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Patchworker Kraft

2019/10/26 18:02:00
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C3片「交戦//蹂躙」

Side:みーくん

「だぁぁっ!?」

圧倒的な暴力というのを前にすると、身がすくむ。それでも俺は撫子さんたちの事を考えて、この場を何とか切り抜けないといけなかった。
かといって抵抗できる手段があるのかと問われたら、あるにはある。
『分解』と『接続』。この二つをうまく使うことができれば、どうにかできない訳じゃない。
例えばそう、あの鬼の足を地面と『接続』してしまえば。

「…………」

けれど、どうすれば良いのだ。筋力を増設した記憶があるにはあるが、それでも人間以上の腕力を手に入れたという自覚は無い。
あの鬼のようにコンクリートに穴を開けるなんて以ての外だし、それができたらこんな対抗手段の無さに苦労はしていない。
じんわりと汗が流れ出る。冷や汗と同時に、鬼から立ち上る熱気が俺の体から水分を奪っていく。

(あれに触ってみろって…、できるのか? そもそも触らせないようにしてるアレが…?)

仮に、たとえ仮に触れる事が出来たとしても、あの熱量を発している存在に触れたらどうなる?
よくて火傷。悪ければそのまま火が付きそうな勢いの熱を出しているのに。

「あぁもう…! あいつもこんな能力くれるんだったら、もっと何かできる能力をくれても良かったじゃないか!」

今更になって漏れ出てくるのは、この能力をくれた存在に対する愚痴。

言った所で何かが出てくるわけじゃないけど、それでも言わずにはいられなかった。
それでも何か、という事を期待したけれど、やっぱり何があるわけで無し。

「…………」

じわじわと鬼が近づいてくる。同時に俺も一歩ずつ後ずさっていく。
場所は道路の筈なのに、近くに人が住んでいるはずなのに、これだけの騒ぎになっているはずなのに誰も何も反応をしない。
これはどういう事なんだろう。まるで俺とこの鬼とだけが認識されていない。そんな気配さえしてくる。

「1つ、言っておく」

すると鬼が口を開いた。その吐息すら熱気が籠っている様だ。

「変な抵抗をしようとは思わない事だ。その分俺も君に対して反応を仕掛けるつもりだ。攻撃の抵抗には攻撃で返す。
ともすれば俺は君を殺してしまいかねないから、今の内に力量差を理解してくれるとありがたい」

だからどうしてこの鬼は何の慰めにもならない事を言うのか。それとも人間以外の思考は、俺みたいな人間には理解できないとでも言うのだろうか。
それでも、俺はこのままジリ貧になっていくのは嫌だと思い、息を吸う。

「だったら…、合法的に逃げさせてもらうよ」

ヒリつく喉を奮い立たせて、踵を返して走り出す。幸いにもヒールとかじゃないスニーカーだ、走るのは何の問題も無い。
それと同時に叫びながら逃げてみた。

「誰かぁー、助けてー! 変態、痴漢ですー!!」

Side:蒼火

「誰かぁー、助けてー! 変態、痴漢ですー!!」

後ろを見せて逃げ出した羽張という人物は、そんな事を叫んでいた。失礼な。
…だが、今のような状態で俺のことを「痴漢」と言うのはどれだけの胆力があるのだか。本来なら鬼の姿を見せれば恐怖にすくむ事の方が多いというのに。

「…“あにか”に会ってるのかね、彼は」

果たして彼がどんな理由で乙木達に使った「能力」を得たのかは知らない。
けれど確実に、彼は人間以外の何かに接触しているのは間違いない。悪魔や神は気まぐれに誰かに接触し、気まぐれのように何かを授けたりする。
それは願いをかなえる権利であったり、何かの道具であったり、彼のような『能力』であったりすることもある。
考えていると彼が視界の外に逃げようとしているのが見えている為、追う事にする。

「おっと、このままじゃマズいな」

実は先ほどから結界を張っており、それによって周囲の人間から気付かれないようにしている。
のだが、実はこの結界、あまり範囲が広くないのだ。そろそろ彼が、俺を中心とした結界の範囲外に出てしまいかねないために、俺も彼を追いかける事にする。

ふわりと空に浮かび上がり、眼下に望む景色から彼の居場所を探り、その前に勢いよく降り立つ。

「…逃げられると思ってるのか? それをさせる程甘くは無いぞ…?」

落下の時はなるべく恐怖を煽るよう、地面を砕きながら着地し、手元には炎を出現させる。
それを見て彼は当然の如く“ぎょっ”としているわけだが。

「これ以上逃げられても困るし…、逃げ道を封じさせてもらうぞ」
「だからそんな事を言われて、こっちが困らないとでも?」
「それは確かにね。…悪く思わないでくれ、こっちも仕事なんだよな」

腕を払い、羽張の後ろに炎の壁を作り出す。熱量としてはそれ程でもないが、逃げる為にはそれなり以上の胆力を必要とするくらいの炎を。
前門に俺、後門に炎の壁を作られた羽張は、冷や汗を流しながらそれでも軽口を俺に対して叩いてきた。

「お仕事だからって、ただのいたいけな女の子をイジメるんですね」
「それを言われるとあんとも言えないが、自分が狙われる可能性を考え無い訳じゃないだろ?」
「…考えて無い訳じゃなかったけど、こうして直接的に来るとは思ってなかったよ」
「だったらその考えは改めた方が良いな。直接的な手段に訴えろというのが、向こうさんの意向だったんだから」

…俺は乙木達の話を鵜呑みにしている訳ではないし、彼らの態度から何かしら後ろ暗いものがあるのは察している。

正直乗り気じゃないのだ。

一歩を羽張の前に踏み出そうとした瞬間、気配がした。道路の制限速度をぶっちぎった車が走ってきて、俺にぶつかってきたのだ。

C4片「闖入//奇縁」

Side:みーくん

いきなり。本当にいきなり車がやってきた。
鬼の横っ面をひっぱたくように、もちろんそんなソフトな表現ではなく、轟音と共に車がぶつかった。
運転席から転がり出てきたのは、

「みーくん大丈夫!? まだ何もされてない!?」

撫子さんだった。

「う、うん…、まだ何も」

でも、混乱しかけている頭の中で気になるのは一つ。どうして撫子さんが、それも車でここに来ているのかという事だ。

「ほらみーくん、逃げよう! アレの前に立ってちゃダメだよ、殺されちゃうよ!」
「でも撫子さん、後ろには火が…」
「すぐ突っ切れば大丈夫だから! ほら!」

撫子さんは俺を奮い立たせようとして、何度も声をかけてくる。それは有難いのだけれど、やっぱり気になってしまう。

「ねぇ撫子さん、どうしてここに…」
「あーいて…」

けれどそれは、鬼の一言によって遮られた。
車を思い切りぶつけられたというのに、ぶつかった事が大した事でもないかのように、鬼は起き上がってきた。
車とぶつかった腕を軽くさすりながら、それでも赤い瞳は俺達をにらみつけてくる。
そしてアイツはさっき何を言っていた? そうだ、「攻撃の抵抗には攻撃で返す」だ。
撫子さんのひき逃げアタックを受けて平気だというのなら、次にやって来るのは返礼。

「…え、なに、どしたのみーくん? 私まさか、やっちゃいけないことやった?」
「えぇ、こういうのもなんですが、結構」
「うわーごめんみーくん! でものっぴきならない状況だと思っちゃったからつい!」

慌てて撫子さんは謝ってくれるけど、やっぱりこの場に限っては要らない事をしてしまったのかもしれない。
先程まで感じられなかった殺気が、じんわりと鬼の目に宿ってしまったことは、それを理解してしまったのは、恐怖以外の何ものでも

瞬間、何が起きたのか分からなかった。
何かとぶつかったというのだけは理解できて、それが何だったのかは分からない。
ただ俺の体は、まるで体重も感じられないと言わんばかりに吹き飛ばされたのか、というのを、背中と胸とに走る痛みから感じていた。

「みーくん!」

遠くに聞こえる撫子さんの声。痛みで滲む視界には、さっきまで俺が立っていた場所にいる鬼の姿。
何をされたんだろう、とぼんやり痛む頭で考える。突き出されているのは鬼の掌。まだ体が痛い。
俺よりずっと冷静な撫子さんは、何をされたのか気付いたのだろう。そして怒りのままに、鬼に。

ダメだ、そいつに立ち向かっちゃいけない。
どうにか止めないと。立ち上がらないと。力を籠めると、その分だけ体が痛む。
ダメだ、乙木達にイジメられた時以上に、体が動かない。

Side:蒼火

…さて、一撃には一撃。例え攻撃してきたのが羽張ではなくても、その連れ合いだというのなら相応にお返しはしないといけない。

車に吹き飛ばされた時と同程度の掌底を叩き込むと、当然ながら羽張は紙切れのように吹き飛んで、ガードレールにぶち当たった。
大体これ位の勢いでやられた身。人間相手とするには少々やりすぎな気配がするが、それでも言った事は違えたくない。

「ちょっとあなた! 何の恨みがあってみーくんを狙うの! 答えなさい!」

踏み込んだ際、羽張が立っている場所にやってきたため、羽張の隣にいた女性が俺に対し怒号をぶつけてくる。
関係者というのは確実だなと考えながら、その質問にはきちんと答えてあげよう。

「ある人物からの依頼でね。羽張という人物を痛めつけて連れてきてほしい、という話があったんだよ」
「そんなバカな依頼がありますか! 鬼が人間相手に本気になって、恥ずかしくないの!?」

…この人物、俺が鬼だという事を見抜いたうえで言ってるな?
確かに思う所が無い訳ではない、というかありまくる。忸怩たる思いを抱えている訳だが、それを面と向かって出すのはそれこそ恥ずかしい。

「そういう依頼があったんだよ。羽張が持ってる能力の被害者からな」
「あ…」
「…ご理解いただけてるならあにより。好き勝手してる奴への、相応の報復って奴だよ」

少しばかり得心がいったのか、考え込んでいる彼女をさて置いて羽張に近づく。
ガードレールに持たれかかっている彼女の両手に最大限注意を払いながら、掴もうと手を伸ばすと、

「…っ!」

向こうも近づいてきたのを好機と見たのか、腕を伸ばして俺の手を掴もうとしてきた。
だが、

「そんな動きで掴めると思ってるなら、大間違いだよ」

髪を網の目のように編んで伸ばし、羽張の手を受け止める。
そのまま羽張の手を包むように伸ばした髪を瞬間的に千切り、グローブのように多い囲ませた。

「1つ忠告しておく。それ以上変な事を考えるなら…、その手を焼くぞ」

俺の髪の毛は自在に発火することが可能だ。頭髪から千切れていても、俺の意思1つで炎となり燃え盛る。
温度自体は自由に操れるし、800度の炎で3秒程度炙る位に設定しているが。

「…それでも、やだね…、ばーか…!」

俺の右腕を猶の事掴んで、『能力』を使おうとしてくる。
仕方なし。

ゴギッ

「…っがあぁぁぁぁ!?」

左腕で、俺の右腕を掴んだ羽張の左腕、その手首の骨を外したのだ。
当然痛みが走り、大きな声をあげて叫んでいるが、それを聞く物は結界内に俺と、羽張の知り合いの彼女しかいない。

…そういえば結界内に入ってきたのか、彼女は。
何かあるなと考えながら、しかし今は目の前の事を優先するのだった。

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