翌朝、自室で目を覚ました清彦は、部屋と身体を確認して、がっかりしたように溜息を吐く。
あれは、フタバやワカバになったのは夢だったのだろうか。
しかし、日付を確認すると、予備校帰りに双葉に遭遇したのは一昨日のことであり、昨日の出来事は夢ではなかったような気もしてくる。
釈然としない感情を抱えたまま、清彦は登校することにした。
果たして、俊明は2限の出席を取っている最中、慌てて教室に駆け込んできた。
休み時間になり、落ち着かない様子で清彦に近づいた俊明は、小声で彼に話しかける。
「双葉の噂、あれはマジだ。言っても信じてもらえないだろうから言わないけど、あれはヤバい。それだけだ」
「へぇ」
「なんだよ、興味ないのか?」
「興味か……いや、ないわけじゃないんだが」
清彦も双葉の噂に興味はある。
しかし、男として女を抱くことに対してではなく、双葉として男に抱かれることに、だったが。
「……変な清彦だな」
歯切れの悪さに気になるところはある様子だったが、俊明がそれ以上清彦を追及することはなかった。
そしてその日から、若葉は学校に来なかった。
数日後、若葉が転校したことが担任から語られた。
あの不思議な皮の唯一の手がかりだったのに、まさかいなくなってしまうとは。
そう思いながら清彦が帰宅すると、彼に荷物が届いていたようだった。
「……俺宛て?」
心当たりはないが、荷物を受け取り、自分の部屋で開ける。
中には、うちの高校の制服、そして「いらなくなったからあげるね 双葉」と書かれたメモが入っていた。
「どうしろっていうんだ、これ……」
その夜、シャワーを浴びながら清彦は考えた。
なぜ双葉は制服を送ってきたのか。
あの日の出来事を思い出していると、突然、点と点が線で繋がるような閃きが舞い降りた。
……そういえば、彼女は俺の皮も作っていたじゃないか。
あれはどうなったんだ?
そして意味深に送られてきた制服。
もしかして……!
清彦はキュッとシャワーの栓を締めた。
「……確か皮を脱ぐときは、こうしてたよな」
うなじのあたりを探ると、金属片のようなものが清彦の手にぶつかる。
手に持った感じはどうもファスナーのようだ。
ファスナーを下ろすと、彼は自分の背中に穴が開いているのを感じた。
穴のふちを両手で持って広げるようにしながら、清彦は「清彦の皮」を脱ぐ。
清彦は湯気で曇った鏡を手で拭う。
鏡に映った顔は一瞬驚いたように目を開いた後、不敵に笑った。
* * *
なぁ、あの噂知ってるか?
あはぁ、とっても美味しそう。
このあたりに出没する痴女の話。
キミ、このあと時間ある?
頼めばヤらせてくれる、すっげぇエロい女子高生の噂。
何をする気か、って?
もう信じられないくらい気持ちいいって話だ。
とっても、とーっても気持ちのいいこと。
TS学園の制服を着ているらしいが、それらしい奴はどの学年にもいないらしい。
私?私の名前はね―――。
そいつの名前は―――。
双葉っていうの。
……ねぇ、あたしと『いいこと』しない?
裏も表も女の子に包まれて密着してるってめっちゃ気持ちよさそうで最高でした!