「っっ♥♥♥ッッッ♥♥♥」
声にならない声をあげ、ビクン、ビクンと痙攣して"俺"の心と"あたし"の身体は人生で初めての絶頂を味わった。
魂が抜け出そうになるほどの強烈な快感の奔流のなかで、精一杯自分を押さえつける。
"俺"が"あたし"から出ていかないように"あたし"の中から"俺"を逃がさないように。
快楽でガタガタになった魂と肉体は互いに補い合い、食い込み、混ざり合って、"ふたり"は"ひとり"になる。
ひとつの"つがい"に生まれ変わったことで、肉体は男の嗜好を受け付けやすいように変革する。魂は女の快楽を受け入れやすいように変革する。
絶頂の余韻を身体中で味わいながら、俺は紅葉と生まれ変わっていく感覚に酔いしれていた。
「ふ、ふふふ……」
こんなに気持ちいいなんて。こんなに混ざりあえるなんて。イけばイくほど、この身体は俺に相応しく生まれ変わるだろう。
軽く股間を刺激すると、脳みそがピンク色のスイッチを入れる。体力は、まだまだ有り余っている。
「あぁ♥鍛えまくってくれてありがとぅ♥あたしぃ♥」
高い性能を誇る今の身体に感謝しながら、紅葉は体力が尽き果てるまで、取り憑かれたように自らの身体を貪った。
結局、夜が明けるまで紅葉を貪って、疲れたので泥のように眠って、起きるとまた自分の身体に興奮して、
回復した紅葉の身体で好き放題オナニーに暮れて日曜日が終わってしまった。
次の日、学校の廊下にて、ついに双葉を見つけた。
懐かしい妹。だが今は他人だ。見た目だけは……
「あの、双葉、さん」
「え、……紅葉、さん?」
「ふふ、知っててくれてるのね」
「そりゃ、同学年で一番の有名人じゃないですか!」
「そうね、双葉……私、貴方にぴったりの女の子になったの」
双葉の耳元で囁く。
「まさか……清彦?……そうか、紅葉にしたのか!
お兄ちゃんのことだし、てっきり若葉ちゃんに乗り換えると思ったんだけどな」
「ちょっと失敗したんだよ……でもこのカラダ、凄くいいよ」
「ふーん……でも残念だな。お前の記念日を祝えないなんて」
「? 記念日?」
「そう。昨日、日曜から月曜になる0時ね。アプリがアップデートされたんだ」
双葉にアプリがアップデートされた事を聞かされたが、既に"あたし"にはどうでもよかった。
「あたしにはあまり関係のない事ね。この体で初めての絶頂を知った後からこの体を手放したくなくなったもの」
「ふーん。その感じだと紅葉さんと"混ざった"の?」
「成り行き上ね、あたし今までスポーツしてたからシた事なくて、俺とあたし双方の初めての感覚を強烈に味わった所為で混ざっちゃったの」
あたしは双葉に説明した後それぞれの教室へと別れようとした。
「あ、そうだ。一昨日あたしになる前に若葉ちゃんに迫っちゃったから、清彦君の事フォローしておいてくれると助かるかもしれないわね」
「あー、だからの一昨日の清彦の様子がおかしかったのか…わかった、若葉ちゃんがうちに来なくなるのも困るしフォローしておく」
そしてあたしは自分の教室へと向かった。
「おはよー!」
「あ、おはよー」「紅葉ちゃんだ、おはよー」「はよー」
教室に入るのと一緒に挨拶すると、クラスの皆が挨拶を返してくれる。
俺にとっては知らない子達。あたしにとっては大切な友達。
一人一人の顔を見るごとに思い出が溢れてくる。
その中でふと、同性だからと油断して見せたあられもない姿に、今ならドキリと心臓が跳ね上がるのが分かる。
そんな混ざり合って、二度と離れることのない新しいあたしに、皆は何も気づくことなく、紅葉として認識している。
ゾクゾクが止まらないっ♥これからも、同じ友達としてよろしくねっ♥
身体中でゾクゾクした快感を感じ続けたまま、あたしは自分の席に鞄を置き、『いつも通り』仲のいい友達と話していると、始業のチャイムが鳴った。
始まった授業を何気なく聞いていると、ふとあることに気付いた。
あたしにとっては当たり前であったため、あまり気にして、気にすることが出来ていなかったことだったのだが。
授業の内容が、分からない。
この学校にもスポーツ推薦で入ったあたし。
部活を頑張ってさえいれば、頭が多少悪くても大丈夫だと楽観していたあたし。
だから勉強は二の次、いやそれ以下の扱いだったあたし。
……今までは確かにそう考えてた。でも今は違う。
今あたしの中には俺がいる。あたしの記憶と身体を好き放題する俺。
俺の魂が持つ知識を、知能を、思考を、あたしの脳みそに染み込ませていく。
混ざり合っていたあたしの脳みそで、俺成分がすこし強くなった。一人称も、俺の方が少ししっくりしちゃったかも。
でも頭はスッキリする。教科書の内容も、先生の話も余裕で理解できる。思わずほくそ笑んでしまう。
「前のあたしより、俺があたしを使いこなしてあげるよ……!」
その機会は早速訪れた。
「じゃあこの問題…那須野さん、出来る?」
那須野。紅葉の名字が呼ばれると席を立って前に出る。
黒板に書かれた、去年やった数式を見た俺は回答を導き出して書き出す。
「うん、よく勉強してるわね」
教室内がどよっとざわめくと先生が注意する。
かつての俺が座っていた廊下側の後ろ側ではなく、中列の前の方の、割と背は低めなあたしの席に戻る。
授業が終わると友達の一人が俺の元に来る。
「ちょっと、どうしちゃったの!?あんたが正解するなんて!私もよくわからなかったのに!」
「失礼ね。あたしもそろそろちゃんと勉強しないといけないなって思ったのよ」
「えー…スポーツ万能で可愛らしいに、勉強ができるまで付いたら最強じゃん?あ、でも…」
彼女の視線があたしの胸に向けられる。
「うるさいな、走りやすいからいいのよ」
あたしは少しイラッとするが、俺は女子と自分の胸の話を出来る女子であることに、
俺が紅葉(あたし)であることに多幸感を覚えた。
幸せをかみしめていると別のクラスメイトから声が掛かる。
「紅葉ー、お客さんー」
廊下に出ると、そこには若葉ちゃんが立っていた。
「あ、あのっ!一昨日は、助けてくれてありがとうございますっ!」
ぺこりとお辞儀をする若葉ちゃん。可愛らしい。
「そのっ、よかったらこれ…食べてください!」
差し出された小さな包みを受け取ると、若葉ちゃんは顔を赤くして走り去ってしまった。
包みを縛るリボンには「部活がんばってください」と書かれたカード。中身にはクッキー。
「モテモテですねー」
背後から掛けられた友人の声に思わずビクッとしてしまう。
「女の子にモテてもね…」
お約束の台詞を返す。もし若葉ちゃんが本当にあたしに惚れていたら…いや、それはさすがにないだろう。
クッキーは後でありがたくいただこう、と考えていると次の授業の始まりを告げるチャイムが鳴った。
「これで国語の授業を終わります。気をつけ、礼!」
授業の終わりを示すチャイムが鳴り響き、一人だけ反応が遅れてしまったことに思わず赤面してしまう。
ノートには涎がにじんだ跡が見える。どうやら退屈な授業にいつの間にか寝ていてしまったらしい。
4時間目の授業が終わり急いで購買まで走りにいこうとしたあたしはトイレの横を通ろうとした瞬間に何者かに中に引っ張り込まれた。
「おい、清彦!今回のアプデの内容見たか!?すごいの追加されてたぞ!」
女の子なのにまるで男のように興奮して喋る女子生徒。元あたしの妹の双葉であった。
「清彦?なにいってるの双葉ちゃん?あたしの名前は紅葉なんだけどなー?」
あたしは新しい紅葉として生まれ変わった。もうあたしはあんなグズな男とは違うのだ。
「ああっ、すいません紅葉さん、ついちょっと興奮しちゃって・・・、それより見ましたか?昨日のアプデの内容。」
確かにあたしのスマホからはまだあのアプリはダウンロードできる。しかしもう入れ替わりは固定されているはずだ。あれはもう使えないのに双葉ちゃんは何を言っているのだろう?
怪訝に思いながらもアプリを再ダウンロードし、重大なお知らせと書いてある欄を指でタップする。
そこに記されていたのは…
何か内容が長そうだったので学校の中で最も人気の少ないトイレでそれを読み始める。
※重大なお知らせ
本アプリをご利用いただき、誠にありがとうございます。
本メッセージは入れ替わりが固定されたお客様に向けて配信しております。
ユーザーの多くから、入れ替わった後に別の身体を愉しめないのは修正いただきたいとの声を受けまして、
本バージョンより、入れ替わり固定ユーザー様向けに、乗っ取り機能を追加いたしました。
やり方は元の入れ替わり機能同様、身体を乗っ取りたい相手に触れてアプリ内ボタンを押すこと(順不同)です。
乗っ取り実行ユーザの意識を移動するため、元の身体は睡眠状態に近くなりますため、制限時間2時間で元に戻ります。
(本体の健康を配慮して一度戻ると5分だけチャージが必要)
一度乗っ取りに成功した身体はアプリ内ストックに追加され、前述の手順を取ることなく自由に乗っ取りが可能となります。
(サーバ付加を考慮しストックは3人まで、ストック内容の削除は行えないのでご注意ください)
また、一度入れ替わり固定を行われた方に対しては乗っ取り効果を発揮できません。こちらも付け加えてご注意ください。
確かにすごい機能だ……そう思った瞬間、誰かの足音がした。
「せんせ、こっちこっち!こっちに変なのが居たんだよ!」
「双葉さん、ちょっと、落ち着いて!?」
声の主は双葉(利明)?と……この声は、三葉先生?
三葉先生は学校でもトップの美人と有名な先生なうえ、明るく気さくで、男子も女子もファンがすこぶる多い。
……まさか……!
「で、変なのって、何だったの?」
「ふふふ、変なのは私かもっ!えい!」
「えっ、ぅ、ぁ……なに……私の中に…………
おっと、ふふ、成功だ……!先生のカラダ、俺のサブボディにさせて貰うよ……!」
急いで個室から出ると、双葉の身体を支えながら自分の身体をまさぐる三葉先生の姿があった。
「あなた、まさか……」
「おや、紅葉ちゃんか、ふふふ、そうさ。そのまさかさ。
三葉先生の、いや三葉の頭の中は今、俺が支配してるのさ!」
三葉先生の身体を乗っ取った利明は、まるで自分の物かのように先生の名前を呼び捨てにしだした。
「ふふっ、三葉ってやっぱり凄く頭いいんだな。清彦や三葉と違って頭の悪い俺でも思考がスッキリしてるのが分かるよ。
三葉の身体を選んで大正解だったみたいだ!
この機能を見た時、真っ先に三葉のことが浮かんだからな。
先に頂いたぜ?ちなみに、ストックされた身体は固定状態と一緒で乗っ取りや入れ替わりは出来ないらしいぞ」
「じゃあ、先生の身体は……」
「そう。この身体は三葉と俺の魂以外受け付けない身体になっちゃったって訳!
メインボディの双葉とサブボディの三葉!このアプリは最高だぜ!!」
そう言いながら三葉先生の手で、三葉先生自身の身体と意識のない双葉の身体を撫で始める利明。
「俺のストックはこれで後2人だ。これからは三葉の頭脳も使って慎重にサブボディを選ぶことにするよ。
お前の良いカラダ見つけられるといいな!」
そういうと三葉先生は双葉を抱えたまま個室に入っていった。
少しすると個室からはちゅぱ、じゅる、じゅぞぞ、と卑猥な音が聞こえ始めた。
トイレの前にずっと立っているのも変だろう。あたしは隣の個室に入りもう一度内容を吟味する。
入れ替わりが固定化された相手に既に乗っ取られた相手…つまりは清彦と双葉の身体。
あとは利明の身体に今現在乗っ取られている三葉先生の身体には乗っ取りが使えないというわけか。
そう考えているときにかつてのあたしの妹であった双葉のことをふと思い出した。
あたしと元紅葉さんが入れ替わったときは紅葉の精神に俺の記憶を上書きすることで騒ぎになるのを回避する事ができた。
しかしあたしの時とは違って双葉は精神を上書きされることなく、今もなお中身が双葉の利明として生活していたはずだ。
性の知識がなかった双葉が性欲の塊である利明の身体に入れられてしまったのだ。きっと今も双葉は精神と肉体の乖離に相当苦しんでいる筈だ。
お兄ちゃんであるあたしが何とかしてあげなければ誰が双葉を助けられるというのだろうか。
とはいえ流石にあたしの身体で利明の身体を慰めるのは御免被る。けど…この機能さえあれば…♪
あたしは隣の個室から喘ぎ声を上げる三葉先生を置いてトイレを後にする。この機能を試すに相応しい相手がいる。
勿論その相手とは先日私が入れ替わるのに失敗してしまった双葉の親友である若葉ちゃんだ。
さっそく若葉ちゃんの教室に行こうと思ったが、その前に当初の目的を果たそう。
購買に向かってパンと飲み物を買って外に。うちの学校の購買の横には小さなテラスがあるのだ。
運よく空いていた席に座り食事をしながらもう一度アプリの説明を見る。
制限時間は事前に設定すれば短くも出来るし、携帯を操作すれば途中でも解除できるみたい。
だったら最初は短くして、あとでストックから乗っ取りし直せばいいかな。
パンを食べ終わったあたしはさっき若葉ちゃんにもらった包みを開ける。
中に入ったクッキーを摘まんで口に運ぶ。サクサクとした食感に、ほのかな甘みが口の中に広がる。
あたしに合わせて砂糖を抑えているみたい。そんな気遣いが出来るなんて、若葉ちゃんっていい子。
そんな子を乗っ取って好きにしようとしちゃってる…酷いことをするはずなのに、ドキドキする。
紅葉のすべてを奪い取った俺の心は、他人の身体を好きにするということに快感を覚えてしまったようだ。
人知れず興奮していると、お昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。
色々考えているうちに時間が経ってしまったみたい。
うーん、お昼休み中に済ませたかったんだけど仕方ない。あたしは教室に戻ることにした。
声にならない声をあげ、ビクン、ビクンと痙攣して"俺"の心と"あたし"の身体は人生で初めての絶頂を味わった。
魂が抜け出そうになるほどの強烈な快感の奔流のなかで、精一杯自分を押さえつける。
"俺"が"あたし"から出ていかないように"あたし"の中から"俺"を逃がさないように。
快楽でガタガタになった魂と肉体は互いに補い合い、食い込み、混ざり合って、"ふたり"は"ひとり"になる。
ひとつの"つがい"に生まれ変わったことで、肉体は男の嗜好を受け付けやすいように変革する。魂は女の快楽を受け入れやすいように変革する。
絶頂の余韻を身体中で味わいながら、俺は紅葉と生まれ変わっていく感覚に酔いしれていた。
「ふ、ふふふ……」
こんなに気持ちいいなんて。こんなに混ざりあえるなんて。イけばイくほど、この身体は俺に相応しく生まれ変わるだろう。
軽く股間を刺激すると、脳みそがピンク色のスイッチを入れる。体力は、まだまだ有り余っている。
「あぁ♥鍛えまくってくれてありがとぅ♥あたしぃ♥」
高い性能を誇る今の身体に感謝しながら、紅葉は体力が尽き果てるまで、取り憑かれたように自らの身体を貪った。
結局、夜が明けるまで紅葉を貪って、疲れたので泥のように眠って、起きるとまた自分の身体に興奮して、
回復した紅葉の身体で好き放題オナニーに暮れて日曜日が終わってしまった。
次の日、学校の廊下にて、ついに双葉を見つけた。
懐かしい妹。だが今は他人だ。見た目だけは……
「あの、双葉、さん」
「え、……紅葉、さん?」
「ふふ、知っててくれてるのね」
「そりゃ、同学年で一番の有名人じゃないですか!」
「そうね、双葉……私、貴方にぴったりの女の子になったの」
双葉の耳元で囁く。
「まさか……清彦?……そうか、紅葉にしたのか!
お兄ちゃんのことだし、てっきり若葉ちゃんに乗り換えると思ったんだけどな」
「ちょっと失敗したんだよ……でもこのカラダ、凄くいいよ」
「ふーん……でも残念だな。お前の記念日を祝えないなんて」
「? 記念日?」
「そう。昨日、日曜から月曜になる0時ね。アプリがアップデートされたんだ」
双葉にアプリがアップデートされた事を聞かされたが、既に"あたし"にはどうでもよかった。
「あたしにはあまり関係のない事ね。この体で初めての絶頂を知った後からこの体を手放したくなくなったもの」
「ふーん。その感じだと紅葉さんと"混ざった"の?」
「成り行き上ね、あたし今までスポーツしてたからシた事なくて、俺とあたし双方の初めての感覚を強烈に味わった所為で混ざっちゃったの」
あたしは双葉に説明した後それぞれの教室へと別れようとした。
「あ、そうだ。一昨日あたしになる前に若葉ちゃんに迫っちゃったから、清彦君の事フォローしておいてくれると助かるかもしれないわね」
「あー、だからの一昨日の清彦の様子がおかしかったのか…わかった、若葉ちゃんがうちに来なくなるのも困るしフォローしておく」
そしてあたしは自分の教室へと向かった。
「おはよー!」
「あ、おはよー」「紅葉ちゃんだ、おはよー」「はよー」
教室に入るのと一緒に挨拶すると、クラスの皆が挨拶を返してくれる。
俺にとっては知らない子達。あたしにとっては大切な友達。
一人一人の顔を見るごとに思い出が溢れてくる。
その中でふと、同性だからと油断して見せたあられもない姿に、今ならドキリと心臓が跳ね上がるのが分かる。
そんな混ざり合って、二度と離れることのない新しいあたしに、皆は何も気づくことなく、紅葉として認識している。
ゾクゾクが止まらないっ♥これからも、同じ友達としてよろしくねっ♥
身体中でゾクゾクした快感を感じ続けたまま、あたしは自分の席に鞄を置き、『いつも通り』仲のいい友達と話していると、始業のチャイムが鳴った。
始まった授業を何気なく聞いていると、ふとあることに気付いた。
あたしにとっては当たり前であったため、あまり気にして、気にすることが出来ていなかったことだったのだが。
授業の内容が、分からない。
この学校にもスポーツ推薦で入ったあたし。
部活を頑張ってさえいれば、頭が多少悪くても大丈夫だと楽観していたあたし。
だから勉強は二の次、いやそれ以下の扱いだったあたし。
……今までは確かにそう考えてた。でも今は違う。
今あたしの中には俺がいる。あたしの記憶と身体を好き放題する俺。
俺の魂が持つ知識を、知能を、思考を、あたしの脳みそに染み込ませていく。
混ざり合っていたあたしの脳みそで、俺成分がすこし強くなった。一人称も、俺の方が少ししっくりしちゃったかも。
でも頭はスッキリする。教科書の内容も、先生の話も余裕で理解できる。思わずほくそ笑んでしまう。
「前のあたしより、俺があたしを使いこなしてあげるよ……!」
その機会は早速訪れた。
「じゃあこの問題…那須野さん、出来る?」
那須野。紅葉の名字が呼ばれると席を立って前に出る。
黒板に書かれた、去年やった数式を見た俺は回答を導き出して書き出す。
「うん、よく勉強してるわね」
教室内がどよっとざわめくと先生が注意する。
かつての俺が座っていた廊下側の後ろ側ではなく、中列の前の方の、割と背は低めなあたしの席に戻る。
授業が終わると友達の一人が俺の元に来る。
「ちょっと、どうしちゃったの!?あんたが正解するなんて!私もよくわからなかったのに!」
「失礼ね。あたしもそろそろちゃんと勉強しないといけないなって思ったのよ」
「えー…スポーツ万能で可愛らしいに、勉強ができるまで付いたら最強じゃん?あ、でも…」
彼女の視線があたしの胸に向けられる。
「うるさいな、走りやすいからいいのよ」
あたしは少しイラッとするが、俺は女子と自分の胸の話を出来る女子であることに、
俺が紅葉(あたし)であることに多幸感を覚えた。
幸せをかみしめていると別のクラスメイトから声が掛かる。
「紅葉ー、お客さんー」
廊下に出ると、そこには若葉ちゃんが立っていた。
「あ、あのっ!一昨日は、助けてくれてありがとうございますっ!」
ぺこりとお辞儀をする若葉ちゃん。可愛らしい。
「そのっ、よかったらこれ…食べてください!」
差し出された小さな包みを受け取ると、若葉ちゃんは顔を赤くして走り去ってしまった。
包みを縛るリボンには「部活がんばってください」と書かれたカード。中身にはクッキー。
「モテモテですねー」
背後から掛けられた友人の声に思わずビクッとしてしまう。
「女の子にモテてもね…」
お約束の台詞を返す。もし若葉ちゃんが本当にあたしに惚れていたら…いや、それはさすがにないだろう。
クッキーは後でありがたくいただこう、と考えていると次の授業の始まりを告げるチャイムが鳴った。
「これで国語の授業を終わります。気をつけ、礼!」
授業の終わりを示すチャイムが鳴り響き、一人だけ反応が遅れてしまったことに思わず赤面してしまう。
ノートには涎がにじんだ跡が見える。どうやら退屈な授業にいつの間にか寝ていてしまったらしい。
4時間目の授業が終わり急いで購買まで走りにいこうとしたあたしはトイレの横を通ろうとした瞬間に何者かに中に引っ張り込まれた。
「おい、清彦!今回のアプデの内容見たか!?すごいの追加されてたぞ!」
女の子なのにまるで男のように興奮して喋る女子生徒。元あたしの妹の双葉であった。
「清彦?なにいってるの双葉ちゃん?あたしの名前は紅葉なんだけどなー?」
あたしは新しい紅葉として生まれ変わった。もうあたしはあんなグズな男とは違うのだ。
「ああっ、すいません紅葉さん、ついちょっと興奮しちゃって・・・、それより見ましたか?昨日のアプデの内容。」
確かにあたしのスマホからはまだあのアプリはダウンロードできる。しかしもう入れ替わりは固定されているはずだ。あれはもう使えないのに双葉ちゃんは何を言っているのだろう?
怪訝に思いながらもアプリを再ダウンロードし、重大なお知らせと書いてある欄を指でタップする。
そこに記されていたのは…
何か内容が長そうだったので学校の中で最も人気の少ないトイレでそれを読み始める。
※重大なお知らせ
本アプリをご利用いただき、誠にありがとうございます。
本メッセージは入れ替わりが固定されたお客様に向けて配信しております。
ユーザーの多くから、入れ替わった後に別の身体を愉しめないのは修正いただきたいとの声を受けまして、
本バージョンより、入れ替わり固定ユーザー様向けに、乗っ取り機能を追加いたしました。
やり方は元の入れ替わり機能同様、身体を乗っ取りたい相手に触れてアプリ内ボタンを押すこと(順不同)です。
乗っ取り実行ユーザの意識を移動するため、元の身体は睡眠状態に近くなりますため、制限時間2時間で元に戻ります。
(本体の健康を配慮して一度戻ると5分だけチャージが必要)
一度乗っ取りに成功した身体はアプリ内ストックに追加され、前述の手順を取ることなく自由に乗っ取りが可能となります。
(サーバ付加を考慮しストックは3人まで、ストック内容の削除は行えないのでご注意ください)
また、一度入れ替わり固定を行われた方に対しては乗っ取り効果を発揮できません。こちらも付け加えてご注意ください。
確かにすごい機能だ……そう思った瞬間、誰かの足音がした。
「せんせ、こっちこっち!こっちに変なのが居たんだよ!」
「双葉さん、ちょっと、落ち着いて!?」
声の主は双葉(利明)?と……この声は、三葉先生?
三葉先生は学校でもトップの美人と有名な先生なうえ、明るく気さくで、男子も女子もファンがすこぶる多い。
……まさか……!
「で、変なのって、何だったの?」
「ふふふ、変なのは私かもっ!えい!」
「えっ、ぅ、ぁ……なに……私の中に…………
おっと、ふふ、成功だ……!先生のカラダ、俺のサブボディにさせて貰うよ……!」
急いで個室から出ると、双葉の身体を支えながら自分の身体をまさぐる三葉先生の姿があった。
「あなた、まさか……」
「おや、紅葉ちゃんか、ふふふ、そうさ。そのまさかさ。
三葉先生の、いや三葉の頭の中は今、俺が支配してるのさ!」
三葉先生の身体を乗っ取った利明は、まるで自分の物かのように先生の名前を呼び捨てにしだした。
「ふふっ、三葉ってやっぱり凄く頭いいんだな。清彦や三葉と違って頭の悪い俺でも思考がスッキリしてるのが分かるよ。
三葉の身体を選んで大正解だったみたいだ!
この機能を見た時、真っ先に三葉のことが浮かんだからな。
先に頂いたぜ?ちなみに、ストックされた身体は固定状態と一緒で乗っ取りや入れ替わりは出来ないらしいぞ」
「じゃあ、先生の身体は……」
「そう。この身体は三葉と俺の魂以外受け付けない身体になっちゃったって訳!
メインボディの双葉とサブボディの三葉!このアプリは最高だぜ!!」
そう言いながら三葉先生の手で、三葉先生自身の身体と意識のない双葉の身体を撫で始める利明。
「俺のストックはこれで後2人だ。これからは三葉の頭脳も使って慎重にサブボディを選ぶことにするよ。
お前の良いカラダ見つけられるといいな!」
そういうと三葉先生は双葉を抱えたまま個室に入っていった。
少しすると個室からはちゅぱ、じゅる、じゅぞぞ、と卑猥な音が聞こえ始めた。
トイレの前にずっと立っているのも変だろう。あたしは隣の個室に入りもう一度内容を吟味する。
入れ替わりが固定化された相手に既に乗っ取られた相手…つまりは清彦と双葉の身体。
あとは利明の身体に今現在乗っ取られている三葉先生の身体には乗っ取りが使えないというわけか。
そう考えているときにかつてのあたしの妹であった双葉のことをふと思い出した。
あたしと元紅葉さんが入れ替わったときは紅葉の精神に俺の記憶を上書きすることで騒ぎになるのを回避する事ができた。
しかしあたしの時とは違って双葉は精神を上書きされることなく、今もなお中身が双葉の利明として生活していたはずだ。
性の知識がなかった双葉が性欲の塊である利明の身体に入れられてしまったのだ。きっと今も双葉は精神と肉体の乖離に相当苦しんでいる筈だ。
お兄ちゃんであるあたしが何とかしてあげなければ誰が双葉を助けられるというのだろうか。
とはいえ流石にあたしの身体で利明の身体を慰めるのは御免被る。けど…この機能さえあれば…♪
あたしは隣の個室から喘ぎ声を上げる三葉先生を置いてトイレを後にする。この機能を試すに相応しい相手がいる。
勿論その相手とは先日私が入れ替わるのに失敗してしまった双葉の親友である若葉ちゃんだ。
さっそく若葉ちゃんの教室に行こうと思ったが、その前に当初の目的を果たそう。
購買に向かってパンと飲み物を買って外に。うちの学校の購買の横には小さなテラスがあるのだ。
運よく空いていた席に座り食事をしながらもう一度アプリの説明を見る。
制限時間は事前に設定すれば短くも出来るし、携帯を操作すれば途中でも解除できるみたい。
だったら最初は短くして、あとでストックから乗っ取りし直せばいいかな。
パンを食べ終わったあたしはさっき若葉ちゃんにもらった包みを開ける。
中に入ったクッキーを摘まんで口に運ぶ。サクサクとした食感に、ほのかな甘みが口の中に広がる。
あたしに合わせて砂糖を抑えているみたい。そんな気遣いが出来るなんて、若葉ちゃんっていい子。
そんな子を乗っ取って好きにしようとしちゃってる…酷いことをするはずなのに、ドキドキする。
紅葉のすべてを奪い取った俺の心は、他人の身体を好きにするということに快感を覚えてしまったようだ。
人知れず興奮していると、お昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。
色々考えているうちに時間が経ってしまったみたい。
うーん、お昼休み中に済ませたかったんだけど仕方ない。あたしは教室に戻ることにした。