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Patchworker Fragment

2020/10/04 14:20:29
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F1片「異界//召喚」

「あなたが国難を救う者だという天啓を受けて、召喚させていただきました。是非お力をお貸しください」
「はぁ」

大学からの帰り道、唐突に目の前が光った結果見知らぬ場所に放り出されていた。周囲は薄暗く、足元には幾何学模様。周囲にはローブ姿の連中と長い金髪のお姫様。
なんだこれ、ファンタジーか。
しかも気が付いていきなり、国を助けろときたもんだ。何もわからん。

「…大丈夫ですか、異界の術師様?」
「はぁ」

あのね、こういう話があるっていうのは知ってるよ。でもファンタジーとかメルヘンとかそっちの方向だと思ってたんだよ。実際自分の身に降りかかってくると思う訳ないじゃないか。
あとアレだ、説明しろ説明を。まず名前を名乗ってほしいね。

「大丈夫ですか? 翻訳魔法は働いている筈です、言葉は通じますか?」
「通じているけど…、そもそも君は誰だい?」
「貴様、姫様に向かって君など…!」

いきなり険呑な空気を、ローブ姿の連中が醸し出してきた。知らないって向こうの立場なんて。

「いえ、良いのです。術師様は何も解っていない状態なのですから。…私から説明しますので、皆さんは下がりなさい」
「ですが姫様、彼の者と二人きりにするなど、御身の事をお考えになっていない証です」
「考えています。けれど今は私に害意がない事を伝える為にも、全てを曝け出す必要があるのです」

「はぁ、ご立派な考えだこと。けどいい加減話をしてもらいたいんだけど、良いのかな?」
「あ、すみません。…ではガーヴ、下がってくれますか?」
「…承知しました」

そう言われて、ガーヴと言うらしい男を筆頭にローブ姿の連中はこの部屋を去っていく。

「…失礼しました、術師様」
「いやいいけど、だから話をね、あと説明をね」

そのまま彼女はゆっくりと頭を下げてきた。

「この度は我らの無理矢理な召喚で呼んでしまい、誠に申し訳ありませんでした。
私の名前はフェリス=ゼア=ガーゼットと申します。ガーゼット国の第一王女…です」

頭を下げるフェリスさんとやらに、こちらも名乗る。名前で呼ばれるのも今更なので、きちんと略称も伝えて。

「わかりました、みーくんさん。これから少し長いお話をすることになりますが、よろしいですか?」
「まぁ、きちんと説明してくれるならね」

そのままフェリスは説明をし始めてくれる。

ガーゼット国は、こういうのもなんだが平和な国だったそうだ。しかし最近になって隣国のダンガ国に武力侵攻をされかけているとのこと。
戦力ではガーゼットを1とするなら、ダンガ国は10と言える位に差があり、戦闘でまともに戦う事もできないという事。

「なるほど、国難だ。…生憎だけど俺の能力は大規模戦闘に向いた物じゃないのだけれど、いいの?」
「良いんです。私の望むことをできる術師を呼ぶ…。それがみーくんさんだったのです」

「ふぅん…」

俺の能力で出来る事、ねぇ。

フェリスは説明を続ける。
ダンガ国の侵攻を止める為に出された条件は、至極単純。フェリス姫を差し出せとのこと。彼女を差し出し側室にすれば、侵攻は中止するとのこと。

「成程ね。結婚させておけば繋がりができる。戦力差もあるからほぼいう事をきかせられる。ほぼ属国化だね」
「そうです。…ダンガ国の政治からすれば、属国化してもガーゼットの民に負担を強いてしまう事は見えているのでしょうが…、それでも戦争をし、この国が無くなる事よりは良いと思っています。
その為に…」

すぅと息を吸って、フェリスはこちらを見てくる。

「みーくんさんには、私を女にしてもらいたいのです」
「…ちょっと待った。君を、女に?」
「はい」

少しばかり頭がフリーズした。金髪ロングの彼女は……いや、違うのか?
改めて彼女を見ると、ドレス姿なのは確かなのだが、妙に肩のふくらみが大きかったり、腰の括れが目立たないような形になっている。
スカートは無駄に長く、脚など見せないといわんばかりに。

「もしかしてだけど…、君、男だったりする?」
「……はい」

フェリスがスカートを持ち上げると、そこには(なぜか)ショーツがあって、その前がもっこりと膨らんでいた。

「お父様…、現ガーゼット国王の指示で…、私は女として育てられました。それ自体に怨みなどはありませんが…。
それでも私は、ぼくは男です…。ダンガ国の良いようにはさせたくないんです…!」

「だから…、女になってダンガ国王の所に潜り込んで、暗殺でもするつもりだったりする?」
「その通りです…」
「うわぉ」

適当に言った言葉が本当だったことに驚きながら、フェリスは自分のスカートを降ろして股間を隠した。

「遠くの森に棲む不老不死の魔女に助力を願った結果、「望んだ者を召喚する術式」を教えて貰いました。
もちろん、きちんと送還する術式も。…みーくんさんには、ぼくを女にしてもらえれば、きちんと元の世界へ送り返し致します。
お願いします、ぼくを女にしてください…!」

フェリスは深々と頭を下げた。俺が頷かなきゃ顔を上げません、という勢いで。

「…………」

悩むことではあった。別に能力を使う事自体は一切問題無いのだが、ここの世界での出来事があの鬼にバレやしないか。
…まぁバレやしないとは思うけれど、それでも。少しだけ能力を使う事に躊躇している状態ではあるのだった。
けれど、こうして男のプライドを捨ててまで頼んでくるのだから…、きちんと応えてあげないといけないのかなと思ってしまった。

「…わかった。やろうじゃないか」
「本当ですか!?」
「ただし、全部終わって無事に戻ってきたなら、また俺を呼ぶこと。…そしてきちんと元の体に戻る事。これが条件だ」
「…わかりました。お願いいたします、みーくんさん」

…ちょっと位なら、バレないなら良いよな。

F2片「馴染//従者」

詳しい話をする為に場所を変えることになった。
それまでの人生ではまるで縁が無かったような西洋ファンタジーな作りの城の中を歩いて、フェリスに自室に案内される。
途中メイドらしき壮年の女性に呼び止められたが、

「私のお客様です。無礼は許しませんよ」

との一言ですぐさま頭を下げてきた。なるほど、確かにフェリスはお姫様なんだろう。性別がどうであれ。
そのまま自室に入れられると、そこもまぁ見た事ないくらいの豪奢な部屋だった。調度品なんか、どれ程の金持ちが揃えられるんだろうという位のものだし、天蓋付きのベッドなんて初めて見たよ。

椅子をすすめられ、フェリスと対面するように座る。

「…詳しい話、という事でしたが。それは私の目的を手助けしてくれるためという形でよろしいのでしょうか?」
「一応そのつもり。…ただ、この世界に魔法があるとして、俺の手段はその魔宝みたいにスマートな代物じゃないという事だけは理解してほしいかな」
「構いません。どのような手段でみーくんさんが私を女にしてくれるのか、教えてください」

フェリスの目は真剣だった。だからこそこちらも、嘘偽りなく答えてやらなければいけないと理解し、真剣になる。

「まず俺が使える能力の説明だけど…」

そうして俺は『分解』と『接続』の能力を説明していく。
何ができるか、どんな事をすればいいのか。それをフェリスの自室の品物を使ってデモンストレーションをしてみたり。
それらの行為にフェリスは驚きながらも、真剣に聞いてくれていた。

「この能力は無機物…道具の他にも、人間相手に行う事も可能だ。例えば…、ちょっとお手を拝借」
「は、はい」

差し出された手を取るように、フェリスは俺の手を取ってくれた。そこから『分解』を発動。彼女の手首から先だけを『分解』して取り外した。

「え…っ!?」
「こんな風に、人間の体だってパーツのように取り外したり、着ける事だってできるんだ」

そのまま俺の左手を外し、フェリスの左手をそこに『接続』してみたりした。動きを確かめさせるように、握って開いてを繰り返してみる。
…なるほどね、こうして見れば確かにフェリスの体は「男」だ。手なんか元々の俺より小さいけれど、「女」の手と比べてみれば大きい。

「具体的に君を女性にするという事は、君の首から上を取り外して、別の女性の体の上にくっつけるという事…。理解できるかな?」
「…は、はい。どうにか、ですが…」

フェリスの頭は理解を示してくれているようで、なによりだった。これで無理だと言われたら俺は何もせずに帰る所だった。

「…この能力の限界を端的に言うなら、君を女にする代わりに誰か一人を男…、君の体に挿げ替える必要があるって事だ。
そんな事を了承できる相手が、君にはいるのかい?」
「……」

少しだけフェリスは黙ってしまった。それもそうだろう、魔法があるという段階でもっとスマートに行くのかと思っていたのだろうが、ここに来て犠牲という形を誰か強いるのだから。

「1人、心当たりがいます」

けれどすぐに、彼女は答えを出してきた。女の体を提供してくれて、男の体になってくれるという女性の心当たりがあるというのだ。
そのままフェリスはベルを鳴らし、人を呼んだ。しばらくして入ってきたのは、フェリスと同等レベルの美少女だ。
…彼女の方はきちんと女性みたいだ。しなやかな体で、しかも胸元を開けた形のメイド服を着ている。誰だこんな服でOK出したの。

「お呼びでしょうか、フェリス様。…そちらのお方は?」
「アミリア、一つ相談があります。詳しい話はきちんとしますが…、まずは端的に。あなたの体を私に下さい」
「それは構いませんが…、どういう事でしょうか?」

アミリアと呼ばれた少女は、フェリスの命に壱にも弐にも無く構わないと言ってのけた。すごいな忠誠心。

フェリス曰く、彼女はアミリア=ゲィター。フェリスの幼馴染にして傍付きのメイドであるらしく、彼女が男であることも知っているという。

そのまま俺の存在と能力の説明に入り、そしてフェリスの目的を話していく事になるのだが…。

「それでしたらこの体、喜んでフェリス様に差し出しましょう」

と言ってのけた。驚いたねホント。

「…良いのかい、アミリア。君は僕がダンガ国に行ってる間、ずっと男の体になってしまうんだよ?」
「構いません。フェリス様がその為に私の体を使って下さるというのなら、この体を鍛えた甲斐もありました」
「アミリア…」

そのまま二人は熱い視線で見つめ合っている。あぁ、そういう関係なんだ? しばらくすると2人ともこちらを向いてきた。

「…それではみーくんさん、お願いします。私とアミリアの体を交換してください」
「覚悟ができてるなら何よりだけどね。…それじゃあ、行くよ?」

立ち上がり、2人の頭に触れる。
『分解』、発動。
ずるりとスライドする様に、2人の頭は横にずれて胴体から取れた。
長い金髪のフェリスの頭と、短い黒髪のアミリアの頭を両手に持つと、互いの頭を別の体…、フェリスはアミリアの体に、アミリアはフェリスの体に載せ替える。

『接続』、発動。
そのままそれぞれの体と頭を繋げる。…しばらくして2人は目を覚まし、自分の今の体の様子を確認し出した。

F3片「交代//目的」

「これが…、女性の体…。アミリアの体なのか…」
「フェリス様のお体、やはり私の物とは違いますね…。細く見えているのに、その実絞り込まれている…」

2人がお互いの体を品評しながら、なでたり触ったりしている。
うんうん、違いが気になるよね、わかるわかる。

「…とりあえずこんな感じなんだけど、どうだい?」
「ありがとうございます、みーくんさん。これで僕は本当に女になれたんですね?」
「そうだよ、顔と体に違和感無い、見事なまでのお姫様だ」

その分、着ている服がメイド服であることは違和感あるけどね。

「それじゃあアミリア、着替えて良い?」
「勿論です。フェリス様がお召し物を変えるならお手伝い致しますよ」
「お願い。さすがに下着の付け方とかは、僕一人じゃまだ難しそうだ」
「それじゃ俺は一度席を外した方が良いかな?」

着替えるというのなら、これ以上い続けるのは少しよろしくないと考えて席を外そうとする。
するとフェリスが、

「いえ、みーくんさんはここに残っていて大丈夫です。…お城の中を見て回っても、不審者として捕らえられる可能性もありますから」
「わぉ物騒。それなら仕方ないね。じゃあアミリアさん? 君の体を見ちゃうけど、いいよね?」
「それはもちろん。見られて困る恥ずかしい体はしていませんから」

ふんす、と鼻を鳴らしながら薄くなった胸板を張るアミリアちゃんは、フェリスの体が着ていた服を脱いでいく。
1人では着替えにくそうな服だというのに、彼女はするすると手間取ることなく脱ぎ、ハンガーに掛けた。

「じゃあアミリア、よろしく」
「失礼します、フェリス様」

下着姿になったアミリアは、アミリアの身体が着ていた服を脱がしていく。
メイド服を脱がしきると今度は自分がそれを着用すると、胸の部分が確かに余っているものの問題無く「メイド姿のアミリア」がそこに復活した。

「…しばらく胸の所に詰め物が必須ですね。それに股間の部分も…、キツいです」
「言わないでよ…。アミリアの体だって、こんなに胸が大きいなんて思ってなかったよ…。それに股間の所だって、こんな風に何も無くて…」

下着姿になったフェリスが、自分の体を改めて見分している。それを横目で見ている訳だけど、これがまたご馳走かと思う位に良い光景な訳だ。

「身体の事は後にして、今は服を着てしまいましょう。…胸元の開いたこちらのドレスとか、如何でしょう?」
「それにするの? うぅ、ちょっと恥ずかしいかも…」
「何を仰るのですか。今のフェリス様は女の身、少しくらいの露出には慣れていただかないと困ります」

あぁ、それもそうか。今までのフェリスは男である都合上、なるべく性別が露見しないよう露出は抑えられていただろう。

それがこんな風に見せてしまうのだから、慣れている筈も無い訳だ。

1人では着せるのも苦労しそうなドレスを、アミリアはてきぱきとした動きでフェリスに着せていく。
脚と胸元が露出するような、見事に「女」である事を強調するようなドレスを着せられ、フェリスの顔は赤くなっている。

これは良いね、赤面するお姫様。それも体は男じゃなくてちゃんとした女。
異世界っぽい所とは言え、良い仕事をしたものだ。

「…大丈夫かいフェリス? その体でしばらくはいるんだよね?」
「えぇ、ダンガ国に嫁いでる間はこのままです。…ですので、一度みーくんさんを送還する手筈になります。
このままでは目的の達成まで何か月かかるか分かりませんし、それに異世界の人を付き合わせるわけにもいきませんから」
「おや、そうなのかい? てっきり最後まで居ろ、と言うのかと思ってたよ」
「そんな事は言いませんよ…。…みーくんさんさえよければ、今すぐにでも戻して差し上げますが、いかがですか?」
「…うん、まぁ、撫子さんの事とかが心配だから、できれば早く戻してくれるとありがたかったりするかな」

元の世界に戻してくれるというのは、とてもありがたかったりする。戻れなければ俺はここで一生を過ごさねばならないし、そんな事はごめんだからだ。逃げるぞ?
しかしフェリスは律儀だ、ちゃんと俺を戻してくれるというのだから。

場所を変えて、俺が最初に呼ばれた場所に戻る。ここに送還の魔法陣も描かれているらしく、ここでないと送還儀式も行えないそうだ。

「それではみーくんさん、また会いましょう」
「そうだね、君が無事で、目的を達成できたのなら、また会おう」

フェリスは花のように笑いながら、ではまた、と告げて送還の魔法を起動させた。
足元から光が溢れて、少しずつ消えていくような気配がし、俺はガーゼット国から転移していった。
最後に聞こえてきたのは、彼女等の会話だった。

「…して、かくごはきまってぉるか? がーぜっとの?」
「はい。この国を守る為なら、女としての恥辱にも塗れます。…ごめんねアミリア、君の体を汚してしまう」
「構いません。私の体はあなたの為の物です。処女くらい如何様にでも使ってください」
「ではだんがのぉぅをころすための、しょぅしょぅきつぃくんれんをしてもらぉぅかの?」
「……覚悟の上です」

突然割って入った存在が、件の不老不死の魔女なのだろう。彼女は無味乾燥な表情でころころと笑いながら、フェリスを連れて何処かに消えていった。
彼等がどんな結果になったのか、俺はそれを見ることは無いし、知る由もない。

…ただ、3ヶ月が経っても再びガーゼットに呼ばれることは無かった。
もしかしたら…。いや、これ以上考えるのはやめておこう。俺はあの国では部外者なのだから。

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