E5片「成替//完了」
その後。アレから3度も中出しして、すっかり気分よく倒れている唯月ちゃんは、賢者タイムに突入していた。
「はぁ…、これが射精後の虚脱感なのね…。この世のすべてがどうでもよくなってくるわ…」
「そりゃ3発も出せばそうなるよ。…それで、どう? まだ男になってみたい?」
「そうね…。……うん、少し違ってたかも」
「ほう、それは?」
賢者タイムによって冴えた頭で少しばかり考えた唯月ちゃんは、別の答えを出してきた。
「…私、この家の閉塞感が嫌いだわ。女だからって理由で色々制限されてたし、高校卒業すればすぐ結婚の予定だった」
「うん」
「…だから、そこから逃げられるのなら、どんな形でも良かったのかもしれない。あなたのおかげで男になれて…、気持ち良かったけど、今はちょっと「何か違う」って思ってるのよ。明確な言葉にはできないのだけどね」
「…ま、それならそれで結構だよ。どんな形であれ答えが出てきたみたいだしね」
笑いながら、そっと唯月ちゃんの頭をなでる。
「じゃあまた俺と体を取り替えて、「新城唯月」に戻る?」
「それは嫌。私、自分が嫌いなわけじゃないけれど、「家に捕らわれてる自分」は嫌いなの」
「なるほどね。それじゃあ…、“君の立場”は俺がもらっていいかな?」
「良いの? もしあなたが私の代わりをしてくれるのなら、それこそ願ったり叶ったりなのだけれど…」
「良いんだよ。俺としても色々あるからね」
「その色々は、教えてもらえる?」
「君が知りたいと思うのならね」
くすりと笑いながらはぐらかすと、唯月ちゃんは「それならいいわ」と答えてくれた。
「話したい時に話してくれたらいいわ。こんなことができるあなただもの、何かやらかしたんじゃない?」
「…秘密にしておくよ」
「即答できないってことは、正解と言ってるようなものよ?」
意外と鋭いね唯月ちゃんは。まぁ、良いのだけれど。
「…それで、俺が君の代わりになるのは良いのだけど、君の体はどうしようか。男でいるのは何か違うんでしょ?」
「えぇ…。出来れば別の女の子の体を使いたいのだけれど、それもできるかしら」
「それは勿論。使いたい体の子とかいる?」
「だったら、丁度良い子がいるわ。桃瀬涼香っていう私のメイドなんだけど、私は涼香の体を使って、涼香はあなたの姿にしましょう。それなら何も問題無いわ」
さらりと他人を犠牲にする選択肢を取ってのける唯月ちゃんだが、彼女とはどういう関係なのだろうか。
「あぁ簡単よ。お父様に雇われたメイドで、私付きというだけ。お父様と同じく私の事を何とも思ってない、冷たい子よ」
「なるほどね。でも良いの? その子と体を交換すると、君がメイドという立場になっちゃうけど」
「良いわ、私と別の存在になれるのなら、なんだって。メイドの仕事だってやってみせるわ」
…なるほどね、ホントに「家に束縛される自分」を嫌ってるんだなと思いながら、納得する。
少しガクつく腰を支えながらベッドから出て、テグスの束を取り出すと、怪訝そうな顔をしている唯月ちゃんに問う。
「それじゃあ、その涼香ちゃんを呼んでもらえるかな。やることは素早くやっちゃおう」
「…えぇ、そうね」
一瞬だけ驚いた表情をして、にやりと「俺」の顔で笑う唯月ちゃん。彼女はハンドベルを鳴らして、人を呼ぶ。恐らくは例の涼香ちゃんを。
そして、少しすると部屋のドアが開き、人が1人入ってくる。
「先程の喘ぎ声はうるさかったですよお嬢様」
と、素っ気無い態度の少女が入室してきた。
「…?」
そして室内に俺(唯月ちゃん)の姿を確認できず、不思議そうに思っていると。
死角から迫るテグスの手に気づかず、涼香ちゃんは首を『分解』されていた。
ごろりと落ちた首を手に取ると、笑顔を浮かべながら近づいてきて、
「ごめんねぇ涼香…。あなたは悪くないけど、ちょっとその体、使わせてもらうわね?」
笑いながら、頭の無くなった体を抱きしめていた。
過程省略。
そこには気絶している「俺」と、自分の姿を確かめている「桃瀬涼香」が居た。
「…さて、姿は変わったけれど…、ホントにメイドの仕事とか出来るかしら」
「やっぱりそこ気になる?」
「ちょっとね。そういうあなたこそ、私の真似ができるの?」
「ふっふっふ…、それが出来るんだなぁ…!」
テグスの手を伸ばし、唯月ちゃんと涼香ちゃんに『接続』し、お互いの記憶を流し込み合う。
俺の脳に唯月ちゃんの記憶を、唯月ちゃんの脳に涼香ちゃんの記憶を、涼香ちゃんの脳には「俺」としての記憶を。それぞれ流し終えると、唯月ちゃんはくらりとしていた。
「なにこれ…、涼香の記憶? …なるほど、こんな風にいつもしてたのね…」
「…うん、いい感じ。…事後承諾になるけど、君の記憶を使わせてもらうよ?」
「それは…、それでスムーズに事が運ぶなら、うん、構わないわ」
「ありがとう」
裸のまま、くすりと笑みを浮かべる。どことなくぎこちなかった先程までの笑みと違い、まぎれもなく「新城唯月」としての笑顔だ。
「それじゃ、立場は変わるけどこれからよろしくね、『涼香』ちゃん?」
「えぇ、『お嬢様』。これからよろしく」
お互いに、新しい記憶を使って笑い合う。
さぁ、これで成りすましの完成だ。
これから俺は俺でなく、「新城唯月」なのだから。
E6片「代理//生活」
さて、俺が「新城唯月」となってから一週間が経過した。
成りすますこと自体は彼女の記憶を手に入れた関係上何の問題もない。このお屋敷で過ごすことで閉塞感は確かに感じるが、今まで乙木達に色々やられてきた身からすれば、この程度が何だというのだろう。
「“お嬢様”、今朝の朝食は如何しますか?」
「そうね…、涼香の作ってくれたご飯が食べたいな」
「またそんな事を言って…。献立考えるの、これで結構悩んでいるんですからね?」
と、寝間着姿のまま涼香ちゃんに対して言ってみると、彼女は困ったように笑ってくれる。
「涼香」のこんな表情、今まで見たことない。そう唯月ちゃんの記憶が告げてきた。
だってそうだろう、今の涼香ちゃんは本人じゃない。彼女の姿を借りた「唯月ちゃん」その人なのだから。
「…不思議よね、料理なんてしたことないのに、厨房に立って料理してるなんて」
「他人の記憶だから、自分に馴染まないのはよくわかるよ。“そういう知識だ”って考えておくと、少しは楽になるかもねぇ」
「…そういう“お嬢様”は、私の記憶を使ってもそんなに違和感無いのだけれど、どういうことかしら?」
「そう? だったらうまく君に成りすませてるって事かな?」
くすくす笑いながら、隣で体を起こしている「涼香ちゃん」に声をかけ、また抱きつく。
紅いネグリジェは唯月ちゃんの趣味なのか、この体に誂えたように似合っている。
俺も体を起こして軽く伸びをすると、まだ寝足りないと言わんばかりにあくびが漏れてきた。
「それじゃ朝食の用意をしますね。お先に失礼します」
「んー、着替えておくから出来たら呼んでね~…、あふ…」
部屋を出ていく涼香ちゃんを見送りながら、俺も改めてベッドから降りる。
ネグリジェを脱ぎ捨ててブラを着け、ちょっと脇のお肉を胸に持っていき、ちょっと形を整える。そんな必要が無いくらい巨乳なのだが、これはちょっとした女の意地というやつだ。
インナーを着てから黒のセーラー服を身に着け、タイを結ぶ。プリーツスカートのホックを止めジッパーを上げる。
太ももまでのタイツを穿いて、これまた赤いジャケットを羽織ると、俺が出会った「新城唯月」そのままの姿になった。
…もちろんこの服を着るのは今日が初めてじゃない。この一週間、彼女の代わりに学校に行って勉強したのだから当然だ。
おかげで学校での交友関係も知れたし、どんな生活をしたのかも理解できる。
「お友達」とは仲良くやれてると思うし、そこでボロは出ていないはずだと思いながら。
「お嬢様、簡単だけど出来ましたよ?」
「わーい。ごはんごはん♪」
着替えが終わった頃に、寝間着姿に上着を羽織っただけの涼香ちゃんが呼びに来てくれて、俺は朝食をとる。
ちなみに朝食はいつもこの部屋でとっていた。
「唯月」に興味のない両親は、食卓を一緒に囲むことなど無く、それぞれで食事を済ませている、まぁ所謂「冷えた家庭」という奴だった。
サラダとスクランブルエッグ、バターを塗ったパンが今日の朝食。
普段はそれを一人で食べていたが、今は違う。テーブルを中心に、俺と涼香ちゃんが向かい合って座っていた。
「唯月ちゃんの方はどう? うまく涼香ちゃんやれてる?」
「そこは問題無いわ。涼香として振舞えてる自信はあるし…、これでも度胸はある方なのよ?」
「それなら良かった。“俺”はどうしてる?」
「“羽張くん”だったら、うまい具合に仕事をしてくれてるわ。腐っても中身は涼香だしね」
「俺になった涼香ちゃん」だが、今は新城家の執事見習いとして働くことになっていた。
俺の記憶を植え付けられて、逃げなければいけないという焦燥感に駆られていた彼女だったが、保護の名目で新城家が雇い入れていた。
「…それにしても面白かったわ、股間におちんちんが付いてて泣きそうになってたあの顔。ちょっとの間は私の顔だったのに、もう面白くって」
「元々は俺の顔だけれどね。そう言ってもらって、ちょっと微妙な気分です」
「あら良いじゃない、今は綺麗な私の顔になってるんだから」
「それもそうだ」
からかうように笑ってくる「涼香ちゃん」の表情は、とても楽しそうだ。
「新城唯月」という立場から解放されたことで、素直に笑えているのだろうと思いながら、パンにかじりつく。
「そういうみーくんこそ、私としての生活はちゃんとできてる? 成績落としてなんかいないわよね?」
「勉強はしてる方だから問題ないけど…、3年の勉強はちょっと難しいかな。学校も違うし」
「そこは私の記憶で何とかしてね。でも地頭だけはどうしようもないかもだけど…」
「ちょっとひどくない?」
「せめて高校卒業くらいまでは、“今までの新城唯月”のイメージを崩して欲しくないからね」
まぁ、ちょっと分からないでもない。突然人が変わったようにふるまってしまえば、交友関係も崩れてしまいかねないだろうから。
「ま、それならそれで頑張るよ。唯月ちゃんの顔はきっちり立てるさ」
牛乳を飲みながら答えると、
「あ、そうそう。そんなことする必要ない相手が一人いたわ」
「誰…、って、聞くまでもないか」
「そう。アイツに対しては、気にせず“みーくん”として振舞っていいから」
その相手は柄本兵馬。唯月ちゃんより5歳年上の、高校卒業後に結婚する予定の相手だ。
…まぁ、唯月ちゃんが嫌う人間なので、それほど出来た人間ではないという事だけは確かだけどね。
俺もそんなやつとは結婚したくないものだ。