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堕落の鎧

2018/05/26 18:11:44
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翌日、さっさと身支度を済ませ太陽が昇る前に宿を後にする。
目が覚めたのはまだ暗いうち、それから部屋を片付け机を綺麗に拭いて出来る限りの整理をした。
流石に誰にも聞かれていないと思うけれど、後ろめたいという気持ちはやっぱりある。

そのせいかどうかは分からないが、三カ所目の討伐地に向かう途中何度か具合が悪くなることがあった。

「っ!!……こんな、ときに……!」

それが脳天から足元まで一気に突き抜けるような鋭いパルス。
そして、追随するかのように全身を侵食するかのように広がる鈍く熱い何か。

「あ……ふ、ん……!」

今朝から時折襲われるようになった脱力感を伴う症状。
肉体的な痛みや苦しさを伴うわけではないが、熱病を患ったかのような熱さが思考力を鈍らせるのだ。
運動をつかさどる部分が不全ともなれば、全身に影響が及ぶのは当然の事。

しかし、今日体験したのはいずれも歩いている時。
休憩がて腰を下ろし、しばらくの間じっと我慢すれば症状は嘘のように治まる、というのも分かっている。
だが、今は休憩などしていられる状況ではなかった。
相対しているのは三体目となる討伐対象の怪物、よりによってその時に始まってしまったのだ。

ただ幸いだったのは、今回の相手はミノタウロス程厄介ではなかった事。
そして、かなりの手傷を負わせた後であり、ほぼ決着が見えている状況、という点だった。



「なんとか、終わったか……」

相手の頭部を叩き割った剣を抜いて鞘に納める。
そこで緊張感が途切れたらしく、両膝を突いてその場に座り込み、空を見上げた態勢で大きく深呼吸をした。
窮鼠猫を噛むという諺ではないが、捨て身とも思われる猛攻を何度か受けることになったものの、討伐は果たしたと言っていいだろう。

さっきから体を悩ませていた症状も今は小康状態となっており、おかげで心も休ませる事が出来そうだった。

「……にしても、やっぱり正解だったね」

そう口にして剣を収めた鞘へ視線を移す。
剣、と言っても麻痺の呪いを放つあの剣ではない。
街で仕入れたごく普通の、何の変哲もない長剣だ。
呪われた方の剣はずっと背負ったままで、今日は柄を握る事も遠慮している。

ようは、本気の戦闘状態で手に取って振るうとバチィ!となる、そう予想して敢えて普通の剣で戦ったというわけだ。

これで次の討伐も、残したミノタウロスも倒せるだろう、そう思えばほっとする。
正直これで駄目だったなら途中で諦め。元の街に撤退する事を考えていた。
もしそうなれば、ここまで女らしくなった体ともおさらば、という事になる。
出来れば期間ぎりぎりまで楽しみたいのだから、この結果は僥倖と言えるだろう。

さて、と頭を切り替える。
予定では一度宿に戻るつもりだったのだが、予想より早く片が付いたためもう一つの選択肢が出てきた。
ここから四カ所目の討伐地はそれなりに距離があるものの、宿に帰るよりは近い。
少々遠回りになるが今日で終わらせてしまうか、安全に明日に回すか、という二択だった。

朝から断続的に出る例の症状がなければ、今日終わらせようと思ったに違いないのだが……

「……ひっあ、また……!」

噂をすれば何とやら、このタイミングでまたもゾクりとした感覚に身を震わせる。
何もこんな時に来なくてもいじゃないか、そう心の中で毒付き体に力を込めるのだが、これは別の『また』であった。

「ふ、あ……♡」

ぴりぴりと微弱な電流を流されるような、堕落の鎧から与えられる特有の刺激。
うなされるような症状ではない、これはとても心地よい時間が始まったんだ、と思い色っぽいため息をついた。

しかし待ち望んでいる体の変化は訪れず、代わりに堕落の鎧に大きな変化が訪れる。

ぐぱ、とまるで花弁が開くように、目の前で胸元の黒が花開いていく。
黄金色の胸当てがまるで飴細工のように変形し、首元から二股に分かれた尾状のモノへと変わる、どちらもまるで生き物のようだ。
その奥に息づくのは、しっとりと濡れた健康的な肌の色、そして男ならむしゃぶりつきたくなるような、ぷっくりと膨れた薄赤の頂。

それを目の当たりにして「ああ」と気づく。
女になったと言うのに……おれ、は自分の肌も胸も直に見ることがなかったんだ、と。
だからなのか、初めての自分の裸体にときめき昂るのが分かってしまう。

(ああ、これが……オれ……わたし、の体……)

そして、どうしようもなく違和感を感じてしまう。
こんなにも美しいのに、たとえ心の中だとしても、いや心の中だからこそ『俺』などと呼ぶのは失礼な気がして。

(わたし、わたし……私……!)

自然と脳裏に浮かび上がった一人称、それは予想以上に違和感がなく、想像以上に心の中に染み入ってくる。

胸、そしてわずかに浮き出た肋骨、縦に描かれる綺麗なラインの中央にひっそりとある凹み。
次々と外気に晒され、均整の取れたボディが目に飛び込んでくるにつれ、今の自分が女であるという事を強く強く意識せずにはいられない。
視覚から入るイメージはそれだけ強烈だった。
インナーの上から感じていた女であるという意識、それは見せかけに過ぎなかった、そう悟ってしまうくらいには。

(ああ、このまま、このまま行けば……)

そして、この先を期待してしまうのは当然の成り行きだろう。
このまま自分の体が暴かれていけば……もうすぐ、アソコ、女の部分にたどり着くのだから。

「ああ、なんで、なんでぇ……」

でも、そうはならなかった。
大きく開かれたのは胸からおへそまで、それより下に至る前に堕落の鎧は沈黙してしまったのだ。

(もう少し、もう少しで、アソコがおまんこが見えたのに、触れたのに……!)

半ば泣きそうになりながら、お腹を覆う黒い花弁を力いっぱい左右に引っ張るも、それで開くなら苦労はない。
名残惜しさを体現するかのように、私の手が何度も何度もお腹をさする。
指先にはお股まで伸びる細長いクレバスのような割れ筋を感じるのに、これを開く事が出来ない。
それがどうしようもなく悲しく、そして悔しかった。

私は大きく息を吸い、それを深く深く吐き出す。
そして軽く頬を叩く乾いた音を響かせた。

ここで嘆いても仕方がない、それに私は体感して知ってるはずだ。
加護の力を使えば使うだけ対価を支払わなければならない事を。
対価とは私の体、それを捧げもっともっと女にしてもらうという事を。

それに丁度いい場所はまだ残っている、さっき二択として迷った選択、どっちを選び取るかなんて考えるまでもない。

それできっと閉じられたここが開き、そうすれば……。

「はぁん……♡」

下腹部がきゅんとなる感覚に艶っぽい喘ぎが口をつく。
それはまるで、この体を包む鎧が肯定の意思を示しているかのように感じられるのだった。



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