薄暗い部屋の漂うひんやりとした空気を感じ、固いベッドの上にのろのろと上半身を起こす。
「ん……?」
なぜか視界が狭く頭が重い、まるで何かが頭の上に乗っかっているような……。
そこでようやくヘッドマウントディスプレイを被っている事に思い至り、それを脱ぎ捨てた。
初仕事を終え、決められた手順を済ませログアウトをする。
そうやってセクサロイドの体から戻ってきたところだった。
自分の部屋、自分の体、目に映るもの感じうもの、それら全てが遠い過去にあったかのような錯覚を受ける。
時間にしてほんの6時間程度、自分の知らない全く新しい刺激を受けただけだというのに、なかなか現実感が戻らない。
こっちの方が仮想世界なんじゃないか、なんて埒もない事すら思うくらいに。
胸に触れてみても柔らかく大きなものは無い。
でも、股間に触れてみれば別のものがある。
脳に受けた快楽の余韻か、半起ちでカウパーを垂らしている男の象徴。
私、いや俺は、小さく息を吐いてティッシュでそれを拭き取る。
「う……!」
敏感になった亀頭への刺激による鋭い信号、セクサロイドの体で感じたそれとあるいは同じくらいかもしれない。
でも、今の俺にはそれほど魅力的には感じられなかった。
深み、とても言えばいいのだろうか。
敢えて言葉にするのなら、貯めて貯めて、そして一気に放流する快楽と言う水の貯水ダム、その大きさがまるで違った。
「ふぅ、あれは……やばいよな」
既にあやふやになりつつあるものの、思い返すだけで鼓動が早くなっているのを自覚する。
自然と向けられる視線の先、そこにあるのは次の「私」の出番が載ったシフト表。
二日後のその時間が待ち遠しくてたまらない。
初めて仕事をしたばかりだというのに、すっかり気に入ってしまっていた。