支援図書館(ζ)

堕落の鎧

2018/05/26 18:11:44
最終更新
サイズ
79.37KB
ページ数
9
閲覧数
21536
評価数
0/67
POINT
3290
Rate
9.75

分類タグ




その鎧は、全身を隙間なく覆う黒いインナーの上に急所を守る金属板を配置した、いわゆる板金鎧の一種だ。
とは言え、見た目ほどの重さを感じることもなく、体の動きを邪魔することもない。
何らかの魔法が付与されているのは明らかであり、それだけで希少な品である事に疑いはない。

そして何よりも見た目が俺の好みにぴったりであった。
黒とを基調とした中に、目立ちすぎずかつ控え目すぎもしない金の装飾がふんだんにあしらわれている。
それでいて成金趣味のような嫌味さはない。
身に着けた姿を確認したとき、どこぞの騎士とも見紛うような風格に、呪われた一品である事を一瞬失念したくらいである。

「しかしまぁ、脱げないって事以外、特に何ともないんだな……」

寝るときや風呂は少々不便なものの、今の所これといった不都合は起きておらず、完全に拍子抜けといった感じだ。
しかし依頼の内容は呪いを突き止めること、今のままでは報酬は貰えず働き損という事になる。
まあでも前金とはいえ貰った結構な額である。何も起こらずともそれはそれで美味しくはあるが……。

ふと改めて自らが纏うものに目を向ける。

美味しくはあるが、それでは意味がないのだ。
俺はこの鎧を何としても自分の物にしたかった、魅入られたと言ってもいい。

だから、その為にはこれに掛けられた呪いの正体を知る必要がある。
呪いを恐れながらも、それをこの身に受けなければならない、という矛盾を恐ろしく思いながらも俺は思考を進める。

ただ身に着けて日々を過ごすので駄目であれば、鎧としての役目を果たさせればどうだろうか、と。

その考えは正しかったと言っていい。
ギルドから受けた魔物討伐の依頼、その場においていつもでは考えられないような力を発揮できたのだから。

相手は食人鬼とも呼ばれるオーガ。
人間をはるかに超える巨体から繰り出される一撃は人間をただの一発で叩き潰す。
しかし、俺の体はその攻撃をたやすく受け止め、それ以上の力を以て相手を叩き伏せた。

その感触はまだこの手に残っている。
とは言え、今の俺の手は筋肉質な男の手ではなく、細く柔らかな曲線を描く女のそれであり、
手以外の部分もまぎれもなく女へと変化してしまっていた。

「ほう、これはまた異質な呪いだね」

俺の顔を覗き込み、そんな言葉を吐くのは依頼をしてきた男だ。
彼との契約のとおり、解呪をお願いするためこの場に足を運んだのだが……まさか彼が直接解呪を行うとは思わなかった。
どうやら彼は商人が本業なのではなく、実のところは魔術師なのだろう。
そうであれば不健康そうな表情も体も納得がいく。

「何度も聞いて申し訳ないですが、呪いを解けば男に戻れるんですよね?」

せっせと準備を進める男に何度目か分からない問いかけを投げかける。
それに対する答えも当然同じ。

「ああ、それが呪いなら鎧を脱げば元に戻るさ、大丈夫心配するな」

と、まるで分かってるかのような事を返してくる。
他人事だからっていい気なものだ、そう口に出したかったが、辛うじて声にするのは避けられた。
兎にも角にも今はこの男を信じる他はない、と自分に言い聞かせる。

「よし、では始めようか」

不意に、声掛けとも独り言ともとれる呟きが聞こえ顔を上げる。
どうやらそうこうしている間に準備が整ったようだ。
それで俺は何を──

「ん?ああ君はそのままでいい、リラックスしていてくれ」

何をすればいいか、と聞く前にそう先手を打たれてしまった。
こんな状況でリラックスなど出来るわけもないが、この場は言われるままにすべきだろう。
そう思い小さな息を吐きつつ術式の推移を見守る。

男の呟きに反応し、先ほどまで用意していた魔法円が淡い光を放ち始める。
どうやら解呪の術式が発動したらしい。
……とはいえ、俺を中心とした光の円があるだけで、特に何も起きないが……

「ぐ……!」

唐突に、何か巨大な力で鷲掴みにされているような、そんな感触に寒気が走った。

「あ、うぐ……ぎ……!」

痛みを伴う圧迫感に、思わずうめき声が漏れる。
間違いない、強力な何かが俺の意志とは無関係に体を弄っているという確信。
これが解呪によるものなのか、あるいは呪いの抵抗であるのかはわからない。
ただ一つ実感するのは、死ぬのではないかという痛みだ。

「が、ああ、あああああ!」

そして、絶叫の中俺は見た。
体を変えようと力を加えているのは、俺が纏っている鎧自体だという事を。
腕を覆っているインナーがもこもこと膨れ上がれば、それに包まれている腕も太くなる。
女らしい胸とくびれ、腰のラインを作っていた箇所が隆起すれば俺の体もまたそれに倣う。

痛みに薄れゆく意識の中で理解した、この鎧は装着した者の肉体をそうやって変えてしまうものなのだと。
解呪の術式とは、それを逆に遡らせるものなのだと。


────────────────────────────────


「堕落の鎧?」

汗を拭きながら男が口にした言葉をオウム返しで尋ね返す。
どうやらそれがこの鎧の名前らしい。

「もっとも、人が勝手にそう名付けたもので本当の名前は分からないがね」

術式により俺の体から外すことができたそれを点検しつつ、男が続ける。

「君が明らかにしてくれた異常な身体能力の強化と、代償としての肉体変化、文献の記述と一致する装備品はこれだけだ。
まあ、確率が高いというだけで100%ではない。何しろ見た目の情報がどれとも一致しない」

俺は男が見ている文献を覗き込み同意を示す頷きを返した。
書かれている文字は全く読むことができない、しかし絵なら俺にでも分かる。
男の言う通り、そこには目の前にある鎧とは似ても似つかぬ模写絵がいくつか描かれていたのだから。

「これは魔王を信仰する邪教団が作ったものとされていてね、おそらく形状が違うものが複数存在するのだろうな」

文献にいくつかバリエーションの記載あるのであれば、この鎧はその中の一つという事か。
そこでふと、簡単な疑問が浮かび上がった。
その邪教団は何のためにこんなものを作ったのだろうか、と言う至極単純なそれを素直に問いかけてみる。

「ああ、それは簡単なことでね、魔王に捧げる生贄にするためだろう。生贄として好まれるのは強靭なる魂、そして女だ。
だがその両方を備えた人間はまずいないし、いたとしてもむざむざ生贄なんかにならない」

男の返答になるほど、と思う。
冒険者の比率で行けば男が圧倒的だ、そして冒険者であれば艱難辛苦を味わう都度、もっと強ければと思うことだろう。
そういう人間にこの鎧を与え女に変え、最終的には生贄にする。
あれほどの力を与えてもらえる装備品だ、大抵の冒険者なら喜び、呪いのことも知らず恩恵にあずかろうとするだろう。

現に、オーガと相対したときに発揮した力、それに心を奪われなかったかと問われたら『否』と答えざるを得ない。

「だが君のおかげで正体も分かった、しかるべき処置をすれば今後被害者もなくなるだろう。
呪いと一緒に力の加護も消えてしまうから商品価値も激減するが……まあ仕方がないか」

だからこそ魔術師の男が言った台詞に引っかかった。

「加護も消えるって、あの力を増幅させる能力か?呪いだけ消せばいいんじゃないのか?」

惜しい、そう思ったのだ。
あれほどの力を得られれば、オーガどころかもっと強力な魔物相手にも戦うことができる。
そうすれば金や名声も思いのまま、冒険者を志すなら誰しもが心の中に秘める欲望だ。

「それは出来ない。あれは対価として呪いを与えるのだから片方を消せばもう片方も消える、光と影のようなものさ」

しかし男の言葉は無常だった。
そんな旨い話がないのであれば次善と思われる方法を考える。

そして、俺は彼に一つの提案を持ち掛けた。



「まあ……私としては構わないが、本当にそれでいいんだね?」

怪訝そうな表情を浮かべる男、俺は彼に対し再度肯定の意を伝える。
提案とはすなわち、この堕落の鎧をそのまま使わせてほしいという事だった。

勿論その分の報酬は不要だし賃貸料を支払う旨も伝えるが、それだけでは男は納得しないだろう。

だから、呪いの正体を確かめるための依頼を引き続き受けるという事を付け加える。
つまり俺は呪われた武具を二つ身に着ける、と言っているのだ。

普通に考えれば正気の沙汰ではない。
だが俺には勝算があった。
正直、肉体変化の呪いは分かってしまえばそれほど脅威ではない、術式で元に戻れるのも先ほど分かった。
そう考えれば、力の加護のほうがずっとメリットが大きい。
それに、加護があればもう一つの呪いで窮地に陥っても挽回できる可能性が高くなるはずだ。

「正直、気進まないが……」

リスクを負うのは俺、そして男の依頼を反故にするわけでもないのだから、表立って反対する要素はない。
事実、男はそれ以上何も言わずに堕落の鎧を俺に持たせてくれた。

「その鎧にはまだまだ不明な点が多い、何かあったらすぐ戻ってくるように」

そんな忠告の言葉と共に。


────────────────────────────────


この威風堂々とした鎧が欲しい、冒険者としての富と名声が欲しい。
双方ともに偽らざる俺の気持ちだ。
それにもう一つ、魔術師の男には言わなかった事がある。

初めて鎧の呪いを受け女になった時は、正直驚きと戸惑いで気が動転していた。
しかし、後になって思えばそれはとても得難い事だと気づく。
男は死ぬまで男のままであり女も同様だ、逆の性を体験できるなど早々あることではない。

正直惜しいと思った。
だから、ギルドで誰もが割に合わないとパスするような依頼。
本来であれば俺が勝てるはずもない魔物に挑み、加護をもって打ち破り、そして帰って来たのだ。
加護の代償である肉体変化を、女になった体を確かめるために。

「ん……?」

時は深夜を回ったあたりだろうか。
眠気を我慢しベッドに腰掛けていた俺の背筋にぴりっと痺れが走った。

それだけなら気のせいと思っただろう。
でもそれが二度、三度と、そして全身を駆け巡るようになって直感する。始まったのか、と。

「う、あ……くび、が……!」

最初に変化があったのは喉だ。
首周りを覆うインナーがゆっくりと締め上げてくるのにつれ

「あ、あ……あ」

肺から漏れる呻き声のオクターブが上がっていくのを自分の耳で聞く。

「ん!く、つぎ、からだ……!」

全身をくまなく覆うインナーが縮まり、まるで粘土細工のように肉体が変形していく。
無骨な体のラインが女性らしい柔らかなものへと変わっていく。

「ふ、うっ……」

でも、同じく骨格レベルで体を変化させられた解呪の時とは違う。
痛みが全くないのだ。
むしろ心地よさすら感じるのだからたまらない。

「や、むねと……あそこ、がぁ?」

そんな変化に思考が追いつく間もなく、肉体の変形は続いていく。
女の象徴と言ってもいい胸の双丘がぷっくりと盛り上がれば、
同時に、残っていた男の象徴が圧縮され体の中に押し込まれていく感触に身震いした。

「ひ、ひあ……やば、い……これ……」

最後に、女の体に適応するための情報、それが頭の中に書き込まれていくのがわかる。
女にしかない器官が本能的に知覚され、お腹の奥がきゅんとわなないた。

「ふあ……♡」

自然と熱い吐息が漏れる。
顔を動かせば細く柔らかな紫髪が頬をくすぐり、それをかき上げる手も華奢な女性の手。
女の体になった、という実感がふつふつと湧き上がり、そこでようやく我に返ることができた。

「なんか、すごいな……」

自分の両手をまじまじと見つめ、ぽつりと呟く。
これは呪われた結果だというのに、どうしてこんなにも高揚感と多幸感で満たされてしまうのか。

……いや、あるいはこれも呪いの効果なのかもしれない。
人間は痛みに耐えようとするが、逆に快楽を否定するものは圧倒的に少数だろう。
こうすることで呪いであるという事を悟らせないための狡猾な罠。

「でもタネが割れてしまえばね」

自分の肉体が変わってしまうという嫌悪感と恐怖を和らげるための効果なのだろうが、
一度知って体験してしまえばどうという事はないのだ。

…………

しばしの沈黙の後、ふぅ。と小さく息を吐く。
それに微量の熱が混じっている事を否定できない。
なにせこれからやろうと思っている事を考えれば、体温が上がらない方がおかしいというものだ。

「ほんと、細いよな……」

自分のお腹に手を当て、改めて女になった体を見下ろす。
正直胸も小さいし肉付きもそれほど良くはない、お子ちゃま体系とでもいえばいいのだろうか。
だが、これでも女の体なのは間違いない、その証拠に

「はっ、ん……」

お腹にあてた手をそっと太ももの間に滑らせれば、ぷにぷにとした肉の間に割れ目があるのがわかる。
その根本に触れれば、湧き出るような疼きが脳を揺らした。

「女もここ、固くなるんだ、な……っ」

指の腹でそこを軽く押しただけなのに、腰が引けそうになるくらいの刺激に思わず背をそらす。
いきなり女核ことクリトリスは急ぎすぎたらしい。
割れ目のほうまで指を伸ばし、そこからクリとの間をゆっくりとなぞる。

「ん、女のほうが、男より……かいかん、強いって聞くけど……」

それを何度も何度も繰り返し往復させると、じくじくとした疼きが刺激され何とも言えない気持ちよさが広がってきた。
指とアソコのインナー二枚を隔てた刺激ではあるけれど、それでも十分と言えるくらいだ。

「ふあ、は……」

振り子のように繰り返される前後運動、そこに円の変化を与えると肩がぶるりと震えた。
触り方を変えるとまた違った気持ちよさが溢れ、指先が湿り気を帯び始める。

(ああ……愛液で濡れてる、本当にアソコが……女の性器が出来上がっちゃってる……)

そんな事を思えば鼓動はさらに早くなり、呼気も深く熱く変わっていく。
まるでお腹の奥に火が灯ったかのように。
体内の熱により肌がしっとりと汗で濡れる頃には、女の穴はこんこんと愛液を染み出させる泉のようになってしまっていた。

指を動かす乾いた摩擦音は、グチュグチュと響く隠微な水音へと移り変わり、その音は一層激しさを増す。

「あっあっ、は……ああっ」

もう、何を考え何をしているのか曖昧だ。
ぼんやりと霞がかかったような頭の中で感じるのはふわふとした浮遊感、そして初めて味わう女の悦楽。
ただそれだけを貪る雌になってしまっている。

(いい、いい!これいいっ!女のほうが、気持ちいいっ……!)

指が攣るのではないかと思われる勢いで力任せに女陰を弄り回す、そんな激しい自慰が止まったのはその時だ。

「ふあ……」

呆けた声がこぼれ、ふるふると小刻みに筋肉が痙攣する。
頭の中は完全に真っ白、股の間に両腕を突っ込んだいやらしい姿勢のままで浅い呼吸を繰り返す。
もし、今ここに誰かいたのなら、口の端から涎を垂らすトロトロになった顔を見られていたに違いない。

ベッドのきしむ音が耳朶を打つ。
体は力を失いひざを折ったままうつ伏せになっていた、そこでようやく我に返ったんだと思う。

まだ頭の中にガスがかかっているような状態で思考の速度が上がらない
でもそんな中にあって、もしかしてあれがイクという事なのだろうか、と一寸前の忘我と自失の時間を思い出す。
ほんの一瞬ではあったが何もかもから解放されたような……そんな高揚感とでも言えばいいのだろうか。

少なくとも、男とはまるで違う異質の快感だった。

「……癖になりそうだ……」

まだ余韻の残る中呟いた言葉、それは近い未来を確実に予言していた。


コメントは最後のページに表示されます。