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Patchworker 増設話

2019/06/16 04:42:47
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増9片「報復//降伏」」

面倒な闖入者も入ったが、撃退したことだし気にせず遊ぶことにした。
だってそうだろう? バカな連中を相手にしたことを一々気にして、その後楽しめなくなることはつまらないからだ。
海で遊ぶとき、泳いだり、浜辺で遊んだりする事を邪魔されるほど嫌なことはないし、気分を害される事は不愉快だし。
…けど、そんなことを許してくれないのは何の因果だろうね。
日差しが少しばかり強くなってきた2時頃、交代で行っていた荷物番が俺になった時、ナンパをして逃げ帰った奴らが戻ってきやがった。
「…ようやく1人になったな、手前」
「ん? また会ったみたいだけど、どうしたのかな?」
「ふざけてんじゃねぇ! さっき俺達を叩いたとき、何かしやがっただろ!」
あ、ようやく気付いたんだ。えらいえらい。
「何かしたって…、君たちを叩きはしたよ? しつこくナンパしてくる君たちをね」
「それだけじゃねぇ! 他にも何かしやがったんじゃねぇか!?」
「…なんでそんな風に思うの? 君たちの勘違いっていう可能性だって、十分にあるでしょうに」
「ンな訳あるか! お前に叩かれてから…、……取れなくなっちまったんだぞ」
声が少しばかり小さくなる。あぁ、その辺の羞恥心は残っていたか。
「何が取れなくなったの? 元々成功の可能性が無かった女の子?」
「ふざけんな!」
「俺たちのパンツを脱げなくしておいて、バカにしてんのか!」
「マジに話聞く気もないフリしやがって!」

いつのまにか俺を囲むように男たちが立って、それぞれに怒声を浴びせてくる。
あぁうるさい、3方向から同時に言われたって通じるもんか。
「パンツ脱げなくなったって、何? ナンパしておいて自分のムスコにいきなり自信無くしたりしたの?」
「……手前!!」
「っ!」
リーダー格の男がキレたのか、いきなり胸倉を掴みだした。
「さっきからスカして…、ちょっとはイイ女だからって優しくしてりゃつけ上がってさぁ!」
「君たちの言動のどこに優しくしてた所があったの…? っていうか掴まないでよ、せっかく買った水着がのびちゃうじゃないか」
「うるせぇ! そっちがそういう態度だってんなら、こっちも考えがあるからな…!」
そんな事を言いながら、空いている右腕を振りかぶってくる。しかも平手じゃなくて拳と来たもんだ。
「あぁそう、そういう手段に訴えるんだ。…じゃあ遠慮しなくていいよね」
「何言ってんだよっ!」
水着を掴んでいる男の左腕に触れて、『分解』を発動させる。
瞬間、男の左腕は肘から先が取れ水着を掴む力を無くし、ぼとりと砂浜に落ちた。
体を屈めてリーダー格の拳を避けると、そのまま両手を広げ、俺を囲んでいる他2人の足先に触れると、同時に足首から下を『分解』してやる。

接地面を無くして倒れる後ろの2人に怪訝な顔を見せたリーダー格の男は、直後に左腕の感覚が無い事に気付いたようで、
「…な、なんだコレ!? お、俺の腕が!? どこに行った、どこに!?」
「ここにあるよっ!!」
狼狽している隙をついてその腕を拾って立ち上がり、こん棒で殴るような勢いで振りぬいた。
手先の状態は平手のようになっていたらしく、バチンと乾いた音が響いた。
倒れた後ろ2人も何が起きたかわかってないようで、いきなり立てなくなったことに驚いている。まだ把握はしていないためか、恐慌状態にもなっていないようだ。
「…は?」
「いやはや、本当に頭が悪いようで困ったモノだね。一人相手に複数で囲んで数の有利を教えたつもりだろうけど…」
呆けてる男の肩に手を置いて、
「人の嫌がることをするなって事は教わりもしなかったのかこの馬鹿野郎がっ!!」
思い切り男の股間に、膝を叩き込んだ。
「――――――――っ!!??」
ぐにゃりとした気持ち悪い感触を今度は膝で味わうと共に、リーダー格の男の顔が一瞬にして青褪める。
直後に“失禁しました”と証明するように水着の前が勢いよく濡れだした。うわ汚っ。

「お前たちみたいな連中相手のナンパを嫌がってた事をわからない低脳どもが。這い蹲って無様に漏らしてやがれ!」
ついでに3人の頭を一発ずつ蹴っ飛ばしてやる。
気持ちいいなんて絶対に言えないし、言いたくもない感覚だ。これを平気で行える人間は、どんな考えを持っているのか。気にしたくもないけど。
荒げた息を落ち着けていくと、徐々に冷静になると同時に、周りの事を見る事が出来るようにもなった。

それは、遠巻きにこちらを見ている海水浴客達。何をしているのか、というのは把握しきっていないが、こっちが頭を蹴っていたという事は解ったのだろう。監視員や、果ては警察を呼ぼうとして携帯を探している。
いや、もしかしたらこの状態の写真を撮ろうとしているのかもしれない。
その瞬間に、下手に注目を浴び過ぎた事を理解する。
すぐに男たちのパーツを『接続』し直して自分の分の荷物を持ち、この場を離れるために足を動かした。

「ちょいちょいみーくん、どうしたのさこの惨状! アレさっきのナンパ連中だよね?」
「すみません撫子さん、先に帰らせてもらいますね…」
「先にって、ちょっとくらい説明…、おーいみーくーん!?」
騒ぎを聞きつけてか戻ってきた撫子さんの声も置き去りにして、足早にその場を去っていった。

増10片「1人//2人」

「はぁ…」
何であんな事をしてしまったんだろう。少しばかりの後悔が俺の中で渦巻いていた。
放っておけばあの連中は皆に迷惑をかけるだろう。怪我を負わされる可能性も、最悪の場合は暴行された可能性もあったはずだ。
葬るならもっと人目のない所でやって行けば良かった筈だ。あんな人前でやってしまっては、周りの人によって通報される可能性が大きくしかならないじゃないか。
そんな、後悔ばかりが頭をめぐる。
着替える為のシャワー室で潮水を流しながら、渦巻く考えをどうにか落ちつかせようとバルブを最大まで捻ると、痛い位の勢いでシャワーが身体を叩いていく。
「……」
見下ろして見えるのは、やっぱり綺麗な身体。もうちょっと見せていたかったけど、あの場であれ以上居座れるかと問われたら、多分無理だろう。
「少しばっかり、神経が太くなってきたと思ったんだけどな…」
あんな事をしたのだから、俺はもっと色んなことが出来る。それは根拠のない自信だったのかもしれない。
結局俺は、受け止めようとしてないだけの小者で、やった事に後悔をするダメな奴だというのか。
「……いや、考えても仕方ないよな…」
バルブを閉め、水の止まったシャワー室で呟く。
そうだ、皆の前ではいつも通りでいなきゃ。潰れてる姿は見せられない。くだらない矜持かもしれないけど、俺は持ち合わせているのだ。
だから、いつもの顔でみんなを出迎えないと。

タオルを体に巻いてシャワー室を出た瞬間、
「おっすみーくん」
そこには撫子さんがいた。少しばかり驚いてしまうが、どうにか取り繕って彼女に聞く。
「…撫子さん? どうしたんですか?」
「いやね、いきなりみーくんが帰ろうとしてたから気になって来たんだよ」
少しだけ、ずきりと心が痛んだ。
「…あれだけ人前で騒ぎを起こしといて、それでも居続けたら、他の人に迷惑になりますって」
「かもね。それでも何も言わずに帰ろうとするのは、なんか違うんじゃない?」
「一理はありますね。それじゃ、あんなことをして人前に居られませんし、俺は先に帰りますから」
「待ったみーくん」
視線を合わせられず、瞼を伏せたまま撫子さんの横を通り過ぎようとすると、唐突に掴まれた。腕とかではなく、むしろ腰をぎゅっと。少しだけくすぐったく、変な声が出るのを抑えるので精一杯になる。
そのまま撫子さんに押し込まれ、俺は再びシャワー室の中に入ることになる。
扉が閉められるも、胴体部分しか隠す場所の無い小さな扉だ。全部は隠れず、2人で1つのシャワールームに入っているのが外からは丸見えになっている。
「なっ、ん、どうしたんですか撫子さん…」
「どうしたのか、はむしろこっちのセリフなんだけど?」
壁に身体を押し付けられ、目を逸らす事も出来ない状態で、撫子さんがじぃと見つめてくる。

「…ん。やっぱみーくん、無理してたか」
彼女の瞳に吸い込まれるように、見つめ返していると、そんな事を呟かれた。見透かされたような気がして、少しだけ身が縮こまる。
そして次の瞬間、ぎゅ、と抱きしめられた。
「あの、撫子さん…?」
「んー、気にするない、みーくん。無理した時は人肌が一番だよ」
女同士の身体が触れ合い、冷え始めた身体がちょっとだけ温まる。背中に回される撫子さんの腕の感触と、少しばかりの力強さ。
気付けば俺も、彼女の体を抱き返していた。
「……辛かったかいみーくん? 流石に人前じゃ意地張るのもキツいよね」
本当に見透かされていたのか。耳元で呟かれる言葉に、俺はどうしたらいいのか半ば分からず、ただ腕の力を強めるしか無かった。
「ん、よしよし…」
そっと頭を撫でてくる彼女は、こんな時は本当に年上としての包容力を見せつけてくる。
思えば最初に身体を重ねた時も、こんな風に弱さを見せつけて、受け入れようとする彼女に縋ったのが始まりだった憶えがある。
(あぁ、俺は最初からこの人に勝てないんだな…)
ある種の敗北宣言を俺の中に根付かせながら、縋るように撫子さんの体に抱きつき、身体を押し付けた。
ぎゅぅと柔肌同士がぶつかり合い、膨らんだ胸同士が互いの身を潰し合う。

「…ね、みーくん」
「何です…?」
「勃ってきちゃった」
いたずらをしたばかりの子供のような笑顔で、撫子さんは股間を俺の股間に押し付けてくる。
パレオと水着、2枚の布越しであってもなお存在を主張し、熱を伝えてくるちんこは、俺に「落ち込むことなど許してない」と言わんばかりだ。
「…もう、仕方ないですね。でもここじゃダメですよ」
「えーなんでー?」
「外から丸見えだからです」
「じゃ、別の所なら良いんだ?」
笑顔を崩さないままの撫子さんは、外から見えないようさらに俺の股間部へ向けてちんこを押し付けてくる。それほどまでに大きく勃起しているのが解ってしまい、恥ずかしいやら困ったやら、俺自身良く解らなくなる。
「えぇ良いですから。…ちゃんと潮水流してから来てくださいね」
毒気を抜かれたように息を吐き、撫子さんから身を放す。いきりたったちんこを鎮めるように、バルブを開いてシャワーを流し、彼女の体にぶち当てながら個室から出ていく。
「わぷっ。ちょっとみーくん、来てってどこに…」
「俺達の家ですよ。…さっきも言いましたけど、先に帰りますね」
タオルで髪の水気を吸い取りながら、更衣室へと向かう。あれ以上居られないのは変わらないので、俺は海水浴場から離れるしかない。
けれどその足取りは、さっきより断然軽かった。

菫ちゃん、胡桃ちゃん、俺、撫子さんのグループに改めて先に帰ると連絡を入れて、きちんと服を着替える。洗面台に添え付けているドライヤーで、髪が痛まないよう念入りにブローをしてから外へ出る。
すでに連絡をしてあった人に来て貰い、後部座席に乗って家へと戻る事にする。
「……」
1人より2人が良い、2人より3人が良いとは何の言葉だったか忘れたけど、俺1人でいるよりは撫子さんも含めた2人の方が、きっと出来る事が幅広くなっている筈だ。
例えばこの心とか。
1人では沈むばかりの心も、2人いれば気付けば浮かび上がっている。
その関係もあるのだろう、俺はなんとなく、もう撫子さんと離れるのは出来なくなってしまったんじゃないか。そんな気持ちにさえなってくる。
さて、皆が帰ってくる前にやる事をひとつやっておかないと。
電話をかけて、銀の湯に来ていた人達にいくつか仕事を頼む。
解りやすく言うと、「佐々倉愛衣という人物の痕跡の抹消」。だって彼女自身はもう別の人になっちゃったし、体は継ぎ接ぎにして俺が使ってるし。
戸籍は使ってもいいかもしれないけど、正直しがらみを考えると、邪魔になるのだ。
適当に事故を演出してもらい、死んだことにする。家族は洗脳でもさせて、ゆっくりと納得させていこう。
そうして存在が縛られなくなって、初めてこの体を本当の意味で俺の物にすることが出来るのだから。

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