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Patchworker Kraft

2019/10/26 18:02:00
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C5片「提案//是否」

Side:みーくん

「あがぁ…っ、っくぅ、…!!」

痛い。
痛みが手首から脳を焼くように走り、俺に危険を告げてくる。
何をされたのかと問われたら、手首を折られた。本来なら曲がる方向に曲がってる筈なのに、制御が一切利かない。
左手で抑えようとするけど、両手は鬼の髪の毛に巻き付けられており、それも出来ない。

「みーくん!」

遠くで撫子さんの声が、痛みのせいかどこか遠く聞こえてくる。
目の前には鬼が見下ろすように立って、冷たい視線を向けてくる。

どうしてこんな時に乙木達の事を思い出すのだろう。
俺が下にいて、攻撃してくる奴が上にいて、笑われず、見下されて、痛い、痛い。
こんな事になりたくないから『能力』を使ったはずなのに、今またこんな風になっている。

どうして手加減しないんだろう、あの鬼は。こっちは女の子の体なんだぞ、苦労して作ったんだぞ。
それだっていうのに理解なんてしないで、好き放題に攻撃して。バケモノめ、人間じゃないくせに。

じわじわと痛みの中に怒りがこみあげてくる。

「…君にいくつか、訪ねたい事がある」

鬼が見下しながら声をかけてきた。なんだいきなり。

「君は乙木隆一、そして桂木ゆうという2人に憶えがあるか?」

「…ッ」

乙木と桂木さん、その名前に憶えが無い訳がない。
俺の復讐の発端、その2人だ。この『能力』で始めた復讐の最後の相手だった。

「…あぁ、あるね…。それがどうしたのさ…!」
「端的に言えば今回の依頼主だ。彼らは君にされた事を随分と怨んでいる様だったよ」
「そりゃ、そうだろうね…。そんな事をされた自分たちが悪いとは一切思ってないようで…!」

アイツ等は酷く自分勝手だ。自分を強く見せたい、桂木さんに良い所を見せたいという理由で俺を攻撃していた。
そんな事で喜べる桂木さんも大した精神性を持ってないのは理解していたが…、

「それに…、信じてるんだ、あの二人が名乗った名前を、簡単に」
「ほぅ?」
「アイツ等の本名は、乙木元哉と桂木那月だよ」

桂木さんの名前は、胡桃ちゃんや菫ちゃんがよく言ってたので憶えている。乙木の名前は確かそんな名前だったはずだ。
卒業アルバムで掲載されていた名前で見たから、なんとなく記憶にあった。

「…なるほどね」

目の前の鬼は、何かに納得したかのような顔をしている。あぁどうせ偽名でも名乗ってたのかな、アイツ等。

Side:蒼火

乙木隆一と桂木ゆう。なるほど、名前は全く別物にしてこちらに依頼をしてきたわけか。強か…じゃないな。性格が悪いと言えばいいのか、アレは。

「情報提供感謝するよ。んで、こちらの質問の続きだ。君は彼らに何をされて、どういう理由で彼らをあの状態にした?」
「そっか…、見せたんだ、あの状態を。ははっ、それほどのっぴきならない状態になってるんだね」

痛みで顔を青くしながら、それでも笑う羽張。嬉しいのか、はたまた。

「簡単に言うと、「待って。それには私が答える」」

途端、後ろから声がかけられた。火の壁を突っ切って越えてきた女性が、羽張の言葉を遮った。

「撫子さん…!」
「これは私も十二分に関わったし…、今のみーくんに無理はさせられないよ」
「……」

成程と得心がいく。つまり彼らは共犯という事で、羽張の事を事細かに話せるほどに深い繋がりがあるのだろう。
そのまま羽張も彼女に任せたのか…、日浦撫子によって語られる事になる。
彼らに羽張が何をされて、羽張が彼らに何をやり返したのか。その詳細の次第を。

羽張の手首を外した嵌め直し、話を全て聞き終え、俺はじっくり考える事にする。

「……事の次第はわかった。だが」
「だが…?」
「納得がいかん」
「そんな! 全部話したんだから、そこは嘘を吐いてる向こうを見限ってこっちに温情を見せても良いじゃない!」

撫子女史が文句を言うが、それをしたところで俺は納得がいってない。

「乙木達が君にやった事も理解したし、反撃をしたい理由も理解できる。だが…、途中であんの関係もない人物を狙うのはどういった了見だ?」
「…っ」

納得いかないのはそこが理由だ。復讐相手にのみ矛先が向くならまだ納得できなくもないが、そこ以外に矛先が向いたのならば、もはや無差別と変わりない。
だからこそ納得いかないし、彼らを見逃す事ができないのだ。

「…見逃しては、もらえませんか?」

撫子女史が、俺に一切の得が無い事を告げてくるが。

「見逃すねぇ…。それが出来ないこともない、が…」
「ホント?」
「条件がある」
「条件…? それはどんなです?」

羽張がこちらを期待の眼差しで見てくるが、さてそう簡単に事が運ぶ筈も無し。
俺が提案するべき課題は、一つだけだった。
羽張の目を見ながら、聞き逃しなど許さないとばかりにハッキリと告げる。

「その手から先を切り落とせ。二度と能力を使えないようにすることが条件だ」

C6片「苦悩//苦渋」

Side:みーくん

残酷な事を告げてくる。俺に能力を無くせって?
そんなこと、最初から持っている存在だから言えるんだ。
冗談じゃない、ふざけるな。今まで俺がどんな苦労を抱えてきて、あのバカ連中相手に復讐してきたか知らないくせに。
それに関係ない人をといっても、藤花さんも江美ちゃんも仕方ない状況だったんだぞ、何も知らない奴が好き勝手言って。

…でも、今の俺はこの鬼に勝てる手段がどうしても見つからない。恐らくは軽く殴られた程度でこの様だし、物理的に人体破壊をする事も造作もないのだろう。
だからこそ考えなきゃいけない。戻された左手首がまだじんわり痛むけど、考えろ。

「…切り落とす? そんな簡単な事でいいのかな」
「みーくん!?」
「予め言っておくが、『分解』で腕を落とすだけじゃないぞ。きちんと、腕を、切り落とせ」
「それ、俺がやったら失血死しちゃいません?」
「安心しろ、傷口はすぐに焼いて塞いでやる」

まったく鬼は人間の心を持ってないのかな、そんなことされたら俺死んじゃうよ?
そんな軽口は内心に仕舞っておく。下手な事を言って、また殴られたくないからね。

それに鬼は何か勘違いをしているかもしれない。この『能力』は、なにも手で触れなければ発動できないわけじゃない。
身体のどこかで接触できて、『接続』できればこちらの勝ちなのだ。だから腕を切り落としただけでは何の痛手も無いのだが…、やっぱり切り落とすのは嫌だなと考えてしまう。
何かもうちょっと、この鬼を油断させられないか…。

「…それに道具も無いって言うのに、どうやった腕を切り落とせと?」
「安心しろ、俺がやってやる。痛みを感じる間もないくらいの速度は出せるつもりだ」
「随分物騒な事を言いますね…」
「物騒な事を言い出す必要がある態度のお前が問題なんだよ」
「あぁやだやだ…、問題を人のせいにしてくる相手って嫌われるよ?」
「君相手なら嫌われても問題無いね」
「そうです…かっ!」

右手を『分解』し、テグスの先に『接続』。手を延長して、その上で手を鬼相手に投げつける。
即席のワイヤーパンチになるが、ちょっとでも鬼の注意を引けたら、その間に俺が『接続』できれば。その瞬間に勝ちになる。

…でも、俺は浅はかだと理解したのは、それがすぐに避けられたと理解してからだった。

Side:蒼火

手が飛んでくる。それ自体はかつて相対した相手がやってきた事。
それを羽張がやってくることに驚きはしたが、それだけだ。先ほどまでやってたワイヤーで手を繋いでいるのだろう。
手を避けて焔を俺の手に纏わせ、ワイヤーを焼き切る。物理的接触はしない方が良いという事を、尚の事理解したからだ。

「な…っ」
「驚くのは当然かもだが…、君は今自分があにをしたのか、理解してるよな?」
「……」
「理解しているなら、あによりだ」

一歩後ろに跳んで、宙ぶらりんになった羽張の手を捕まえる。
綺麗な女の手だが、これもどこかの誰かを狙って自分の物にしたのだろう。
俺の知る人間が毒牙に掛かってないのが一番ありがたいことだが、このまま放置してしまえばどこかで誰かが被害にあうだろう。
だからこそ許しておけないし、許すつもりもない。というか今ので底値を割った。

「まずは返すよ、この手はね」

羽張の手を軽く放り投げ、彼の残った左手でそれを掴んだ瞬間。

「ふんっ!」
「あぐぁっ!」

俺は右拳で中空を叩き、遠当ての要領で羽張を叩いた。

「一発は一発だし…、そろそろ君に対しての情も消えかけた。反撃でなくても殴らせてもらおうか?」

「待って! これ以上は本当にやめて、みーくんが死んじゃう!」

二発目の遠当てを打とうとした瞬間、撫子女史が身を張って止めに掛かってきた。

「あくまで殺しはしない…、つもりだったがな…。殺す意外のことはさせてもらうぞ?」

近付かねば殴れないと理解したので、一歩を踏み出す。
堪忍袋の緒が切れ、髪の毛が発火する。本気にならずに隠していた真の俺の「鬼」の相。近付くたびに周囲の空気が焼け焦げ、ちりちりと焔の臭いがする。

「どうしてよ! どうしてそこまで乙木達に義理立てするのよ! アイツ等なんてひどい目に遭うのがふさわしい外道じゃないの!」
「その外道以下に成り下がってるのが自分たちだと気付かないのはおめでたいね。それに義理立てはしないさ。
単純に、君が、俺を怒らせたからだ」

痛みで解らせる必要があるのは動物の理論だ。人間相手にそれをやるのは野蛮…という程でもないが、どうしようもない相手に限られてくる。
彼らは自らその「どうしようもない」カテゴリに足を踏み入れた。だからこそ殴るし、人間以下の扱いをする事になる。

羽張の胸ぐらを掴み、返答を待たずに、

「歯ぁ食いしばれ」

右拳を顔面に叩き込んだ。

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