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魔女の変身薬

2017/01/28 16:19:23
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あれから、薬を使う際の約束を破ってしまったから数日、その間俺はふたばに変身するのをやめていた。
理由はもちろん副作用を警戒しての事。

今のところあの体が溶けてしまう感覚に襲われる事も無く、特に体の変調もない。
よくよく考えれば、薬で時間を厳守しなければ即副作用というのもおかしな話。
きっと数時間くらいの余裕は見てあるんだろう、と結論づけていた。

変身できず悶々とした時間だったけれど、逆にじっくりと考える事が出来たとも言える。
もちろん考えるのはふたばに変身してどうやって楽しもうかという事。

エロい事は当然だけれども、それとは別にあの感覚をもっと味わってみたい、との思いがあった。
あの感覚というのは、配達の人に見られたときに感じたもの。
羨望や憧れの視線、それによって感じられる高揚感、充実感、他人に必要とされたいと思う承認欲求を満たす多幸感。

男として、清彦として生きてきて今まで注がれる事がなかったそんな感覚。
それが「ふたばが美少女だから」だというのはもちろん理解している。
でも、変身する事で簡単に手に入るのであれば、それがふたばの姿であろうと構わない。
むしろ、ふたばの姿を皆に見て貰いたい、とすら考えてしまっている。

そこでまた一つの問題。

衆目の目に晒されるには外出するしかないけれど、男物の服や水着、体操着なんかで外に出るのは流石にダメだ。
かといって、女の子らしいファッションなんて分からないし、仮に勉強したとして一朝一夕で得られるわけがない。

ファッションセンス不要で誰にでも違和感なく見られ、すぐ手に入るような服。
そういうものがあれば堂々と外出できるんだけれども……。

「……あ……ある」

閃く。
上から下までセンスとか流行とか関係のない大体決まりきった服飾で、かつ比較的簡単に手に入るもの。
ごくごく身近にあるじゃないか。

インスピレーションに流されるまま、俺はいつもの通り検索サイトから調べ始める。

開いたのはいわゆる制服を扱う通販サイト。
制服と言ってもコスプレ用の物ではない、実際に使用されていた学校の制服。
最近は使い終わった女子の制服を売ってしまう人もそれなりにいるらしく、そういう手の物を専門に扱っているところがここ。

こうなってしまってはもう止まらないし止められない。
今の体は清彦だというのに、心はふたばになりきって、俺の好みのもの私に似合うものを探し始める。

公立のブレザーやセーラー、私立の可愛いものまで色々あったものの、ここからあまりに距離があっては逆に変だ。
できるだけ自然に、怪しまれないように、通学しているよう見えるように、と慎重にチョイスを重ねていく。

サイズや在庫の問題もあり選択の自由はあまり無かったけれど、とある私立学校の女子制服を購入する。
靴から鞄まで一式という事もあってかなり高い買い物だった、でも、これもふたばで楽しむため、そう思えばまるで歯止めが利かなかった。

自分ですごく興奮している事がわかる。
清彦の体なのに心はふたばの状態のまま、ドキドキとした動悸が治まらない。
こういう場合どうするか、そんなの決まっている。
制服が届く事を心待ちにしつつ、俺は椅子から立ち上がる。体を心に合わせる為に。

────────────────────────────────────────────────────────

半袖と長袖のブラウスとスカートにリボンのタイ、真っ白な靴下とローファー。
編み込みのスクールベストと冬用の上着、黒ストッキング、タイツ。

注文から一週間ほど経ち、学校も長期の休みに入ったという頃にようやく届いたもの。
それを一つ一つ取り出し床に並べてみれば、ある意味圧巻だった。
透明なビニールに包まれているのは某私立校の女子制服。

その前に正座して座っているのはもちろん私、ふたばだ。
下着だけの姿になりぶるりと肩を震わせる。

これからこれを身に付けると思うと、否が応でも心臓がドキドキする。

「まず、ブラウスを……」

手に取った瞬間に分かる柔らかさ。
下着の時と同じだ。
男のワイシャツとはまるで違う手触り、そして袖を通せば感じるふわりとした肌触り。
丸襟、逆の合わせ、全体的にゆったりとしたデザイン。
どれもこれもが新しく、上着だけを身につけた鏡の中の私に、久方ぶりの新鮮な気分を味わえた。

「次、スカート……」

コスプレスカートみたいな廉価品とは違う厚手で丈夫な生地、単色に白いラインが入ったシンプルなデザイン。
何より、視線を引くような丈ではないのが逆に新鮮。
ホックを止め横のファスナーを上げる、その作業はもう慣れたもの。

というのも、制服が届くまでの間女の子の服を勉強するため安価なコスプレ服を購入して予習していたから。

ブラウスをスカートの中に押し込み、少し緩ませる感じで帯の部分を隠す。
膝下丈のプリーツスカートがふわりと揺れるつど、ちらちらと目に飛び込んでくる白い太ももが眩しい。

「……そしてっと」

だけれども、それだけじゃ物足りない。
もっと私を魅力的に見せるために……。
と、さっき隠した帯の部分に指を掛け、内側に巻き込むように一回、二回、と折り込んでいく。
制服のスカートを短くするための方法、これも事前に予習済み。

「んー、これちょっと短過ぎかな、パンツ見えちゃう」

でも流石に五回折りは短過ぎた。
三回折りに戻しスカートの長さを整え、改めて鏡に向き直る。

誰がどう見たって女子高生、そうとしか言えないであろうふたばの姿。
清彦を含め、道ですれ違う年頃の男子であればまず振り返るであろう容姿と言って良かった。

女の子が暇さえあれば鏡に向かったり、窓とかのちょっとした映り込みを使ってでも見てくれを気にする理由。
それが分かったような感じがする。
誰だって自分をよく見せたい、よく見えるような表情や仕草を考えているんだって。

「うん?あ、下着の色失敗したかな……透けてる?」

そして、そうすれば色々な欠点もわかる。
今日選んだ下着は可愛らしいピンク色。
そんな濃い色だとは思わなかったけれど、純白のブラウスからすればやっぱり色が透けてしまうらしい。

今日も暑くなりそうだけど仕方がない、とクリーム色のスクールベストを上に着ればもう大丈夫。
これもまたなるほど、と思う。
ただ可愛いだけじゃない機能的な理由があるんだと。

靴下とローファーを履き、部活用のスポーツバッグを持てば

「夏休み中に部活のため登校する女子学生の出来上がり、うん完璧」

などと、自画自賛ながら満点をつけてしまっていた。
でも浮かれている場合じゃない、今日はこれからが肝心なんだから。

ようやくふたばの姿で外出する用意は出来た、あとは実行するだけ。
玄関に経ちドアを開ける前に一回大きく深呼吸。

私は私立校の生徒、これから休み中の部活に向かう女子学生のふたば、ふたばなの。

おまじないの如く三度心の中で繰り返し、意を決してドアノブをまわす。

見慣れた外の景色が眩しく見えたのは何も朝方の太陽の光だけじゃない。
身長が低いからという事もあるかもしれないけれど、向かいの建物もアパートの外廊下も初めて見たかのように思える。
そりゃあふたばとして外に出るのは初めてだから、気の持ち方かもしれないけれど、そう思えたのは確か。

「あ、やば」

外に誰もいないのを確認しつつ、素早く外に出て部屋の鍵をかけようとして、私は慌ててスカートを抑えた。
その場で半回転しただけなのに、スカートの裾がふわりと浮いてしまう。
下から見上げられたら丸見えになってしまう頼りなさ、それを改めて感じ

「気をつけないと」

と、少し気を配りながら階段を下りていく。

人の話し声、自転車の音、靴が石畳を打つ雑踏、渾然一体とした日常の音が次第に大きく私の耳に届く。
通学の生徒、通勤するサラリーマンや散歩の人影が見える歩道。
私にとっては新しい世界そのもの。

大丈夫、何も変な所はない、このままいつものように普通に駅のほうに向かえば大丈夫。

早まる鼓動を顔に出さないよう、ゆっくりと歩き出す。
清彦がいつも通る道をなぞるだけ、それなのに目に映る風景は全く違って見えた。
少し視点が下がるだけでこんなに違う、見えなかったものが見えてくる。

その実感がより一層私がふたばであるという自意識を強固にした。

通勤の車を運転するサラリーマンや道を歩く人が、ちらりと二度見、あるいはずっと見続けているのがはっきり自覚できる。
男の時は気にも止めなかった視線、それに敏感になるのは女の子特有なのだろうか、それとも自分の持ち方次第なんだろうか。
誰から見られているかだけじゃなく、その視線がどこを見ているのかまで何となく区別できてしまっている。

きっと部活や補習での登校途中なんだろう、別な学校の制服を着た学生からの視線はほとんどが憧憬。
かわいいな、すごいな、スタイルいいな、そんな同年代へ向けられる純粋な憧れの視線。

対照的に大人の男の人やおじさんは大体がエロい視線だ。
流石にこっちは恥ずかしいしむっとするけれど、それでも注目を浴びる事に変わりはなく。
それだけ惹き付ける私の体が誇らしい。

快い開放感を感じながら駅の改札を通る。
夏休みだから学生の姿はまばらだけれども、サラリーマンは普通に仕事なんだろう。
それなりに混み合う中、私は目的の電車へと乗った。
行き先はこの制服の学校、ではなく、かずはさんのお店がある方向。
ふたばの姿で行くなんて……そう思わないこともないけれど、これは私が決めた事。
決心のあらわれと言っても良かった。

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