A9片「夢想//再開」
「遅いな…。これは不審がられたかな?」
最近は色んな体を収集したり、作ったりすることに集中する日を作っていたりする。
なるべく重要な講義とか、レポートに急かされていない日に行うのだけど、最近はどこかマンネリ気味だ。
ということで今回は趣向を変えて、「体を変えたい子に理想の体を与えてあげよう」という趣旨で、アングラサイトに募集をかけてみた。
理想の体を作る為に一日同行し、欲しい体を作ってあげるという話はやはり信用ならないと思われたのか、来た応募者は1人だけ。
日時を合わせ、待ち合わせ場所を指定し、目印も合図も決めて、予定時刻の5分後ときたものだ。
せめてあと10分は待ってようかと思った所、
「す、すみません、遅くなりました。…みーくんさん、で良いでしょうか」
「そうだね、みーくんです。…応募してきた阪東さんですよね?」
「はい、そうです。乗り換えをミスって遅れてしまいました…」
やって来たのは、「元々の俺」より少しばかり背と年齢の高い青年だった。
「そうだったんだね。まだ待ってようと考えてるときに来てくれたから、何の問題もないよ」
「申し訳ないです…。それであの、みーくんさん。俺の理想の体をくれるというのは、本当でしょうか」
お、さっそくそこ突いてくるんだ。まぁ疑問に思うのも仕方ないよね、うん。
にっこりと笑って阪東さんを見ると、少し怖がってるような、不思議に思っているような表情をしている。
「そこは本当だよ。そう信じてみたいから、こうして阪東さんも来たんでしょう?」
「……」
チャラ、と車のキーを見せて、近くに停めてある車のロックを開ける。
「これが最後の問いかけと分岐路。…もし阪東さんが新しい体を欲しいなら、あの車に乗って。
怖い、やっぱりいらないと思うのなら、このままお開きにしましょう。…どうします?」
「……、……これが、答えです」
苦虫を噛み潰したような表情のまま、阪東さんは車のドアを開けて助手席に座った。
俺も笑いながら運転席に座り、車を走らせ始める。
車内で俺の能力や、一度替えた体は戻せない事をもう一度説明しながら、一番多く体を保存している倉庫に向けて、走っている。
途中デモンストレーションとして、俺と阪東さんの手だけを『交換』したりすると、驚きながらも納得してくれたようだ。
…驚かないよう洗脳しなくて済んだのは楽だったな、と思いつつ、それでも俺の存在をバラさないよう口止めはするつもりだけどね。
「ところで具体的は理由は聞いてなかったけど…、阪東さんはどうして違う体を欲しがってるの?」
「実はですね…」
そのまま阪東さんは一枚の写真を取り出して、俺に渡してきた。そこには優しそうな、同時にどこか芯の強そうな雰囲気をした白髪の女性が写っている。
話を聞くと、彼女はアキさんと言うらしい。
しばらく前に電車の中で出会い、数日間一緒に生活して、男女の仲にもなったという話だったのだが、
「…最後に別れて、それきりなんです。探偵を使って探そうとしましたけど、見つからなくて…、それでもずっと会いたくて…」
「会いたくて、自信が持てる体になりたかったりするの?」
「いえ…、違います」
否定の言葉に少しだけ驚いた。「理想の体」としか銘打ってないが、それならそれで阪東さんは「もっと男らしい体」を欲しがるのかと思ってたからだ。
「自分でも変だと思ってるんですが…、アキさんになりたいんです。
このまま二度と会えないのなら、俺がアキさんになってしまえばもう一度会えるし、ずっと一緒に居られるじゃないですか…」
「へぇ…」
これは面白いと、素直に思ったのだ。どこでどう捻じれたかはわからないけど、阪東さんの中でアキさんとやらは随分神格化しているようだ。
同じ存在になりたい、という一種の同化願望。その為なら自分を捨てても良いという程の狂気にも似たその願いは、久しぶりにこの能力を揮えるんじゃないかと思ってしまったのだから。
「…こんな事を考えるだなんて、さすがに変ですよね」
「そうだね、変だ。変だから面白いじゃない」
これからの継ぎ接ぎに心躍らせながら車を走らせ、目的地の倉庫に到着した。
倉庫は持ち主がいなくなった所を桂木さんの父親に買ってもらい、俺たちの物として使用している。
この中には全国に山といる自殺志願者を中心として、「いなくなっても誰にも心配されない人間」を100人以上収納している所だ。
割合としては女性が多めで、見るに堪えない感じの肉体は、俺が『分解』『接続』を繰り返してそれなりの体に作り替えてある。
そうして保管されている体は、それぞれ頭を持ったまま「保管」されている。
そこに車を入れて戸の鍵をかける。降りてもらった阪東さんは、その光景に冷や汗を一つ流しているようだ。
「どうかな、阪東さん。ちょっと少な目かもしれないけれど、これらの体を使って良いんだよ?」
「使うって…、どのように、ですか…?」
笑い、両手を広げ、宣言する。
「勿論、欲しいパーツを俺に言えばいい。胸も、お尻も、脚も顔も、好きなパーツを言うと良い。
そうしたら俺が阪東さんに、そのパーツを『接続』してあげよう。
それで阪東さんは自分の体で作るんだ。君の好きなように、君の理想の『アキさん』になるんだ!」
ごくりと唾を飲み込む音が聞こえる。震える声で、
「…お願いします」
と、阪東さんが呟いた。それに応えるようににやりと俺も笑う。
さぁ、これから楽しい継ぎ接ぎタイムの始まりだ。
A10片「構築//憧憬」
さて、いざ阪東さんの体を作ろうと考えるも、まずは彼に「今倉庫にどんな体が保管されているのか」を見てもらわなければいけない。
その為実行に関してはもうしばらく待つことになるのだが、その間にもやっておく事前準備がある。
彼から借りた写真を見て思うのだが、ここまで綺麗な白髪や色素の薄い肌は、正直存在しないので、作るしかない。
彼が使うことのない、倉庫内に2割程度存在してる男の体を幾つか使い、実験をする。
用意するのは染めているのか元々発色が薄いのかわからない(その辺どうでもいい)茶髪の頭2つ。
その2つに手を置いて、能力を発動させる。
「『交換』発動」
物理的な所の『交換』はもちろん可能だけど、それ以下になってくると少しわからないところが存在している。
だからこそ今回、「色素」を交換出来るのかを実証してみたくなった。
これを確かめてみることで改めて白髪の人間を確保したり、染色する必要もなくなるだろう。
黒髪を10として、茶髪を5とする「5:5」の『交換』を、「0:10」にしてみるよう調節する。
今までは必ず片方に「1」残るようにする形で能力を使っていたため、これは実は初めての試みだったりする。
右手の頭の髪色が薄くなり、次第に色が抜けて金髪に、そして白髪へと変わっていった。
…どうやら成功できたようだ。
「あの、みーくんさん、良いですか…?」
「おっと失礼。阪東さんはもう決めたのかな」
「とりあえずは、ですけどね」
そういいながら、阪東さんは俺に1枚のメモ用紙を手渡す。もともとこれは俺が渡した物で、「どこに誰のパーツが欲しいか」という内容を記入するための物だ。
顔は顔で別用紙になっているので、まずは体から始めることにする。
「ふむふむ…、ベースがHの8番で、腕がKの2番、脚はTの4番…、
腰回りはベースのままで、お尻はAの1番…、おっぱいはMの12番…」
あ、もうちょっと細かいね。手とか指定してるのは珍しい。
「手はSの5番に太ももがHの9番…、ふぅん? 阪東さん、欲張りだね?」
「ダメ…かな?」
「そんな事あるものか、いっそ女性器とかも指定してくれて構わないよ。処女みたいなぷにまんにしてみる?」
「…処女があったら、お願いします」
なるほど、ぷにまんではなく普通の処女と。じゃあNの4番がそれだったかな。
という事で早速処置に入ろう。
ベースの体を持ってきて、それぞれのパーツをタグを点ける。釣り用のテグスを複数『接続』して手の代わりにし、それぞれのボディのパーツに触れる。
「『交換』、発動」
交換用のパーツに触れて、能力を使えばあとは一瞬だ。皮膚の違いによって見た目はいびつになったけど、それでもかなりスタイルの良い女体が完成する。
「…、凄い。けど、所々皮膚の違いが出ちゃいますね…」
「確かにそうだけど、ご安心を。今すぐ全身色素を薄くするからねー…」
テグスの手をHの1番と3番に伸ばして触れて、『交換』を開始する。3番と全身皮膚を『交換』し継ぎ目を無くし、色素を次いで『交換』する。
頭のないボディは一瞬にして色白になり、代わりにHの1番は一瞬にしてメイクでもしたかのように色黒になった。
それも全て瞬間で行われるため、阪東さんは不思議そうに見ているだけだった。
「よし、ボディ完成。…次は顔に行こうか」
顔用の用紙も貰い、パーツを整える。貰った用紙の他に俺からも意見を出してディスカッションを行い、その上でアキさんによく似た顔を作っていった。
勿論瞳の色素、髪の色も『交換』し、可能な限り似せることは忘れない。
1時間もした後、俺たちの目の前には写真と九割九分同じ姿の「アキさん」が横たわっている。
「それじゃあ阪東さん、いよいよ本番に行くけど…、準備は良いね? もう後には引けないよ?」
「大丈夫です…、お願いします…!」
手を触れると緊張しているのがわかる。
それもそうだろう、今から彼は「別人」に変わるのだから。
2人の体全体を対象に定め、二度と這い上がれない崖から突き落とすように、宣言をする。
「『交換』、発動」
その瞬間、横たわっているベースが阪東さんの姿になり、代わりに「アキさん」がその場に立っていた。
「…ある!無い!」
胸を触り、股間を撫でて、自分の体が変わっているのだと気付いた阪東さんに、俺はある部屋への道を示した。
状況などが確認できる様に鏡のある部屋で、ちょっとした写真などが撮れる用の部屋だ。
いきなりバランスが変わったことでよろける阪東さんを支えつつ、その部屋に連れて行くと、彼は鏡を前にしてどこか幸せそうな表情をし始めた。
「あぁ…、アキさんだ…。どんなに探しても見つからなかったアキさんに、俺はなれたんだ…」
自分の体を抱きしめながら、次第に息が荒くなっていくのが見てわかる。
そこまで入れ込んでいたんだろうねと思いながら、俺はアキさん「本人」に対して思いを馳せていた。随分罪作りなことをしたものだよね、と。
彼女が阪東さんの前に姿を現してなければ、抱かれていなければ、彼は彼女に入れ込むことはなかったし、ここまで堕ちることは無かったんじゃないかと。
「アキさん、ずっと好きでしたアキさん…、もう離れることは無いんですね…。
そうだよ青年、俺と君とはこれからずっと一緒だ。どこにも行くことは無いよ。
嬉しいです…、こんなに、感じてくれてるなんて…。
それは君が、っひぅ! 俺を想ってくれてる、からだよ…」
タガが外れてしまったのか、一人芝居をしながら自慰も始めだした。
「落ち着いたら「これから」どうするのか考えるのかな。もう元の家には戻れない事とか、さ」