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ルナティック・トランス(2)

2017/07/28 18:35:39
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4月目 十六夜の夕方

敏明は一晩で大分回復したようで、今日はちゃんと登校していた。良かった良かった。
せっかく元気になったのだから早くチョッカイをかけたいところだがここは我慢しておこう。
私は変に目立つし、敏明と変な噂でも立ったら校内での行動が制限されそうだし、
敏明が質問攻めにされたら可愛そうだし、万が一敏明から私の事が知られたら色々面倒そうだ。
………あと、敏明と二人だけの秘密って何となくオイシイ気がするし。
別に私だっていつも変な事(エロい事)ばっかり考えてるわけじゃないよ?

現に敏明の事は気になるけど、試験対策の勉強もちゃんとしてるから。
最近、女性化状態に夢中で遅れ気味の勉強もこの2週間で大分盛り返してるし。
それにオタノシミっていうのは頑張った後の方がより美味しいからね。
今は試験勉強を頑張って、敏明との触れ合い(超接近Ver)は全て片付いた春休みになってからだ。


ホラ!!別にエッチぃ事ばっかじゃないでしょ?
さーて、試験勉強でもしよう。でも、図書室で目立ったら嫌だし、友達の家で出来れば最高だよね。
でも、この姿で行ける友達の家なんてかなり少ないよね…。
外にいい場所も思いつかないし、講義が終わったら敏明の家へ行こう。
敏明宅に行くって言っても別に変な事をする気はないよ?うん。何もする気はないから。


「で、結局俺の家に来るのか?」
「うん。来ちゃった」
私にとっては当然の、しかし敏明にとっては突然の訪問だ。
いや、このテの呆れ顔をする時は薄々感ずいていたって感じかな?

「自分の家で試験勉強って選択肢は?図書館内とか」
「でも、一人っきりで勉強っていうのも寂しいし学内だと目立つもん」
「まぁお前って目立つもんな」
「見かけない顔だから?可愛いから?胸が大きいから?」
「何だよ、その質問は?」
「答えてよ」
「全部だ!!強いて言えば胸が一番かな?」
「うわっ!!敏明って結構スケベ!?」
「悪かったな。っていうかお前を見てた男も大概同じ感想だろ?お前も男なら分からないか?
俺以上のオッパイ星人だし」
「分かるって言えば分かるんだけどね。でも今はちょっと分からないかも」
「女になってる時は性格が変わるっていう、例のアレか」
「流石は敏明、察しが良いね」
「まぁ明らかに別人だしな、外見だけじゃなく性格も」
「そうそう、性格とか感覚が別物ってくらい変わっちゃってて女の考えは分かるけど男性意見は分かんないんだ。
清彦モードの記憶を辿れば男心は何となくなら分かるんだけど」
「男心と女心が分かる最強の存在かと思いきや案外不便なんだな」
「まね。女モードだと男モードの時とやりたい事も違うからちょっと混乱するかなでも、楽しいよ」
「確かに楽しそうだったな」
「テンション基本高いし、悩みがちな清彦に比べて活発だし、楽天的だし」
「まるで別人だな。でも清彦だろ?」
「うん。多分酔っぱらって気分が良くなったみたいな風じゃない?」
「酔ったお前が今のか、お前に酒は飲ませられんな」
「どうゆー意味さソレ」
「割と悪い意味」
「もー、敏明君って意外と意地悪なんだね」

口調的に敏明が言ってるのはエッチぃ意味なんだろう。思い出せば恥ずかしくなる赤裸々な日々(そんな日数ないけど)
性格が変わったといったけど、本当に女の性格になってると思う。
男の人がノリ気じゃないのに無理やり迫るとか。最終的には色気でどうにかした気もするけど。
でも、もし私が男ならこんなエロエロな女は結構イヤだなぁ。
だいたい、これもそれも敏明がセクシーで美味しそうなのがいけないんだよ!!
もぅこの話はお終いお終い。遅れを取り戻すためにもちゃんと試験勉強をしよう。

~1時間半経過~

「ちょっと疲れたし一旦休憩にしようかな?敏明の方は順調?」
「微妙…かな?」
「集中力の高い敏明らしくないね」
「まぁ俺にも調子の悪い時くらいあるさ」
「お茶でも淹れて休憩にする?」
「そうだな」
「しっかし、お前も大変だよな。本当に」
「しみじみしてるね」
コーヒーが入ったからか敏明はかなりリラックスしているようで、ちょっと饒舌になっていた。


「まぁね。最初の2か月くらいは夢か現実かもろくに分からず大変だった」
「んなこと言ってたな。しかも人に相談できる内容じゃないし余計に大変だろうな」
「相談できないし、仮に言っても信じてくれないだろうからね」
「ゼッタイ信じられないよな。俺が信じたのも悪戯にしては手が込んでるって理由と悪戯が清彦らしくない
って理由だからな。あとは性格が変わったとは言え時々清彦っぽく見える場面もあるからだな」
「敏明だからこそ…って感じだよね」
「かもな」
「まだまだこの状態は続きそうだけど、でも女になるのも案外楽しかったよ」


今は面倒なだけだけど、女の子オシッコは面白い体験だったしオシャレは楽しい。
ショーツの感覚は男の時じゃ到底味わえない。下着の感触とそれにフィットする体も。
それからいつもよりおしゃべり好になったのか他愛のない会話も楽しい。
特に敏明と一緒に話ていられるのが楽しい。
同性としても異性としてもどっちも楽しめて大変いお得だ。
何なら、料理作るとかお世話するだけでも楽しかったくらい。
なんだか…少しマズい?顔が緩むし火照るし、しちゃいけない顔してるかも!?
と余計な心配をしていたら敏明にぶち壊された。



「それってやっぱりエロい意味…だよな?」
えっ?それって流石に酷くない?
そりゃあ女モードの私はエッチぃ内容が脳内の8割を占めるような奴だけどエロが全部ってわけじゃないんだから!!
現に今だって、美味しそうな敏明には目もくれずちゃんと試験勉強に勤しんでるっていうのに!!

「親しい男の子の為に料理とかするのが結構楽しいって意味だったんだけど?尽くす女の子って可愛くない?
まぁ料理作るくらいで尽くすって大げさだけど、でもそういう女の子を演じるのってすごく楽しいよ?」
「うん…分かった。俺が悪かった」
「悪いと思うんなら敏明の白い液を摂取させて。お腹が減ってきた!!」
「いや、腹が減ったら飯を食え。下から精液を摂取するんじゃないよ…ってか摂取してるか?」
「どうだろ?お腹の奥底に入るから摂取なのかな?」
「摂取かどうかはどうでもいいとして、お前に摂取されると体力の消耗がもの凄いから疲れた状態や
食事前はやめてくれ。マジでどうにかなりそうだから」

『敏明に変な事言われたせいでエッチモードに目覚めたんだから責任取ってよね』
と強引に迫ろうと思っていたが疲れたような敏明の顔を見るとその気にはなれなかった。
しかし、飢えはあった。お腹が減ったから敏明のが食べたいというのは大マジだった。
精液で収まりそうな飢え、そして何故かその飢えが急に出てきた事、これは何を意味するのだろうか?



4月目 十六夜の夜(敏明Side)

清彦の女体化変身を知ってしまって、1ヵ月くらいか。
アイツとの関係をどうすればいいのか、未だに答えは出ていない。
清彦自身も混乱してるというのは分かっている。分かっているからこそ俺は可能な限り平静で、そして、
何が起こってもどっしりと構え受け止める心算だった。ベッドの中での延長戦を受け止めることまでは想定してなかったが。

問題なのは一昨日、俺の方もかなり乗り気で俺の方から仕掛けたと見えなくもないくらいだ。
丸1日動けないくらい疲弊したのは、変に張り切ったせいか、そういうものなのか、いっそ友人を襲った天罰なのか?
どちらにせよ、マズい事をしてしまったという点は変わらない。今清彦ならともかく、
男清彦は俺としたことを後悔しそうだし。やばっ、考えれば考えるたびに混乱しそうだ。

駄目だ。ダメダメ。
清彦は相談できる相手がほぼいなく、俺以上に混乱している。
俺は絶対に冷静でなければいけないんだ。だが、正解はどう接する事なんだ?
女の時は乙女心が満足するように?それとも同性の友人に近い方が良い?
考えれば考えるたびにドツボにハマりそうだ。
やはり、ここは自然体で、あのお色気バデイに惑わされないよういつもと変わらないにしよう。
アイツを姿が違うだけの清彦と深く念じておこう。


「それってやっぱりエロい意味…だよな?」

男よりスケベな元カノ含め、女相手ならば誰だろうが絶対に言わないであろうセリフだった。
清彦の反応を見て、いや反応を見る前に失言と分かるくらいの大失敗だった。
清彦として扱いつつも、女性として扱っていたと気ならこんなミスはありえない。
だが、同性の、男として扱うよう心掛けると出てきても不思議じゃないセリフだった。
自然体でいる為に可能な限り男扱いしよう。という話だったが男扱いするのに意識を
してしまい配慮に欠けたという本末転倒な出来事だった。


案の定、清彦はかなり怒っていた。
きっと、おちゃらけたようなエロアピールは傷ついたことの裏返しだと思う。
俺の料理を作るのが楽しいとか、女の子を演じるのが楽しくなったとか、心の中にあるのはそれらだと思う。
今までの清彦から考えて、精液を摂取したいっていうのも本心だとは思うけど。

幸いな点は、何を迷ったか清彦が帰らず仲直りチャンスがあるという点だろう。
あれだけ怒っているのに帰らず、ついでに俺の分の料理まで作るという行為は理解に苦しい。
だがアイツだって俺と同じかそれ以上に俺との関係を悪くしたくないというのは間違いない。
料理が出来るまでの間、もう少し考えをまとめてどう接するかを決めよう。
悩んだ分だけ、きっとアイツを大切に思っているという事だ。あいつを軽んじてる俺とか絶対イヤだから。



友情・劣情・愛情 アイツが俺に抱いているのはこの中のどれかには違いない。だがどれなのかは分からない。
そして清彦自身も自分の気持ちを何となくなら分かっているだろうが、詳しくは分かっているのだろうか?
俺がとるべき行動は友人としての行動だとは分かっている。
友人として取るべき行動はアイツの望みを可能な限り叶える事だ。
性別が安定しないという事もあって、恋愛関係になる事だけは難しいがそれ以外の望みなら
俺の気力と誠意次第で、多分どうにか出来る…と思う。


だが清彦が望む俺との関係は何なんだ?
劣情メインなら友人関係をベースに一夜だけの関係か?
友情がメインでも快楽の為に時々、一夜限りの関係だな。
だが、愛情メインならどうするんだ?恋人関係はかなりキツイ。

そして、男清彦と女清彦の性格が別人みたいだという点も無視出来ない。
仮に女清彦と懇ろになったとして男に戻ったアイツはどう思う?
その時は気持ち良かったからOKと考えるか?
悩みと後悔の多い清彦に一瞬の気の迷いで、一生ものの後悔をさせる危険性は低くない。
初めてのエッチは男友達です…とかトラウマにならないか?
俺の方は初エッチで後悔はしてないが、それは俺の性格と男の自分が女の清彦だからというのもあるし…。

結局、清彦の調理が終わるまでに何も答えは出てこなかった。



4月目 十六夜の夜

二人ともお腹が減っていたので、お茶タイムが夕食タイムになった。
さっきまでの割と楽しい会話も途切れ一気に気まずくなった。
そんな空気になっても帰らずに敏明の分の夕飯を作る私は物好きかもしれない。
今日はこっちが敏明の家に行くスタイルで良かったんだろう。逆なら絶対に帰っていた。

いくら、女の時はエッチぃセリフしか言ってないとはいえ女の子にエロイとかヒドイ!!敏明のバカ。
敏明が一緒だからエロクない場面でも楽しいって思う事が出来たっていうのに。…敏明のバカ。
一昨日なんて、敏明の方も負けず劣らず乗り気だったっていうのに。…敏明のバカ。
とにかくスケベなだけの女と敏明に思われたのがショックかな?…敏明のバカ。

いつもだったら部屋が丸々埋まるくらいの愛情が隠し味に入っているところだけど、今日はそんな気分じゃなかった。
バカ敏明に美味しいものなんて食べさせてあげる必要はあんまりないからね。


女心は秋の空とか言うけど、一気に冷めちゃったかも。
敏明は良い奴で、私に対して友人でいつつ、芽生えた女心を受け止めようとしてくれて、
それでいて本人の手にも余る男状態と女状態のギャップも理解してくれている。
それは分かる。すごく良いヤツ。高校からずっとモテるのも分かるくらい。
でも冷めちゃったかも。


失って初めて、女の私がどれほど彼を好いていたのかようやく分かった。




敏明の体が一番の目当てだった。敏明とすると、気持ちいっていうか美味しいって感じで満たされる。
満たされた時の私はこれくらいの蕩け顔だったと思う。



それに、エッチな欲求が満たされないと精神的な飢えと渇きが重くかなりツライ…と最重要項目だ。
次に彼と一緒にいて、身の回りのお世話でもできれば良かった。おまけ理由で、勉強が捗るから。
だから敏明の家に来た以上(無理矢理はダメだけど)何があっても敏明とする事だけは必須だった。
寧ろ冷静に考えれば、エロ女扱いされた方が何かと都合がいい筈だ。
それがこんなに怒れたのは、きっと彼を異性としてみるようになってしまったから。
性より愛、劣情より愛情が欲しくなったという事だろう。

顔はいいし、男時の私より格段に頼りになって、優しく良いヤツなのは分かるけどどうしてこんな
ヤツに相当惚れこんだんだろう?魅力があるのは分かっているがそれにしたって好きすぎる。
…実はエッチが気持ち良かったからオチとかはあるんだろうか?
何かそれってすごく嫌だ。

敏明と離れてると、意外と頭回るね。彼の前だといかに頭がおかしくなっているのかが良く分かる。
それとも、心が醒めると頭が冴えるなんて事があるのだろうか?
お泊りもせずに帰った事を少し勿体なく思うが、今日は敏明と一緒にいたくなかった。


でも、今晩はどうしよう?
エッチもしないで一晩越す事ってできるんだろうか?



4月目 十六夜の深夜

家に帰った私だが、有り余るある特定の欲求(性欲ともいう)を処理するのに悪戦苦闘していた。
とっておきの動画や画像で満たしてみようと思うが、女の方が目立つ動画じゃ魅力は半減だ。
男優の方は立派な下半身とか見どころはあるのだが、その見どころが活かされてないないし。
画像に至ってはほぼ女のみという誰得な(?)ラインナップだ。
自分が購入Or怪しいダウンロードで得たものになに言ってんだか。




自分の指で鎮めようとシてみる。
気持ち良さはあるにはあるのだが、快感がやってくるのが遅すぎるし小さすぎる。
正直、敏明とシてたのと比べると圧倒的に物足りない。
刺激の強さもそうだし、雄の香りや彼の体温や息遣いなど、どれも昂った私を満たす大切な要素なのに足りないものが多すぎる。

こんな様子で、無事に夜を乗り切れるんだろうか?
動画を見つつのオナニーに疲れ、私はベッドの中に入った。
正直今のままだとかなりツラい。体力を相当に消耗しているけれど、胸や体は火照ったままだ。
幸いなのは、変身してから4日も経っているという事、そろそろ変身から解放されそうなのが救いと言える。


敏明と一緒にいた時と比べて、夜がとても長く感じた。



4月目 立待月の朝昼

元の自分の体が随分と懐かしく感じる。
今月は4日かな?月に4日は大して長い時間ではないが、今月は妙に長く感じた。
いや、長く感じたのは昨晩だけか。それまでの3日間は、あっという間に過ぎた気がするし。

それにしても体がダルイ。
今までは前の晩に疲れていても変身が解けた翌朝は調子が良かったのに。
日も大分高くなっているというのに、目と体が重くて動きが鈍い。
ダルイ、サボりたい。
とは言え、差し迫った問題(試験が近い)があるのであまりサボってはいられない。
それに、アイツとの関係が微妙なままっていうのも具合が悪いし早いところ何とかしないと。


敏明との関係を改善してどうするんだろう?
…どうするもこうするも友人を失うのは嫌だから関係改善は当然か。
先月も同じような事を考えてたけど今月は妙にやる気が出ないな。
前回は女だったとはいえエッチした気まずさをどうにかするという大仕事、対してして今回は
言い過ぎた事に対する謝罪だから、別に大きな仕事じゃない筈だけど。
やっぱりダルイしやる気も出ない。今日の俺はどうにかしてる。

気力とか、精力とか、大事なものが女体化と一緒に抜けていった。そんなような気がした。




5月目 新月の昼(敏明サイド)

女の時は暴走気味な清彦だが、あの後男に戻ってからはいつも通りだった。
そこそこの頻度でウチに来て、たまに俺の代わりに調理しつつ勉強を終えて帰る。
当然、真夜中にあんな事やこんな事なんてない。いつもと変わらず普通に友人をしている。
女清彦に対して感じていた緊張感から解放され、俺は穏やかな日々を送れ満足している。


ただ、清彦のヤツ妙にソワソワしてるように見える。
この落ち着きのなさが単にテスト前だからというのなら良いのだが…。
嫌な予感が次々と襲い掛かってくる。


嫌な予感と言えばもう一つあった。
女になった清彦にかなり惹かれている事だ。
美人でスタイルが良いから他の女と比べても気持ちがいいっていうのなら分かるがそれだけじゃ
ないとしたら、妙に惹かれて異様に気持ちがいいのに理由があったとしたら…どうなるんだ?
例えばツノっぽく見える頭の飾りが単に飾りじゃないとしたら…。
悪魔の尻尾や翼もないから気にしてなかったが、サキュバス?


男を魅了し、行為をすると生命力を奪われる悪魔。
外見的にも割りとそんな感じだし、あの晩の後の疲れも納得がいく。
この際、女性化現象には触れない。だからせめて危険な変身ではありませんように。
人のこの世に悪魔なんていちゃいけないんだ。



5月目 十日夜の月の夜

この1か月間、落ち着きを失う事が多かった。
女性化時の自分の暴走がさらに大きくなり、さらに敏明に好意を抱いた事に焦りを覚えたからだろう。
行為の方だったらもう何度かしたから、今更な気もするがそれでも暴走を感じずにはいられない。
その意味では試験があって助かった気もする。勉強に集中せざるを得ないから。

敏明との関係もはとりあえずは改善って感じか。
男に戻った事で、女時のモヤモヤ感を無かったことに出来て今に至る感じ。
アイツとは特にベタベタとか、必要以上に近づいたりはしないでたまに家に寄る。
以前と同じようにごく普通の友人関係だと言えばいいだろう。


そう、ごく普通の友人関係だ。
女の時は暴走気味に接近するがその熱が少し醒めたからだろう。
敏明を見る目もいくらか冷静になった。俺と敏明はあくまで友人だ、今くらいの関係が一番いい。
これ以上アイツがこれ以上接近する場合のリスクだってある。俺の暴走を避けるためにも程よく距離があった方が良い。

よく考えたら、今までの方がおかしいし危なかったんだ。
いくら気持ちがいいからと言って友人と××とか。挙句、好きになっちゃうとか。
醒めて良かったよ。ここは気まぐれな女心が幸いか。
これ以上暴走したらもうどうしようも出来ないから。いや、すでにやりすぎでどうしようもないか。



5月目 十日夜の月の???


「…よひこ君、清彦君」
眠りについた俺だったが、どこからか謎の声が聞こえてきた。


意識が一瞬飛び、場面が切り替わる。
いつの間にかベッドの上で眠っていたはずの俺は起き上がっていて目も開いていた。
「清彦君」
すぐ近くから声が聞こえた。

いつの間にやら、テーブル越しの向かいに謎の美女が現れた。
長い髪と白い肌、抜群のスタイルと全身から放たれる際限のない色香。
ついでに聞き覚え、言い覚えのあるフレーズでもある。



「何者だ!?」
「私の事はどうでもいいわ。ただアナタに少しだけ会って話をしてみたくてね」
「俺に?」
「ええ」

微笑む美女をじっと見るとぼやけていた頭も少しだけはっきりし彼女の異変に気がついた。
彼女の頭には女の時の俺と比べても大きいツノが生えていて、しかも尻尾と翼もある。
人と良く似ているが人ならざるそれ、はまさに悪魔(淫魔)だった。
彼女の美しさには俺も一瞬だけ心奪われ、下が反応してしまった。

でも、俺と話がしたい?
この美女っていうかサキュバスが?
敏明みたいな格好いい奴ならともかくわざわざ俺にちょっかいを出すものか?

謎のサキュバスに関して少し考えていると美女は微笑み、彼女の姿は次第に薄くなり、俺をすり抜け消えていった。
「自分の心に正直になりなさいな。アナタはアナタの思うがままに、それが私の望み」
彼女が消えた後にそう聞こえた。



彼女を見送ると、またしても意識が途切れ目を覚ますとそこはベッドの上だった。
という事はあれは夢だったという事か?しかし夢と呼ぶには意識ははっきりしてたし感覚が伴っていた。
じゃああれは夢ではなく現実なのか?
でも、意識やら場面が切り替わったり美女が突然現れたと思ったら急に消えるなど
全体的に夢っぽい要素が詰まってる気もする。うーんどっちだ?
強いて言えばあの後すぐにベッドから降りたのだから夢の方が正解っぽい。
やっぱ単に夢の中の出来事と片づけた方が良いのかな?


でも、あの悪魔風の美女というのは単に夢で片づけてはいけないような気もする。
どうも気になる。まるで今の自分の姿を見ているようで。
そう『今』の自分の姿を見ているようで。やっぱり気になる。
しかし、彼女がマジとしたら『思うがままに生きる』よう勧めるってどういう事だろう?
どう生きる事を望んでいる?そしてそれが彼女にとって何になる?
夢で片づけたいけれど、どうにも気になる事が多く簡単に片づけられない。忘れられない。どうも気になる。



あと、私よりも白い肌と大きな胸も少し気になる。ほんっっっっの少しだけだけど気になる。



5月目 十一日夜の夕方(敏明サイド)

俺の家にやってきた。んで、女になっていた。
基本、いつもと変わらない姿だけど頭のツノっぽい突起が前より大きいような気がする。
あと、体の後ろに黒い影?のようなものが2枚付いているような気もする。こっちもそんな気がするレベルだけど。
慣れた光景と言えばその通りだが、先月清彦とは微妙な関係になってしまっただけに不安もある。
男状態の清彦との関係は、とりあえず改善したようだがこっちの清彦となると少し不安だ。

だが、身構えたけれど特別な事が起こるわけではない。
勉強2割、ゲーム5割、雑談3割と割と日常的なだった。
特に険悪な感じになるでもなく、逆に迫られるようなこともなく。
安心したような、身構えて損したような…といったところだ。

ただ、気になるのは清彦が妙に落ち着いてない事だな。
妙にソワソワ、座ってても足の指が動きっぱなし。俺の顔をチラチラ見ている…ような気がする。
半月くらい前も落ち着きがなかったけど、その時よりも更に落ち着いていない。
ウチに来たのは単に暇つぶしじゃなくって俺に用事があるというのは何となくわかるが、
そんな俺の様子をうかがって何をしたいんだろうか?

それよりもう少し気になる事は清彦がどこか具合が悪そうなことだろう。
顔色がいつもと違う気がするし、こう…無理してるっていうか、感情を押し殺してるように見えるっていうか…。
何処か苦しそうに見えた。そのくせ表情はいつもより明るく楽しそうに見えるから余計に心配だ。
コイツって、普段はそうでもないけど頑固な時凄く頑固だからな…。
無茶な我慢のせいで痛い思いをしないといいけど…。



5月目 十二日夜の夕方


夢の中の彼女は言った。
『自分の心に正直になりなさいな。アナタはアナタの思うがままに、それが私の望み』と。
私の望みとは一体何なんだろうか?

女性化時は、中身も女らしくなっているからか見た目と、それ以上に中身の格好いい敏明に惹かれた。
でも、アイツにエロい女と思われてると聞いて醒めた。
そりゃ私がエロいしかなり強引に迫ったのが悪いのは分かるけど、でもやっぱり怒れるし醒める。


でも、醒めたというのに敏明の家に通う理由は何なんだろう?
昨日だって、今日だって、他の予定がないとは言え敢えてコイツの家に行く理由は無い筈なのに。
悪い雰囲気のまま時間が経つのが嫌だから?女の状態ではずっと会ってないし。
合ってる気はするけど、少し違う…っていうか足りない気がする。

快楽を求めてここに来た…っていう理由なら正解かも知れない。
敏明のモノが私の体でそそり立つという満足感、太くなったソレが入る事で得られる充実感、
激しく動くことで燃え上がり高揚するし、私の中で敏明がはじけたら達成感と幸福感で満たされる。
これまでの人生で一番嬉しかった事は何かと聞かれても答えられないが、一番気持ちが良かったなら
間違いなく敏明とのエッチと答える。それくらい気持ち良かったし満たされた。精子的な意味ではなく精神的に。


でも、アイツにエロ女と思われるのも嫌だし当面は敏明に迫るのをやめようと思う。


昨日も考えたが、私のしたい事は結局良く分からないままだ。
ただ、敏明の抱いている印象を少し変えてはみたい。迫ってくるエロ女から、迫りたくなる女みたいな感じで。
だから昨日だって、敏明の家に来たけど何もしないまま帰ったし、ちょっとエッチな気分になった時も
その様子を見せずにやりすごしたしね。きっと敏明はエロかった時の私との変化に驚いている筈。
この調子で目指せ!!脱エロ女!!

…と意気込んだはいいものの我慢は体に毒なのかな?
昨日から体が重いし、ちょっとだけ眩暈もする。
エッチぃ事を考えた後だと余計に体力が減っている。
エッチな感情を我慢すると体力も失うモノなのかな?いや、男の時はそんな事がないから違うか。
でも女性特有の現象っていうならあり得るのかな?


「おい!!清彦!!」
「えっ?どうかしたの敏明?」
「お前、顔色悪いし足取りも怪しいけど大丈夫か?」
「そっかな?長い時間座りすぎてて足取りが怪しいだけじゃない?」
「いや、昨日から調子悪そうだったぞ」

えっ嘘!?調子が悪いのって昨日から出てたの?
「ああ、しかも顔色も結構悪そうだ。だから今は暫くの間休んだ方が…」


ゆっくり休むか、いっそ敏明にでも甘えた方が良いような気もする。
でも、このまま敏明の前にいると我慢できずにやらかしてしまう。そんな気がした。
だから私は名残惜しいのを我慢して、敏明の家を後にした。
全力で走ったから、敏明には追い付かれなかったが家に着くころにはもうフラフラだった。



5月目 十二日夜の夜

悪かった調子はもっと悪くなり、家に着くころにはもう限界だった。
正直無事に帰れたのが不思議ってくらい足取りは危なかった。
ふらつく足取りを気力で動かし、玄関を突破した。
ベッドまでのほんの数メートルの距離に苦戦しつつ、どうにかベッド前まで到着した。
そのまま、倒れこむように…いやふらついて転びながらかな?とにかく危なげしかない足取りでベッドの上に寝転がった。


私どうしちゃったんだろ?
テスト勉強疲れが試験後にどっと出てきた?
単に風邪か何か?変な病気じゃないよね?
いっそ病は病でも恋の病とか?アハハ。
貧血かな?
いっそ貧精だったりして。アホか。
毎月性転換してたから体が悲鳴上げてるのかな?あるかも。
色々な内容が頭の中を巡っているが、まともな考えがない。


人間、死の直前とか死にかけた時に走馬燈が流れるっていうけどコレがそうなのかな?
昔の思い出がアホな考えに混ざって巡ってるよ。思い出には敏明がいっぱいだ♥
私って、昔から敏明と一緒にいたんだね…。
体を崩しがちだった小学校の高学年の時からずっと助けられてきた。
敏明とはもう少しだけ一緒にいたかったなぁ。私ってこのまま死んじゃうのかな?

思い残す事、死ぬ前にしときたい事って何かあったっけ?
縁起悪いけど死にそうだし、何か一つしておきたい事を考えたくなった。
生きる事への活力になるかもしれないし。
一つだけ、もし一つだけ出来たら私は何をしたい?



恋かな?





5月目 十二夜の月の???


「…よひこ君、清彦君」
「どこかで聞いたことのある声?」
眠りについたと思ったのだけれど、どこからか謎の声が聞こえてきた。
気がつけばフラフラでボロボロの体も多少は回復していたような気がする。
少なくとも普通に起き上がれるくらいには。
そして私の目の前には前にも見た美女の姿があった。


「また…一体何者なの?」
「さーて誰でしょうねー」
つかみどころのない笑顔で煙に巻く彼女。やはり怪しい。
っていうかそもそもその悪魔スタイルじゃ怪しいに決まってるか。

「でも怪しまれてるみたいだし少しだけね」
彼女は色仕掛けでもしたいのかウィンクしつつ続けた。
「見ての通りの悪魔♥淫魔とかサキュバスって呼び名もあるわね」
見ての通りノリの軽い彼女、しかし悪魔を自称しその自称と違わぬ姿。警戒せずにはいられない相手だ。


「そんなに怖い顔しないでよ、私たちってオ・ン・ナ・ジ、お仲間じゃないの?」
気がつけば私のお尻には太く長い尻尾、背中には立派な翼が生えていた。
重い筈のそれらだが特に負担は感じていなかった。
そう言えば、死にそうだったのに随分回復してる。
ひと眠りしたからなのか、それとも彼女が何かしたのか…どっちなんだろう。


「サキュバスの体を持て余し気味の清彦ちゃんに少しだけアドバイスをね♥」
このまま倒れられでもしたら私も困るし。とも付け加えた。
彼女が私に興味を持っている事は分かった。それが良い意味かどうかは分からないけれど。


「我慢は体に毒よ?乙女に必要なものはラブ&セクシャル♪足りなくないと命に係わるかもよ?」
「どんな死因名のソレ?」
ってラブ&セクシャルを我慢?最近聞き覚えが…っていうか身に覚えすらあるような。
「見たところアナタって、その我慢のし過ぎで倒れたみたいだし」
「うー言われてみるとそんな気が」
「なんなら私が少しだけ満たしてあげても良くってよ?」
そう言いながら、彼女はブラを外し胸を出しスカートも下ろそうと…
「あー。うん。別にいいです」
美人だけど、色っぽいけどそういう目では全く見れないのは今の私が女だからか。
彼女の裸を見るくらいなら敏明の方が100倍はいい。これって正常な反応?何か問題のある反応?
彼女の方はそんな私の反応を楽しんでいるようにも見える。


「まーそれはとうと、今のアナタに必要なのはラブ&セクシャルよ」
「その言い回し好きなの?…ッ!?」
私が言い終わる前に背景がブラくアウトし、周囲の景色が変わっていた。


「ここは学校?」
「ええ。アナタがいつも通ってるね」
「一瞬で移動したのは凄いけど、こんな所に移動して一体何の目的が」
「大学自体に用がないけど、ここだったらきっと…あっいたいた」

彼女が指をさした先には一人の男の姿があった。アレは同じクラスの吉田?
「うっ!!」
影の正体を認識すると心臓の鼓動が激しくなった。
胸が苦しい、それに頭痛もし出した。さっきまでのアレが再発した?


「男の人を無理に我慢すると体に悪いのよね。折角だし彼の精を頂いてみたら?」
「精を頂くってつまり…」
彼とエッチしろって事?
ちょっとは美味しそうには見えるけど吉田とするのはなぁ。
特別親しいってわけじゃないし、特に格好いいって訳でもない。性格も特別いいって記憶はない。
多少体つきが立派に見えるってくらいかな?
うん。美味しそうには見えるけど。


「情熱と衝動に身を任せなさいな。弱った体には男性よ♪」
彼女は私の体に触れたと思ったらその姿が消えていた。
弱っていた私の体に活力が戻り、激しい熱気も帯びていた。



「ねぇ?私とちょっと良い事しない?」
私の色気にあてられた彼は狂ったように私を貫いた。
ウフフ。体つきがいいだけあってなかなかいいじゃない?
寂しかった私の心とお腹と股間が満たされた。彼もなかなかいいのかな?



5月目 十三夜月の朝

目を覚まして迎えた朝は割と快適だった。昨日の夜は死にそうだったのに。
吉田の精液でいっぱいだったはずの股間にはないもない。濡れてすらいない。
シた痕跡すら残らないのは昨日のアレは夢だから?
でも夢と片づけるには質感が伴っている。


あの夢が現実だとしたら吉田に抱かれて、いっそこっちが抱いて?
…まぁとにかく男とのエッチで体力を回復させたって事になる。うわぁナニソレ?
因みにアレが単なる夢だとしたらエッチな夢を見て体力を回復させたとこっちの場合も何だか嫌だ。
私ってどれだけエッチな女なの?


そもそも好きでもない吉田を誘惑して3発くらいするとかエロ女以外の何物でもないね。
まぁ気持ちがいいは気持ちが良いんだけどさぁ。

・他の男ともしてみたい…かな?
・でも敏明とヤッた時ってもっと気持ち良かったなぁ

でも敏明とヤッた時ってもっと気持ち良かったなぁ
気持ちの良さで片づけていい問題かは分からないけど、でもシた後で得られた幸福度は絶対に別物だ。
ひょっとするとアレが夢の世界(仮)の出来事だから物足りないという可能性もあるけど…。
でもやっぱり相手が敏明だからが理由だと思う。その違いは魅力の差か、いっそ愛情の差…とか?


…後者であってほしいなぁ。



5月目 十三夜月の夕方

3日続けて彼の家に行くとか私はかなりの物好きらしい。オトコのモノが好きではあるけれど。

朝の目覚めは良かったけれど、昼を過ぎたあたりからまた体調が悪くなってきた。
疲れきった体でも敏明の家に行こうと思うあたり、私は暴走気味なんだろう。
彼の顔を見ると多少の消耗なら忘れそうだし。
あとは、夢の世界(現実の可能性有り)の女性の台詞も気になるところだ。
もし彼女の言う通りなら男性成分を摂取できればこの苦しみ、眩暈やダルさは治まるのだろうか?

夢か現実か不確かとは言え、夢らしきものの内容に頼る私はどうかしてる。
何者かに操られてるオチってあるのかな?



「…よう清彦。体の具合はもう大丈夫なのか?」
「うん。昨日に比べたら大分」
「大丈夫ならいいけど無理するなよ?キツイなら家で休んでろよ?」
「休日に一人っきりで家に閉じこもるっていうのも何だかね」
流石に敏明の顔を見た方が治りが良さそうだと思ったとは言えない。
ホント今月の私は暴走しすぎだ。まんま恋する乙女だよ。
あの時エロ女扱いされたことは未だに腹が立つけど。
でも、昨日死にかけた時に最後に考えたのは敏明の事だからね。
教えてはあげないけど、あの時の気持ちは絶対に忘れないよ。


目標は告白、最低でもエッチなイベントの一つは起こす事だ。

認めたくないし、認めるのは結構悔しいけど私は女として敏明が好きになった。
惚れちゃったからこそ、敏明にエロイ奴扱いされたことに腹が立ってしまった。
心が女になってるのかとか、女としての恋心を体験したことはないとか細かい(細かくはない)点で
ツッコミポイントもあるけど。でもきっと女としての恋心だと思う。
だから友人としてではなく少なくとも今の姿の間だけは異性として近づきたい。好かれたい。


ただ、私は女としてだけではなく男としてもまともな恋愛経験がない訳でこの先どうしたらいいのかも良く分からない。
正直、ドキドキのせいで重要任務どころか友人として振る舞う事すら怪しいってレベルだ。
最悪告白できないでも、エッチで敏明成分の補給くらいはしておきたい。
今の私に精液が必要と言われたのが夢か現実化は分からないが、体は確実にオトコを求めている。
ただ、必要な事が言えない。

前は何げなく言えていた『据え膳食わぬは男の恥たゾ♥』『敏明以上にエッチモードになっちゃったの』
なんてとてもじゃないけど言えない。当然、昨日の夢で吉田に言った『ねぇ?私とちょっと良い事しない?』
だなんて絶対に言えっこないよ。
すごく真剣な眼差しをした敏明を見ちゃうと余計にエッチな言葉は言えない。
ところで、彼の顔がいつもより凛々しくも物悲しく見えるのは乙女フィルターのせい?


言いたい事が言えず、私は焦りを憶えている。
必要な時に一歩進む事が出来ないのは私が清彦の時からの短所だろう。いや、今も清彦ではあるんだけど。
同性だけど異性と接するのが苦手だから少々混乱気味って事だよね?何かおかしい。
昔からまともに男の子に恋したことがないせいで…ってそれもどこか変だ。昔は男なのに。
いや、今は一人の女として、ベースは男だけど…やばい、頭が混乱してきた。
えーっと今一番必要なのは男性の精で、いや、ラブ&セクシャルだっけ?
とにかく敏明に協力して貰う事が必須なんだよね。
最低でもエッチなイベントの一つは欲しい。出来れば恋愛的な関係もあれば安全…。
ってこれは昨日のリアルな夢の話だ。

恋愛ごとになるとテンパる悪癖のせいか、それとも体力が減ったせいで判断力が鈍るのか考えが迷走気味だ。
謎の美女の言うように男性の精が足りなくて力が出ないんだろうか?
一刻も早く敏明に抱かれないと冗談抜きで命に関わる可能性がある。

だっから早くアクションを起こさないといけないわけだけど、じゃあどんな行動するのって話になる。
前みたいにエロイこと考えてる女って思われると彼女にして貰えなくなりそうだし。
いや、昨日の夢の中みたく色気で誘惑すれば向こうから抱いてくれるんだよ。

……
………
…………

うぅー。敏明の妙に真剣に見える熱視線を見ると変な事が出来ないよー。




意中の相手と話すのって大変なのに誘惑して抱かせるとか難易度高すぎだよ。
2ヵ月前の私は一体何をどうやって敏明に抱いて貰ったんだっけ?
いや、抱いて貰ったのか自分が襲い掛かったのかどっちだっけ?
大きなイベントだから忘れる筈がないけど頭が働かないせいで思い出せない。
このまま敏明の精が貰えず、精欠乏でどうにかなるとかなったらどうしよう?

このまま告白できずにいると衰弱死…とか?そこまでいかなくとも倒れて入院とか…。
入院してこの特異な体が周囲に知れたらどうなっちゃうんだろ?私…お終い?
手持ちが全滅して目の前が真っ暗になる主人公の気分を味わった。瞼が重い。


「なぁ清彦」
「はっはひ!?」
「もし、もしもだ」
敏明の呼びかけで私は重い瞼を開く。彼の顔はやっぱり真剣で重いものに見えた。
単に先ほどまでの真顔が私の好みを反映した乙女フィルターじゃないことがようやく分かった。
私が迷っている間中、きっと彼も何か悩んでくれていたのだろう。


「もしも今のお前が苦しくて、もしその苦しみを和らげられるのが俺だと思うのなら俺を好きに使ってくれ」
イケメンは顔だけに由来しなかった。私の王子様が目の前にいた。



5月目 十三夜月の夕方(敏明サイド)

何をどうしたらいいのか、進むべき道が分からない場面はどうしても苦手だ。
ただ、そういう時は真っすぐ進むのがいい場合が多いような気がする。

一昨日の清彦は調子が悪そうだった。
時々アイツがやらかす、本当はキツイけど無理して元気そうに振舞う。その時と同じような雰囲気だった。
アイツの具合が心配になった。ただ確信が持てなかったので結局は何もしなかった。

昨日の清彦はもっと具合が悪そうだった。
無理して元気そうに振舞ってるんだけど、全然空元気になってない。それくらいヒドイ。
アイツに何かしてやりたかったけれど、してやれる事が思いつかず結局は何もしなかった。
本当は一つだけ思い当たることがあったのだが、フラフラの清彦に言うべきこととは
思わなかったので何も言わずにそのまま帰したってところか。
普通、『突然女になった親友が具合悪そうだったので体力回復のためにエッチしました』
なんて展開は無いからな。前半部分も十分おかしいが後半部分はもっと狂ってる。
それでも、確証はないんだが俺が清彦とすればコイツの苦しみが和らぐ。そんな気はしていた。

だが
エロイことで体力が回復するのなんて、夢魔や淫魔くらいなものだろう。
俺の直感が仮に当たったとすれば、それはそれでマズい。



ずいぶん昔、夢魔の都市伝説が俺の地元で流行っていた時に不審死が相次いだ。
いや、不審死が複数確認されたからこそ、できてしまった都市伝説が夢魔の噂だったか。
とにかく夢魔だの悪魔だのいったものだけは危ない。もし現実にあるのなら排除せねばならない。


前に清彦を抱いた…清彦に襲われたの方が正解か?
その後で起こった全身の体力を奪われるような感覚は不思議と夢魔を思い浮かべてしまう。
夢魔に襲われて体力を奪われる光景を。経験があるわけではない筈なのに何故だか。


その恐怖と迷いのせいで酷く苦しむ清彦に対して何もしてやれなかった。
ああっ!!まだ日が明るいっていうのに嫌な事ばっか思い出す!!
冷静さと緻密さが俺の長所ではあるが、愚直なくらい一本鎗も俺っぽい。
清彦が困ってたり苦しんでたりしたらまず、力を貸すことを考えるんだ。

不発なら不発で良い。夢魔やら悪魔やらそんなファンタジーは後で考えればいいんだ。
読みが外れて俺がエロい奴扱いされたらされたで丁度いい。俺もエロイ奴扱いれればあの時のもチャラだ。
正解なら正解でなおの事、手を差し伸べてやらないといけない。
アイツ一人が苦しむくらいなら一緒になって苦しんだ方がマシってもんだ。


覚悟や決意なんて御大層なものではないが、俺の腹積もりは決まった。
土壇場になると決心が揺らぐかもしれないが、それでも固い決意をしないとな。
清彦の到着は俺の心がだいたい決まった後だったのは良い事だと思う。お互いにとって。


「…よう清彦。体の具合はもう大丈夫なのか?」
「うん。昨日に比べたら大分」
「大丈夫ならいいけど無理するなよ?キツイなら家で休んでろよ?」
「休日に一人っきりで家に閉じこもるっていうのも何だかね」
心配していたのよりかは幾らか調子が良いようで、取り敢えずは一安心だ。
出来ればすべてが俺の勘違いで、今日も何もする事なく終わるのが一番良い。
だが、そうでなければ俺も体を張るしかないだろう。気合い入れないとな。


赤い顔、少し荒い呼吸、呼びかけた時の反応の鈍さを確認した。
あと、女清彦はいつも口数が多いが今日に限ってはそうでない事。下手をすれば男清彦よりも少ないくらいだし。
普通の状態とは違うと考えた方が良さそうだ。マズいな。
そして、表情が暗くなり寒そうに震え出した。瞼が重そうにも見える。
もう何もしない…なんて出来っこないよな?


「なぁ清彦」
「はっはひ!?」
「もし、もしもだ」
清彦は重そうな瞼を開きこちらを見た。悪かったケースを考えつつも俺は覚悟を決めた。

「もしも今のお前が苦しくて、もしその苦しみを和らげられるのが俺だと思うのなら俺を好きに使ってくれ」



5月目 十三夜月の夜

「今の言葉の意味もう少し詳しく教えてくれない?もし私の勘違いで変な事をしたら大変だし」
「ややこしい言い回しは避けたはずなんだがな」
敏明は少し渋い顔をしつつ、小声で台詞を反証し考えをまとめているようだ。
まさか私の舞い上がり勘違いって事は無いよね?
自分の身を顧みない王子様は所詮存在しないとかなったら泣くよ?最悪ショック死だよ?
敏明は口を開いた。私は判決を言い渡させる囚人の気分だ。


「言葉通りの意味だったんだけどな。お前が苦しんでいそうに見えたから居ても立っても居られない。
んで、もしお前が苦しんでいたのなら俺がその苦しみをどうにかしてやりたいと思った…だ」
嫌な予感しかしない。とはよく言うがいい予感しかしない。なんて言い回しを使う場面が存在するなんて。
出来る事なら今すぐ敏明に飛びつきたいところだが、飛び掛かるほど元気はないし
念のためもう少し敏明の話を聞いてみたい。もう少し説明を求めた。


「ぬー。端的に言えば目的がお前を元気にすることで…もし勘違いしても怒るなよ?」
「あれだけ言ってくれた敏明を怒る事なんてないじゃない」
「目的がお前を元気づける事で、その手段が…セックスだ」
「えっ!?」
「ゴメンゴメン。やっぱ違うよな、俺の勘違いだ。今の忘れてくれ」
「えっと…」
「悪かった俺がどうかしてた」
「私も同じこと考えてたんだけど」

「えっ!?」
「何驚いてるの?敏明だって同じものを予想してたじゃない?」
「まぁそうなんだけどな。だがそんな事で回復するって話なんて信じられるかって話だよ。
少なくとも俺はそんな話を聞いた事は無い」
「うん。私も聞いた事は無いんだけどね。っていうか敏明は良く分かったね」
私は自分の事だからエッチの後で体力が回復してるのもなんとなく分かる。
それにあの夢の事もある。だからエッチと回復を結び付けられるんだけど。敏明は良く分かったよ。


「分かったって言っても確証は持てなかったけどな。お前の様子を見てたら何となくってところか」
「なんかスッキリしない説明だね。やっぱり説明しにくいかな?私もどうも言葉にしにくいし」
「そりゃあ前提条件からして無茶な話だからな」
「折角だし少し行ってみたい台詞があるんだけどいいかな?」
「ん?ああ」
「不束者ですが一晩の間よろしくお願いします」
「うっ…いきなり三つ指つかれてそれ言われると困る…ってか今晩泊りなんだ」
「お楽しみは取っておきたくてね」
「そういやお前はそういう奴だったな」
「あと、長丁場になりそうだから一度仕切り直したいのと…それから」
「まだ何かあるのか?」
「さっきの敏明にキュンキュンしちゃってね。胸が一杯になったからなのか苦しいのがどっかいっちゃった」
「ホント、どんな体だよ」


「それじゃあ敏明…さん。不束者ですが今晩はよろしくお願いします」
「いえ、俺の方こそ」
「あっ…その前にちょっとお風呂かシャワーに、あと夕食も済ませなきゃ」
「グダグダだな。だがその方が俺達っぽいかもな」
「かもね。でも調子整えないと途中で力尽きちゃうかもしれないし」
「体力は消耗しそうだしな」
「敏明が燃え尽きるまで私止まりそうにないものね」

お風呂に入って料理を作って、ごく当たり前の行動だ。
昨日まではあんなに億劫だったのに今日はこんなにも楽しい。
やっぱりすぐそばに敏明がいるからかな?まだ何もしてない筈だけど体がこんなにも軽い。
エッチで回復すると思ってたけど、すぐそばに敏明がいるだけでも回復だなんてね。
恋する乙女と化した私は気持ち一つで大きく変わるのだろう。
まぁこの後のお楽しみを中止にする気は全くないんだけどね。

「もう少しでできるからね敏明♥」
食事を終えたら、メインディッシュが待ってるからね。
十分に精をつけて、その後で私も堪能してね♥
食事を作っている途中なのにもう次の食事を頂く事しか考えられなくなりそうだ。
第2ラウンドの食事って私が食べる方と食べられる方のどっちになるんだろう?



5月目 十三夜月の深夜

今にも鼻歌を歌いだしてしまいそうな気分だ。
敏明のベッドの上に座りながら、私は来るべき時を待っている。
行為自体はこれで3回目になるのかな?先々月と先月で各1回ずつ。
その2回と比べてこんなにも心が躍るのはきっと敏明の方から来てくれたからだろう。

「嬉しそうだな清彦」
「人生最良の日だったりしてね」
「大げさだな」
「でもそれくらい嬉しかったんだよ?」
「ハハハ、まぁ喜んでくれれば俺としても嬉しいか」
そう笑う敏明、は少し元気がなさそうだ。
これからする事がやっぱりイヤ?
体力を奪われる恐れがある事もそうだし、私が相手だと困るって可能性もあるし…
見た目自体が良くても、友人の清彦だと嫌だと思われても不思議じゃない。


「ねぇ敏明?無理してない」
「無理してるのはお前の方じゃないのか?」
「えっ?」
「苦しいんだったらまず自分の心配…だ。自分の苦しみが和らぐ事をまず考える。俺の方は多少余裕があるから、二の次でいい」
さっきまで少し元気がなさそうに見えた敏明は、力強く凛々しかった。
ちょっと怖そうにも見えるけど、格好良く見えるからいいよね?
私の回答は決まっていた。


「それじゃあ敏明…さん。不束者ですが今晩はよろしくお願いします」
「いえ、俺の方こそ」
「あっ…その前にちょっとベッドメイキングと一応床に布団を敷いておこう」
「グダグダだな。だがその方が俺達っぽいかもな」
「かもね。でも寝床を整えないと気になっちゃうかもしれないし」
「さっきも似たようなやり取りしてたよな」
「それも私達っぽいかもね」


準備を整え、私はベッドの上に横たわった。
「あっ…やっぱり自分から横になるんじゃなくって押し倒される方式の方が良いかな?」
「どっちでもいいと思う。ってか今まで気にしてなかったろ?そんなの」
「今まではこう…本能の赴くがままに襲い掛かってたからね。敏明の方からして貰うと勝手がわからなくてね」
「お前もキツイんだろうが、俺もある意味キツイ」
そう言いながら敏明は自分の股間を指さした。そこには立派なテントが張ってあった。


「あら♪嬉しい反応じゃない」
「そこは喜ぶ反応なのか?」
「普通喜ぶ反応じゃないの?」
「俺の経験上、割と嫌な顔されると思うけど?」
「こんな嬉しい事されて怒るとか、世の女は馬鹿か我が侭ばっか」
「まぁそんなわけで、お前の色気はなかなか強烈なんだ。おあずけがツラいのは俺の方かも知れん」
「更に燃えてきちゃった」


私を押し倒し、私の上にのし掛かり敏明は邪魔な衣服を脱いだ。
彼の脈打つモノは早く挿れたいと訴え、私は全身で早く挿れてと訴える。
でも、服を脱がして貰う感覚も捨てがたいから今はもう少しだけ我慢しよう。
ペースが遅くてもどかしいけれど、彼が私の下着姿とその下のものに反応し大きくする姿も
だんだんと呼吸を荒くする様子も絶品のスパイスとして機能している。
「敏明ぃ♥きて♥」


十分に膨れ上がったジュニアクラス敏明はひょっとするとシニアを超えて、ヘビー級に到達したのかも知れない。
敏明のは(比較対象が男の時の私だったって可能性もあるけど)元から立派だったが今のはまた一段と逞しい。
先っぽからヨダレを垂らす敏明と、下のお口がヨダレまみれの私と重なり合い入っていった。
「あっ痛ッ」
処女は先々月に捧げた筈なのに…どうして?
変身の度に再生するものなの?それとも普通に再生するものなの?
まぁいいや、痛い処女喪失も相手が敏明ならむしろ幸せの証!!もっと来て!!

「大丈夫か?」
「気遣ってくれるのは嬉しいけど、もっと激しく!!」
こちらの様子を窺うように、動きが優しく緩やかな敏明、それはそれで良いんだけど今はもっと欲しい。


私が急かし、敏明の上下運動は速さと激しさを増した。
挿入される度に、お腹の奥深くにまで入ってくるような感覚があった。
アソコに入ってくるのは敏明のシンボルちゃんだけど、一緒に入ってくる幸せはお腹に集まってたりしてね♥
しきりに私の体を気遣う敏明、そのせいで股間からやってくる快感はしばしば止まったがお腹に
入ってくる不思議な感じは止まることなく続いていった。良く分からないが困る事ではないからいっか。


敏明のがはちきれんばかりに詰まった股間(実際はこの程度じゃ切れないけど赤ちゃんの頭まで大丈夫だし)
は満腹っていうか満股?で単なる気持ちの良さ以上に満たされてるって事実に感動した。
気持ちの問題なんだろうけど、お腹もいっぱいだ。本当に幸せ。


私が満足していると、敏明の口数が少なくなり動きが激しくなった。きっとそろそろだろう。
この素晴らしい時間がそろそろ終わるのは残念だけど、彼の射精の瞬間も味わいたいからね。
何なら射精した後も味わいたいくらいだし♪ペロリ。
「あんっ」
敏明ペニスは激しく脈打ち大変に美味しい精液を放出した。
美味しい。不思議なくらい美味しい。
下のお口には舌も未来もない筈だけど、味を感じる。(気がする)
精液を指で掬い、もう一方の口に入れる。苦しょっぱいけどこちらも美味しい。
ただ、下のお口で感じる美味しさには届かなかった。


「もっとぉ…もっと頂戴♥」
私の口が勝手におねだりをする。でも納得もした。
それほどまでに敏明のペニスも精液も美味しかったのだ。
さっきまで100点満点の幸せを感じて、満足をしていた筈なのにもっと欲しくなる美味しさ。
「ねぇ…敏明ぃ♥」
自分の声だけど自分の声とは思えない色香を感じながら私の口はおねだりを再開した。

放心状態でバテ気味だった敏明も私のおねだりに応じ、目と股間に力が戻っていた。
仕事を終えて縮んでいた筈のペニスはピクピクと動いたかと思うとまた膨張した。
第2ラウンドが始まってくれたようだ。
疲れ気味の敏明の顔を見て、無理をしないで欲しいと思いつつも何ラウンドでもして欲しいと思ってしまった。
そして、私の口から出てきた言葉はというと、

・「苦しいんだったらまず自分の心配…よ?」
・「反応してくれるのは嬉しいけど、自分のペースでね」
・「もっとぉ…もっと頂戴♥」


「もっとぉ…もっと頂戴♥」
私は欲望に弱いようだった。


敏明には地力っていうかチン力に恵まれているのか、それとも私のおねだりが上手だったのか
合計で3ラウンドこなし、それからもう少しだけ続いた。
お腹いっぱい胸いっぱい、幸せはもっといっぱい。



5月目 小望月の朝

目を覚まし、すっきりした気分を味わう。
こんなに気持ちのいい目覚めって、一体いつ以来だっけ?

違和感を感じ周囲を見回し、敏明の家でお泊りをした事を思い出した。
でもベッドの上には私しかいない。敏明はどこにいるんだろう。
…良かった下にいたんだ。私をベッドの上で寝かせて自分が床で寝るのは何とも彼らしい。
寝る前に力尽きてたのは敏明の方で、私の方は結構元気だっていうのに自分が床だなんて。

敏明はグッスリのようなグッタリのような、よく眠っているけれど少し弱々しい気もする。
彼の顔を見ると、おはようのキスとかお目覚めのフェラとかをしたい気もするがここは我慢ね。
起こすかもしれないけど、ベッドで寝かせてあげようかな?
敏明には体力とか精とかつけて欲しいし、しっかり休んで貰わないとね。

「よいしょ」
もっと重いと思った…っていうかこの体だと腕も細いし力がないかと思っていたけど案外強いね。
よほど疲れていたのか、敏明は持ち上げたくらいじゃ全く反応しなかった。
こんなに疲れるなんて昨日の晩ナニをしたんでしょうね?ナニを?
なんてね。

さて、いつ起きるか分からないけど朝ごはん作ってあげようかな?



5月目 小望月の昼(敏明サイド)

目を覚ましたがまぶたが重く寝ざめは良くない。
先月以来だな、ここまで重い目覚めは。動ける気がするだけ一応前より多少はマシか。
そういや、床で寝てた筈だけどベッドにいるな。清彦がやってくれたのかな?
あっ清彦はまだ家にいたみたいだ。

「おはよう…うーん、でもおはよう敏明」
「おはよう…もう昼間なのか?」
「もうすぐ午後になっちゃうよ」
清彦が言い終わる頃に正午の鐘が鳴った。

「簡単だけど朝ごはん作ってたんだ」
「ああ。悪いな」
「温め直すね」
「ところでお前の方は大丈夫か?」
「大丈夫って何が?」
「ならいいんだ。昨日一昨日と具合が悪かったのがどうなったかなって思っただけさ」
「それならもうバッチリだよ、ゆうべはお楽しみだった時とか元気だったでしょ?」
「そうだな、そうだったよな。お前の具合が良いのなら俺も頑張った甲斐があるよ」

体はかなり疲れていたが、満足そうな清彦を見てホッとし俺自身も少し満足した。
コイツは回復し、キツイと言えばキツイが俺も無事でいる。
それで良い事にしよう。無論、ややこしい事態がなければ更に良いんだが。



5月目 小望月の昼

「ところで敏明は今日の予定って決まってる?」
「いや、何も。そういうお前はどうなんだ?」
「敏明とどこかへ出かけてみたいかな」
「正直疲れてるから外出したくはないんだがな。お前一人じゃダメなのか?」
「出かけたいっていうよりかは敏明と一緒に出掛けたい…かな?」
「マジかよ。俺必須かよ、お前みたいなこと一緒にいたら噂になって大変じゃないか」
「それは分かってるんだけどね」
「もう昼、疲れた俺、噂が立つリスク、それでも一緒に行きたい理由は?」

・しょうがないから諦めるよ
・この姿でいるうちに女の子のデートを体験してみたくて

「この姿でいるうちに女の子のデートを体験してみたくて」
などと、正直に話しては見たけど流石に勝手すぎるかな?

「しゃあないな。でも、俺の体力がそんなにないからあんま遠い所へは行けないぞ?」
「えっ!?いいの?」
「自分で誘っておいて何を言ってるんだ?」
「えっ、乗り気じゃなさそうだったからダメだと思ってた」
「まぁ今、この状態のお前と一緒にいられる時間は長くないかも知れないんだ。だから付き合ってやろうって思っただけだ」
「?…随分と大袈裟じゃない」
「大袈裟かもな、だが人生は一期一会だ。お前との時間を大事にしたいと思っただけだ」
「敏明って天然のタラシだね」



敏明とデートに行こうという事になったけれど、時間もお金もあまりないという事で
駅前ショッピングモールで買い物をしようという事で落ち着いた。
落ち着いたというより私が近場だったら服とか下着とか買いたいって言ったからこうなったんだけどね。


「敏明ーどっちが似合うと思う?」
「じゃあ俺から見て右の方で」
「オッケーじゃあ清楚で大人しい下着と、大人っぽくてセクシー系とスケスケエロエロならどれがいい?」
「その三択か、極端すぎてわからん」

敏明好みの服や下着がどんなのかは少し気になってたし来て良かった。
ただ敏明の方は相変わらずぐったりしている。やや悪化気味かな?
下着コーナーの中に入るのは抵抗があるという事で入り口付近のベンチで座って選んだ下着を見て貰っている。
やっぱり男の人は下着売り場の中に入るのって抵抗あるよね。私も元は男だけどさ。
疲れ気味の敏明も、座って私が選んだ下着に意見を出すくらいなら出来るらしい。
…ってわけで敏明好みの一式を用意しようか。

実は新しい服や下着を買うために短期バイトでちょくちょく稼いでいたからね。
無理をしなければ色々と買えるんだよね。


「ふぅ。今日はありがとね」
「まぁ別にだ。付き合うって言ったし」
口調は割とツンツンしてるけど、基本いつも優しいのが敏明だ。天然のツンデレかな。
ランジェリーショップの内部には入らなかったけれど、私の長い買い物に文句も言わず
聞いた質問には結構まじめに答えてくれて、ホント良く付き合ってくれたと思うよ。
残念なところは敏明の好みの傾向がいまいちわからなかった事か。
清楚系とセクシー系のどっちが好みかも結局は良く分からなかったし。


「さて、まだ多少手持ちに余裕があるし次は敏明が活きたいトコ行こ?」
「俺が行きたいところねー?思いつかないな」
「ない?でも折角外出したんだしどこか行った方がお得だよ」
「そうだな、強いて言えばカフェでおやつとかか?休みたいし」
「いいかもね。付き合ってくれたお礼に大概のものならご馳走できるよ?」
「いや、俺が出すよ。女に奢られてるって感じがどうも駄目だ」
「意外と面倒くさいね。通常状態の私なら普通に奢られてたのに」
「そうかも知れないが、やっぱり女状態だと同じ勝手では行動できないんだ」
「じゃあ、カフェでは出して貰おうかな?この姿になって、プランから会計まで全部男性リードってデートに少し憧れてたりするし」
「カフェ代くらい任せとけ」
「で、デートのお礼はベッドの中までするってシチュにね♥」
「それは困るな。俺の体がもたん」



5月目 小望月の夜

敏明がお疲れのようなので、カフェではさほど長居をせずそのあと晩の食材だけ買って帰ってきた。

「デートのお礼は無難に晩御飯を私が作るとかでいい?」
「そうだな。毎回の事だがお前が作ってくれた方が上手いの出来るし」
「敏明はお疲れのようだし出来上がるまで休んでて」
「へーへー。せいぜい時が来るまで精をつけておくさ」
「あらエッチ♥」
「お前が言うか…なんて言うと気分を悪くするか?」
「敏明が言うなら許す」
「そらどうも」

その後の調理と食事は割といつも通りかな?
女になってると敏明の晩御飯をよく作ってるからこの光景がいつもの感じかも。
デートっていうほどかは分からないけど、今日みたく敏明に付き合ってもらうのもいいけれど
私の方が敏明のお世話をするって構図も捨てがたい。二人で同じベッドの中に入るのはもっと良い。
さて、食事を終えてのお風呂だけど私が先に入ってお風呂上がりの敏明をベッドの上に誘うか
敏明に先入って貰って、お風呂上がりの私を楽しんで貰うか…どっちも捨てがたい。
うーん、どうしようかな?



「で迷った結果、一緒に入浴ってワケか」
「ダメかな?」
「ダメとは言わないが若い男女が同じ風呂っていうのも…」
「言うのも…?」
「してやったりな顔はヤメてくれ、まぁ今更だよな」
「うん!!今更!!」
「いい返事が何か嫌だ」

お互いにベッドの中での裸のお付き合いというのは何度かあるけど、お風呂の中での裸のお付き合いって
いうのはまだした事なかったからね。せっかくの機会だしちょうどいいよね。

「そう、凝視されると困るんだが…?」
「今は異性の裸だし気にはなるよ。そういう敏明はどうなのさ?さっきからどっか向いてて」
「気にならない!!とは言えないのが哀しいよな」
「気になるのなら見ればいいのに?少なくとも私は敏明なら見られて困る事は無いよ?」
私が誘っても、敏明はこっちを見ず。
やっぱり異性になった友人との関係ってやつに苦労してるのかな?
私の方はGOGO!!Welmomeなんだけど、敏明は真面目すぎるのかな。

「じゃあ向こう向いてていいから背中流すね?」
「悪いからいい!!」
「私がしてみたい!!」
「好きにしろ」
強引な私に少しムッとしたのか機嫌の悪そうな返事をし、そっぽ向いてしまった。



「肝心なのはその先だよ?そこまで魅力的と思ってるのに乗り気でないのはどうして?私が男だから?」
言い出したら止まらないのか、怖くて聞けないような部分もどんどん聞いてしまう。

「男の色気は女の為にあって、女の色気は男の為にある。だから敏明には私の体を十分に楽しんで欲しいんだよ。
女の姿になってもうかなり長い、この姿でいるとのはもう心の中まで女になりきってると思う。だから敏明を
全身で感じたいし、逆に私の体を見て貰うのもかなり幸せ。体は近づいてても肝心なものは決して近づき過ぎ
ないのはやっぱり私が清彦だから?元が男だから?」
後半部分は半ばヤケになってて、言い終わる頃には少し泣けてきた。
仕方ないとは言え、私と敏明とで熱に差があるようで。
私が敏明に恋愛感情を抱いているのはもう確実で、大して彼は大事にはしてくれてるけどあくまで友人扱いだ。
言葉にすると余計に泣いちゃいそうだよ。


「結論だけ言うと、お前にハマるのが怖くて距離を置いている…だ」
「えっ?」
「前にも言ったと思うが、お前は自分の魅力を自覚しろって。お前に迫られて平静でいたら男じゃないだろ。
もちろん、男…友人の清彦だから抵抗があるってのもある。でも理由になりうるのはお前にハマるのが怖い
ってことだけだ、一歩間違えるとイケる所までイってどうかなりそうで怖いから距離を置いている…だ」


彼の答えは私の予想していたものと大きく違っていた。
脈アリ…どころかゴールインも射程圏内って考えるべき?
まぁ褒めた内容が体や色気に関する事ばっかりな気がするのが気になるけど。

「それに、遠慮ない女は嫌いだがお前の押しかけ女房は意外と楽しかった」
「押しかけ女房って…そんな事言われると恥ずかしい」
「照れる基準おかしくないか?」
「私って、エッチな行為には強いけど恋人っぽい行動とかには弱いのかも」
「そうかもな」
敏明は私をなだめつつ続ける。


「何より、俺はお前に泣かれるのが困るし嫌なんだ。これはお前を受け入れる理由にもなり恋人関係を
避ける理由にもなるけどな。まぁ性別に関係なく清彦の事は好きだし、男には恋愛感情は抱けないが」
「つまり私が頑張ればチャンスはあるわけだね?」
「そう…なっちまうのか?」
「そこイヤそうに言う~?せっかく敏明にキュンしたのに、私のときめきはどうすればいいの?」
「だからお前にハマってお互いにどうかなって取り返しがつかないことになるのが怖いんだって」
「つまり、ハマってどうにかなる?その問題をどうにかすれば敏明の彼女の彼女名乗っても良いんだね?」
「そうなる…のか?」
「ハッキリしないよ?」
「考えた事ないから分からない。…が俺の為に頑張った人間は無下に扱えない」
「私の目標が決まったね」
「ただ、女の状態であるって条件も忘れずにな?」
「それもあったか…」


課題はまだまだ多いけれど、私のゴールが見えてきた。
コレが男に戻るとどうなるのか?暴走せずにちゃんとお付き合いが出来るのか?など不安はまだある。
でも、目的地とそこへの道が見えてきたのは大きい。頑張ろうっと。

「じゃあお背中流しますね?」
「結局やるんだ」
「当たり前でしょ?」
「で手で直接洗うのか?」
「お望みなら胸で洗うけど普通に手で洗った方が良いよね?」
「出来ればスポンジで…いや、手でいいや」

暫く真面目な話が続いたからか、お互いにある種の熱は大分収まったようだ。私の方はまだ熱っぽいけど。



お風呂から上がり、二人揃ってベッドの中へ。
「で、案の定同じベッドなのか?」
「昨日もそうだったじゃない?お風呂で下のお口をあんなに立派に興奮しておいて少し冷たい」
「男の下半身は下の口っていうのか?」
「興奮して立派になってたのは否定しないんだね?」
「ハメたな…否定できないのは本当だが…」
「それじゃあ今晩も良い?」
「俺達が深みにはまらないように自重するんじゃないのか?」
「分かってるって、敏明との仲がかかっている以上私も無茶はしないって」
「もう…どうにでもなれだ」
半ばヤケクソ気味だが私と敏明の延長試合が始まった。

「流石に昨日の今日だし、一ラウンドが限界だ」
今日の敏明は思いの外早くバテてしまった。
いつものように、第二第三と続きが欲しいところだけれど、暴走しない深みにはまらないを
約束したので、今日のところは初回だけで留めておく。元気がない敏明だとやりたい気持ちが半減しちゃうし。

「続きがしたいけど、敏明も疲れてるし我慢する。デートも含め今日は十分楽しめたし」
「成長したな…清…彦。少し嬉し…い」
言葉が途切れ途切れで、息を切らしつつハァハァしている敏明がちょっと可愛そう。(私のせいだろうけど)


「敏明、相当お疲れだ」
「お前の…方は…むしろ…前よ…り元気そう…だな」
大して私の方は元気である。体力を消耗しそうな行為をしたのに。
前から気にはなっていた。どうしてエッチをすると私が回復するのか?
ただ、疑問に思う時は大概、私の方もピンチで気にする余裕がほぼなかった。
毎回、エッチのたびに疲れっている敏明と元気になっている私。
まるで彼が私に体力を奪われたかのような結果じゃないか。体力を私に奪われたかのようじゃないか。

「敏明…ひょっとして…?」
「どうした?今度はお前の方もエッチ疲れか?」
少し嬉しそうに聞く敏明に逆に聞いてみた。

「敏明?私とエッチして体力を奪われるような感覚って今までで無かった?」
彼の周りの空気が凍ったような気がした。






「俺の主観…で良ければ答える」
彼の声は冷たさを感じるくらい硬く、聞いていた私も怖かった。
「そんな感覚があったかと言われればあった…だ。割と最初から」
眩暈がした、怖かった、敏明の言った怖さの意味も少しわかった。

「いつ、俺の体力を吸い取ってるかもって思ったんだ?」
「気になったのは今月に入ってからかな?敏明がエッチの後で妙に疲れてるのが気になった
流石に自分がエッチの時に敏明の体力を奪っているかもとまでは思ってなかったけど」
「まぁ俺だって怪しい程度には思っているが確証はない。一応勘違いって可能性もまだある」
「可能性は低いって思ってるんでしょ?」
「そうだな」
敏明ってばいっつもそうだ。こっちの都合ばっかり考えて、自分の事は後回しだもん。
しかも敏明が気がついていたという事は…。
「危険と分かっているのに敏明はどうして昨日抱いてくれたの?」
昨日のアレも、自分の安全とか考えないでしてくれたって事になる。


「お前は俺が苦しんでる姿を…見たいか?」
「そんなわけないじゃない!!」
「俺も同じだ、お前が苦しむのが嫌だから少し無茶をした。俺の読みが外れていることを祈りながらな」
敏明はどれだけ私の好感度を上げれば気が済むんだろうか?

敏明が欲しくなった。心でも体でも欲しい。そう思うくらい愛しかった。
でも我慢、今後、彼がしたい時以外は絶対にしない!!そう誓った。



5月目 満月の朝

夜道は危ないという事で、あの後も敏明の家にお泊りをした。
彼の近くにいられるのは嬉しいけれど、あの後なにも無かったので物足りない…。
決意をしたのに、あの日は1度だけだがしたというのに…まだ欲しがる私はきっと性豪に違いない。

例によって敏明は疲れ切って熟睡しているので、起こさないよう朝食の準備をして一旦帰った。
私は精を吸われた経験なんてないから良く分からないけど、こんなにグッタリするまで精を
くれる敏明ってホントに優しい。良くここまでしてくれるなって毎度思う。
おねだりした私が言うなよって気もするけど。


彼の無防備な寝顔にキスしたり、襲い掛かったりしたいとも思ったけれどここは我慢する。
エッチは当然だけど、キスでも彼の精が失われるかもしれない。
敏明に接触をするのは彼がOKを出した時だけ、彼がしてくれるって時だけ。
恋する乙女に生まれ変わった、覚醒した私は自分から襲い掛かるなんてはしたないマネは出来ませんわよ。

恋愛感情までは分からないけれど、彼が私を大切に想ってくれているのは分かった。
その事実と彼の優しさでどうにか持って見せる!!
というかそうでもしないと彼の隣に立つ資格がない。そんな気がした。
熟睡しつつも、力のないような彼の寝顔を見て私は一人で奮い立った。


5月目 満月の昼

可能な限りオシャレをして、下着も見られても良いように可愛いのかセクシーなのかを選ぶ。
NOエッチと決めた今回であっても、下着選びに手を抜く事が出来ないのはどうしてかな?
日頃の習慣か、ダメと思いつつも期待しているのかも知れないし、単に下着選びが楽しいだけという可能性もある。
どちらにせよ、勝負服&勝負下着を身に着けるという点は変わらない。

昨日、敏明とデートした時に…うんアレってデートでいいよね?
とにかくデートした時に服と下着を結構買ったのでレパートリーには困っていない。
男時に日雇いバイトで稼いだお金を大分吐き出しちゃったけどね。


鏡の前で自分の下着姿をチェックする。
多分だけど、今の私は色っぽいし魅力的な外見をしていると思う。
男だった頃の記憶を考えれば確実にOKを出す程度には外見が良い。
少なくとも男の私、清彦ならこんな外見の女の子の下着姿が見れるのなら土下座くらい楽勝だろう。
うっわぁ~我ながら情けない。
ドキドキしつつも、動じない部分を持った敏明で良かった。


下着、ファッションをチェックする。
彼の体力上、あり得ない事だと分かってはいるものの、この姿を敏明に見せるシーンや
この私を綺麗とか可愛いって言ってくれるシーンばかり想像してしまう。
乙女モードの私の頭は主に彼で占められているんだね。やっぱり。



5月目 満月の夕方

妙にオシャレして敏明の家に行く。
彼は快く私を迎え入れてはくれるものの私の格好について何も言ってくれない。
『見ない服だね』や『その服昨日買ったやつ?』とか『似合ってるよ』とか。
女の服をあまり見せてない以上、どの服も見覚えがないから新しい服がどれかは分からないのだろう。流石の敏明も。
しかも、どんな服を買ったのかも見せてないし気付かなくても仕方がない…よね?
少なくとも清彦じゃ何も言わないだろうし、彼に一言貰うのは欲張りだ。私、男の心も分かるものワガママは言わないよ。
結局、新しい服(と下着)について彼は何も言ってはくれなかった。
分かってはいたんだけど…ちょっと悔しい…かな?


エッチも出来ず、お泊りも自重という事でこの日は大した事もせずに晩御飯を作って食べただけで帰ったし。
やった事だけで言えば、敏明に醒めた時とほぼ同じようなものだ。
それでも、あの時と違って心が重いという事は全くない。
顔を見れて同じ部屋で過ごせて、ちょっとした身の回りのお世話が出来たので少しは満足した。
やっぱり、恋心の有無が大事なのかな?
何もしないで帰ったのに、何故ここへ来たんだ?とか疑問には思わないし、実際顔を見られただけで来て良かった
と思えてくるくらいだし。精を貰わなくとも私は幸せになれるんだって事を彼に見せつけるんだ!!
…敏明に見せつけるものかは分からないけど。



5月目 十六夜の夕方

昨日はお泊りとかが一切ないので、朝起きても敏明は近くにいない。ガッカリ。
という残念な朝を迎えた以外昨日とほぼ同じ日だった。
多分使わないであろう勝負下着を念入りに選ぶ事を含め、昨日と同じような展開を迎えた。
強いて言えば昨日の下着がセクシー系で今日の下着が可愛い系って違いがあるくらい。
どちらにせよこの可愛いブラやショーツを彼が見てくれる可能性はほぼないけど。


例によって、敏明の晩御飯の用意をした。
今日は食材の買い物もしたので、一緒にお出かけできたのは嬉しいかな?例え家事業務であっても。
場所が色っぽくもない業務菜スーパーであっても、少しはデート気分を味わえた。

買い物を終えて調理を開始しようとすると、少し立ち眩みがした。
これって貧血…もとい貧精?なのかな。
頭がボーっとするし、ひょっとしてサキュバス(仮)変身が解けちゃうのかな?
確か変身してから5~6日くらい経つしそろそろリミットが近いかも知れない。

精液不足を感じつつ、リミットを迎える。そう言えば、先月もそんなかんじだっけ?
確か変身から4日くらい経ってて、精が欲しい女の姿から解放されるのを喜んでたっけ。



大体同じような展開だけれど、先月とは絶対的に違う部分が一つあった。
先月は元に戻る事を喜び、安心していたが今回は違う。
例え精が足りずに苦しい思いをしてでもこの姿でいたいと願っているのだ。
元気が出る行為をしなくとも、出来なくとも、この姿でいて苦しい思いをしたとしてもこのままでいたい。
女のままで敏明と一緒に過ごしたい。そう願っている。

「うーん、あれっ私倒れていた?」
「気がついたようだな清彦」
それでも3番の『現実は非常である』がやってくる。
気を失い、敏明のベッドの上に運ばれていた私は男の姿に戻っていたのだ。


膨らみも谷間もないが、逞しさや安定感もない胸
ショーツにフィットしないお尻には、男らしい引き締まりが彼と比べて弱い
そしてショーツを膨らましている元凶には残念ながら入れて貰いたくなる性的魅力がない



…って何考えてるんだ俺?
目を覚ました直後も女の思考をしていた自分に呆れ、そして少し焦った。
因みに女装姿で帰るとマズいので、女の服は置いていき敏明から男の服を借りて帰った。
下着は借りるわけにはいかないので、男の服にブラとショーツという気持ちの悪い格好だったのはご愛敬という事で。



5月目 立待月の昼

男に戻ると、女状態の自分との違いに気がつく。
具体的に言えば女の時は敏明ラヴだが、男に戻ると親しい友人関係に戻るって所だ。
先月までは敏明への愛情をそこまでは自覚してなかったのでどうにか心のギャップをやり過ごせた。

今月は自分の恋心をはっきりと認識し、敏明に伝えもした。
女の俺は敏明に対してもう後戻りできないくらい惹かれている。これはもう理解した。

男の俺に戻るとその恋心が薄まるのか、ちゃんと友人とみなせる。
少なくとも敏明に抱かれたいとは思っていない。
やっぱり男の時の俺と女になった俺とは、別人と考えるべきか。
体も記憶も共有してて、女の時も自分という自覚はあるけど。自分じゃない自分って感じ。
哲学だかパラドックスの領域に片足突っ込んでるね。
で、大事なのはこの先の事なんだよね。


男に戻れば敏明への思いは薄まる。…そう飽くまで薄くなるって程度だ。
今までは恋心が薄まりすぎて、男時は敏明に恋してないような状態だった。
女の時の恋心も、秘書が勝手にじゃなくって女の俺が勝手に恋しました。くらいで流せた。
それが今では男に戻っても、わずかに感じてしまう女の俺の恋心だ。
男に戻ったというのにあの甘い一夜を女視点で欲し始めた。


そうだよ。これもかなりの大問題だったよ。
飽くまで俺は一時的に女に変身しているだけの男でしかないんだ。
つまり本来の俺は敏明と結ばれることのない身である。
彼と一夜を共に過ごせたのは、俺が一時的に謎の美女に変身していたからだ。
泡沫の如く消える姿、まるで夢の世界の出来事のような私がいるからこその夢のような時間だ。
…なんか、男に戻ったというのに思考が敏明に恋する乙女の時と大差がない気がする。

男の体と男の思考に戻ったのにこんな事を考えているあたり、俺は相当キてるのかも知れない。


淫魔体質(仮)は確かに厄介だけど、ずっと男のままというのもまた都合が悪い。
男のままじゃ敏明とナニかをするなんて出来ないんだから。
あれっ?俺は敏明の事を特に親しい友人って認識してる筈だよな?
裸になって抱き合う系レスリングの相手とは見なしてないよな?


男に戻ると敏明への恋心がかなり薄まり、実感すらなくなる。
この2ヵ月は割とそんな感じだったし、未だって大きくは違わない筈だ。
実際にあの時は素敵に思えた彼の裸を思い出しても特に興奮はしない。
それでもどうして敏明の事を想い苦しくなるのだろう?
男の体が馴染むころにはこの感情は十分に薄まり忘れられるんだろうか?

男の俺と女の私、2つの性格2人の人格、この両者が行きつく先は一体何処なんだろう?
女の時はそうでもないが男に戻ると自分の状況とこの先の行方に恐怖を感じた。
ご無沙汰です。
でもこの話じゃなければそんなご無沙汰でもないです。
なかなか図書館にUPできなかったので今晩は気合いを入れてまとめました。
さて、本編の完成は一体いつになるんだか。作者にもう少し気力と仕事の速さがあれば…そう思わずにはいられない。
2人+αの物語はもう少し続くようです。取り敢えず完成はさせないとね
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