.7『バニー・イン・ナイトメア』
あれから数日、俺はバニー・イン・ナイトメアに行く事無く毎日を過ごしていた。
あの悪夢を見て以降、行く気になれないからだ。
あんなになりたかったバニーガールだけれど、今ではバニーガール化イコール悪夢と関連付けられ、
バニーガールになんてなりたくないとすら思っていた。
「はぁ…」
俺は会社から帰ると一人暮らしのアパートの電気を付けた。
コンビニの弁当を食べて、ちょっとだけネットをやって寝る。
刺激のない毎日だが、これでいいんだと俺自身に呼びかける。もう、あんな所にいくものか。
コンコン。俺がネットをしているとドアがノックされた。こんな時間に一体誰だろう?
俺は返事をせずにドアを開けた。
するとそこには、彼女がいた。
「!!!」
金髪リボンのバニーガール。彼女がいつものような笑顔で、俺の前に立っていたのだ。
「何で、何で…っ!?」
「こんばんは。少し、上がらせてもらいますね」
そう言ってハイヒールを脱ぎ部屋に入るバニーガール。
俺は呆然としていた。夢の中の住人である彼女が、なぜここに…?
「今日は、お別れを言いに来ました」
「え…?」
悲しそうな表情をする彼女。
「数日間貴方様のご利用が無かったので、バニー・イン・ナイトメアのサービスは打ち切られました。
今までのご利用、ありがとうございました」
「あ… そ、そう、なのか…」
もう、バニー・イン・ナイトメアには行けないのか。それは即ち、一生バニーガールにはなれないという事を意味する。
すでにバニーガールにはなりたくないと思っていても、何故か消失感があった。
「それじゃあ、もう、会えないんだな」
ただ、目の前のバニーガールにもう会えないと思うと、それは寂しくも思える。
「はい。そう…ですね」
金髪リボンのバニーガールは言う。
「その前にちょっとだけ、お話ししましょうか。バニー・イン・ナイトメアの事です」
「話?ああ、付き合うよ」
俺とバニーは机に向かいながら座った。
「バニー・イン・ナイトメアは夢の中の狭間の出来事と、最初に言いましたよね。でも実は、あの空間は他人と共有しているんです」
彼女は淡々と話し始める。
「人にはいろんな人がいます。とてもいい人とか、楽しい人、嫌な人、…えっちな人。
あの空間は、それらがないまぜになって出来上がった、夢の中の楽園なんです。
自分では考えつかない、途方もない出来事もあり得たのはそのせい」
なるほど。だからあれほど変態ちっくな夢もあったのか。
「ああ、ちなみに若葉ちゃんや三穂さん達は、現実の住人なんです。貴方と一緒に夢を見ていたんですよ」
「そ、そうだったんだ」
「楽しかったですか?彼女たちと一緒に見る夢は」
「……うん」
「ただ、私だけは違う存在なんですよね」
…あれ、なんだろう。空気が変わった?
「夢魔をご存じですか?人に夢を見させて、夢を喰らう悪魔」
唇に指を当て、妖艶に体をくねらせる。
「…私は、現世と夢の世界を行き来し、夢の楽園を管理する管理者の存在。
ああ… 今まで私の名前、名乗っていませんでしたね。私はフタバ・ルア・エルフローネ。
貴方様に夢を見させて、夢を食べていた夢魔、なんですよ」
「え?ええ?」
微笑むフタバ。その表情に背筋がぞわっ、としてしまう。夢魔?そんな存在、あり得ない。
俺に顔を近づけるフタバ。
吐息が俺の顔にかかる。俺は彼女の視線に魅了されてしまったかのように動けなくなってしまう。
いつの間にか俺の股間のそれは大きく勃起してしまっている。
「あ、ああ…!それじゃあ、まさか、お別れを言いに来たって…」
「察しがいいですね。そう、貴方様はもう、おしまいだから。
悪夢によって消耗した貴方様はもう、あと一口で全部…魂の髄まで食べられてしまうんですよ」
「ま、待ってくれ。ここは夢の中なんかじゃない。現実だ!」
「夢?現実?私にとってその境界は意味を成しません。貴方様が夢を見ていたんじゃない。私が、夢を見させていたんですから…!」
フタバが指をパチンと鳴らした。
すると、世界が一瞬で塗り替えられ、俺の部屋がバニー・イン・ナイトメアに変化する。
目の前にはルーレットが置かれ、また夢が始まる事を直感した。
「さぁ、最後のルーレットです。これから始まるのは最後の快感であり永遠に続く悪夢」
「やめろ、やめてくれ!」
俺は叫んだ。だが回り出したルーレットを止められない。
「今のうちに私の『設定』を伝えておきますね?私は『永遠の絶頂』。ルーレットが止まると同時に、貴方様は私の体になります。
そして、イきはじめます。絶頂します!…そして、その絶頂は止まらない。貴方様が死ぬまで…いえ、死んでも止まらない絶頂です」
カラカラン。ルーレットの玉が跳ね、マス目に止まる。
「あ、ああああっ!!」
「あははっ!その顔です。その悪夢の恐怖に歪む顔!貴方様のその恐怖こそが、私の最高の食事なんですから!」
そして、ルーレットが止まった。出たマス目の色はシアン。フタバのバニースーツの色だ。
「それじゃあ、さよなら。…楽しかったですよ。貴方様との日々は。ふふ…あははははっ!」
「うわああああああああっ!!」
いやだ、いやだ!俺の体が、変わっていく…!
―――――――――
≪≪ナイトメア!≫≫
俺の服が溶けていき、青くテカるバニースーツへと変化していく。
身長が縮み、髪が伸び始めリボンがそれを纏めた。肩幅は狭くなり、腰つきが女のものへと変わる。
「あ、ああっ!」
変化していく度に快感が俺を責めてくる。
胸が大きく膨らみ、先っぽにぷっくりとした乳首が出来るのが分かる。
股間で勃起していた男のそれが消えていく。女の性器へと作り替えられ、もう元には戻る事が出来ないと実感した。
頭にバニーの耳が添えられ、手首にはカフス。足全体をタイツが覆い、締め付けてくる。
最後にカカトの高いハイヒールを履かされ、足首が固定された。
俺は金髪リボンのバニーガール、フタバの体になってしまった。
今までは嬉しく思っていたこの体なのに、絶望への入口だと思うと今すぐにでもこの体から抜け出したくなる。だがその思いは叶わない。
「いやだ…いや…」
声が女の可愛い声になっている。
ご丁寧に目の前に鏡が出現し、俺自身を映し出す。そこに映るのは絶望の表情をしたバニーガールがいた。
そして俺は快感を感じ始める。感じたくないと思っても止められない。
「あっ…あぅっ…!」
おっぱいのさきっぽが熱くなりはじめ、股間が濡れてくる。それだけじゃない、全身が火照り出し、感じだす。
今まで感じた事のない快感の波に、俺はイってしまった!
しかし、イってもまだ、イったまま。頭が真っ白なまま。快感が続く。続く!
「ああぁぁぁっん!!」
少しでも快感から逃れようと身をよじるが、全く効果が無い。
触れてはいけないと分かっているのに、俺は乳首に手を伸ばし、弄り始める。ああっ、気持ちぃいい!!
また、イった。でもまだ快感は続く。
股間に手を触れた。溢れる女蜜は、止まる事を知らないのか流れっぱなしだ。
タイツを裂き、バニースーツの中に手を入れる。女の秘所をぐちゃぐちゃにかき回す。
「あああっ! ああああんっ! あんっ! あぁんっ!」
鏡に映るのは快楽に乱れ狂うバニーガール。しなやかな足が痙攣している。まともに立ってはいられない。
イき続け、イってもイっても止まらない地獄のような快感。
もう止めて!心からそう願っても、どうにもならない。
「あぎゃあああっ! あぁっ! あんっ! ぁぁんっ!!」
どくんっ!どくんっ!心拍がおかしくなる。ぶつっ!あまりの快楽に神経が焼け切れる。脳がぶっ壊れる!
「 ーーーーーーッ!!!!! 」
―――――
「あは。壊れちゃった。…ふふ。死んでもアヘアヘ言っちゃって。可愛いわ」
鏡に映る金髪リボンのバニーガール、フタバはそう呟いた。
「それじゃあ、いただきます」
ずるり。フタバは鏡の中から出てきた。
そのまま元男のバニーガールから壊れた魂を吸い出し、口に運ぶとぺろりとたいらげた。
「ふはぁ。おいしかった♪最後まで悪夢を与え続けた魂って、本当においしいわ」
食事を終え、カツカツとハイヒールを鳴らして、何処かへと向かう。
フタバが向かったのは自室。女の子らしい、可愛げのある部屋だ。
そこの棚には数体のバニー人形が飾られている。
そのうちの人形一体を手に取ると、フタバは息を吹きかけた。
すると、その人形がカタカタ、と動き出す。
「ふふ。それが貴女の新しい体よ。搾り取られて残りカスになった貴女の魂は、もう元には戻れないですから。
その中に入れておいてあげる。ああ、大丈夫よ。その小さな体でも、ちゃんとイけるから。永遠に…ね」
人形は何も喋らない。だが、無表情のその奥には、永久に感じ続ける元男の魂があった。
フタバは人形を棚に飾ると、部屋を出ていった。
そして、彼女は新しい客を出迎える。次の食糧を求めて。
「バニー・イン・ナイトメアへようこそ。あれ?初めてのお客様ですか?」
――― END ――――
やはりバニーガールは至高…