もうこれ以上変な命令をされる前に終わらせたい。
とさっきから思ってはいるが、神様を全く引けない。
これが物欲センサーというものか?
しかし、「元に戻る」という命令で戻るのは若葉ちゃんのことで体験済みだが、戻しても大丈夫なものか?
良香…良則は…ああ、面倒くさい。今は良香でいいや。
良香はそのままでもいいかもしれないが、問題は四葉だ。
四葉は命令によって敏明を好きになっている。しかもそのせいで何度もキスをしている。
それを戻したらどうなるだろうか…少し、いや、すごく怖い。
いっそ四葉を除いて戻す方がいいのだろうか…
「よーし、可愛い妹も出来たところで次にいきますか!」
のんきだな、おい。
祈るような気持ちで棒を選ぶ…これだ。これで終わらせられればいいんだが…
全員が引き終わる。何だか棒を確認するのが怖い。
「はーい、かm「はいっ!」
双葉、どうしてそんなに早いんだ。そんなに嬉しいか?おい。
「じゃあ早速。4番は好きな人と心が入れ替わるっ」
えっ、早すぎる。俺まだ確認してないぞ。
一瞬眩暈がしたが、気にしている場合ではない。棒を確認すると…4番。そんな…
何度か言っているが、俺は若葉ちゃんが好きだ。ということは…
隣を見る。そこには若葉ちゃんと双葉がいるはずだが、見えるのは双葉だけ。
逆隣りを見ると…『俺』がいる。
「…えっ?」
俺の方を見た『俺』が声を上げる。
「わ、若葉ちゃん…か?」
俺の口から若葉ちゃんの可愛らしい声が出る。『俺』は顔を赤くしながらこくんと頷く。
「へえ、清彦と若葉か。四葉か良香に当たったら面白かったんだけど」
「面白がるなっ!」
「へへーん、若葉に言われても怖くないもんねー」
「俺は清彦だっ!てか怖いって思ってたのか?」「いや、全然?」
…こいつは。
「あ、あの、若葉ちゃん…」
「は、はいっ…」
若葉ちゃんは口元を覆って恥ずかしそうに返事をする。…俺の体じゃなきゃ可愛いんだが。
「ええと、わかっちゃったと思うけど、俺、若葉ちゃんが好きだ」
「…えっ!?」
驚きで目を丸くする、俺の姿をした若葉ちゃん。…まあ、こんな状況で言われても困るよな。
「ほ、本当に…?」
「本当だよ。必ず元に戻すから、戻ったらもう一度言わせてくれ」
若葉ちゃんのことは好きだが、若葉ちゃんになりたいわけじゃない。
良香のように興味がないと言えば嘘になるが、それよりも俺の体のままじゃ若葉ちゃんも困るだろう。
だから、必ず元に戻ってみせる。若葉ちゃんの体に変なことなんてするものか。
「…若葉…じゃなかった。清彦。ちょっとそれ見せて」
俺が反応するより早く、双葉に棒をひったくられる。
「…んー、清彦。もしかしてちょっと勘違いしてない?」
「勘違い?何の話だ?」
「あの…清彦君…4番を引いたのは、私、だよ…?」
…あ、そうか。俺と若葉ちゃんが入れ替わったということは、今俺が持っている4番は若葉ちゃんが引いたものだ。
つまり、若葉ちゃんが好きな人と入れ替わって……ん?
今度は俺が驚いて若葉ちゃんを見る。恥ずかしそうに俯いている。
「えっ、えっ?」
混乱していると突然後ろから抱きしめられる。
「カップル成立おめでとーう!」
「うわっ!?お、おい、双…ひゃっ!?」
抱き付いてきた双葉に胸を揉まれ、思わず変な声を上げてしまう。
…良香も言ってたけど、男とは全く違う感覚だ。
「わあ、そんな可愛い声出されたらもっとしたくなっちゃう」
「ちょ、双葉、やめっ…んっ!」
おまけに背中には双葉の大きな胸がむにむにと押し付けられる。
や、やばい…なんだか変な気分になってしまう…!
「だ、だめっ!」
男の声が聞こえたかと思うと、その方向に抱き寄せられる。
「ふ、双葉ちゃん。あんまり変なことしないで…」
頭の上から俺の…若葉ちゃんの声が聞こえる。
…俺って、こんなに逞しかったっけ?いや、若葉ちゃんの体だからそう感じるのか?
「ごめんごめん。二人が羨ましくてつい」「姉さんには私が」ガタッ
良香、座ってろ。
「若葉の彼氏を取る気なんてないってばー」
「か、彼氏…」
ぎゅっと抱きしめられる俺。…逆がいいんだけど…何故か鼓動が早まる。
「あ、あの、若葉ちゃん…」
「えっ?あっ!ごめんなさいっ!」
腕の力が緩められると、そっと若葉ちゃんから離れて顔を見る。相変わらず真っ赤だ。
「わ、若葉ちゃん…顔、真っ赤だよ…」
「き、清彦君も、真っ赤だよ…」
そ、そうなのか。どうりで体が熱いと思った。
…双葉に変なことをされたからじゃないぞ、決して。…たぶん。おそらく。
『俺』の顔を見つめると、若葉ちゃんもこちらを見つめてくる。
見た目は俺だけど、若葉ちゃんなんだよな…と思って見ていると、なんだかドキドキしてくる。
…いや、男の、俺の顔だぞ。なのになんだ。この気持ちは…
「きーす、きーす」
背後から小声で煽る声が掛かる。
「ばっ、ばかやろうっ!」
双葉の声に我に返ってつい怒鳴る。
「やろうじゃないですー。おんなのこですー」
「小学生かっ!ああ、次やるぞ、次!」
もし双葉が何も言ってこなかったら、俺はどうしてたのだろうか…
…いや、考えるのはやめておこう。とにかく若葉ちゃんに体を返すことが先決だ。
――俺の様子を見て、若葉ちゃんが小さく笑っていたことに、俺は気付かなかった。