.6『屋敷で拘束されイかされる』
俺はまた、このバニー・イン・ナイトメアに来ていた。
いつものように金髪リボンのバニーが接客し、ルーレットを回し始める。
カラカラン。そう音を立ててルーレットの玉は緑のマスに入った。
今日はあの金髪ロングのバニーガールになるんだな。
「よろしくお願いいたしますわ。お客様」
そう会釈しながら言う金髪ロングのバニーガール。なんとなく雰囲気はお嬢様っぽい。
「こちらこそよろしく」
「それでは私の『設定』をご説明いたします。それは『ドMになって拘束』…ですわ」
「ぶほぁっ!」
げほっ、げほっ、と口に含んでいた飲み物を吹いてしまった。
お嬢様風の口調で、いきなりドMで拘束とか言われたらそりゃあびっくりする。
「ふふ。こう見えても私、ドMでして。拘束されて責められてアヘアヘ言うのが好きなのですわ」
顔の前で指を交差させて微笑む金髪ロングのバニー。うぅむ… 今回もまた新しい経験になりそうだ。
「貴方様にも是非、私になってその行為を体験していただきたいと存じます」
「分かった。それで?君はどうやって始めるんだ?」
また階段転げ落ちはイヤだ。せめて心の準備はしておきたい。
「私の場合はこれですわ」
と、バニーは背中の髪をかき分ける。ジジッ…とジッパーを下ろしていく音がする。
バニースーツを脱ぎ始めたのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
「んんっ… はぁっ…」
艶めかしく呻くと、彼女はこちらに、と手招きをする。後ろに回ってほしいようだ。
俺がバニーの後ろに行くと驚いた。なんと彼女の背中がパックリと開き、ピンク色の中身が見えていたのだ。
「うわっ!?」
「私の始め方は皮モノ。貴方様に私を着ていただく事で、体験を始める事ができますわ。
ああ、大丈夫。どんなサイズの方でもちゃんと、入りますわ」
「っ…」
俺はごくりと喉を鳴らした。尋常では無い、不思議な現象だ。他のバニーとは違い、かなり生々しい始め方である。
「俺は全部脱いだ方がいい?」
「ええ。その方がより感じやすくなるかと」
「分かった」
俺は服を脱ぎ全裸になる。恥ずかしさはなぜかあまり感じなかった。
「じゃあ…入ります」
バニーの肩を掴みながら、足から先に入れていく。
ぬぷっ。と、中の皮が俺の足を包み込んでいく。
彼女のサイズに俺が入るはずが無いのに、不思議な事になぜか入る。
「うぉっ…」
気持ちいい。適度な締め付け感と、人肌の暖かさ。そして、彼女になっていくという非現実的なこの場面に、俺は興奮していた。
下半身が入ると、いつの間にかハイヒールとタイツを履いている感触があった。
下腹部はまず間違いなく勃起しているはずなのに、その様子は外からでは分からない。
そのまま腕を入れていく。俺の腕が彼女の細くしなやかな腕になっていく。
次にに胸と頭を入れる。
一瞬視界が真っ暗になるが、すぐに視界を取り戻す。
すると胸がずっしりとする感覚と、長い髪が自身から垂れている事に気がつく。
最後に後ろのジッパーを上げていく。ジジッ… と、上げていく度に、どんどん締め付けられていく感覚がある。
一番上まで上げ終わった。全身の締め付け感と共に意識が混濁していく。あれ?俺は今、誰なんだっけ?
俺は… 俺は…
――――――
「はっ… ここは?」
私の意識が覚醒する。ここはどうやら屋敷の一室みたい。
私は自分の体を見下ろした。そこにはいつもの私みたいに、むっちりとした体に、緑色のバニースーツだ。
大きな胸がとてもえっちだけど、なぜか私はいつもみたいに『女になった』事で興奮していなかった。
なんでだろう?いつもとは違う?私は違和感を探ろうと、おっぱいに手を当てようとした。
…だがその行為は出来なかった。なぜなら、私の体は壁にX字に固定されていて、両手両足が枷で繋がれていたからだ。
「拘束されてますわ」
私は自身の『設定』を思い出す事にする。
…私の名前は水野 茉莉花。このお屋敷で働いているメイドの一人。
ただ、ご主人様のご意向で、私はいつもバニーガールの恰好をされている。
とても恥ずかしいけど、私はとても嬉しく思う。だって、私はドMだから。
そして、今日はご主人様との束縛プレイの日だ。だから今私はこうやって動けない状況にある。
「何ですの、これは…」
夢の中とは言え、かなり無茶苦茶な設定に感じる。
私は拘束が外れないかと腕を動かしてみるが、まるでびくともしない。
ふと気がつくと目の前に緑色のバニースーツを着た女の子がいた。
…あ、これ、鏡に映る私だ。
両手両足を拘束されて、まるで動けない、とてもか弱い存在。
少し困り気な表情で私自身を見つめている。…その顔がとても可愛らしい。
びくん、と、私の体の中が火照り始める。
「はぁっ、これ… あれ?私、男?女?」
ようやく違和感に気がついた。私の自意識が男と女であやふやになっているんだ。
これは私の中の男が興奮しているんだ。拘束されて喜ぶド変態。それが私…
「ふぅっ… ぁん…」
この皮の中で勃起しているものがあるのに、鏡に映る私の股間は平らなままだ。
どうなっているのかわからないけど、皮に包まれたそれはとにかく気持ちがいい。このまま、イっちゃいそう。
「っ!!!」
中に出した。女の子なのに、男として中に出してしまった。…だけど、外見にはまるで変化が無い。
とても不思議な感覚。男としての性欲が減衰し、今度は女としての性欲が溢れてくる。
涎が垂れてくるが拭えない。動けない自分に興奮する。ああっ…!
「お楽しみかい。茉莉花」
いつの間にか私の傍にご主人様がいた。
ご主人様はとても美形なお方だ。それもそのはず。ご主人様は女性…男装の麗人なのだから。
「ご主人様ぁ…」
私はトロけたような口調で話す。
「拘束されて、動けない自分を見て興奮しているのかい?やっぱり変態だね、君は」
私を嘲笑うご主人様。その態度に、私の股間はうずうずとしてくる。
「ここはどんな感じだい?」
「ひゃんっ!」
私の股間に、ご主人様は指を這わせた。縦スジに沿って擦り始める。
私は股を閉じて抵抗しようとするが、拘束された足ではそれも叶わない。
何度か指が往復した所で、今度は女としてイってしまった。
頭が真っ白になる。しかも快感は続きっぱなしだ。やっぱり女の子って気持ちいい…。
「あはぁっ…」
「うん。イったみたいだね。ここ、こんなにトロトロにしちゃって…」
そう。私の股間から女の子の液がタラタラと流れていた。それはじっとりとタイツを汚していく。
「もう準備は良さそうだね茉莉花。それじゃあ、本番を始めようか」
と、ご主人様は何かを手に取った。
それはパンツにペニスを模したものが付いている卑猥な代物…ペニスバンドだった。
私は思わずそれに反応した。もしかして、アレを入れられてしまうんだろうか。
もし今の私に入れられてしまったら… そう思うだけで、私はさらに興奮してしまう。
ご主人様が服を脱ぎ、豊かな胸が露出する。
全裸にペニスバンドのみという恰好だ。
ご主人様はビリッ、と私のタイツを破き、バニースーツをズラした。
私の性器が露出する。今までずっとバニースーツに包まれて見えなかったそれは、今初めて目にした気がする。
「入れるよ、茉莉花」
「は、はい、ご主人様」
初めて、中に入れられるんだ。私は女になった事を実感した。
ずぷっ…! ご主人様のペニスバンドが、私の中へと入り込んだ。
「うぁっ…」
男であればありえない、中に入れられる感覚。
私の膣がひくひくと動き、ご主人様のペニスバンドを受け入れていく。
「動くよ」
奥まで入ったそれを、ご主人様は腰を丁寧に動かし、私の中を刺激する。
ペニスバンドが動くたびに、快感が溢れてくる。気持ちいい。とても、気持ちいいよ…!
「あんっ… あぁんっ…!」
私の口から艶めかしい喘ぎ声が漏れてしまう。止められない。私の中がご主人様のそれで一杯になって…
鏡に映るのは、バニーガールの体で、拘束されて身動き取れない状況にされて、あんあん喘ぐ変態。それが私。
そんな状況で、私の中の男もまた興奮し始める。止まらない欲情に私はおかしくなりそうだ。
ご主人様は私にキスをする。さらに全身の愛撫を欠かさない。
全身が性感帯になったように火照り出す。体が全て女になった事を再度自覚する。
「フフ。イきなさい!ド変態バニーガールの茉莉花!」
ご主人様は腰を激しく動かし、私の中を突き動かす。
「イく。 …イっちゃう!」
そして私はイった。膣で。女の子としてイった!
同時に私の中の男は、私自身を犯すかの如く射精した。
「あ、あへぇ…」
「どうだった?気持ちよかったかい?…聞かなくてもその顔を見ればわかるね。ふふ」
そう言うとご主人様は服を着て、部屋から出ていく。
「じゃあね茉莉花。拘束は解かないから、一人で楽しむといい」
「ご、しゅじん、さま…」
私はイった状態で幸福感に満たされていた。
拘束は解かれないまま。私は何度も何度も快感に身悶えた。
――――――
「お帰りなさいませ。お客様」
「…あれ?私…」
目の前に金髪リボンのバニーガールがいた。
辺りを見渡すと、どうやらここはバニー・イン・ナイトメアのようだが…。
「…どうして? 私、まだ悪夢は見てないのに…」
何かがおかしい。しかも、私自身の体はまだ火照ったままだ。
おもわず自分の体を見下ろすと、緑色のバニースーツに身を包んだ女の体があった。
つまり、私は茉莉花の体から戻っていないのだ。
尚、手枷はご丁寧に後ろ手に嵌められ、両足も鎖で繋がれたままだ。
「あの、バニーさん。これってどういう…?」
私は目の前のバニーガールに目を移した。
…どうしたのだろう。いつもとは様子が違う。いつもはとても明るい子なのに、今の彼女の瞳には光が無い。
そして私は気がついた。
ゾクリとする寒気。張り詰めるような空気。火照った体が覚めていく。
キィィィン、という耳鳴りが始まった。これは…!
≪ナイトメア≫
彼女が指を鳴らすと、その場に数本のナイフが出現した。
ナイフを手に取ると身動きのとれない私に近づいてくる。
「あ、あああ…」
「フフ… フフフ… 」
どすっ。私のお腹にナイフが一本差し込まれた。
「きゃあっ!!」
鮮血が迸る。痛い。痛いよ…!
どすっ。どすっ! さらに二本、腰と脇腹に刺されていく。
彼女はそれらをまるで表情を変えずに実行する。
…悪夢だ。私はそれを確信した。
私は痛みによって転げまわる。だらだらと血が流れていくが止まらない!
間髪入れずに胸元へ突き刺さるナイフ。
「きゃーーーっ!!」
「フフ。いい悲鳴…。気持ちいい。どう?あなたも刺されて、気持ちいい?」
気持ちいいわけがない。痛みによって頭がおかしくなる。
「それじゃ、これでおしまい。さよなら。可愛い人」
「いや… いや… いやぁぁぁぁあっ!!!」
どしゅっ! … 私の意識が、赤く染まった。
―――――――
「…客様、お客様!」
「はっ!?」
俺の意識が戻った。ここは…バニー・イン・ナイトメア。目の前に金髪リボンのバニーガール…
「うわぁぁぁぁっ!!」
「お、落ち着いてくださいお客様。悪夢は終わりましたから!」
「はぁっ…はぁっ…! あ… 悪夢、お、終わ…り…?」
「はい。悪夢は終わりました。だから、ゆっくりとこれを飲んで落ち着いてください」
…俺は甘いミルクのようなものを飲まされ、一息ついた。
体は元に戻っている。意識の変化も元通りのようだ。
「……ふぅ」
今までで最悪の悪夢だった。とてもやさしい彼女があんなに豹変するなんて…
痛みもさることながら、俺の心まで壊されそうな、そんな悪夢だった。
「…とても辛い悪夢だったようですね」
「…あぁ」
ダメだ。彼女と視線を合わせる事が出来ない。
「…今日はもう帰るよ。見送りも、しなくていい」
「そうですか。それでは、またのご来店をお待ちしています」
お辞儀するバニーガールを後ろに残しつつ、よろよろと俺は入口へ向かった。
手がまだ震えている。
…また、ここに来れるだろうか。これ以上の悪夢を経験したら俺は…
そんな心配をしつつ、俺は夢から覚めた。
―――――――