(幕間・始)
珍しい来客の姿も店の主人の姿もすでにない。
夜の闇に侵食された店内だが、奥からうっすらと一筋の光が漏れ出ているのが見て取れる。
それは女主人がその部屋にいるという証左。
ほんのりと光を放つ室内灯を机に置き、物思いにふける彼女の顔に笑みが浮かぶ。
それは今日訪れた客を思っての事。
「確かに薬を使う制限は守っている、その欲望には耐えられるでも……」
彼女の笑みがより深く
「薬を使うという事に対する欲望には逆らえない。ふふ、それを自分で分かっていても止められない……いい、とてもいい傾向だわ……」
そして、より凄みを帯びる。
最初に彼を見たときは若々しさに溢れる欲望を味わえる程度にしか思っていなかった。
それなら数多の客と同じ、自らの欲に飲まれ食い尽くされるか、あるいは一度限りの享楽として自制するか。
「でも彼は、きよひこクンはそのどちらでもない……」
とても有望だった、もしかしたら彼なら……そう思い艶やかな唇へ人差し指を当てる。
でもまだどうなるかは分からない、まだまだ綱渡りだ。
気を引き締める、私にできることはただ見守り彼の欲求に答えるだけなのだから。
そしてもしその時が来たならば……。
「楽しみね」
そう心から楽しそうに笑い、その指でガラス瓶の口を軽く叩く。
じわり、と指先から滲み出る赤い雫。
それが一粒また一粒と瓶を満たしていく。
もしこの場に清彦がいれば、それが何なのか一目で分かっただろう。
(幕間・終)