.5『バニーの日常』
後日。再度俺はバニー・イン・ナイトメアへと来ていた。
「いらっしゃいませ。バニー・イン・ナイトメアへようこそ!」
今日出迎えてくれたのは金髪リボンのバニーガールだ。
「さて、今日も楽しませてもらおうかな… って思ってたんだけど」
「…? どうしましたか?」
「最近悪夢を見るのが怖くてさ。少しだけ休もうかと思ってるんだ」
俺は近くにあったイスに腰掛ける。
「ああ、そうですか。仕方ありませんね」
バニーガールは頷くと、首をかしげながら質問する。
「では、今日はどのようなご用件で?」
「ほら。最初にあった体験サービス。あれをまたやりたいんだ」
毎回濃いバニー体験をするのもいいが、軽く悪夢無しでも楽しみたい。そう考えた末出た答が、最初にやった体験サービスだった。
「それは…まぁ、構いませんけど。ただ、性感を得る事は全く出来ませんよ?」
「出来るのなら。それでいいよ」
「分かりました。…あ」
ぽん、とバニーガールは手を叩く。
「妄想だけで感じるならそれでもいいですよ?」
「無茶な話だ」
俺はその後バニーガールと軽い話をしつつ、彼女の呪文によってバニーガールの姿へと変身した。
――――――
久しぶりの彼女の体だ。
やはり大きな胸に目がいく。体のラインを際立たせるバニースーツに、ピッタリとしたタイツ。足がハイヒールで固定されている。
「はぁっ…」
女体化時の興奮。それを感じる事が出来ただけでも嬉しく思う。
目の前に現れた鏡に全身を映し出す。ああ、可愛いなぁ。この子が俺なんだよなぁ。
可愛くウィンクしたり、笑顔を作ってみたり、体をくねらせてみたりしてみる。
思わず自身の胸を触りたくなるが、そこはぐっと我慢。元の体に戻るのはまだまだ後だ。
さてどうしようか。
俺はなんとなく、バニーガールの仕草を真似て見る事にした。
大股になっていた足運びを、交差しながら歩くようにしてみる。
うん、ハイヒールだし、こちらのほうが美しく見える。
目の前にルーレットがあった。ええっと、確かこうやって回すんだよな。
カラカラと玉が音を立てて跳ね、マス目に入る。うん。良い感じだ。
俺は周囲を見渡す。他にはビリヤード台があった。
昔俺は格好つけてビリヤードで遊んだ経験がある。懐かしく思いながら俺はキューを手にとった。
玉を突く際に、自身の胸がビリヤード台に乗る。
張り詰めるようなタイツと常につま先立ちのハイヒールが無駄に緊張させてくる。
慣れていない体でのプレイは中々難しかったが、面白い経験だったと思う。
その後も俺はゆったりとバニーガール姿を体験した。
たまにはこういうのもいいなと思う。
「それにしても…」
このバニー・イン・ナイトメアは一体何なのだろう。
夢の中の出来事なのは間違い無い。
だが、自身の身に起きた出来事はあまりにも強烈すぎて、自身の夢の範疇を越えている気がする。
「だとしたら、俺以外の、誰かの夢…?」
うぅん、と考える俺。まぁ、考えても答など出ないのだが。
もうしばらくバニーガールを体験した後に、俺は元の体へと戻った。
やはり、元の体に戻る時はとても空しく感じた。
悪夢の時は空しさを感じる暇が無いのだから、ある意味では必要なのかもしれない。
「本日のご利用、ありがとうございました」
「ああ。また来るよ。今度はいつものように利用させてもらうね」
そう言って、俺は夢から覚めた。
悪夢の無い日はとてもすがすがしく目が覚めた気がする。
――――――