を磨いてしまって、この場を離れたい。
そんな僕の横で、若葉お姉ちゃんは顔を洗って、そして歯磨きの準備をはじめた。
「あら、この来客用の歯ブラシ、誰か使ったの?」
「えっ?」
そ、それは、夕べ僕が使った歯ブラシだ。
「清彦くんかな? あの子、じぶんの歯ブラシを、持ってきていたと思っていたんだけど」
「そ、そうだね」
「まあいいわ、あの子が使ってるなら、しばらくここに置いておくわ」
そう言いながら、若葉お姉ちゃんは、その歯ブラシを洗面台の元の場所に戻した。
僕は自分の手元を見た。
僕は双葉の使っていた、赤い歯ブラシを手にしていた。
やば、僕は、双葉の歯ブラシを使っていたのか!
双葉には、私の歯ブラシは使わないで、って言われていたのに、ばれたら怒られる!
そんなつもりはなかったのに、歯を磨く時に、僕は無意識にこの歯ブラシに手を伸ばしていたんだ。
またやっちゃった、でも今更来客用の歯ブラシに切り替えなんて出来ない。
だいいち、お姉ちゃんの前でそんなことできない。
だけど、考えようによっては、今回はコレでよかったかもしれない。
もし、来客用の歯ブラシで歯を磨いている所を、お姉ちゃんにみつかったら、どうなっていただろうか?
逆に怪しまれたかもしれない。
だから今回はコレでよかったんだと、今はそう思うことにしたのだった。
僕は内心の気まずさをごまかしながら、手元の歯ブラシで再び歯磨きを再開した。
準備を終えた若葉お姉さんも、歯を磨き始めた。
上手くいえないけど、お姉さんと一緒にいて、清彦だった時とは、違う緊張感を感じていた。
若葉お姉さん、雰囲気が大人っぽくなったよな。
一年ぶりに会ったお姉さんは、すっかりきれいになっていたし、スタイルも抜群に良くなっていた。特に胸!
ついぼーっと見とれていたら、双葉のやつが怒りだして、僕の事を思い切りつねるんだもんな。あれは痛かったな。
そんな僕たちを見ながらお姉さん、微笑ましいものを見てるって顔で、くすって笑っていたっけ。
歯磨きを終えて、僕はマグカップの水で口の中を濯いだ。
そして、ちらりと隣の若葉お姉さんを見た。
顔つきも身体つきも大人っぽくて、家事なんかもしっかりこなしていて、今のお子様な僕とは比べ物にならない。
特に胸、小さな今の僕の胸と見比べていたら、なんでだか急に悲しくなってきた。
やっぱり男の子は、お姉さんみたいな大きな胸のほうがいいよね。
実際僕も、つい若葉お姉さんの胸を、ちらちら見ちゃったりしていたし。
「心配しなくても大丈夫よ、双葉はまだ成長期だもの、双葉の胸も、今よりまだまだ大きくなるわよ」
少し遅れて歯磨きを終えたお姉さんが、くすっと微笑みながら、僕を励ましてくれた。
うわ、お姉さんに、僕がお姉さんの胸と、僕の胸を見比べていたことがバレてら!
僕は慌てながらも、お姉さんに返事を返した。
「そ、そうかな?」
「そうよ、それに双葉のほうが、今でも私よりも美人なんだし、成長したら今の私なんかより、もっとずっと美人になるわ。だからもっと自信をもちなさい」
「う、うん」
僕のほうが、お姉さんよりも美人!
お姉さんに褒められて、生返事を返しながら、僕もなんだか悪い気はしなかった。
「それじゃ、朝ごはんの準備もあるから、お姉ちゃん先に行くわね。後で朝ごはんが出来たら呼ぶから、その時は準備手伝ってね」
「……うん」
そう言い残して、若葉お姉さんは、洗面所を後にしたのだった。
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若葉お姉さんは、僕とは一番歳の近い、僕の一番身近にいる女としての、僕の最大の目標であり、最大のライバルだ。
まったく、若葉お姉さんには敵わないなあ。
僕はそう思わされた。
そして同時に、僕はそんな若葉お姉さんが大好きなんだって事を、今回再確認したのだった。
……あれ、今のなんか変じゃね?
僕は若葉お姉さんは、きれいで大人っぽくてステキな人だな、って憧れはしたけれど、こんな複雑な感情まで抱いてはいなかったはずだ。
そもそも普段はお互いに、遠くに離れて住んでいて、そこまで身近な存在じゃないからね。
なのに今は、若葉お姉さんは、僕にとって、もっとも身近な人みたいに感じられたんだ。
まるで僕が、若葉お姉さんの本当の妹になったみたいに……。
そこから先の思考を振り払うように、僕は慌てて頭を振った。
これって入れ替わりの影響だろうか?
僕が、別の誰かに変わっていくみたいに感じられて、急に怖くなってきた。
別の誰かって誰のこと?
双葉?
違う違う、僕は本当は清彦なんだ!
僕と若葉お姉さんとは、本当なら一年に一度会うだけの、ただのいとこのお姉さんなんだ!
しっかりしろ僕! 気を強く持て!
「とにかく、僕は本当は男で、本当なら清彦なんだ!」
改めてそう自分に言い聞かせるのだった。
でも、この体が入れ替わったままの状態が、長く続くのはまずい。
改めてそう思い、僕は少し焦りを感じ始めた。
「……本気で、元に戻ることを考えなきゃ」
僕は両手で、ぴしゃんと両頬を叩いた。
僕は決意を新たにして、気合を入れなおした。……所で。
「……トイレに行きたくなってきた」
朝起きてから、まだトイレに行っていない。
だんだん尿意が強くなってきた。
これは、限界が近い、それほど長く我慢できそうにない。
僕は慌ててトイレに駆け込んだ。
僕はトイレに入ると、便座のふたを開けて、パジャマのズボンとショーツを下ろして腰掛けた。
少し気を抜くと、それまで溜め込んでいたものを吐き出すかのように、僕の股間から勢い良くオシッコが放出された。
はあ~、スッキリした。
オシッコは終わったけど、コレでトイレが終わりではない。
後ろの大のほうも溜まっている感じがするというか、便意も感じられた。
その流れで、大のほうも済ませることにした。
そういえば、昨日は入れ替わってからは、大のほうはしていなかったっけ?
僕は便座に腰掛けながら踏ん張った。
少し硬かったけど、大のほうも調子よく出てくれた。
こんどこそ、スッキリした。
僕はウォシュレットでおしりを洗浄して、そして紙で拭いた。
おっと、前のほうも後始末しなきゃ。
そんな調子で、すんなりトイレを済ませて、僕はトイレを後にしたのだった。
そして僕は自覚いていない。昨日はどぎまぎしながら済ませていたトイレを、今日は意識しないですんなり普通にこなせていたことに。
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僕は双葉の部屋に戻ってきた。
いつまでもパジャマのままでいるのもだらしないし、早く着替えなきゃ。
昨日双葉が用意していた、部屋着の女物のTシャツと短パンがまだある、今はこれに着替えればいいよね。
僕はパジャマを脱いで、部屋着に着替えようとして、ふと思い出す。
そういえば夕べは、朝にシャワーを浴びようと思っていたんだっけ?
シャワーの事を思い出したら、無性にシャワーを浴びたくなった。
夕べオナニーをして、体が汚れてしまったし、寝ている間に寝汗もかいたから、シャワーを浴びてすっきりしたい。
今着てるこの下着も、寝汗で一度湿ったから着替えたほうがいい、というか着替えたい。
あれ、僕ってこんなにきれい好きだったっけ?
……とにかくそういうことなら、着替えを用意して、シャワーを浴びてから着替えたほうが効率がいい。
そうだと最初に気が付いていたら、今朝洗面所に行く時に、全部準備して行ったのに、
そうしていれば、こそこそしなくても良かったのに、色々と段取りが悪いなあ。
まあいい、今からでもそうしよう。
僕は一度脱いだパジャマを着なおした。
そして着替えやタオルなどを用意して、改めて洗面所へ、そこでパジャマと下着を脱いだ。
脱いだ服は洗濯機へ放り込んで浴室へ、そこでシャワーを浴びた。
シャワーは気持ちよかった。
夕べの体の汚れや、寝汗をシャワーのお湯で洗い流して、体と何より気分がすっきりした。
すっきりさっぱりした所で、僕は浴室から出た。
用意しておいたタオルで体を拭き、特に念入りに髪を拭いた。
用意しておいたショーツと穿いてブラを身につけた。
そして、部屋着のTシャツと短パンに着替えて、これでよし!
身も心もすっきりした所で、僕は浴室を後にしたのだった。
やはり僕は自覚していないし、気にしていない。
他人の家のシャワーを使うことに、今は遠慮を感じていなかったことに。
双葉の体で、勝手にシャワーを浴びたのに、今は双葉に悪いことをしたって思っていなかったことに。
何よりも、昨日の晩は、あんなにどぎまぎしていた双葉の体に、
やっぱり今朝は意識しないで、すんなり普通にシャワーを浴びていたことを、自覚していなかったのだった。
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「おはよう双葉ちゃん」
「あ、か……おはようございます」
母さん、清彦の母親に不意に声をかけられて、シャワーで気分を良くしていて、油断していた僕は慌てた。
咄嗟に返事をできたのは、昨日から双葉を演じていたからだろう。
とにかく今は、母さん相手にぼろが出ないように、双葉っぽく切り替えなきゃ。
「今日も早起きで偉いわねね」
「ありがとうございます、おばさま」
おばさま、とそう言った瞬間、僕の中で何かがはずれ、逆に何かがぴたっとはまって、切り替わったような気がした。
それが何か、少し気にはなったけど、今はそれを気にしている余裕は無い。
僕は清彦のお母様、おばさまとの会話を続けた。
「双葉ちゃん、その様子だと、お風呂に入ってきたのね」
「はい、といっても、シャワーだけですが」
「そう、双葉ちゃんてキレイ好きなのね、昨日も朝から入っていたものね」
そうでしたっけ?
と言いかけて、慌てて訂正する。
「そうですね」
双葉って、昨日の朝もお風呂に入って、多分シャワーを浴びていたんだ。知らなかった。
昨日の今頃は、僕は寝ていたから、知らなくてもしかたがない。
でもそう言われてみれば、僕にはそんな記憶は無いけど、なんとなくそうしていたような気はする。
「そういう所はやっぱり女の子ね。それに引き換えうちの清彦は、お風呂に入りなさいって言わないと、なかなか入らないのよね」
「あはは……そうなんですか」
「そうよ、あの子はそういう所はものぐさなのよ、私も男の子じゃなくて、双葉ちゃんみたいな女の子を産むべきだったわ」
女の子のほうがよかったとまで言われて、さすがにちょっと耳に痛かったので、この場は笑ってごまかした。
でもそう言われてみると、朝からシャワーはともかく、今は普通にお風呂に入るのをしぶるのはどうかという気がした。
だって今は、この体で汗をかいて汚れたままでいるのってイヤだって思うし、清彦が汚れた状態なのもイヤだとおもったのだから。
「それにあの子は、今朝もまだ寝てるのよ。本当、あの子ったらいくら夏休みだからって、毎朝寝坊助さんなんだから」
おばさまの、清彦への愚痴に相槌を打ちながら、僕は内心苦笑していた。
息子が側にいないから、本音で話をしているんだろうけれど、
皮肉なことに、その息子が目の前の双葉と入れ替わって、女の子になっているなんて、思ってもいないであろう。
だけど僕は、おばさまの言い草に、なぜかあまり反発を感じなかった。
もし清彦として面と向かって意見を言われたのなら、反論したり言い訳をしたりしていただろう。
だけど今は、そりゃそうだとか、しょうがないなあとか、なぜだか僕は、おばさまのその意見に共感していたんだ。
「そうだ双葉ちゃん、良かったらうちのバカ息子を、起こしてやってくれない?」
「え、わたしが? 良いんですか?」
「たまには良いのよ、それに、双葉ちゃんが起こしてあげたほうが、清彦も喜ぶだろうしね」
などと言いながら、おばさまは、僕に意味ありげに微笑みかけた。
「わ、わかりました。私でよければ」
「よろしくお願いね。あ、私は邪魔にならないように、少し朝の散歩でもしてくるわね」
などと言い残して、おばさまは、この場を後にしたのだった。
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なんだか変な事になったなあ。
双葉になった僕が、清彦になった双葉を起しに行くことになるなんて。
でもまあ、おばさま公認で清彦を起こしにいけるんだから、ありがたくこの機会を利用しよう。
僕は清彦たちが泊まっている客間に移動した。
清彦は、客間に敷いた布団に横になって、まだ寝ていた。
「……僕ってこんな寝顔なんだ」
口からよだれをたらして、無防備なだらしない寝顔だった。
ある意味幸せそうな清彦の寝顔を見つめながら、僕は複雑な心境だった。
元の自分の顔が、イケメンだったなんて思ったことはさすがに無いけれど、こんなにだらしない顔をしてるなんて思わなかった。
それに、なんだろう、この感じは?
「半日ほど前まで、僕がこの体の中にいたなんて、なんだか信じられない」
上手く表現できないけど、この顔が、この体が、元の僕の顔、元の僕の体だったってことに、現実感が感じられないっていうか、ぴんと来なかったんだ。
いや、この体が僕の体だったのは、紛れもない現実だ。
だらしない寝顔を見たせいで、これは僕じゃない、別の誰かなんだって、現実逃避で思いたいだけなんだ。きっとそうだ。
僕は自分にそう言い聞かせた。と、その時。
「う、うぅ~~ん……」
は、もしかして、清彦が目を覚ます?
「……って……まってよ、……たば…ちゃん…」
なんだ、寝言か。
寝言が小さくて、内容まではよく聞き取れなかったけど、口調が幼い子供みたいだったように感じた。
それになんとなく、情けない口調だったような気がした。
いったいどんな夢をみているんだろう?
清彦の見ている夢の内容が少し気になった。気になったけど、……でも、そろそろ起さなきゃ。
夢を見ているってことは、今は眠りが浅いってことだ。
清彦を起すには、今がちょうど良いタイミングなのかもしれない。
「起きて、朝だよ双葉、起きてよ」
清彦に優しく声をかけたけど、特に反応なし。
もう一度、今度は優しく清彦の体をゆすりながら、もう一度優しく声をかけた。
うぅ~~ん!
清彦は寝ぼけたまま、不機嫌そうな声をあげながら、僕の手を乱暴にはらいのけた。
そしてそのまま、頭からタオルケットをかぶりなおした。
「うふふふふ……、人が優しく起してあげてるのに、そういう態度なんだ……」
そんな清彦の反応に、僕はぷちっと切れた。
僕は清彦から、乱暴にタオルケットを剥ぎ取った。
そして、タオルケットを奪われてうずくまる清彦を、乱暴にゆすりながら、大声で起した。
「起きろ! 朝だぞ起きろ!」
「ううぅ~ん、まだ眠いよぅ……」
眠そうに目を擦りながら、清彦はやっと起き出した。
「やっと起きたね、おはよう双葉」
「……おはよう。…あれ、誰?」
清彦は目を擦って、ぱちぱち目蓋を瞬かせて、目を細めながら僕を見直す。
それでも近距離の僕の顔が、清彦にはよく見えていないみたいで、……ああそうだった。
「はいこれ」
といって、僕は枕元に置いてあったメガネを、清彦に手渡した。
「……なんでこんなものを?」
とまだ半分寝ぼけながら清彦は、僕から受け取ったメガネを、半ば無意識に掛けた。
「あれ、わたしがいる? なんでわたしが……!?」
僕の顔を見て、それでもまだ半分寝ぼけていた清彦の表情が、何かに気が付いたようにハッと醒めた。
そして自分の体を見下ろして、何かを確かめるように、自分の体をぺたぺたと触り始めた。
水色のパジャマの上から、胸の辺りを撫でてがっかりした表情になった。
「もしかして私、男なの? そうだ私、昨日清彦と体が入れ替わっちゃったんだった」
目が覚めてきて、清彦も昨日の事を、色々思い出してきたようだ。
「これは夢よ、夢なんだわ。でも、……何よこの感じは?」
清彦は何かが気になるのか、さらに視線を自分の下半身にずらして見た。
つられて僕も、視線を清彦の下半身にずらして見た。
清彦のパジャマの股間の辺りには、元気に大きくテントが張られていた。
「やだ、ナニコレ? わたしのここ、どうなってるのよ!?」
清彦はパニクッて、恥ずかしそうに赤面した。
でもその光景を見て、なぜか僕のほうが頭にカーって血が上って、赤面しながら取り乱してしまった。
「ば、バカ! スケベ! エッチ! 朝っぱらからなんてものを見せているのよ!!」
「え? ……ご、ごめん、ぼく…そんなつもりじゃ……」
僕の剣幕に、なぜか清彦が、反射的に謝ってしまっていたのだった。
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しばらくして、お互いに気持ちが落ち着いてきた。
それでもお互いに気まずかった。
あれが男の朝勃ちで、男の生理現象だってことを、初の体験で、知識の無い今の清彦(双葉)が知らないのはしょうがない。
だけど、昨日まで清彦で、男だった僕は、あれが男の生理現象だって知ってるはずなのに、なぜかあれを見て取り乱してしまった。
僕はちらりと横目で清彦を見た。
清彦は恥ずかしそうに、僕に背中を向けていた。
この角度だと清彦の股間は見えないけれど、どうやらあそこのほうは、今は落ち着いてきているようだった。
って、あれは僕が清彦だった時に散々見て触ってきたモノじゃないか、なのになんで僕は、今はあれを意識してるんだよ!
僕は頭を振って邪念(?)を祓った。今はこの場を収めなきゃ。
「ごめん、急に男になって、あんな体験をした双葉のほうがつらいはずなのに、僕のほうが取り乱しちゃって、本当にゴメン」
「……いいわよ、清彦だって、急に女に変わっちゃって、色々混乱しちゃってたんだろうし」
僕のほうから頭を下げて謝って、今の清彦に許してもらえた。
僕はひとまずホッとした。
この場はひとまず収まったのだった。
清彦もホッと安心したのか、「ふぁ~~あ」と大きなあくびをした。
「やっぱまだ眠いの?」
「う、うん、少しね」
ああいう風な起し方をしておいて何だが、清彦は普段から朝は遅かったし弱かった。
だから中身が変わっても、体の方は朝は弱いままなのだろう。
まだ少し眠そうだった。
そういえば僕のほうは、今朝はやけにすんなり目が覚めて、すんなり起きられた。
こんなにすんなり起きられたことは、ここ最近は記憶にない。
さすがに目が覚めた後は、体の違いに気づいての戸惑い、ドタバタしたりしていたから、朝の目覚めの気分まで気にする余裕はなかったが、いつもよりも気分はすっきりしていた様な気はする。
「それにゆうべは、つい遅くまで起きてて、寝る時間が遅かったから、そのせいもあるかも」
「遅くまで起きてた?」
何でだろう?
昨日聞いた話だと、清彦はやることが無くて、時間を持て余していたはずだ。
だったらさっさと寝てしまえば良かったのに。昨日の僕みたいに。
寝付けなかったのかな?
「う、うん、まあ、ちょっとね」
「……まあ、別にいいけどね」
なぜだか清彦は、気まずそうに言葉を濁した。
理由を言いたくないなら別にいいや、と、僕はこの話題は流した。
「それよりも、顔でも洗って来たらどう、目が覚めてすっきりするよ」
「うん、そうする」
そんな訳で、清彦は顔を洗いに洗面所へと移動した。
僕はそんな清彦と一旦別れて、そろそろ若葉お姉さんに頼まれた朝のお手伝いをしに、台所へ向かったのだった。
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#ここから少しだけ清彦(元双葉)視点で
私は洗面所の水で顔を洗った。
うー、水が冷たくて気持ちいい。
やっともやもやした眠気が醒めた。
でもまだ少し、疲労感も残っている。
これってやっぱり、夜更かししてゲームをしていたからよね。
以前から私は、うちに来た清彦が暇な時は、ゲームばかりしていたのは気に入らなかった。
そんな暇があるのなら、もう少し私の相手をしてくれてもいいのに、なんて思っていたから。
だから、そんな清彦に、私はよく文句を言っていた。
そんな私が、清彦になって暇を持て余して、母さんの相手にも負担を感じて、それらをごまかす方法として、元の清彦のアドバイスで携帯ゲームをはじめた。
最初は気乗りしなかったけど、ゲームを始めてみると、これが以外に面白い。
ゲームがこんなに面白いものだったなんて、私今まで知らなかった!
いつの間にか私は、ゲームにはまって、ゲームに夢中になっていた。
私は自覚していなかったけれど、最初はぎこちなかった指の動きは、いつのまにかスムーズになっていた。
「いつまでゲームをしているつもりなの? もう夜も遅いから、そろそろ寝なさい!」
さすがに母さんに怒られて、気が付いたら深夜で、日付も変わっていた。
うー、もうちょっとゲームを続けたかった。
そう思いながら、確かにもう夜も遅いし、疲労も溜まっている。私はそのまま布団に入って横になった。
昼の山登りの疲労、夜のゲームの疲労が一気に来て、私はそのまま眠りに着いちゃったんだ。
そういう経緯があったから、ゲームにはまって夜更かしした件は、双葉(元清彦)には気まずくて素直に言えなくて、私は曖昧にごまかした。
洗顔で気分がすっきりした所で、タオルで顔を拭いた。
顔を拭き終えたタオルをどかしたけれど、視界がぼやけてよく見えない。
うーもう、双葉だった時は、目が良いのは自慢の一つだったのに、今はなんでこんなに目が悪いのよーっ!
この目が悪いのは、元の清彦のせいであって、私のせいじゃないのに。
ぶつぶつ文句を言いながら、私はメガネをかけた。
メガネで視力が補正されて、ようやく普通に見えるようになった。
洗面所の正面の鏡には、メガネをかけて少し不満そうな表情の清彦の顔が映っていた。
「これが今の私の顔、私は今は清彦なんだよね」
つぶやく私の声も、声変わりの始まった男の声で、なんだかイヤ、こんなのイヤ!
そう思っているはずなのに、でも同時に、今の男の清彦になった自分に、私はゾクゾクもしていた。
なんだか変な気分だった。
その後歯も磨いて、口の中を漱いだ。
歯磨きが終わった後は、トイレに行きたくなってきた。
私はトイレに移動した。
私は洋式トイレの前に立ち、便座を上げて、パジャマのズボンとトランクスを下げた。
そして私はちんこのサオを指でつまみ、洋式トイレの真ん中に狙いを定めて、立ったままオシッコをはじめた。
昨日、山ではじめて立ってオシッコをしたときは、おっかなびっくりで、ちんこに触るのはイヤだったけど、今はさほどではなかった。
ううん、立って済ますのは、女よりも楽でいい。
それになんだろう、この立ってオシッコの出来ることの誇らしい気分は!
立ってオシッコができることに関しては、女より男のほうが良い、私はそう感じていた。
私はふと、夕べの事を思い出した。
夕べお風呂でここを弄った時は、気持ちよかったなって。
男と女の最大の違いは、男の体にはちんこがついていることだろう。
私は生理的に、男のコレはイヤだと思いながら、だけど同時に、私は男の子の体や性に興味津々で、ついここを弄ってしまった。
最初はふにゃふにゃだっただった男のコレは、弄っていくうちに硬く大きくなって、グロテスクな別の生き物のようになった。
ナニコレ怖い!
これ以上こんなことしてちゃダメ!
そう思いながら、でもここを弄って得られる刺激や快感に、私は動かす手を止められなかった。
ううん、だんだん余計なことを考えられなくなって、ただ気持ちよくなりたくなった。
夢中になって手を動かす。息が荒くなる。
体の内側から、何かがこみ上げてきた。
もう手が止められない、止まらない、私はこの快感の虜になっていた。
ああ、何かクル、私のここに何かクル―ッ!
そしてそれは、私のちんこから一気に放出された。
それと同時に、高まっていた快感や高揚感が、嘘のように急速に薄れていった。
大きく硬くなっていたちんこは、嘘のように小さくしなびていった。
後に残ったのは、自己嫌悪と、清彦に対する罪悪感だった。
私、女の子だったのに、男の子になっちゃった。
清彦、ごめん、私のほうこそ、勝手なことしてごめんね。
終わった後、私はシャワーで体の汚れをキレイに洗い流しながら、でもしばらく落ち込んでいた。
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あ、ヤバイ、お風呂でのことを思い出していたら、また勃ってきちゃった。
さっき朝勃ちしてたときは、すぐ側に双葉がいたから、必死で我慢した。
我慢しているうちに、どうにか収まってくれた。
だけど、なんだかもやもやした気分は残った。
今は側には誰もいない。
私はすっきりしたかった。
そして今は、どうすればこの体がすっきりできるのかを、私は知っていた。
これ以上こんなことをしちゃダメ!
私が私でなくなっちゃう!
危機感や嫌悪感が無い訳じゃない。
だけどそれ以上に、今の私は、すっきりしたい、気持ちよくなりたい、という気分が強かった。
私は今度は便座に腰掛けて、トイレットペーパーを長めに引き出した。
それを手に持って、勃ってきたちんこを握り締めて、弄り始めたのだった。
ちんこを弄っているうちに、私の脳裏には、ついさっきの双葉の姿が思い浮かんできた。
清彦のやつ、私の体での仕草や雰囲気が、昨日よりも女の子っぽくなっちゃってるじゃない。
もしかして、元の私よりもかわいい?
私の体なのに、ついドキッとしちゃったじゃない。
ううん、ドキッとするどころじゃない、私は私の姿を思い浮かべて、今はいったい何をしているのよ!
違う、違うわ、あれは私じゃない、私の姿をした清彦なのよ。だからコレはいいのよ。
昔から清彦はとろくて、でも男の癖にかわいかった。ついいじめたくなるくらいに。
なのに今の可愛さは反則よ!
ああん、もう、私のコレで、今の清彦を無茶苦茶にして、いじめてやりたい!
私は、双葉になった清彦を、男になった私が無茶苦茶にしている所を思い浮かべながら、イッたのだった。
「……私、なんてことを想像していたのよ」
終わった後は、また激しい自己嫌悪を感じていた。
いくら中身が清彦だからって、私自身の体を襲う所を想像をするなんて。
私の心が、どんどん男っぽくなってる?
早く元の双葉に戻らないと、まずいような気がする。
さすがに焦りを感じ始めた。
今日のご神体への儀式を成功させて、早く元に戻らないと。
でもその前に、まずここでヤッたことの後始末をした。
その後、客間に戻った。
双葉(清彦)は、若葉さんの手伝いに行っていて、もう客間にはいなかった。
あんなことの直後では、さすがに顔を合わせるのが気まずかったから、少しホッとした。
母さんも、まだ散歩から戻って来ていないし、この部屋には今は私一人だった。
ちょうどいい、今のうちにと、私はパジャマから普段着へと、着替えをしたのだった。
そして、朝食の準備ができて、双葉が呼びに来るまで、この部屋で待つことになるのだった。
#清彦(双葉)視点はここまでです。
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#ここからまた双葉(清彦)視点に戻ります。
清彦を起こして別れた後、僕はお姉さんの家事を手伝いに、台所に行った。
「こっちはまだ早いから、もう少し後でいいわ。そうね、それまで玄関の掃除をしておいて」
というわけで、お姉さんに言われて、僕は玄関掃除をはじめた。
基本的にこの家の玄関は、毎朝ちゃんと掃除されているから、ほとんどゴミがなかった。
でも一応一通り箒で掃いて、わずかな塵や埃を掃った。
そしてその後、玄関先に水撒きをはじめた。
「あらあら双葉ちゃん、今度は玄関のお掃除、偉いわね」
「あ、おばさま、おかえりなさい」
水撒きをしていると、清彦の母親が、散歩から帰ってきた。
「結構長い散歩でしたね」
「まあね、こんな所でも、この里は一応私の故郷だしね、色々懐かしくなって、つい遠出をしちゃった」
「こんな所? 一応?」
「あ、今ここに住んでいる双葉ちゃんには、悪く聞こえちゃったわね、ごめんね」
「え、いえ、そんなことないです」
そんな流れでおばさまは、昔話を始めた。
僕はつい、おばさまの、昔話の聞き手になっていた。
なんでもおばさまは思春期に、親が勝手に結婚相手を決めたこと反発して、今は亡きお祖父さんと喧嘩して、家出同然にこの里を出たのだということだった。
「今時、結婚相手を勝手に決めるなんて、時代錯誤だと思わない? しかも相手は一回り年上の、三十台のおっさんよおっさん、ひどいと思わない?」
「そ、そうですね」
「娘を引き止めたかったら、せめてもう少しマシな相手を選べっての、あのバカ親父!」
清彦だった僕は、今まであまり興味が無かったとはいえ、清彦の母親にそんな過去があったなんて知らなかった。
いや、清彦が興味を持って母親に聞いていたとしても、大雑把な話は聞けても、清彦だったらここまで生の声を聞くことができただろうか?
それが今は、僕が双葉の姿になり、双葉だからこんな形で聞くことができて、知る事ができたなんて、ちょっと複雑な気分だった。
「それで、おばさまは、この里を出たのですか?」
もし、おばさまが里を出ないで、親の勧めたこの里の男と結婚していたら、清彦は生まれなかった。
僕はこの場にいなかったかもしれない。
ちょっとぞくっとした。
「でもそれはきっかけにすぎないわ。その件が無かったとしても、いずれ私はこの里を出て行ったと思うわ。
この田舎の里に埋もれて、窮屈に人生が終わるのは私はイヤだった。もっと外の広いに出ていきたかった。
だから、高校生になったころから、色々里を出る準備はしていたのよ」
などと、本来ならハードなはずの話を、おばさまは実にあっさり楽しそうに話してくれた。
そんなおばさまの話に、僕はいつのまにか本気で聞き入っていた。
この後も、この里でのおばさまの、学生時代や子供の頃の話を聞かせてもらった。
僕の知らない、おばさまの過去話が、興味深くて面白かった。そして何より楽しかった。
そういえば僕は、おばさまとはこういう話をしたことがなかった。
なんで僕は今までおばさまと、親子でこういう話をしてこなかったんだろう?
それとも今の僕が双葉だから、親戚の女の子だから、かえって適度な距離で、おばさまとこういう話が出来たんだろうか?
……あ、あれ?
っと僕は、おかしな事に気が付いた。
さっきから僕は、清彦のお母さんのことを、心の中で普通におばさまと呼んでいた。
そりゃ、双葉にとってはこの人はおばさまだけど、元の僕にとっては、この人がお母さんのはずなんだ。なのに何でおばさまなんだ?
と、そのことに気づいて疑問を感じたその時、
「双葉、おばさんとのおしゃべり、楽しそうね」
「お、お姉さん」
「でも、そろそろ朝食の準備ができるから、おしゃべりはそこまでにして、こっちを手伝って欲しいわ」
「ごめん、今行く」
若葉お姉さんに声をかけられて、僕は慌てて台所へお手伝いに向かったのだった。
今は余計なことは考えないで、お姉さんのお手伝いをしよう。
僕はお姉さんの指示通りに、朝食の準備をした。
似たようなお手伝いを、昨晩もしていたからだろうか、特に戸惑うことなくスムーズにできた。
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「あらあら、美味しそうな朝ごはんね」
準備が出来た頃、おばさ……もとい、清彦のお母さんが、居間に入ってきた。
「若葉ちゃん、それに双葉ちゃんも、朝からお母さんの代わりに朝の準備、偉いわね」
「いえ、それほどでもないです」
清彦のお母さんに褒められて、お姉さんは少し照れくさそうだった。
「さっきは双葉ちゃんと、長話をしててごめんなさいね。おばさんも手伝おうか?」
「あ、いえ、もうすぐ準備できますから、大丈夫です。おばさんはそこで待っててくださいね」
「わかったわ」
程なく、朝食の準備は出来た。
後は、ここにいない全員を呼んできて、朝食を食べるだけだった。
「あ、双葉ちゃん」
「はい、何でしょうか?」
「朝ごはんができたって、うちのバカ息子を呼んできてくれない?」
「……はい」
バカ息子か……、
目の前にいる姪っ子の中身が、そのバカ息子だと知ったら、どんな顔をするんだろう?
まあいい、今はともかく、そのバカ息子を呼んでこよう。
「あ、双葉ちゃん」
「はい?」
「毎年いつも、清彦のことありがとうね」
「えっ?」
僕は清彦のお母さんに、急にお礼を言われて戸惑った。
清彦のお母さんは、そんな戸惑う僕にかまわずに続けた。
「あの子は、双葉ちゃんも知っての通り、性格はおとなしくて消極的なのよね。
そのせいか、東京にいたときから、うちにこもってあまり外に出かけようとしない。
もう少しだけでいいから、積極的になってほしいって思ってるんだけどね」
ため息をつく清彦のお母さん
うっ、清彦が清彦のお母さんに、そんな風に思われていたなんて。
いやでもたしかに時々、たまには外に出て遊びなさい。って口うるさく言われていたっけ。
「でもね、そんなあの子を、ここでは双葉ちゃんが、いつも外に引っ張り出してくれている。本当に感謝しているのよ」
そんな清彦のお母さんに、一瞬、清彦として若干反発しつつ、でも今は双葉としてなんて返答をすればいいのか戸惑った。
だけど、元の双葉なら、こう答えたような気がした答えを口にした。
「わ、わたしは別に、そんなたいしたことはしていません。
わたしはただ清彦に、この里のいい所をもっと知って欲しくて、お節介を焼いていただけですから」
「くすっ、双葉ちゃんも素直じゃないわね」
「えっ?」
「なんでもないわ、こっちのことよ。
それでね、あの子は双葉ちゃんのいうことなら、口では文句を言いながらちゃんと聞くのよ。
それに毎年この時期に、この里に行くって言ったら、やっぱり文句を言いながら、でもここに来る。何でだと思う?」
「えっ、なんでですか?」
「この里には双葉ちゃんがいるからよ」
「そ、そんなんじゃないです! だって僕、……じゃないあいつは、いつも面倒くさそうにしていたし」
「あの子、そういうところは素直じゃないから」
だから、そんなんじゃない、そんなんじゃないから!
「双葉ちゃん、あの子に気があるなら、脈はあるからがんばってね」
清彦のお母さんは、僕に微笑みながらウインクした。
何を適当なことを言ってるんだよ!
絶対面白がってるだろ!
今のこの話を聞いていた、双葉の中身が僕だったから良かったけど、
そんなけしかけるようなことを、もし本物の双葉に言って、双葉が本気で勘違いしたらどうするんだよ!
だいたいこの言い草だと、まるで双葉が僕に気があるみたいじゃないか!
……双葉が僕に気がある?
まさか、それこそ清彦のお母さんの勘違いだよね?
でも、何でだろう?
そうだと知らされて、急に胸がドキドキしてきた。
今までの双葉の、僕に対する態度を思い返してみると、色々と心当たりがあるんだ。
そうだと気づかされたせいなのか、なぜだか双葉の事を意識してしまって、ドキドキが止まらない。
なんでだ? 落ち着け、落ち着け僕!
移動してきた客間の前で、僕は深呼吸をして、一旦気を落ち着けた。
よし、とにかくここは、何事も無かったように双葉に普通に、そう普通に接すればいいんだ。
ここは朝ごはんの用意が出来たって、呼べばいいだけなんだから。
僕は、客間のふすまを開けて、中にいる清彦に声をかけた。
「双葉、朝ごはんの用意ができた……って、何してるの?」
「え、あ、これは、……ただ待ってるのは退屈だったから、ちょっとね」
清彦は、布団の上にあぐらをかいて座りながら、携帯ゲーム機で遊んでいたのだった。
こういう時、元の僕も、ゲームで時間をつぶすことは多かった。
だけど、ゲームで時間つぶしをしていた今の清彦を見て、何でだかカチンときた。
でも、どうにか気持ちをおさえて、僕は”やさしく”清彦に促した。
「……まあいいよ、とにかく朝ごはんの準備ができたから、ゲームを止めて早く来てよ」
「ちょ、ちょっとだけ待って、ここ、もう少しだから」
またカチンと来た。
せっかく僕が呼びに来てやったのに、やさしくしてりゃ何だよその態度は!
「もうっ、ゲームはいいから!」
「あっ!」
僕は清彦から、さっと携帯ゲームを取り上げて、電源を切った。
「うー、もう少しだったのに」
「何ゲームにはまったばっかりの、小学生みたいなことを言ってるんだよ! ごはんの準備が出来てるんだから早く来て!」
「……わかったよ」
清彦は、僕を恨みがましい目でみながら、のそのそと立ち上がり、この部屋を後にした。
部屋を出る清彦の後姿を見つめながら、僕は思わずため息をついた。
この部屋に入る直前に、ドキドキしていた気持ちが、今の事でどこかに吹き飛んでいた。
……まったくもう。僕のドキドキを返せ、だよ。
昨夜は夜更かししていたから眠いって言っていたけど、ゲームをしていて夜更かししていたんじゃないのか?
前から僕がゲームをやっていたら、色々文句を言っていたくせに、今は自分のほうがゲームにはまってどうなんだよ!
ここでふと思った。前にも似たことがあったような気がする。いつだっけ?
さすがに最近はこういうことはなかったが、そうそう数年前の小学生の頃に、僕を呼びに来た双葉に、こんな風に携帯ゲームを取り上げられたっけ。
今の清彦は、あの頃の小学生だった僕みたいな態度、反応みたいだった。
……あれ?
もしかして、あの時と、まるっきり立場が逆になってる?
体が入れ替わってしまっている以上、元の体に戻れるまでは、ある程度お互いに成りすまさなきゃいけない。
「だけど今のあれ、演技じゃないよな」
僕はまたゾクッと感じながら、今朝の洗面所でのことを改めて思い出した。
無意識に双葉の歯ブラシを使っていたり、洗面所で若葉お姉さんと会話していた時、いつのまにか素で、妹の双葉として振舞っていた。
双葉の体の影響を受けて、僕の中身も双葉に染まってきてる?
そのことに気づいて、危機感を感じたことも思い出した。
「双葉も僕の体の影響を受けて、少しづつ中身も僕に染まってきてる?」
ありえると思った。
だとしたらこのままじゃまずいと、洗面所でも感じた危機感をまた感じた。
いや、僕自身だけの危機感じゃなく、今の清彦のことも含めての危機感だから、余計に深刻に感じた。
だからといって、そのことを今の清彦に指摘しづらいし、小手先の対策ですぐにどうこうできる問題でもない。
結局は元の体に戻らない限り、根本的には問題の解決できないのだから。
「双葉、清彦くんはもう居間に来たわよ! あなたは何をしてるの!」
お姉さんの呼ぶ声に、僕はハッとした。
いけない、そのことは、後で何とかするとして、今は戻って朝ごはんを食べなきゃ。
僕は慌てて居間に戻った。
僕以外は、全員そろっていて、僕が来るのをまっていた。
僕は最後に、いつも双葉の座っていた場所に座った。
「「「「いただきます」」」」
朝ごはんを食べながら、ふと気になって、ちらりと清彦の様子を見た。
清彦は、どっかりとあぐらをかいて座りながら、やや早食いでごはんを口にかきこんでいた。
昨日の夜は、清彦は正座で座って、お行儀よく食べていた。
清彦らしくないって感じていた。
今朝のそれは、清彦らしい食べ方、座り方だけど、逆に心配になってきた。
あれは、演技でやってるんだよね?
元に戻ったときに、変な影響が残らなきゃいいんだけど。
もっとも、今はこれ以上心配してもしょうがない。
今は少しでも早く、元に戻ることを考えよう。
僕は朝ごはんに戻った。
そんな僕自身が、きちんと正座で座って、お行儀よく朝ごはんを食べていることを、あまり自覚していなかったのだった。
朝ごはんを、まずは敏明お兄さんが、次いで清彦が、さっさと食べ終わった。
「ごちそうさま」
そして清彦はそそくさと居間を出て、客間へと戻っていった。
んもう、そんなに急いで食べて、自分だけ急いで部屋に戻って、どうするつもりだよ。
この後のことは、僕が行かないとはじまらないのに。
そう思いかけて、ふと気が付いた。そんな今の自分の食べかけの朝ごはんは、まだ半分以上残っていた。
のんびりしていたつもりはないけど、いつもよりも食べるペースが遅い?
焦りを感じたわけじゃないけど、僕は食べるペースを上げた。
その結果、僕が食べ終わるよりも先に、お父さんが食べ終わったけれど、その次には僕が食べ終わった。
「ごちそうさま」
「あ、双葉」
「なに? お姉さん」
「先に食べ終わったお父さんたちの食器も、一緒に運んで洗っておいて」
「……はい」
そんな訳で、僕は先に朝ごはんを食べ終わっていた、お父さんや敏明お兄さん、清彦の食器も一緒に台所へ運んだ。
そしてその食器を、結局僕が洗ったのだった。
先に運んだ食器を僕が洗い終わらせた頃、朝食を食べ終わった若葉お姉さんが、残りの食器を運んできた。
「ごくろうさま、後はわたしがしておくから、双葉は戻ってもいいわよ」
「は、はい、じゃああとはよろしく」
「くすっ、清彦くんによろしくね」
「な、なに言ってるの、そんなんじゃないって」
「はいはい」
そんなやりとりはともかく、後はお姉さんに任せて、僕は台所を後にした。
そして、清彦のいる客間に向かった。
客間には清彦と、やはり朝ごはんを食べ終わって戻って来ていた、清彦のお母さんがいた。
それは良い、それは良いんだけど……。
「何やってるの?」
「え、これは……」
僕がこの部屋に来るまで、清彦はまた携帯ゲームで遊んでいたのだった。
あたふた慌てる清彦を尻目に、僕は清彦のお母さんに話しかけた。
「おばさま、ちょっと清彦をお借りして、いいでしょうか?」
「いいわよ、どんどん外へ連れ出して、……ほら清彦」
「……え、もうちょっとだけ」
「あまり女の子を待たせるもんじゃないわよ、早く行きなさい」
そんな訳で、もたもたしてる清彦を、清彦のお母さんが追い出す形で、一緒に部屋の外に出たのだった。
「もうちょっとだったのに……」
清彦は、なんだか未練たらたらだった。
「もうちょっとって、きみだって僕が清彦だった時は、こんな風にゲームをしていたら、あまりいい顔してなかったじゃないか」
「そりゃそうだったけどさ、ゲームをはじめてみたら、面白くてつい夢中になっちゃって、なんだか止められなくて」
さっきも思ったことだけど、ゲームにはまったばかりの小学生みたいな反応だなって思った。
双葉だった時はゲームをやってなかったから、ゲームへの免疫が無かったからなんだろうけど、こうも好き嫌いが極端に変わるものだろうか?
好き嫌いが変わる?
そういえば、そういう僕も、今はゲームをやってる清彦を見て、面白くないって気持ちが先行してた。
さすがに最近は、そんな子供みたいな反応で、ゲームに夢中にはなっていなかったけど、ゲームにはまって夢中になる気持ちは、知っていたはずだったんだけどな。
「ちょっと聞くけど、双葉は元のこの体に戻りたいんでしょう?」
「当然よ、一刻も早く、その体に戻りたいわよ」
「だったら今は、元の体に戻ることを優先しよう。ゲームはその後でもできるし」
「……そうね、その通りだわ」
「それでさ、元に戻ったら、一緒にゲームしよう」
「一緒にゲーム! しょうがないわね、いいわよ、元に戻ったら一緒にゲームしましょう」
清彦は、何でだか急に嬉しそうに、元に戻ったら僕と一緒にゲームをする約束をしたのだった。
「それじゃ、さっさとご神体の所へ、出かける準備をすませるわよ!」
なぜだか張り切りだした清彦が、僕にああしろこうしろと指図しながら、山登りや儀式に必要なものを集めた。
「……なんだよ、急にえらそうになって」
「何か言った?」
「いや、何でも……」
でも、ついさっきまでどこかしおれていた清彦が、元気になった。
入れ替わる前までの、双葉が戻ってきたみたいに感じて、僕もなんだか嬉しかった。
その途中、役割分担で、清彦が納屋へ行き、僕は台所へと移動した。
台所の中の様子を伺う。
よし、台所には、今は誰もいないな。
確認してから、そっと台所の中へと忍び込んだ。
儀式のための食材を、ほんのちょっとづつ拝借して、リュックサックに詰め込む。
そして、双葉のお父さん用のお酒を、一升瓶からペットボトルに少し移して、お神酒がわりにこれも拝借した。
こんなことしていていいのだろうか?
いけないことをしている自覚をしながら、なんだかすごくドキドキしている。
「あら双葉、こんな所で何してるの?」
そんな時に、こんな所を見つかって、後ろから声をかけられて、僕の心臓がドキッと跳ね上がった。
「お、お姉さん! これは、……山へピクニックへ行く準備をしているんだ!」
こういう時のために、清彦のアドバイスで、あらかじめ用意していた言い訳をした。
だけど、こんな怪しい行動をしておいて、こんな言い訳が、お姉さんに通用するだろうか?
お姉さんの返事が返ってくるまで、僕はすごくドキドキした。
「山へピクニック? ああなるほど、清彦くんとこそこそ、何をしているのかと思えば……」
何をどう勘違いをして、どう納得したのか、若葉お姉さんは僕に、意味ありげににっこりと微笑みかけた。
「それならそうと、恥ずかしがらずに前もって言っておいてくれれば良かったのに。
そうすれば、お姉さんも準備を手伝ってあげたのに、……まあいいわ、今からでも手伝ってあげるわ」
そしてお節介に、おにぎりでよければ作ってあげるわ。と言われて、なんとなく断れなくて受け入れた。
お姉さんがおにぎりを作ってくれて、僕はその横で、お姉さんの指図通りに手伝った。
「はい、できたわ、清彦くんとのデート、がんばってね」
「だから、そんなんじゃないって!」
「はいはい」
まあそんな訳で、当初の予定よりも、お姉さんの作ってくれた、お弁当の分の荷物が増えたのだった。
用意した荷物を持って、僕は双葉の部屋へと戻ってきた。
部屋では、先に準備を済ませた清彦が。僕を待っていた。
「遅い、何してたの?」
「ごめん、台所で、お姉さんに見つかっちゃって」
「えっ、……それで、大丈夫だった? 怪しまれなかった?」
「う、うん、例のピクニックの言い訳をしたら、なんか納得して、お弁当を作ってくれた」
そう言いながら、僕は清彦に、おにぎりの包みとお茶の入った水筒を見せた。
「そ、そう、姉さんにバレなかったのならまあいいわ。おべんとうは、向こうでお昼に食べればいいわね」
とりあえず儀式とやらに必要な物の準備は出来た。
後はいつでも、例の洞窟へと出発すればいい、はずなのだが。
「あ、でもその前に、この格好で山へ行くのは、さすがにどうかと思うんだけど」
「たしかに、その部屋着じゃラフすぎるわね」
僕が今着ているのは、女物のTシャツと短パン、さすがに山に着ていくのには、これはどうかと思ったんだ。
最も昨日は、双葉はワンピース姿で山のあの洞窟まで行ったんだから、これでも行けないことはないのだろうけどね。
双葉にとっては、あの辺りはまだ庭みたいなものみたいだけど、山に慣れていない僕にとってはそうではないからね。
「わかったわ、山登りに適した服を、見繕ってあげるわ」
そう言って、清彦は洋服ダンスの中から、長袖のシャツとレディースのデニムのパンツをとりだした。
「それじゃ、着替えさせてあげるわね」
えっ?
着替えさせてあげるって、なんで?
いきなり何を言い出すんだよ!
「女の子の服を、一人で着替えられる?」
「大丈夫だよ、昨日から何度も一人で着替えてるし、この服なら男物とあまり差がないから、一人で着替えられるよ」
反射的に、それはイヤだと感じて、僕は慌ててやんわり断った。
だけどなぜだか清彦は、食い下がってきた。
「着替えはいいとしても、その後の女の子の身だしなみは、ちゃんと一人で整えられるの?」
「それは、さすがに自信は無いけど……」
「それにあんた一人だと、私の体に何か変なことしないか心配だから、見ていてあげる」
「へ、へんな事なんてしないよ! 双葉は僕を信用してないの!」
変なことをしないか心配と言われて、さすがにギクッとした。
双葉は僕の事を信用していないのか? という反発も感じたけど、
でも昨晩この体で、女の子のオナニーを、しちゃっているから、もし問い詰められたら言い訳できない。
さすがにバカ正直にそんなことは言えないし、僕は慌てて誤魔化した。
「そりゃ、まったく見たり触ったり、しないってわけにもいかないけどさ」
「清彦の事は信用してるわ。でも、それでも、私は私の体のことが心配なの! この目でその体を確認したいのよ!」
元の双葉に、そこまで言われたら、これ以上は断れなかった。
「わかったよ……そこまで言うなら、ただし」
「ただし?」
さすがにこの服なら一人で着替えられるし、手伝ってもらうというのはどうかと思う。
僕が変なことをしないか、着替える所を見ているだけにしてほしい。
あと、確かに着替えの後の身だしなみには自信が無い。
だから着替えが終わった後、身だしなみを整える所は手伝って欲しい
「わかったわ、それでいいわ」
ということで、僕と清彦の間に、妥協が成立した。
着替えそのものは、さほど難しくは無い。
今着ているTシャツと短パンも、その後着る予定のシャツとデニムのパンツも、男物の服装と大差がないから、普通に着替えればいいだけど。
問題なのは、意識のほうだった。
女物のTシャツと短パンを脱ぐと、下着姿の女の子の肢体が露になった。
今の僕は女の子なんだと、ついそれを意識してしまう。
あれ、朝はあまり意識しないで、もっとあっさり着替えられたような?
そうか、双葉に見られているせいで、かえって強く意識しちゃってるんだ。
双葉に見られている?
改めてそのことに気が付いて、僕は急に恥ずかしくなってきた。
恥ずかしいって何で?
この体は元々双葉の体で、その双葉が見ているだけだろうに!
でもつい僕は無意識に、胸元を手で隠し、内股になっていた。
とにかく今は、早く着替えてしまおう。
僕は清彦の用意した、女物のYシャツを手にとって、まず袖に手を通した。
シャツを着るときに、腰まである長い髪が結構邪魔に感じるけど、昨日から何度か着替えていた経験からか、要領よく髪を除けながら着替えができるようになっていた。
でもシャツのボタンを留めようとして、あれっ、ボタンが留めにくい、なんでだ? と思った。
そうか、このシャツ、ボタンの位置が男物とは逆なんだ。たしか女物の服って、ボタンの位置が男物とは逆なんだっけ?
双葉と入れ替わってから今まで、パジャマ以外はボタンのある服は着ていなかったから、気が付かなかった。
そういえば、今朝まで着ていたパジャマは、ボタンが大きかったからなのか、あまり気にしてなかったっけ。
まあいい、とにかく早く着替えなきゃ。
シャツのボタンを留めた後に、デニムのパンツも素早く身につけた。
女物のズボンって、ぴっちりしていて体のラインがしっかり出るんだな。
なんか女の子って、男よりもお尻が大きくて丸いんだな。
いけね、今は余計なことは気にしないで、後は鏡を見ながらチェックだ。
僕は素早く髪や服装の乱れを整えて、これでよしと、ひとまず着替えは完了した。
「できたよ」
「30点減点」
「なんだそりゃ!」
何が気に入らないのだろうか、清彦にダメだしに、僕は思わずムッとした。
「そこに座って!」
「何するんだ」
「いいからじっとしてて!」
僕を椅子に座らせて、清彦は近くの鏡台からヘアブラシを取り出した。
そして、僕の髪を、梳かし出したんだ。
「ほら、こうしたほうが、かわいいでしょう!」
「……まあね」
確かにそうだし、こうして清彦に髪を梳かされていると、なんだか気分が良かった。
「さっきまでも悪くはないけど、女の子の身だしなみは、もうちょっとちゃんとしておきたいからね。
あと30点減点って言ったけど、残り70点だから、おまけで合格にしておいてあげるわね」
「……そりゃどうも」
「言っとくけど、おまけでの合格だからね!」
「わかったよ、こんどからもっとちゃんとするよ」
「……もっとも、次は元の体に戻ってるから、今度は無いけどね」
「そういわれてみれば、それはそうかもしれないけど、それでもつぎはちゃんとする!」
「わかったわよ」
そういいながら、清彦はくすくす笑った。
僕もつられて、つい笑っていた。
「それじゃ、準備も出来たし、今度こそ出発するわよ!」
「はいはい」
なんでだか清彦は、張り切っていた。
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何はともあれ、僕たちは今度こそ、山の中腹の洞窟へ、そしてその奥にあるご神体を目指して出発した。
昨日は山の洞窟への道を、手ぶらで歩いたけれど、今日はリュックに荷物を入れてかついでいる。
だから今日は、昨日よりも山道を歩くのは大変だろうなと、密かに覚悟していた。
『あれ、思ったより大変じゃない、意外に余裕がある』
非力な女の子の体で、荷物を背負って歩いているのだから、決して楽な状態じゃない。
だけど、それでも今の僕は、山道を歩くことに、まだ余裕を感じられた。
昨日はあまり出来なかった、周りの風景を楽しむ余裕もあった。
きっとこの体が、山道を歩くことに、慣れているおかげだろう。
だからだろうか?
僕は今、山道を歩くのが、楽しいって感じていた。
こんなの初めてだった。
「ま、まってよ、はあ、はあ……、少し…休ませてよ」
「……また?」
むしろ問題なのは、清彦のほうだった。
その体は体力が無いうえに、山道も慣れていなくて、そのうえ今日は荷物まで背負っている。
だから、すぐに息を切らして、へたりこんでしまう。
「ご、ごめん、……はあ、はあ、…少しでいいから」
出かける直前まで張り切っていたくせに、今ではへたりこみながら、今にも泣きそうな顔をしていた。
昨日までの僕の体だから、今の清彦が大変なのはよくわかるつもりだった。
だけどなんでだろう?
それなのに、そんな今にも泣きそうな清彦の姿を見ているうちに、なんだかいじめてやりてえ!
僕の中にそんな気持ちが、ふつふつと湧き上がってきた。
「女の私が平気で歩いているのに、このくらいで音を上げるなんて、男のくせにだらしないわよ!」
「えっ!?」
「って、昨日きみに言われた」
昨日双葉に言われたことを、そっくりそのまま言い返せて、僕はしてやったり、得意の表情で仁王立ちしていた。
僕たちは昨日とはすっかり立場が逆転していた。
そっくりそのまま言い返された清彦は、今ので我慢の限界を超えたのか、へたりこんだまま、ぽろぽろと涙を流しはじめた。
「わ、わたしだって、好きでこんなになったわけじゃないのに、……ぐすっ、わああああああぁぁぁ~~~ん!」
とうとう声を上げて、泣き出してしまった。
「わわっ、まさか泣き出すなんて、……ごめん、僕が悪かった」
体が男の清彦でも、中身は女の子の双葉なんだ。
強がってもいたけど、でもやっぱり無理していたんだ。
僕は今の清彦を、からかってやろうと思ったことを後悔しながら、泣いている清彦を宥めたのだった。
そんな風に、泣いている清彦を宥めているうちに、清彦は泣きながら僕に抱きついてきた。
そして、僕の胸に顔を埋めながら、そのままわんわん泣き続けた。
そんな状況に僕は戸惑いながら、まさか泣いている清彦を突き放すわけにもいかなくて、そのままそっと抱きしめた。
何でだろう、前にも似たようなことが、あったような気がする。
その似たようなことが、何だったのかはまでは思い出せないけれど、清彦を宥め続けた。
そうやって宥めているうちに、僕の胸の奥が、温かい何かに満たされていった。
僕にすがりついて泣いている清彦を、僕が守ってあげなきゃって、そんな気持ちになっていた。
何なんだろう、今のこの温かい気持ちは?
それが何なのかわからないまま、いつしか僕は、清彦の背中をそっと優しく撫でながら、清彦が泣き止むまで宥め続けたのだった。
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「少しは落ち着いた?」
「……うん」
しばらくして、泣き止んだ清彦は、ハッと何かに気づいて、慌てて僕から離れた。
僕から視線を逸らしながら、恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
そんな清彦の様子が、なんだかかわいいって感じた。
何かこう、胸の奥がきゅんてして、……わわっ、僕は何考えてるんだよ!
それに、ついさっきまで、僕はいったい何をやっていたんだよ!
僕もなんだか急に恥ずかしくなってきて、慌てて清彦から視線を逸らした。
きっと今の僕の顔は赤くなってる、そんな顔を、清彦に見られるのがなんだか恥ずかしい。
「……急に泣いたりして、さっきはごめん」
「こ、こっちこそ、双葉の気持ちを考えないで、さっきは嫌なことを言ってごめん」
「ううんもういいよ、それと、……さっきはありがとうね」
「べ、別にそんなの、たいしたことじゃないよ」
僕たちは、お互いに言葉を交わしあいながら、お互いに逸らしていた視線をそっと戻した。
再び視線のあった清彦の顔は、憑き物が落ちたかのように、なんだかすっきりしていた。
そんな清彦の顔を見ていたら、胸の奥がまたドキドキしてきて、僕の体が熱かった。
「あ、暑いね」
「うん、そうね」
「あの辺で、少し休んでお茶でも飲もう」
「うん、賛成」
僕たちは、近くの木陰に移動した。
そこで僕は水筒を取り出して、カップに麦茶を注いだ。
若葉お姉さんが持たせてくれたそれは、冷蔵庫でよく冷やされた麦茶だった。
まず僕が飲んだ。
すっかり体が熱くなっていたし、のども渇いていたし、麦茶は冷たくておいしかった。
僕は二杯目をカップに注いで、清彦に手渡した。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとう」
なぜだか清彦は一瞬躊躇して、それから麦茶の入ったカップを受け取った。
それから大事そうに、ゆっくりとその麦茶を飲んだのだった。
何なんだろう?
それがどういう意味があったのか、この時は僕は特に気づかなかったのだった。
その場でしばらく休息をした後、僕たちは再び目的の洞窟を目指して出発した。
無理に急ぐ必要は無いんだし、今度は今の清彦に合わせて、さらにペースを落として、ゆっくりと歩いた。
ゆっくりすぎて、今の僕には、周りの風景を見回して、細かい所まで観察する余裕があった。
「あれ、こんな所に、お花畑なんてあったんだ」
たまに開けた所に出ると、そこには昨日は気づかなかったお花畑が広がっていたりした。
何気なく森の木を見てみると、何か小動物がさっと隠れるのが見えたりもした。
あれってリスか何かだろうか?
というか、僕の目で、あんな小動物によく気づけたよな。
そうか、今は双葉の体で双葉の目だから、視力が良いんだ。
だから、たとえ余裕があったとしても、いつもの僕なら見落としていたものにも、今は気づけたんだ。
そんな程度のことにも、妙に感動していた。
昨日の僕には、こんな風に、風景を観察したり、楽しんだりする余裕はなかったんだよな。
ふと清彦の様子を見てみると、歩くペースを落としたおかげで、さっきまでよりは余裕はあるようだけれど、
それでも今はまだ、この風景を楽しむ余裕までは無いようだった。
そうこうしているうちに、目的地の山の中腹、例の洞窟の前まで到着した。
あらためてそこからの風景を見た。
双葉の家も含めて、ふもとに集落が広がっているこの光景を見て、昨日は感動していたんだっけ。
双葉の目が良いおかげで、今の僕は、昨日よりも遠くのものまではっきりきれいに見えた。
そうか、これが双葉の目で見えてきた風景だったんだ。
そのことに改めて感動しながら、でも別の事も感じていた。
なんでだろう、ここからの風景を見ていると、なんだかほっと安心する。
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未完
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#これまでのあらすじ
僕の名前は清彦、東京生まれ東京育ちの、14歳の男子中学生だ。
今年の夏休みも、僕は母に連れられて、田舎の母方の実家へと里帰りに来た。
何も無い田舎での生活は退屈だ。
とくに何もやることもなく、母の実家の客間に引きこもっていると、
その田舎の母の実育ちの、同い年のいとこの双葉に外に連れ出されてしまった。
双葉に連れられて行った先は、山の中腹にある洞窟、そしてその奥には、この里のご神体で守り神として祀られている岩があった。
そして、どういうわけだか、そのご神体の不思議な力で、僕と双葉の体が入れ替わってしまったんだ。
慌てて元の体に戻れるように、ご神体にお願いをしたけれど、元には戻れなかった。
仕方が無いので、今は僕が双葉で、双葉は清彦として、元に戻れるまでは入れ替わった相手に成りすまして生活することになった。
そして、翌日改めてご神体に、元の体に戻れるように、お願いにくることになった。
そしてその日は、お互いの入れ替わった体と立場に翻弄されながらも、どうにか入れ替わり生活をこなしたのだった。
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そのひは、いつもとちょっとちがった。
おとうさんとおかあさん、おじいちゃんやおばあちゃんも、あさからいそがしそうだった。
おかあさんが、とうきょうからおとうさんのいもうと、ふたばにとってはおばさんがくるからっていっていた。
どうしてなんだかわからないけど、おじいちゃんとけんかしていたおばさんが、なかなおりしてあいにくるんだって。
おばさんにはきょうみなかったけど、おかあさんたちがいそがしくて、かまってくれなかったからつまんなかった。
おねえちゃんとおにいちゃんが、ふたばとあそんでくれたからいいけど。
だけどこのひ、わたしはとうきょうのおばさんといっしょにきた、おとこのこに、はじめてあった。
さいしょおとこのこは、こわがっておばさんのうしろにかくれていた。
「ごめんなさいね、この子は人見知りが激しくて、ほら清彦、みんなに僕がきよひこですって、ご挨拶しなさい」
「う、うん……はじめまして、ぼく、…きよひこです」
「えらいわね、よく言えたわね」
これがいとこのおとこのこ、きよひこくんとのであいだった。
このあと、おばさんとおかあさんたちは、おとなではなしがあるとかいって、ぶつだんのあるおおきいへやにいっちゃった。
わたしとおねえちゃんとおにいちゃんは、こどもどうしできよひこくんといっしょにあそんだ。
さいしょはこわがっていたきよひこくんは、おねえちゃんがやさしくしたら、おねえちゃんとなかよくなった。すぐに
おねえちゃんばっかりずるい、わたしだってきよひこくんとなかよくしたいのに。
すこししたら、おねえちゃんがわたしにきをきかせてくれて、きよひこくんとわたしのふたりにしてくれた。
おねえちゃんは、きよひこくんはふたばはおないどしだから、ふたばがいちばんきよひこくんとなかよくなれるっていってくれた。
きよひこくんとはなしをしてみたら、たんじょうびがにがつみっかで、せつぶんのひだっていっていた。
かった、ふたばのたんじょうびはくがつとおかだもん、ふたばのほうがたんじょうびがはやい。
「じゃあ、きよひこくんより、ふたばのほうがおねえちゃんだね」
「えっ? ふたばちゃんがおねえちゃん?」
「そうだよ、ふたばのほうがおねえちゃんだよ、えっへん」
おとうさんもおかあさんも、ふたばのことはかわいがってくれているし、おねえちゃんもおにいちゃんもふたばにはやさしい。
だけどふたばには、おとうともいもうともいない。ふたばがうちでいちばんとししたで、だからなんかつまんない。
だから、きよひこくんが、ふたばよりもとししたで、ふたばのほうがお姉ちゃんだったことがうれしかった。
「おねえちゃんのふたばが、きよひこくんにいろいろおしえてあげるからね」
わたしははりきって、きよひこくんをいろいろなところにつれていって、いろいろなことをおしえたり、あそんであげたりした。
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ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ、ピピ……、カタッ!
僕は枕元で鳴る、目覚ましのチャイム止めた。
そして半分寝ぼけながら、時計を引き寄せて時間を見た。
五時五十分って、まだ早いよ、なんでこんな時間にセットしたんだよ。
だいたいここはどこだよ。
(東京の)僕の部屋じゃないし、双葉の家の客間でもない。
女の子の部屋みたいだけど、もしかして双葉の部屋?
なんで僕がこんな所に、……あっ!
僕はがばっと跳ね起きて、自分の体を見下ろした。
僕はピンクの女物のパジャマを身につけていた。
身体つきも、僕は男としては線が細くて華奢だったけど、それよりも華奢で細くて、なのに丸みを帯びていて、まるで女の子の体だ。
この部屋にある、姿見の鏡に今の自分の姿を映すと、ピンクのパジャマを着込た双葉の姿が映っていた。
「そうだった、昨日、双葉と体が入れ替わったんだった」
そのことを思い出して、僕は思わずため息をついた。
鏡の中の双葉も、ため息をついていた。
「昨日の事は、夢じゃなかったんだ」
昨日のことが夢で、朝起きたらすべては元通り、だったら良かったんだけどね。
夢といえば、眠っている時に、何か夢を見ていたような気がする。
どんな夢だっけ?
細かいことはよく思い出せないけど、子供の頃の夢だったような気がする。
なんだか懐かしい気分になって、ちょっと子供の頃のことを思い出してきた。
「そうだった、小さい頃の双葉は、やたら僕にお姉さんぶっていたっけ」
今でも私のほうが年上だからと、ちょっとお姉さんぶって偉そうにすることがあるけど、最初の頃は特にそうだった。
僕は一人っ子だったから、兄弟姉妹がいることにあこがれてもいたから、双葉にお姉さんぶられても、あの頃はさほどイヤじゃなかった。
お姉さんやお兄さんがいる双葉が、羨ましいと思っていたほどだったんだ。
でも……、と思う。
お兄ちゃんは時々僕に意地悪をするし、お姉ちゃんは普段は優しいけど、
僕がわがままを言ったり、だらしなくしていると、とたんに口うるさくなるし厳しくなるもんな。
それ以上に、この家では僕が一番年下で、僕より下がいなかったのがつまんなかった。
お姉ちゃんやお兄ちゃんばかりずるい。僕にも弟か妹が欲しい。
もし僕に弟か妹がいれば、かわいがったり面倒を見たりしてあげたのに。
だから清彦くんが、僕よりちょっと年下と知って嬉しかった。
弟が出来た、ということより、お姉さんになれた、ということが嬉しかったんだ。
だから僕は、小さい頃の清彦の面倒をみたり、いろいろな所へつれていったり……あれ?
清彦が弟みたいって、なんだよこれ! 記憶が混乱してる?
今のは双葉の記憶だろうか?
なんで僕に、こんなことがわかるんだ?
これ以上はまずいような気がして、一旦余計なことを考えるのをやめた。
気を取り直して、双葉の部屋を何気なく見回して、ふと部屋の隅のタオルに目がとまった。
それがどういうものなのを思い出して、今度は別の意味で焦り始めた。
そうだった、夕べはつい調子に乗って、この体でオナニーをしちゃったんだった!
双葉ごめん、本当にごめん!
もしこのことを双葉に知られたら、言い訳なんてできない、どうしよう?
……さすがにバカ正直に、夕べの事を話すことはないよな。
夕べのことはなかったことにして、ごまかすことにしよう。
そんなわけで、さっさと証拠隠滅をすることにした。
僕は洗面所へと移動した。
そして夕べ脱いだ下着と、体を拭いたタオルを、洗濯機の中に放り込んだ。
ひとまずこれでよし……と、僕はホッと胸をなでおろした。
さて、これからどうしよう?
せっかく洗面所に来たんだから、このまま顔を洗って歯を磨けばいいか。
僕は洗面所でまず手を洗い、顔を洗った。
冷たい水が心地よい。
そしてタオルで顔を拭いた。
正面の鏡には、さっぱり目が覚めたって表情の、双葉の顔が映っていた。
今は僕が双葉で、これが今の僕の顔だとわかってはいるけど、なんだか変な気分だな。
次に僕は歯ブラシに歯磨き粉をつけて、歯を磨きはじめた。
「おはよう双葉」
横からいきなり声をかけられて、僕は慌てた。
僕は歯磨きを中断して、口の中の歯磨き粉を吐き出した。
そして、僕に声をかけてきた人に向き合って、慌てて挨拶をした。
「お、おはよう、お姉ちゃん」
「そんなに慌てなくてもいいのに、でも、驚かせてごめんね」
僕に声を掛けてきたのは、若葉お姉ちゃんだった。
「い、いいよ、それよりお姉ちゃん、今朝は早いね」
「今朝は私が当番の日だからね、双葉のほうこそ今朝は少し早いわね」
「う、うん、まあね……」
まさか、オナニーの証拠隠滅のために早起きした、なんていえないから、曖昧にごまかした。
それにしても当番って?
このちょっと後に知ったことだけど、家事の得意な若葉お姉ちゃんは、よくお母さんのお手伝いをしていた。
そして今朝は、お母さんのかわりに、お姉ちゃんが朝食の準備をする日だった。
これはちょっとお手伝いする程度ではなく、若葉お姉ちゃんはお母さんのかわりに、かなり本格的に家事をやっていたんだ。
これは別に強制されてやってるわけではなく、お母さんの家事の負担を軽くしたいお姉ちゃんが、進んでやっていることだった。
ちなみに双葉は、さすがに若葉お姉ちゃんほど家事に積極的ではなく、今はまだ簡単なお手伝いをする程度だったらしい。
とはいえ、双葉は女の子なんだからと、わりと家事を手伝わされながら、最近は少しづつ色々教え込まれていたみたいだった。
そして僕自身がこの後双葉として、お母さんやお姉ちゃんに、本格的に家事を仕込まれる未来が待っているなんて、このときは思いもしなかったのだった。
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僕は気を取り直して、歯磨きを再開した。
さっさと歯を磨いてしまって、この場を離れたい。
そんな僕の横で、若葉お姉ちゃんは顔を洗って、そして歯磨きの準備をはじめた。
「あら、この来客用の歯ブラシ、誰か使ったの?」
「えっ?」
そ、それは、夕べ僕が使った歯ブラシだ。
「清彦くんかな? あの子、じぶんの歯ブラシを、持ってきていたと思っていたんだけど」
「そ、そうだね」
「まあいいわ、あの子が使ってるなら、しばらくここに置いておくわ」
そう言いながら、若葉お姉ちゃんは、その歯ブラシを洗面台の元の場所に戻した。
僕は自分の手元を見た。
僕は双葉の使っていた、赤い歯ブラシを手にしていた。
やば、僕は、双葉の歯ブラシを使っていたのか!
双葉には、私の歯ブラシは使わないで、って言われていたのに、ばれたら怒られる!
そんなつもりはなかったのに、歯を磨く時に、僕は無意識にこの歯ブラシに手を伸ばしていたんだ。
またやっちゃった、でも今更来客用の歯ブラシに切り替えなんて出来ない。
だいいち、お姉ちゃんの前でそんなことできない。
だけど、考えようによっては、今回はコレでよかったかもしれない。
もし、来客用の歯ブラシで歯を磨いている所を、お姉ちゃんにみつかったら、どうなっていただろうか?
逆に怪しまれたかもしれない。
だから今回はコレでよかったんだと、今はそう思うことにしたのだった。
僕は内心の気まずさをごまかしながら、手元の歯ブラシで再び歯磨きを再開した。
準備を終えた若葉お姉さんも、歯を磨き始めた。
上手くいえないけど、お姉さんと一緒にいて、清彦だった時とは、違う緊張感を感じていた。
若葉お姉さん、雰囲気が大人っぽくなったよな。
一年ぶりに会ったお姉さんは、すっかりきれいになっていたし、スタイルも抜群に良くなっていた。特に胸!
ついぼーっと見とれていたら、双葉のやつが怒りだして、僕の事を思い切りつねるんだもんな。あれは痛かったな。
そんな僕たちを見ながらお姉さん、微笑ましいものを見てるって顔で、くすって笑っていたっけ。
歯磨きを終えて、僕はマグカップの水で口の中を濯いだ。
そして、ちらりと隣の若葉お姉さんを見た。
顔つきも身体つきも大人っぽくて、家事なんかもしっかりこなしていて、今のお子様な僕とは比べ物にならない。
特に胸、小さな今の僕の胸と見比べていたら、なんでだか急に悲しくなってきた。
やっぱり男の子は、お姉さんみたいな大きな胸のほうがいいよね。
実際僕も、つい若葉お姉さんの胸を、ちらちら見ちゃったりしていたし。
「心配しなくても大丈夫よ、双葉はまだ成長期だもの、双葉の胸も、今よりまだまだ大きくなるわよ」
少し遅れて歯磨きを終えたお姉さんが、くすっと微笑みながら、僕を励ましてくれた。
うわ、お姉さんに、僕がお姉さんの胸と、僕の胸を見比べていたことがバレてら!
僕は慌てながらも、お姉さんに返事を返した。
「そ、そうかな?」
「そうよ、それに双葉のほうが、今でも私よりも美人なんだし、成長したら今の私なんかより、もっとずっと美人になるわ。だからもっと自信をもちなさい」
「う、うん」
僕のほうが、お姉さんよりも美人!
お姉さんに褒められて、生返事を返しながら、僕もなんだか悪い気はしなかった。
「それじゃ、朝ごはんの準備もあるから、お姉ちゃん先に行くわね。後で朝ごはんが出来たら呼ぶから、その時は準備手伝ってね」
「……うん」
そう言い残して、若葉お姉さんは、洗面所を後にしたのだった。
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若葉お姉さんは、僕とは一番歳の近い、僕の一番身近にいる女としての、僕の最大の目標であり、最大のライバルだ。
まったく、若葉お姉さんには敵わないなあ。
僕はそう思わされた。
そして同時に、僕はそんな若葉お姉さんが大好きなんだって事を、今回再確認したのだった。
……あれ、今のなんか変じゃね?
僕は若葉お姉さんは、きれいで大人っぽくてステキな人だな、って憧れはしたけれど、こんな複雑な感情まで抱いてはいなかったはずだ。
そもそも普段はお互いに、遠くに離れて住んでいて、そこまで身近な存在じゃないからね。
なのに今は、若葉お姉さんは、僕にとって、もっとも身近な人みたいに感じられたんだ。
まるで僕が、若葉お姉さんの本当の妹になったみたいに……。
そこから先の思考を振り払うように、僕は慌てて頭を振った。
これって入れ替わりの影響だろうか?
僕が、別の誰かに変わっていくみたいに感じられて、急に怖くなってきた。
別の誰かって誰のこと?
双葉?
違う違う、僕は本当は清彦なんだ!
僕と若葉お姉さんとは、本当なら一年に一度会うだけの、ただのいとこのお姉さんなんだ!
しっかりしろ僕! 気を強く持て!
「とにかく、僕は本当は男で、本当なら清彦なんだ!」
改めてそう自分に言い聞かせるのだった。
でも、この体が入れ替わったままの状態が、長く続くのはまずい。
改めてそう思い、僕は少し焦りを感じ始めた。
「……本気で、元に戻ることを考えなきゃ」
僕は両手で、ぴしゃんと両頬を叩いた。
僕は決意を新たにして、気合を入れなおした。……所で。
「……トイレに行きたくなってきた」
朝起きてから、まだトイレに行っていない。
だんだん尿意が強くなってきた。
これは、限界が近い、それほど長く我慢できそうにない。
僕は慌ててトイレに駆け込んだ。
僕はトイレに入ると、便座のふたを開けて、パジャマのズボンとショーツを下ろして腰掛けた。
少し気を抜くと、それまで溜め込んでいたものを吐き出すかのように、僕の股間から勢い良くオシッコが放出された。
はあ~、スッキリした。
オシッコは終わったけど、コレでトイレが終わりではない。
後ろの大のほうも溜まっている感じがするというか、便意も感じられた。
その流れで、大のほうも済ませることにした。
そういえば、昨日は入れ替わってからは、大のほうはしていなかったっけ?
僕は便座に腰掛けながら踏ん張った。
少し硬かったけど、大のほうも調子よく出てくれた。
こんどこそ、スッキリした。
僕はウォシュレットでおしりを洗浄して、そして紙で拭いた。
おっと、前のほうも後始末しなきゃ。
そんな調子で、すんなりトイレを済ませて、僕はトイレを後にしたのだった。
そして僕は自覚いていない。昨日はどぎまぎしながら済ませていたトイレを、今日は意識しないですんなり普通にこなせていたことに。
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僕は双葉の部屋に戻ってきた。
いつまでもパジャマのままでいるのもだらしないし、早く着替えなきゃ。
昨日双葉が用意していた、部屋着の女物のTシャツと短パンがまだある、今はこれに着替えればいいよね。
僕はパジャマを脱いで、部屋着に着替えようとして、ふと思い出す。
そういえば夕べは、朝にシャワーを浴びようと思っていたんだっけ?
シャワーの事を思い出したら、無性にシャワーを浴びたくなった。
夕べオナニーをして、体が汚れてしまったし、寝ている間に寝汗もかいたから、シャワーを浴びてすっきりしたい。
今着てるこの下着も、寝汗で一度湿ったから着替えたほうがいい、というか着替えたい。
あれ、僕ってこんなにきれい好きだったっけ?
……とにかくそういうことなら、着替えを用意して、シャワーを浴びてから着替えたほうが効率がいい。
そうだと最初に気が付いていたら、今朝洗面所に行く時に、全部準備して行ったのに、
そうしていれば、こそこそしなくても良かったのに、色々と段取りが悪いなあ。
まあいい、今からでもそうしよう。
僕は一度脱いだパジャマを着なおした。
そして着替えやタオルなどを用意して、改めて洗面所へ、そこでパジャマと下着を脱いだ。
脱いだ服は洗濯機へ放り込んで浴室へ、そこでシャワーを浴びた。
シャワーは気持ちよかった。
夕べの体の汚れや、寝汗をシャワーのお湯で洗い流して、体と何より気分がすっきりした。
すっきりさっぱりした所で、僕は浴室から出た。
用意しておいたタオルで体を拭き、特に念入りに髪を拭いた。
用意しておいたショーツと穿いてブラを身につけた。
そして、部屋着のTシャツと短パンに着替えて、これでよし!
身も心もすっきりした所で、僕は浴室を後にしたのだった。
やはり僕は自覚していないし、気にしていない。
他人の家のシャワーを使うことに、今は遠慮を感じていなかったことに。
双葉の体で、勝手にシャワーを浴びたのに、今は双葉に悪いことをしたって思っていなかったことに。
何よりも、昨日の晩は、あんなにどぎまぎしていた双葉の体に、
やっぱり今朝は意識しないで、すんなり普通にシャワーを浴びていたことを、自覚していなかったのだった。
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「おはよう双葉ちゃん」
「あ、か……おはようございます」
母さん、清彦の母親に不意に声をかけられて、シャワーで気分を良くしていて、油断していた僕は慌てた。
咄嗟に返事をできたのは、昨日から双葉を演じていたからだろう。
とにかく今は、母さん相手にぼろが出ないように、双葉っぽく切り替えなきゃ。
「今日も早起きで偉いわねね」
「ありがとうございます、おばさま」
おばさま、とそう言った瞬間、僕の中で何かがはずれ、逆に何かがぴたっとはまって、切り替わったような気がした。
それが何か、少し気にはなったけど、今はそれを気にしている余裕は無い。
僕は清彦のお母様、おばさまとの会話を続けた。
「双葉ちゃん、その様子だと、お風呂に入ってきたのね」
「はい、といっても、シャワーだけですが」
「そう、双葉ちゃんてキレイ好きなのね、昨日も朝から入っていたものね」
そうでしたっけ?
と言いかけて、慌てて訂正する。
「そうですね」
双葉って、昨日の朝もお風呂に入って、多分シャワーを浴びていたんだ。知らなかった。
昨日の今頃は、僕は寝ていたから、知らなくてもしかたがない。
でもそう言われてみれば、僕にはそんな記憶は無いけど、なんとなくそうしていたような気はする。
「そういう所はやっぱり女の子ね。それに引き換えうちの清彦は、お風呂に入りなさいって言わないと、なかなか入らないのよね」
「あはは……そうなんですか」
「そうよ、あの子はそういう所はものぐさなのよ、私も男の子じゃなくて、双葉ちゃんみたいな女の子を産むべきだったわ」
女の子のほうがよかったとまで言われて、さすがにちょっと耳に痛かったので、この場は笑ってごまかした。
でもそう言われてみると、朝からシャワーはともかく、今は普通にお風呂に入るのをしぶるのはどうかという気がした。
だって今は、この体で汗をかいて汚れたままでいるのってイヤだって思うし、清彦が汚れた状態なのもイヤだとおもったのだから。
「それにあの子は、今朝もまだ寝てるのよ。本当、あの子ったらいくら夏休みだからって、毎朝寝坊助さんなんだから」
おばさまの、清彦への愚痴に相槌を打ちながら、僕は内心苦笑していた。
息子が側にいないから、本音で話をしているんだろうけれど、
皮肉なことに、その息子が目の前の双葉と入れ替わって、女の子になっているなんて、思ってもいないであろう。
だけど僕は、おばさまの言い草に、なぜかあまり反発を感じなかった。
もし清彦として面と向かって意見を言われたのなら、反論したり言い訳をしたりしていただろう。
だけど今は、そりゃそうだとか、しょうがないなあとか、なぜだか僕は、おばさまのその意見に共感していたんだ。
「そうだ双葉ちゃん、良かったらうちのバカ息子を、起こしてやってくれない?」
「え、わたしが? 良いんですか?」
「たまには良いのよ、それに、双葉ちゃんが起こしてあげたほうが、清彦も喜ぶだろうしね」
などと言いながら、おばさまは、僕に意味ありげに微笑みかけた。
「わ、わかりました。私でよければ」
「よろしくお願いね。あ、私は邪魔にならないように、少し朝の散歩でもしてくるわね」
などと言い残して、おばさまは、この場を後にしたのだった。
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なんだか変な事になったなあ。
双葉になった僕が、清彦になった双葉を起しに行くことになるなんて。
でもまあ、おばさま公認で清彦を起こしにいけるんだから、ありがたくこの機会を利用しよう。
僕は清彦たちが泊まっている客間に移動した。
清彦は、客間に敷いた布団に横になって、まだ寝ていた。
「……僕ってこんな寝顔なんだ」
口からよだれをたらして、無防備なだらしない寝顔だった。
ある意味幸せそうな清彦の寝顔を見つめながら、僕は複雑な心境だった。
元の自分の顔が、イケメンだったなんて思ったことはさすがに無いけれど、こんなにだらしない顔をしてるなんて思わなかった。
それに、なんだろう、この感じは?
「半日ほど前まで、僕がこの体の中にいたなんて、なんだか信じられない」
上手く表現できないけど、この顔が、この体が、元の僕の顔、元の僕の体だったってことに、現実感が感じられないっていうか、ぴんと来なかったんだ。
いや、この体が僕の体だったのは、紛れもない現実だ。
だらしない寝顔を見たせいで、これは僕じゃない、別の誰かなんだって、現実逃避で思いたいだけなんだ。きっとそうだ。
僕は自分にそう言い聞かせた。と、その時。
「う、うぅ~~ん……」
は、もしかして、清彦が目を覚ます?
「……って……まってよ、……たば…ちゃん…」
なんだ、寝言か。
寝言が小さくて、内容まではよく聞き取れなかったけど、口調が幼い子供みたいだったように感じた。
それになんとなく、情けない口調だったような気がした。
いったいどんな夢をみているんだろう?
清彦の見ている夢の内容が少し気になった。気になったけど、……でも、そろそろ起さなきゃ。
夢を見ているってことは、今は眠りが浅いってことだ。
清彦を起すには、今がちょうど良いタイミングなのかもしれない。
「起きて、朝だよ双葉、起きてよ」
清彦に優しく声をかけたけど、特に反応なし。
もう一度、今度は優しく清彦の体をゆすりながら、もう一度優しく声をかけた。
うぅ~~ん!
清彦は寝ぼけたまま、不機嫌そうな声をあげながら、僕の手を乱暴にはらいのけた。
そしてそのまま、頭からタオルケットをかぶりなおした。
「うふふふふ……、人が優しく起してあげてるのに、そういう態度なんだ……」
そんな清彦の反応に、僕はぷちっと切れた。
僕は清彦から、乱暴にタオルケットを剥ぎ取った。
そして、タオルケットを奪われてうずくまる清彦を、乱暴にゆすりながら、大声で起した。
「起きろ! 朝だぞ起きろ!」
「ううぅ~ん、まだ眠いよぅ……」
眠そうに目を擦りながら、清彦はやっと起き出した。
「やっと起きたね、おはよう双葉」
「……おはよう。…あれ、誰?」
清彦は目を擦って、ぱちぱち目蓋を瞬かせて、目を細めながら僕を見直す。
それでも近距離の僕の顔が、清彦にはよく見えていないみたいで、……ああそうだった。
「はいこれ」
といって、僕は枕元に置いてあったメガネを、清彦に手渡した。
「……なんでこんなものを?」
とまだ半分寝ぼけながら清彦は、僕から受け取ったメガネを、半ば無意識に掛けた。
「あれ、わたしがいる? なんでわたしが……!?」
僕の顔を見て、それでもまだ半分寝ぼけていた清彦の表情が、何かに気が付いたようにハッと醒めた。
そして自分の体を見下ろして、何かを確かめるように、自分の体をぺたぺたと触り始めた。
水色のパジャマの上から、胸の辺りを撫でてがっかりした表情になった。
「もしかして私、男なの? そうだ私、昨日清彦と体が入れ替わっちゃったんだった」
目が覚めてきて、清彦も昨日の事を、色々思い出してきたようだ。
「これは夢よ、夢なんだわ。でも、……何よこの感じは?」
清彦は何かが気になるのか、さらに視線を自分の下半身にずらして見た。
つられて僕も、視線を清彦の下半身にずらして見た。
清彦のパジャマの股間の辺りには、元気に大きくテントが張られていた。
「やだ、ナニコレ? わたしのここ、どうなってるのよ!?」
清彦はパニクッて、恥ずかしそうに赤面した。
でもその光景を見て、なぜか僕のほうが頭にカーって血が上って、赤面しながら取り乱してしまった。
「ば、バカ! スケベ! エッチ! 朝っぱらからなんてものを見せているのよ!!」
「え? ……ご、ごめん、ぼく…そんなつもりじゃ……」
僕の剣幕に、なぜか清彦が、反射的に謝ってしまっていたのだった。
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しばらくして、お互いに気持ちが落ち着いてきた。
それでもお互いに気まずかった。
あれが男の朝勃ちで、男の生理現象だってことを、初の体験で、知識の無い今の清彦(双葉)が知らないのはしょうがない。
だけど、昨日まで清彦で、男だった僕は、あれが男の生理現象だって知ってるはずなのに、なぜかあれを見て取り乱してしまった。
僕はちらりと横目で清彦を見た。
清彦は恥ずかしそうに、僕に背中を向けていた。
この角度だと清彦の股間は見えないけれど、どうやらあそこのほうは、今は落ち着いてきているようだった。
って、あれは僕が清彦だった時に散々見て触ってきたモノじゃないか、なのになんで僕は、今はあれを意識してるんだよ!
僕は頭を振って邪念(?)を祓った。今はこの場を収めなきゃ。
「ごめん、急に男になって、あんな体験をした双葉のほうがつらいはずなのに、僕のほうが取り乱しちゃって、本当にゴメン」
「……いいわよ、清彦だって、急に女に変わっちゃって、色々混乱しちゃってたんだろうし」
僕のほうから頭を下げて謝って、今の清彦に許してもらえた。
僕はひとまずホッとした。
この場はひとまず収まったのだった。
清彦もホッと安心したのか、「ふぁ~~あ」と大きなあくびをした。
「やっぱまだ眠いの?」
「う、うん、少しね」
ああいう風な起し方をしておいて何だが、清彦は普段から朝は遅かったし弱かった。
だから中身が変わっても、体の方は朝は弱いままなのだろう。
まだ少し眠そうだった。
そういえば僕のほうは、今朝はやけにすんなり目が覚めて、すんなり起きられた。
こんなにすんなり起きられたことは、ここ最近は記憶にない。
さすがに目が覚めた後は、体の違いに気づいての戸惑い、ドタバタしたりしていたから、朝の目覚めの気分まで気にする余裕はなかったが、いつもよりも気分はすっきりしていた様な気はする。
「それにゆうべは、つい遅くまで起きてて、寝る時間が遅かったから、そのせいもあるかも」
「遅くまで起きてた?」
何でだろう?
昨日聞いた話だと、清彦はやることが無くて、時間を持て余していたはずだ。
だったらさっさと寝てしまえば良かったのに。昨日の僕みたいに。
寝付けなかったのかな?
「う、うん、まあ、ちょっとね」
「……まあ、別にいいけどね」
なぜだか清彦は、気まずそうに言葉を濁した。
理由を言いたくないなら別にいいや、と、僕はこの話題は流した。
「それよりも、顔でも洗って来たらどう、目が覚めてすっきりするよ」
「うん、そうする」
そんな訳で、清彦は顔を洗いに洗面所へと移動した。
僕はそんな清彦と一旦別れて、そろそろ若葉お姉さんに頼まれた朝のお手伝いをしに、台所へ向かったのだった。
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#ここから少しだけ清彦(元双葉)視点で
私は洗面所の水で顔を洗った。
うー、水が冷たくて気持ちいい。
やっともやもやした眠気が醒めた。
でもまだ少し、疲労感も残っている。
これってやっぱり、夜更かししてゲームをしていたからよね。
以前から私は、うちに来た清彦が暇な時は、ゲームばかりしていたのは気に入らなかった。
そんな暇があるのなら、もう少し私の相手をしてくれてもいいのに、なんて思っていたから。
だから、そんな清彦に、私はよく文句を言っていた。
そんな私が、清彦になって暇を持て余して、母さんの相手にも負担を感じて、それらをごまかす方法として、元の清彦のアドバイスで携帯ゲームをはじめた。
最初は気乗りしなかったけど、ゲームを始めてみると、これが以外に面白い。
ゲームがこんなに面白いものだったなんて、私今まで知らなかった!
いつの間にか私は、ゲームにはまって、ゲームに夢中になっていた。
私は自覚していなかったけれど、最初はぎこちなかった指の動きは、いつのまにかスムーズになっていた。
「いつまでゲームをしているつもりなの? もう夜も遅いから、そろそろ寝なさい!」
さすがに母さんに怒られて、気が付いたら深夜で、日付も変わっていた。
うー、もうちょっとゲームを続けたかった。
そう思いながら、確かにもう夜も遅いし、疲労も溜まっている。私はそのまま布団に入って横になった。
昼の山登りの疲労、夜のゲームの疲労が一気に来て、私はそのまま眠りに着いちゃったんだ。
そういう経緯があったから、ゲームにはまって夜更かしした件は、双葉(元清彦)には気まずくて素直に言えなくて、私は曖昧にごまかした。
洗顔で気分がすっきりした所で、タオルで顔を拭いた。
顔を拭き終えたタオルをどかしたけれど、視界がぼやけてよく見えない。
うーもう、双葉だった時は、目が良いのは自慢の一つだったのに、今はなんでこんなに目が悪いのよーっ!
この目が悪いのは、元の清彦のせいであって、私のせいじゃないのに。
ぶつぶつ文句を言いながら、私はメガネをかけた。
メガネで視力が補正されて、ようやく普通に見えるようになった。
洗面所の正面の鏡には、メガネをかけて少し不満そうな表情の清彦の顔が映っていた。
「これが今の私の顔、私は今は清彦なんだよね」
つぶやく私の声も、声変わりの始まった男の声で、なんだかイヤ、こんなのイヤ!
そう思っているはずなのに、でも同時に、今の男の清彦になった自分に、私はゾクゾクもしていた。
なんだか変な気分だった。
その後歯も磨いて、口の中を漱いだ。
歯磨きが終わった後は、トイレに行きたくなってきた。
私はトイレに移動した。
私は洋式トイレの前に立ち、便座を上げて、パジャマのズボンとトランクスを下げた。
そして私はちんこのサオを指でつまみ、洋式トイレの真ん中に狙いを定めて、立ったままオシッコをはじめた。
昨日、山ではじめて立ってオシッコをしたときは、おっかなびっくりで、ちんこに触るのはイヤだったけど、今はさほどではなかった。
ううん、立って済ますのは、女よりも楽でいい。
それになんだろう、この立ってオシッコの出来ることの誇らしい気分は!
立ってオシッコができることに関しては、女より男のほうが良い、私はそう感じていた。
私はふと、夕べの事を思い出した。
夕べお風呂でここを弄った時は、気持ちよかったなって。
男と女の最大の違いは、男の体にはちんこがついていることだろう。
私は生理的に、男のコレはイヤだと思いながら、だけど同時に、私は男の子の体や性に興味津々で、ついここを弄ってしまった。
最初はふにゃふにゃだっただった男のコレは、弄っていくうちに硬く大きくなって、グロテスクな別の生き物のようになった。
ナニコレ怖い!
これ以上こんなことしてちゃダメ!
そう思いながら、でもここを弄って得られる刺激や快感に、私は動かす手を止められなかった。
ううん、だんだん余計なことを考えられなくなって、ただ気持ちよくなりたくなった。
夢中になって手を動かす。息が荒くなる。
体の内側から、何かがこみ上げてきた。
もう手が止められない、止まらない、私はこの快感の虜になっていた。
ああ、何かクル、私のここに何かクル―ッ!
そしてそれは、私のちんこから一気に放出された。
それと同時に、高まっていた快感や高揚感が、嘘のように急速に薄れていった。
大きく硬くなっていたちんこは、嘘のように小さくしなびていった。
後に残ったのは、自己嫌悪と、清彦に対する罪悪感だった。
私、女の子だったのに、男の子になっちゃった。
清彦、ごめん、私のほうこそ、勝手なことしてごめんね。
終わった後、私はシャワーで体の汚れをキレイに洗い流しながら、でもしばらく落ち込んでいた。
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あ、ヤバイ、お風呂でのことを思い出していたら、また勃ってきちゃった。
さっき朝勃ちしてたときは、すぐ側に双葉がいたから、必死で我慢した。
我慢しているうちに、どうにか収まってくれた。
だけど、なんだかもやもやした気分は残った。
今は側には誰もいない。
私はすっきりしたかった。
そして今は、どうすればこの体がすっきりできるのかを、私は知っていた。
これ以上こんなことをしちゃダメ!
私が私でなくなっちゃう!
危機感や嫌悪感が無い訳じゃない。
だけどそれ以上に、今の私は、すっきりしたい、気持ちよくなりたい、という気分が強かった。
私は今度は便座に腰掛けて、トイレットペーパーを長めに引き出した。
それを手に持って、勃ってきたちんこを握り締めて、弄り始めたのだった。
ちんこを弄っているうちに、私の脳裏には、ついさっきの双葉の姿が思い浮かんできた。
清彦のやつ、私の体での仕草や雰囲気が、昨日よりも女の子っぽくなっちゃってるじゃない。
もしかして、元の私よりもかわいい?
私の体なのに、ついドキッとしちゃったじゃない。
ううん、ドキッとするどころじゃない、私は私の姿を思い浮かべて、今はいったい何をしているのよ!
違う、違うわ、あれは私じゃない、私の姿をした清彦なのよ。だからコレはいいのよ。
昔から清彦はとろくて、でも男の癖にかわいかった。ついいじめたくなるくらいに。
なのに今の可愛さは反則よ!
ああん、もう、私のコレで、今の清彦を無茶苦茶にして、いじめてやりたい!
私は、双葉になった清彦を、男になった私が無茶苦茶にしている所を思い浮かべながら、イッたのだった。
「……私、なんてことを想像していたのよ」
終わった後は、また激しい自己嫌悪を感じていた。
いくら中身が清彦だからって、私自身の体を襲う所を想像をするなんて。
私の心が、どんどん男っぽくなってる?
早く元の双葉に戻らないと、まずいような気がする。
さすがに焦りを感じ始めた。
今日のご神体への儀式を成功させて、早く元に戻らないと。
でもその前に、まずここでヤッたことの後始末をした。
その後、客間に戻った。
双葉(清彦)は、若葉さんの手伝いに行っていて、もう客間にはいなかった。
あんなことの直後では、さすがに顔を合わせるのが気まずかったから、少しホッとした。
母さんも、まだ散歩から戻って来ていないし、この部屋には今は私一人だった。
ちょうどいい、今のうちにと、私はパジャマから普段着へと、着替えをしたのだった。
そして、朝食の準備ができて、双葉が呼びに来るまで、この部屋で待つことになるのだった。
#清彦(双葉)視点はここまでです。
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#ここからまた双葉(清彦)視点に戻ります。
清彦を起こして別れた後、僕はお姉さんの家事を手伝いに、台所に行った。
「こっちはまだ早いから、もう少し後でいいわ。そうね、それまで玄関の掃除をしておいて」
というわけで、お姉さんに言われて、僕は玄関掃除をはじめた。
基本的にこの家の玄関は、毎朝ちゃんと掃除されているから、ほとんどゴミがなかった。
でも一応一通り箒で掃いて、わずかな塵や埃を掃った。
そしてその後、玄関先に水撒きをはじめた。
「あらあら双葉ちゃん、今度は玄関のお掃除、偉いわね」
「あ、おばさま、おかえりなさい」
水撒きをしていると、清彦の母親が、散歩から帰ってきた。
「結構長い散歩でしたね」
「まあね、こんな所でも、この里は一応私の故郷だしね、色々懐かしくなって、つい遠出をしちゃった」
「こんな所? 一応?」
「あ、今ここに住んでいる双葉ちゃんには、悪く聞こえちゃったわね、ごめんね」
「え、いえ、そんなことないです」
そんな流れでおばさまは、昔話を始めた。
僕はつい、おばさまの、昔話の聞き手になっていた。
なんでもおばさまは思春期に、親が勝手に結婚相手を決めたこと反発して、今は亡きお祖父さんと喧嘩して、家出同然にこの里を出たのだということだった。
「今時、結婚相手を勝手に決めるなんて、時代錯誤だと思わない? しかも相手は一回り年上の、三十台のおっさんよおっさん、ひどいと思わない?」
「そ、そうですね」
「娘を引き止めたかったら、せめてもう少しマシな相手を選べっての、あのバカ親父!」
清彦だった僕は、今まであまり興味が無かったとはいえ、清彦の母親にそんな過去があったなんて知らなかった。
いや、清彦が興味を持って母親に聞いていたとしても、大雑把な話は聞けても、清彦だったらここまで生の声を聞くことができただろうか?
それが今は、僕が双葉の姿になり、双葉だからこんな形で聞くことができて、知る事ができたなんて、ちょっと複雑な気分だった。
「それで、おばさまは、この里を出たのですか?」
もし、おばさまが里を出ないで、親の勧めたこの里の男と結婚していたら、清彦は生まれなかった。
僕はこの場にいなかったかもしれない。
ちょっとぞくっとした。
「でもそれはきっかけにすぎないわ。その件が無かったとしても、いずれ私はこの里を出て行ったと思うわ。
この田舎の里に埋もれて、窮屈に人生が終わるのは私はイヤだった。もっと外の広いに出ていきたかった。
だから、高校生になったころから、色々里を出る準備はしていたのよ」
などと、本来ならハードなはずの話を、おばさまは実にあっさり楽しそうに話してくれた。
そんなおばさまの話に、僕はいつのまにか本気で聞き入っていた。
この後も、この里でのおばさまの、学生時代や子供の頃の話を聞かせてもらった。
僕の知らない、おばさまの過去話が、興味深くて面白かった。そして何より楽しかった。
そういえば僕は、おばさまとはこういう話をしたことがなかった。
なんで僕は今までおばさまと、親子でこういう話をしてこなかったんだろう?
それとも今の僕が双葉だから、親戚の女の子だから、かえって適度な距離で、おばさまとこういう話が出来たんだろうか?
……あ、あれ?
っと僕は、おかしな事に気が付いた。
さっきから僕は、清彦のお母さんのことを、心の中で普通におばさまと呼んでいた。
そりゃ、双葉にとってはこの人はおばさまだけど、元の僕にとっては、この人がお母さんのはずなんだ。なのに何でおばさまなんだ?
と、そのことに気づいて疑問を感じたその時、
「双葉、おばさんとのおしゃべり、楽しそうね」
「お、お姉さん」
「でも、そろそろ朝食の準備ができるから、おしゃべりはそこまでにして、こっちを手伝って欲しいわ」
「ごめん、今行く」
若葉お姉さんに声をかけられて、僕は慌てて台所へお手伝いに向かったのだった。
今は余計なことは考えないで、お姉さんのお手伝いをしよう。
僕はお姉さんの指示通りに、朝食の準備をした。
似たようなお手伝いを、昨晩もしていたからだろうか、特に戸惑うことなくスムーズにできた。
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「あらあら、美味しそうな朝ごはんね」
準備が出来た頃、おばさ……もとい、清彦のお母さんが、居間に入ってきた。
「若葉ちゃん、それに双葉ちゃんも、朝からお母さんの代わりに朝の準備、偉いわね」
「いえ、それほどでもないです」
清彦のお母さんに褒められて、お姉さんは少し照れくさそうだった。
「さっきは双葉ちゃんと、長話をしててごめんなさいね。おばさんも手伝おうか?」
「あ、いえ、もうすぐ準備できますから、大丈夫です。おばさんはそこで待っててくださいね」
「わかったわ」
程なく、朝食の準備は出来た。
後は、ここにいない全員を呼んできて、朝食を食べるだけだった。
「あ、双葉ちゃん」
「はい、何でしょうか?」
「朝ごはんができたって、うちのバカ息子を呼んできてくれない?」
「……はい」
バカ息子か……、
目の前にいる姪っ子の中身が、そのバカ息子だと知ったら、どんな顔をするんだろう?
まあいい、今はともかく、そのバカ息子を呼んでこよう。
「あ、双葉ちゃん」
「はい?」
「毎年いつも、清彦のことありがとうね」
「えっ?」
僕は清彦のお母さんに、急にお礼を言われて戸惑った。
清彦のお母さんは、そんな戸惑う僕にかまわずに続けた。
「あの子は、双葉ちゃんも知っての通り、性格はおとなしくて消極的なのよね。
そのせいか、東京にいたときから、うちにこもってあまり外に出かけようとしない。
もう少しだけでいいから、積極的になってほしいって思ってるんだけどね」
ため息をつく清彦のお母さん
うっ、清彦が清彦のお母さんに、そんな風に思われていたなんて。
いやでもたしかに時々、たまには外に出て遊びなさい。って口うるさく言われていたっけ。
「でもね、そんなあの子を、ここでは双葉ちゃんが、いつも外に引っ張り出してくれている。本当に感謝しているのよ」
そんな清彦のお母さんに、一瞬、清彦として若干反発しつつ、でも今は双葉としてなんて返答をすればいいのか戸惑った。
だけど、元の双葉なら、こう答えたような気がした答えを口にした。
「わ、わたしは別に、そんなたいしたことはしていません。
わたしはただ清彦に、この里のいい所をもっと知って欲しくて、お節介を焼いていただけですから」
「くすっ、双葉ちゃんも素直じゃないわね」
「えっ?」
「なんでもないわ、こっちのことよ。
それでね、あの子は双葉ちゃんのいうことなら、口では文句を言いながらちゃんと聞くのよ。
それに毎年この時期に、この里に行くって言ったら、やっぱり文句を言いながら、でもここに来る。何でだと思う?」
「えっ、なんでですか?」
「この里には双葉ちゃんがいるからよ」
「そ、そんなんじゃないです! だって僕、……じゃないあいつは、いつも面倒くさそうにしていたし」
「あの子、そういうところは素直じゃないから」
だから、そんなんじゃない、そんなんじゃないから!
「双葉ちゃん、あの子に気があるなら、脈はあるからがんばってね」
清彦のお母さんは、僕に微笑みながらウインクした。
何を適当なことを言ってるんだよ!
絶対面白がってるだろ!
今のこの話を聞いていた、双葉の中身が僕だったから良かったけど、
そんなけしかけるようなことを、もし本物の双葉に言って、双葉が本気で勘違いしたらどうするんだよ!
だいたいこの言い草だと、まるで双葉が僕に気があるみたいじゃないか!
……双葉が僕に気がある?
まさか、それこそ清彦のお母さんの勘違いだよね?
でも、何でだろう?
そうだと知らされて、急に胸がドキドキしてきた。
今までの双葉の、僕に対する態度を思い返してみると、色々と心当たりがあるんだ。
そうだと気づかされたせいなのか、なぜだか双葉の事を意識してしまって、ドキドキが止まらない。
なんでだ? 落ち着け、落ち着け僕!
移動してきた客間の前で、僕は深呼吸をして、一旦気を落ち着けた。
よし、とにかくここは、何事も無かったように双葉に普通に、そう普通に接すればいいんだ。
ここは朝ごはんの用意が出来たって、呼べばいいだけなんだから。
僕は、客間のふすまを開けて、中にいる清彦に声をかけた。
「双葉、朝ごはんの用意ができた……って、何してるの?」
「え、あ、これは、……ただ待ってるのは退屈だったから、ちょっとね」
清彦は、布団の上にあぐらをかいて座りながら、携帯ゲーム機で遊んでいたのだった。
こういう時、元の僕も、ゲームで時間をつぶすことは多かった。
だけど、ゲームで時間つぶしをしていた今の清彦を見て、何でだかカチンときた。
でも、どうにか気持ちをおさえて、僕は”やさしく”清彦に促した。
「……まあいいよ、とにかく朝ごはんの準備ができたから、ゲームを止めて早く来てよ」
「ちょ、ちょっとだけ待って、ここ、もう少しだから」
またカチンと来た。
せっかく僕が呼びに来てやったのに、やさしくしてりゃ何だよその態度は!
「もうっ、ゲームはいいから!」
「あっ!」
僕は清彦から、さっと携帯ゲームを取り上げて、電源を切った。
「うー、もう少しだったのに」
「何ゲームにはまったばっかりの、小学生みたいなことを言ってるんだよ! ごはんの準備が出来てるんだから早く来て!」
「……わかったよ」
清彦は、僕を恨みがましい目でみながら、のそのそと立ち上がり、この部屋を後にした。
部屋を出る清彦の後姿を見つめながら、僕は思わずため息をついた。
この部屋に入る直前に、ドキドキしていた気持ちが、今の事でどこかに吹き飛んでいた。
……まったくもう。僕のドキドキを返せ、だよ。
昨夜は夜更かししていたから眠いって言っていたけど、ゲームをしていて夜更かししていたんじゃないのか?
前から僕がゲームをやっていたら、色々文句を言っていたくせに、今は自分のほうがゲームにはまってどうなんだよ!
ここでふと思った。前にも似たことがあったような気がする。いつだっけ?
さすがに最近はこういうことはなかったが、そうそう数年前の小学生の頃に、僕を呼びに来た双葉に、こんな風に携帯ゲームを取り上げられたっけ。
今の清彦は、あの頃の小学生だった僕みたいな態度、反応みたいだった。
……あれ?
もしかして、あの時と、まるっきり立場が逆になってる?
体が入れ替わってしまっている以上、元の体に戻れるまでは、ある程度お互いに成りすまさなきゃいけない。
「だけど今のあれ、演技じゃないよな」
僕はまたゾクッと感じながら、今朝の洗面所でのことを改めて思い出した。
無意識に双葉の歯ブラシを使っていたり、洗面所で若葉お姉さんと会話していた時、いつのまにか素で、妹の双葉として振舞っていた。
双葉の体の影響を受けて、僕の中身も双葉に染まってきてる?
そのことに気づいて、危機感を感じたことも思い出した。
「双葉も僕の体の影響を受けて、少しづつ中身も僕に染まってきてる?」
ありえると思った。
だとしたらこのままじゃまずいと、洗面所でも感じた危機感をまた感じた。
いや、僕自身だけの危機感じゃなく、今の清彦のことも含めての危機感だから、余計に深刻に感じた。
だからといって、そのことを今の清彦に指摘しづらいし、小手先の対策ですぐにどうこうできる問題でもない。
結局は元の体に戻らない限り、根本的には問題の解決できないのだから。
「双葉、清彦くんはもう居間に来たわよ! あなたは何をしてるの!」
お姉さんの呼ぶ声に、僕はハッとした。
いけない、そのことは、後で何とかするとして、今は戻って朝ごはんを食べなきゃ。
僕は慌てて居間に戻った。
僕以外は、全員そろっていて、僕が来るのをまっていた。
僕は最後に、いつも双葉の座っていた場所に座った。
「「「「いただきます」」」」
朝ごはんを食べながら、ふと気になって、ちらりと清彦の様子を見た。
清彦は、どっかりとあぐらをかいて座りながら、やや早食いでごはんを口にかきこんでいた。
昨日の夜は、清彦は正座で座って、お行儀よく食べていた。
清彦らしくないって感じていた。
今朝のそれは、清彦らしい食べ方、座り方だけど、逆に心配になってきた。
あれは、演技でやってるんだよね?
元に戻ったときに、変な影響が残らなきゃいいんだけど。
もっとも、今はこれ以上心配してもしょうがない。
今は少しでも早く、元に戻ることを考えよう。
僕は朝ごはんに戻った。
そんな僕自身が、きちんと正座で座って、お行儀よく朝ごはんを食べていることを、あまり自覚していなかったのだった。
朝ごはんを、まずは敏明お兄さんが、次いで清彦が、さっさと食べ終わった。
「ごちそうさま」
そして清彦はそそくさと居間を出て、客間へと戻っていった。
んもう、そんなに急いで食べて、自分だけ急いで部屋に戻って、どうするつもりだよ。
この後のことは、僕が行かないとはじまらないのに。
そう思いかけて、ふと気が付いた。そんな今の自分の食べかけの朝ごはんは、まだ半分以上残っていた。
のんびりしていたつもりはないけど、いつもよりも食べるペースが遅い?
焦りを感じたわけじゃないけど、僕は食べるペースを上げた。
その結果、僕が食べ終わるよりも先に、お父さんが食べ終わったけれど、その次には僕が食べ終わった。
「ごちそうさま」
「あ、双葉」
「なに? お姉さん」
「先に食べ終わったお父さんたちの食器も、一緒に運んで洗っておいて」
「……はい」
そんな訳で、僕は先に朝ごはんを食べ終わっていた、お父さんや敏明お兄さん、清彦の食器も一緒に台所へ運んだ。
そしてその食器を、結局僕が洗ったのだった。
先に運んだ食器を僕が洗い終わらせた頃、朝食を食べ終わった若葉お姉さんが、残りの食器を運んできた。
「ごくろうさま、後はわたしがしておくから、双葉は戻ってもいいわよ」
「は、はい、じゃああとはよろしく」
「くすっ、清彦くんによろしくね」
「な、なに言ってるの、そんなんじゃないって」
「はいはい」
そんなやりとりはともかく、後はお姉さんに任せて、僕は台所を後にした。
そして、清彦のいる客間に向かった。
客間には清彦と、やはり朝ごはんを食べ終わって戻って来ていた、清彦のお母さんがいた。
それは良い、それは良いんだけど……。
「何やってるの?」
「え、これは……」
僕がこの部屋に来るまで、清彦はまた携帯ゲームで遊んでいたのだった。
あたふた慌てる清彦を尻目に、僕は清彦のお母さんに話しかけた。
「おばさま、ちょっと清彦をお借りして、いいでしょうか?」
「いいわよ、どんどん外へ連れ出して、……ほら清彦」
「……え、もうちょっとだけ」
「あまり女の子を待たせるもんじゃないわよ、早く行きなさい」
そんな訳で、もたもたしてる清彦を、清彦のお母さんが追い出す形で、一緒に部屋の外に出たのだった。
「もうちょっとだったのに……」
清彦は、なんだか未練たらたらだった。
「もうちょっとって、きみだって僕が清彦だった時は、こんな風にゲームをしていたら、あまりいい顔してなかったじゃないか」
「そりゃそうだったけどさ、ゲームをはじめてみたら、面白くてつい夢中になっちゃって、なんだか止められなくて」
さっきも思ったことだけど、ゲームにはまったばかりの小学生みたいな反応だなって思った。
双葉だった時はゲームをやってなかったから、ゲームへの免疫が無かったからなんだろうけど、こうも好き嫌いが極端に変わるものだろうか?
好き嫌いが変わる?
そういえば、そういう僕も、今はゲームをやってる清彦を見て、面白くないって気持ちが先行してた。
さすがに最近は、そんな子供みたいな反応で、ゲームに夢中にはなっていなかったけど、ゲームにはまって夢中になる気持ちは、知っていたはずだったんだけどな。
「ちょっと聞くけど、双葉は元のこの体に戻りたいんでしょう?」
「当然よ、一刻も早く、その体に戻りたいわよ」
「だったら今は、元の体に戻ることを優先しよう。ゲームはその後でもできるし」
「……そうね、その通りだわ」
「それでさ、元に戻ったら、一緒にゲームしよう」
「一緒にゲーム! しょうがないわね、いいわよ、元に戻ったら一緒にゲームしましょう」
清彦は、何でだか急に嬉しそうに、元に戻ったら僕と一緒にゲームをする約束をしたのだった。
「それじゃ、さっさとご神体の所へ、出かける準備をすませるわよ!」
なぜだか張り切りだした清彦が、僕にああしろこうしろと指図しながら、山登りや儀式に必要なものを集めた。
「……なんだよ、急にえらそうになって」
「何か言った?」
「いや、何でも……」
でも、ついさっきまでどこかしおれていた清彦が、元気になった。
入れ替わる前までの、双葉が戻ってきたみたいに感じて、僕もなんだか嬉しかった。
その途中、役割分担で、清彦が納屋へ行き、僕は台所へと移動した。
台所の中の様子を伺う。
よし、台所には、今は誰もいないな。
確認してから、そっと台所の中へと忍び込んだ。
儀式のための食材を、ほんのちょっとづつ拝借して、リュックサックに詰め込む。
そして、双葉のお父さん用のお酒を、一升瓶からペットボトルに少し移して、お神酒がわりにこれも拝借した。
こんなことしていていいのだろうか?
いけないことをしている自覚をしながら、なんだかすごくドキドキしている。
「あら双葉、こんな所で何してるの?」
そんな時に、こんな所を見つかって、後ろから声をかけられて、僕の心臓がドキッと跳ね上がった。
「お、お姉さん! これは、……山へピクニックへ行く準備をしているんだ!」
こういう時のために、清彦のアドバイスで、あらかじめ用意していた言い訳をした。
だけど、こんな怪しい行動をしておいて、こんな言い訳が、お姉さんに通用するだろうか?
お姉さんの返事が返ってくるまで、僕はすごくドキドキした。
「山へピクニック? ああなるほど、清彦くんとこそこそ、何をしているのかと思えば……」
何をどう勘違いをして、どう納得したのか、若葉お姉さんは僕に、意味ありげににっこりと微笑みかけた。
「それならそうと、恥ずかしがらずに前もって言っておいてくれれば良かったのに。
そうすれば、お姉さんも準備を手伝ってあげたのに、……まあいいわ、今からでも手伝ってあげるわ」
そしてお節介に、おにぎりでよければ作ってあげるわ。と言われて、なんとなく断れなくて受け入れた。
お姉さんがおにぎりを作ってくれて、僕はその横で、お姉さんの指図通りに手伝った。
「はい、できたわ、清彦くんとのデート、がんばってね」
「だから、そんなんじゃないって!」
「はいはい」
まあそんな訳で、当初の予定よりも、お姉さんの作ってくれた、お弁当の分の荷物が増えたのだった。
用意した荷物を持って、僕は双葉の部屋へと戻ってきた。
部屋では、先に準備を済ませた清彦が。僕を待っていた。
「遅い、何してたの?」
「ごめん、台所で、お姉さんに見つかっちゃって」
「えっ、……それで、大丈夫だった? 怪しまれなかった?」
「う、うん、例のピクニックの言い訳をしたら、なんか納得して、お弁当を作ってくれた」
そう言いながら、僕は清彦に、おにぎりの包みとお茶の入った水筒を見せた。
「そ、そう、姉さんにバレなかったのならまあいいわ。おべんとうは、向こうでお昼に食べればいいわね」
とりあえず儀式とやらに必要な物の準備は出来た。
後はいつでも、例の洞窟へと出発すればいい、はずなのだが。
「あ、でもその前に、この格好で山へ行くのは、さすがにどうかと思うんだけど」
「たしかに、その部屋着じゃラフすぎるわね」
僕が今着ているのは、女物のTシャツと短パン、さすがに山に着ていくのには、これはどうかと思ったんだ。
最も昨日は、双葉はワンピース姿で山のあの洞窟まで行ったんだから、これでも行けないことはないのだろうけどね。
双葉にとっては、あの辺りはまだ庭みたいなものみたいだけど、山に慣れていない僕にとってはそうではないからね。
「わかったわ、山登りに適した服を、見繕ってあげるわ」
そう言って、清彦は洋服ダンスの中から、長袖のシャツとレディースのデニムのパンツをとりだした。
「それじゃ、着替えさせてあげるわね」
えっ?
着替えさせてあげるって、なんで?
いきなり何を言い出すんだよ!
「女の子の服を、一人で着替えられる?」
「大丈夫だよ、昨日から何度も一人で着替えてるし、この服なら男物とあまり差がないから、一人で着替えられるよ」
反射的に、それはイヤだと感じて、僕は慌ててやんわり断った。
だけどなぜだか清彦は、食い下がってきた。
「着替えはいいとしても、その後の女の子の身だしなみは、ちゃんと一人で整えられるの?」
「それは、さすがに自信は無いけど……」
「それにあんた一人だと、私の体に何か変なことしないか心配だから、見ていてあげる」
「へ、へんな事なんてしないよ! 双葉は僕を信用してないの!」
変なことをしないか心配と言われて、さすがにギクッとした。
双葉は僕の事を信用していないのか? という反発も感じたけど、
でも昨晩この体で、女の子のオナニーを、しちゃっているから、もし問い詰められたら言い訳できない。
さすがにバカ正直にそんなことは言えないし、僕は慌てて誤魔化した。
「そりゃ、まったく見たり触ったり、しないってわけにもいかないけどさ」
「清彦の事は信用してるわ。でも、それでも、私は私の体のことが心配なの! この目でその体を確認したいのよ!」
元の双葉に、そこまで言われたら、これ以上は断れなかった。
「わかったよ……そこまで言うなら、ただし」
「ただし?」
さすがにこの服なら一人で着替えられるし、手伝ってもらうというのはどうかと思う。
僕が変なことをしないか、着替える所を見ているだけにしてほしい。
あと、確かに着替えの後の身だしなみには自信が無い。
だから着替えが終わった後、身だしなみを整える所は手伝って欲しい
「わかったわ、それでいいわ」
ということで、僕と清彦の間に、妥協が成立した。
着替えそのものは、さほど難しくは無い。
今着ているTシャツと短パンも、その後着る予定のシャツとデニムのパンツも、男物の服装と大差がないから、普通に着替えればいいだけど。
問題なのは、意識のほうだった。
女物のTシャツと短パンを脱ぐと、下着姿の女の子の肢体が露になった。
今の僕は女の子なんだと、ついそれを意識してしまう。
あれ、朝はあまり意識しないで、もっとあっさり着替えられたような?
そうか、双葉に見られているせいで、かえって強く意識しちゃってるんだ。
双葉に見られている?
改めてそのことに気が付いて、僕は急に恥ずかしくなってきた。
恥ずかしいって何で?
この体は元々双葉の体で、その双葉が見ているだけだろうに!
でもつい僕は無意識に、胸元を手で隠し、内股になっていた。
とにかく今は、早く着替えてしまおう。
僕は清彦の用意した、女物のYシャツを手にとって、まず袖に手を通した。
シャツを着るときに、腰まである長い髪が結構邪魔に感じるけど、昨日から何度か着替えていた経験からか、要領よく髪を除けながら着替えができるようになっていた。
でもシャツのボタンを留めようとして、あれっ、ボタンが留めにくい、なんでだ? と思った。
そうか、このシャツ、ボタンの位置が男物とは逆なんだ。たしか女物の服って、ボタンの位置が男物とは逆なんだっけ?
双葉と入れ替わってから今まで、パジャマ以外はボタンのある服は着ていなかったから、気が付かなかった。
そういえば、今朝まで着ていたパジャマは、ボタンが大きかったからなのか、あまり気にしてなかったっけ。
まあいい、とにかく早く着替えなきゃ。
シャツのボタンを留めた後に、デニムのパンツも素早く身につけた。
女物のズボンって、ぴっちりしていて体のラインがしっかり出るんだな。
なんか女の子って、男よりもお尻が大きくて丸いんだな。
いけね、今は余計なことは気にしないで、後は鏡を見ながらチェックだ。
僕は素早く髪や服装の乱れを整えて、これでよしと、ひとまず着替えは完了した。
「できたよ」
「30点減点」
「なんだそりゃ!」
何が気に入らないのだろうか、清彦にダメだしに、僕は思わずムッとした。
「そこに座って!」
「何するんだ」
「いいからじっとしてて!」
僕を椅子に座らせて、清彦は近くの鏡台からヘアブラシを取り出した。
そして、僕の髪を、梳かし出したんだ。
「ほら、こうしたほうが、かわいいでしょう!」
「……まあね」
確かにそうだし、こうして清彦に髪を梳かされていると、なんだか気分が良かった。
「さっきまでも悪くはないけど、女の子の身だしなみは、もうちょっとちゃんとしておきたいからね。
あと30点減点って言ったけど、残り70点だから、おまけで合格にしておいてあげるわね」
「……そりゃどうも」
「言っとくけど、おまけでの合格だからね!」
「わかったよ、こんどからもっとちゃんとするよ」
「……もっとも、次は元の体に戻ってるから、今度は無いけどね」
「そういわれてみれば、それはそうかもしれないけど、それでもつぎはちゃんとする!」
「わかったわよ」
そういいながら、清彦はくすくす笑った。
僕もつられて、つい笑っていた。
「それじゃ、準備も出来たし、今度こそ出発するわよ!」
「はいはい」
なんでだか清彦は、張り切っていた。
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何はともあれ、僕たちは今度こそ、山の中腹の洞窟へ、そしてその奥にあるご神体を目指して出発した。
昨日は山の洞窟への道を、手ぶらで歩いたけれど、今日はリュックに荷物を入れてかついでいる。
だから今日は、昨日よりも山道を歩くのは大変だろうなと、密かに覚悟していた。
『あれ、思ったより大変じゃない、意外に余裕がある』
非力な女の子の体で、荷物を背負って歩いているのだから、決して楽な状態じゃない。
だけど、それでも今の僕は、山道を歩くことに、まだ余裕を感じられた。
昨日はあまり出来なかった、周りの風景を楽しむ余裕もあった。
きっとこの体が、山道を歩くことに、慣れているおかげだろう。
だからだろうか?
僕は今、山道を歩くのが、楽しいって感じていた。
こんなの初めてだった。
「ま、まってよ、はあ、はあ……、少し…休ませてよ」
「……また?」
むしろ問題なのは、清彦のほうだった。
その体は体力が無いうえに、山道も慣れていなくて、そのうえ今日は荷物まで背負っている。
だから、すぐに息を切らして、へたりこんでしまう。
「ご、ごめん、……はあ、はあ、…少しでいいから」
出かける直前まで張り切っていたくせに、今ではへたりこみながら、今にも泣きそうな顔をしていた。
昨日までの僕の体だから、今の清彦が大変なのはよくわかるつもりだった。
だけどなんでだろう?
それなのに、そんな今にも泣きそうな清彦の姿を見ているうちに、なんだかいじめてやりてえ!
僕の中にそんな気持ちが、ふつふつと湧き上がってきた。
「女の私が平気で歩いているのに、このくらいで音を上げるなんて、男のくせにだらしないわよ!」
「えっ!?」
「って、昨日きみに言われた」
昨日双葉に言われたことを、そっくりそのまま言い返せて、僕はしてやったり、得意の表情で仁王立ちしていた。
僕たちは昨日とはすっかり立場が逆転していた。
そっくりそのまま言い返された清彦は、今ので我慢の限界を超えたのか、へたりこんだまま、ぽろぽろと涙を流しはじめた。
「わ、わたしだって、好きでこんなになったわけじゃないのに、……ぐすっ、わああああああぁぁぁ~~~ん!」
とうとう声を上げて、泣き出してしまった。
「わわっ、まさか泣き出すなんて、……ごめん、僕が悪かった」
体が男の清彦でも、中身は女の子の双葉なんだ。
強がってもいたけど、でもやっぱり無理していたんだ。
僕は今の清彦を、からかってやろうと思ったことを後悔しながら、泣いている清彦を宥めたのだった。
そんな風に、泣いている清彦を宥めているうちに、清彦は泣きながら僕に抱きついてきた。
そして、僕の胸に顔を埋めながら、そのままわんわん泣き続けた。
そんな状況に僕は戸惑いながら、まさか泣いている清彦を突き放すわけにもいかなくて、そのままそっと抱きしめた。
何でだろう、前にも似たようなことが、あったような気がする。
その似たようなことが、何だったのかはまでは思い出せないけれど、清彦を宥め続けた。
そうやって宥めているうちに、僕の胸の奥が、温かい何かに満たされていった。
僕にすがりついて泣いている清彦を、僕が守ってあげなきゃって、そんな気持ちになっていた。
何なんだろう、今のこの温かい気持ちは?
それが何なのかわからないまま、いつしか僕は、清彦の背中をそっと優しく撫でながら、清彦が泣き止むまで宥め続けたのだった。
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「少しは落ち着いた?」
「……うん」
しばらくして、泣き止んだ清彦は、ハッと何かに気づいて、慌てて僕から離れた。
僕から視線を逸らしながら、恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
そんな清彦の様子が、なんだかかわいいって感じた。
何かこう、胸の奥がきゅんてして、……わわっ、僕は何考えてるんだよ!
それに、ついさっきまで、僕はいったい何をやっていたんだよ!
僕もなんだか急に恥ずかしくなってきて、慌てて清彦から視線を逸らした。
きっと今の僕の顔は赤くなってる、そんな顔を、清彦に見られるのがなんだか恥ずかしい。
「……急に泣いたりして、さっきはごめん」
「こ、こっちこそ、双葉の気持ちを考えないで、さっきは嫌なことを言ってごめん」
「ううんもういいよ、それと、……さっきはありがとうね」
「べ、別にそんなの、たいしたことじゃないよ」
僕たちは、お互いに言葉を交わしあいながら、お互いに逸らしていた視線をそっと戻した。
再び視線のあった清彦の顔は、憑き物が落ちたかのように、なんだかすっきりしていた。
そんな清彦の顔を見ていたら、胸の奥がまたドキドキしてきて、僕の体が熱かった。
「あ、暑いね」
「うん、そうね」
「あの辺で、少し休んでお茶でも飲もう」
「うん、賛成」
僕たちは、近くの木陰に移動した。
そこで僕は水筒を取り出して、カップに麦茶を注いだ。
若葉お姉さんが持たせてくれたそれは、冷蔵庫でよく冷やされた麦茶だった。
まず僕が飲んだ。
すっかり体が熱くなっていたし、のども渇いていたし、麦茶は冷たくておいしかった。
僕は二杯目をカップに注いで、清彦に手渡した。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとう」
なぜだか清彦は一瞬躊躇して、それから麦茶の入ったカップを受け取った。
それから大事そうに、ゆっくりとその麦茶を飲んだのだった。
何なんだろう?
それがどういう意味があったのか、この時は僕は特に気づかなかったのだった。
その場でしばらく休息をした後、僕たちは再び目的の洞窟を目指して出発した。
無理に急ぐ必要は無いんだし、今度は今の清彦に合わせて、さらにペースを落として、ゆっくりと歩いた。
ゆっくりすぎて、今の僕には、周りの風景を見回して、細かい所まで観察する余裕があった。
「あれ、こんな所に、お花畑なんてあったんだ」
たまに開けた所に出ると、そこには昨日は気づかなかったお花畑が広がっていたりした。
何気なく森の木を見てみると、何か小動物がさっと隠れるのが見えたりもした。
あれってリスか何かだろうか?
というか、僕の目で、あんな小動物によく気づけたよな。
そうか、今は双葉の体で双葉の目だから、視力が良いんだ。
だから、たとえ余裕があったとしても、いつもの僕なら見落としていたものにも、今は気づけたんだ。
そんな程度のことにも、妙に感動していた。
昨日の僕には、こんな風に、風景を観察したり、楽しんだりする余裕はなかったんだよな。
ふと清彦の様子を見てみると、歩くペースを落としたおかげで、さっきまでよりは余裕はあるようだけれど、
それでも今はまだ、この風景を楽しむ余裕までは無いようだった。
そうこうしているうちに、目的地の山の中腹、例の洞窟の前まで到着した。
あらためてそこからの風景を見た。
双葉の家も含めて、ふもとに集落が広がっているこの光景を見て、昨日は感動していたんだっけ。
双葉の目が良いおかげで、今の僕は、昨日よりも遠くのものまではっきりきれいに見えた。
そうか、これが双葉の目で見えてきた風景だったんだ。
そのことに改めて感動しながら、でも別の事も感じていた。
なんでだろう、ここからの風景を見ていると、なんだかほっと安心する。
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未完