30片「奪取//誰彼」
いろいろ遊びながら日にちが経って、週明けの月曜日。放課後になると、いつものように2人に帰られた桂木さんが俺を呼び止めた。
「ちょっとアンタ、乙木がが遊んであげてないからって、最近調子乗ってきてるんじゃない?」
「乗ってるように見えるかな?」
「いつもと変わんないその調子じゃ、乗ってるようにしか見えないのよ」
酷い言い草だ、俺はいつでも自然体なのに。
とか言われながら、俺は桂木さんに凄まれている。いや正直全然恐くないんだけどね。
「最近乙木もなんか落ち着いてないし、二人も用事とかですぐに帰るし…、思い通りにならなくてイライラするのよ」
「そりゃ良くないね、肌とか胃とかに悪いよ。お風呂に入ってリラックスすれば?」
「その原因がアンタにもあるんだけどね!」
攻撃目的で振り上げられた鞄を軽く掴む。女の子の力で振るわれる力なので、そこまで苦も無く止められる。
「危ないじゃないか、何するんだ」
「良いから放しなさいよ。いつも乙木達にされてるように、私の遊び道具にもなりなさい!」
随分勝手なことを言ってくるものだ。まぁこうして直接攻撃に出てきてくれたので、そろそろ頃合いと見るべきかな?
離された鞄をもう一度振り上げようとしたところで、ちゃんと俺の意志を宣言してあげる。
「ヤだよ」
一歩近づいて桂木さんの顔に手を添え、『分解』発動。ただし頭を落としたりするのではなく、左右の瞳だけを外す。
「えっ!? ちょ、何これ、なんで見えなくなって…、え!?」
手元には桂木さんの綺麗な目玉。柔らかい感触は、強く握ってしまわないか不安になりそうなくらいだ。
「聞こえるかな桂木さん、君の眼は俺の手元にあるよ?」
「なに言ってんのよ、ふざけた事言ってないで…、何か目に被せたんでしょ、取りなさいよ!!」
「言ってる事が嘘だと思うなら、目元を触ればいいんじゃない? そしたら解るよ、顔の穴がね」
「…………ッ!!」
言われた通りに顔を手で探ると、桂木さんは引きつったような叫びをあげた。
そりゃそうだろう、目の上にあるだろう何かを取ろうとしたら、その指が眼窩にするりと入ってしまったのだから。
「鬼さーんこーちら。声のする方においで? でなければ君の眼は戻らないよー」
「ちょ、ちょっと待ちなさ、…わっ!」
手を叩くと目を潰してしまいそうなので、声だけで誘導していく。いきなり視界を奪われた桂木さんは、おぼつかない足取りで俺の位置を探り、追いかけようとしている。
足元が分からず、体勢を崩しても健気に姿勢を直して、倒れないようにしている。
「ほーらこっち、こっちだよー」
「どこに、いるのよ、この…!」
そのまま、使われていない教室に誘導していく。
開いたドアを支えにして、桂木さんが教室の中に入ると同時に、扉の陰に隠れていた俺は戸を閉め、壁と『接続』させて部屋を閉じる。
「ようやく来ましたか。遅かったですね」
「2人ともお待たせ。いや、これでゆっくりと移動させざるをえなくってね」
「あぁ~、これはしょうがないね。これだと那月ちゃん、早く動けないよ」
すでに室内で待機していた都築さんと迫間さんは、俺の手の中にある眼玉を見て遅くなったことを理解した。
当然ながら、それをまだ理解していないのが葛木さんだ。
「ちょっと何よ、菫、胡桃もいるの…? 何を話してるのよ!」
「…わからない、那月? あなたの事が好きじゃないから、こうしてもらったのよ」
「え…?」
「だって那月ちゃん、いっつも自分の好きな様にしてて、私達の事を少しも大切にしてくれなかったでしょ?」
「ちょっと、何言ってるのよ…?」
これは2人の偽らざる本音だ。いくら洗脳したとしても、普段の生活もしてもらう関係上、「俺」が優先順位の最も上に来るようにしただけに過ぎない。
俺が相手なら何をされても許すのが今の2人だが、それ以外は元のままだ。桂木さんを根底では嫌っている、という事も含めて。
「解らないならそれでいいの」
「だって那月ちゃんはこれから…」
2人が声を揃えて、告げた。
「「『俺』に代わってもらうから」」
ぽろ、と桂木さんの首が落ちた。
驚いていた彼女の背後から近付いていた俺が首元に触れて、『分解』を発動させたのだ。勿論首が床にぶつからないよう、傍に立つ二人に確保してもらう。
そのまま俺の体から首を切り離し、桂木さんの体に乗せた。
「ん、ん~…! 桂木さんの体は久しぶりだな」
「そう言えば「俺」は、前に那月の体を使ってたのよね」
「ちょっとだけだけどね。敏感すぎて驚いたよ」
「え~、菫ちゃん知っててズルいよー。ねぇ、私にも「俺」の記憶ちょっとちょうだい?」
「それも良いけど、やる事をしっかりやってからね?」
女同士のやら若い体を触れ合わせてくる迫間さんと都築さんを軽く押し留めながら、桂木さんの頭を受け取った。
ノートPCを起動し、USB同士を『接続』させて、桂木さんの記憶をコピー。そのまま彼女の脳内は書き換えず、ある一つの命令を組み込んで完了。
俺の頭にも「桂木さんの記憶」をフォルダ分けしてコピーし、彼女の全てを手に入れる。
「とりあえず眼だけはこのままで良いけど、貰うよ、顔も髪も、記憶も立場も、全部ね」
目玉を戻し、顔と髪を取り外して付け替える。ついでだから歯も歯ぐきから『分解』『接続』して交換する。
そういえばしばらく前に殴られてて、奥歯がちょっと無くなってたんだった。
「…どうかしら、菫、胡桃?」
「すごーい、「俺」が那月ちゃんになっちゃった!」
「こうしてみると、本当に「俺」の能力は凄いですね」
全部終えて、「桂木那月」そのものになった俺を見て、2人は楽しそうにしている。
「改めて考えると、メチャクチャだって認識するよ。…あ、それじゃあ俺になった元・那月ちゃん。ちゃんと忘れないようにね?」
「う、ん……」
ふらふらと空き教室の外に出ていく、俺のパーツを『接続』された桂木さんは、ゆっくりとした足取りで俺達の家に帰っていった。
何もかも記憶を消すのは容易いけど、それをやると廃人の出来上がりなので、もうちょっとマイルドに壊す為に、自己認識を「俺」に書き換えて、「俺」のいう事を聞くように調整してあげた。
撫子さんには連絡してあるから、元・那月ちゃんと撫子さんが出会えば、多分彼女に遊ばれるだろう。
俺の体の保持と、都合のいい人形はちゃんと作っておきたいからね。
やる事を終えたので、空き教室に戻って
「…じゃあ2人とも、準備は良い?」
「えぇ。新しい那月の記憶を、私達に下さい」
「「俺」になった那月ちゃんの方が、きっと優しいもんねっ」
両腕で桂木さんと都築さん…、うぅん、菫ちゃんと胡桃ちゃんを抱き寄せる。
この間のように3人で同時にキスをしながら、新しく俺の物にした体で、2人にちゃんと「俺」という存在を、もう一度刻み始めた。
31片「思索//復讐」
さて、桂木さんの記憶によると、乙木はどうにも落ち着いていない様子だ。
そりゃそうだろうね、自分の取り巻きが一人一人と減っていくわけだし、その理由だって「バレたら自分がどうなるかわからない」からだし。
宇治君はすっかりトロいデブになった。千草ちゃんは体の事が解れば襲われる可能性だってある。青海くんは当然のことながら退学処分になった。
そうなった原因はすべて俺にあるけど、だからと言ってそこに後ろめたさは欠片も感じない訳で。責任転嫁をするよりは、受け止めて「だから何」と聞いた方が、俺としては気が楽だからだ。
一応、俺が復讐をしたい相手の内、残りは乙木だけだ。
俺の体から移植しなおした筋肉で物理的に倒しても良い、千草ちゃんみたいに体を別人のものに替えてやってもいい。
…ただ、今までの連中と同じことをやるというのも、どうにもマンネリ感というものが否めない。
何か別の方法というものを考えたいと思い、学校が終わった後に全員を招集してみた。
元々の協力者である日浦撫子さん。
「銀の湯」で目をつけて確保した近衛藤花さん。
桂木さんを裸にする為に俺の方へ引き入れた、都築菫ちゃんと迫間胡桃ちゃん。
実験の名目で俺の内の一人にした結城江美ちゃん。
女の体にしてあげた千草ちゃん。
そして体は桂木さんのままに顔と髪形を戻した俺の、合計7人。
全員を撫子さんの家に入れて、ちょっと考えてみる。
「千草ちゃん、最近乙木から何かあったりした?」
「う、ん…、なんだか、違和感あるみたいで…、ちょくちょくこっち、見てくる…」
「そりゃこんな体してちゃね! 元は男のくせに、こんなに蕩けちゃってさ!」
両手足を『分解』してトルソー状態にした千草ちゃんを、江美ちゃんが後ろから抱えて胸を揉んだりまんこをいじったりして責めている。その表情は随分と楽しそうだ。
「「俺」がやりたい事というのも、今はあまりないのよね?」
「まぁね。どうしたものかと悩んでるよ」
近衛さんが、千草ちゃんのちんこを弄びながら聞いてくる。正直、質問してくれるだけでもありがたい。
「では一度状況を確認してみましょう。「俺」の手元にあるものが何で、どんな事が今は出来るのか」
「えーと、私たちと、この家と、「銀の湯」のお客さんと…、後は壊した那月ちゃんかな?」
菫ちゃんの言葉に、胡桃ちゃんが即座に反応して手元のカードを列挙していく。
元・桂木さんは、頭の部分を適当なマネキンから顔と髪形を『分解』『接続』して、カット練習用のマネキンが如く置かれている。
一応俺の体は適当な植木鉢を逆さに被せて、鉢担ぎみたいな状態にして家の中のみで活動させている。
鉢頭の俺の体が、皆の前に飲み物を置いてきた。
「そんじゃあちょっと、私たちが考えた案を出してみましょっか」
「お願いしますね、撫子さん」
撫子さんは俺の体に後ろから抱き付き、うなじにふぅふぅと息を吹きかけてくる。正直こそばゆいし、この体が敏感だから少しパンツの中が濡れてきている。
「何か案ある人ー」
「はーい。普通に洗脳させて存在を消すように仕向けるってのは?」
「ちょーっと普通すぎるね江美ちゃんは。でもメモしとくよ、みーくん?」
「は、はぃ…。耳を噛みながら言わないでください…」
撫子さんは楽しそうに、携帯のメモに意見を打ち込み始める。
次に手を上げたのは菫ちゃんだ。
「体のパーツをマネキンか何かのような、物体に挿げ替えて動けなくさせるのはどうです?」
「違和感を無くすならマネキンが一番だろうね。そうなった場合はちゃんと動かせるっけ」
「問題無いはずですよ。包帯の腕みたいに、自由に動かせるはずです」
それがどこまで適用できるのかは、まぁ謎だけど。そもマネキンの腕をそのままつけるよりは、もっと便利そうな道具にした方がきっと屈辱的だと思う。
「はーい。千草ちゃんみたいに女の子の体にするのはダメなの?」
「それはマンネリだってみーくがねー? 贅沢だよねぇみーくんは」
「言わないで下さいよ。ただ、今までと違う事を少ししてみたいなってだけですから」
胡桃ちゃんの考えも悪くは無いんだけど、千草ちゃんが既に女の体で「メス」に染まってるからなぁ。
もう少し別の事をしたい、というのが偽らざる本音だ。
「では私も。パーツを分解して、他の、乙木くんが信頼できそうな人に集めてもらう催しはどう?」
「いやぁ実はねぇ、他にそういう人がいないんだよ彼。大抵周りに引かれてて、青海くんたちぐらいしか居なかったんだ」
「でしたか。…他の人がいないと成り立たないわね」
近衛さんもちゃんと意見を出してくれる。さて問題は、それを行ったとして、隠した体が腐りはしないかという懸念なのだけど。
まぁいいか。
「ではもう一つ。「俺」の能力を使って、脳だけ他人の物に載せ替えるのはどうでしょう」
「筋繊維だけでも出来たっけね、みーくん?」
「えぇまぁ。でもそれをやると他の人に迷惑が掛か…っても別にいいか」
続けて近衛さんが出してくれた案だけど、他の人に迷惑かける事を躊躇してたら、この能力の有効活用なんてできゃしないってなモンだ。
これはありがたいからメモしておこう。
「千草ちゃんは何かあるかい?」
「っう、んっふ、ひうぅ…!」
あ、ダメだこりゃ。江美ちゃんが手に持ったディルドで思いっきり奥を突かれてる。すっかり顔を蕩けさせちゃって、まともに受け答えできそうにないや。
「じゃダメだね。撫子さんは?」
「んー、考えてる事ってもねぇ…。
適当に脳、というか頭だけをPCにつなげて、機械のパーツにするとかじゃダメなの?」
「それだと意識とネットワークがつながってしまう可能性があるから、ちょっとやりたくないんですよね。
前に見たサイバーパンク系の話なんかだと、広大なネットの海に逃げられた場合、絶対と言っていいほど捕らえられませんから」
「それを言われるとダメだね。世界中に逃げられて、しかも速度は光の速さ。意識が耐えられるか解らないけど、もし耐えられたらどんな方法で仕返しされるやら」
「…なので、向こうから復讐をする為のお膳立てなんて、可能な限り作りたくないんですよ」
「同感だねぇ」
「ちょっと今まで出てきたネタを纏めてみましょうか?」
撫子さんから携帯を借りて、メモ帳の内容を見直す。
洗脳をする。
別の何かを体に挿げ替える。
女の体にする。
脳だけ他人の体に載せ替える。
さて、これらから何か面白い方法を探すとなると、どんなものが良いか悩んでしまう。
すると、
「あ、そうだ、良い事思いついた!」
「…ど、どうしたんですか撫子さん、いきなり大声出して」
耳の後ろで大声出されると、さすがに驚くよ。
「いやぁ、みんなのネタを複合したり、ちょっとひねったりした結果なんだけどね。多分みーくんの能力ならいけるよ。んできっと面白い事になると思う」
「…それじゃ、その概要を一言で説明してくれませんか?」
にんまりと笑って、撫子さんは考えを告げてくれた。
「人面疸作ろうぜ」
32片「誘惑//実行」
撫子さんの案を確認して、その翌日。俺はかねてからの復讐を実行に移すことにした。
まずは桂木さんとしての姿で乙木だけに、「急な話だけれど2人で逢いたい」という本題と共に、場所と時間を指定して連絡する。するとさほど時間はかからずに、当の乙木から返信が来た。
「…よし。それじゃこの顔ともオサラバだね。髪の毛だけは使うとして…」
人面疸を作る関係上、どうしてもこの「那月ちゃんの顔」は諦めなければいけない。
正直な事を言えばそこまで未練はないけれど、まぁ気にする必要も無いかなと考えている。
「だってそもそも、桂木さんの親が彼女に対して未練無いしなぁ…」
俺の後押しをしたのがそれだった。彼女の親は仕事にばかり気を向かせていて、自分の娘を顧みる事は殆ど無かった。
一度だけ桂木さんの家に帰って、記憶を頼りに物色してみたけれど、アルバムを筆頭とした記録なんてありゃしない。
寝てる親に『接続』して記憶を探ってみても、娘の事を気にしたことは殆ど無いようだった。じゃあ何で産んだんだこいつ等。
(…ま、良いんだけどね。その稼いだお金も、俺たちの物にさせてもらうけれど)
親の稼いだ金は、生活費とわずかな貯金額を除いて、娘の持つ口座へ送金するという処理を施しておいた。娘の事が関係ないのなら関係ないまま余生を送れば良い。
という事で到着したのは、乙木との合流の為に指定した人気の少ない喫茶店。
ここも「銀の湯」に着ていた別の客が経営してる場所で、今日の為にわざわざ「CLOSED」の看板を下げてもらっている。
中にはオーナー代わりに近衛さんが立っており、俺の姿を見ると無言で奥の席の、扉がよく見える位置に通した。
椅子に座り、手持ちのバッグを隣に置くと、近衛さんに声をかける。
「乙木はまだ来てない?」
「えぇ。あと日浦さんは、「俺」の体を持ってここに向かってる最中です。……ふむ、ちょっと看板をひっくり返してきますね」
「あ、って事は近づいてきたのか」
近衛さんが外に出て、看板を「OPEN」に変える。菫ちゃんと胡桃ちゃんに乙木の後をつけてもらっていて、ここに近づいたら連絡をするようにしているのだ。
ちなみに乙木の住所は千草ちゃん提供。
数分の後に、カウベルが鳴って扉が開く。やってきたのは勿論、乙木だ。
「あ、乙木…」
「那月か、待たせたな」
姿がすぐにわかるので声をかけ、招き寄せる。その際に後をつけていた2人に、看板を再度「CLOSED」にしてもらい、裏口に回ってもらう。
「急な話ってなんだ、直接会わなきゃいけない事か?」
「うん…」
桂木さんの不安の記憶を基に、肩を震わせながら頷く。少し胸元の開いた、俯けば胸の谷間が(あんまりないけど)見えてしまいそうな状態。
ちょっとだけ、乙木の視線が刺さったのが解った。
「何かあるなら言ってくれ。俺も…、那月の力になりたいから」
「本当…?」
「あぁ!」
力強く頷く乙木は、目の前にいる「桂木那月」が俺であることに気付いてないようで、ひどく滑稽に映る。
この男気を別の事に活かせればよかったのにね。へっ。
「でも、最近の乙木はちょっと、何か怖がってるみたいだったから、言いづらくて…」
「う…。やっぱり桂木にも、そう見えてたのか?」
「えぇ…。でも、それでもやっぱり頼りたかったから、こうして話をしてほしかったの」
「そんな事で良けりゃ、いくらでも聞いてやるって! 那月が元の俺に戻ってほしいってんなら、自信付けてやるさ!」
俺へのいじめによって、だけどね。はっ。
「それじゃあ…、私のお願いを聞いてくれる…?」
「おう勿論! 言ってみな!」
不安の表情を覗かせながら、それでも顔を赤くして、恥ずかしそうに…。
「…私も、都築と迫間が離れてって、怖いの。お願い、傍に来て…」
「お、おう! ……!」
キッ、と乙木は店員のフリをする近衛さんを睨みつける。それに合わせて、彼女が奥へと引っ込んだ。
店内2人だけになると、乙木は嬉しそうに俺の隣に座って、肩を抱きしめてくる。俺もそれに合わせて、怖気を払いながら体を寄せる。
許可得たり、とばかりにキスを迫ってくる乙木の首元に手を触れて、
「バカだね乙木は」
嘲笑いながら、首元から『分解』してやった。
「みーくんおまたー」
元々の鉢頭になった俺の体を伴い、俺の顔をつけた桂木さんの顔を脇に抱えて、撫子さんが裏口からフロアに入ってきた。
「えぇ、ちょうど良い所です」
「それじゃやっちゃおうか。二度と人前に出られない、好きな人と一つになれる人面疸作り」
「その為には…。ちゃんと元の俺の体に戻りませんとね」
首を『分解』して外し、顔も元々の物に戻し、俺の本来の体に『接続』。これで「俺」が戻る。
乙木へ攻撃され続けた存在として、本人にきちんと復讐する為には、元の姿に戻らないと締まりが無いからね。
「始めるよ、『分解』と『接続』の、継ぎ接ぎ手術をね」
まずは乙木の服を脱がして全裸にした上で、首のない体を手術台の要領で仰向けに寝かせる。まぁそれなりに見栄えのする締まった体で。
乙木の胸元に手を触れて『分解』を発動。胸部をがばぁ、と開くと、見事に内臓が脈動していた。
「撫子さん、桂木の頭を下さい」
「ほい」
手術助手に携わるのは、俺を後押ししてくれた、悪魔のような女性だ。彼女は何の感慨も無い様子で、首だけの桂木をよこす。
まずは彼女の髪の毛ごと皮膚を、次いで頭蓋部分を『分解』し、脳を露出させる。視神経が脳に繋がっているが、そこも外す。
脳幹で繋がった脳を『分解』摘出し、肋骨を外した乙木の胸部に収め、『接続』させる為の位置を決めて、仮『接続』。勿論視神経は肋骨の隙間を通しておく。
そのままに乙木の、要らない乳首を『分解』し生ゴミにシュートイン。空いた隙間の部分には桂木さんの目玉を嵌めて、肋の隙間から出した視神経と『接続』。
脳自体が既に乙木の肉体とくっついている為、どうやらそこは反応するようだ。何かを確認しようとして、ぐりぐりと目まぐるしく周囲の認識をしようとしている。
胸元を仮で閉じた後、桂木さんの眉毛とまつ毛を『分解』し、眉を瞳の上に、まつ毛をちゃぁんと目元の所に一本ずつ植えてあげた。
「怖いのかな、桂木さん? この時の為に記憶をちゃんと戻してあげた甲斐があったねぇ」
彼女には笑う俺の顔が見えているだろう。ついでに『接続』してあげた涙腺から、涙が零れているようだ。
「ただまぁ、今は暴れられても困るかな。一度外すよ」
桂木さんの脳と乙木の胸部を一度『分解』した後、ここの接続は問題ないと見て作業の再開に移る。
彼女の鼻を『分解』し、乙木の鳩尾部分に『接続』。
乙木の臍を『分解』し、桂木さんの唇と歯と舌と声帯と喉を、元あったような形に『接続』してあげる。
ついでに適当なチューブも喉元から乙木の食道に『接続』してあげる。これでちゃぁんと、下の口からも食べられるね。
桂木さんの髪の毛をいくらか毛根部分から『分解』して、胸元の眉の上あたりから『接続』、生やしてあげる。胸毛の毛根部分に植えてるから、ちゃんと髪の毛も伸びてくよ。
これで、人面疸の完成だ。