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『冥途人形(メイドール)』

2021/04/04 06:16:51
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【1.役割】

鬱蒼と茂った森の一角にある赤茶色の煉瓦造りの洋館。
古びてはいるが不思議とみすぼらしいという印象はなく、むしろ歴史に裏打ちされた威厳めいた雰囲気を感じさせる。
重厚な黒檀製の玄関の扉を開けて、館の主(あるじ)が帰還すると、館の玄関ホールには、使用人らしき少女が待ち受けていた。

「お帰りなさいませ、旦那様」

クラシカルなデザインの臙脂色のメイド服を着た少女は、スカートの裾を摘んで広げる、いわゆるカーテシー(貴婦人の礼)に似たポーズで、恭しく頭を下げる。
身の丈は150センチを幾らか下回る程度、フリルとレースで飾られた胸元もあえかに膨らみ始めたばかりのようで、一見したところの印象は12、3歳といったところか。
長い真っ直ぐな黒髪と翠色の瞳が特徴の愛らしい少女だが、表情は能面のように固い。

無言でうなずく主から脱いだ外套と山高帽を受け取り、コート掛けへと掛ける仕草は手慣れたものだが、どこか幼子が家事を手伝っているような微笑ましさもあった。

「お食事の用意はできておりますが、すぐに召し上がられますか?」

うむと頷き、食堂(ダイニング)へ向かう主と別れ、メイド少女は隣接する厨房へと急ぐ。

「お待たせしました。本日は仔鹿のローストとラプンツェルのサラダ、キノコのフリカッセです」

主が食堂の席に落ち着いて2、3分経つかどうかというところで、晩餐の皿を載せた木製のサービングカートを押して、メイド少女が現れた。
給仕の作法にも過不足はなくスムーズで、このメイドが年若い──幼いと言ってもよい見かけの割に、使用人としての業務に熟達していることが見て取れた。

もっとも、ソレを本人に言えば、(やや無表情気味なその顔に)困惑の色が浮かんだかもしれない。

本来の彼女──いや、“彼”は、コンビニや飲食店のバイトさえしたロクにしたこともない、大学を出て就職浪人中の俗に言うニート(24歳・男)だったからだ。

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