「ふんふん♪ふふん♪」
鼻歌交じりな軽い足取りで歩いているのは、清彦のアパートの外廊下。
実に四日ぶりに住み慣れた自分の部屋に戻るのと言う事、そしてひとまず終わったと言う開放感から私の気持ちは軽い。
何より連日の調教で十分に女の子の気持ちよさを楽しんだ、という満足感があるからこその上機嫌でもある。
最終日はとにかく死ぬかと思ったほど凄かったけれど、終わってしまえば喉元過ぎればなんとやら。
トシアキくんも私も無事元に戻り、約束通り私は解放された。
とはいえ、四日間も雌奴隷生活をしていたわけだから短時間でその感覚を忘れ去るのも難しく。
帰り道の間、自分の首を何度も指でなぞったりもした。
それだけ首輪を填められていた感覚が体に染みついてしまってたんだと思う。
寂しさを感じないと言えば嘘になるけれど、でも、今はゆっくり出来る、という気持ちの方が強かった。
ドアに向かっても特に何か変わった様子も見られない、それは鍵を開け中に入っても同じ事。
掃除してなかったから、少し埃っぽいかな?と感じるくらい。
そんな様子に私は安堵する。
これからまた以前のように、清彦の生活を行わないといけないのだから。
でも、清彦になるのが嫌だ、とはもう思わない。
なぜだろう?
そう自分に問いかけてみれば、やっぱり薬を使う際の約束が一番のネックだったんだと思える。
好きな時に好きなだけふたばに変身して女の子の幸せな時間を楽しめた今だからこそ、そう感じられた。
懸念していた副作用は今のところ何もない。
久しぶりに清彦の部屋の洗面台の前に立ち、自分の顔を確かめてもそれは同じ。
変な所は見当たらず、理想の少女ふたばがそこに映るだけだ。
だから、何の心配もすることなく、清彦に変身するために薬を口に含む。
後は清彦の姿を考えるだけ、それでふたばから清彦へと変身できる、
そう、目を開ければ普段通りの俺が鏡の中にいる。
そう思っていた。
体の変化が終わる感覚を得て目を開ける。
そして一瞬の間を経たのち、俺は目を疑った。
鏡に映るあまりに非現実的なその姿に。
「ぅ、うぉ!おあぁ!」
大きく口を開け叫んだ、叫んだはずだ。
それなのにくぐもった声しか、喉が潰れたような音しか出ない。
口が上手く開かない。
納豆を食べた時の粘つきを百倍も強力にしたような、そんな感じが口を開くことを拒んでいる。
それもそのはずだ、目の前の鏡に映るのは顔中の肉が垂れしわくちゃになった老人のような顔。
いや、垂れるなんて表現は生易しい、粘度の高い水のような肉が口や目を塞いでしまっている。
恐怖のあまり反射的に一歩後ずさりする。
その瞬間がくんと体が傾いた。
後ろに下げた足が体重を支えきれない。
なぜ、と考える暇もあらば体は反射的に洗面台の縁を掴む。
でもだめ。
確かに掴んだ感触があったのに、その手もまた俺の体を支えるにはおよばない。
そのまま重力に引かれ俺は背中から床に倒れる。
ばしゃあ、と。
なんだ、何が起こってる?なんでそんな音がする?
慌てて周りを見渡そうとするも今度は首が動かな事に気づく。
首だけじゃない、体中のまるで力が入らず碌に動くこともできない。
助けを呼ぼうと思っても声が出ない。
半ばパニックになったとき、それが視界に飛び込んできた。
青くどろどろしたものが洗面台からぶら下がっている。
こんなものがどこから出てきたのか、そう思うほどに余りに異質なナニか。
(俺の、俺の手…?)
そうだ、さっきまで洗面台をつかんでいた間違いなく俺の手だったもの。
(あ、ああ…あ…あああ!)
声にならない心の叫びと共に思い出した。
初めて女の子の変身しオナニーを体験した朝の事。
そして薬の副作用の事、かずはさんが言っていた言葉の事、人として死ねないという事。
もう大丈夫だと勝手に思い込んで行った数々のタブー破り、そして、考えたくも無い事が頭を去来する。
「あら、やっぱりそうなっちゃうわよねふたばちゃん、いいえ、キヨヒコくんかしら?」
恐怖と絶望に飲み込まれそうになった時、聞きなれた声が寸での所で俺を引き止めてくれた。
さっきまで誰もいなかったはずの洗面台の前、そこに覗き込むような姿勢で立っている女性。
俺に変身薬を売ってくれたかずはさん、その人に間違いなかった。
(なんでこんなところに、どうして俺が、こんな目に、お前の薬で、たすけて、お前のせいで!)
色々な感情が溢れ交わり俺の心を埋め尽くす。
でもそれを口に出すことはできない。
たぶん、もう口そのものがなくなってしまっている。
「理不尽に思うかしら?」
当然だ、と俺は心の中で怒りに任せ感情を叩き付けた。
そこでふと不思議に思う。
こんな状態なのにかずはさんには俺が考えてい事が分かると言うことに。
「そう……でも、約束を破ったのはそっち、守っていればこんな事にはならなかったわ」
(でも、平気だった時もある、ふたばの時にはこんな事なかった)
間違いなく意思の疎通が出来ている、その事実に少しだけ冷静さを取り戻す事が出来たと思う。
そして、なんで今になって、と自分だけの理屈を振りかざす。
「キヨヒコくん、貴方自分の顔を思い出せる?」
なのにかずはさんの反応は何も変わらない。
いつもの通り淡々と、心なしか少し楽しそうに、話を別の方向へと誘導する。
(そんなの当然だ、毎日見てる顔だから思い出せないはずがない)
そんな反応にこっちは苛つく。
心の中の語気を荒げ、なんでそんなことを聞くんだとばかりに答える。
「なら、眉毛の長さは何ミリかしら?睫毛の長さは?鼻の高さは?形は?頬の角度は?」
(ふざけるな、そんなの自分で知ってるヤツなんていない。そもそも知らなくても清彦に変身できていたじゃないか)
もし声が出ていたならきっと、アパート中に響き渡ったに違いない。
それくらい心は煮えたぎってる。
約束を破った方が悪いのは分かってる、でも死ぬ間際という事実がどうしようもなく感情を荒立たせる。
そして、かずはさんの楽しそうな声と顔がそれに油を注ぐのだ。
「そう?じゃあ……もう一度やってみる?」
(もう一度?)
灼熱のマグマに冷水を掛けられた気分だった。
疑問が興味にすり変わり、塞がりかけていた目を見開く。
かずはさんの指に光る赤い粒、それが変身薬だとわかれば理解は早い。
そうか、そうだ、もう一度清彦の姿をちゃんと思い浮かべ変身すればいい。
こんなになってしまったのは久しぶりだったから、イメージが足りなかったからだ、と。
どうぞ、とでも言わんばかりに指から落とされた変身薬。
俺はそれに食らいつく。
もうどこが口かもわからないけれど、とにかく本能的にそれを受け止め、飲み込み、イメージした。
清彦の輪郭、目、鼻、口、髪型、眉毛に耳の形、その他身体中のあらゆる部位を、だが。
「ふぉ、んな……」
ぼやける、ぼやけていく。
覚えているはずの清彦の顔がぼやけてしっかりとした形を成せない。
このはずだ、このはずだ、と何度パーツを組み替えてもはっきりとした回答にたどり着かない。
顔ですらこの有り様なのに、その他の部位なんて明確なイメージを引き出せるはずがない。
「人が、覚えている、って思い込んでいる記憶はその程度なものよ」
出来かけた頭、出来かけた耳でかずはさんの言葉を聞く。
「だから一日6時間程度って目安にしているの、個人差はあるとしても四日も自分の姿に戻っていないのだから、自分の顔だってぼやけて当然」
人の形を成しえる寸前でまたあの感覚、体が溶ける感覚に襲われる。
自分の体がどろどろぶよぶよの肉塊に変わっていく。
(ああ、俺はもう清彦に変身できず、このままどろどろになって死ぬんだ……)
「そう、このままキヨヒコくんと言う意識も自我も溶けて消え、下水の底を這う知性を持たない単細胞生物になり果てる」
確たる自分をイメージできないと言うことはつまりそう言うことなんだ。
かずはさんの言葉に嘘偽りは無い、この期に及んでようやく本当の意味で体験し理解する。
(でも)
「でも」
死にたくない、本音の思いを浮かべたときに重なった音。
何か引力めいたものを感じはっとした。
「安心していいわ」
そして次に続く言葉は、生に執着する心に差し込む救いの光に等しく。
「私がキヨヒコくんを気に入っているのは本当、だから特別に助けてあげる」
もうそれしか聞こえないなくなる、それを紡ぐ存在以外視覚に映らなくなる。
「私の言うことを聞いてくれたら、ね?」
助かるのなら、助けて貰えるのなら何だってする、何だっていう事を聞く。
結果どうなろうとも、死ぬよりはずっといいはずだ。
誰もが思い行き着くであろう回答を盾に取られては、否、と言えるわけがなかった。
「いい子ねキヨヒコくん、じゃあ」
それが、快楽を盾に私を性奴隷にしたトシアキくんと同じ手段だと分かっていても。
より深刻な事態をもたらすとしても。
端正な口元が優雅に動く。
キヨヒコくんの姿はイメージできなくとも、他にできる子がいるでしょう、と。
かずはさんの言葉が私の心に吸い込まれる。
そうか。
そうだ、ふたばになら。
だって、ついさっきまでふたばだったのだから。
ずっと理想とした女の子なのだから、きっとイメージできるはずだ。
かずはさんの指から水道の如く零れる変身薬。
それを一息で飲み込み、一縷の望みを託しイメージする。
長く肉付きの良い手足、細い指から綺麗なつま先まで。
年の割には大きな胸、くびれたウエスト、柔らかな曲線を描くお尻から太もも。
そして瑞々しい弾力のあるきめ細かな肌。
ここ数日変身しっぱなしで見慣れたふたばの顔。
もごもごと自分の体が内側から蠢くのが分かる。
自分のイメージが勝手に体を形作っていくのが知覚できる。
「ん、ぐ、ごぷ……はぁっ!」
息が出来る、聞きなれた細く高い声が出せる、消えかけていた五感が感じられる。
肩にかかる感触、胸にかかる重みに心底安堵する。
よかった、ふたばにはちゃんと戻ることができたって。
でも、なんだか口の中が粘っこい。
ううん違う、口の中だけじゃなく体中がぺとぺとしてるような、でも不快感はない不思議な感じ。
「おめでとうふたばちゃん」
「ありがとう、かずはさん……え?」
手を差し伸べてくれるかずはさんに私も右手を延ばし……その手を取ることなく固まる。
青いんだ。
さっき洗面台の縁を付かんで千切れた手のように、私の右手が透き通る青い色に染まっている。
手だけじゃない、足も、お腹も、胸も。
それだけじゃない、全身が、何もかもが、ゼリーのようなプルプルしたモノに変質してしまっている。
鏡に映る呆然とした表情。
それは間違いなくふたばの物である事が、より今の私の異質さを顕著にする。
何か言葉を発しようとしたとき、ぽとりと、視界の隅に何かが落ちた。
赤い小さな塊、毎日のように見ていたもの、かずはさんの変身薬。
それが二粒、三粒と数を増し、それぞれが生き物のように蠢いて床を這いずる。
「かずは、さん……!?」
生き物のように向かう先を見て私は絶句した。
かずはさんが立っていたところに、かずはさんの形をした赤い半透明の塊がある。
まるで今の私みたいな、そんな単色で透き通った存在。
(ああ……)
そこで私は理解した、あの変身薬はそういうものだったんだ、って。
「気づいたみたいね?そう、あれは私の体の一部。それを体に取り込むことでふたばちゃんは私の能力を使えるようなっていたの」
ゼリーの塊のようなそれにかずはさんの顔が浮かび上がる。
そこから伸びた赤い腕が私の頬をやさしく撫でるのは、余計な不安を消そうとしてくれているのだろうか。
「でも、私の一部をあれだけ短期間に沢山摂取してしまったら浸蝕されて当然」
ああ、だから、だからなんだ。
だから連続して使ったりずっと変身したりしちゃいけないって約束があったんだ。
「理解が早い子は好きよ、最初に忠告したでしょう?人間として死ねなくなるって……」
だから、約束を破り戻れないくらい摂取してしまった私は……もう人間じゃなくなってしまっているんだって。
「けれど大丈夫、私がふたばちゃんの面倒を見てあげる、不安を取り除いてあげる」
そんなかずはさんの穏やかな響きが私の体に染み込んで来る。
不安と怖さが和らぎ、こんな存在にされてしまったと言うのに気にならなくなってしまう。
なぜか分からないけれど、こうしてかずはさんに撫でられていると胸に暖かいものが生まれ暗い気持ちを溶かしてくれるかのよう。
「だって、この世に二人と居ない私の同族なのだから……」
半透明の唇が触れあい、赤と青の舌が絡み合う。
「そんな、かずは……ん、や!ん!ちゅぅっ」
たったそれだけなのに幸せが弾けた。
かずはさんと同じ存在になってしまったという事を理性ではなく体で理解する。
人間が人間にしか恋をしないように。
このスライムみたいな体が求めるのは同じような体を持つ相手だと、どうしようもないくらいに。
「ん、ふぁむっ、んちゅ……ぷぅ、あむぅ」
でも私はこんなの望んでいない、人間じゃない存在にしてなんて頼んでいない。
助かるから、という事を聞いたのは、何かの方法で清彦に戻れるという前提だったから。
お互いの舌を舐めあいながら私は思う。
こんなの、こんなの違うって。
(無理よ、もう貴女の魂はキヨヒコくんではなくふたばちゃんになっているのだから……)
不意にそんな言葉が脳裏をよぎった。
半透明の瞼を上げれば、かずはさんの瞳と視線が絡み合う。
口はお互いに塞がれたままなのに、かずはさんの考えている事が分かる。自然に流れ込んでくる。
(気が付いていないのかしら、ふたばちゃん清彦クンに「戻る」じゃなくて「変身する」って無意識に思っていたことに)
私の目が大きく見開かれた。
それはその言葉が図星だったという証左。
いつからか、私はふたばである事を主体に考えるようになっていた、その指摘が正しいのを否定できなかったから。
(あ、ああ……わたし、もう、そんな……)
健全な精神は健全な肉体に宿る、つまり心や精神、魂と言うものは体に引っ張られ変化してしまう。
私はこんな体にされなかったとしても、もうとっくに引き返せない所まで足を踏み入れていたんだ。
半ば呆然と薄目で見れば、私の舌がかずはさんの口を蹂躙しているのが透けて見える。
粘体でできた歯を舐めその味を存分に堪能する様子がとてもえっちだ。
きっとかずはさんの舌も同じ、私の口の中を縦横無尽に荒らし責め立て味わっているんだろう。
求められるのはとても心地いい事。
かずはさんは私をこんなにしてまでも求めている。
それに、もう私は引き返せないのなら、それなら……。
かずはさんの両手が私の頬を持ち上げ、より深い口付けを求めてくる。
私はそれに逆らわない、もう逆らえない。
何故かは体が分かっている、今の私はかずはさんの同族であること、従であることを求められたんだ。
だから逆らえない逆らう気が起きない、私はそれでいい、けれど……。
「ぷは、ふたばちゃん優しいのね……こんな状況でも周りの人の事や家族の心配をするなんて」
私の心に浮かんだ不安をかずはさんが代わりに言葉にしていく。
それはそうだ、今までの十数年、清彦だった人生と、それを支えてくれた周りの人。
そう簡単に切り捨てられるものじゃない。
私の魂はふたばになってしまったかもしれないけれど、清彦であったことは紛れもない事実なんだから。
大丈夫よ、と、かずはさんの意思が響く。
(ふたばちゃんはキヨヒコくんの姿に変身できなくなったけれど、私は出来るわ。
なぜって?だって……私が貴女を好きって言ったの嘘じゃないもの、その髪の毛一本一本まで仔細に覚えている、つまり)
私の目の前でかずはさんが変わる。
赤い色が付いたスライム体の表面に肌の色が付き、太い骨格ができ、その回りを逞しい筋肉が取り巻いていく。
「こういうことだよ、ふたば」
盛り上がった頭の部分に目と耳と口が形作られれば、そこから出た声もまた懐かしい物。
ものの数秒でかずはさんはかつての私、清彦の姿に変身していた。
(ああ、目の前に私じゃない俺がいる……!)
あれほど変身したいと望んでいた清彦が私の目の前にいるという事実に心がざわめく。
わたしは清彦という存在ではなくなって、ふたばという女の子になってるんだ。
という事を改めて思い知らされた気すらする。
声も見た目も仕草も、そしてその股間に屹立しているおちんちんもかつて見慣れた清彦そのもの。
そんな彼の目が、私のスライムと化した体を嘗め回すのが分かる。
急に恥ずかしく、そして、体がじんわりと熱を帯びていってしまう。
(ああ、やだぁ、欲情しているなんて、私、かつての自分である清彦に欲情してるなんて)
粘体となった肩に清彦の手が置かれる。
そしてもう片方の手で私の顎を軽く持ちあげて
「俺と同じになってくれたから、俺の記憶を覗けるというのはもう分かっただろう?」
と確認してくる。
分かった、かずはさんが持つ清彦のイメージを貰えれば、私もまた清彦の姿になれると言うことなんだ。
私の回答に対する答え合わせの結果、それはキスという形で訪れた。
(ああそっか、私と言う根本の、魂の在り方が変わるだけ、それだけなんだ。それで今まで通り生活出来るんだ)
清彦の舌のご褒美を味わいながら、最後に心に残った不安をぬぐい消し去る。
「ん、そうだよ。今のふたばなら薬なしでも自由に変身できる、今までと同じ生活を送れるんだ。これもふたばが俺と同じになったからこそ、な」
「あ、あんっ、清彦の指が、あそこにぃ」
大股開きの格好でゆっくりと押し倒され、スライム体独特の感覚が全身を包み込んだ。
スライムにされても、ちゃんと清彦の指を受け入れられるおまんこがあると言うことがとても嬉しい。
スライムおまんこでも人間と変わらず気持ちよく感じられる事に凄くときめく。
「ふたばが何度も女の子の気持ちよさを勉強してきたからさ、ほらパンパンになったクリトリスもちゃんとあるよ」
「きゅふぅっ!!」
女芯を力任せに捻られ悶絶する。
でも、それが痛みにではない事に小さく驚いた。
「あ、あひぁああっ!」
次に胸を力いっぱい握られる。
粘液で出来た柔肉が清彦の指の間から溢れ、ぐじゅと嫌な音を立て無残に潰れる。
でも、それでも痛みは感じない。
あるのはただの一つ、気持ちいいという色だけ。
あ、ああ、これが、これがこの体の快楽の感じかた……!
「そうだよふたば、それが新しい体の、スライムの感じ方だ」
「ん、ふああああぁぁぁああぁぁーーーー!」
瞬間、無造作に清彦のおちんちんが私の体に侵入した。
体を駆け抜ける悦楽のパルス、人間だった頃とほぼ同じ気持ちよさ。
「ふぁああ、これ、これぇ……」
でも違う、その先がある。
おまんこの壁を擦られる快楽だけではなく、ピストンの都度ゼリーの全身がプルプルと揺れ、体全部が痺れて全部が気持ちいい。
「や、しらない、これ知らないぃぃ……」
人間だって体がびくびくするけれど、それは副次的なもの。
この体は、スライムの体は、全身がおまんこになったみたいに全部で感じちゃう。
「どうだふたば、その体イイだろ?全身おまんこみたい、なんて思ってる顔してるぞ」
「ん!うんぅ!いい、いいよぉ、この体いいよ、こんなの知らない、知らないよぉ!」
激しく腰を打ち付ける音は、まるで強烈な力で叩きつけられるウォーターボールのよう。
違うのは私の体は破裂せずにその振動を全て受け止め手ているということ。
ゲル状の表面がたわみ歪み波打ったかと思うと、その後に来るのは雷に打たれたような衝撃。
「あ!ああ!あぁぁ!や、き、気持ちいいのがぁ!かりゃだじゅうに、ひろがて、混ざって……!こんな、こわれる、こわれりゅっ!」
津波が衝突するとお互いの力を吸収しより巨大になるように。
快楽が体中を巡り、より大きな快楽となっていくのだから正気なんて保っていられない。
「ひぃ!あ、やぁ!かんじ、感じ過ぎてりゅのにぃ!なんで、なんでぇ!」
ただそれは人間の脳だったらの話。
今の私にはそんな昔の常識は当てはまらない。
人間には同じ感覚を与え続けると感覚が鈍くなるリミッターがついているけれど、この体にはそんなのない。
与えられれば与えられただけ、感じれば感じただけの全てを過不足なく味わうことが出来る。
「どうだふたば、本当に体が溶けてしまいそうだろう?たまらないだろう?」
うん、うん!たまらない、たまらない!
こんなの知ってしまったら好きにならないわけがない、この体を手放そうなんて考えられるわけない。
「ふゃあああっ!きよひこ、の、ゆびが、ゆびがぁん!お尻、おしりに、おまんこみたいずぼずぼってぇ、あぁあ!」
私の腰を掴んでいた清彦の指がずぶずぶと私の体を穿ちに沈んでいく。
そこに出来た穴はどうだ。
まるで新しいおまんこが10個も出来てしまったかのよう。
全ての穴で指まんされているに等しい気持ちよさに、半透明の体をくねらせ淫靡なダンスを踊ってしまう。
もう、おまんことかアナルとかおっぱいとか区切るのすら馬鹿らしい。
スライムの体は、どこを刺激しても、どこに突っ込まれても、それが全て極上の快楽になるんだって本能で理解する。
ううん、そんな言葉じゃ生ぬるい。
快楽しか感じない、あらゆる全てが快楽、資格も味覚も触覚も聴覚も嗅覚もすべて快楽に紐づけられている。
あるのは強いのか弱いのか、ただそれだけの区分。
「ひゃうっ!」
今までで一番の突き上げに私は仰け反った。
これでもかと清彦が腰を密着させてくる、逃げ出せないようにお尻を押さえる手に痛いほど力を篭めて。
ぐりぐりとスライム子宮の入り口をノックするおちんちんに喘がされながら私は悟る。
種付けされちゃう。かつての自分に、清彦に中出しされちゃう。
これ以上ないくらいの倒錯感に思考がピンクに塗り潰された。
もう抗えない。本能には逆らえない。
私は清彦の唇を奪い、私の中でその時を待つ亀頭へもキスの雨を降らす。
それは、射精していい射精して欲しいという無言の合図。
「~~~~~~~~~っっっ!!!!」
言葉にならない悦びが子宮で爆発する。
出てる、清彦のおちんちんから私の胎内に欲望の証が出てる……!
白い精液ではなく赤い粘体、かずはさんの体の、スライムの体の一部。
それが私の子宮に満ちていくのが視覚と感覚で分かる。
私の青と清彦に変身したかずはさんの赤。
子宮の中でそれらが混ざり合いきれいな紫色となり、そして体の隅々へと根を張り拡散する。
わずかに残っていた人間の部分、それら全てを浸蝕して融かして別の存在へと変えていくために。
「あ、ああ……私、わたしィ……♥」
決定的な何かが完全に書き変わっていく。
スライムの体に変化は全くない、でも間違いなく確実に。
見えない変化に身悶える私を、かずはさんが嬉しそうに見守っている。
その瞳に浮かぶのは慈しみと愛情、まるで赤ん坊を見るかのような純粋な揺らめき。
そっか、そうなんだ。
私はかずはさんに選ばれ変えられた。
それはつまり、かずはさんの手によって人間からスライムに転生させられ産まれた赤ちゃんみたいなもの。
書き変わって行くのは、私が何者であるかと言う原点。
それは、人間の欲望に寄生し増幅させ食らい生きる、形無き欲望の魔女と呼ばれる存在である事。
そして、原点に追記されていくのは成長と共に培われる経験と思考。
スライムの体の使い方や、魔女と呼ばれるに相応しい力の使い方。
それらが本能として私の魂に刻み込まれていく。
もう不安も恐怖もない。
だって、私にはこんなに素敵で頼りがいのある姉妹がいるんだから。
「ようこそふたばちゃん、こちら側に」
「あ、は……♥はい、かずはお姉さま♥」
絡み合う指が溶け混ざり合う。
これから何をされるかもう知ってる。
スライム同士にしか出来ない本気のまぐわい。
犯す側と犯される側の心と感覚を共有し、昂ぶり上り詰めていく、私達だけに許された饗宴。
(ああ、スライムになってよかった……♥)
心まで解け合ったまま、私達は排水溝へと流れ落ちる。
残るのは誰もいなくなった清彦の部屋だけだった。