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リバーシブルスキン

2018/07/04 19:00:00
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それからしばらく後、清彦は1人シャワーを浴びていた。
2人でラブホテルに入ったはいいが、いざことを始める前に待ったをかけたからだ。
双葉も汚い男に抱かれたくはないだろうし、何よりも今は気持ちを落ち着かせる時間が欲しい。
そう考えた彼が先にシャワーを浴びてもよいか尋ねたところ、彼女はすぐに承諾した。
そういうわけで清彦は逸る気持ちを静めるように頭を洗っていた。

「じゃーん、来ちゃったー!」
……だが、彼女は待ちきれなかったようで、清彦が身体を洗っていると風呂場に入ってきてしまう。
「わああっ!!」
ワンテンポ遅れて状況を理解した清彦は、情けない悲鳴を上げながら後ずさりする。
双葉は小麦色の裸体を惜しげもなく見せつけながらけらけらと笑う。
「背中流しに来ただけなのに驚きすぎだよ。ほら座って」

その言葉通り、双葉は清彦の身体を洗い始めた。
しかし、彼女の泡だらけの手が、身体が触れるたびに彼の興奮は高まり、肉棒はギンギンに反り返る。
鏡に手を付いた双葉が誘うように尻を突き出せば、自ずと立ったままでのセックスが始まる。
彼女の秘裂は、宛がわれた肉棒をずるずると飲み込むほどに濡れていた。
清彦が突き上げ、双葉が感じるのに合わせてその膣壁はうねるように蠢き、時に締め付けるように締まる。
双葉の腰を掴みながら、未知の快楽を貪るように、欲望のままに腰を打ち付ける清彦。
このとき双葉が、込み上げる快楽で蕩ける自分の表情を鏡越しに眺めて興奮していることに気付くには、彼はあまりに必死すぎた。

「ああっ、だ、出すよっ!?」
「ぁ、あんっ、来てっ、ああっ、ぁたしも、イくうぅぅうッ!!」
双葉の膣口が清彦を締め上げるとともに、清彦の肉棒から熱い精が放たれる。
鏡にもたれかかったまま双葉は脱力し、へたり込むように膝から崩れ落ちた。
「はぁ~、きもちいぃ……。どう清彦、気持ちよかった?」
「……あぁ、すっげぇ気持ちよかった。人生で一番かもしれない」
「人生で一番、ねぇ」
双葉が何か思いついたように不敵な笑みを浮かべた。

激しく交わりあった2人は、湯船の中、対面座位で抱き合っていた。
射精した直後だというのに、狭い浴槽の中で密着しながらあったかいお湯の中で交わる状況のせいで、清彦はさっそく固さを取り戻していた。

「後ろからがっつかれるのもいいけど、こういうゆったりした体位もいいね」
「うん、双葉がいい感じに締め付けてくれるから気持ちいいよ」
「……ねぇ清彦、テイレシアスって知ってる?」
「テイレシ…何?」
「男として生を受け、9年間女として暮らしたテーバイの予言者。彼によれば、『男より女の方が10倍気持ちいい』んだって」
「なんだよ急に。どうかした?」
「清彦が人生で一番だっていう、その10倍もの快感を得られる女の身体……どう、興味ない?」
「興味がないと言えば嘘になるけど……現実問題として無理だろ?女になるなんて」
「そうだね……でも、もしも無理じゃないとしたら?」
「えっ」

彼女の言葉と表情に清彦はどきりとする。
彼女の眼は、その言葉が嘘ではないとでも言うようにまっすぐにこちらに向けられていた。

「本当に女の子になれるとしたら……清彦は女の子の感覚を味わってみたい?」
「なれるもんなら1回ぐらいはな。ちょっと男に抱かれるのは勘弁だけど」
「ふーん、そっか。……ね、チューしよ」
2回戦の合図だと受け取った清彦が唇を重ね合わせ、舌を挿入する。
双葉もこれに応え、絡ませるように舌を動かす。
より感覚を鋭くするために目を閉じていた彼は、双葉が自分の後頭部に空いた穴を両手で掴み、広げるように引っ張っていることに気付かない。
彼女はそのまま自分の顔の皮を剥ぎ取ると、裏返すように清彦の顔に被せた。

双葉とキスしていたと思うと、いきなり顔に何かが貼り付いてきた清彦はパニックになる。
なんとか剥がそうと顔に手を伸ばすが、強力に貼りついてくるために剥がれない。
清彦は必死にもがくが、それは顔だけでなく手足にも覆い被さり、浴槽の中の湯ごと彼を飲み込もうとする。
自分を包もうとする何かの手触りが、瑞々しい女の肌のようだと清彦は気付くが、その正体にまでは思い至らない。
やがて、全身を双葉のしっとりとした肌に覆われた清彦を、激痛が襲う。
皮に合わせて無理やりに矯正されることで身体中の骨が悲鳴を上げているのだ。
それと並行して、皮が彼を締め上げるように収縮し、背中の穴から中に溜まった湯を排出しながら2人の肌を真空パックのように密着させていく。
しかし、清彦は身体を作り変えられていく過程を一切知覚することなく、意識を手放してしまった。

* * *

目を覚ました清彦は、薄暗い部屋の中にいた。
身体を起こした彼は、自分の身体の違和感に気付く。
胸の辺りから何かがぶら下がっているような重みを感じる。
何より、股間からは慣れ親しんだ息子の感覚が伝わってこない。
その正体に覚えのない清彦は、ひとまず明かりをつけようと思い立つ。
彼がベッドから降り立ち、わずかに光が漏れるカーテンまでひたひたと2,3歩歩いたところで、突然電気がついた。
清彦は目の前に一糸まとわぬ少女がいることに気付くと、勢いよく「すみません!」と謝った。
しかし、いつまで経っても返事がないので顔を上げると、裸の少女も顔を上げていた。
よくよく調べた清彦は、目の前にあるのは鏡だということに気付く。
その事実が導き出す帰結を信じられないと思いながら、彼は自分の顔や身体をぺたぺたと触る。
だが、無情にも鏡の中の少女は清彦の動きに合わせて自分の身体を触っている。
自分が女になってしまったことをようやく認識した彼は、ふと鏡の中の姿に既視感を覚えてまじまじと見つめる。
しっとりとして艶のある長い黒髪に、整った顔、均整の取れた体つき、そしてきめ細やかで潤っている白く美しい肌。
いつもの格好と違うものの、これらの特徴に思い当たる清彦は、まさかと思いながらも自分の推論を口に出す。

「俺は、若葉さんになった……のか?」

* * *

「ふむふむ。問題なく若葉に変身できたみたいだね。誰かに着せるのは初めてだったけど、実験は成功ってとこかな」
いつの間にか清彦の隣には制服姿の双葉が立っていて、鏡越しにしげしげと彼を眺めていた。
自分の姿ではないのに、裸を見られることにどことなく恥ずかしさを覚えながら、彼は双葉に詰め寄る。

「いつの間にっ……!おい、どうなってんだよこれ?俺の身体に何をした!?」
「何もしてないよ。若葉の皮を着せる以外のことは」
「若葉の……皮?」
「そ。その皮を着た清彦は、若葉になっちゃったってこと。……しかもその皮は特別製でね」

双葉はそう言うと清彦の下腹部に指を当て、胸に向かって彼の身体をなぞるように動かしながら、耳元に囁きかける。

「若葉の裏側はね、あたしになってるんだよ」
「双葉に?」
「そ。昨日お風呂でセックスしてるときに裏返して着せちゃったの。だから、若葉の皮の内側で、キミは今もまだ、あたしの皮に包まれたままセックスし続けてる、ってわけ」
「ひゃんっ」

乳房をなぞるように動いた指が乳首を弾くと、清彦は電撃のように走る感覚に思わず声を上げる。

「今の清彦は正真正銘、若葉そのもの」
「どういうことだ?」
「キミのクラスメイトの若葉は、若葉の皮を着たあたし。裏を返せば、若葉の皮を着ているキミが、今は本物の若葉ってことでしょ?」
「じゃあ、お前も……?」
「あははっ、もしかしたらあたしの正体はキミの知らない男で、皮の中でキミと同じように若葉を犯しながら、双葉の身体で夜な夜な男に抱かれているのかもね」
「なっ……!」
「皮を着ている間は、肉体的には本物の女の子なんだからどうでもいいでしょ。それにさ、想像してみてよ。
……クラスメイトの地味だけど可愛い女の子、そんな娘でも一皮剥けば裏側は金髪のビッチ。しかも、教室でもグラウンドでも、勉強してるときも運動してるときも、平然とした顔をしながら皮の中では四六時中セックスし続けてる。
……今はキミがなってるのは、そういうエッチな身体なんだよ」
「……そんなことはいいから、早く皮とやらを脱がせッ!?」

指が首をなぞり、やがて顔まで到達すると、双葉は清彦の頬に手を添え、煩わしい口をふさぐように彼にキスをする。
ねじ込んだ舌で清彦の歯茎をつーっと舐め、そのまま彼の舌に絡みつけば、2人の甘い唾液は自然と混ざり合う。
激しく舌を絡ませあい、時には舌先で上あごをくすぐる長いキスが終えると、清彦は恍惚とした表情で顔を上気させていた。
目はとろんと蕩け、だらしなく開かれた口からはよだれが垂れてしまっている。
「あははっ、キスだけで感じちゃってる。そうだよね、男の感覚しか知らないキミには刺激が強すぎるよね。
でもすごいのはキスだけじゃない。むしろこんなのは序の口。
……ねぇ、まだ皮を脱いだりしないでしょ?もう少し『女の子』を楽しむでしょ?『ワカバちゃん』」

焦点の定まらない顔をしながら清彦―――『ワカバ』はこくりと頷いた。

* * *

「ところで、ここはどこ?……まさか君の家じゃないよね?」
ようやく落ち着いてきたワカバはあたりを見回しながら質問する。
彼女たちがいるのは、ワンルームマンションの一室のようだったが、どうにも生活感がない。
ベッドを除けば、家具は小さなテーブルと姿見、それにタンスしか置かれていない。
同年代の女の子の部屋に入ったことはないが、女子高生の部屋にしてはひどく殺風景だとワカバは感じた。
「んー、まぁそんな感じかな。そんなことよりお着替えしようよ」
誤魔化すように話題を変えられるが、ワカバは部屋への興味より自分の身体への興味が勝っているため、深く突っ込まない。

双葉はタンスを漁り、じゃーんと言いながら一揃いの黒い下着を取り出す。
「どっちから行く?ブラ?パンティ?」
「し、下で」
ワカバは双葉から黒いレースショーツを渡される。
まじまじと見つめていると双葉がニヤニヤと視線を向けて来るので、慌てて足を通す。
股間にぴったりとフィットするような感覚に、ワカバは自分が女の子になっていることを改めて実感する。

「じゃあ次はブラだね」
双葉の指示に従い、ストラップを肩に掛け、カップにおっぱいが収まるように身体を前に傾けると、後ろに回った彼女がブラのホックを留める。
そのまま双葉は前に手を回してワカバの胸を柔らかく掴み、空いた手でストラップを調節する。
「……うん、バッチリ!」
彼女の言葉を合図に身体を起こすと、黒の下着を身に着けたワカバの姿が映る。

思わず感嘆の息を漏らすワカバの横で、双葉がおもむろにシャツを脱ぎだす。
「今度は服だよ。ちょっと待っててね」
「待て待て、なんでお前が服を脱いでるんだ」
「もう、言葉遣いが女の子らしくないよ」
「だーっ……どうしてあなたが服を脱いでいる、の?」
「よくできました。それはね、あたしが着てたものをワカバに着てもらうからだよ」
「お…私に?」
「そう、もともとワカバの制服だしね」
はいどうぞ、と双葉は今さっきまで自分が着ていたシャツを渡してくる。
イメージに似合わず身に着けている白いブラジャーが小麦色の肌に映えている。
渡されたシャツを恐る恐る嗅ぐと、危惧していたような汗臭さはなく、双葉の柑橘のような匂いをほのかに漂わせていた。
まだぬくもりの残るシャツを着ると、双葉に抱きしめられている感じがする。

「中も外もあたしに包まれてるよ、ふふっ、ワカバってやらしいね」
そう言って渡されたスカートを双葉の助けを借りながら身に着け、まだ温かさの残る黒のロングソックスに足を通す。
すると、髪を下ろし、メガネをかけていない制服姿のワカバが完成する。
ワカバが姿見の前でポーズを取って楽しんでいる一方で、双葉はタンスからエプロンを取り出し、下着の上から身に着ける。

「じゃあ、学校に行く前に、ワカバに朝ごはんを作ってあげるね」
「わかった……えっ?わ、私、学校に行くの?」
「うん。今日一日、キミには女子高生として過ごしてもらうよ」
啞然とするワカバに、双葉はにっこりと微笑みかけた。

「さぁ、残さずお食べ」
ワカバの前に、メープルシロップのかかったフレンチトーストと、砂糖のたっぷり入ったミルクティーが置かれる。
「……甘いもの、苦手なんだけど」
「まぁまぁそう言わずに」
ワカバの背後に座り、彼女の髪を漉きながら双葉が返事する。
えい、とワカバがかじりつくと、しっとりとしたパンからカスタードが染み出し、口いっぱいに広がる。
「あれ、おいしい……?」
「今のキミはワカバなんだから、味覚もワカバになっているに決まってるでしょ」

はい出来上がり、と双葉が背中をポンと叩く。
鏡越しに編み上げられたばかりの三つ編みをみながら、ワカバは不平をこぼす。
「普通にしてた方が可愛いのに」
「わざと野暮ったくしてるの。それともワカバは、痴漢に襲われる方が好きなのかな?」
「…ハイ、野暮ったくさせて頂きます」

朝食を食べ終え、身支度を整えたワカバに、双葉はメガネを手渡す。
「カバンは玄関に置いてあるよ。学校までの行き方は、マンションを出て右に進めば分かると思う」
「双葉はどうするんだ?」
「ヒ・ミ・ツ。ほらほら、遅刻しちゃうよ」
叩き出されるように部屋から追い出されたワカバは、釈然としないながらも双葉の言葉に従い登校することにした。

* * *

TS学園に朝の予鈴が響く頃、ワカバは教室で机に突っ伏していた。
道にこそ迷わなかったものの、不慣れな肉体は彼女の精神を疲弊させていた。
ひらひらとして落ち着かないスカート、電車の中で胸や脚に向けられる不埒な視線。
慣れないことばかりで疲れたが、それは自分が女子高生になっているからだと思うとワカバは少しだけ元気が出てきた。
本鈴が鳴り、1時間目の授業を担当する数学教師が出席を取り始める。

「今日の欠席は2名……おぉ、皆川が休みか、珍しいな」
皆川清彦は今日は来ないぞ、とワカバは心の中で言う。
だって、清彦は今『私の中』にいるのだから。
突然、教室のドアが勢いよく開けられる。
入ってきた人物を見たワカバの顔が驚愕に歪む。
「おお、皆川か。時間には気をつけろよ」
「はぁ。すみません、先生」

何故なら、そこにいたのは清彦―――いるはずのない『自分』だったからである。

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