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2020/08/16 13:11:55
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E11片「両親//他人」

「唯月、そこに座りなさい」

突然仏頂面の「お父様」に呼び出され、リビングにて家族会議の様相を呈している。
傍らには「お母様」も一緒に座っており、こちらは“困ったものだ”と言わんばかりの表情をしていた。
下手に波風立てるのもなんなので、言われるまま自分の席に腰を下ろす。

「…柄本家から、婚約解消の通達が来た。何か知っているか?」
「先日のデートで、彼が突然帰った事くらいなら」
「そうか。…何も知らないんだな?」
「むしろ彼がどうしたんです、“お父様”?」

問い詰めるような視線を向けられていても、気にしないように流す。それ自体は唯月ちゃんがやっていた事だし、俺としてもさして気になる事ではないのだから。

「数日前から家に戻っていないそうだ。仕事場からも姿を消して、今では行方不明扱いになっている」

なんと。家に帰ってると思ってたけど、まさか本気で逃げたのか。
…まぁ、家に戻って「女になりました」なんて言った所で、受け入れられるかなんて分からないのだけどね。

「柄本家の方も堪忍袋の緒が切れたそうで、彼を後継者から外すことにしたようだ」
「あら、そうだったのね。…それで?」
「それで、とは?」
「“お父様”の事ですもの、次の予定位はすでに立てているんでしょう?」

「…口が過ぎると、要らぬ災いを呼ぶぞ?」
「あら、デートでこちらを放置するような人と付き合う以上の災いがありまして?」
「失礼よ唯月っ!」

隣の母親が、怒りを露にして名前を呼んでくる。
叱るというより鬱憤を晴らすといった感じでの声音だが、知った事じゃない。失礼なのは向こうなのだったから。

「…柄本家との繋がりがこれ以上望めないのなら、別の方法を模索するしかない」

あぁ、もう別の婚約の話をするのか、“お父様”は。気が早いね。
まさかそんなに家に余裕がないとか? まさかね。

「矢継ぎ早にになりますが、あなたとはこちらの方と婚約をしてもらいます」

そう“お母様”が言い、彼女付きのメイドが二つ綴じのアルバムを差し出してくる。
開かれた中には、紋付袴を着た俺と同年代位の、人の好さそうな少年の姿が映っている。どこか表情が堅苦しそうだ。

「三条九十九君という。古い付き合いの家の跡取りだが、彼なら問題ないだろう」

何が問題無いんだ。婿入りか? それとも俺の嫁入りか?

「それは構いませんが…、お父様。彼の人格は問題ありませんか?」
「唯月っ!」
「また似たような人と付き合わされたら溜まったものじゃありませんからね」

俺の言葉に“両親”は苛立っているように思えてくる。まぁ、そうだろうね。愛していない娘が反抗的になれば、そりゃ苛立ちもするだろう。

「彼自身はそこまで問題児という話は聞いていない。ただ、ご両親が不在という所で些か不安は残るがな…」
「きちんと教育を受けていない者というのは気になりますが、結婚後にきちんと教育を進めていけば問題無いでしょう」
「そういう事だ、唯月。…すでに予定は取り付けている、明日は三条君と顔合わせをしてきなさい」
「はぁ」

…ため息が出そうになるのをどうにか堪えた。本当にこのご両親は、唯月ちゃんの意思を無視しているのだなと思ったり。
恐らく三条君とやらを婿入りさせ、世継ぎを唯月ちゃんに、今度こそ男の子を産ませるつもりなのだろう。

本当にこう、どうして俺の周りには人の話を聞かない輩が多いのかわからない。
テグスの手を机の下から伸ばして、こっそりと両親の体にくっつける。
その間、肯定の意思を示さない俺(唯月ちゃん)に“両親”は苛立っているのか、言語鋭く俺に向けて話しかけていた。

「…返事は?」
「唯月、返事をなさい」

…仕方なしに答えを出してあげる。

「…この婚約、お断りします」
「「は?」」

二人が呆けたような言葉を出した瞬間、俺はテグスの手を2人に『接続』させる。

「お二人が“私”の事を考えずにお話を進めているのはよく解りました。その上で、お断りします」

“お母様”のメイドが、少し驚き何を言うべきか悩んだ様子でこちらを見ていた。

「この18年、“私”はお二人の言うとおりに生きていましたが…、それもそろそろ終わりにさせていただきます。
その上ではっきりと言わせてもらいますね。
私の事を認めないままで構いません。娘だからという理由で蔑んでも構いません。
その代わり、私に婚約者を宛がわない事。そして恋愛は自由にさせる事を認めていただきたいのです」

洗脳する内容を、“お母様”のメイドが見てても可笑しくないよう、言葉にしながら毅然と伝えていく。

「…あ、あぁ、わかった…、そのように、しよう…」
「…わかったわ、ゆ、づき…」

どこか目の焦点も歯の根も合わない状態で、2人は俺に洗脳されていく。
…それが終わると、すぐさま『接続』を解除し、テグスの手を回収していく。
二つ綴じのアルバムを閉じてテーブルの上に置くと、とりあえず“両親”の顔を立てることにする。

「…ですがまぁ、明日彼と会ってはきます。唐突な約束とはいえ、破るのはよろしくありませんからね」
「…あ、あぁ。そうするといい。その後どうするかは、会ってから考えればいい」

『接続』を解除した“お父様”は、無理に俺に婚約者を宛がう事をしない様子だ。よしよし。

「では、失礼いたします」

席を立ち、その場を辞する。
…さて、明日はどうなるのやら。

E12片「事後//報告」

新しい許嫁を宛がわれそうになってから二週間。俺が唯月ちゃんに成り代わってから都合1カ月程度の時間が経っていた。
あ、ちなみに件の三条君とは出会った結果「お友達でいたい」という話に収めておいた。向こうも大分、降って湧いた許嫁という存在に驚いていたようだしね。

今日は学校が休みの日、予定もなく何をするべきか、進学か就職かを悩んでいた所、ふと「俺の電話」が振動を始めた。
…一応俺は電話を2台持っている。片方は「新城唯月としての電話」、もう片方は「俺としての電話」の2台。その片方が鳴り始めたのだ。

連絡先を見ると「撫子さん」との表示が出ており、見知らぬ存在からの物ではないことを知る。
唯月ちゃんとしての細い指でフリックして電話に出ると、

『へいみーくん、お元気ー? そっちの様子はどうだい?』

…懐かしい彼女の声が聞こえてきた。

「えぇ、撫子さん、お久しぶりです」
『お? 全然別の声がみーくんの携帯から聞こえてくる…って事は?』
「そうです、あなたの“みーくん”ですよ」
『なるほどなるほど…、そういわれて安心したよ。別人がみーくんのフリをしてるんじゃないかと思ったくらいだ』
「…信じられないなら、俺が乙木達から逃げてきた話でもします?」
『んー、大丈夫。掘り起こすつもりはないからさ。んで、今までどんなことしてたのか、軽く教えてくれない?』

その言葉に釣られて、俺はこの一カ月の話を撫子さんに話していた。

「新城唯月」と入れ替わった事、
彼女として生活している事、
鼻持ちならない許嫁をちょっと弄ってあげた事、
代わりの許嫁を宛がわれそうになった事、
そのほか「唯月ちゃん」として生活していく中であった色んな事を、彼女に話していった。

『ほほう! みーくんは大分その「唯月ちゃん」をエンジョイしてるねぇ。良いなぁ~』
「それでしたら、撫子さんもこっちに来ます? お客様としてなら部屋も用意できますよ?」
『それも良いかもだけど、やっぱり私はこっちでみーくんと再会したいな。たまにでいいから帰ってきてよ』
「俺も出来れば帰りたいですけどね。…“両親”からある程度の自由は貰ったので、高校卒業したら2人を連れてそっちに行こうかと思ってます」
『お。良いね良いね。私にもその「唯月ちゃんの体」を抱かせてほしいなぁえっへっへ…』

撫子さん、俺がいない間どれだけ性欲の発散先を探していたのだろう。なんか大分オヤジ臭くなってる感じがするぞ?

「まぁ、それもそれで『俺が戻っても問題ない状態』になってないといけないんですけど。そっち、どうなってます?」
『あ、そうそう。それを言うのを忘れてたよ。こっちの方だけど、まぁ端的に言うなら…、乙木達の負けかな』
「…へぇ。てっきり何かしらの、国家権力とかが動いてるんじゃないかと思ってたんですけど」

『物証に関しては本人達がいれば良かったんだけどね。具体的に「何をどうやったのか」が分からないんで、警察とかの方もお手上げだったらしいんだよね』

撫子さんが言うには、その後乙木達は大学病院に連れていかれて検査をされたのだが、どれだけ調べても「どうやったのか分からない」という結論に至ったらしい。
それはそうだろう。科学技術とは別アプローチの、俺としてもどうやっているのか分からない能力での『接続』と『分解』の末なのだから。

『で、警察が調べていった所、乙木達はみーくんイジメの主犯という事が判明して、現在は大学病院の研究所に検査という名目で拘留されてるよ』
「あはははは! そりゃ良いや、二度と出てこれなさそうだし、俺としても大手を振って帰ってこれますね!」
『…でもまぁ、“みーくん”が帰ってくるのはもう少し後にした方が良いかも。ちょっとみーくんをマスコミとかが探してるから、まだちょっと煩いんだよね』
「…ってことは、今マスコミ、俺たちの家に来てます?」
『ついさっき帰ってったけど…、多分カメラとか残してるんだろうなぁって思うよ』
「本当に、ほとぼりが冷めるまで帰れそうにないですね…」
『私としちゃできれば早く帰ってきてほしいんだけどなぁ! みーくんに色々するのもされるのも、なんか随分ご無沙汰なんだもん。菫ちゃんと胡桃ちゃんだけじゃ、なんかこう、足らん!!』

「それはまた…。まぁ、近いうちにそっちに顔を出しますね。あ、ついでに今の姿の写真も送っておきますから」
『お願いねーみーくん。待ってるよー』

その後しばらく、俺たちは取り留めのない会話をして電話を切った。
自撮り写真を撫子さんに送ると、彼女は興奮した様子で今度は通話アプリを介して話し始めてきているが、そろそろ別の事もしないといけないので話を軽く区切った。

「“お嬢様”、話は終わった?」
「うん、“涼香ちゃん”。待たせちゃってごめんね?」
「良いのよ。私もその「撫子さん」と会ってみたいからね」

気付けば部屋の中に入っていた“涼香ちゃん”が、ベッドの上で下着姿になっている。そんなに俺との行為が好きになったのだろうか。
最初に抱き合った時から、俺と彼女はすっかり恋人のような関係になっている。俺が抱いたり、“涼香ちゃん”が俺を抱いたりと、日によって変わってはいるが。

俺も上着をはだけて裸になり、ベッドの上に乗っかって彼女にキスをする。嬉しそうに俺を受け止める“涼香ちゃん”とのキスは、次第に激しさを増していった。

乙木から逃げた先での生活だけど、これはこれで意外と充実している。
美人な外見に社会的地位、それに友達のようなセックスフレンド。干渉しなくなった“両親”。

思った以上に快適なこの生活だ、しばらく続けていても良いかもしれない。
そう考えて、俺は彼女を抱くことにした。
完結といったな。すまんありゃ嘘だった。
という事で、Ifストーリーの「Edit」です。具体的な分岐点は、無印が終わった後、「増設話」に入る前位ですね。
こんな話ですが、楽しんでいただけたら幸いです。
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