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Patchworker Kraft

2019/10/26 18:02:00
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C1片「人外//遭遇」

Side:みーくん

冗談じゃない、何だアレは。
夜、ひとりで散歩している時。何をするでもなく、次はどんなことをして遊ぼうかという考えを散歩時に浮かんでくるインスピレーションを巡らせていた所、突然こんな事を言われて襲われる。

「…君が羽張君とやらだな。悪いと思うがこれも依頼でね、ちょっと痛い目見て貰おうか」

目の前に現れたのは、1人の男性だった。
見た目的には何の変哲もない、普通の人だったと思う。目を引くのは腰まである長い髪と、目元を隠すベネチアンマスクのような仮面。
それよりもっとずっと装飾なんか無い、華美さとは無縁な形だったけれど、それでも目を引いていた。

「はぁ、依頼ですか。何を言ってるのかわからないけど、人違いじゃないですかね」

思えば俺は過信していたのかもしれない。
どんな人間だってこの手で触れる事が、『接続』することができれば、一発で俺の言いなりにする事ができるのだから。
すれ違おうとしてポンと肩にでも手を触れれば終わりだ。
そのまま横を歩いて、触れようとして、

「っ!?」

身に覚えのある感覚が背筋を走った。
これは何だったか。そうだ、敵意だ。
かつて乙木達に大した理由なくイジメられていた時に感じていた、敵意。
一瞬触れるのを躊躇うと、何かが振り下ろされて、一泊遅れて轟音が鳴った。

「…え?」

何が起きたのか気になって足元を見やる。
そこにはわかりやすく穴の開いたコンクリートがあって、破片が軽く宙を舞っていた。
長髪の男が敵意と、明確な拒絶の意志を以て俺に語り掛けてくる。

「…悪いが触れさせはしないよ。それが君の「能力」の起点だろうからな」
(…バレてるっ?)

それを知られた瞬間、俺は後ろに飛びのいた。
触れる事が出来なければ発動することが出来ないこの能力、最大の問題は射程距離が短すぎる事だ。
だからこそ包帯とかテグスとかを『接続』して手を伸ばし、遠距離から接触することも考えたわけだけど、これをあの男相手にもやらないといけないのかと思い至る。

何故なら先程まで俺が立っていた場所、コンクリートで舗装された足元には、ヒビと、こぶし大の窪みが出来ていたのだから。

(なんだアレ、冗談じゃないよふざけんな。あんなの食らったらどうなるか…)

人に殴られたことのある体だからこそわかる。アレは普通の人間が出来るようなことじゃない。
いくら鍛えた体を持ってる人間であろうと、コンクリートに綺麗に穴を開ける事なんてどうやればできるというのだ。

(だから近づくことはやめて…、逃げるべきか…?)

できる事ならそれが一番いいのだろう。自分の容姿を鑑みて、痴漢と叫べば周囲の人が何かしらのアクションを起こしてくれるかもしれない。

そんな考えもあるにはあるが、背筋を走る悪寒と、目の前に明確に存在する物理的な恐怖とに、その考えはかき消されていく。

多分あいつは逃げても追ってくるだろう。そんな予感がひしひしと感じられるくらいに、マスクの奥に見え隠れする目が語っていた。
そして捕まればどうなるか。あんな拳を振るってくる男だ、殴られたら一たまりもありはしないだろう。

(そもそもそんな事される理由なんて…)

と考えるが、あるよ山ほどあったよ理由なんて。
今まで俺がやってきた事は、よほどの事が無い限り明確に事件として存在していた。
時に遠くまで足を延ばしてパーツや体を集めたりしていたが、最近発現した能力を使わなければ、誰もが違和感を覚える事は確実だ。
そのうちの誰かが誰かに調査を依頼し、その結果俺がやったという事がどういうわけか判明して、この男が送られてきたのだろう。

ともすればこの男を排除しても、第2第3の刺客が送られてくる可能性も無い訳じゃないだろうが…。

まずはこの男をどうにかしなければいけない。直接触れに掛かるのが自殺行為なのは、先程の拳を見ても思い当たるばかりだ。
だからこそテグスの手を伸ばして、間接的に触れに掛かる。
しゅるりと伸びていくテグスは、向こうには気づかれていない。

そのはずだった。

「え…?」

瞬間、テグスの手が何かに捕まれた感触がした。同時に俺は自分の目を疑いたくなる光景を見た。
男の髪が伸びている。それは空中で静止して、確かにテグスの手を掴んでいるのだった。
それは『接続』させる事すら忘れる位の衝撃で、その隙を逃さずに男は言ってきた。

「ちょっとでも触れることができると思うなよ…?」

瞬間、熱を感じた。テグスの先から焼けるような熱を。比喩ではない、本当の熱だ。

「あつッ!」

慌ててテグスを戻すと、先端が融け落ちている。今、何をされたのだ?

「…俺は君を殺すつもりは無い。だがその分…、抵抗すればするほど、殺す以外の事はさせてもらうぞ」

男はそんな、何の慰みにもならない事を言ってくる。

「それは遠回しに抵抗するなって言ってる?」
「察しが早くて助かるよ」
「そんなこと言われて抵抗しないと思ってます…? 逃げる事だって」
「いや…無理だね…」

俺の言葉を遮った男は、目の前で変わっていく。
黒かった目は血の色のような赤に。
長い髪の毛は空の色のような蒼に。
額には人間ではありえない金の角が3本。

鬼。
一見して人間のようで、でも童話で聞いたような、そんな存在。

バケモノを見るような目で見られたことはあったけれど、本当のバケモノに遭うだなんて。
恐怖が頭の中を占めていく中で、思うのは撫子さんの事だった。


C2片「異形//依頼」

Side:蒼火

その日に入ってきた依頼は、いつも通りのようで違っていた。
依頼人からの電話でやってきた喫茶店、その最奥の個室で彼は待っていた。

「…あんたが忌乃って奴か? …どう見ても俺と同じくらいじゃねえか」
「そう、忌乃蒼火です。見た目に関しては触れないでくれるとありがたいね」

一見してぶっきらぼう、悪く言うと態度のよろしくない口調で彼は開口一番俺の見た目に関して言ってくる。

「こんな奴にちゃんとあいつが見つけられるのかよ…」
“それでも誰かに頼るしかないじゃない、どうやって見つけるってのよ”

突然、女性の声が聞こえてきた。目の前には依頼人と思しき彼のみ。誰かが隠れている気配は無いが…。

「…ふぅん?」

鼻を一度鳴らすと感じ取ることができる情報が一つ。この依頼人、“2人”だ。人格が分裂しているとか、何者かが憑依しているのではない。
物理的に1つになっていると感じられる、2人の人物だというのが理解できた。
人面疽のようなものかもしれないし、それを処理してくれという話なのかもと思ったが、依頼人の彼の口から出てきたのは「誰かを探す」事らしい。

「…まぁ、詳しく話を聞きましょうか。依頼の内容と…、良ければご一緒してる“もう1人”の事についてもね」
「分かるのか?」
「そりゃ声が聞こえたし。…一応言っておくけど、隠し事は無しにした方が良いよ?」

「じゃあ最初にお名前と依頼の内容について聞きたいけど、良いかな?」
「…乙木隆一だ。アンタに頼みたい事がある。依頼内容は…、コイツを連れてきてほしい」
「ほぅ…?」

そう言われながら差し出された一枚の写真。そこに写っているのは、学生服を着ている少年。だというのに顔は少々中性的というか、女性的とも取れる位の顔をしている。

「コイツは羽張っつってな…。こいつにある事情から仕返しをしたいと思ってる。それで探して欲しいんだ」
「仕返しねぇ…」
「できれば痛めつけて連れてきてくれるとありがてぇ」

なるほど、復讐の類の手合いか。コイツは少々厄介な。
仕返しと言っているが、規模がどの程度になるのか分からない。その上彼は痛めつけて、と念を押してくる始末だ。
まともに依頼をこなして良いのかどうか。

「…それをしなければならない理由は、お聞きしても?」
「理由…、理由か…」
“何言葉に詰まってんの、言わないと話が進まないじゃない!”
「だからってお前を見せつける訳にはさぁ…」
“良いわよ、構わないから!”

乙木という彼の服の中、くぐもった女性の声が聞こえてきた。気丈そうというか、やけっぱちなのか、自分を見せて構わないと言い出している。
彼は観念したかのように服の裾に手をかけ、腹部をさらけ出す。そこには驚きの物が存在していた。

人間の胴体にきっちりと「顔」が存在している。人面疽のようだが、妖気は感じない。物理的に縫合されたにしては傷跡らしいものは存在していない。
どうしてこうなったのか。彼が探している羽張という人物の手によってこのような姿にされたのだという話を聞いていく毎に、俺の顔もわずかに強張っていく。
その結果、彼女は彼の体に張り付いた人面疽のような状態になってしまったのだと。

「なるほどね。…嘘みたいな話だが、これでも生きてるのか」

彼の了承を得て、胴体の顔、彼女に触れてみる。恐る恐るという気配だったがそれでも触れた事で、もっと詳しい事が解る。

「…これは明らかに“こっち側”の領分だな。気配の残り香は…、随分と小さいが、どうにか追えそうだな」
「ホントか? だったらすぐ頼む! いい加減ゆうの奴を元に戻してやりてぇんだ!」
「お願い、羽張を見つけ出して! もう自分の体が無いのは嫌なのよ!」

どうやら胴体の彼女は“ゆう”と言うらしい。話を詳しく聞きたいが、彼女自身もどうやらだいぶ切羽詰まっているらしい。
さもありなん。3年近くも体を動かせないのなら、彼の体に縛り付けられているのなら、発狂する可能性もあっただろうに。

「…依頼に関しては了解した。けれどその前に1つ聞きたい」
「何だよ」
「…君たちはどうして、その羽張という人物にそこまでされたんだ?」

…その問いに答えが返ってくることは無かった。2人とも口を噤んでしまい、少し後に乙木が返答とは別の言葉を返してきた。

「…うるせぇよ。アンタはいいから黙って羽張を探せばいいんだ! 金が欲しいのかよ! 払ってやるから羽張を見つけてこいよ!」

手元の鞄から、手付金だったのだろうか10枚ほどの一万円札を投げつけられる。別にそんなのが欲しかったわけじゃないんだけど。
ため息を吐きながら宙に舞う万札を掴んで纏め、乙木に突き返した。

「別に金が欲しい訳じゃないけどな。…ただ君たちは心証という言葉を覚えた方が良いんじゃないか?」
「お、おい、どこ行くんだよ」

立ち上がり、奥の部屋から出ようとすると乙木から声を掛けられるが、

「依頼の通りに彼を探しに行くんだよ。…金は成功報酬で良い。終わって連れてくるまで後生大事に抱え込んでろ」

返答を待たずに部屋を後にし、彼の体に残っている気配を鼻で嗅ぎ取る。

…アレは神気だ。
人間では決して不可能な領域、神であれば不可能ではない範疇の出来事。
鼻の奥がつんと痛むが、嗅ぎ分けられない物ではない。

そのまま数日が経過し、神気の匂いを頼りに探していると、ついにその匂いが最も強い人物を見つけた。
…写真と随分見た目が違う、というか別人じゃん、と思うが、その気配だけは誤魔化しようがなかった。
正体バレしないようマスクを着けて、彼…彼女…? の前に出る。

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