支援図書館(η)

Patchworker Edit

2020/08/16 13:11:55
最終更新
サイズ
56.45KB
ページ数
6
閲覧数
5816
評価数
0/21
POINT
810
Rate
7.59

分類タグ


E7片「許婚//様相」

さて。学校が終わったら後は帰るのみ、とならないのが、お嬢様の大問題だ。
成り代わって唯月ちゃんとして過ごしているわけだが、その生活ルーティンの中に組み込まれてしまったものが一つ。

それが「月一にある兵馬とのデート」だったりする。その日が今日であることにちょっとばかり憂鬱になってしまうが、これは唯月ちゃんの記憶だ。
かく言う俺は柄本兵馬という男に対して、まだ会っていないため評価をするわけにはいかない。

予備知識として唯月ちゃんの記憶から彼に関する記憶を引っ張ってみると、

「徹底して女好きで、自分の事を下衆い目で見てくる」
「デートしている最中でも他の女性に目が向いてしまう」
「ぶっちゃけ色情狂の気があるんじゃないか」

…うん、散々だ。

一言でいえば女好き。「自分」を見るつもりどころか、女としてしか認識していない。それが唯月ちゃんとしては本当に反吐が出る相手だったようだ。
さもありなん。そんな相手と一緒にさせられてしまう未来を考えれば、「家に閉じ込められている自分」が嫌いになるのも当然だろう。

校門で当の兵馬を待っていると、このままバックレたい気分でいっぱいになってくる。
だが帰ってしまえば父親からの折檻が待っている。あぁ面倒臭い。

すると大きな黒塗りの車が停まり、窓が開いた。

「よう唯月、待たせたか?」
「別に、そこまで待ってはいないわ。あなたこそ仕事を放り投げてきたわけじゃないでしょうね?」
「そんなこと言うなよ。ちゃんと切り上げてやってきたんだぜ? お前の為にな」

塩対応のように思うが、「唯月ちゃん」として兵馬に対する振舞いが常にこんなものであった。
…随分言葉遣いはよろしくないようで。あと視線が顔じゃなくて胸に寄せるのをやめろ。

「それで? 今日はどこに行くつもり?」
「おいおい、予約してたレストランに連れて行くって約束だったろ?」
「私は覚えているつもりだったけど、あなたが忘れてた可能性もあったからね」

先月のデートでは、何故か高級クラブに連れていかれてしまった唯月ちゃんであった。
そこで俺は「大事にされている」という名目で放置され、兵馬は肌も露な女性たちと乳繰り合っていた。
来月の予定もその場で立てていたはずだが、酒の入った頭でどれだけ覚えていたのやら。

「そんな事あるもんか。俺は未来の嫁との約束は忘れない男だからな」

よく言う。8か月前のデートの時は、デートがあること自体を忘れていたくせに。
おかげで一人で帰る羽目になり、唯月ちゃんは後で「お父様」に叱られたんだぞ。

立ち話もなんなので車の中に入り、一応兵馬の隣に座る。そのとたんに肩に腕をかけて抱き寄せ、手が胸の所に触れた。

「…まぁ、良いのだけれど。それで? 一応訪ねておくけど、“このまま”で入れるお店なのよね?」

学校帰りという事で俺は着替えることも無く制服姿のままだ。学生の身分としてはこれが礼服にも成りうるが、高級なお店ならドレスコード位あるだろう。
果たして制服で入れるのか、という疑問にはさも当然のように胸を張って言ってのける。

「当然だろ。向こうが何か言ってきても、俺の名前を出せばだんまりになるさ」

…確かに柄本家の名前は大きいし、次期当主の名前を出せば大抵の人物は何も言えなくなるだろう。
権力と財力で好き放題している女好きか。
…やだなぁコイツ。

「そう。それなら良いわ」
「お前はそればっかりだな唯月。もっと俺の事を知ろうと思わないのか? 将来の夫の事だぞ?」
「お生憎様。お互いを知らなくても夫婦関係は築けるものよ」
「俺は唯月の事を知りたいと思ってるんだぜ? ナカまでじっくりと、な?」

こいつ、唯月ちゃんの両親を皮肉った話題を出しても気にせず手をこっちの体に寄せてくる。
太ももを撫でられ、スカートに近づけられると背筋がぞわっとしてきたぞ?

「やめなさい、まだ学校の前よ。見られでもしたらどうするつもり?」
「黙らせりゃ良いのさ。そんな方法いくらでもある」
「……」

自信満々な語り口に、心底ウンザリし始める。
こんな奴と付き合ってたのか、唯月ちゃんは。ごめんね、甘く見てたよ。コイツ最悪だ。

「まぁいいや。おい、車を出せ」

兵馬は運転手にそう告げると、黒塗りの高級車は動き出し、学校を置き去りにしていく。

「そうそう、レストランの後だけど…、部屋を取っておいたぜ」
「…なんですって?」
「唯月は知らなくても夫婦になれるって言ってたけど、許嫁だからってのもあるが、それ以上に…、俺が唯月の事を知りたいんだ」

あーぁキメ顔しちゃって。容姿は悪くない…というかむしろいい方だし、これで色んな女の子落としてきたんだろうなぁ。
でも残念。唯月ちゃんは元より、今彼女の代わりをしている俺から見ても、君は恋愛の範疇外だ。
そもそも許嫁がなり代わられてる事に気づけないで、そんなセリフを吐くこと自体が滑稽だよ。

「…そう? だったら今夜は、“私”の事を教えてあげようかしら?」
「! あぁ、唯月はとうとうそのつもりになったんだね。良いよ、夜が白むまでお互いたっぷりと語り合おうじゃないか」

ま、夜が明けたら君が君のままでいられるかなんて確証はないんだけどね。

E8片「誘導//三人」

「唯月ちゃん」も知ってる高級ホテルのレストランでの食事は、なんというか、緊張してしまった。
彼女として振舞えばそうでもないんだろうけど、それでも元は俺なのだ、こんな縁のない所に来てしまっては、緊張せざるを得ないだろう。
…まぁ、その緊張も、あいつに取っちゃ「この後の事を考えての緊張」と思われた事くらいだろうけどね。

食事省略。
うん、美味しかったと思うよ。でも今の俺としちゃ、「涼香ちゃん」と取る食事の方が美味しくて好きかな。やっぱりシチュエーションは偉大だ。

そして最上階のスイートルームに案内されて、いざ、という時に限って、兵馬は携帯を取り出して話し始めてきた。

「あぁマユミちゃん? 俺だよ俺。…あぁ、入ってきて良いよ。俺の名前を出せばすぐ案内してくれるから」

それだけを電話口で告げると、兵馬は電話を切った。それに対して疑問に思ったため、彼に詰め寄ることにした。

「ちょっとあなた、どういう意味? そういう目的でこの部屋を取ったのに、別の女性を呼び込むなんて」
「機嫌悪くするなよ。どうせ唯月は初めてだろ? 何も分からないと思って助っ人を呼んであげたのさ」
「助っ人って…、何考えてるのよ、本当に」
「何って、俺は唯月に気持ち良くなってほしいからな。その道のプロがいれば、唯月だって安心して俺に抱かれることができるだろ?」

何言ってんだこいつ。唯月ちゃんにとっての初めてを3Pでやろうという訳か。
…あわよくばこれを切欠にして、常に別の女性を呼び込む口実を作ろうとしてるのか?

「…あなたが何を言ってるのか分からないし、分かりたくもないわ」
「夫のいう事を理解するのも、妻の役目だろう?」
「まだ許嫁という関係でしかないのに、よく言えるわね」
「その内本当の夫婦になるのに、そうツンケンするなって」

ダメだこいつ、本当に「暖簾に腕押し」という言葉がよく似合う。
何言っても都合のいいようにしか解釈しないし、すべてが自分の思うように回ると考えてやがる。

…だったら良いさ。ここからは「唯月ちゃん」ムーブはお終いにしよう。

「…わかった。本気という事で良いのなら…、こっちもそのマユミちゃんとやらが来るのは受け入れる。その前に」
「あぁ、シャワーを浴びたいとか?」
「悔しいけどご名答よ。授業で運動した日だから、このままだとあなたに悪いと思ってね」
「気にするなって。どんな状態のお前でも愛してやるから。でも唯月がそういうなら、良いさ、行っておいで」
「それじゃ失礼するよ」

口調が変わったことにすら気付かない兵馬は、俺がシャワールームに行くのを見送った。

制服を脱いで下着姿になり、その下着も脱ぎ捨てて裸になる。
シャワールームでさえ豪勢なスイートルームは、本当に住んでる世界が違うのだなと思うばかりだ。
備え付けのシャンプーだって、普段使ってるものとは全然違う。高級という一言で片づけるのも憚られるんじゃないかと考えてしまう。

「…さて、好都合だな」

考えるのは、これからやってくる「マユミちゃん」とやらの存在だ。
兵馬がこんなときに呼ぶ人物なのだから、それなりに付き合いがあって、そのテクニックも熟知しているコールガールなのだろう。
だからこそ呼んでくれたことはありがたい。そして何よりこの閉鎖空間を用意してくれたことも。

「折角の綺麗な体なのに、あいつに貪られるように犯されるのなんて御免だからね。唯月ちゃんとしての体は大切にしたいし…」

なにより、男に抱かれることなんて本当に嫌なのだ。かつて青海を陥れるために犯されはしたが、復讐のために必死に平静を保ってたけど、本音を言えば吐きたくてしょうがなかったんだし。
そのうえ人格的にも良くない兵馬に抱かれるなんて、唯月ちゃんも許さないし俺も許せない。

体を洗いながら、いざという時の為に手を握っては開き、心の準備も整える。
水気を拭いてバスローブを纏い、シャワールームの外に出ていくのだった。

「お待たせ…」
「おぉ唯月、待ってたぜ」
「はぁい唯月ちゃん。今夜はよろしくね?」

外に出ると、もう件の「マユミちゃん」とやらが部屋に入ってきていた。
ここに入ってきても問題ないレベルのナイトドレスを纏って、兵馬の隣に座っていちゃついている。いや、それどころじゃなく胸を揉んだり体をさすったりしていた。

「えぇ、今夜はよろしくお願いします」
「…あら兵馬、唯月ちゃん意外と礼儀正しいじゃない」
「そうだろう? けれど俺にだけはちょっと厳しいんだよな」
「好かれてる証拠よ。受け止めてあげなさいな」

誰が好いてるか。まったく。
マユミちゃんから見れば兵馬は金払いのいい相手なのだから、大事にしておきたいのだろう。多分これもリップサービスだと思いたい。
…ま、良いや。

「それじゃ2人とも…。ちょっと触っていいかしら?」
「おう良いぜ」
「良いわよ」

緊張していると装って手を差し出すと、2人とも馬鹿正直に手を出してくれた。
それを手に取り…、

「『分解』、発動」

能力を発動させた瞬間、2人の体は四肢、胴体、頭とばらばらに崩れ落ちていった。

「…それじゃ2人とも。今夜はよろしく」

部品になった2人を見下ろしながら、俺はにやりと笑い、悪だくみを始めるのだった。

コメントは最後のページに表示されます。