.4『ファンタジー世界で耳としっぽ』
「いらっしゃいませお客様。バニー・イン・ナイトメアへようこそ!」
「あ、どうも」
数日後。俺は再びバニー・イン・ナイトメアに来ていた。
「あれ?いつもの金髪リボンの子は?」
今日出迎えてくれたのは前回俺がなっていた銀髪ロングのバニーガール、三穂さんだった。
「今日は彼女はお休み。代わりに私が出迎えなのよ」
「へー」
そう言いながら俺は三穂さんの股間を見つめる。前回のようにもっこりは見当たらない。
「薬、飲んで来たんですか?」
「あら。そんなもの飲んでないわよ。私は元々女なんだから」
三穂さんは自慢の胸を寄せながら俺を見つめた。
「へ?それってどういう…」
「各シチュエーションはね、全部そういう『設定』なのよ。現実とは違うわ。… あ、ここって夢の中だっけ」
ふふっ、と笑う三穂さん。
「ま、いいか。じゃあ今日はお願いします」
「ええ、いいわよ。… あ、そうそう。悪夢の方は大丈夫かしら。何度も経験しているとね、心がすり減って廃人になりかねないのよ」
どくん、と俺の心臓が跳ねる。
慣れるはずのない恐怖の体験。思い出すだけでも嫌な汗が出てくる。
「でも、バニーガールになれるなら悪夢なんてどんとこいさ」
俺は虚勢を張った。初めての悪夢以降、眠れない日が多くなった事は内緒だ。
「じゃあ。いつものルーレットお願いするよ」
「分かったわ」
三穂さんが指をパチンと鳴らす。瞬時にルーレットと金髪リボンの子以外のバニーガールが出現する。
ルーレットが周り出す。カラカラン、と音を鳴らし、今回出たマス目は赤色だった。
赤色…あの眼帯の子か。
最初見た時からなんだか他のバニーガールとは雰囲気が違っていて、気になっていたんだ。
「おっけ。今日はボクの番だね」
「ボクっ子!?」
「フっ。何を驚いているんだいブラザー。そんなにボクっ子が珍しいのかい?」
「いや、そういうわけでは…」
なんだかイメージと違っただけだ。
「今日のキミは本当に運がいい。なぜなら、ボクの体を自由に使えて、女の子として楽しめるんだ。
これも運命の力…ディスティニースピリットの思し召しだね」
えーっと…何を言っているんだろう、この子。
「あ、もしボクの体になったからって、この眼帯を開放しちゃダメだよ?
これはね、世界を滅ぼす竜が封じられているんだ。ボクは子供の頃にこいつと戦って、この眼帯に封じ込めたんだ」
眼帯少女は聞いてもいない事を語り出す。そしてよくわからない妄想話が数分続いた。
「なるほど。中二病か」
そう、俺は理解した。
「じゃあボクの設定を説明するね。ボクのシチュエーションは『ファンタジー世界』さ。
モンスターやダンジョン、そしてお宝さがしの冒険心溢れるシチュエーションだよ」
「それはまた前回とはまるで違う内容だな」
「もちろん。お客様を飽きさせないように色んな事を試しているからね」
俺としては楽しめればそれでいいんだけど。
「それじゃ。早速始めようか。ボクの中に入る方法だけど…ほら、あそこに階段が見えるよね?」
「ああ。見えるな」
…なんだか嫌な予感がした。TSモノと階段。その2つの組み合わせで出来る答は1つ。
「さぁブラザー。階段落ち、いってみよーっ!」
「ちょ、待って。心の準備が」
ぐいっ、と眼帯バニーガールが俺を引っ張り、一気に階段を転げ落ちた!
「ぬわーーーーっ!」
俺が悲鳴を上げると同時に、意識がぷっつりと途切れた。
――――――
がたん!
「くぅぁ… いっててて… 酷いことしやがるなぁ」
俺は床にぶつけた頭をさすった。すると、そこにはボリュームのある長髪がある事に気がつく。
「あ。もう始まってるのか」
もう慣れた何度目かの体の変化だ。むちむちの女体に、赤のバニースーツを着ている感覚がある。
頭の上にはうさみみが乗っているし、うさぎのしっぽももちろん付いている。
当然だが男の象徴は影も形も無い。
毎回の事だが、女になっていると実感するこの時はとてもいい気分になる。
「で、ここはどこなんだ?」
周囲を見渡すと、どうやらここは宿屋の一室のようだ。
視界が少し狭い気がするのは、眼帯をしているせいか。
いつものように自分の『設定』を思い出す事にする。
…この体の名前はエイル=タティハ=ルーファウスというらしい。タティハが名乗る名前だ。
種族は兎人。バニースーツに似た皮を身に纏う、5mほどのジャンプ力が持ち味の戦士だそうだ。
確かに非常に体が軽く、歩きづらいと思われるハイヒールを履いててもかなり軽快に動けるようだ。
「ええっと…?この耳も尻尾も、本物なのか?」
兎人の耳と尻尾は本物らしい。ついでにハイヒールもツメの一種で体に一体化している。脱ぐことは出来ないようだ。
俺はバニーガールの象徴である耳をさわさわと触ってみる。すると、そこに神経が通っているらしくかなりくすぐったく感じた。
「へー。面白いな。それで、尻尾の方は…ひゃんっ!」
どうやら尻尾はかなり敏感らしい。これじゃあ性器を露出しているのと変わらないような気がする。
…そんなタティハだが、今回は遺跡の冒険に出かける予定らしく、今日は宿で一泊していたらしい。
窓から外を眺めるともう夜明けのようだ。
「という設定だな。よし。準備をしてから遺跡探検に出発するか」
俺は冒険という言葉にわくわくしながら荷物を纏めた。
ファンタジー世界というのは人を惹きつける魅力があると思う。
朝靄に包まれた街路を歩いていると、そう思わずにはいられない。
行きかう人々、朝一の露店、楽し気な音楽… そしてバニーガールの戦士の俺。
こういうのも悪くないなぁ、と頷きながら、俺は目的地の遺跡へと辿り着いた。
遺跡の入口には親切にも『危険、モンスターが出ます!』という看板が設置されていた。
俺は注意書きを無視し、遺跡の中へと突き進んでいく。
途中にモンスターが仕掛けたであろう罠が張り巡らされていたが、運動神経抜群の兎人の体はやすやすと突破できてしまう。
「難易度はイージーって所かなー」
あまりにも道中が楽勝すぎて、俺の心に余裕が出来てしまった。
…たぶん。それがいけなかったのだろう。
気がつくと、俺は小鬼型のモンスター複数に囲まれていた。
「…ちょっとまずいかも?」
俺は剣を抜き、高く飛び跳ねる。高所からの一撃。それが兎人の必殺技だ。
「くらえ!」
どすっ。とモンスターの一体に致命傷を負わせる。そのモンスターを蹴とばしつつ剣を引き抜き、次のターゲットへ攻撃を仕掛ける。
流れるような連続攻撃でたちまちモンスターの群れを全滅させてしまった。
一応、全部峰打ちにしておいた。殺すのもなんだし。
「よっし。勝利だ!… ってなんだか、よくある異世界チートモノっぽいなぁ、これ」
まぁ、ばったばったと斬り伏せた感覚は爽快だったし、気分は悪くない。
そんなわけでモンスターに勝利した俺は、モンスター達が守っていた宝箱を見つけた。
「中身は何かな。レアアイテムだといいんだけど」
がちゃり。宝箱を開ける。…すると、中にはよくわからないものが入っていた。
「なんだ、これ」
スイッチのオンオフが出来る装置。スイッチをオンにすると振動する楕円形の玉が複数。玉を固定するためのテープ…
そこでハッ、と気がついた。
「これ、ローターか?」
なぜファンタジー世界にそんなものがあるのか分からないが、どうやらこれで楽しめという事らしい。
「……付けてみるか」
ローターを乳首付近や股間、耳と尻尾にとりつけた。しっかりとテープで固定し外れないようにする。
スイッチを握る俺。このスイッチを押せばまた新しい快感で喘ぐ事になるだろう。
ごくりと唾を飲み込む。
「いくぞ… せーのっ!」
カチ。ヴィィィィン! と振動を始めるローター。
「ひゃ、ひゃ、ひゃああああっ!!?」
これは、やばい!小刻みに震えるローターが俺を凌辱する。暴力的に犯し始める!
背中を反らし喘ぐ俺。だらりとよだれが垂れてくるがそんなものお構いなしだ。
乳首や股間の感度もさる事ながら、耳と尻尾はさらに敏感に感じてしまう。
熟練の戦士のバニーガールも、このローターには抗う事が出来ない。気持ちいい。気持ちよすぎるっ!
俺はイった。しかしイってもまた再度快感が押し寄せる。イってもイっても終わらない。
「あひ。ひぇぁ、ああああんっ!」
だめだ。これ以上やると頭がおかしくなる。
俺はスイッチをオフにしようと装置に手を触れた。
カチ。カチ。…あれ?
カチ。カチ。ヴィィィィン。ヴィィィン!
「なな、なんで。なんで止まらないんだよっ!」
いくらオフにしてもローターは止まらない。仕方なくローターそのものを取り払おうとするが…
「なんで取れないんだよぉっ!」
ただテープで固定しただけなのに、ローターはガッチリと固定され、外れなくなっていた。
絶望感が俺を襲う。俺、このままイきっぱなしなのか?こんなに気持ちいい状態がずっと…
そう考えると、またイってしまった。股間からはだらだらと愛液が流れ出る。
本当に、このままだと俺は…狂ってしまう!
「へへ。お楽しみのよーだなー」
「へ?」
よがり狂っていたせいで気が付かなったが、いつの間にか俺の周囲にモンスター達が集まっていた。
こいつら、負けたふりをしていたのか?
「そのローターはなー。呪いのマジックアイテムなんよ。だから魔法で解かないといけないのさっ。まんまとひっかかりやがった」
げらげらと笑うモンスター。くそう、この宝箱は罠だったのか!
「今のお前なら楽に勝てるが…それじゃあ楽しくないな。どれ、ケツを向けな」
快感によってまともに動けない俺はモンスターに腕を掴まれ、強制的に尻を向ける事になる。
「ひゃぁっん。や、やめぇっ…」
「おーおー。だらだらと漏らしてる淫乱なケツだなオイ。そーいう奴にはお仕置きが必要だぁ!」
ぱーんっ! と、俺の尻に張り手をされる。
「ひっ! あ、ああっ」
「そーれ。まだまだっ!」
ぱしーん。ばしーん! 何度も叩かれる俺の尻。痛い、痛いけど…
…気持ちいい。
快感によって狂う俺は、どんな事をされても快感に変換されてしまう。
思わずアヘ顔になっているバニーガールの俺… それを見て笑うモンスター達。
一体のモンスターに耳を舐められた。これでまたイく。
さらに尻尾を執拗に攻められ、快感に踊らされる。
イく。また…また、イっちゃう!ああああっ!
ぶしゃっ。尿とは違う何かが俺の体から吹き出た。
… 数分後、満足したモンスター達から俺は解放された。
全身の力が抜けぐったりとしている俺。
女のニオイが体中から立ち込める。何回イったのか、わからないくらいイった。
気持ちよかった。あんなに女としてイったのは初めてだ。
そして、そろそろ来るであろう悪夢を、俺は予感した。
――キィィィン。あの耳鳴りがする。
周囲の温度が下がり、快楽で火照った体は瞬時に冷えてしまう。
≪ナイトメア≫
ズシンっ。ダンジョンの奥から牛のようなものが歩み寄って来る。
それは真鍮で出来た金色の牛の像。腹の辺りに切れ目が入っているのが見て取れる。
俺は危険を察知しそこから逃げようとする。
だが牛の腹がパックリと開き、そこに凄まじい勢いで吸い込まれていく。
牛の像の中に入れられ、閉じ込められる。
とても狭く暗い。膝立ちにすらなれない。これから何が起きるのだろうか。心臓がドキドキし始める。
何だか熱くなってきた。何かが燃えているようだ。これは…像の下から、火あぶりにされている!?
「熱っ!」
牛の像が赤熱し始める。中にいる俺は熱さによって苦しくなる。
熱さはさらに上昇する。全身が燃えるように熱い。
俺は少しでも熱さから逃れようとバニーの体を暴れさせる。
「うぁ… ああああああ!」
視界が赤く染まる。骨まで溶かされる灼熱の高温。途中で気を失う事が出来ればどれほど楽か。
だがなかなか死ねない。早く俺を殺してくれ。早くこの悪夢を終わらせてくれ!
「うわぁぁあああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あっっっっ!!!」
血涙を流しながら、俺は絶命した。
――――――
「…………」
俺は元の体に戻っていた。全身の力がようやく元に戻ってくる。
視界にはバニー・イン・ナイトメアの天井が映っている。
「お帰りなさい。悪夢は終わりましたよ」
冷たいドリンクを持って来た三穂さんが俺を起こしてくれる。
「毎度のことながら…えげつない悪夢だった…」
また、眠れなくなりそうだな、と思った。
「仕方ありませんよ。悪夢…ですからね。人の考えうる最悪の結末ですから」
「人の考えたもの?…いや、あれを考えつくのは悪魔か何かだ」
それくらい、今回の悪夢は強烈だった。
ただ、バニーガールの体験はそれに見合うほどの快楽だったとも思う。
この先俺はどうなってしまうんだろう。快楽か、悪夢か、どちらかによって狂ってしまうかもしれない。
「じゃあ、今日はこれくらいで。また来るよ」
俺はふらふらと立ち上がり、入口へ向かう。
「お気をつけて。またのご来店をお待ちしています」
心配そうな顔をした三穂さん。少しだけ俺の心を癒してくれた気がする。
そして俺は今日の夢から覚めた。
―――――