「はーい、みんな棒引いてー」
双葉に促されて棒に手を伸ばす。
目に映る、白くて小さい手が俺の意思で動かしていると思うと妙な気分だ。
もしも、戻れずに終了してしまった場合、これが俺の手になってしまうのか…
…いやいや、マイナス思考はよくない。すぐに戻れる。すぐに戻れる。
全員が引き終わったのを見て、棒を確認する。…1番。またも神様ではない。
しかし、今回は2/6だ。若葉ちゃんも戻りたいと思っているはず。
どちらかが当たれば勝ちだ。…双葉に引かれるのが一番怖い。
…あ、大丈夫だ。自分の棒を見てあちゃーって顔してる。
「神様だーれだっ」
…あれ?誰も言わない?いないはずは…
「んっ、んーっ!」
くぐもった声の元を見ると、敏明と四葉。またキスしてやがる…
って、敏明が手を挙げている。ということは敏明が神様か。…なんだろう、この安心感。
「敏明が神様なの?じゃあ私たちがもっとらぶらぶになれる命令して♪」
ようやくキスを終えた四葉が敏明に言う。
「め、命令なんかなくても大丈夫だよ…」
「あーん♪敏明すきー♪」
……他所でやってくれませんかねえ…って今出て行かれても困るが。
「よ、四葉。ちょっと、待って…」「はーい♪」
「恋する乙女は無敵だねえ」
「それは、関係ない気がする…」
双葉の言葉に力なく呟く俺。
「あの、清彦、双葉ちゃん。番号教えてもらってもいいかな?」
「「え?」」
俺と双葉ちゃんが同時に声を上げる。
「だって、戻りたいでしょう?」
「とっ、敏明さん…!」
思わず敬語になり敏明を見つめる。
「…なんか、若葉ちゃんにそんな顔で見つめられると恥ずかしいな…」
「…若葉、敏明に色目使わないでよ」
「清彦だよっ!色目なんて使ってねえよ!?」
「でも、敏明君はいいの?また神様にならないと命令できないのに」
ああもう、若葉ちゃん。そんなこと気にしなくていいのに。優しいなあ。
「清彦の顔で君付けされるのは変な気分だね…
僕はもういいよ。四葉さんに僕を好きになってもらったのも、本当は悪いと思ってるし」
「ああーん、敏明優しすぎるぅ♪また好きになっちゃうよぉ♪」
…黙ってていただきたい。本当に元々の性格なのか?
「…四葉、本当に元々は敏明のこと何とも思ってなかったのか?」
思わず聞いてしまう。
「ん?んー…あんたら3人の中では一番良かったかも」
へえ、意外だな。まあ俺とか言われても困ってたけど。
「一番言うこと聞いてくれそうだったし」
お、おう。確かに敏明は気弱だし、押されたらたぶん折れるタイプだろうな。
「でも、今は敏明に命令されたら、何でも聞いてあげちゃいたい気分♪」
お、おう。今、四葉が敏明にデレデレなのはよくわかった。
本人が幸せそうならいいか…いいのか?
「じゃあ、私は2番」
「俺は1番」
俺たちは敏明に番号を告げる。
「わかった。じゃあ言うね。
すぅーっ…1番と2番は手を合わせてお互いに『私たちは入れ替わります』と言ったら心が入れ替わるようになるっ。ふぅ」
…ん、うん。「おい」
「え?」
「普通に戻す気はなかったのか?」
「に、睨まないでよ…思いついちゃったから、つい…
それに、キーワードがあればむやみに入れ替わったりしないでしょ?」
言っていることは間違っていない。いないんだが…なんだかもやっとする。
「はぁ…まあ、戻れるようにしてくれてありがとうな。じゃあ、若葉ちゃん」
「あっ、はい」
俺と若葉ちゃんは手を合わせる。
「せーの、「私たちは入れ替わります」」
一瞬目の前が真っ白になる。次の瞬間には…俺の顔が見えた。
「あ、あれ?戻ってないぞ!?ど、どういうことだ、敏明!」
「えっ、ぼ、僕に言われても…」
俺もだが、敏明も困惑している。
「素直に戻してくれれば…ん?」
良香が少し俯いて口元に握り拳を当てている。良則の考えるときの癖だ、
「どうした?良香」
「ん…いや…清彦、ちょっと手を出してくれない?」
何をする気かと思いつつ、差し出された良香の手に俺の手を重ねる。
「じゃあ、入れ替わりの呪文を言ってみて」
「え?わ、わかった。じゃあ…「私たちは入れ替わります」」
また眩暈のような感覚が襲う。収まると、目の前には若葉ちゃんがいた。
「…やっぱり」若葉ちゃんが口を開く。
「…良香か?」
「うん。敏兄さんの命令、二人それぞれに効果が出たみたい。
お互いに入れ替わりをしたから、元に戻ってまたすぐに入れ替わったんだと思う」
「…えー…」
なんだか面倒くさいが、これで若葉ちゃんと良香が入れ替わって、
俺になった良香と俺が入れ替われば元に戻れる。
「…姉さん、手を出して?」
「おい」
「はいよっ。「私たちは入れ替わります」っ」
「これ以上ややこしくすんなっ!」
若葉ちゃん…じゃなかった、良香と双葉はお互いの顔を見合わせる。
「…『本人』じゃないとダメみたいね」
「なんだ、残念。若葉になるのも面白そうだったのに
『若葉ちゃん』、続いて双葉が口を開く。入れ替わってないのか?
「『中身』が清彦か若葉じゃないと入れ替わらないみたい」
…なるほど、命令は心だか魂だかに掛かってるってことか。
「というわけで若葉」
「あ、うん」
若葉ちゃんと良香が手を合わせて『入れ替わり』を行う。
これで若葉ちゃんは元通りだ。よかった。
「あ、清彦。実験に付き合ってくれたお礼に、私の体少しなら触ってもいいよ?」
「いらん。早く戻せ」
そして俺と良香も元の体に戻った。
「ああ、やっと戻った…」
手を見れば男の手、胸を触れば真っ平。ようやく自分の体に戻れた。
「ごめんね、清彦君。私の体のままじゃ、嫌だったでしょう?」
若葉ちゃんが申し訳なさそうに言う。
「悪いのは双葉だよ。それに、嫌っていうなら若葉ちゃんだって」
「わ、私は戻れなかったら困りはしたけど、嫌じゃないよ…だって…」
そう言って顔を赤くする若葉ちゃん。
「清彦ー。元に戻れたらどうするんだっけー?」
どうする…?何か言ったっけ?…あっ!
「わ、若葉ちゃん!」
「は、はいっ…」
「…好きだ!俺と付き合ってくれ!」
「……はい…」
微笑んで答えてくれる若葉ちゃん。…夢じゃなかろうか。ここまで現実離れしてるし。
「カップル成立おめでとーう!」
「きゃっ、ちょっと、双葉ちゃ…ひゃっ!?」
双葉が若葉ちゃんを後ろから抱きしめ、胸に手をやって…あれ?デジャブ?
「って双葉!若葉ちゃん嫌がってるだろ!」
双葉の腕を掴み引き離す。
「だって、彼氏が出来ちゃったから揉み納めしないと」
「胸だったら私が」
「しないと、じゃねえよ!あと良香は黙っとけ!」
一通り突っ込んだところでふとした疑問が浮かぶ。
「…ところで、この『入れ替わり』の能力?って、神様ゲームが終わったらどうなるんだ?」
「んー、そういうのはやったことないけど、たぶん残るんじゃないかな?また入れ替わりたいの?」
「いや、どうなるかだけ聞いておきたかっただけだ。もう入れ替わりはいい…」
残るのか…まあ、「呪文」を言わなきゃいいだけだし、たぶん変なことは起きないだろう。
「じゃあ次行こうか。はい、敏明」
敏明に棒を集め、全員が引く。
「神様だーれだ」
棒を見る…!
「よっし、やっと引いた!俺が神様だ!」
「そのセリフだけ聞くとただの危ない人だよね」
「え、なに。その急に冷静な突っ込み。こわい」
双葉に突っ込まれてしまったが、ようやく神様を引けた。これで神様ゲームを終わらせられる。